『君がいるバレンタイン

スオムス雪原 1943年


2月14日、世は俗に言うバレンタインデー
女性達は恋のために計算をはりめぐらせ、男性達は淡い希望に期待をせずにはいられない
そんな浮かれた日に、家業でもあり趣味でもある狩りに没頭している少年がいた
夕方の雪原に響く銃声
舞う鳥達
走るトナカイ
見事に逃げられてしまった

俺「調子悪…」

幼い頃より生活のために狩りをせざるを得なかった彼の銃の腕は本物
この年齢で村の大人達の誰よりも上だった
なぜ調子が悪いのか?誰からもチョコレートを貰えなかったから?
思春期を迎えた彼と同年代の少年少女達は皆恋に恋する年頃、割と端正な顔立ちをしている部類に入る少年は本気とも冗談ともとれるチョコレートを幾つか貰っていた

ではなぜ?

俺「イッル元気かな?」

幼い頃よりずっと一緒だった少女の事を考えている
少女は世界を守るウィッチになった
産まれ育ち、互いに沢山の思い出を育んできたこの村を出て行ってから早一年
彼女のいない冬は呆れるくらいに退屈だった


俺「・・・」


狩りを早々に諦め、帰路につく
幼馴染の少女は類まれなる才能を早々に開花させ、スオムスのトップエース
その愛くるしい外見もあってか最早国民達のスターになっていた
彼女を象った人形が発売されればすぐに売り切れ、ピンナップも高値で取引されている
まぁ、その全てを少年は自分の部屋に揃えていたのだが…



気付けば、いつのまにか彼女が村を出る際に少年に手編みのマフラーを手渡した場所で立ち止まっていた

俺「・・・」

成長期に入り彼女が編んでくれた「ちょっと長めのマフラー」ももう「少し短いマフラー」になっていた
マフラーにそっと手を触れて、星の見えてきた夜空を見上げる
空はあの頃と変わらない、変わったのは近くに彼女がいない事だけ

俺「イッルがいれば・・・俺にチョコくれたかな?」



俺「ま、甘い物苦手なんだけどね・・・」





「相変わらず辛気臭い顔してんのナ」





俺「え?」

ここにいるはずの無い少女の声が聞こえた
空耳か?それとも彼女の事を考えすぎて統失にでもなったのか?などと考える


エイラ「なーにアホ面してんだヨ」


少年の頭を後ろから叩いたのは彼が想い続けた少女
スオムス空軍の制服にコートを羽織っている
手には紙袋をぶら下げて、表情は昔と変わらない
悪戯を成功した時の笑顔
少年が一番好きな少女の顔だった

俺「イッル・・・なんで・・・」

少女の言うように口を半開きでアホ面の少年

エイラ「えへへ、びっくりしたロ?今日は非番だったからサ、急に村のみんなに会いたくなってサ」


俺「そっか」


エイラ「久しぶり会ったのにそんだけカヨ、もっとあんだろー?「綺麗になったな」とか「寂しかったよ」とか・・・」

俺「まぁ・・・寂しかった・・・かな・・・」



エイラ「!?」

エイラ「・・・そっかそっか」



少女は驚いた表情を見せた後、自分が冗談で言った言葉を真剣な顔で恥ずかしげも無く述べた少年に赤面してしったようだ
若干、嬉しそうにも見える




エイラ「で、だ!」

エイラ「たまたま今日お休みだった私が、たまたまマフラーを編みあげてしまってナ」

俺「一日でできんのかよ?」

エイラ「で!できる!細かい事はいいんダ!!」

エイラ「たまたま会ったお前にやる、どうせ前に私があげたマフラー巻いてんダロ?」



偶然今日非番で…
偶然今日マフラーを編みあげて…
偶然出会った俺のマフラーが小さくなっていたのであげる…
こう少女は言いたいらしい



俺「ありがと、すっげぇ嬉しい」

そう言って少年は袋からマフラーを取り出す
前と同じ「純白のマフラー」
すかさず首に巻いてみる

また、少し長い

エイラ「ふふっ、お前あんまり身長伸びてないナー。もうちょい伸びてると思ってこの長さにしたのに・・・」

俺「ん?偶然編んだんじゃないのか?」



エイラ「だ――――――ッ!!!そうそう!偶然ナ!!偶然お前の身長が伸びてる気がしてナ!!!!」



少年の意地悪な質問に少女は絶叫して恥ずかしさを隠す
実際少女本人もなぜ少年に会いたくなったのか理解できていなかった
理由も無く会いにくる事がなぜか恥ずかしい事だと思ってしまっている



エイラ(なんでこんな辱めを私が受けるんダヨ・・・)

などと考える少女の目に、首に巻いたマフラーを握り締めている少年の姿が写る

エイラ(まぁ・・・あんだけ喜んでくれるなら、よかったかな?)

エイラ(あいつ甘い物嫌いだし・・・)



それから2人は沢山の事を話した
一年間で感じた事、変わった事
言葉の端端に互いに成長を感じていた

ちょっと長めのマフラーの余った部分をエイラも首に巻いて
幼かった時のように寄り添って互いの温もりを感じながら語り合う
オーロラのカーテンに包まれて、普段の意地っ張りで不器用な2人からは考えられない程に心の壁を取っ払って素直になれている
これはバレンタインデーの魔法だろうか?それとも懐かしさゆえだろうか?



エイラ「あ、もう時間だ・・・そろそろ帰らないと間に合わナイ」

シンデレラの魔法の刻限のように、少女に迫る門限

俺「送るよ」

エイラ「いや大丈夫・・・そうじゃないと・・・多分また会いにきてしまう・・・甘えてしまう」


俺「そっか・・・」

少女がどういう想いで今日この村にきたのか・・・
なんとなく少年は感じ取る
そうだ、「ダイヤのエース」も魔力が無ければ普通の少女


俺「だったら、イッルが帰ってくる場所ちゃんと守っておかないとな」

エイラ「?」

俺「いつ帰ってきても、お前がちゃんと心安らげるように」





エイラ「・・・ありがとう」








それから、少年がスオムス軍に志願したのはすぐだった
産まれ育った村の周辺警備隊に配属され、ひょんな事からその狙撃の腕を見出された少年は前線に出される

次の年の冬、コッラー河に攻め入ったネウロイ4,000を少年を含む32人で撃退すると言う世界でも異例の事態を引き起こした

少年は、少女から貰った純白のマフラーを靡かせ
無慈悲に次々とネウロイを狩り続けたと言う


誰が呼んだか、「白い死神
少年はいつしかそう呼称されるようになる


今日も死神は狩りに出る
鎌では無く、銃を携えて
大切な彼女との約束を守るために…
最終更新:2013年01月29日 14:39