主人公っぽい俺 一覧へ戻る



前回のあらすじ―――――――――…

別れの前夜、宮藤と俺は夜空の散歩をすることに。

宮藤「俺くんは、この基地から離れたら、501の仲間じゃ無くなったら、もう私を助けてくれないの?」

そして、別れが迫っている男がもう一人いた。

ミーナ「その想いは、あなたの好きな人へのそれよりも大きいものなの?」

整備俺「さあ、どうなんでしょうね。それを今から確かめに行ってきますよ」


以下、本編―――――――――…



俺「うおお……、夜に飛ぶの初めてだけど結構怖いんだな……」

宮藤「えへへ、私も初めて飛んだときは怖くて手を繋いでもらったんだー」

俺「手を?」

宮藤「うん。サーニャちゃんとエイラさんと一緒に初めて夜間飛行したときに。よかったら、繋ぐ?」

笑顔で差し出された手を、少し照れながら握る。今夜は星が綺麗だ。
夜の空、そこには俺と宮藤のストライカーのエンジン音だけが響いていた。
手を繋いで飛ぶのは少し大変で、互いの翼が触れてしまいそうになる。
今度俺たちが会うのは半年後か、数年後か。
ミーナ隊長からは、『あがり』になるまで会えない場合も考えておくようにと言われた。もしそうなったら、俺が宮藤と飛べるのもこれが最後になるんだ。
思わず宮藤の手を強く握る。

俺「痛くない?」

宮藤「ううん、大丈夫だよ」


226 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/11/18(金) 20:09:05.51 ID:c4yzNedt0
最後の2行だけだと何か卑猥
しえん

227 自分:主人公っぽい俺[sage] 投稿日:2011/11/18(金) 20:10:02.72 ID:QcHoPRoU0 [2/13]
 >>226
宮藤「なにが卑猥なんですかあー?どういうことですかー?(純粋)」


俺より小さくて、だけどすごく温かい手。
宮藤は飛べなくなっても、この手でたくさんの人の役に立てる。
でも、俺は飛べなくなったらどうなるんだ?
ウィッチと言うには少なすぎる魔力、他人の魔力が無ければ役に立たない固有魔法。
俺が誰かを助けられるのは、今しか無い。
俺が『主人公』でいられるのは、今しか無いんだ。
だから、俺は宮藤と離れてでも戦場に行く。俺が手に入れた力で、救える人がいるのなら。そこに守れる物があるのなら。
物語の英雄のように、強大な魔物に立ち向かう勇者のように、剣を握って闘おう。
隣の宮藤に顔を向ける。頬がいつもより赤くなってる。
じっと見つめる俺の視線に気付いて、恥ずかしいよと笑った。

俺「なあ、宮藤。約束をしないか?」

宮藤「約束?」

俺「うん、俺と宮藤との約束。まず一つは、手紙を毎月書く事」

宮藤「わあ!うん、いいよ!私、絶対お手紙書くよ!」

俺「よかった。あと、これは俺の約束だけど、もし電話が使える時は俺が宮藤に電話をする」

宮藤「え?電話なら私からでも出来るよ?」

あ、そうか。宮藤やみんなは知らないんだっけ。俺がいろんな基地を行ったり来たりすることになることを。
同じ場所に止まることが少ないらしいから、電話の連絡は俺からじゃないと取りづらくなると思う。だから、電話は俺からかけることにした。

俺「あー、ほら。こことは違って自由に電話を使えるかわかんないからさ」

宮藤「え!?そうなの!?」


228 自分:主人公っぽい俺 [sage] 投稿日:2011/11/18(金) 20:15:30.10 ID:QcHoPRoU0 [3/13]


俺「俺もよくわかんないけどさ、もしかしたらそうかもしれないだろ?」

宮藤「そっかー。うん、わかった!楽しみにしてるよ」

なんで少し誤魔化したんだろう。なんとなく、宮藤に心配をかけたくなかったんだと思う。

俺「それと、最後に一番大事な約束があるんだ」

宮藤「え?ど、どんな?」

一番大事、という言葉に宮藤が身構えた。
これは、約束というより誓いだ。俺から宮藤への何よりも硬く強い宣言だ。

俺「もし宮藤が危なくなったら、必ず俺は助けに行くよ。地球の裏側からだろうと、激戦区のど真ん中へだろうと、全速力で飛んでいくよ。この世の何をどれだけ敵にまわしても、そいつら全員をぶっとばして必ず宮藤を守る!それが俺の自分自身への約束だ」

宮藤は始めは驚いたような顔をして、でも少しして目を細めながら小さく、嬉しい、と言った。
その表情が少し大人っぽくて、俺の心臓の音が大きくなる。

宮藤「じゃあ、私も俺君が落ちそうになったら助けてあげるね」

俺「えへへ、ありがとな。これでいつでも落ちれるから安心して戦えるなー」

宮藤と顔を見合う。なんだか胸がくすぐったくなって、思わず笑った。宮藤も一緒に笑っていた。
よかった。何でそう思ったのかは分からないけど、きっと全てがよかったんだ。


230 自分:主人公っぽい俺 支援ありがとうございます![sage] 投稿日:2011/11/18(金) 20:21:04.06 ID:QcHoPRoU0 [4/13]


あの日空を飛んだこと。

この基地で生活することになったこと。

他にも、坂本少佐にしごかれたり、ミーナ隊長にいろいろ教えてもらったり、エイラさんやシャーリーさんにからかわれたり。

ハルトマンさんやバルクホルンさんと訓練したり、リーネやサーニャと話をしたり、ペリーヌさんと口喧嘩をしたり、ルッキーニと木登りをしたことも。

整備俺さんと出会えたこともそうだ。


そして、宮藤に出会って、宮藤を好きになったことも。


それら全部がキラキラとした思い出だ。
全部の出来事が俺の心の中に詰まってる。
これがあれば、きっとどんなに辛い場所でも俺は戦える。

今この宮藤の温もりを忘れないように、ぎゅっと指を組む。
宮藤は少し恥ずかしそうな顔をしたけど、これでおあいこだ。
俺達の正面には、満月が雲の隙間から顔を覗かせていた。


231 自分:主人公っぽい俺 整備俺side[sage] 投稿日:2011/11/18(金) 20:27:57.00 ID:QcHoPRoU0 [5/13]


俺達は二人が初めて触れ合った滑走路の端に立っていた。
満月は海を明るく照らしている。これならアイツと宮藤さんが遭難することはないだろう。
海を眺める俺の後ろにはシャーリーさん。
俺がこの基地を離れることを彼女が知ったのは、つい数日前だ。
俺はまだ、彼女にその理由を話していなかった。

シャーリー「なあ、話があるんだろ?誰かさんのせいで明日は忙しいし、早くしてほしいんだけどなー」

声の調子から、かなり頭にきているのが分かる。
俺は引きつった笑いを浮かべながら振り向く。
俺の想像通り、彼女は不機嫌な様子だった。

整備俺「いやあ、もっと早くにするべきだってのは解ってたんだけどね?俺自身もギリギリまで悩んでたというか」

シャーリー「ふーん?」

整備俺「いやあそのね、ホントにごめんなさいね……」

シャーリー「もういいよ。それで、お前は今から何を話すんだ?私を捨てる理由か?」

捨てる、という言葉に心臓が縮んだ。
胸が痛くてたまらない。
だけど、俺は答えなくてはいけない。

整備俺「うん、そうだ。俺は、君を……」

言いよどみ、言葉が続かない。
捨てるなんて言葉、言いたいわけがないだろう。
そんな想いからか、俺は嘘をつきはじめた。


232 自分:主人公っぽい俺[sage] 投稿日:2011/11/18(金) 20:33:29.73 ID:QcHoPRoU0 [6/13]


ヘタレな自分はいつかシャーリーを襲うかも知れない。
その時君がそれを受け入れてもウィッチの能力を失ったことをいつかきっと後悔する。
だから、俺は君の側には居られない。

シャーリー「やっぱりヘタレだな、お前」

整備俺「だから言ったじゃない、俺はヘタレだって」

シャーリー「そうじゃないさ」

シャーリーさんは俺に背を向けた。

シャーリー「私に本当の事を言うのが、そんなに怖いのか?」

その一言で、思わず息がとまる。

シャーリー「今お前が話したの、嘘だろ。少しは本音が入ってるかもしれないけど、それが理由のすべてじゃないんだろ?」

シャーリーさんは続けた。

シャーリー「私はこの基地で誰よりもお前を長く見てきたつもりだ。お前の気持ちだって分かるくらいにな」

シャーリー「いいか、もしかしたらお前は気づいて無いのかも知れないけど、お前は機械をいじってる時が一番いい顔なんだ」

シャーリー「それはさ、私といるときよりもずっといい顔なんだ。ムカつくけど、その時のお前の顔が私は好きなんだ」

シャーリー「賭けてもいいさ。お前の本音は、イカロスの研究がしたい、だ」

俺は息を飲んだ。俺の思いは彼女に筒抜けだった。本当に、女性という生き物は鋭い。恐ろしさすら感じてくる。

シャーリーさんが振り向く。
彼女の表情は逆光でよく見えない。


234 自分:主人公っぽい俺[sage] 投稿日:2011/11/18(金) 20:39:09.49 ID:QcHoPRoU0 [7/13]


シャーリー「だからさ、行ってこいよ!私は、お前をずっと待ってるから!」

整備俺「へ?」

偽った事について罵倒なりをされると思って身構えていた俺は思わず力の抜けた声を出した。
彼女の声から、怒りの色は消えていた。

シャーリー「お前をずっと待ってるって言ったんだよ。あ、たまには手紙とかくれよ?あんまりほっとかれたらお前のこと忘れちゃうぞ?」

整備俺「えっと、俺が何も言わなかった事とか本音を言わなかった事とか、怒ってないの?」

シャーリー「はは、バーカ。お前には散々泣かされてきたからな、もう慣れたよ」

整備俺「いや待ってよ、泣かせたなんてそんな!わざとじゃないよ!?誤解とかもあったよね!?」

俺の訴えに聞く耳を持たずにシャーリーさんはふわあ、とあくびをしながら大きく伸びをした。

シャーリー「さーて、私はもう寝るよ。おやすみー」

整備俺「もう寝る、って……。……ん?」

シャーリーさんが格納庫の方へ振り返る。
その弾みに雫が月明かりを浴びてきらめいた。

整備俺「待って、シャーリー」

立ち去ろうとするシャーリーさんの腕を掴んで、その勢いのまま後ろから抱き締めた。
ビクッと肩を震わせてこちらを見た彼女の青い瞳には、涙が溜まっていた。
驚いた表情で俺の顔を見ている。
ああ、俺はなんて優しい人を愛してしまったんだ。
泣いた彼女をこのまま帰す?そんなの男のする事じゃないよな。
俺はズボンのポケットに手を突っ込み、スイッチを押した。


235 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/11/18(金) 20:42:16.99 ID:8ntRcZBs0 [31/33]
(たらいの落ちる音)

236 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2011/11/18(金) 20:46:19.40 ID:f2WOwb7f0 [9/9]
<アンマリデアリマスー

237 自分:主人公っぽい俺  ヘルマちゃん!?[sage] 投稿日:2011/11/18(金) 20:47:27.20 ID:QcHoPRoU0 [8/13]


ひゅるるるっと高い音が夜の静寂を切り裂きながら飛んでいく。
音がやみ、一拍置いて、ボンッと夜空に真っ赤な光の花が咲いた。

シャーリー「すっげー……。きれーだな……」

シャーリーさんは泣くのを忘れたように、口を半開きにしたまま、舞い落ちる火の粉を見つめている。

整備俺「出発前に非常用照明弾の遠隔操作の実動試験をしなきゃいけないのを思い出してね。そのついでに自己流で色々といじってみたわけなんだ。もっと色々あるけど、見たい?」

シャーリー「ああ!どんなのがあるんだ?あっ、やっぱり言わないでくれ、楽しみが減っちゃうからな!」

目を輝かせる、というのはこういう表情なんだな。涙で潤んでいた事もあり、彼女の目は赤い光をキラキラと反射させていた。

整備俺「了解ですよ。それじゃあポチッと!」

夜空を華やかに彩るのは色とりどりの無数の花火。
今夜の主役を張っていたお月様には、悪いがご退場願おうか。君じゃ少々役不足だ。
陽気で愉快で素敵な彼女にはこれくらい派手じゃなきゃ釣り合わないよ。

シャーリー「うっひゃー!あははは!すげーな、まるでブーケみたいだ!」

抱きしめられてるのを忘れているかのように、空を見上げながら歓声をあげるシャーリーさん。よかった、いつもの陽気な彼女だ。

整備俺「君に泣き顔なんて似合わない。どうか、いつでもどんな時でも笑っててほしい。君の笑顔はみんなの心を明るくする魔法なんだ」

俺のお願いに、シャーリーさんは声のトーンを落として答えた。

シャーリー「……お前がずっとそばにいてくれたら、それだけで私は笑っていられるさ」

ずっと憧れていた女性にこんな事を言われて断れる男はいるのだろうか?もしいるのなら、今すぐ俺にその秘訣を伝授してもらいたい。


238 自分:主人公っぽい俺[sage] 投稿日:2011/11/18(金) 20:53:01.25 ID:QcHoPRoU0 [9/13]


愛しくて、もっと彼女を感じたくて、彼女の栗色の髪に顔を埋める。汗とせっけんの混じる匂いがする。
このまま彼女を抱いて眠りにつけたら、どんなに幸せだろうか。
でも、やっぱりそれは駄目だ。
彼女をとるか、機械をとるか。迷うということは、俺の中ではそれらは等価値ということだ。つまりはどちらを選んでも後悔をすることになるだろう。
彼女をとった時、機械に未練を残す俺が彼女を幸せに出来るのか?だから俺は、機械を選ぶ。彼女を愛するからこそ彼女を捨てる。
これでもし新しい男が出来ても、俺は何も言う資格が無い。その時はどこかの戦地でスパナ片手に瓦礫に埋もれて死ぬとしようかな。

整備俺「ごめん、としか言えないよ。勝手なのは分かっている。だけれど、どうか、どうかいつも笑っていてほしい」

シャーリー「でも、辛いときには、笑えないよ」

整備俺「大丈夫だよ。そんな時は、俺が駆けつけて君の笑顔を取り戻すさ」

そんなの出来る訳が無いのに。

シャーリー「本当か?信じていいんだな?」

整備俺「信じてくれるかい?」

守れる根拠なんか無いのに。

シャーリー「そこは黙って俺を信じろー、とか言うところじゃないのか?」

整備俺「ははは、そうか。じゃあもう一回初めからやり直さなくちゃ」

ああ、俺はこんなにも未練まみれだ。

シャーリー「ぷっ、あはははは!なんだよそれ、はははは!」

腕の中の彼女がこんなにも愛おしくてたまらないのに。


239 自分:主人公っぽい俺[sage] 投稿日:2011/11/18(金) 20:57:01.13 ID:QcHoPRoU0 [10/13]


シャーリー「……なあ」

整備俺「うん?」

シャーリー「お前、もしかして泣いてるのか?」

知らない間に俺の目から滑り落ちた涙は、頬を伝って俺を見上げる彼女の額に落ちた。
俺はシャーリーを抱きしめたままその場に座り込み、泣き続けた。
最後の照明弾が空に咲き、花びらがはらはらと燃え落ちていく。
そして辺りは再び元の静けさを取り戻す。
俺の嗚咽だけが夜空に吸い込まれ、俺は彼女の全てを心に刻み付けるように強く強く抱き締める。
そんな女々しい俺にシャーリーは何も言わず、俺が泣き止むまで腕の中にいてくれた。





241 自分:主人公っぽい俺[sage] 投稿日:2011/11/18(金) 21:01:03.06 ID:QcHoPRoU0 [11/13]



シャーリー「じゃあな、整備俺。愛してる」


整備俺「うん、またねシャーリー。俺も愛してるよ」


俺「宮藤。俺、大事なことを言ってなかった!」


宮藤「大事なこと?」



       最終話

――いつか、雨に濡れる貴女に傘を――



最終更新:2013年01月28日 15:48