芳佳「うあ〜、疲れたぁ〜」

リーネ「結局、あんまりお掃除できなかったね……」

エーリカ「私としては掃除なんてしなくてもよかったんだけどな〜」

バルクホルン「いいわけないだろう! あんな部屋に住んでいて、カールスラント軍人として恥ずかしくないのか!?」

エーリカ「別に〜。特に困んないし」

ミーナ「だめよ。これからは定期的に部屋を掃除するよう心がけなさい」

ペリーヌ「中尉には何を言っても無駄だと思いますわ……」

ウィッチーズの面々が疲れた様子で談話室へ入っていく。
それというのも、今日は朝からペリーヌのズボンを盗んだルッキーニを追いかけて基地中を駆け回っていたからだ。
騒ぎは最終的に敵もいないのに出撃しかける事態に発展し、しかもその後、全ての元凶になったエーリカのごみで埋もれた部屋を掃除する羽目にまでなった。
その上後も色々とトラブルが重なり、結局、掃除も中途半端なまま終わっってしまったのである。

ルッキーニ「うじゅあ〜。お腹空いた〜」

シャーリー「あ、そうだ俺、この間作ってくれたやつまた作ってくれよ。ほら、芋のやつとか」

俺「ああ、あれか。いいよ」

エーリカ「お芋!? 私も食べる!」

俺「はいはい。じゃあちょっと早いけど夕食の用意を始めるか」

そう言って俺が談話室を出ていくと、急にバルクホルンとペリーヌがそわそわとし始めた。
二人は意味もなく何度も姿勢を変えたり、あちこち視線を泳がせたりと落ち着きの無い素振りを見せている。
そして、先に動いたのはペリーヌだった。

ペリーヌ「私、俺さんをお手伝いして来ますわ。ええ、ガリア貴族として当然の行いですもの!」

ペリーヌは訳の分からない理由を言ってソファから立ち上がり、小走りで部屋を出ていった。

バルクホルン「………………」

エーリカ「ねえ、トゥルーデ」

バルクホルン「なんだ、ハルトマン」

エーリカ「俺の料理も楽しみだけど、久しぶりにカールスラントの料理も食べたくなっちゃったんだ。だから、トゥルーデも何か料理作ってくれない?」

バルクホルン「……仕方がないな。では、私も何か料理を作るとしよう」

口では仕方ないと言いつつ、いそいそと厨房へ向かうバルクホルン。
バルクホルンが出ていった直後、シャーリーがニヤニヤとしながらエーリカに話しかけた。

シャーリー「うまいことやったなぁ、ハルトマン」

エーリカ「トゥルーデったらこの間から急に意識するようになっちゃったんだもん。こっちが動く理由を作ってあげないとね」

リーネ「ペリーヌさんも素直じゃないですけど、バルクホルン大尉も相当ですよね……」

芳佳「え? 何? 何の話?」

ルッキーニ「どういうことー?」

シャーリー「んー……。ルッキーニにはまだ早い話、かな?」

ルッキーニ「ええ〜! あたしにも教えてよぉ〜!」

会話に花を咲かせ、どんどんとテンションを上げていくシャーリー達。
軍に所属しているとはいえ、年頃の少女達にとって恋愛に関しての話題が大好物であることは変わらないようだ。
だが、そんな彼女達を難しい顔で見つめる者がいた。

ミーナ「ウィッチと男性の接触は規則で禁じられているけど、俺さんはウィッチだし……。この場合はどうなのかしら?」

坂本「解釈次第だろうが……。まあ、俺なら大丈夫だろう。誠実な奴だ。滅多なことはしないと思う」

ミーナ「そのあたりは心配していないんだけどね……」

坂本「……まだ、忘れられないか? 昔の事が……」

ミーナは軽く目を伏せ、過去の記憶を思い返す。
かつて、共に同じ道を目指した恋人がいたこと。
夢を捨てて軍に入った自分に対し、彼も共にいたいと思ってくれたこと。
そして、自分の元へ必ず帰って来ると言ったのに、彼は帰って来なかったこと。

ミーナ「……私はただ、うちの子達に辛い思いをさせたくないだけよ」

ぽつりとそう言い、ミーナは立ち上がった。

ミーナ「さてと、明日までに片付けないといけない仕事があるし、私は執務室へ行くわ」

坂本の視線から逃げるように談話室を出ていく。
胸中で押し殺しているものが何なのか無意識で考えないようにしながら、ミーナは歩く足を速めていった。


          ●


俺「へぇ……。そんなことがあったんだ」

風にはためくシーツを視界に捉えながら、俺は相槌を打った。

芳佳「いくら規則だからってお話もしちゃいけないなんて……。リーネちゃんもおかしいって思うでしょ?」

リーネ「う、うん……」

この日、俺は芳佳やリーネと共に洗濯物を干しつつ、芳佳に愚痴を聞かされていた。
その内容は、朝にハンガーにいる整備員達へ差し入れを持っていったら『ウィッチとの必要最低限以外の接触は禁じられている』と言われ、断られたというものだ。
芳佳はそれが大変不満のようだったが、リーネはそれほどでもないらしい。

リーネ「でも、私は家族以外の男の人とあんまりお話したことないし、学校も女子校だったから……」

芳佳「そうなんだ……。あっ! 赤城だ!」

芳佳の声に俺が海へと視線を向ける。
するとそこには、巨大な船体を持つ空母が悠々とその身を浮かべていた。

芳佳「私、あれに乗ってブリタニアまで来たんだよ。来る時にネウロイに攻撃されたから修理してるって聞いてたけど……直ったのかな」

赤城の姿にしばらくの間目を奪われていた俺達だったが、そこに突然シャーリー達が現れた。

シャーリー「おー、ここにいたのか宮藤」

ルッキーニ「ミーナ中佐が呼んでたよー」

芳佳「え? ミーナ中佐が? いったいなんだろ……?」

芳佳がその場を後にするとそれに続いてリーネやシャーリー達も屋内へ去っていき、自然と俺一人が残る形となった。
ふと、先程の芳佳の話を思い出してみる。

俺「一般隊員とウィッチとの最低限以外の会話を禁ずる、か」

いつの時代も軍隊というものは男性の比率が高く、そんな場に見目麗しい彼女達がいれば問題が起こるのも無理はないのかもしれない。
冷たい考え方をすれば、軍にとって『ウィッチ』という駒を最大限に活用するためには必要な規律なのだろう。
ウィッチの入隊時の階級が軍曹になっているのも、現場の男性兵士達が彼女達を『女性』として見ないようにするためだと聞く。
だが、俺には一つ気になることがあった。

俺「……俺の場合はどうなるんだろう」

自分は男だがウィッチでもあるので、他のウィッチとも普通に接することができる。
だが、だからといってそれに対して役得だと素直に言えるほど、自分は女性に対して積極的な方ではない。

俺(まあ、ここのウィッチ達とはそれなりに仲良くなってはいるけど……)

なぜか、真っ先にバルクホルンのことが頭に浮かんだ。
最初は嫌われていたし、自分も堅苦しい軍人というイメージしか持っていなかった彼女。
だが、妹の前で見せたあの慈愛に満ちた眼差しを。
そして、先日の戦闘で「信じている」と言ってくれた彼女の言葉を。
彼女の新しい面を見つける度、本当は妹思いの優しい女性なのだということがわかっていった。
それにここ最近は何かと一緒にいることが多い気もするし、以前より距離が近くなっているとも思う。

俺「バルクホルン大尉……」

自然と彼女の名前が口から漏れる。
少し前からなんとなく気付いてはいた。
彼女のことを意識することが多くなっていることに。
多分、自分は彼女に惹かれているのだろう。
だがしかし、この場所ではその気持ちを持つことは許されない。
俺がざわついた気持ちを持て余していると、唐突にサイレンの音が鳴り響いてきた。


          ●


ミーナ「俺さん! 後ろにつかれてるわ! 気を付けて!」

俺「了解!」

ミーナの注意する声を聞き、俺は速度を落とさずに後方を確認した。
サイコロのような形をした小型ネウロイが5機。
それぞれがビームを放ちながら執拗に後を追ってきている。

俺「うるさいんだ……!」

タイミングを見計らって急減速をかける。
それに加えてG-B.R.Dのスラスターを前方へ向けて噴射させ、一瞬で敵機の後ろをとった。

俺「落ちろ!」

背後を晒した小型ネウロイの集団にぶつ切りのビーム弾を連続で叩き込む。
追ってきた敵機を撃ち落とすと俺はすぐに周囲を確認し、次の標的を貪欲に探し求めた。

芳佳「今日の俺さん、なんだかすごいですね」

坂本「そうか? どちらかと言えばいつもより動きが荒いように見えるが……」

芳佳は戦場となっている空域を上から見下ろしながら隣の坂本へと話しかける。
坂本はそれに答えつつ、魔眼を使って戦場を見渡していた。

坂本(敵の数も大分減ったが、未だにコアを持った敵の姿が見えんな……)

当初、敵戦力は1機の大型ネウロイかと思われていたが、攻撃開始直前に敵が分離し、今や200機以上の小型ネウロイの群れが相手となっている。
よって、坂本は魔眼でコアを持っている1体を探している最中だ。
護衛は芳佳が担当し、バルクホルンとエーリカ、ペリーヌとリーネ、ミーナと俺が敵部隊を攻撃して数を減らしている。
ただ、各員が順調に敵を撃墜していく中、どうも俺の様子がいつもと違うのが気になった。
ミーナの2番機として1番機のフォローに回ってはいるが、機動や攻撃にどこか荒々しさが感じられるのだ。

坂本(俺……いったいどうしたんだ……?)

そして、そう思っているのは坂本だけではなかった。

エーリカ「俺、なんかいつもとちょっと違うね」

バルクホルン「ああ。なんだか苛ついているように見えるな」

俺たちから少し離れたところで戦闘をしているバルクホルンとエーリカ達も、俺の動きの変化に気付いていた。

エーリカ「心配?」

バルクホルン「な、仲間の心配をするのはおかしいことではないだろう!」

エーリカ「え〜? 私は別におかしいなんて言ってないよ〜?」

バルクホルン「ぐぬぬ……」

ミーナ『各員へ通達! 少佐が敵コアを発見、こちらで撃墜するから他を近づかせないで!』

バルクホルン&エーリカ『了解!』

ミーナ達が大陸側へと逃げていく敵機の追撃に向かっていく。
しかし、そこに俺の姿はない。
バルクホルンが探してみると、俺はミーナ達の後を追おうとする敵を片っ端から撃ち落としていた。

俺「ここから先へは行かせない……!」

セオリー通り、数発撃つごとに射撃位置を変え、次々と迫り来る敵機を狙撃していく俺。
しかし、攻撃を重視し過ぎているせいか、俺の動きは単調なものになっていた。

バルクホルン「俺! 横から回り込まれているぞ!」

だから、その隙を突くように回り込んでいた敵機に気付くのが遅れた。
敵のビームが当たる寸前に俺はなんとかシールドを展開し、間一髪で防御に成功。
俺が反撃しようとしたが、既にその敵はバルクホルンが撃墜したところだった。

バルクホルン「無事か、俺」

俺「すみません、大尉。助かりました」

バルクホルン「気にするな。それより──」

バルクホルンが他の敵へ注意を向けようとした瞬間、周囲の敵機が一斉に白いかけらになって崩れ始めた。

坂本『こちら坂本、敵コアを破壊した。残っている敵は……いないようだな』

バルクホルン「……終わったか」

エーリカ「終わったか、じゃないでしょも〜! 俺が心配だったのはわかるけど、急に飛んでったりしないでよぉ〜」

バルクホルン「べ、別にそんなことは無いぞ。ただ、一刻を争う状況だったから急いだだけだ」

後から飛んできたエーリカが文句を言う隣で、俺はミーナが大陸側にある基地の跡へ向かっていくのを目撃した。

俺「ミーナ中佐……?」

バルクホルン「ん? ……そうか、ここは……パ・ド・カレーか……」


          ●


俺はいつもより少し騒がしい基地の通路を一人で歩いていた。
遠くの方からは他の隊員達の賑やかな声が聞こえてくる。
それというのも、戦地へ出発する赤城の乗組員を激励するために先程ミーナが歌を歌ったからだ。
曲目は『リリー・マルレーン』
それを、いつもの軍服を脱ぎ、美しいドレスに身を包むミーナがサーニャのピアノに合わせて歌い上げたのだ。
その調べに誰もが聞き惚れ、心を癒したことだろう。

ミーナ「あら、俺さん?」

俺「中佐?」

俺の歩いている通路の向こうからミーナがやってきた。
未だに着替えていないらしく、ドレス姿のままだ。

俺「とても素敵な歌でしたよ。ドレスもよく似合ってます」

ミーナ「もう、お世辞なんて言わなくていいのに……」

俺「お世辞なんかじゃないです。でも、少し意外でした」

ミーナ「何が?」

俺「赤城の激励のためとはいえ、歌を歌ったり、芳佳達に見送りを許可したりすると思わなかったので」

ミーナ「もっとお堅い女だと思ってた?」

俺「い、いえ、そんなことは」

内心で思っていたことを言い当てられて俺は狼狽えた。
そんな俺の様子にミーナは小さく笑い、そして、壁に身を預けた。

ミーナ「いいのよ。今までの私は臆病になりすぎていたみたいだから。これからは少し前向きになることにしたの」

どことなく晴れやかに見えるミーナの表情。
確かにその姿からは以前よりも柔らかみを感じることができた。

ミーナ「それより、俺さんの方こそどうかしたの?」

俺「俺は……別に。特になんとも……」

ミーナ「今日の戦闘の様子を見ていればわかるわ。何かあったんでしょう?」

ミーナの問いかけに俺は言葉を詰まらせた。
俺自身、今日の自分がいつもと違っていたということは自覚している。
その原因が単なる個人的な苛立ちであるということもわかっている。
だから、そんな個人的な事情を上官であるミーナに言うことに躊躇いを感じるのだ。

ミーナ「……前にね、トゥルーデに言ったことがあるの。『私達は家族だ』って」

俺「家族……?」

ミーナ「そう。私達はただ集まってネウロイと戦うだけの存在じゃない。嬉しいことも辛いことも共有して、一緒に生きていく。言わば家族みたいなものだと思うの」

家族。
俺はかつて自分にもあったそれを思い浮かべ、今と重ね合わせてみる。
違うはずのものなのに違和感が無いのは、きっとそれだけ自分がここに馴染んでいるということなのだろう。

ミーナ「だから、悩みがあるのなら話してみてちょうだい。私だけじゃない。きっと他の子達もあなたを心配してるわ」

上官としてではなく、まるで本当の家族のように心配してくれるミーナ。
その姿を見て、俺は自分の想いを打ち明けることを決めた。

俺「……もし……もしも俺が……ウィッチーズの誰かに惹かれているとしたら、どうします?」

ミーナは応えない。
咎める様子も無く、ただ静かに俺の話を聞いている。
それほど驚いていないところをみると、もしかしたらこの事態を予期していたのかもしれない。

俺「許されることじゃないでしょう? しかもその人はすごく真面目な人で、軍人として誇りを持って戦っている。きっと、男女の惚れた腫れたなんて興味も無いはずです」

ミーナ「それって……」

俺「わかっているんです。俺がくだらないことで悩んでいるってことは。今日みたいなことがないように、これからは戦闘に集中して──」

ミーナ「それは違うわ。誰かを大切に想うことはくだらなくなんてない」

ミーナがはっきりとした口調で言い切る。
その瞳には強い意思が見てとれた。

ミーナ「私は昔、大切な人を失ったわ。その辛さや悲しみは今でも忘れられない。でも、今はこう思うの。失うのが怖いなら、失わせなければいいって」

俺「そんなの、ただの理想じゃないですか……」

ミーナ「確かに簡単なことではないけど、そうするべきだと思う。だって、誰かを大切に想ってしまうのは止められないんだもの。なら、それを貫くしかないでしょう?」

俺「でも、規則では……!」

軍の規則ではウィッチが異性と関係を持つことは許されていない。
ミーナ自身、その規則を徹底させてきたはずだ。

ミーナ「そうね。私の立場からは規則に反するようなことは推奨できないわ。だから、その辺は俺さんの判断に任せることにします」

俺「そんな……いい加減なこと言わないでくださいよ!」

ミーナ「一応言っておくけど、節度あるお付き合いをするようにお願いするわ。じゃ、後は二人で、ね?」

俺「え?」

ミーナの視線が俺の後ろへ向いているのを見て、俺は振り返った。

バルクホルン「あっ……」

そこには、いつもの凛とした表情ではなく、どこか不安げな顔をしたバルクホルンが立っていた。
しかも意外と距離が近い。今の話を聞かれたかもしれない。
俺はどういうことかとミーナに聞こうとしたが、既にミーナはその場を去ってしまっていた。

バルクホルン「俺、あの……ええと……」

俺(聞かれていた!? どうする? こうなったら、いっそのこと……!)

意を決し、俺はバルクホルンに向き合った。

俺「大尉! 明日は非番ですよね!?」

バルクホルン「そ、そうだが、どうした?」

俺「明日、俺とデートしてください!」
最終更新:2014年10月22日 23:46