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448 :427な俺:2013/01/11(金) 23:44:49 ID:F3hzcOZY
 ある日の訓練中の一コマである。

 どれだけ素早く堅いネウロイであろうと、ただひたすらに攻撃を連続し続ければいずれはその牙城を打ち破れる。
 そう考えていた時期が俺にもありました。

「今考えてみれば、エイラ中尉と芳佳ちゃんのコンビって俺にとって天敵だと思う」
「俺ー、そこまで落ち込まなくてもいいと思うよ? ふだんは凄く強いし…」
「そうは言われてもあの二人だけなんだよなぁ。俺が攻撃を当てた事が無いの」

 哨戒やら書類仕事やらの要因が重なり、エイラ中尉、俺、ルッキーニ、芳佳ちゃんの4人が訓練となっていたので模擬戦を終えた直後の事である。
 結果は俺とルッキーニコンビの敗戦。何せ俺たちの攻撃は芳佳ちゃんの鉄壁に防がれるかエイラ中尉に神がかり的な回避をされてしまったからだ。

「で、でも結構危ないなって思う時ありましたよ? 俺さんは回避するのも上手いですし…」
「まぁな? まぁ、芳佳ちゃんはシールドが堅いので頼りになります」
「でも俺少尉は、この前撃墜寸前になったんだロ?」
「それを言うな。あの装備は重くて思うように動かないからやりたくねーんだよ」

 ちゃんと僚機がいる今ならHW装備は封印です。俺の長所である機動性を犠牲にしているので。

「あー、でも一度でいいからエイラ中尉に撃墜判定をしてやりたいな」
「俺みたいな奴にはムリダナ」
「え? 私は?」
「芳佳ちゃんの牙城を崩せる気がしないからペリーヌに任せる」
「凄い人任せですね!?」
「知ってるか芳佳ちゃん? エースというのは自分の長所を最大限に活かせる奴の事なんだぜ? つまり芳佳ちゃんはその鉄壁シールドがあるからエースたる…」
「私そんなんじゃないですよ、まだまだですし…」
「そうダナ。ミヤフジはシールドを使いすぎだぞ。私はシールドなんかニ頼ってナイゾ?」
「ぶっちゃけシールドなしなのに攻撃当てられないのがむかつくって事だわな」

 そんな俺の言葉にエイラ中尉は再び胸を張る。

「フフン、エースは自分の長所を云々よりも、此方ノ被害を少なく相手を倒スのが条件ダゾ?」
「被害を少なくねぇ…」
「ハルトマン中尉だって、被弾してない事や僚機を無くしてない事を誇りにしてるダロ?」
「確かに俺さん、フォローするより飛び出してく人ですから。ルッキーニちゃんは似たタイプだからいいけどペリーヌさんは大変ですよ?」
「それもそうか」

 芳佳ちゃんの言葉に思わずそう納得する。
 しかしこの時のエイラの言葉を、まさかそっくりそのまま返すような事態になるとは思わなかった。


 ロマーニャに最大の危機がやってきた。

「高度30000mにコアのあるネウロイ?」

449 :427な俺:2013/01/11(金) 23:47:57 ID:F3hzcOZY
 ミーティングルームに持ち込まれたスライドに写るネウロイは、バベルの塔も裸足で逃げ出すクラスの高さを誇っていた。
 つーか、そんな高さにコアがあるんじゃ普通に攻撃なんて出来る筈が無い。

「リーネちゃんの狙撃では無理なんですか?」
「高度が高すぎるし、リーネのボーイズだけでは倒せない。もっと火力が必要だ」

 元から大型戦は苦手だったが、高度が足りない上に自慢の機動が通用しないんじゃこの戦闘で俺は何をすりゃいいんでしょう?
 そんな俺の疑問を感じ取ったのか、坂本少佐はスライドを一刀両断して後ろの黒板に皆の視線を注目させる。備品壊すなよ少佐!

「カールスラント空軍からロケットブースターを回してもらった。皆にはこれを履いて貰おう」
「しかし少佐。あれって推力は得られるけど持続時間が…」
「うむ。そこで、我々自身をロケットの要領で飛ばしていくんだ。バルクホルンも聴いたことがあるだろう?」
「ああ、切り離し式ロケット…ですか。今、研究中だと。なるほど、我々をロケットにして運んでいくのですね?」

 バルクホルン大尉が言うように、黒板には全員の推力で引き上げると書かれていた。
 なるほど、それは素晴らしい。

「最上段の攻撃役はサーニャに任せる。フリーガハマーの火力なら破壊できるからな。そして、サーニャを守るシールド役がいる。これは宮藤だ」
「シールド役ですか?」
「ああ。高度30000mは空気が薄くて思うように動けないしな。防御が困難になるし、そんな環境で攻撃に終始すればネウロイの反撃に晒されてしまう」
「なるほど。芳佳ちゃんなら適任ですね」

 俺が坂本少佐にそう返事をした時だった。

「ま、待ってくレ!」

 それを破ったのはエイラ中尉の言葉だった。


 エイラがサーニャに対して執心なのは公然の秘密という奴だ。
 サーニャの方としても、エイラが守ってくれれば安心だろう。ただ、と坂本は思う。

 エイラがシールドを使っているのを見た事が無い。それはエイラの固有魔法による回避能力が優れているから使う必要が無いというのもある。
 でも、もしかすると…。
 自分が如何にサーニャを守りたいかという事をまくしたてるエイラ。どうやって嗜めるか、と坂本が考えていた時。

 誰にも予期していない怒声が響いた。

「おいエイラ! お前はそんなに芳佳ちゃんを信用できないのか!?」

 椅子を蹴飛ばす音と共に俺少尉がエイラを睨んでいた。今まで見た事も無い憤怒の表情で。

 エイラとしては意外だった。ちょっかいを出してくる事はあるが、シャーリーにつっかかるバルクホルン大尉じゃあるまいし、こいつがこんな声を出すなんて思わなかった。

450 :427な俺:2013/01/11(金) 23:51:04 ID:F3hzcOZY
「そ、そう言ってもダロ、サーニャは私が――――」
「お前、坂本少佐の話聞いてたか? 防御が困難になるサーニャちゃんを守る役目だぞ? 思うように機動が出来ない環境なら、シールドが厚い芳佳ちゃんが適任だろ?」
「で、でモ―――」
「お前がシールド張れるってんなら話は別だけどな? お前だけだぞ? 俺との模擬戦でシールド張ったこと無いの。いいや、今までの戦闘でもお前は張ってない」

 全員が、それを聞いて思わず「あ」と言いそうになった。
 俺少尉は常識を逸脱した機動を平気で行い、模擬戦ではそこら中から攻撃を仕掛けてくるのだ。
 誰もが一度はシールドを張る事を余儀なくされるが、エイラだけは彼の攻撃を受けても回避していてシールドを使っていない。
 また、それは今までの戦闘でもエイラがシールドを張っているのを、誰も見た事が無い。
 誰にも避け切れない攻撃を使う彼だが、それを避けてしまうエイラはシールドを張れるのかと思うのは妙な事ではないのだ。

「そ、それは俺モそうダロ! お前だってシールド―――」
「俺は張れるぞ?」

 そういえば俺も戦闘ではシールドをあまり使っていないがただ単に使ってないだけのようだ…。

「で、エイラ。張れんのか、張れないのかどっちなんだ?」
「わ、私ハ―――」

 エイラが何か言うより先に、俺少尉の手が動いた、直後。
 コンッとエイラの額に、俺少尉のポケットから引き抜かれたペンが当たっていた。固有魔法を使って速度を速めたというのもあるだろう。だが…。
 エイラの回避が間に合わなかった。

「エイラさん、血!」
「クソ、クソ!」

 宮藤が駆け寄る先にエイラはミーティングルームを飛び出していく。
 ミーナと坂本は顔を見合わせ、話も何も無いので解散する事にした。

「…俺の奴、案外ストレートに言うんだな…エイラがシールドが未熟だと見抜いてはいたようだが…」
「あの子って本当に無茶苦茶するわね…」

 エイラの後を追いかけるサーニャを眺めつつ、二人はため息をつく。
 ただ、それから数分後、食堂で言い争いをするエイラとサーニャの姿を、多くの隊員が目撃する事になる。


「言いすぎにも程があるぞ!」

 ミーティングルームに残された俺は―――坂本少佐にそう怒鳴られる羽目になった。
 坂本少佐をミーナ中佐が宥めてから俺へと向き直る。

「まぁ、でも確かに事実とはいえ言い過ぎよ。俺君」
「ぐ…申し訳ないです」
「まったく……ただ、サーニャとしても、エイラに守ってもらえれば心強いだろうが」
「それは解ります。でも、エイラ中尉が出来なきゃサーニャちゃんもそうですけど、一番傷つくのはエイラ中尉です」

451 :427な俺:2013/01/11(金) 23:54:20 ID:F3hzcOZY
 坂本少佐の言葉に俺はそう返す。そう、エイラ中尉の守りたいという想いは伝わる。
 でもそれだけじゃ通用しないものもあるんだ。俺と同じような想いを、エイラ中尉に味わって欲しくない。
 俺がそう考えていると、ミーナ中佐は俺に視線を向けた。

「俺君。エイラさんにシールドを張れるように出来るかしら?」
「……ですね。それが俺の責任って奴ですし。やらせてください」
「で、出来るのか?」
「人を何人か貸してください。そうですね…芳佳ちゃんと、リネットちゃんとルッキーニを貸して下さい。それと。エイラから何か言われたら俺が勝手にやった事にして、知らぬ存ぜぬを貫いてください」
「え、ええ。解ったわ」
「自分より階級下なのを選んだのは、いざという時に責任を取る為か…真面目だな、俺」

 エイラだってサーニャを守りたいという願いを抱えている。
 でも、それに身体と心がついていってない。なら、身体と心を後押しするものが必要だ。たとえそれが爆風であっても。
 追い風があれば、エイラは追いつける筈だ。

 しかしこの時、とうのエイラはサーニャちゃんと盛大に言い争いをしていたらしい。
 俺は知らなかったけど。


 夜遅く。ウィスキーの瓶とコップを片手に屋根で足をブラブラさせていると、呼んでいた人物がやってきた。
 芳佳ちゃんとリネットちゃん、そしてサーニャちゃんは俺が使ったはしごを上り、ルッキーニは普通に窓から這い上がってきた。

「よ。ごめんな、こんな時間に。色々と頼みがあってさ」
「いいえ…って俺さん飲んでるんですか?」
「星見酒ってーの? 星をつまみに酒を飲むなんて詩的じゃない? ま、それは置いておいて」

 とりあえず酒を横に置いておく事にして、呼び出した四人に向き直る。

「エイラ中尉がシールドを張れるように特訓してくれと頼まれました。俺が受けたこれは命令じゃない…けど、俺からサーニャちゃん以外の皆に命令です。手伝って下さい」
「あ、あの俺さん」
「なにかな、リネットちゃん?」

 そこでリネットちゃんはペリーヌからエイラのシールドを張る特訓を手伝うように頼まれたという。
 どうやらエイラがペリーヌの方に頼んだらしい。なるほど、エイラも気にしているという事か。

「で、どんなプランなの?」
「ペリーヌさんをサーニャちゃんに見立てて、私が狙撃するっていう…」
「なーる。近いな」

 俺が考えていたプランとだいぶ近い。これならばすんなり出来る筈だ。
 するとサーニャちゃんがここで口を開いた。

「あの、俺さん実は…私、エイラと……喧嘩して…」
「顔を合わせづらいのかい、サーニャちゃん?」
「はい…」
「サーニャちゃん自身が直接顔を合わせる事は無い。でも、エイラに気持ちを持たせるためにサーニャちゃんの協力が必要なんだ。頼む」

452 :427な俺:2013/01/11(金) 23:57:20 ID:F3hzcOZY
 こういう時にやるのは、ハットリ直伝の扶桑式DOGEZAを…敢行する前にサーニャちゃんが遮る。

「でも…俺さんが言うように、エイラは…」
「サーニャちゃん。芳佳ちゃんがサーニャちゃんを守れない筈は無い。でも、エイラがサーニャちゃんを守れるんだったら、もっと嬉しいだろ?
 それにな…エイラにサーニャちゃんを守りたいって想いがあるのに、現実で上手く行かなかったら、エイラは相当辛いよ。そんな思いをさ。させたくねぇんだ」

 だから頼む。俺はもう一度だけ彼女に頭を下げた。

「何か問題があれば全責任を俺に押し付けろ。だから手伝ってくれ」


 翌日。訓練飛行予定のリストに、エイラとペリーヌ、そしてリーネの名前が書かれていた。
 しかしミーナはそこに極めて小さい文字で、目立たない片隅に名前を幾らか付け足していた。よほど注意深く見なければ気付かないぐらいの大きさで。
 朝早く食堂にやってきて、誰よりも早く朝食を食べて席を立ったエイラが気付く筈も無かった。

 そしてエイラはペリーヌを抱えて、狙撃してくるリーネの弾丸を防ぐという訓練を始める。
 それを見つめる影がたくさんいる事を、エイラは気付いていなかったし、こそこそと滑走路の影や基地の一部に隠れる人陰もエイラは解らなかった。

「あなた、真面目にやってますの!?」
「そんな事言われてモ、お前ジャその気にならナイんダ!」

 ペリーヌに怒られた際、エイラは心にも無くそう返してしまった。
 本当は違う。自分から彼女に頼んだのだし、何より一生懸命やっている。だが、回避の方が出てしまう。シールドが張れない。
 その時、リーネがライフルを上に上げて、軽く挨拶する仕草を取った。

「あら、リーネさんどうし…俺さん?」
「エ?」

 ペリーヌの言葉に振り向くと、いつもとは違い、ストライカーに取り付けられたハードポイントにハーネルを4挺も装備した俺少尉が何か人形のようなものを持ってやってきた。

「ペリーヌでその気にならないなら、サーニャちゃん役を変えればいいだろ」
「お、お前…」
「昨日あんな風に言ったからな。……でも出来ないんなら、出来るようにすりゃいいだけの話さ。つーことで、お前に特訓をしに来た」
「お、お前二そんな事ヲ…」
「今のままでできねーんだろ? なら試してみろよ。シールド張れるようになりたいのかなりたくねーのかどっちだ!」

 今までの軽くてすぐに調子に乗って、何かと悪戯ばかりしてるような俺とは違う。エイラは一瞬だけ怖くなったが、ぐっとこらえた。

「やる。やるヨ」
「よし。じゃ、これがサーニャちゃんだ。縛り付けとけよ」

 俺少尉が近づき、ロープを使ってエイラの身体にサーニャ人形を結びつける。もっとも、頭は白い布袋で、ブリタニア語でサーニャと書かれてる人型のぬいぐるみだ。

「いいか。お前はサーニャちゃんを死守するんだ。ただそれだけじゃダメだ。シールドを張って15分、シールドを保ち続けるんだ。それが特訓成功だ」
「ええっ!? 俺さん、それって…」




454 :427な俺:2013/01/12(土) 00:04:28 ID:bhxJ1e6w
 まだシールドを張ることに成功してないエイラに過酷すぎるのでは、とペリーヌは思うが俺は「ペリーヌも手伝ってくれ」という返答。
 つまり、攻撃役をリーネの狙撃ではなく、更に激しい俺少尉とペリーヌ組の攻撃にしようというのだ。

「リネットちゃん、悪いな。俺の代わりに書類仕事手伝ってきてくれ。ちょい無理を言って出てきたんでな」
「はい。じゃ、失礼します」
「あ、ペリーヌはこれ使って。ブレンを借りてきました」

 リーネが去っていき、サーニャ人形を背負った丸腰のエイラと、フル武装の俺少尉に加え、ブレンを持ったペリーヌ。

「じゃ、始めるぞ! いいかエイラ中尉。お前の力でサーニャちゃんを守りきれ!」

 まったく少尉の癖に命令口調ばかり出しやがって、と思いつつエイラはストライカーで動き始めた。
 背中のサーニャ人形がとても重い。わざわざサーニャの体重まで再現したってんのかよ。

 目を見開いた。
 今までの模擬戦の時でも、俺少尉はエイラにとって手強い相手だった。今まで模擬戦でも彼に被弾を許した事は無いが、
 エイラの回避能力に喰らい付く危険機動で攻めて来るのだ。でも、今回はそれ以上に攻撃に特化している。
 模擬戦の時は反撃が出来るのだから当然だ。つまり、攻撃だけに集中する俺少尉は――――通常よりも更に激しい。

「くっ!」

 上へ下へ、右に左と縦横無尽に飛び回る。急接近してきたのをすれ違ってかわせば急ブレーキから逆方向へ高速で迫る。
 シャーリーがストライカーをカスタマイズしたとは聞いていたが、幾ら何でもやりすぎだろ!
 事実ペリーヌは俺少尉と連携をとっているようには見えず、散発的な攻撃を仕掛けてくる。

「ペリーヌ! 弾幕薄いぞ何やってんだ! 俺への誤射は気にするな、遠慮なく行け!」

 そんなペリーヌの動きに俺少尉は怒鳴る。本当に容赦というものが無さ過ぎる。
 まだシールドを張れてない。攻撃は縦横無尽に…俺少尉の固有魔法で飛ぶハーネルの銃撃は見えない所からも迫るんだ。
 360度全方位を警戒しなきゃいけないのに、人形のせいで思うように回避がし辛い!

 そう、どれだけ未来予知を使っても、攻撃、攻撃、そのまた攻撃だった。
 同じ瞬間に、それぞれ違う方向から畳み掛けるような攻撃を仕掛けられる事が、こんなに鋭くなるとは。
 今までどんな攻撃もかいくぐってきたエイラにとって、初めての経験だった。

「三分経過か。まだ、シールドは張れてないが…」
「な、なんだヨ…」
「時間だ。こっからが本番だぞ、エイラ!」

 俺少尉の叫びと共に、エイラのビジョンに飛び込んできたのは後方から迫る――――基地に帰った筈のリーネの狙撃!?
 慌てて回避した直後、エイラの耳に、新たなストライカーのエンジン音。

「!?」
「エイラさん、ごめんなさい!」
「ごめんね、エイラ!」
「ミヤフジに…ルッキーニっ!?」


565 :427な俺 ◆zy78pfH52E:2013/01/29(火) 22:09:39 ID:BwWSKUWQ
 基地の屋根の影からルッキーニ、格納庫のほうからは芳佳がそれぞれ銃を片手に姿を現す。
 更に攻撃役を増やしてきただなんて…おまけに狙撃してくるリーネまでいるのに、リーネの位置は解らない。
 小回りの利く芳佳に加えて、射撃も機動も天才の名に相応しいルッキーニの参戦。
 ペリーヌだって彼女達に劣らないエースウィッチだし、俺少尉に至っては変態機動に加えて一人十字砲火まで狙ってくるのだ。
 こんな包囲を武器無しで突破しろなんて無理だ! ここでシールドを張っても15分間保ち続けるなんて無茶すぎる!
 エイラは恐怖を感じ始めていた。今まで攻撃を回避能力で避けてきた。
 だが、それを上回る圧倒的な攻撃に晒された時―――シールドを張るぐらいしか身を守れないというのに。

 だけどそれ以前に身の危険を感じていたのだ。恐怖に支配され始めていた。
 背中にあるのは人形だ。このクソ重いおもりを捨ててしまいたい。でも、これはサーニャだと思えと言われている。
 しかし、この銃撃の嵐でそれを守るのは不可能だ。でも、このままじゃ…。

 見えてくるのは攻撃、攻撃、そのまた攻撃。暴風のように波のように襲い掛かるそれを、回避しても回避しても終わらない。
 怖い―――重い人形がエイラの回避を遅くする。だけど、避けきらなければ。
 暴風のように後ろから前へと出てくる俺、MG42とハーネルを構え、包囲するような射撃を仕掛けてくる。

「―――、―――――ッ!!!」

 始まる銃撃をどうにかくぐりぬけようとしても、後ろにはペリーヌと芳佳、上からは更にルッキーニ。
 襲い掛かる銃撃をエイラは避けきれ…なかった。
 迫る弾丸を、身体を大きく回転させて――――人形の腕に当たった。

「はい、ストップ! 死守しろっつっただろ?」

 下へと降りながら、俺少尉が厳しい言葉を言ってくる。ようやく終わった、だが震えが止まらない。
 地面に足をつけると同時に、慌ててロープを引きちぎるようにして人形を下ろした。

「おい、乱暴に扱うなよ! それはサーニャちゃんだって言ってるだろ!」
「だ、だっテ! い、幾ら何デモこれは―――」
「ハードだって言いたいか? 実戦はどうなるかわからねぇだろ? それに! お前は今、守るべき対象を咄嗟とはいえ盾にしただろ!」

 確かに、そうだった。でも、とエイラは思う。

「け、けどそれは人形だロ! 本物のサーニャなラ―――」
「俺はいつ、それが人形だと言った?」
「エ?」
「それともう一つ。人形が血を流すか?」

 エイラは下ろしたばかりの人形を、いや、人形であるはずのものを恐る恐る見る。
 被弾した腕は芳佳が治療を始めているし、大した傷でも無さそうだ。そう、飛んでる間、エイラは気付かなかった。人形を背負っていた背中は…暖かかった。
 まさか―――とエイラは思う。頭部分の布袋を掴み、そうであって欲しくないと願いながらそれを外した。

566 :427な俺 ◆zy78pfH52E:2013/01/29(火) 22:12:48 ID:BwWSKUWQ
「サーニャ…ッ!」
「………エイラ」

 エイラの何かが折れるには充分すぎる程だった。何度も何度もサーニャを抱きしめてたり一緒に寝たりした。だからサーニャが触れていれば解る筈だ。
 それなのにエイラは、これが人形だと思っていた。同じ体格の、同じ重さの、人形だと。
 故に無意識に、盾にしてしまったというのか…!
 エイラは声にならない声で嗚咽を始め、そのままがっくりと頭を垂れる…絶望を感じたように。
 俺はそれを見て、一瞬だけ視線を伏せたが、すぐに踵を返した。

「…お前にはがっかりだ。時間を無駄にしたな!」
「お、俺さん! 流石にそれは―――」
「失礼ですけど宮藤さん、私もそう思いますわ。……あなたには失望しましたわ、エイラさん」

 俺はくるりと背を向けて去っていき、ペリーヌも顔を見たくもないとばかりにそっぽを向いた。

「と、とにかく俺さんにお願いして」
「いや、イイんダ…ミヤフジ」
「エイラさん…」
「私にハ無理だっタ、俺の言う通りだっタ」

 立ち上がったエイラが、ストライカーを置いてフラフラと基地のほうへ戻っていくのを、芳佳とライフルを片手に戻ってきたリーネは心配そうに見ていた。

「俺さん、幾ら何でも厳しすぎだよ…」
「う、うん…昨日頼まれたとはいえ…本当に攻撃を激しくしすぎだし、実弾まで使うし…」
「でも俺は、エイラをいじめたくてやってるんじゃないもん」
「ルッキーニちゃん…それはそうだけど」
「ルッキーニの言うとおりだぞ、宮藤」

 芳佳、リーネ、ルッキーニが話し、ペリーヌがそっぽを向いてサーニャが沈黙する中でバルクホルンがやってきた。

「バルクホルンさん! あの」
「ああ。最初から全部見てた。……プランを聞いてはいたが、実際目にすると凄かったな…。まぁ、でもだ。理にかなってはいたぞ?」

 バルクホルンは芳佳達を諭すように答える。

「それに、もし実際にエイラがサーニャを守れなければ、一番傷つくのはエイラだ。でも、エイラが出来るのならサーニャにとっても心強い、と俺も言っていたぞ」
「……時々、そういう風に人が見れてるのが凄いですわね…」
「意外と指揮官としての能力はあるのかも知れんぞ? この前の戦闘の時も作戦を思いついたのは俺だったからな」

 ペリーヌの言葉に、バルクホルンはそう答える。ペリーヌもまた、その返事に少しだけ「そうかも」と思う。
 しかし厳しすぎる特訓に抗議の声をあげる芳佳を宥めるべく、バルクホルンは頭を悩ませるのだった。

567 :427な俺 ◆zy78pfH52E:2013/01/29(火) 22:16:01 ID:BwWSKUWQ
 だがそこへハルトマンが姿を現した。

「あれ? みんな何してるの?」
「あ、ハルトマンさん! あの……」
「うんうん、え? サーニャ大丈夫?」
「ハルトマン、一応訓練中の事故だからな? 事故なんだぞ?」


 基地まで戻ってきたエイラはミーナの執務室へと向かっていた。
 ペリーヌに頼んだ特訓も、俺が用意した特訓も満足に出来ていない。それがエイラに凄まじい自己嫌悪を抱かせていた。
 守るべき筈のサーニャを無意識とはいえ盾にしてしまった――その事実がエイラを苦しめる。そして本物のサーニャを人形だと思ってしまった事も。
 無理だった。私には無理だったのだ。シールドを使えないという事が、こんなに苦しいなんて。
 ありのままを話して、どんな罰でも甘んじて受け入れよう。そう思いつつ、執務室へ近づいた時だった。

「ごめんなさい! 無理でした!」

 執務室からは俺のそんな声が聞こえ、エイラはつい扉に張り付いてしまった。聞き耳を立てるように。

「ま、まぁ人には苦手な分野というものがあるから何もお前やエイラが悪い訳ではない。そう気に病むな」
「そうよ俺君? まぁ、サーニャさんが被弾したのは感心しないけど」
「皆にはエイラしか狙うなって言い聞かせましたし、サーニャちゃんにもエイラが守るからって言ってたんで……まぁ、それは減点いちって事で」

 流石に俺も無許可であんなことはしないって事か、とエイラは思う。

「将来的にはエイラがシールドを張れれば良いが…」
「いや、エイラはそのうち自力でシールドを張れるようになるでしょう。今回はその切っ掛けに過ぎないだけで」
「随分自信たっぷりねぇ」

 随分自信あるな、という突っ込みはミーナ同様にエイラも入れたくなった。

「エイラがサーニャちゃんを守りたいって気持ちは本物ですから。でも……その思いだけで、体が追いついてなけりゃダメなんです。
 シールドっていう技術もそうだけど、エイラの心の中にあるシールドを張れないって部分を黙らせる必要があったから…」
「まるで体験したことがあるようだな?」
「……ええまぁ。戦わなきゃっていう気持ちがあるのに、心が戦う事を拒否してまともに飛べなかった時期があったんです」
「ええっ!? 俺君が!?」

 確かに真っ先に最前線に突っ込み、いつも自由自在に空を飛ぶ俺にはイメージできない事だ。

「気持ちで頭で思ってるのに、身体が追いついてない。それで余計に焦って悪循環になる。今のエイラも同じです」
「……お前はどうやって克服したんだ?」
「まずはその現実を認識すること。それは今、出来ました…でも、後はエイラがやる事です。そのうえで、エイラがどうしたいかと願う事です。
 エイラが今はシールドを張れない、サーニャちゃんを守れないって感じてから、でもサーニャちゃんを守りたいって願えば、強く願えば、行動に移せば出来るはず」

568 :427な俺 ◆zy78pfH52E:2013/01/29(火) 22:19:18 ID:BwWSKUWQ
「俺はエイラのそれを信じたいと思います。言うでしょう? ウィッチに不可能は無いと」
「戦闘指揮もそうだが、部下や新人を教育するのにも向いてるかも知れんぞ、俺?」
「たはは。俺の教導じゃ誰もついていけないと思うんで遠慮しておきます」
「そうよ美緒…今日の特訓みたいなことしてたら新人ウィッチが死屍累々になるわ…」

 エイラはそっと扉から離れた。後は私の気持ちだと、俺も言っていたのだ。
 俺はエイラを信じてくれているんだ…。あれも考えのうちとは人が悪いけれどなーと思う。
 心と身体が追いついていない。ならば、それを追いつかせる事。サーニャは…私が守る。
 エイラはまだ流れていた涙を拭って、サウナに向かう事にした。サウナに入って泣いてる後を誤魔化すしかないな。


「ぎょええええええええ!!!」

 作戦当日。とある一つのトラブルが発生した。
 ロケットブースターを装着し飛行する一段目ロケットのうち、一機だけ他より早く魔力を使い果たしてしまったのだ。
 俺である。改造されたストライカーとロケットブースターの相性が悪く、予想より早く降下していったのだった。

 降下予定ポイントに帰り着いたとはいえ、頭から池に墜落してずぶ濡れになってしまった。もちろん、ストライカーはうんともすんとも言わない。
 このはちゃめちゃな暴れ馬を完全に使いこなすにはまだまだ時間が必要である。

「俺さん!? ずぶ濡れですけど大丈夫ですか!?」
「全然大丈夫じゃない。寒くて死ぬ」

 俺はそう答えてから顔を上げると、声をかけてきたのが芳佳ちゃんである事に気づいた。
 そう、ロケットの最上段にいる筈の。すると、サーニャちゃんを守ってるのは―――。

「エイラ、やってこい。お前なら出来る」

 そう呟いた直後、バベルの塔よろしく君臨するネウロイが、目の前で砕け散っていく。
 遠くの空のほうで星のようにかすかに光るのは、サーニャちゃんとエイラに違いない。

「うひょー! さっすが。ブラボーだぜ!」

 口笛を吹く。まったく、やれば出来るじゃないか。そんな俺のコメントを上級士官三人は微笑ましく見ていた。
 でも俺がやったのは爆弾を使っただけで、その爆風で飛んだのはエイラなのだが。

「俺…ストライカーまた壊したな…」
「あー…ごめんシャーリー…ロケットブースターとの相性が最悪だったんだよ、これ…」

 シャーリーも含めて基地の整備兵が滝のような涙を流しそうである。まぁ、ちゃんと手伝うよ。
 そう謝っていると隣にペリーヌがやってきた。

「エイラさん、出来ましたのね」
「ああ。大したもんだよ。エイラの願いが、エイラの技術を納得させたのさ」
「不思議なものですのね。願いが技術の壁すら越えるなんて。本当に魔法みたい」
「魔法じゃないさ」

569 :427な俺 ◆zy78pfH52E:2013/01/29(火) 22:22:36 ID:BwWSKUWQ
 俺は答える。

「それは誰もが持っているものだよ。俺だけじゃない。きっとペリーヌにも」
「そうかしら?」
「あるさ。だって――――ノーブレス・オブリージュを掲げるからには、その為の義務を必要とする。違うか?」
「ええ、そうね」

 ペリーヌはそこでニッコリと笑った。その時になって初めて。
 彼女の顔を直視するのが、少しだけ恥ずかしく思えた。いいや、違う。どきっとした。
 それが大佐と被ったからだろうか?
 なぜなら彼女は俺にとって最初の憧れの人だったんだから。でも、大佐とペリーヌは同一じゃない。

 そう、ペリーヌだ。俺は、ペリーヌを見て、どきっとしたんだ。

「どうしましたの?」
「いや、なんでもない…」
「? 二人が戻ってきましたわね…」

 遠くの方からエイラとサーニャが降下してくる。しっかりと手を繋いで。
 とはいえ、エイラは無断でやった事だから怒られるだろうなぁ。皆で少しばかり迎えた後、やっぱりミーナ中佐に注意されている。

「何か言うことはありますか?」
「…俺に、出来たゾと伝えて欲しイ」
「了解しました」

 ミーナ中佐はくるりと俺の方を向いて優しい顔に戻して言った。

「だ、そうよ。エイラさん、本当にシールドを張れるようになったわ」
「どういたしまして、エイラ」
「……それに俺君。今まで敬称付けだったの、呼び捨てになってるわよ?」
「あれ? ま、まぁ一件落着ってことで」
「そうね。万事解決だわ」
「「はーい、その前に俺はちょっとお話でーす」」
「へ? なぁエーリカなんでそんな怖い顔にってシャーリーまでなして? 何故にWhy? 何故にWhy!?」

 何はともあれ作戦は成功し、エイラともちょっと打ち解けられたのだから良しとしよう。
 基地に帰還し、エイラは三日間の自室謹慎処分を受けたので、エイラは部屋へと篭りました。

 しかしそこで終わらないのが俺の不運な所であった…。


「酷い目に遭った。俺、泣いちゃう」
「どうしたんだ少尉? 腫れてるじゃないか。大丈夫か?」

 夜。ウィスキー瓶を片手に談話室へとやってくると、バルクホルン大尉が俺を見て驚いた声をあげた。




571 :427な俺 ◆zy78pfH52E:2013/01/29(火) 22:25:41 ID:BwWSKUWQ
「どうしたもこうしたも、エーリカとシャーリーに怒られたんですよ。で、エーリカにはビンタされました、と」
「そういえばハルトマンはむくれていたな」
「ええ…。その…エイラの訓練の時に、サーニャちゃんに危険は無いって言ってたのに命中させちゃったのと、厳しすぎた事で芳佳ちゃんが怒ったので…」
「宮藤を宥めるのは大変だったぞ? お前も厳しすぎたがエイラは無事にやり遂げたのだから良しとするさ。で、どうなったんだ?」
「それがエーリカにも伝わったのでめちゃくちゃおかんむり。『あんなやり方じゃ下手するとエイラは立ち直れなかった』とか『よくもサーニャに嘘をついたね!』とか、
 ついでに『ミヤフジやルッキーニまで共犯にして!』ともう言いたい放題。エイラと芳佳ちゃんとサーニャちゃんとリネットちゃんとエーリカの五人分の怒りが来ましたよ」
「……で、リベリアンは?」
「昨日ロケットブースターとストライカーの調整しないで酒飲んで寝てた事で…結局ストライカーはまた修理だから大事にしろと。なにせバランスが悪すぎるものだから…」
「それはお前が悪い。そんなカスタムにしたのも貴様だろう」
「ただのストライカーに戻すぞ、と脅されましたよ。シャーリーにまで怒られて凹んでます」

 グラスにウィスキーを注ぎ、とにかく一杯飲み干す。今日は酷い目に遭った。

「まぁ、皆の気持ちもわかるが…時として、厳しくいかねば出来ない事もある。エイラのようにな。見事だったぞ」
「どうも、大尉。一杯進呈」
「まったく…少しだけだぞ?」

 バルクホルン大尉も飲む時があるのか、と思いつつグラスに注いでいると、芳佳ちゃんが姿を現した。

「珍しいですね、バルクホルンさんもお酒を飲んでるなんて」
「そうか? 嗜む程度だが飲む時もあるさ。まぁ、ウィスキーはあんまり飲まないが…」
「そのままだと胃に悪いですし、一緒に飲む奴も用意しますね」
「ありがと、芳佳ちゃん。その……昨日は悪かったよ。けど」
「いいですよ、ハルトマンさんにいっぱいいっぱい怒られたんでしょう?」

 そう言って笑う芳佳ちゃんはマジ天使だと思い、差し出してきた大ジョッキを受け取る。

「さ、一息に飲んじゃって下さい」
「……なぁ宮藤、それ…」

 バルクホルン大尉にはもう少し早く警告して欲しかったものである。
 ヤツメウナギの肝油を大ジョッキ一杯とか殺す気か!

「わわっ、大丈夫ですか俺さん!?」
「……お前、悪魔か? 何このゲロ以下の臭いがプンプンする飲料! 俺を殺す気か!」
「宮藤、もう俺を許してやれ…」

 どうやら芳佳ちゃんは俺の予想以上に怒っていたらしい。騒ぎを聞きつけてやってきたミーナ中佐と坂本少佐も強く注意できなかったぐらいに。
 とにかく芳佳ちゃんに平謝りした後、隊首脳陣を話し相手に飲み直して(中佐と少佐は悪酔いして明日に響いたら困ると大尉が釘を刺した)いると、
 坂本少佐はややピッチの早い俺を見て心配そうに口を開いた。

「おい俺。あんまり飲みすぎるなよ、まだ若いんだから」
「…すんません…」

 なんだか、似たような事を前にも言われたなぁと思う。
 誰に言われたんだっけ?

 そっと、記憶の底を紐解いてみる。
 ああ、そうだ。確か…俺がもう一度飛ぶ事を決めたときだったじゃないか。

 44年の、初め。カールスラント方面の、東部戦線。
 427壊滅直後の、頃。
最終更新:2013年04月02日 18:59