ーニャの英雄よ、その英雄を負傷してるにも関わらず休ませ無かったら軍のメンツも悪くなるでしょうしね」

坂本「そういう事か…ふふふ」

ミーナ「彼の初陣の姿からは想像出来なかったわ…こんな姿になるなんてね」

坂本「あいつの初陣は一緒の出撃だったか、ここに来た時は私にとってはひよっ子だったが
 何かを隠し持ってたのかもしれんな バルクホルンの履いていたあのストライカーも素晴らしい物だった
 なんて言ったっけか…たろう?いやろりーた?」

ミーナ「ロータリーストライカーの事?」

坂本「ああ、それだ!なんでも『ウィッチぷろてくとしすてむ』という奴で撃墜で重症のはずのバルクホルンを自立して海上で浮いていられるとは…」

ミーナ「本来なら沈むわよね…あれも俺さんが作った物なの?」

坂本「聞いた話によるとウルスラ中尉が作った産物だそうだ」

ミーナ「そう…ウルスラ中尉は今どうしてるかしら?」

坂本「輸送機内でレポートらしき物を書いていて、基地に到着したら寝てしまったな」

ミーナ「彼女にもかなりの負担だったでしょうからね、何かで元々魔法力を使っていたみたいでそこから飛行してトゥルーデと俺さんを
 シャーリーさんと一緒に助けてもらったんだもの…二人とも魔法力も限界だったでしょうに」

坂本「その二人のおかげでこうして501のウィッチは全員帰還出来た…感謝の為に休みを取らせてやろう」

ミーナ「そうね…ところで美緒?」

坂本「なんだ?」

ミーナ「休みを取らせるには必要な書類の処理がまだまだあるの、手伝ってくれる?」ドン

坂本「…も、もちろんだ!」

坂本少佐の目の前に出された書類に若干顔を引きつらせた坂本少佐だったが、先の自分の言葉に二言は許されないとばかりにミーナの顔は笑顔で
坂本少佐を見つめていた


      ◆


第501統合戦闘航空団 夜 医務室

シャーリー「…」バタン…

夜の医務室は暗い、当たり前といえば当たり前だが今は怪我人が二人も居るからこんなに早く電気を消したんだろう
二人分の寝息が聞こえる医務室の入り口から一番窓側のベットを私は目指す

シャーリー「…」カツカツカツ…

一番窓側の手前のベットにはバルクホルンが眠っていた
表情は見えないけど安らかに寝息を立てている、彼女のベットの近くの物を置くテーブルらしき物には最終作戦の出撃前に見た
一箇所だけらせん模様の入ったシルバーリングが月明かりを反射して光っている

シャーリー「…」カツカツカツ…ストン

バルクホルンを通り過ぎ、月明かりに照らされた俺のベットの横に来て簡易型の椅子に座る

シャーリー「ぷっ…」

こいつがロマーニャを救った英雄なんて思えないほど、何時もと変わらない冴えない顔がそこに在り
私は何故か可笑しく思えた
しばらくその顔を見て、そして右手で俺の頬を撫でる

シャーリー「…本当に帰って来てくれたな、心配したんだからな」

あんな無茶をするなんて思わなかったけど、ちゃんと帰って来てくれた
あの堅物の為に…

シャーリー「なあ俺…私の為でもこうやって帰ってきてくれたか?」

私の言葉に俺の反応は無く、ただ寝息が続く
ハルトマンの姉エーリカから俺があの堅物と結婚を望んでいるって知らされていてから
気がついたんだ、こいつは何時もバルクホルンを見てる事を
そしてあの指輪も…

私はこの冴えない顔の男に惚れている、会って数日でガレージの影に手を引かれて私が襲われるんじゃないかって勝手に思って舞い上がった日から

シャーリー「あのまま美味しく食べちゃっても良かったんだぞ?」

撫でていた頬にちょっとだけ人差し指を突き刺す
結果論だってのは分かってる…
私の好意はあまり褒められた物でも無いかもしれない、けど…あれからずっと俺の事気になってしまったんだ…右手に付いた後のせいで

シャーリー「右手は治ったけどさ…私の事キズモノにしてくれて責任とってくれるのかい?」

自分の言葉で自分の心が少しだけキリっと痛む
全く反応の無い俺の頬に悪戯をするのを止めて立ち上がる

シャーリー「俺がバルクホルンをとっても好きなのは知ってるよ、結婚したいってのもね…でもごめんな」

目尻が熱くなっている、多分涙が出てるかもしれない
私はそれに構わず俺の顔に両手を添えて近づいてゆく

シャーリー「ん…」

月明かりに照らされた狼はウサギに唇を奪われる

シャーリー「これでさ、これから普通に接する事が出来るかもしれないんだ…ごめんな」

 ゆっくりと唇を離した私は俺から距離を置くように下がる
 私の謝罪は俺に、バルクホルンに、多分ウルスラにも謝ってるかもしれない
 でもこれで納得出来るかもしれないんだ…『私が私である為』にも、もうこれ以上しちゃいけない

 頬を伝う涙を拭い、安らかに眠っている冴えない顔を少しだけ眺めて
 行き場の無い気持ちを抑えながらも医務室から二人を起こさないようにゆっくりと廊下に出て立ち止まり
 自分の唇に指を軽く当てる

シャーリー「…ちょっと苦かったな」

 私の初めては思ったシチュエーションとも味とも違って、思いのせいなのか俺の葉巻のせいなのか
 ほんのりと苦味を帯びていた


      ◆


第501統合戦闘航空団基地 夜 シャーリー&ルッキーニの部屋

シャーリー「お…?起きてたのかルッキーニ」

ルッキーニ「シャーリーおそ~い、一緒に寝よ~」

シャーリー「はいはい、まったく甘えん坊だなルッキーニは」

医務室から部屋に戻ると何時もなら既に寝ている時間にルッキーニは起きて私を待っていた

ルッキーニ「…どったのシャーリー?なんか元気無いよ?」

シャーリー「え?いや~、ちょっと疲れただけだって、早く寝ようぜ!」

一瞬ルッキーニの言葉にドキっとしたが、すぐ照明を消してルッキーニの待つベットに滑り込み仰向けになる

ルッキーニ「今日はね、ロマーニャが開放された記念日だからシャーリーと一緒に寝たかったの!」

シャーリー「そっかそっか、ルッキーニの故郷は守れたからな明日は休みだから一杯私の上で寝て良いぞ」

ルッキーニ「ん~…」

何時もなら私の胸を枕の代わりにして来るはずなのに、今日のルッキーニは私の隣から動かない

シャーリー「どうした?」

私の言葉に答えずに、ルッキーニは私の頭をその小さな胸に包み込む

シャーリー「むぉ…どうしたんだい、いきなり?」

不意を突かれ抱きしめられた私は特に抵抗せず顔だけ上に上げて聞いてみる

ルッキーニ「シャーリー元気無いと私も悲しいもん、だから今日は私がマンマみたく抱きしめてあげる」

シャーリー「いつもは私がママかよw 私はまだそんな年じゃ…」

ルッキーニ「例え話だよ、辛い時は~こうやって抱きしめられるのが一番なの シャーリー部屋に帰ってからずっと悲しそうな顔してたから…」ナデナデ

シャーリー「だからそんなこ、と…そん…な?」ヒック…

ルッキーニに頭を撫でられながら私は反抗の声を上げようとしたが
目尻が急に熱くなって、また涙が溢れ、言葉が続かなくなる

ルッキーニ「シャーリー泣いてるの?」

シャーリー「泣いで…何か…あれ…おかしい…うぐ…ひっく」

ルッキーニ「…いいよ、今日は私がマンマだもん 一杯甘えて良いんだよシャーリー」ナデナデ

シャーリー「うぅ…ごめん゛…ルッキーニ…今日は…せっかくの日…なのに…」

私は上げていた顔をルッキーニの胸に戻し、彼女に撫でられながら静かに泣いた
ルッキーニは私がどんな思いをしてるか理解していないだろう、私もルッキーニが今どんな表情かも分からない
ただ、ルッキーニの優しい言葉と、撫でる手と、包容力のある胸の中は
今の私にとって、自分の胸よりもとても大きく、そして全てを優しく包んでくれる気がした

ありがとう俺、狼をウサギは一緒になる事は出来なかったけどお前と過ごす時間は楽しかったし良い夢も見ることが出来たよ
ありがとうルッキーニ、私の行き場所の無かった感情を何も聞かずに受け止めてくれて
これで私は本当にこれからも『私らしく』なれそうな気がするよ
私はルッキーニの優しく大きく思える胸の中でゆっくりと眠りに落ちていった


      ◆


第501統合戦闘航空団基地 夜 海岸

宮藤「…」

リーネ「芳佳ちゃんここに居たんだ」

宮藤「あ、リーネちゃん…」

夜の静かな波の音と風が吹く中、宮藤は片手で取れるだけの少量の白い花を持ってヴェネツィアの方向であろう場所を向いて立っている

リーネ「部屋に居なかったからちょっと心配しちゃった、どうしたの?」

宮藤「うん…俺さんから出てきたあの子の事を考えてたの」

少しだけ俯いて宮藤はリーネに伝える

リーネ「あのネウロイ…たしかブリタニアの時と同じ姿をした…」

宮藤「うん、多分同じ子だと思う 俺さんと一緒に生きててくれたんだね…結局消えちゃったけど」

二人の間に少しだけ優しい風と波の音だけが流れる

宮藤「あの子のコアに触れた時、私に言ってくれたんだ 何も出来なくてごめんって」

リーネ「あの時は…」

リーネはブリタニアでの出来事を思い出す、少女の形をした人型ネウロイとの接触を試みる宮藤を最初は彼女も止めていた

宮藤「でもね!生きててくれてありがとうって最後に言ってくれたんだ
 その言葉の本当の意味は分からないけどさ、でも皆を守る事が私に出来る事、生きているって事だと思うから…」

そう言って宮藤は手に持った白い花々を膝を曲げ、屈んで海へゆっくり落とす

宮藤「私これからも生きるよ…リーネちゃんや501の皆、扶桑の人たちや色んな人を守りたいから」

宮藤は再び立ち上がりリーネに向き直る

リーネ「芳佳ちゃんらしいね、あの子もそう望んでいると良いね」

宮藤「えへへ…うん、そうだね!」

少しだけ宮藤が笑うとヴェネツィア方向からの風が二人に一瞬だけなびく

宮藤「わ…っと、ちょっと寒いね」

リーネ「今日は芳佳ちゃんもすごく頑張って疲れてるんだし部屋で休もう?」

宮藤「うん!」

リーネの言葉に宮藤は元気よく肯定して、二人は月明かりの海を背に歩き出した


      ◆


第501統合戦闘航空団基地 夜 ウルスラの部屋

ウルスラ「う…」ムクリ

エーリカ「あ、起きた?」

ウルスラ「ここは…?」

寝ぼけて朦朧としているのだろう、目を少しだけ細くしてメガネを掛けてないウルスラは部屋を見回す

エーリカ「501の基地だね、ウルスラは俺を助けた後ずっと輸送機の中で俺に付き添っているうちに寝ちゃったんだってさ」

ウルスラ「…そうですか、俺さんは」

エーリカは手近な所にあった椅子に座り、ウルスラはベットの横にあるテーブルらしき机からメガネを取って掛ける

エーリカ「俺は今医務室で寝てるよ、魔法力も体力も一杯使った上に傷だらけだったらしいけど
 外傷はミヤフジが治してくれたから後はしばらく寝てれば大丈夫じゃないかな」

ウルスラ「…よかった」

不安そうに自室のドアを見つめていたウルスラは安堵の吐息を吐き、視線を自分に掛かった白いシーツに落とす

エーリカ「ありがとうね、ウルスラ」

ウルスラ「はい?」

エーリカ「トゥルーデと俺を助けてくれてさ」

ウルスラ「いえ…イエーガー大尉も一緒でなかったら、私一人ではバルクホルン大尉も持ち上げられませんでしたし…」

エーリカ「同じだよ、シャーリー一人じゃ多分持ち上げられなかっただろうしさ」

ウルスラ「…」

エーリカは椅子をズリズリと引きずってウルスラの眠っていたベットの近くに移動する

エーリカ「これで3度目だね~」

ウルスラ「何がですか?」

エーリカ「俺を助けたの、最初はパ・ド・カレーの時でしょ、次はガリアで、今日も助けてもらって
 本当にウルスラは俺の幸運の女神なのかもね」

エーリカのその言葉にウルスラは少しだけ反応するが彼女の視線はベットに落としたままだ

ウルスラ「そうかもしれませんね…でも、とっても贅沢な悩みなのかもしれませんが…」

少しだけ俯いたままウルスラは続ける

ウルスラ「私も…見て欲しいな…」

エーリカ「…ごめんね、ウルスラ」

ウルスラ「どうして姉さまが謝るのですか?」

エーリカ「色々とね、結局私はまともに応援してあげられなかったし…落ち込むトゥルーデ、見てられなくて応援しちゃったし…
 一杯一杯俺をウルスラに向けようと頑張ってみたけど、俺さっぱり見てくれないしさ、ちょっとだけムっと来たから背中引っかいちゃったりしたけど
 全然振り向いてくれなかったしさ…それに…それに…」

言葉を続けようとするエーリカの頭にウルスラの右手が添えられる

エーリカ「あ…」

そのままウルスラの手は少しだけ目が赤くなってるエーリカの頭を優しく撫でる

エーリカ「…初めてだね、こうされるの」

ウルスラ「俺さんに良くされてましたから、癖がうつっちゃったのかもしれませんね」ナデナデ

エーリカはされるがままに抵抗せず、ゆっくりと気持ちが落ち着いていく

ウルスラ「姉さまも俺さんと一緒に居るのが楽しかったんですよね…でも私やバルクホルン大尉に挟まれて辛い思いさせちゃいましたね…」

エーリカ「…」

ウルスラ「私は大丈夫ですよ、自分の事は自分で何とかしますから」

エーリカ「ウルスラ…変わったね」

ウルスラ「そうですね…スオムス義勇独立飛行中隊の人たちや俺さんのお陰ですね」

エーリカ「そうなの?」

ウルスラ「はい、私は昔からスーパーエースだった姉さまに嫉妬に似たような感情を抱いてました…どう姉さまと接して良いかも分からなくなって…」

ウルスラ「でも私の兵器が認められ始めたり、俺さんを守る為に2番機で撃墜数を伸ばしてるうちにその感情は無くなって行きました」

エーリカ「撃墜数が追いついてきたから?」

ウルスラ「当時はそうだったかも知れません、けど今考えてみれば俺さんの魔法力が落ちてきて…嫉妬や撃墜数よりも俺さんを守れれば良いと…
 周りの目よりもずっと大切な物があったから昔の感情は無くなったんだと思います」

エーリカ「そっかー…」

エーリカはウルスラの話を聞いて少しだけ悲しそうな顔をする
その表情を見てウルスラは再びエーリカの頭を撫で始める

ウルスラ「先ほども言いましたが私は大丈夫ですよ、姉さまが俺さんと私の仲を繕う必要はありません…私が自分で決めないといけない事ですから」

エーリカ「うん…」ポス…

撫でられていたエーリカはウルスラの眠っていたベットに頭を突っ伏し、しばらくそのまま二人は夜を過ごしていた


      ◆


第501統合戦闘航空団 数日後 夜 医務室

俺「…んぁ…またかよ…」

医務室で目が覚めた俺はまず始めに鼻に付く嗅ぎ慣れてしまったアルコール臭で自分が医務室か病院に居るという事を自覚した

俺「ん~…俺って病院に変な縁でもあるのかねぇ…いや自業自得だけど、えーっと…」

医務室のベットから体を起こし、自分がどうして寝ているのか、そしてここは何処なのかを考えようとする

バルクホルン「んん~…」

俺「トゥルーデ?」

俺のベットの横で少し前に見た光景と同じく腕を枕にしてベットに突っ伏して寝ているバルクホルンが目に映る

俺「トゥルーデにこの天井、ここは501の基地か…そうか…お前のお陰か…」

自分に何が起きたのか思い出す
ガリアで同化した少女の形をした人型ネウロイの力を借りて
ウォーロックツヴァイβと呼ばれる戦闘機型ネウロイを迎撃した事
最後の最後までウルスラや他の皆に迷惑をかけたことを
そして確証は無かったが薄々と同化していたネウロイが俺の中に居ない事に気がつく

俺「そうか…お前はもう居ないのか…伝えられたか…相棒? ありがとうな、お前のお陰で俺たちは無事だったよ」

既に俺の体から居なくなったネウロイに語りかけるように月の光が差し込む窓を見上げながら呟き
視線を落とし、眠っているバルクホルンの頭に手を掛けて優しく撫でる

バルクホルン「ん~…俺ぇ~…」

俺「ぷっ、くくく…最初に会った頃には考えられない光景だな、トゥルーデ」

情けなく自分の名前を呼んでくれるバルクホルンを眺め、悪いと思いながら少しだけ笑いながら俺はバルクホルンとの
初めて会った事を思い出していた


      ◆


 俺の故郷はカールスラントでは無い、この世界で言えば扶桑だが俺が知っている呼称は日本だった
 そのまま過ごしていれば既に2010年くらいになっていただろうか
 特に取り得も無く、頭が良いわけでもなく、オタクっぽい趣味だがいわゆる『にわか』で中途半端な知識しか無い
 そんな俺はごく平凡で、当時は幸せかどうかも分からない日常が、突如として終わりを告げた

 眠っていたはずの俺は寒さに目が覚めて体を起こしてみると、外で眠っていた
 あたりを見回すとよく景色が見える山ともいえないほどだがそこそこ高い位置に居たらしく、見下ろせる町並みは
 当時の俺の知っていた町ではなく、俺はその時に自分の故郷を失った

 そうだな…今から6年も昔になるんだっけか


最終更新:2013年01月28日 14:48