Episode9 『隠者と運命』
パチパチパチ・・・
戦いの勝利を喜び合う仲間達にふと冷酷さをおびた拍手が聞こえる。
謎の女「お見事です。」
全員が声の聞こえるほうへ目を向ける。
そこには2つの影があった。
ミーナ「誰!?」
サーニャ「魔導針が・・・反応しなかった・・・!?」
その2人は軍服ではなく普通の私服・・・というには少し派手目の、この世界では見ないような服を着ていた。
2人はどうやらウィッチのようだ・・・
俺「もう1人は・・・男・・・?」
謎の男「せや。男のウィッチがお前さん1人かと思っとったら大間違いやで。」
もう1人の謎の男はそう答える。
ミーナ「あなた達は誰ですか!?所属と階級、名前を言いなさい!!」
謎の男「所属も階級もあらへん。オレらは軍人やあらへんからのぉ。」
ミーナ「なんですって?でもストライカーを・・・」
2人の履いているストライカーを見るとネウロイ特有の多角形の模様が入っている。
ゲルト「その模様は・・・ネウロイの・・・!!」
芳佳「私と・・・同じ・・・?」
その2人の両目はネウロイのコアのように朱に染まっている。
謎の女「申し遅れました。私の名は『イヴ』。そしてこちらが『アダム』です。」
イヴ「『グレゴリ』・・・と私たちを呼ぶものもいます。」
アダム「よろしゅーな、お嬢さんがた。」ニヤ
ミーナ「あなた達は何者なの!?何が目的!?」
アダム「そう怖い顔せんといてーな。せっかくの美人が台無しや。」
ミーナ「ふざけないで!質問に答えなさい!」
アダム「なんや、やりにくいやっちゃ・・・」
イヴ「今日までの皆さんのご活躍、陰ながら見せていただきました。」
イヴ「聞けば人々を守るための善なる戦いだとか・・・まあそれはどのウィッチも同じでしょうが・・・」
イヴ「ですが、これ以上戦うことは不要です。私たちは今回その戦いをやめていただくために参りました。」
ゲルト「なんだと!?」
アダム「理由は簡単なこっちゃ。」
アダム「このアルカナが与えられたネウロイ12体を倒せば、この世界からネウロイは完全に消え失せる・・・って話やったらどうする?」
ペリーヌ「なんですって!?」
アダム「そないなことになれば、次はどうなるか・・・わかるよなぁ?」
サーニャ「世界・・・大戦・・・?」
イヴ「そう。人と人とが争うなど最も愚かしいこと・・・まして軍人であるあなた方が戦地へ赴かざるを得ないのは必然。」
イヴ「あなた方はそれでもいいのですか?今、あなたの隣にいる方が敵となるかもしれないのですよ?」
エーリカ「その話が本当だとしても、だからってネウロイを放っておくのはできないよ!」
アダム「ネウロイなんか、はなから放っておけばよかったんや。」
イヴ「人は生きている以上、災いが降りかかることなど何度もある。その災いがネウロイでなくとも、人が人を襲う。」
イヴ「誰がどんな災いに見舞われるかなど、どの道分かりはしないのです。」
イヴ「あなた方は気づくべきです。この先にどんな未来が待っているのかを・・・」
アダム「ま、せいぜい今はあがきや。オレらは忠告だけはしといたからなぁ。」
そう言い残し、2人は飛び去って行った。
俺「待て!」
ミーナ「俺さん!」
ミーナ「今追っても消耗した私たちでは追いつけないわ・・・今は、堪えて・・・」
俺「・・・了解っス・・・・」
この日はとりあえず帰還することにした。
帰投後・・・
---ブリーフィングルーム---
ミーナ「先ほどの2人組・・・アルカナネウロイについて何か知ってるわね・・・」
エイラ「世界からネウロイが完全に消える・・・とか言ってたナ・・・」
ルッキーニ「でもそれっていいことなんじゃないの?」
ミーナ「ええ、ネウロイが消えれば私たちの世界は確かに取り戻せるわ・・・」
ミーナ「でも・・・」
坂本「上の人間はまた争いを起こすだろうな。今度は人間同士で・・・」
俺「だからって・・・倒さなきゃ多くの人々がまた命を落とすっス!放っておくなんてできないっス!」
サーニャ「私も・・・そう思います・・・!」
ミーナ「そうね・・・それに彼女達が言ったことも真実だとは限らないし。」
ミーナ「ただ、彼女らが言うにはアルカナネウロイはどうやら全部で12体みたいね。」
エイラ「12体だから・・・この『刑死者』のカードまでダナ。」ピラッ
ペリーヌ「それだと・・・あと4体ですわね。」
坂本「だいぶ先が明るくなったな。」
ミーナ「ええ。私たちは引き続きネウロイの討伐にあたります!みなさんいいですね?」
全員「了解!」
ひとまず話にまとまりがついた。
ウィチーズはネウロイに立ち向かう決意を新たにした。
残りのアルカナネウロイ―――4体―――
---俺の部屋---
俺「今日も・・・か・・・」
机の上にはいつもどおりカードが置かれていた。
俺「戦車と剛毅・・・」
机に置かれた2枚のカードを手に取る。
そして2枚のカードが手元からはなれ1つのカードとなって再び降りる。
俺「これは・・・」
カードには以前エイラが見せてくれた塔の絵が描かれており、アルカナ名にも確かに【TOWER】と書かれていた。
頭の中に声が響く・・・
――私は・・・ヨシツネ――――
――――――――あなたに私の力を貸しましょう――――
―この力―――あなたならきっと使いこなせるはず・・・――――
声はここで消える。
その後机に目をやると、何かが置かれていた。
それはガントレット、いわば手甲だった。
俺「なるほど・・・これでベルゼブブの力が使えるっスね。」
俺「ありがとうっス・・・ヨシツネ・・・」
そう手甲に語りかける。
数日後・・・
---基地内食堂---
8月18日
この日は芳佳、サーニャ、坂本の誕生日が行われることになっている。
3人にばれないよう各自が秘密裏に事を運ぶ。
この日はエーリカとゲルトが主役を連れて外へ出たので当分の間は戻ってこない。
俺「ケーキねぇ・・・」
俺は先日エイラに頼まれたケーキ作りを担当していた。
俺「誕生日のためのケーキなんて作ったことないしなぁ・・・」
エイラ「どうしタ?困ってるのカ?」
そこへエイラが現われる。
俺「エイラさん・・・はいっス。誕生日ケーキって何か特別な飾りとかいるんスかね?」
俺「ケーキなんて自分が食べる分しか作ったこと無かったんで、どうすればいいのか・・・」
エイラ「う~ん・・・別に特別すごくする必要はないと思うけどナ。」
エイラ「お前が作りたいように作ればいいんじゃないカ?少なくともサーニャが喜んでくれるように作れば、私は文句は無いゾ。」
俺「俺のやりたいように・・・あ、いいこと考えた!」
俺「エイラさん!ちょっと手伝ってほしいっス!」
エイラ「?」
数時間後・・・
外出組が帰宅し、いよいよパーティーが始まった。
ミーナ「3人とも・・・」
主役以外の面々「誕生日おめでとー!!」パンパン
食堂へやってきた主役達へむけられた祝福のクラッカーが鳴り響く。
俺「おめでとうっス!」
ゲルト「おめでとう。」
エーリカ「おめでとー!」
リーネ「おめでとうございます!」
ペリーヌ「おめでとうございますわ。」
ルッキーニ「おめでと!芳佳!サーニャ!少佐!」
エイラ「おめでとナ!」
ミーナ「おめでとう!」
芳佳「み・・・みなさん・・・」
サーニャ「これ・・・私たちのために・・・」
坂本「私はもう少し先なんだがなぁ。」
ミーナ「美緒の誕生日の週はネウロイが来るかもしれないから、今回は前祝よ!」
エイラ「それで、私たちからプレゼントがあるゾ!」
エイラがそういうと、準備していた面々がそれぞれ3人にプレゼントを渡す。
芳佳「みんな・・・ありがとう!」
サーニャ「うれしい・・・」
坂本「私まで・・・すまないな。」
ミーナ「美緒、そういう時は素直に・・・」
坂本「ああ、そうだな。みんなありがとう!」
俺「それじゃあ、俺からのプレゼントはこれっス!」
そう言って俺が持ってきたのはかなり大きなケーキだ。
芳佳「すごーい!こんな大きなケーキ、
初めて見ました。」
サーニャ「あ・・・!」
坂本「これは・・・」
サーニャと坂本がケーキの上の飾りに気づく。
そこには砂糖で作られたウィッチーズの隊員12人の形をした人形があった。
真ん中の主役3人をほかの隊員が囲むように立っている。
俺「今回はシュガーデコレーションに挑戦してみたっス。ちょっと不格好かもしれないっスけど・・・」
サーニャ「そんな・・・とっても素敵です・・・!」
坂本「器用なものだ・・・」
俺「これ、エイラさんにも手伝ってもらったんスよ。」
サーニャ「エイラが・・・?」
俺「はいっス。エイラさんがいなかったらここまで早く完成はしなかったっス。」
エイラ「べ・・・別にワタシはそこまで・・・」
サーニャ「ありがとう。俺さん、エイラ。」ニコ
俺「どういたしましてっス!」ニッ
エイラ「ま・・・まぁ・・・サーニャのためだからナ・・・///」
芳佳「わたしも、素敵なプレゼントありがとうございます!」ニコッ
坂本「ありがとうな、2人とも。」
俺「うっス!」
エイラ「喜んでくれて何よりダナ。」
ミーナ「さぁ、みんな!今日は私が料理を作ってみたの、ぜひ食べて!」
テーブルの上にはミーナによって振舞われたたくさんの料理があった。
芳佳「うわぁ!すごーい!」
ルッキーニ「はやく食べよーよ!」
全員「いただきまーす!」
ミーナの料理はどれもおいしかった。
カールスラント伝統のジャーマンポテトをはじめ、シュニッツェルなど様々な伝統料理が彼女達の舌を楽しませる。
料理も食べ終わり、一段落したと思われたパーティーだったが・・・
俺「サーニャさん?」
サーニャ「・・・・・・・///」ボーッ…
彼女の顔は真っ赤だった。
俺「えっと・・・大丈夫っスか、サーニャさん?」
サーニャ「ふぇ?わたしは~らいじょうぶれすよ~♥///」
明らかに呂律が回っていない。
俺(こりゃ・・・誰か酒飲ませたな・・・)
どうやら誰かに酒を飲まされたようだ・・・
サーニャ「なんらかぁ・・・俺しゃんが遠いれす・・・///」ズイッ
俺「うおっ!?」ドサッ
突然サーニャが俺を押し倒し、顔を近づける。
俺「ちょ!・・・さ、サーニャさん!?」
エイラ「サーニャ!?」
サーニャ「ふふ・・・これでちかくなりましたぁ♥///」
俺「完全に酔ってるっスね・・・」
サーニャ「酔ってなんかないれすぅ~♥///」
俺(酔ってる人は皆そう言うんスよ・・・)
サーニャ「俺しゃん・・・♥///」ギュッ
俺「ちょっ!?」
突然サーニャの手が俺の首にまわる。
エイラ「」
エーリカ「にししー」
ゲルト「お前達は・・・」
坂本「はっはっは!」
芳佳「サーニャちゃん・・・大胆///」
リーネ「・・・・・///」
ペリーヌ「まったく・・・///」
ミーナ「あらあら。」ウフフ
シャーリー「おいおい、みせつけるねぇ。」
ルッキーニ「なにしてんのーあの2人?」
俺は腕のやり場に困り、手をワキワキさせ戸惑う。
俺(やべっ・・・めっちゃいい匂いする・・・じゃなくて!)
俺「あああ、あの、サーニャさん・・・?その、できれば放してもらいたいんですけど・・・」
サーニャ「いやぁ♥///」
俺「いやって・・・そういわれても・・・」
サーニャ「放して欲しかったらぁ・・・♥///」
サーニャ「キスしてくらしゃい♥///」
俺「」
場の空気が一瞬にして凍りついた。
サーニャ「どうしたんれすかぁ?このままずっと放しませんよぉ♥///」ギュゥッ
さらに強く抱きしめてくるサーニャ。
俺「あの、その・・・ほかのじゃだめっスか?キス以外で・・・」
サーニャ「ならぁ・・・ぎゅってしてくらしゃい♥///」
俺「ぎゅって・・・」
サーニャ「むぅ~///」プクゥ~
サーニャがふくれっ面をしている。
どうやらこのままでは一向に放してくれそうにない。
俺「はぁ・・・もう・・・どうにでもなれ・・・」ギュッ…
ため息交じりにそう言うと、そっと腕を腰へと回した。
サーニャ「ふふっ・・・あったかぁい・・・・・・すぅ・・・」Zzz…
サーニャは俺の腕の中でそのまま寝てしまった。
俺「・・・寝たっスか?」
サーニャ「すぅ・・・すぅ・・・」Zzz…
サーニャ「お父・・・さま・・・」ツー…
サーニャの頬に涙が伝う。
俺「・・・・・」ナデナデ
俺は彼女の涙をそっと指で拭い、しばらく頭を撫でた。
俺「エイラさん、サーニャさんを運ぶの手伝ってもらえるっスか?」
エイラ「」
エイラは完全に放心状態のようだ。
俺「エイラさん?」
エーリカ「あー、エイラはちょっと無理そうだね~。あたしが手伝ったげる!」
俺「そうっスか?じゃあお願いします。よいしょっと・・・」
俺はサーニャをいわゆるお姫様抱っこの形で抱えあげる。
俺「あ、皆さんはどうぞ食べててくださいっス。」
そのままエーリカと俺は出て行ってしまった。
ルッキーニ「お~い、エイラ~?」
シャーリー「今はそっとしておいてやれ、ルッキーニ・・・」
---基地内廊下---
俺「ほんとよく寝てるな・・・」
サーニャ「すぅ・・・すぅ・・・」Zzz…
エーリカ「かわいいなぁ~サーにゃんは。」
俺「・・・というより、お酒飲ませたのって・・・中尉ですよね?」
エーリカ「ありゃ?なんでバレた?」
俺「はぁ・・・やっぱり・・・なんとなく分かってましたけど・・・」
エーリカ「いや~面白いことになるかなーって思ったけど、まさか予想以上の結果になるとはね~にししー。」
いたずらな笑みを浮かべるエーリカ。
彼女の懐にはウォトカが隠されていた。
俺(どこでそんなものを・・・)
俺「・・・とにかく、今後サーニャさんに無理にお酒飲ませちゃだめっスよ。」
エーリカ「はいはーい。」
俺(これはまたやるな・・・多分・・・)
エーリカ「あ、ここだね。」
俺「扉開けてもらっていいっスか?」
エーリカ「はいよ~」ガチャ
そのまま彼女を部屋のベッドに寝かし、2人はそそくさと退散した。
数時間後・・・
俺が部屋へ戻っているとノックの音が聞こえた。
俺「はい。」ガチャ
俺「あれ?サーニャさん?」
サーニャ「俺さん、その・・・さっきは私を運んでいただいたそうで・・・ありがとうございました・・・///」
俺「あ・・・いや、大したことないっスよ。」
サーニャ「それで、今日は少し見せたいものが・・・」
俺「? なんスか?」
サーニャ「とりあえずラウンジへ・・・」
俺「?・・・はぁ・・・・・」
誘われるがままサーニャについていく。
---基地内ラウンジ---
ラウンジには静寂が漂っている。どうやら今ここにいるのは2人きりのようだ。
サーニャはそのままピアノの椅子へと腰を掛ける。
サーニャ「この前約束しましたよね、ピアノを弾くって・・・」
俺「そういえばそうでしたね。今、聞かせてもらえるんですか?」
サーニャ「はい・・・今日のお礼も兼ねて・・・」
俺「じゃあ、是非お願いするっス。」
サーニャ「はい。」
そう言ってサーニャはピアノへと向かう。
♪♪♪~
鍵盤から美しい旋律が奏でられ始める。
俺(この曲は・・・確か・・・)
サーニャが弾いてくれたのは、以前夜間哨戒中にサーニャが口ずさんでいた歌だ。
この曲はサーニャが彼女の父に彼女自身のために作ってもらった歌だそうだ。
♪~♪♪~
静かだがどこか暖かさが感じられる・・・そんな感覚が全身を包む。
サーニャがひと通り弾き終わる。
俺が彼女に拍手を送る。
俺「こう・・・俺の頭じゃどう表せばいいのかわかんないっスけど・・・すごく心に響いたっス。」
サーニャ「よかった・・・喜んでもらえて・・・」
エイラ「なんダなんダ?ピアノが聞こえ・・・ってサーニャ!俺も!」
芳佳「なんかきれいな音が聞こえると思ったら・・・サーニャちゃんだったんだね。」
どうやらピアノの音は基地中に響いていたようで続々と仲間達が集まってきた。
俺「結局みんな集まっちゃったスね。」
エーリカ「サーにゃん。もう一曲なんか聞かせてよ。」
サーニャ「はい・・・じゃあ・・・」
サーニャが再び鍵盤へと手を伸ばす。
♪♪~
俺(!?)
どこか聞き覚えのある曲・・・どこで聞いたかは分からない。
サーニャは弾き続ける。
時に静かに、そして時には力強く・・・
心の奥を揺さぶられるような感覚・・・
俺「・・・・・・」ツー…
いつの間にか俺の頬に涙が伝っていた。
ゲルト「おい俺!?どうしたんだ!?」
俺「へ?」
リーネ「涙・・・流れてます・・・」
俺「あ・・・あれ?おかしいな・・・全然、悲しくなんか無いのに・・・」ゴシゴシ
エイラ「きっとサーニャの演奏に感動して涙が出たんダナ。」
俺「そうかも・・・しれないっスね・・・」
俺「あの、サーニャさん・・・この曲はなんていう曲なんですか?」
サーニャ「・・・わかりません。」
俺「わからない・・・?」
サーニャ「はい・・・ただ、俺さんを見ていて・・・ふと、この曲が浮かんだんです。」
サーニャ「そしたら、手が勝手にこの曲を演奏していて・・・」
俺「・・・・・?」
サーニャ「ごめんなさい・・・わけ、わからないですよね・・・」
俺「いえ・・・俺のためにありがとうっス。サーニャさん。」
俺はただ一言サーニャにそう言う。彼女はその言葉に優しく、微笑んだ。
最終更新:2013年01月29日 14:14