---ブリーフィングルーム---

エイラ「えっ・・・?」

ゲルト「俺が・・・帰ってきていない・・・?」

ミーナ「ええ・・・今朝の最後の定時連絡の後から行方が分からないのよ・・・」

エーリカ「ネウロイに撃墜された・・・とか・・・?」

ミーナ「いいえ・・・管制班からも、ネウロイ出現の報告はないからそれは無いはずよ・・・」

ペリーヌ「まさか、脱走したんですの・・・?」

リーネ「そんな・・・」

ミーナ「分からないわ・・・今、本部に連絡して捜索を頼んでいるけれど、それで見つからなければ・・・」

坂本「・・・今は、信じて待つしかないな・・・」

全員「・・・・・」



---執務室---

坂本「まさかこんなことになるとはな・・・本部から何か情報は?」

ミーナ「いいえ、まだ何も・・・軍も市街地のネウロイの対応に追われていて、捜索のための人員を割けないのよ・・・」

坂本「このまま見つからなければ・・・」

ミーナ「ええ・・・前の宮藤さん同様、無許可離隊罪になるわ・・・それに、もし仮に戻ってきたとしても、彼自身に戻る意思がなければ・・・」

坂本「・・・それと、サーニャのことだが・・・」

ミーナ「わかってる・・・わかってるわ・・・私の、責任ね・・・」

坂本「それは違うぞ、ミーナ。」

ミーナ「いいえ・・・私が寛容になりすぎたばっかりに・・・こんなことになるなら、やっぱり初めから・・・」

坂本「ミーナ!!」

ミーナ「! 美緒・・・」

坂本「ミーナの所為ではない。それに、規則で縛ったところでどうにかなる問題ではないだろう。」

ミーナ「そう・・・ね・・・」

坂本「正直、今の隊内の士気は最悪だ。だからこそ、纏める者が必要なんだ。ミーナ、私はお前しかいないと思っている。」

ミーナ「・・・・・」

坂本「私も、できる限りの手は尽くす。だから頼む、ミーナ。」

ミーナ「・・・ええ。もちろんよ。」

---俺の部屋---

ガチャ

ツカツカ

サーニャ「・・・・・」

空っぽの部屋。
いつもならこの部屋にあの人が居るはずなのに、今はいない・・・

ポフッ

彼のベッドに倒れこみ、体を預ける。
そこからわずかに香る彼の匂い。胸が・・・苦しくて、切ない・・・

サーニャ「俺さん・・・」ギュッ


---どこかの海岸---

海岸には一人の男性の姿があった。

?「む・・・?」

男性の視界に倒れた人が目に入る。男性はその海岸に倒れた人影へと歩み寄り、声をかける。

?「おい、しっかりしろ。」ペチペチ

俺「・・・・・」スー…スー…

?「呼吸はあるようだな・・・む?」

男性がふと逸らした視線の先には、波に打ち揚げられたストライカーがあった。

?「・・・これも運命・・・か・・・」




  
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~行方不明から6日目~

---???---

俺「う・・・ん・・・?」ヒョコッヒョコッ

気づけばいつもと違う、見慣れない天井が目に入る。魔眼が強制発動するせいで視界がぼやけるが、自分の知らない場所だということは匂いですぐに分かった。

俺「っと・・・メガネメガネ・・・」

体を起こし、抑制用のメガネを探すがなかなか見つからない。

?「これか?」スッ

俺「あ、どうも・・・」カチャリ

メガネをかけると同時に魔眼がしまわれ、使い魔の耳と尾が引っ込む。

?「今の獣耳・・・お前はウィッチなのか?」

俺「え?あぁ・・・はいっス・・・ってあれ?」

声のするほうへ目を向けると、見知らぬ金髪の男性が立っていた。

俺「あの・・・」

?「ここは私の家だ。」

俺「そ、そうっスか・・・」

質問をする前に即答で返された。

俺「あの、助けていただいたようでありがとうございました・・・えっと・・・」

男「『男』、だ。『男』もしくは『メデューサの涙』と呼んで欲しい。」

俺「め、メデューサ・・・?」

男「冗談だ。」

俺「は、はぁ・・・」

真顔でそう言う男さん。本気で言ってるのかどうなのか分からなくて、正直恐い。

俺「俺は、『俺』っていいます。あの、ありがとうございました、男さん。」

男「礼には及ばん。散歩のついでに拾っただけだ。」

ついでって・・・

グゥゥゥ~

そんなことを考えていると、不意に俺の腹が空腹を告げる。

男「腹が減っているのか。何か持ってきてやる。待っていろ。」

俺「あ、いえ!お構いなく・・・」


---501基地内ラウンジ---

ペラッ

エイラ(塔の逆位置・・・か・・・)

俺が居なくなってから6日が経った。
捜索は相変わらず続けられているけど、いまだにアイツ見つかる気配は無かった。

サーニャ「・・・・・」

あれからのサーニャは必要な時以外は部屋から出なくなって、私ともあまり言葉を交わしてくれない・・・
今も部屋でずっと、俺から貰ったって言うヌイグルミを抱いて閉じこもったままだ・・・

エイラ「そろそろお昼ダナ・・・ご飯食べに行こう、サーニャ?」

サーニャ「いらない・・・」

エイラ「食べなきゃ元気でないんだゾ!・・・じゃ、じゃあワタシ、お昼もらって来るから一緒に食べよう!ナ!」

サーニャ「・・・・・」

エイラ「じゃあ、もらってくるナ!」

ガチャ バタン

エイラ「・・・・・」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

エイラ「お前さえ来なけりゃ、こんな事にはならなかったんじゃないのカ!?」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

私があんなことを言ったから、俺は戻ってこないのだろうか・・・
別にアイツが嫌いだからこんなことを言ったわけじゃない。むしろ、あいつは仲間だし、家族だから・・・

でも理由なんか当に分かりきっている。私は怖かったんだ。
もちろん自分が死ぬことは怖い。でもサーニャを失ってしまうことのほうがその何倍、何千倍も怖かった。

サーニャは私の戦う理由で、大切な人だから・・・

アイツの所為じゃないってのは分かってる。憎む相手は、本当ならネウロイの研究なんかしてたヤツラだ。でも、もうその憎むべき相手はこの世にはいない・・・
だからワタシは、そのやり場のない思いの矛先を、俺へと向けてしまった・・・

エイラ「・・・・・」グッ…


翌日

~行方不明から7日目~

---男の家---

俺「・・・・・」

手を握ったり開いたりを繰り返す。何度やってもちゃんと感覚が伝わる。
ストライカーを消失し、結局行く当てもない俺は一晩男さんの家に泊めてもらった。

海に落ちて、死ぬことを覚悟したはずの俺は今もこうして生きている・・・でも、どうしたらいいのか分からなかった。
いや・・・本当なら死んでしまいたかった。そうすればもう苦しい思いをしなくて済むから・・・

男「少年。」

俺「あ、はい。なんスか?」

男「お前は、ウィッチだと言ったな。」

俺「は、はいっス・・・それが、なにか・・・?」

男「こっちへ来い。」

俺「?」

---ガレージ---

俺はいろいろなガラクタが積まれた広いガレージへと連れてこられた。
男さんはガレージの中心にある、布のかかった物がある場所へと俺を誘う。

男「これを見ろ。」バサッ

俺「! これって・・・」

男さんが布を取り払うと、現れたのは修理途中の俺のストライカーだった。

男「これはお前のものか?」

俺「はいっス・・・でも、どうして・・・」

男「お前と一緒に海で拾った。」

俺「でも、拾う意味は・・・」

男「前も、扶桑製のストライカーと扶桑の剣を拾った。その時もこうして修理して本国に送り返した。無論、剣は直せなかったが。」

俺「修理・・・男さんは技術者なんスか?」

男「もとは去る国の技研でストライカーのエンジニアをしていた。今は辞めて、ジャンク屋兼修理屋をしている。これを修理をしているのは、あくまで私の趣味だがな。」

俺「そうだったんスか・・・」

男「しかし、またこうしてこれに出会うことになろうとはな・・・」ボソ…

俺「・・・?」

男「すまん。独り言だ。聞き流してほしい。」

俺「はぁ・・・」

男「それと、お前の武器とおぼしき物も回収しておいた。後で見せてやる。」

俺「・・・・・」

男「なんだ、嬉しくないのか。」

俺「あ、いえ・・・感謝してます。ありがとう、ございます・・・」

男「・・・そろそろ飯時だな。戻るぞ。」

俺「は、はい・・・」


---501基地内ラウンジ---

ゲルト「もう一週間か・・・一体どこへ行ったんだ・・・俺・・・」

ルッキーニ「ねぇ、シャーリー・・・俺、まだ戻ってこないの・・・?」

シャーリー「大丈夫だ、ルッキーニ。もうじき帰ってくるさ。」

ルッキーニ「本当・・・?」

シャーリー「ああ。本当だ。」ニッコリ

エーリカ「ねぇ、エイラ、サーにゃん、どうしてるの?」

エイラ「・・・部屋に・・・居るヨ・・・ずっと、出ようとしないんダ・・・」

芳佳「サーニャちゃん、何かあったんですか・・・?」

全員「!!」

みんなが声のするほうへと振り向く。そこには自室で療養していたはずのミヤフジがいた。

ゲルト「宮藤!」

ルッキーニ「芳佳!!」

シャーリー「ケガはもういいのか?」

芳佳「はい、私はもう大丈夫です。それより、さっきの話・・・」

リーネ「あのね・・・」

リーネが宮藤に小声で事情を話す。

芳佳「俺さん・・・居なくなっちゃったんですか・・・どうして・・・」

ゲルト「わからない・・・何も情報が入ってこないんだ・・・」

シャーリー「捜そうにも、私たちはネウロイの襲撃に備えなくちゃいけないからな・・・」

芳佳「・・・エイラさん。」

エイラ「・・・・・ナンダ・・・」

芳佳「サーニャちゃんの側に居なくていいんですか?」

エイラ「・・・・・」

芳佳「サーニャちゃん、きっと寂しい思いをしてると思います。誰かが側に居てあげないと・・・」

エイラ「わかってル!そんなのわかってるんダ!でも・・・」

エイラ「側にいても、どう声をかけたらいいか・・・わからないんダヨ・・・」

芳佳「・・・なら、私が行きます。」

エイラ「え・・・?」

芳佳「待っててください。きっとサーニャちゃんを部屋から出してみせます。」

テクテク

そう言い残して、ミヤフジはラウンジを出て行った。

---エイラ&サーニャの部屋---

コンコン

サーニャ「・・・?」

芳佳「サーニャちゃん、居る?」

芳佳ちゃん・・・?

芳佳「ごめん、勝手に開けるね。」

ガチャ

芳佳「よかった、返事がないから心配しちゃった。」

サーニャ「どうして・・・」

芳佳「サーニャちゃん、元気がないって聞いたから、居てもたってもいられなくなって来ちゃった。」エヘヘ

サーニャ「怪我は・・・?もういいの・・・?」

芳佳「うん!この通りもう・・・」ズキッ

芳佳「っ・・・!あはは・・・やっぱりまだちょっと痛いかも・・・」

サーニャ「芳佳ちゃん・・・」

芳佳ちゃんは無理をしてまで、私のために来てくれた・・・そんな芳佳ちゃんに、一人にしてほしいなんて、言えるわけがなかった・・・

サーニャ「無理しちゃダメ・・・ここ、座って・・・」

芳佳「う、うん。ごめんね、逆に心配させちゃって・・・」

芳佳ちゃんをベッドに座らせ、私もその隣に座る。

サーニャ「・・・・・」

芳佳「そのお人形、どうしたの?いつもは、えっと・・・そう、ネコペンギンじゃなかったけ?」

サーニャ「・・・ジャックフロスト・・・俺さんに、貰ったの・・・」ギュッ…

芳佳「そうなんだ・・・」

芳佳(俺さんいつの間にこんなのプレゼントしてたんだ・・・それにサーニャちゃん、すごく大切そうに抱きしめてる・・・)

サーニャ「どうして・・・・・」

芳佳「・・・?」

サーニャ「どうして俺さん、戻ってこないのかな・・・」

芳佳「サーニャちゃん・・・」

サーニャ「俺さんのせいなんかじゃないのに・・・俺さん、全部自分のせいだって・・・一人で全部抱え込んで・・・」

サーニャ「一番辛いの、俺さんのはずなのに・・・もし死んじゃたりしてたら・・・私・・・」

言葉を続けるうちに目蓋が熱くなって、胸が苦しくなる・・・

芳佳「サーニャちゃん。」

不意に芳佳ちゃんが私の名前を呼ぶ。私はそこで言葉を止めた。

芳佳「私の目を見て。」

ゆっくりと顔をあげて芳佳ちゃんの顔を見る。でも、もう私の目は涙でいっぱいで芳佳ちゃんの顔も滲んで見えた。
そんな私に、芳佳ちゃんは私の両頬に手を優しく添えてこう言った。

芳佳「大丈夫だよ。」

サーニャ「え・・・?」

その時点では、私はその言葉の意味を捉えることができなかった。芳佳ちゃんは続ける。

芳佳「サーニャちゃんはきっと、俺さんのこと大事に思ってるんだよね。」

サーニャ「・・・・・」コクリ

芳佳「サーニャちゃんは、俺さんに会いたいんだよね。」

サーニャ「うん・・・」

芳佳「だから、大丈夫。俺さんは絶対に戻ってくるよ。」

サーニャ「どうして・・・そう思うの・・・?」

少し震えた声で、私は聞き返す。

芳佳「俺さんもサーニャちゃんのこと、大切に思ってるからだよ。」

サーニャ「俺さんが・・・?」

芳佳「うん。そのお人形をサーニャちゃんにプレゼントしたのだって、大切に思ってる証拠だよ。きっと、俺さんもサーニャちゃんに会いたいって思ってる。」

芳佳(それに、私は知ってるから・・・俺さんがサーニャちゃんのことが好きで、大切に思ってるってこと・・・)

芳佳「だから、絶対に諦めちゃダメ。絶対に帰ってくるって信じよう。ね?」

そう言う芳佳ちゃんの目は、本当に真っ直ぐで、とても嘘を言うような目には見えなかった。

思い返せば、前も芳佳ちゃんには同じようなことを言われた。
どっちも諦めないでいれば、きっといつかは会える。
お父様とお母様のことを芳佳ちゃんに話した時、彼女は私にそう言ってくれた。その言葉は今も私の中に残っていて、私を支えてくれている。

根拠なんか無い。でも、芳佳ちゃんの言葉は本当に力強くて、私はもう一度勇気をもらった気がした。だから私は・・・

サーニャ「・・・うん・・・ありがとう、芳佳ちゃん。」ニコ

と返事を返した。

芳佳「あ、やっと笑ってくれたね。」ニコ

サーニャ「え?」

芳佳「サーニャちゃん、ずっと悲しそうな顔してたから。やっぱり、サーニャちゃんは笑顔な時が一番素敵だよ。」

サーニャ「・・・///」

芳佳「ふふ。じゃあ、みんなの所行こっか。みんな、ずっとサーニャちゃんのこと心配してたんだ。」ニコ

サーニャ「うん。」ニコッ


~行方不明から8日目~

---孤児院---

死にたいと思いながら碌に死ぬ勇気も出ず、結局俺は、もう一日男さんの家に泊めてもらった。

今日は男さんに連れられて、俺はとある孤児院へやってきていた。
前に交流した所とは別の孤児院だ。

男さんはよく、あまった機械の部品でおもちゃを作って、ここの孤児院の子供達にプレゼントしているそうだ。
今回もそのために車でここまでやってきた。

段階的に発令されつつある外出禁止令も、この地域はまだ発令されていなかったようで、特に障害も無く外に出ることが出来た。

短髪の男の子「あ!メデューサ!!」

リボンをつけた女の子「メデューサ!メデューサ!!」

男「フッ・・・」

男さんは満更でもない笑みを浮かべる。

俺「・・・・・」

鼻水を垂らした男の子「おもちゃは~?」

男「案ずるな、若き未来の星たちよ。少年、配るのを手伝ってくれ。」

俺「あ、はいっス。」

ポニテの女の子「ねぇ、お兄ちゃん誰?」

俺「え?お、俺?俺は・・・」

男「そいつはウィッチだ。男のな。」

短髪の男の子「え?男なのにウィッチなの!?すげー!」

リボンをつけた女の子「お空を飛ぶの?それとも陸で戦うの?」

俺「あ、いや・・・空を、飛ぶよ・・・」

スゲー! カッチョイイ ワイワイ

鼻水を垂らした男の子「ねぇ、お兄ちゃん。ネウロイ、いついなくなるの?」

俺「え?」

メガネをかけた男の子「ネウロイがいるから、ぼくたち、お外であそべなくなっちゃうんだって・・・」

リボンをつけた女の子「もうすぐがいしゅつきんしれいって言うのがでるからって、せんせいが言ってたの・・・」

ポニテの女の子「おねがい、早くやっつけて!」

オニイチャン オネガイ ネウロイヤッツケテ! ワーワー

そう言って俺にすがりついてくる子供達。
そんな姿を見て、俺は目の前の現実から目を背けたくなった。
この子達は、世界が滅びようとしていることを知らない・・・それも、俺のせいで・・・

それが堪らなく辛くて、何も出来ない自分が情けなくて、悔しかった。

ヒシッ…

俺は子供達を抱き寄せて、

俺「ごめん・・・本当に・・・ごめん・・・」ポロポロ

ただ、そう言う事しかできなかった・・・

男「・・・・・」

リボンをつけた女の子「お兄ちゃん・・・なんで泣いてるの・・・?」

ポニテの女の子「泣かないで・・・」

俺「あ・・・ご、ごめん・・ビックリさせちゃったよな・・・」コシコシ

メガネの男の子「ネウロイ・・・やっつけてくれる・・・?」

俺「あ、あぁ・・・そうだね・・・」

短髪の男の子「ホントに!?約束だよ!」

俺「うん・・・」ニコ…

俺は、生返事を返す事しかできなかった・・・



---バルト海上空---

ブロロロロロロロロ…

エイラ「どうした?サーニャ?」

サーニャ「ごめん。少し、やりたい事があるの。」

そう言って私は上昇し、高度を稼ぐ。
あの後、ミーナ中佐から下された任務を実行するために。

ヴン…

魔導波を伝播させ、俺さんに語りかける。
私に新たに下された任務は、魔導針を使っての俺さんとの交信だった。

サーニャ(俺さん・・・どこ・・・?)

諦めずに何度も呼びかける。きっと生きている。そう信じて。

でも、答えは返ってこない・・・

日増しに強くなる、俺さんに会いたいという気持ち。
この気持ちを恋だと知ったのは、リーネさん達とお話ししたあの時から・・・

一緒に故郷のお話しをして、ご飯を食べて、哨戒もして、お出かけして、遊んで、それで・・・
私が彼からもらったものは、何もかも新しい事ばかりで、一緒に過ごす毎日が本当に楽しくて・・・幸せで・・・

そしていつしか私は、自然に、俺さんを好きになった・・・

サーニャ「♪~♪♪~」

俺さんが子守唄だと言っていた歌を乗せて伝える。
きっと、届くと信じて・・・



会いたいです・・・俺さん・・・



エイラ「・・・・・」


翌日

~行方不明から10日目~

---501基地内食堂---


エーリカ「おいひ~!これサーニャが作ったんだよね?」モグモグ

サーニャ「はい・・・ピロージナエ・カルトーシカって言って、昔、お母様に作ってもらったことがあるんです。」

エーリカ「へ~。リーネや俺のお菓子も美味いけど、サーニャも上手だよな~」モグモグ

シャーリー「ああ、こりゃなかなかうまいな。な、ルッキーニ。」

ルッキーニ「うん!」

サーニャ「あ、ありがとうございます・・・お口にあったみたいで、よかったです・・・///」

エイラ「・・・・・」

ミヤフジのおかげで、サーニャは元気を取り戻し、今ではこの通りだ。そのおかげで基地の雰囲気もだいぶ良い方へと変わってきている。
そう、ミヤフジのおかげで・・・

それは、ワタシにとって嬉しいことでもあり、逆に、自分がサーニャに何もしてあげられなかったことが悔しくもあった・・・

ペラッ

エイラ(また塔の逆位置・・・)

ペリーヌ「そんな暗い顔で、何をしていらっしゃるの?」

エイラ「うわっ!って、なんだ、お前カ・・・」

ペリーヌ「なんだとは失礼な・・・まぁいいですわ。それより、サーニャさんが元気になったっていうのに、嬉しくありませんの?」

エイラ「嬉しいヨ・・・嬉しいに、決まってル・・・」

ペリーヌ「顔にはそうは書いていないみたいですけど。」

エイラ「えっ・・・」

ペリーヌ「彼のことが、気になっているんでしょう?」

エイラ「・・・・・」

ペリーヌ(言い返さないということは図星かしらね・・・)

エイラ「・・・アイツは・・・・・」

ペリーヌ「・・・?」

エイラ「アイツは、ワタシのせいで戻ってこないのかナ・・・?」

ペリーヌ「さぁ、どうかしらね。少なくとも、彼のあの時の表情からみれば少しは応えていたかも知れませんわね。」

エイラ「そう、だよナ・・・」

ペリーヌ「でも・・・」

エイラ「?」

ペリーヌ「あの時の貴女を責められる人なんか、誰もいませんでしたわ。」

エイラ「・・・・・」

ペリーヌ「突然、絶対に死ぬだなんて言われて平気な人なんか誰もいませんわ。私だって、怖いですもの。なによりも、大切な祖国や、仲間を失うことが・・・」

ペリーヌ「あなたも、自分の大切なものを失うのが怖くて、俺さんにあんなことを言ったんでしょう?」

エイラ「! ・・・・・」

見事に言い当てられた・・・ペリーヌとも長い付き合いだけれど、本当に人をよく見ているというか・・・とにかくコイツもすごい奴だ・・・ツンツンしているところを除いて。

ペリーヌ「ほかの皆も、今はああやって振る舞ってはいますけど、思いは貴女と同じはずですわ。」

エイラ「・・・そうだよナ・・・その、ありがとナ。少し、気が楽になったヨ。」

ペリーヌ「そう。それはよかったですわ。では、私はこれで失礼しますわ。」テクテク

そう言ってペリーヌは食堂から去って行った。

エイラ「・・・・・」

でも、私の心にはまだ俺に対する別の感情が引っかかっていた・・・それは・・・

サーニャ「エイラ・・・?」

エイラ「へ?あ、サーニャ・・・」

サーニャ「お部屋、戻ろう?また少し眠くなっちゃったわ・・・」コシコシ

エイラ「あ、ああ・・・そうダナ・・・」


---男の家---

男「少年。」

俺「はい・・・なんっスか・・・?」

男「昨日、なぜ子供たちに謝った?」

俺「・・・・・」

男「言えないことなのか?」

俺「そう言うわけじゃ・・・」

男「なら話せ。」

言おうか言うまいか少しためらう。でも正直な気持ち、吐き出さなければ自分がどうにかなってしまいそうだった。

俺「・・・分からないんです・・・生きていていいのか、それとも死んだほうがいいのか・・・」

男「何?」

俺「こんな話、信じてもらえるかはわからないっスけど、今、世界は、俺のせいで滅びようとしてるんス・・・」

男「ふむ・・・」

俺「・・・疑わないんですか?」

男「まだ最後まで話を聞いていないからな。疑うかどうかはそのあとに判断する。それで?」

俺「・・・それなのに・・・あの子たちはその事を知らなくて・・・自分が蒔いた種なんだからなんとかしなきゃいけないはずなのに、俺、その滅びを止める方法も知らないから・・・」

男「だから謝ったのか。」

俺「はい・・・」

男「ならば、死ぬという選択肢は今ここで捨てろ。」

俺「え・・・」

男「その滅ぶという話が本当だとしても、それはお前が命を絶つことで解決するのか?」

俺「・・・・・」

男「それに、自ら命を絶つということは、お前が踏みにじってきた者たちの命を全てを冒涜することになる。」

俺「俺が踏みにじってきた・・・命・・・?」

男「お前はそんなことも知らずに今まで生きてきたのか。それは随分と幸せな生を歩んできたようだな。このホモサピエンスの面汚しめ。」

俺「・・・・・」

男「いいか、人間という生き物は、終わらない犠牲の輪廻の上で生の充足を得るのだ。」

俺「・・・?」

男「人間は己が命を明日へ繋ぐために何かを殺し、飯を喰らう。また、人間は行動を起こすために大地を踏み締め、その下に住まう小さな虫達を殺す。またある時は他人の関係に良くも悪くも干渉し、言葉で隣人を殺す。」

男「少年。人間は生きることで確実に別の何かを殺しているのだ。お前が生まれてこの方一度も、何かを殺さなかったということは決してない。無論、この私もな。」

俺「!!」

途方もなく・・・どうしようもない現実を目の前に突き付けられた・・・そんなこと、今の今まで考えたこともなかった。
滅び云々以前に、俺はすでに人を殺していたかもしれない・・・
親父と約束した、人は絶対に殺さないという約束も、俺の心ない一言で死んだ人がいて、もうとっくに破っていたのかもしれない・・・

男「だから少年よ。人間はそうして死んでいった命たちに報いるためにも生き続けなければならない。生きて苦を味わうことこそが人の生だ。私はそう考えている。」

俺「・・・・・」

男「・・・それでも尚、死を考えるというならば、今日お前が寝床につく前に、お前の国の言葉でいい。『ありがとう』と千回唱え続けろ。それで何も見えてこなければ、私からお前に言うことは何もない。勝手にするがいい。」


---男の家:2階---

ラジオの声≪・・・依然、小型ネウロイはザザッ・・・おり絶望病の患者ザザッ・・・ます。≫

俺「・・・・・」

男さんから借りているラジオを聴くことがここに来てからの俺の日課になっていた。アンテナの部分は壊れていて、替えも無いので俺の魔導針で代用している。

俺「ありがとう・・・ありがとう・・・」

男さんに言われたことを試してみる。俺はただひたすらにありがとうと唱え続けた。

俺「ありがとう・・・ありがとう・・・ありがとう・・・」

5分・・・10分・・・いや、もう何分経ったかもわからない。それでも俺はひたすらに唱え続けた。そんな時だった。

俺「ありがとう、ありがとう、ありがとう」ツー…

突然、俺の頬に涙が伝いだした。

俺「ありがとう、ありがとう、ありがとう・・・」ポロポロ

それはやがて、留める事のできない感情の奔流となって溢れ出す。
ありがとうと唱え続けるうちに、俺の心は自然と温かな気持ちになっていった。

俺「ありがとう・・・グスッ・・・あり・・・がとう・・・」ポロポロ

いつしかありがとうと一言唱える度に、今まで俺が関わってきたすべての人の顔が思い浮かぶ。

親父にお袋、じいちゃんにばあちゃん。ガキの頃一緒に遊んだ友達。近所のおじちゃんやおばちゃん。下ネタを吐きあった整備兵のみんな。寂しいときの話し相手になってくれた管制の人。基地の女医さん・・・
そしてなにより、ミーナ隊長、坂本少佐、宮藤さん、リーネさん、ペリーヌさん、バルクホルン大尉、ハルトマン中尉、シャーリーさん、ルッキーニさん、エイラさん、そして・・・

俺「サーニャさん・・・」ポロポロ

ようやく気付いた。俺は、こんなにもたくさんのありがとうに囲まれてきたんだと・・・
そして悟った。今命を絶てば、自分が大切にしてきた、ありがとうをくれた人たちを守ることができなくなるのだと。このままでは、自分が大切な人達を滅ぼしてしまうのだと。

俺「それだけは・・・絶対に嫌だ・・・」グスッ

俺は守りたい。俺の大切な人達を、たくさんの『ありがとう』をくれた人たちを。

ラジオの声≪ザザッ…♪~♪ザザッ…♪・・・≫

俺「! これって・・・」

ラジオの声≪ザザー・・・≫

ほんの一瞬だけ聞き覚えのある歌声が聞こえた。しかしそれはすぐに聞こえなくなってしまった。
でも確信した。今の声の主は、俺の大切な人だと・・・

俺「ははっ・・・だっせーな、俺・・・うっし!」ゴシゴシ

俺は、生き続ける。俺の大切なものを守るために。

続き→ペルソナ17.5
最終更新:2013年01月29日 14:21