Episode 20 『ハートフル・クライ』
1/31 決戦当日
朝
---俺の部屋---
迎えた決戦の日の朝。窓から差し込む日差しで目を覚ます。
俺(いよいよ・・・か・・・)
一度上体を起こし、自分の隣で眠る少女を見やる。
サーニャ「すぅ・・・すぅ・・・」Zzz…
俺「・・・・・」ナデナデ
そっと髪を撫でる。
俺「あれ・・・?」
ふと我に返る。どうして今、自分の隣にこの少女がいるのか。
半ば睡眠状態の脳漿を揺り起こし、記憶を辿りよせる。次第に昨晩の記憶が鮮明によみがえり始めた。
俺「・・・///」ナデナデ
とりあえず、撫で続けることにした。
サーニャ「ん・・・ぅ・・・」
俺「っと・・・ごめん・・・起こしちゃったっスね・・・」
彼女も体を起こし、「ふぁ・・・」と1度可愛らしいあくびをする。
サーニャ「おはよう・・・」コシコシ
俺「おはようっス。まだ、寝てても大丈夫っスよ?」
サーニャ「ううん・・・だいじょうぶ・・・もう起きるわ・・・」
ベッドから降り、寝ぼけ眼のまま着替えを始めるサーニャ。
俺「って・・・ちょっと!」
サーニャ「?・・・どうしたの・・・?」
俺「そ、それ・・・俺の・・・服・・・」
サーニャ「・・・?」
サーニャは視線を着ている服に落とす。確かに、サーニャが着ているのは俺の軍服であった。
サイズが合わず、ぶかぶかの格好でなんだか可愛らしい。
俺(かわええなぁ・・・///)
サーニャ「・・・ごめんなさい・・・今、着替えるから・・・」
そう言って俺に背を向けようとした時、
サーニャ「あっ・・・!」ズルッ
俺「あぶねっ!」
丈の余った裾に足を引っ掛けつまづくサーニャ。間一髪、俺が抱きとめた。
サーニャ「あ、ありがとう・・・」
俺「いえ・・・怪我、無いっスか?」
サーニャ「うん、大丈夫・・・」
俺「・・・・・」
ギュッ…
突然、俺の抱きとめた手に力がこもる。
サーニャ「お、俺・・・?」
俺「ごめん・・・なんか、今度は俺が怖くなっちゃったみたいっス・・・」
サーニャ「・・・俺。」
俺「はい?」
サーニャ「一回、離して・・・」
俺は彼女の言う通り、抱きしめていた腕の力を緩める。
解放されたサーニャは、俺の体を軽く押して、ベッドへ座るように促す。そして俺がベッドへと腰かけた直後、
ギュッ…
俺「!!」
サーニャ「・・・・・」ギュゥ…
サーニャの体が俺を優しく包み込んだ。
俺「あ、あの、サーニャ・・・」
サーニャ「黙って・・・」
俺「はい・・・」
服越しに胸の柔らかな感触が頬に当たる。その奥から次第に、サーニャの鼓動が聞こえてきた。
とくん、とくん、とくん・・・
俺「・・・・・」
サーニャ「聞こえる・・・?私の音・・・」
俺「・・・・・」
サーニャ「・・・俺?」
俺「・・・胸、やわらかいっス・・・」
サーニャ「! え・・・えっち・・・///」
俺「ごめん・・・聞こえるっスよ、サーニャの音・・・すごく、落ち着くっス・・・ずっとこのままでいたいくらい・・・」
サーニャ「・・・///」
俺「もう少し、こうしてても良いっスか・・・?」
サーニャ「うん・・・」
俺の手がサーニャの腰へと回る。それに気づいたサーニャは、左手で俺を抱き寄せながら、右の手で俺の頭をなだめるように撫でる。
俺「サーニャ・・・」
しばらくして、ふと俺が話しかける。
俺「・・・もし今、俺が一緒に逃げようって言ったら・・・一緒に逃げてくれますか・・・?」
サーニャ「えっ・・・?」
俺「・・・俺、ホントは、君には戦ってほしくないっス・・・戦って君が傷つくのも嫌だ・・・君を、失うのも嫌だ・・・すごく、怖いっス・・・」
数秒の間があった後、サーニャはこう言った。
サーニャ「・・・いいよ。」
俺「え・・・」
サーニャ「俺が逃げるなら、私も一緒に行く。最後まで、
ずっと一緒にいるわ。でも・・・」
俺「でも・・・?」
サーニャ「逃げても、逃げなくても・・・俺が戦うなって言っても、私は戦うわ。俺も、エイラも、大切な人みんな・・・守りたいから・・・」
俺「・・・うん・・・そうっスよね。ごめんなさい、逃げるってのは嘘っス。」
サーニャ「・・・うん、知ってた・・・俺は逃げるなんて言わないって、信じてたから・・・」
俺「そっか・・・あの、サーニャ。」
サーニャ「なに・・・?」
俺「俺、ずっと君と一緒にいたいっス・・・これからも、この先もずっと・・・」
サーニャ「うん・・・」
俺「君は、絶対に俺が守ります・・・何があっても、必ず・・・」
サーニャ「私も、俺を守るわ。どんなことがあっても、絶対に・・・」
俺「・・・ありがとう・・・絶対、生きて帰って来よう・・・」ギュッ
サーニャ「うん・・・」ギュゥ
・・・ ・・・ ・・・
---ブリーフィングルーム---
続々と皆が部屋へと集まる。誰も居眠りをするような者は居なかった。
ミーナ「こうして号令をかけるのもこれで最後ね・・・」
坂本「ああ。ミーナ、頼む。」
ミーナ「ええ。・・・皆さん、おはようございます。昨晩説明したように、本日が我々人類にとっての最終決戦の日となります。」
最終決戦。その単語に全員の表情が引き締まる。
ミーナ「私たちを乗せる空母は既に着港済みです。このブリーフィングの後、皆さんにはすぐに搭乗してもらう予定です。」
ミーナ「それではもう一度、作戦内容の確認を行います。」
ミーナが再び作戦内容のブリーフィングを行う。一通り説明を終え、
ミーナ「以上でブリーフィングを終了します。それでは、これより第501統合戦闘航空団はオペレーション『ラグナロク』に参加します!」
全員『了解!!』
ミーナ「・・・それと・・・・・」
ミーナの声色が少し暗くなる。
ゲルト「? どうした、ミーナ?」
ミーナ「私、みんなにお礼を言わなきゃいけないわ・・・ここまで、何も言わずついてきてくれてありがとう・・・それに、頼りない上官で本当に、ごめんなさい・・・」
坂本「突然何を言うんだ、ミーナ。」
芳佳「そんなことありません!ミーナ隊長は頼りない上官なんかじゃないです!」
ミーナ「宮藤さん・・・」
ゲルト「宮藤の言うとおりだ、ミーナ。私たちはミーナが居てくれたからこそ、今こうして生きていられるんだ。」
エーリカ「そうそう。ミーナが今まで指揮してくれたおかげで、私たち誰一人欠ける事なくここまで来れたんだよ?」
シャーリー「あたしも素直にそう思うよ。隊長が仕切ってくれてたから、あたしたち、色々無茶もやってこれたんだしさ。」
リーネ「お礼を言うのは、私たちの方です。」
エイラ「そうダナ。サウナ作ってもらえたのもミーナ隊長がいたからだしナ。」
サーニャ「うん。隊長のおかげで、逃げることなくここまでやってこれました。」
ルッキーニ「あたしね、ミーナ隊長だーいすき!」
ペリーヌ「貴女の指揮があってこその501だと、私は思っております。」
俺「そうっスよね。と言うより・・・こちらこそ、色々勝手してすみませんでした・・・」
坂本「ああ。ミーナには付き合いがあってからずっと苦労を掛けさせてばかりだったな。本当にすまない・・・いや、ありがとう、ミーナ。」
芳佳「みんな、ミーナ隊長の事が大好きなんです。みんな、ミーナ隊長に感謝してるんです。だから、謝らないでください。」
その言葉に、
ミーナ「みんな・・・ありがとう・・・本当に・・・あり・・・がとう・・・グスッ・・・」ポロポロ
嗚咽を堪えた、絞り出すような声でミーナが感謝を述べる。彼女の双眸からは止めど無く温かな雫が零れ落ちる。
ゲルト「泣くのは全てが終わってからにしよう、ミーナ。」
ミーナ「・・・そうね・・・まだ、終わってないんだものね・・・グスン・・・ごめんなさい、もう大丈夫よ。」
裾で涙を拭い、いつもの顔に戻ろうとするミーナ。しかしながら、やはり目は少し腫れていた。
坂本「うん。よし、では最後の円陣を組もう!」
坂本の言葉に、仲間達が中心に集まり円陣を組む。
坂本「俺、お前は中心に入れ。」
俺「え?でも・・・」
シャーリー「いいからいいから。」
背中を押され、俺が円陣の中心に入る。
坂本「さあ、ビシッと決めてくれ。」
俺「お、俺っスか?」
皆が同時に頷く。
俺「・・・わかったっス。」
一呼吸置いて、
俺「みんな・・・今までたくさん迷惑かけてごめんなさい・・・」
俺「やっぱり、俺がここに来なけりゃ、みんながこうして苦しむことも無かったのは本当だから・・・」
ゲシゲシゲシゲシ
俺「いだだだだっ!ちょ・・・誰っスか蹴ったの!?」
エイラ「バーカ。そういう事じゃないダロ。」
シャーリー「ここはもっと、気持ちがよくなるようなこと言ってもらいたいよなぁ。」
芳佳「そういう話はナシです!もう一回やり直してください!」
俺「は、はいっス・・・」
再び一呼吸おいて、
俺「・・・俺、みんなと会えて本当に良かったっス。みんなから、思い出だけじゃなくて・・・大切なもの、たくさん貰いました・・・俺、みんなの事、大好きっス。」
エーリカ「わたしも俺の事、ダイスキだよ♪」
ルッキーニ「あたしもー!スキスキ!!」
サーニャ「私のほうが、好きだもん・・・」ボソッ
エイラ「さ、サーニャ!?」
ゲルト「まったくお前たちは・・・だが・・・その・・・私も、嫌いではないぞ・・・///」
シャーリー「おやぁ?バルクホルンは俺の事、好きだったのかぁ。そっか~へぇ~」
ゲルト「ば、馬鹿者!!そういう意味ではなくて・・・私は家族として俺を・・・///」
坂本「はっはっは!愛されているな、俺。」
俺「は・・・はいっス・・・だから、みんなの事も、みんなの夢も、みんながいるこの場所も、この世界も・・・全部守りたいっス。」
俺「でも、それは俺一人じゃできないっス・・・だから・・・どうか、みんなの力を貸してください。」
シャーリー「水臭いこと言うなよ。今までだって、一緒に戦ってきたんだからさ。」
ペリーヌ「そうですわ。それに、貴方に頼まれずとも、私は勝手に戦いますわ。」
リーネ「俺さんを一人で戦わせたりなんかしないです。みんなで、一緒に守り抜くんです!」
ミーナ「ええ、誰一人欠けることなく、この基地(いえ)へ帰ってくるわよ!」
俺「ありがとうっス、みんな・・・絶対・・・絶対にみんなで帰って来よう・・・ウィッチに不可能はないっス!行こう、みんな!!」
全員『おうっ!』
結束。
ただの仲間ではなく、その垣根を越えた、家族にも似た固い絆が皆の間に確かに結ばれていた。
その絆を胸に、ストライクウィッチーズは決戦の地、北海へと向かう。
夜
---北海海上:航空母艦『ライオン』内---
空を、次第に闇が湛え始めていた。他の統合戦闘団を乗せた母艦や軍艦、駆逐艦と合流を果たし、人類連合軍は北海海上に現れたネウロイの塔へと進路を進める。
海上には『大和』に次ぐ新たな扶桑皇国の主力戦艦『尾張』。リべリオンの誇る巨大戦艦『ミズーリ』。ブリタニアの超弩級戦艦『ヴァンガード』。ロマーニャの『ヴィットリオ・ヴェネト』等々・・・
各国の主力艦隊並びに主力戦闘機、更には各国のトップエースのウィッチがこの北海へと集結していた。文字通り、人類戦力の総決算である。
ゲルト「なるほど・・・爽観だな。」
ミーナ「ええ。全て各国の主力艦よ。」
リーネ「ねぇ芳佳ちゃん、あれ・・・」
芳佳「うわぁ・・・おっきいね・・・」
宮藤とリーネの視線の先にある巨大戦艦。ビスマルクに次ぐ、カールスラント最新鋭の戦艦、『ティルピッツ』。
ティルピッツの主砲には各国の技術者が共同で作り上げた『魔導砲』が搭載されていた。
戦艦内には通常の乗組員の他に10人のウィッチが乗り込んでおり、魔導砲は彼女たちの魔力によって起動する。
10人がかりで魔力を極限まで充填し、圧縮。それをそのまま撃ち出すという単純にして大胆な兵器である。
対戦艦では意味をなさないが、対ネウロイに関しては絶大な威力を発揮する。もうネウロイの力に頼らない、という人類の意思の表れでもあった。
エーリカ「あの『魔導砲』ってやつ、ウルスラも手伝ったんだって。」
芳佳「ウルスラ・・・って確かハルトマンさんの妹さんですよね?すごい・・・」
シャーリー「なぁ、それより俺はどこ行ったんだ?」
ペリーヌ「あの殿方なら、先ほど甲板の方へ行きましたわよ。船に酔った、ですって。」
ゲルト「まったく・・・さっきまでの威勢はなんだったんだ・・・」
一方甲板では・・・
俺「うっぷ・・・うぇ・・・」
サーニャ「大丈夫・・・?」サスサス
エイラ「ストライカーは平気なのに、なんで他の乗り物はダメなんだヨ・・・」
その時、
ゴオオオオォォォォォ!!
俺「!?」
サーニャ「きゃっ!」
エイラ「うわっ!?な、なんダ!?」
突如、俺たちの目の前の海上に巨大な火柱が屹立する。波が大きくうねり、艦を激しく揺さぶる。
---戦艦『尾張』:艦橋---
杉田「なんだ!?」
副官「わかりません!突然火柱が・・・」
その操艦技術を買われ、三度、扶桑皇国艦隊の指令に選任された杉田。そんな彼も、船員も突然の出来事に焦燥する・・・が、さすがは指令。
杉田は直ぐに冷静さを取り戻し、部下に命令を与える。
杉田「艦長操艦、両舷半速!!」
副官が杉田の命令を復唱し、艦内の水兵たちに命令を伝達する。
杉田「両舷停止!!」
副官「両舷停止!・・・行き足止まりました!」
杉田の命令通り、艦隊は動きを停止した。他の艦隊も同じように停止している。
杉田「あれは・・・」
杉田が双眼鏡で状況を確認する。空に、極小さいながらも赤い光が二つ、灯っていた。
杉田「ネウロイ・・・いや、人間か!?」
---航空母艦『ライオン』:甲板---
一方、俺も魔眼によりその存在を捉えていた。
俺「あいつらだ・・・」
エイラ「あいつらって・・・まさか・・・」
俺「グレゴリ・・・!」
先日のラジオの演説により、その生存が確認されたグレゴリの2人組。ここに来て、ようやく姿を現した。
俺が、ストライカーが格納されたハンガーへと足を進めようとする。
サーニャ「待って!」
その声に、足を止め振り返る。
サーニャ「俺・・・行くの・・・?」
俺「・・・心配いらないっス。ちょっと行って、すぐ戻ってきますから。」
エイラ「一人で行く気かヨ・・・」
俺「俺がやるって決めたことっスから。大丈夫っス、2人とは、一緒にサーニャの両親を探しに行くって言う約束をしたっスから。それを果たすまでは、俺は絶対に死なないっス。」
エイラ「どうしても行くのカ・・・?」
俺「はい。」
エイラ「・・・死んだら、許さないからナ。」スッ
俺「もちろんっス。」スッ
互いに拳を突き出し、コツリと付け合わせる。
サーニャ「俺、これ・・・」シュルッ
サーニャが手首に巻いていたリボンを、俺へと手渡す。
サーニャ「側にいれない間の、私の代わり・・・戻ってきたら、返してね・・・」
俺「ありがとうっス。じゃあ、これはサーニャが持っててください。」シュルッ
俺も、腕に巻いていたリボンをサーニャへ渡す。
俺「必ず戻ってきます。戻ってきたら、きっと返してください。」
サーニャ「・・・・・」コクッ
俺「じゃあ、行ってきます。」タッタッタ
受け取ったリボンを腕に巻き、踵を返し、ハンガーへと走る。そして彼は、グレゴリの待つ夜空へと飛び立った。
---北海上空---
高度約2000メートル地点。そこに緋色の瞳を持つ二人組が上空で停滞していた。
アダム「なんや、他のお仲間はどうしたんや?」
俺「仲間なら、ここにいるっス。」
腕に巻きつけたリボンを指さす俺。
それはサーニャから預かった誓いのリボン。しかし、それによって繋がっているのはサーニャだけではない。エイラも、宮藤も、リーネも、ペリーヌも・・・他の俺の仲間の全てが、このリボンを通して繋がっている。
俺「俺は、一人じゃない。」
アダム「なんのこっちゃ?」
当のアダムはそんなことを知る由がない。首をかしげるのも当然であった。
俺「・・・アンタ・・・その腕・・・」
以前、斬り落されたはずのアダムの右腕は、確かにそこに存在していた。
しかし、それは人の腕と言うにはあまりにも黒く、一種のグロテスクな禍々しさを醸し出している。
アダム「ああ、これか?ネウロイん力っちゅうんはホンマ便利でなぁ。テキトーな金属の近くに腕晒しとったら勝手に再生しおったわ。ま、見ての通り、もう人間の腕やあらへんけどな。」
アダム「って、オレの事はどうでもええんや。お前一人で何しに来たっちゅう話や。」
俺「俺たちはその先に行かなくちゃいけないんス。そこを、どいてください。」
イヴ「今更抗ってどうなるのです。もはや滅びは避けられないというのに。」
アダムの隣にいた少女、イヴが口を開く。
俺「その滅びを止めに行くんスよ。」
アダム「せやから止られへん言うとんのや。アホか。」
俺「だから、意地でも止めるって言ってるんスよ。邪魔しないでください。」
イヴ「あなたは一つ勘違いをしている。私たちは別にに立ちふさがっているわけではありません。ただ、祝祭の時をここで静かに待っているだけです。」
俺「祝祭・・・?滅びが?馬鹿げてる・・・どうかしてるよ、アンタ。」
アダム「おい、口には気をつけろや。次、イヴを愚弄するような言葉吐きおったら叩っ斬るで。」
アダムが俺を睨みつける。
イヴ「落ち着きなさい、アダム。とにかく、私たちは静かに滅びを待ちたいだけ・・・あなた方はその祝祭の障害となるから攻撃した。それだけです。即刻この場から立ち去れば、これ以上危害は加えません。」
俺「そうはいかないっス。俺たちは、アンタたちのその先に用がある。」
アダム「退かへん言うとるんが聞こえへんのかワレ。」
俺「退かないなら、押し通る。」シャン
刀を抜き、切先を二人へと向ける。
イヴ「・・・どうやら、何を言っても無駄なようです。いいでしょう、あなた方とは決着をつけねばならない。ここで滅して差し上げましょう。」
アダム「そういうこっちゃ、恨むなや。」シャン
アダムも、以前の大剣ではなく、腰に帯刀していた刀を抜き打つ。
アダム「ほんなら・・・」
俺「いくぞ・・・!!」
ブォン!
互いに肉薄。その間にイヴは詠唱を開始する。
アダム「オラァ!!」ヒュン!
先手はアダム。袈裟懸けに俺へと刃を振り下ろすが、俺はそれをすれ違いざまに捌く。
空戦における刀剣術は基本、切り結んだ後、いきなり止まることはできず、身を翻すのに多少の時間を必要とする。
だが、今の相手にはその常識が通用しなかった。
アダム「よそ見すんなや!!」
再び、後方から唐竹に振り下ろされた刃。
俺「くっ!!」ギィン!
俺は無理やりストライカーを反転させ、刃を受け止める。
グレゴリの2人は、魔力により飛行しているのではない。あくまで、ストライカーは浮遊を行うための媒介。
その証拠に、2人のストライカーには魔力によるプロペラが発現していない。2人は体に無理やり宿されたネウロイの力で浮遊しているのだ。
ストライカーの機動では、彼らの機動についていくことは難しい。
俺は刀の柄をしっかりと持ち、峰に手を添え、直上から振り下ろされた刃を懸命に受け止めている。
アダム「言っとくけどなぁ、お前に腕斬られた恨み、忘れとらへんからのぉ。」
俺「アンタこそ・・・バルクホルン大尉を傷つけた事と、サーニャを傷つけようとしたこと・・・許さないっスから。」
アダム「ほんなら、またお仲間斬ったろうか?こんな風になぁ。」
フッ…
俺「!!」
刹那、目の前からアダムの姿が消える。
俺「くそっ!!どこだ!!」
懸命に探すもなかなか見つからない。ふと、背後に風を切る音と気配を感じる。
俺「そこかっ!!」
ギィン!!
反転し、刀を振るう。金属同士が打ちつけ合われたような甲高い音が響く。
アダム「ハッハァー!ご名答や。よぉ分かったな。」
俺「俺の家族に手を出したら、許さない・・・」
アダム「安心せぇや。お前倒すまでは手ぇ出さへんから・・・っと!」
不意に、アダムがその場から後退し、距離を取る。
イヴ「フィムブルヴェト!」
声が聞こえると同時に、頭上に巨大な氷塊が現れ、俺へと振り落ちる。とても回避が間に合う状況ではない。
俺「スルト!!」
俺の意思に呼応し、刀を蒼炎が覆う。それを真っ直ぐに振り上げ、氷塊へと打ち付ける。
炎により氷は完全に気化し、辺りを濃い水蒸気が覆った。
---航空母艦『ライオン』甲板---
シャーリー「俺は!?」
ミーナ「大丈夫、まだ反応がある。生きてるわ。」
ミーナの空間把握能力は、確かに俺の存在を捉えていた。
水蒸気が晴れると、俺の姿が見えた。俺は再び、相手と刀を打ちつけ合っていた。
サーニャ「俺・・・」キュッ
俺から預かったリボンを握りしめるサーニャ。
エイラ「サーニャ・・・」
ゲルト「くっ・・・いくら手を出すなと言われても、相手は二人・・・あれでは劣勢だ・・・」
ルッキーニ「少佐、なんで行っちゃだめなの・・・?」
坂本「それが、俺からの頼みだ。あの二人は、必ず自分が退ける、だからみんなが手を汚すことはない、とな。」
エーリカ「俺一人だけが、手を汚すってこと・・・?そんなの・・・」
坂本「いや、そうではない。俺も、相手をできるだけ傷つけずに退ける術を私とともに身に着けた。ただ、今のままではあまりにリスクが大きすぎるがな・・・」
芳佳「坂本さん。」
ふと、宮藤が坂本の名前を呼ぶ。
坂本「どうした、宮藤。」
芳佳「私も、あそこへ行きます。」
リーネ「芳佳ちゃん!?」
ペリーヌ「あなた、何を考えて・・・」
坂本「それはダメだ、宮藤。お前を危険な目に合わせる訳には・・・」
芳佳「坂本さん。」
坂本の言葉を遮るように、宮藤が再び名前を呼ぶ。
芳佳「お願いします。行かせてください。」
しっかりとした口調で、そして、一切の濁りを感じさせない真っ直ぐな瞳を坂本へと向ける。
芳佳「私だって、坂本さんや俺さんと一緒に稽古してきたんです。それに、坂本さんだって、きっと私と同じこと考えてたんじゃないんですか?」
坂本「! ・・・」
宮藤に考えていたことを見抜かれた坂本は、押し黙ってしまう。
芳佳「私、言いましたよね。坂本さんの分も戦うって。」
坂本「・・・・・」
芳佳「お願いします、坂本さん。」
誰もが、坂本は反対すると思っていた。しかし、
坂本「ミーナ。」
ミーナ「・・・何かしら。」
坂本「・・・宮藤を、送り込む。」
全員『!?』
ミーナ「ダメよ。許可できないわ。」
坂本「頼む。」スッ
芳佳「!!」
何を思ったか、坂本は甲板のウッドデッキに膝を屈し、頭をつけた。
坂本「この通りだ。」
土下座。己を押し殺し、平伏して相手に礼節を尽くす、扶桑の礼式。ミーナもそれを知っていた。
ミーナ「美緒・・・」
今、目の前にいる戦友は、ミーナに対して最大級の礼節を尽くし、懇願している。ミーナにとって坂本は戦友と言う言葉ではくくれないほどの仲。
その坂本がここまでして自分に頼みを申しでている。それを無碍にすることなど、ミーナにはできなかった。
ミーナ「・・・必ず生きてここまで帰ってくること。それが条件です。」
芳佳「ミーナ隊長!!」
坂本「ミーナ・・・ありがとう。」
ミーナ「もう頭を上げて頂戴・・・あなたにそんな事、させたくないわ。」
坂本が平伏を解き、立ち上がる。
坂本「行って来い宮藤。俺を助けてやってくれ。」
芳佳「はい・・・!」
リーネ「芳佳ちゃん!!」
芳佳「ごめんね、リーネちゃん。私、行ってくる。」
ギュッ
芳佳「り、リーネちゃん!?(む、胸があたって・・・)」
リーネ「絶対、戻ってきてね・・・約束だよ・・・?」
芳佳「うん、大丈夫。絶対帰って来るよ。」
その言葉を聞いたリーネが、抱擁を解く。
リーネ「・・・いってらっしゃい。」
芳佳「うん!いってきます!!」
そして宮藤は震電の待つハンガーへと駆け出した。
最終更新:2013年01月29日 14:27