――作戦決行当日――

ミーナの号令と共にストライクウィッチーズが出撃した。
そして戦闘空域であるヴェネツィアに近づいていく。海上を見ると
今回の作戦の要である大和、そしてそれを守るように扶桑の艦隊が見える。

そしてそれらの艦上にウィッチたちを見上げる水兵たちの姿がある。
「見ろ!ウィッチだ!」
「ストライクウィッチーズだ!!」

しかし空母に、それを忌々しく睨みつけるものがいた。
コアコントロールシステムの改良を中心になって進めた若い技術官だ。
技術官「ウィッチ共か…。見ていろ。今はまだ我らの力が足りないが、
    いつか、貴様らの力を借りずともネウロイを倒せるようになってやる…」

やがて、遠くにヴェネツィアを目視できる距離にまで近づいてきた。その上空には、巨大な雲のようなネウロイの巣もはっきりと確認できる。

宮藤「これが、ネウロイの巣…」

ミーナ「ええ。そうよ。」

坂本「敵の親玉だ。」

しばらくして、前方の駆逐艦がネウロイの防衛圏内に突入した。
その瞬間、UFOのような形をした小型ネウロイの猛攻撃が始まる。

ミーナ「始まったわ。大和がネウロイ化するまでの間、何としても守り切るのよ!!」

一同「了解!!」

敵は真っ直ぐに大和へと向かって攻撃を開始した。少尉が回りこもうと加速するが、宮藤がすでにそこにいる。
宮藤「大和は私が守ります!槍さんは敵を!!」
そして巨大なシールドを形成し、すべてのビームを弾ききる。
少尉は頷くと宮藤のシールドに阻まれたネウロイへ突撃をかけた。すでにその手にはブレードが形成されている。
加速を加えたブレードの一撃は苦も無くネウロイを真っ二つにする。そしてそのまま上空へ移動すると、
一気に落下し回転を加えて強化したかかと落としでもう一体を海面に叩きつけた。

だが大和への攻撃は一向にやまない。

ミーナ「攻撃が大和に集中しているわ…。」
坂本「奴らめ…。大和が普通じゃないことに気づいたか。」

戦場ではウィッチたちが次々とネウロイを撃墜していく。
シャーリーがルッキーニを加速してネウロイの群れにぶん投げバランスを崩させたあと、それをシャーリーが次々と落としていく。
またあるところではエイラがその回避力でネウロイを一列に誘導すると、サーニャのフリーガー・ハマーの一撃で玉突き事故のようにネウロイが撃墜される。
そして上空では、カールスラントのエース二人がペアになり、その軌道上にいるネウロイを次々に粉砕していく。
扶桑海軍の艦隊もネウロイ用の対空弾による砲撃を放つ。その弾幕にさらされ無数の小型ネウロイが塵になった。

しかし、先程よりもさらに大量の子機が出現し、退避が遅れたリーネとペリーヌを包囲する。

宮藤「リーネちゃん!ペリーヌさん!」
そのとき上空に陽光にきらめく刀を抜き放った少佐の姿が現れた。
そしてその技の銘を叫ぶ。

坂本「烈風――斬!!!」
だがその一撃は、ネウロイを両断することはなかった。刀は装甲に弾かれ、その反動でどこへでもなく飛んでいく。

そしてネウロイが目の前の敵に攻撃を放とうとする。
宮藤「坂本さん!」

その時槍少尉が上空から猛スピードで突っ込んできた。
回転軸をやや寝かせたローリングソバットで、攻撃を放つ前にネウロイを吹き飛ばす。

槍「少佐!無事ですか!?」

だが少佐は答えない。
その手を見つめ、ただ呆然とする。

坂本(魔法力がもう…烈風斬が…きかない…?)


――空母天城――
そのときネウロイ化の準備はほぼ完了していた。

「目標との距離11000!ネウロイ化まであと30秒!」
「魔導ダイナモ、起動準備!」

そしてそれを聞いて艦長が声を放つ。
「追い込まれた人間の恐ろしさを、奴らに思い知らせてやれ。」
そしてネウロイ化までの最後のカウントダウンが始まった。

戦場ではウィッチーズたちの激闘が続く。ほとんどの隊員にはすでに疲れが見え始め、確実に攻撃の手は緩んでいた。

そして戦場を見回していたミーナが全員に声をかける。
ミーナ「魔法力の消耗したものは、各自空母天城に退避して!」
…その目の先には先程烈風斬を弾かれたまま呆然としている少佐の姿があった。

直後、ネウロイ化までのカウントダウンが終わった。改良したコアコントロールシステムを起動し、
魔導ダイナモを始動させると、戦艦大和が黒々とした装甲に覆われていく。
そして船頭から船尾まで完全にネウロイ化が完了し、戦艦大和が発進した。
その巨体を完全に浮上させ、戦艦大和が宙を駆ける。
その進路にいるネウロイは、その火力にさらされ次々に撃墜される。

それを見てミーナが指示を出した。
ミーナ「任務完了。全員空母天城に帰還します。」
ミーナは少佐に目を向ける。
ミーナ「…少佐。私たちの任務は成功したのよ…?」

坂本「私にとって、生きることは戦うことだった…!だが、もうシールドを失い、烈風斬も使えない…!」
それは戦場に居続けた武士が力を失った姿だった。

ミーナ「貴女は十分戦ったわ…」

ウィッチーズたちが続々と空母に帰還していく頃、大和に向けてネウロイたちの総攻撃が始まっていた。
全ての戦力を大和に集中させ、赤い光線が船体にシャワーのように降り注ぐ。
しかし、ネウロイ化したその装甲は、破損したそばから次々に修復していく。

槍「あれがコアコントロールシステム…ネウロイの技術を借りた力か…」

そして空母の司令室に歓喜と共にそれを見据える姿がある。

技術官「ネウロイ化した大和は無敵だ!これが…!人類の新しい力となり、
    人類の敵をこの世から根絶やしにする!!」

小型ネウロイを尽く粉砕しながら大和の進撃は続く。そしてとうとうその眼の前にネウロイの巣を捉えた。
そのまま最大戦速で巣の外殻にぶつかっていく。激突の瞬間、あたりに衝撃が走った。

「いまだ!主砲斉射!我々の勝ちだ!!」
しかし、それに大和の主砲は答えない…

「艦長!火器管制システムが起動しません!」

「何だと!?」

「魔導ダイナモが停止しています。ダメです、主砲撃てません!」

(ドンッ)「なんで様だ!!」

その瞬間、大和は無防備なまま、巣から出現したネウロイの爆撃に晒された。
そして艦長から作戦失敗の通信が伝わり、そして戦線離脱の命令がくだされる。だが、

坂本「まだだ!まだ終わっていない!この戦いも、そして…私もだ!!」
そう叫び、紫電改を発進させた。向かう先は今ネウロイの巣の目の前で攻撃を受けている大和。

坂本「私が大和に乗り込み、魔法力で魔導ダイナモを、再起動させる!!」
そしてその進路にミーナが銃口と共に立ちはだかった。

ミーナ「止まりなさい少佐。」

坂本「私が行かねば、いったい誰が大和を動かせるんだ。」
そう言って近づくと共にミーナの銃口を抑え、搾り出すように声を出す。

坂本「皮肉なものだ。まともに戦えなかった私だけが、ただ一人魔法力を残すことになったのだから。」

ミーナ「少佐…」

坂本「ミーナ…私は嬉しいんだ。こんな私にも、まだ出来ることが残っている。501の仲間でいられる…」
ミーナは唇をかみしめた。彼女を止めることは彼女の覚悟を否定することにほかならない。

ミーナ「お願い…!必ず無事で帰ってきて。これは命令よ…。」

坂本「…了解した!」
その言葉と共に少佐が飛び立っていく。

――天城艦上――

ペリーヌ「少佐――!!」

宮藤「坂本さんダメです!!」

槍「(英雄にでもなるつもりですか…?少佐…)」

見かねた宮藤がストライカーのもとに走りよるが、足がもつれ転び、リーネに取り押さえられる。
自分たちに出来ることはない、諦めにも似た暗いムードが艦上に漂った。

――上空――
少佐の接近にネウロイが気づいた。赤い光線が雨のように降り注ぎ、そしてそれをギリギリのところでかわしていく。
坂本「紫電改!大和まででいい、私を連れていってくれぇ!!」

そして、天城のレーダーに大和の魔導ダイナモの反応が復活した。

技術官「(ウィッチめ…またお前らに戦場の行く末を左右されるしかないってのかよ…!)」

魔導ダイナモの出力が上がっているが、遠隔操作はできない。
全ては少佐の手に委ねられることとなった。天城の艦上からは、
残された501メンバーが大和とネウロイの巣を食い入るように見つめている。

そのとき、出力が100%を超え、同時に大和の主砲が放たれた。
轟音と共に閃光が走り、巣も、大和の艦影も完全に覆い尽くす。
やがて、その爆発から雪の様に白い粒子が舞い降り、ネウロイの巣と共に、空にかかる暗雲が晴れていった。
そして抜けるような青空が現れる。

サーニャ「ネウロイの反応、消滅…」

宮藤「坂本さんは…!?」

ペリーヌ「少佐…」

皆が少佐の安否を案じる。だが、あの爆発では…と絶望がちらつく。
だが、白煙が晴れていくと共に、上空に大和の姿が現れた。

宮藤「坂本さん!!」

バルクホルン「やったぞ!!」
エイラ「大和が無事なら少佐も無事ダナ。」
ペリーヌ「うぅ…」
シャーリー「やったな…少佐…!」
ルッキーニ「勝ったー!!」
宮藤「よかった…」
ミーナ「……。おかしいわ…。ネウロイ化が解けていない…?」
宮藤「え…?」

そして、空の白煙が完全に晴れた。

サーニャ「ネウロイの反応が復活…!」

バルクホルン「なんだって!?」

大和の背後には巨大な戦艦である、大和よりもさらに巨大なコアが鎮座していた。
そして、そのコアからコアと同じ多面体の子機が現れる。
その子機はコアを守るように展開すると、一斉にビームを放った。
一極集中させてなぎ払うように放たれた赤い直線は、その軌道上の戦艦をバターのように切り裂いていく。

その威力に驚愕するウィッチたち、そして宮藤がそのコアの上部に何かの影を見つけた。
手足を拘束され、貼付けのような状態になった坂本少佐が、気を失ったままそこにいた。

艦隊は先程大和に特攻し、巣の破壊の功労者となったウィッチを救うため、そのコアに向け主砲を斉射する。
しかし、

その砲弾は着弾直前に空中に静止し阻まれた。ウィッチとは違う、ネウロイのコアのように紅く染まったシールドが
艦隊の砲弾をことごとく受け止める。

ハルトマン「シールドだ…!」

バルクホルン「ネウロイが…シールドを張った…!?」
そしてその形状を捉えた宮藤が声を上げる。

宮藤「あのシールド…扶桑のシールド…!?」

ミーナ「間違いないわ…ネウロイは、少佐の魔法力を利用しているのよ!」

――空母天城――

技術官「ふざけるなよ…!人はネウロイの前に屈するしかないというのか!?
    俺達は、ウィッチ無しでも戦えることを示さなければならないんだ!!」

艦上の501隊員たちから離れて、槍少尉がストライカーの格納庫にいた。
そして、決意と共にストライカーを手に取る。

「艦長!中央エレベーターが作動中!誰かいます!」
「何だと!?」

槍「(少将『誰かが立ち上がり、立ち向かえば、それに続くものが必ず現れる。それもまた人の姿だ。』)」
天井のハッチが開き、甲板上にその姿が現れる。
槍「(俺は、人の心にかかる暗雲を払う、一番槍になれるのだろうか…)」

バルクホルン「槍少尉…?何をしている!?」

ペリーヌ「少尉…貴方…」

ミーナ「どういうつもりですか…?槍少尉…。」
彼はゆっくりと言葉を紡いだ。

槍「少佐を、助けに、そして、人々を守るために。」

ミーナ「無理よ!貴方だってもう魔法力は…!」

俺「天槍を撃つのは難しいですが、通常の戦闘ならまだなんとかなります。
  すいません…手を抜いていたわけではないのですが。」

その言葉に皆は驚愕した。確かに派手な技は先程の戦闘では使っていない。
しかし、その高速機動と超近接戦闘で隊内でも1,2を争う数を撃墜しているはずだ。

ミーナ「でも…!貴方一人であのネウロイを倒せるの…!?天槍はもう使えないんでしょう!?」

俺「わかりません…。今度こそ駄目かも知れません。でも、あの時も、今までも、絶対に大丈夫だと
  そんな風に思って戦場に立てたことは無いような気がします。」

ミーナ「…まさか、死にに行くつもり?」

俺「いいえ、自分は死にに行くんじゃありません。
  ただ、生きるために、ここにいます。
  身勝手ですいません。でも、だからこそ、中佐、俺に命令を下さい。
  俺は、必ずそれを守ります。だから、俺に命じて下さい。」
決意と揺ぎ無い意志を持った声。それを止めることなど誰にもできない――

ミーナ「行きなさい…。これは命令です。あのネウロイを打ち倒し、必ず生きて帰りなさい。」
そう言って、彼女は乱暴に彼に口付けた。

もう迷いはない。だから――
槍「行きます!!」
その言葉と共に飛び立つ。

そしてミーナはそれを見送ることしかできない自分の無力さに打ちのめされる。

バルクホルン「一人で行かせていいのか…?」
背後からミーナに声がかかった。

ミーナ「彼が、自分から行くと言ったの…。止められるわけ…」
それを遮って言う。
バルクホルン「そうじゃない。お前は、あいつを一人で行かせたまま、ただ待っているのかと、とそう聞いたんだ。」

ミーナが振り向く。そこには既にストライカーを装着して、完全武装した501メンバーの姿があった。

ハルトマン「男を一人で行かせて指を咥えて待ってるなんて、ウィッチのすることじゃないでしょ。」

シャーリー「全く、イチャイチャしてるから勝手に飛んでこうかと思ったぞ。」

宮藤「ミーナさん、行きましょう!私たちにもできることがあります!」

自分は、何を諦めていたのだろうか。彼女たちは何一つ諦めず、彼の力になろうとしている。
どうかしていた。彼が勝手に無茶をするならば、自分はそれを信じ、助けてやらなければいけないのに…

ミーナ「えぇ、行くわよ!あのバカを助けに!!」

――上空――

槍少尉はすで子機と戦闘状態に入っていた。
だが、本体のコアに接近するには一人の力では及ばなかった。
その機動力で群れをかわし切ろうとしたり、突撃槍で無理に突破を図ろうともしたが、いずれも失敗している。

槍「クソッ…まずは大和にある刀までたどり着かなきゃいけないのに…」
天槍も使えない今、決して無策に飛び出したわけではない。坂本少佐が用いていた烈風斬、
あれを自分なりに応用すればあのコアを貫けるのでは、という彼なりの目算はあった。
だが、ネウロイの撃破はおろか、彼はいまだ刀すら手にできないでいる。
ならば、今度こそ、と特攻をかけようとしたまさにそのとき、横合いから艦隊の砲撃による援護があった。

その少し前、彼が空母天城から飛び立つとき、司令室からそれを見下ろす者がいた。
技術官「(ウィッチに頼らずにネウロイの巣を破壊する、それを目的にした今回の作戦は完全に失敗した。
     なのにあのウィッチは何も諦めず、未だ戦おうとしている…。)」

彼は過去を思い返す。思えば、自分の今は、あのときの後悔から始まっている。あの戦いで、自分は家族を失い、
そのやり場のない思いを生き残ったウィッチにぶつけた。あまりにも身勝手な糾弾だ。
あの顔は今でも覚えている。最後まで戦い抜き奇跡的に生還した、英雄とも呼ばれたウィッチ。
そんな男が彼の言葉に、今にも泣き出しそうな顔で詫びたのだ。

その時自分は間違いを悟った。どんなに優れたウィッチといえど、それは一人の人間に過ぎない。
なのに、自分は己の無力を棚に上げ、たった一人の人間に、全ての責任を押し付けた。

だから、魔法力を持たない自分たちは、ウィッチたちに言えるようにならなければならない。
『ウィッチなどいなくとも、俺たちは人々を守れる』と――、だが、

技術官「その力を持ってしても尚、この世界を守るために、ウィッチたちと共に戦いたい、と。」

恐らくそれが今だ。この作戦の失敗は、自分たちの思い上がりに起因している。
ならばせめて、その尻拭いの手伝いすら出来なくて、何が共に戦うだ。

技術官「艦長!あのバカなウィッチのために艦隊から援護射撃を!」

「そうだな…!我らにも出来ることがある!主砲、斉射!!」

「斉射!!」

艦隊からの援護射撃はネウロイの陣形をわずかに乱した。槍少尉はその揺らぎを見逃さず一気に突撃をかける。
魔法力の消費など構っていられない、トリガーを握りっぱなしの全力加速。そして、彼はネウロイの陣形を突き抜けた。
そして一気に甲板上に刺さった刀のもとにタッチダウンする。

ネウロイ化の影響か、その妖刀は完全に大和と同化している。だが、ストライカーの力を借り、なんとかその刀を引き抜いた。
抜いた瞬間、魔法力が吸われていくのを感じる。

槍「(不味いな…ここで無駄遣いはしていられない…)」
彼は、軍服の袖を切り裂くと、それを柄に巻きつけた。あとは上空からの一撃でネウロイのコアを破壊すればいい。

槍「突入するのも相当難儀だったけど、この包囲から脱出するのもかなりきついな…」
なりふり構ってはいられない、上空の包囲はわずかに薄いことを見つけると、袖を巻きつけた刀を腰に差込み、覚悟を決め四肢に力を入れる。
だがそのとき、大和の後方からネウロイの包囲をぶち破ってくる影があった。

子機をまとめて撃墜しながらミーナはいう。
ミーナ「お待たせ、槍少尉。困ってるみたいだから助けにきたわよ?」

俺「中佐…!」

バルクホルン「私たちもいるぞ。」
そこにはストライクウィッチーズ全員の姿があった。

『今ならば、君がその槍を奮えば、それに続き、君を支えてくれる者が必ず現れる。
 だから、一番槍(ランツィーラー)よ。お前は、我らの前にそびえ立つ、ネウロイという困難の壁を穿つ楔になれ。
 人々の心にかかる暗雲を、真っ先に打ち払う一番槍になれ。
 お前の槍が、人に穿てぬ壁は無いと、それを証明すれば、それに続く人の力が、必ずこの困難を乗り越えるだろうさ。』

少将の言葉が胸に去来する。自分には、こんなにも支えてくれる人たちがいる。
彼女たちがいれば、自分に不可能はない。

槍「皆さん、俺に力を貸してください。自分にはもうこの囲みを抜けて上空まで行くだけの魔法力はありません。
  だから、俺をあの空に連れて行ってください。」

彼女はそれを待っていたかのようにすぐに応じる。
ミーナ「いいわ。あの時のように、私は貴方を信じます。
    皆さん!私が彼を上空まで連れて行きます!総員、私たちを援護してください!」

他「了解!!」

ペリーヌ「全く…人使いが荒いですわね…トネール!!」
まずは集まってきた子機たちをペリーヌの雷撃がなぎ払った。
そして上空への道を切り開くため、サーニャがフリーガーハマーを掃射する。

エイラ「いいゾォ。サーニャ!」
ルッキーニ「いっくよー!!」
リーネ「ここは私たちに任せてください!」
宮藤「槍さん!!」

そう言って無理やり薄くした包囲を更にこじ開けようと皆が次々に弾丸を放つ。

バルクホルン「シャーリー!!」
シャーリー「分かっているさ!」

二人は示し合わせていたかのように、バルクホルンが槍少尉を、シャーリーがミーナの手をつかんだ。
バルクホルン「ちょっと強引に行くぞ!ハルトマン!!」

ハルトマン「あいよー!3カウント、合わせて!3,2,1、シュトゥルム!!」
その声と共にハルトマンが上空へ風をまとって疾走した。それに巻き込まれた子機は尽く撃墜され、上空の包囲に一気に風穴が開く。

その瞬間、バルクホルンがその怪力を、シャーリーがその加速の魔法を使い二人を上空目掛けてぶん投げた。
ハルトマンがこじ開けた包囲の穴を二人が吹っ飛んでいく。
子機が二人めがけて攻撃を放とうとするが、それは後方からの援護で全てたたき落とされる。

そして包囲を抜けた先で、二人はなんとかバランスを取った。

槍「本当強引ですね…」
ぶん投げられたときはさすがに肝を冷やした。

ミーナ「ごめんなさいね。私たちもそんなに余裕はないのよ。
    さて、どこまで昇ればいいのかしら?ここからは私がエスコートするわよ。」
そう言って彼の手を取った。

槍「はい、お願いします。まだ足りません。もっと、もっと上に。」
その言葉に答え、ミーナは空の旅へと誘う妖精のように、彼の手を引いていく。
こんなふうに、彼の手を引いて、自由に空を飛べる日がきたらどんなに素晴らしいだろうか――。

だが、彼女たちは戦うために空を駆けることを選んだ。いつか、こんな日々を過ごせるように…。

至福の時間はすぐに終わった。槍少尉が彼女の手を離し、1000mほど下にいる巨大なコアを見据える。
そして腰に差した烈風丸を構え、柄に巻いた布を解き放った。彼は両手で刀を持ち、祈るように刀身を見る。

その瞬間刀身が光を放ち、その大きさを一気に数倍まで膨張させる。だが、それだけでは止まらない。
やや不恰好だったそのフォルムは先端から徐々に太くなるように形を変え、ちょうどランスのようなフォルムに整えられていく。
そして、その色は白銀から彼のシールドの色、淡く青みを帯びていく。しかし…

そのフォルムは完全には定まらず、やや不定形なまま揺蕩っていた。
槍少尉の顔色が変わる。

ミーナ「少尉…!?大丈夫なの!?」

槍「いえ…行けます…!大丈夫です!」
その顔は覚悟を決めていた。大切な何かを切り捨てるように、何かを搾り出すように、唇をかむ。

ミーナ「(まったく…、無理はしないようにって言ったのにね…)」
彼女は彼の手の上からその手を重ねた。

ミーナ「貴方を信じていないわけじゃないわ。貴方が私の力となってくれるように、私も貴方の力になりたいの。」
その言葉と共に彼女の魔法力も刀に注ぎ込まれる。

槍「(温かい…。ミーナさんの魔法力と一緒に、彼女の思いも流れてくるよう…)」
不定形だったそのフォルムは、その鋭さをまし、鮮やかに煌く空色の槍となる。
そして、少尉の左手と、ミーナの右手でその槍の柄が握られる。

互いに言葉をかわさずとも、その思いは通じていた。完全にシンクロしたかのように、
全く同じ態勢で、ネウロイに向かい垂直落下していく。

ストライカーはほとんど使わない、ほとんど重力加速度のみのスピード。

槍「(自分ひとりでは、多分駄目だった…。
   でも、俺達は、今力を合わせ、人々の心にかかる暗雲を、真っ先に打ち払う一番槍になる。
   願わくば、この槍が人々に希望と意志を齎さんことを…)」

そして残り200m、互いに顔を見合わせ、一つ笑みを交わす。
直後、互いに槍を握る手を、鏡写しのように後方に振りかぶった。

槍「行け!!」ミーナ「行きなさい!!」
 グングニル
「大 神 槍!!!」

その銘は神の槍。されど、それは人の意志の具現。

空色の槍が真紅のコアに向かって放たれた。

――天城司令室――
技術官「淡い青色の槍…。もしや…、一番槍か!?」
長らく消息が掴めなかった英雄が、今全力で戦っている。その事実が、彼の憑き物を落としたかのように心を軽くした。

技術官「いつか…共に戦い、貴方の力になれるよう、力を尽くします。だから…その時は…。」
『貴方に、謝らせてください…』
しかし、それが言葉になることはなかった。
その言葉をいつか言えるように、為すべきことを為そうと誓う。

彼と同じく、戦場ではすべての人々がその情景を見上げている。
真紅のシールドはまるで用を為さず、放たれた槍はそのままの勢いでコア本体に突き刺さる。

その瞬間轟音と閃光が走った。その衝撃で周囲のコアも同時に消し飛ぶ。
そして、辺りには雪のように白い破片が降り注いだ。

槍「はぁ…はぁ…少佐は…、坂本少佐は…!?」

彼女は戦闘中気を失ったままだった。生きていたとしても、このままでは海中に落下してしまう。

ミーナ「少尉!!見て!」

破片の降り注ぐ中、少佐の身をしっかりと受け止めるウィッチーズの姿があった。
見たところ、少佐に外傷はない。それを見て、槍少尉が涙を流す。

槍「良かった…、今度は、守れた…!!」
感極まり、そのままミーナに飛びかかるようにして、彼女の身を抱きしめた。彼女は目を白黒させている。
だが、愛惜しむように目を細めると、その背中をゆっくりと撫でていく。

ミーナ「そうよ…。貴方だからこそ出来たことなの…。誇りましょう、これからも沢山の人を守れるように。」
彼はもう、きっと一人でも生きていける…。一人でも決して間違えない。でも、いやだからこそ、私は彼の側にいたい。

彼は身を離し、涙をぬぐいながら彼女に言った。
槍「ミーナさん。俺はもう、何一つ、絶対に諦めたりしません。だから、これからも、ずっと俺の側にいてくれますか?」

彼の言葉に、心臓が一気に高鳴った。顔が熱くなり、嬉しくて涙が溢れそうになる。
ミーナ「わかった…ずっと側にいる…。だから貴方も、それを私に誓って?」
そう言って目を瞑り、わずかに顔を上げる。

緊張した少尉が僅かの間フリーズした。
ミーナ「もう…、女の子が待ってるのよ…?」

その言葉に、槍少尉がミーナの肩に両手を置くことで答えた。
そしてゆっくりと誓いを込めて口づけをする。その優しい感触に、ミーナの目からとうとう涙があふれる。

でも、それだけでは足りなかった。彼女は飛びつくように彼に抱きつくと、今度は彼女から乱暴に口付ける。
そして唇を離し、互いに抱擁しながら言葉を交わした。

ミーナ「ねぇ、もう一つお願いがあるの。」

槍「なんですか?」

ミーナ「ミーナ。」

槍「え…?」

ミーナ「ミーナってそう呼んで?」

槍「…ミーナ。」

ミーナ「うん…!」

槍「ミーナ、ずっと一緒にいる。貴女を、一生離さない…!」

ずっと誰かのために、その力を奮ってきたかつて英雄と呼ばれたウィッチは、
その時初めて、自分の思いを、自分の願いを真っ直ぐにぶつけた。
何かのためでなく、ただ自分の望み、それだけを理由にこの人を守りたいと思う。

そしてその宝物を、絶対に離さないと、強く、強く抱きしめる。


辺りには歓声。後に、『ヴェネツィアの英雄』と呼ばれることになる二人は、
下で待つ501メンバーが痺れを切らして声をかけるまで、その抱擁を解くことはなかった。

――fin――


最終更新:2013年01月28日 14:28