リーネ&サーニャ『きゃあああああっ!?』

芳佳「そんな……!?」

バルクホルン「ビームを反射したというのか……!」

忌々しげに敵の子機を睨むバルクホルン。
その視線の先では、ピラミッド状の子機がきらきらと輝く底面を向けていた。
おそらくその底面で本体のビームを反射し、視覚外から攻撃したのだろう。
攻撃される直前に俺が警告しなければ、今頃リーネとサーニャはこの世にいなかったかもしれない。

エイラ「サーニャ!?」

エイラが悲痛な声を上げてサーニャに近づく。
よく見るとサーニャの右腕からは血が流れ落ちていた。

芳佳「サーニャちゃん!?」

俺「ストライカーの破片が刺さったのか!?」

バルクホルン(まずいな……)

慌ててサーニャを治療し始める芳佳を見ながら、バルクホルンは脳内で現状を分析した。
リーネとサーニャはストライカーユニットを破損し、高度を維持するので精一杯の状態。
特にサーニャは怪我をしているので、すぐにでも基地で治療を受けさせる必要がある。
さらに、敵の子機は未だこちらを包囲したままだ。

バルクホルン「……私がやつらの包囲に穴を開ける。宮藤とエイラはサーニャとリーネを連れて撤退しろ。俺は撤退の援護だ」

芳佳「バルクホルンさん!?」

バルクホルン「議論している時間はない! サーニャ、武器を借りるぞ」

サーニャからフリーガーハマーを預かり、バルクホルンは敵集団へ向けてトリガーを引いた。
フリーガーハマーから連続で吐き出されたロケット弾が敵集団に襲い掛かる。
その爆発で子機の包囲が緩んだ瞬間、

バルクホルン「行け!」

エイラ「了解!」

サーニャとリーネを支えながらエイラと芳佳がその場を離脱していく。
撤退するエイラ達へ目掛け、敵本体が後ろからビームを放つ。
が、俺が横から射線に割り込み、シールドで攻撃を受け止めた。

バルクホルン「さて、ここからどうするか……」

エイラ達の撤退を確認し、バルクホルンは弾の切れたフリーガーハマーを投げ捨てた。
戦力はたったの2人。相手は子機も含めて7機。
先ほどの攻撃で子機を何体か撃墜したが、既に本体が新しく再生させたようだ。
この状況で無駄弾は使えない。となれば、本体を叩くのが一番手っ取り早いだろう。
だが、

俺「攻撃する暇が……!」

反射を繰り返して殺到するビームを回避しながら、俺が苦しげに呟く。
本体から直線的に迫るビームと違い、一発一発が別方向から迫ってくるのだ。
仮にシールドで受け止めたとしても、シールドを展開していない方向から攻撃されれば一溜まりもない。
様々な方向からの攻撃を凌ぎながら、俺はふとあることに気が付いた。

俺(子機は……攻撃してこない……?)

思い出してみると、敵の子機の行動はビームの反射のみだ。
ビームそのものは本体からしか撃ち出されていない。

俺「大尉! やつらの攻撃は本体からのビームだけです!」

バルクホルン「……そうか! 俺、やつの左に回り込め!」

指示通り俺が敵ネウロイの左に回り込むと、バルクホルンは反対側の右に回り込んだ。
その動きに合わせて子機が移動し、本体からのビームを反射して攻撃する。
だが先程までとは違い、その攻撃はあっさりと避けることができた。

バルクホルン「やはりな! 反射させる子機が少なければ、こんな攻撃などっ!」

二手に別れた敵に対し、敵ネウロイは子機を半分に分けて対処した。
それによって6機をフルに活かした反射攻撃はできなくなり、攻撃が単調なものになってしまったのだ。
後は、坂本達が来るまで敵の攻撃を凌ぎながら足止めに徹していればいい。

俺「ん……? あいつ、いったい何を……?」

敵の行動がおかしいと感じたのは、バルクホルンと距離をとってしばらく経った時だった。
ピラミッド型の子機同士がそれぞれ合体し、本体と同じ正八面体の形状に変化したのだ。

バルクホルン「……まさか……!?」

本体をそのままスケールダウンさせたような3機の合体子機は、本体と同じように各頂点部分を分離させた。
先程よりもさらに小型になったピラミッド型子機が18機出現し、それらが一斉にバルクホルンへ向かって飛んでいく。

俺「大尉! 逃げてください!」

俺が警告を発するまでもなく、本能的に危機を察したバルクホルンは全力で離脱を試みる。
だが、その逃げ道を幾筋ものビームが塞ぎ、動きを封じられたバルクホルンはすっかり子機に取り囲まれてしまった。
俺が援護に向かおうとするが、本体が俺へ攻撃を集中させて進路を妨害しようとする。

俺「行かせないつもりか……!」

一方、バルクホルンも両手のMG42で周りの子機を手当たり次第に攻撃し、包囲を突破しようとしていた。
しかし、子機は破壊されてもすぐに再生されるため、まるで効果が無い。

バルクホルン「……ッ!? 弾が……!」

あっという間に弾薬を使い果たし、バルクホルンが弾倉に一瞬意識を向ける。
その一瞬の隙を狙ったかのように3機の合体子機がビームを放った。
18機の子機が機械のように正確に動き、幾筋ものビームを複雑に反射させる。
圧倒的な密度のビームを向けられ、バルクホルンは思わず反射的にシールドを張って防御してしまった。

バルクホルン「うぁっ!?」

正面からのビームは防げたものの、その直後に死角から反射されたビームが右のストライカーユニットに突き刺さった。
バランスを崩したバルクホルンがシールドごとビームに弾かれ、眼下の海へと落ちていく。
その姿を見た瞬間、俺は考えるよりも先に体が動いていた。

俺「大尉ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」

俺は一直線にバルクホルンの元へ──子機の集団の真っ只中へと突っ込んでいく。
本体と三機の合体子機が一斉にビームを放ち、底面を煌めかせたピラミッド型の子機に光の筋が殺到する。
そして、俺の突っ込んだ空間に広く展開する子機達が本体のネウロイ達からのビームを幾度も反射させ、まるで光で出来た網のように俺へと浴びせかけた。

バルクホルン「……俺……逃げろ……!」

自分が墜落していく最中、間に合わないと知りつつもバルクホルンは必死に叫んだ。
おぼろげな視界の中で、反射を繰り返したビームが四方八方から俺へと迫る。
最悪の未来を想像し、バルクホルンは思わず目を閉じた。

バルクホルン「……え?」

腰に手が回される感触に目を開けてみる。
するとそこには、海面ぎりぎりで自分をキャッチした俺の姿があった。

俺「大尉、大丈夫ですか!?」

バルクホルン「俺……? いったいどうやって……?」

まさか、すり抜けて来たと言うのか。
ベテランの自分でさえ回避できなかったあの攻撃の中を。
だが、バルクホルンがその問いを発することはできなかった。
上空のネウロイが第二射を放ち、俺がバルクホルンを抱えたまま海上を滑るように逃げ始めたからだ。

俺「しっかり掴まって!」

砲撃が辺りの海面に突き刺さり、一瞬にして何本もの水柱が林立した。
水飛沫を浴びながらも俺は海面に背を向け、仰向けの状態でG-B.R.Dによる牽制射撃を交えて後退していく。
俺達に対して執拗に攻撃を仕掛けていたネウロイだったが、しばらくすると唐突に攻撃を中断させ、子機達を本体の周囲に展開させた。

バルクホルン「なんだ……?」

疑問の答えはすぐにわかった。
敵が増援の気配を察知したのだ。

坂本『待たせたな。無事だったか?』

エーリカ『うわ、うじゃうじゃいるぅ〜』

ミーナ『全機攻撃開始! 敵の反射攻撃に気を付けて!』

インカムから聞こえてくる仲間達の声。
それに安堵したのも束の間、バルクホルンは再び表情を厳しくさせた。

バルクホルン「やはり厳しいか……!」

弾道予測の難しい変則的な攻撃に、再生速度の高い子機集団。
一方、ミーナ達は別のネウロイとの戦闘を終えた直後で魔法力、弾薬共に心許ない。
このままでは先程の自分達のように決定打を打てないまま防戦一方になってしまう。

バルクホルン「俺、ここからやつを狙えるか?」

俺「できないことはないですけど……。でも、もし失敗したら」

現在、敵の注意は完全に坂本達に向けられており、戦闘領域はかなり高い高度にある。
とはいえ、こちらの狙撃が届く範囲であるということは敵の攻撃も届く範囲であるということだ。
一撃で仕留めなければ、敵は再び自分達を標的にするだろう。

俺「やっぱりだめです。失敗したら大尉まで危険に晒すことになる。せめて一度大尉を基地まで送り届けてから──」

バルクホルン「そんな暇は無い! このままではやつは基地まで到達してしまうぞ!」

客観的に見て、バルクホルンの言っていることは間違ってはいない。
だが、彼女自身の安全を考えるとどうしても賛成できない。
俺が黙りこんでいると、バルクホルンが急に俺の顔に手を伸ばし、強引に自分と目を合わせた。

バルクホルン「大丈夫だ」

俺「でも……!」

バルクホルン「……サーニャ達を連れて撤退するように指示した時、理屈ならあの時はエイラを残すべきだった」

エイラは俺よりもベテランだし、固有魔法を使えば敵の反射攻撃を回避するのは容易だったはずだ。

バルクホルン「でも、あの時の私は無意識に俺を選んだ。きっとわかったんだ。あれを倒すのに俺が必要だ、と。それに──」

力強く、自信に満ちた声でバルクホルンは言い切った。

バルクホルン「──私は、俺を信じている」

担ごうとしているわけでも、無理に説得をしようとしているわけでもない。
心からそう言っているのだとわかる言葉。
そして、バルクホルンの真摯な瞳を見て、俺は覚悟を決めた。


俺「……わかりました。中佐達に連絡をお願いします。あと、左手が使えないのでこいつの出力調整を」

俺がG-B.R.Dを構え、敵ネウロイの本体へ狙いをつける。
手早く連絡を終えたバルクホルンがG-B.R.Dの出力を調整し、収束モードへ切り替えた。

バルクホルン「少佐の魔眼によると、コアは敵の中心部にあるそうだ。貫通力重視の収束モードで撃ち抜くぞ」

俺「了解しました」

俺が銃口の向きを微調整する。
その時、バルクホルンが右手で俺の体を抱くように密着し、左手でG-B.R.Dを掴んで支えた。

俺「た、大尉?」

バルクホルン「片手では精密射撃は難しいだろう? つべこべ言わずにさっさと準備しろ」

俺「り、了解……」

体から伝わってくる甘い感触をなんとか頭から取り除き、俺は深呼吸して気持ちを切り替えた。

俺「……こちらの準備は完了しました。いつでもいけます」

ミーナ『了解。発射のタイミングは俺さんに任せるわ』

俺は一度だけバルクホルンの顔を見て目を合わせ、カウントをスタートさせた。

俺「5……4……3……2——」

その瞬間、敵ネウロイ本体の動きが突然変わった。

俺「——1……0!」

G-B.R.Dからビームが放たれる。
しかし、そのビームは敵本体の僅かに斜め上を通り過ぎ、遥か上空へと伸びていった。

シャーリー「気付かれた!?」

ペリーヌ「俺さん! 逃げて!」

坂本「くっ……! 各機、俺の援護を——」

その時、坂本は気付いた。
まだ、G-B.R.Dはビームを途切れさせていない。

俺『まだだ……! まだ終わってない!』

G-B.R.Dから伸びるビームが徐々に下へと下がっていく。
やがてビームがネウロイに接触する。
だが、それでもまだ光は衰える気配を見せない。

ミーナ「まさか、これは……」

坂本「狙撃でも砲撃でもない……! ビームによる斬撃か!」

俺『いっけえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』

青く輝く光の剣が、敵を真っ二つに切り裂いていく。
その光が過ぎ去った直後、周囲にいた子機を含め、全てのネウロイは白いかけらとなって崩れていった。

ミーナ「……敵機の殲滅を確認。やっと終わったみたいね」

ルッキーニ「やったぁぁぁぁぁ!」

シャーリー「一時はどうなることかと思ったよ〜」

戦闘が終了し、緊張から開放されたルッキーニ達が安堵の表情を見せる。
俺とバルクホルンも構えていたG-B.R.Dを下ろし、互いに笑みを見せていた。

バルクホルン「やったな」

俺「大尉のおかげです。大尉がああ言ってくれなければ、きっと無理だった」

バルクホルン「あ、ああ……」

今更になって、バルクホルンは自分が何をやったのかを思い出した。

バルクホルン(私はもしかしてものすごく恥ずかしいことを言ったのではないか……?)

だが、あれは紛れもなく本心だった。
なぜあんなことを言ったのだろう。
ただ信頼しているからとか、仲間だからとかそういった理由ではない。
何か別の理由があるように思えた。

バルクホルン(そういえば今……)

今、自分は俺の腕に抱かれている。
最初は嫌いだったはずの俺の腕に。

バルクホルン(男の腕に抱かれているのに嫌じゃない。むしろ……)

そこまで考えた時、バルクホルンは瞬間的に今までのことを思い出し、そして唐突に理解した。
何故今まで気付かなかったのだろうか。
理屈がどうとか、そういう問題ではない。
自分はとっくに彼のことが──。

坂本「大丈夫か、バルクホルン」

バルクホルン「うぇ!? だ、大丈夫だ。問題ない」

思考を中断させて周囲を見ると、いつの間にか坂本達が海上まで降りてきていた。

ミーナ「俺さんの方はどう?」

俺「ええ、なんとか無事です」

シャーリー「でも疲れてるだろ? ずっとバルクホルンを抱えたままだったし」

エーリカ「そうだね。トゥルーデは私が基地まで連れていくよ」

俺から離れてエーリカの肩に支えてもらうと、バルクホルンはなんとなく名残惜しさを感じ、つい俺の方を振り返ってしまう。
すると、俺と目があった。

俺「大尉、どうかしたんですか?」

バルクホルン「な、なんでもない! さっさと基地に帰るぞ!」

バルクホルンが紅くなった顔を誤魔化すように顔を背ける。
その後、バルクホルンは基地への帰投中もずっと俯いたまま海面を見続け、一度も俺の方を見ることはなかった。

ペリーヌ「………………」

だから、気が付かなかった。
ペリーヌが不服そうな目でバルクホルンを見つめていたことに。
最終更新:2014年10月22日 23:45