ロマーニャに新たなネウロイの巣が現れてからしばらく経つ。
 ここ、最前線である第501統合戦闘航空団ロマーニャ基地は連日襲来するネウロイの迎撃で大わらわ……
 なんてことはなく、不規則に現れるネウロイを迎撃して日々を過ごしていた。

 規模にもよるが、一つの統合戦闘航空団に出来ることなんてたかが知れている。
 要は、最後の敵となるネウロイの巣の本体に対する有効な攻撃手段がないのだ。
 巣を守る大量のネウロイと戦うだけの戦力もない。ないない尽くしだ。
 今は連合本部がそれらの手段を用意するためしゃかりきになっている頃だろう。

 つまり、人類の存亡を懸けた戦いの最前線……の一つではあるのだが、実にのんびりと毎日を過ごしていたのだった。

坂本「ようやく見つけたぞ……フランチェスカ・ルッキーニ、そして、俺!」

 ……これさえなければ。

ルッキーニ「お、俺……」

俺「あちゃー。バレちまった。こりゃ腹を括るしかねぇなぁ」

ルッキーニ「にににに逃げ、逃げよ?」

俺「やめとけ。逃げれば逃げた分、オシオキが増えるだけだ。今なら最安値で済むぜ」

坂本「ごちゃごちゃ言っとらんで、さっさと降りて来いっ!!」

 俺とルッキーニは声に押されるようにして、木陰に吊られたハンモックから降り立った。

俺「ほらルッキーニ、坂本少佐にごめんなさいだ」

ルッキーニ「ごめんなさいー」

坂本「それで済むなら軍規など要らん。私の訓練をサボタージュした申し開きはあるか?」

俺「強いて言うなら、眠かったからですかね。ほら、今日はすげぇ良い天気だし」

ルッキーニ「良い天気~」

坂本「……おい俺、私をおちょくっているのか?」

俺「まさか。俺は正直者ですよ。自分自身に対しては、ですけど」

坂本「お前が私を怒らせたいのはよーく分かった。そこに直れ、烈風丸の錆にしてくれる!」

 少佐が鞘走る一刀を縦一線に叩き付ける。
 真横に居たルッキーニは、少佐のあまりの気迫に完全に顔面蒼白だ。
 が、刀は俺に当たらず地面を抉るだけ。その俺は少佐の背後から後頭部に拳銃を突きつけている。

俺「そちらこそ、狙撃手の目を舐めないでいただきたいね」

 刀を抜く動作など、最初から見えていた。
 だからいつでも避けられるようにしていたし、回り込んで拳銃を抜く用意もバッチリだった。

坂本「……フン、その実力があればこそ、問題が表沙汰にならずに済んでいるんだぞ」

俺「褒めるのか怒るのか、どっちかにしてもらえませんかね」

 お互いに武器を納める。茶番は終わりだ。

坂本「全く……『STRIKE WITCHES』が再結成されるまでの半年間で、お前の身、いや、脳に一体何があった?
  ブリタニア基地に居た頃はこんなじゃなかったのに」

 強いて言うなら、大人になった。
 ただ素直でいればいいだけのガキでいる時代は、とっくに過ぎ去った。

俺「まあ、死に掛けましたからね。人格に影響が出ても不思議じゃないでしょう」

坂本「ふう……プライベートなことを話せとは言わんが、それを理由にいつまでもこんな真似が許されると思うなよ。
  今回の件だって、私がミーナに報告書を出せば、これまでの積み重ねと併せて即査問会だ」

俺「最低限の仕事くらいはこなしてます。俺如きに多くを求めないで欲しいですね」

坂本「お前は態度こそ不真面目だが優秀なウィッチだ。それに加えて、技術者としても非凡なものを持っている。
  『STRIKE WITCHES』を再結成する時、ガランド少将とは別のルートでお前が色々と手を尽くしてくれたことも感謝している。
  だからこそ、戦闘面でも兵站面でも中核になれる未来の佐官と思って期待しているんだぞ」

俺「重荷ですね。そんなのは俺の担当じゃあない」

 と、捨て台詞を残して去ろうとする俺の襟首を、少佐はがっちりと掴んで離さなかった。
 くそ、それっぽい雰囲気作って逃げようと思ったのに。

坂本「最安値のオシオキがまだだ。……ルッキーニ、逃げたら値上がりだぞ?」

 そろりそろりと近くの木の裏に回り込もうとしていたルッキーニが、ビクリと身体を震わせて振り向いた。
 あーあ、健康的で可愛らしい顔が涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。

坂本「……楽に死ねると思うなよ?」

 少佐の邪悪な嬌声と共に、俺とルッキーニはこの世の地獄へと叩き落とされた。


          *          *          *


シャーリー「いやぁ俺、悪かったなぁ。ルッキーニの分まで頑張ってくれたんだって?」

俺「ガラにもねぇことしちまった。おおシャーリー、501の女神。哀れな俺を癒してくれ」

シャーリー「はっはっは、風呂にでも入れ。筋肉痛はそれで随分良くなるらしいぞ」

俺「つれねぇなぁ」

シャーリー「ま、あたしは俺となら別に良いんだけどな。でもほら、今はルッキーニと相部屋だし?」

俺「俺は個室だぜ?」

シャーリー「あたしらが入ると中佐がすっ飛んで来るからなー。あそこは無理だわ」

俺「違ぇねぇ」

 はっはっはと俺も笑う。シャーリーはこの部隊がブリタニアの基地に駐屯していた頃から、こんな軽口を叩き合う仲だ。
 女神という形容もあながち間違いではない。話しているだけで気が楽になる。

シャーリー「……しっかし、お前は変わったよなぁ」

俺「変わっちまったなぁ。撃墜報告書なんてまともに書かなくなったし」

シャーリー「いいのか? カールスラントの撃墜報告は世界一厳しいって聞いてるけど?」

俺「厳しいぜ? いつどこで撃墜したか、証人は誰か、何発使ったか……覚え切れるかっつうの。
  面倒だから中佐が把握してそうな分しか出してないなぁ」

シャーリー「……で、実際の数字は?」

俺「えーっと、数え漏れがなければ242。公式戦果は138だったかな」

シャーリー「スーパーエースじゃんか」

俺「性に合わねぇ。ついでだから公式と非公式の差をどれだけ広げられるか挑戦中」

シャーリー「……やっぱお前、変わったよ。多分、良くない方向にさ」

俺「だよなぁ。みんながそう言うよ……あぁやばい。シャーリーはもう行きな。お小言の時間だ」

 バルクホルン大尉が廊下の角から姿を現したのを見て、俺はげんなりとした。エーリカが一緒なのが救いか。
 二人とも顔が少し赤い。おそらく風呂上がりなんだろう。

シャーリー「あいよ。そいじゃあたしも風呂入るかなー」

バルクホルン「なら急げよ。もうじき男性が入浴する時間だ」

 シャーリーはひらひらと手を振って、バルクホルン大尉がやってきた角を曲がって行った。
 それは同じ大尉である彼女にか、それともこれからお叱りを受ける俺にか。

バルクホルン「さて、俺。私が何を言いたいか、分かっているな?」

俺「イエッサー」

バルクホルン「はぁ……いつからお前はこんな問題児になった。
  ガリア戦の頃はここまでじゃなかったし、空軍に居た頃はマルセイユを庇うくらいだったのに……あ」

 マルセイユ。その名を聞いて、俺も口に出した当の大尉も表情を陰らせた。
 ハンナ・ユスティーナ・マルセイユ。それが、俺と大尉を繋ぐ人物の名だ。
 かつてカールスラント空軍に所属していた俺は、大尉、エーリカ、そしてティナ……マルセイユのことだが、
 彼女らと同じ隊に所属していた。言わば、バルクホルン大尉は様々な意味において上司なのだ。

俺「……あいつ、元気にしてますかね? アフリカの情報って最新の手に入りにくいから」

バルクホルン「まあ、元気にやってるだろう。あいつにはアフリカの空気の方が合っているはずだ。
  どの部隊よりも、当然、ここよりも……。というか、それはどうでもいい」

俺「どうでもいいのかよ」

バルクホルン「せっかくハルトマンが珍しく頑張ったというのにお前、連絡取ってないそうだな?
  ガリア解放後はアフリカまで行ったそうじゃないか。それなのに……」

俺「あいつはアフリカで、俺はノイエの兵器開発省に転属して。自然消滅してもおかしくないでしょう。
  ダメ元で会いに行ったら、なんか復縁出来たってとこですよ。でも、あいつの横には、もう俺の居場所なんかありませんでした」

 そう、居場所を確保することさえ、既に困難になっていた。

バルクホルン「その結果が、この体たらくか? マルセイユが見たら泣くぞ」

俺「怒り狂うんじゃないですかね。それでも私を抱いた男かー!って」

 おや、大尉が顔を真っ赤にしている。……そうだ、大尉はこの手の話題に免疫がないのだった。
 お小言に耐えられんと思ったら取りあえず下ネタを振る。大抵はそれであっさり崩せる。

俺「じゃ、俺もそろそろ風呂の支度します。お休み、我が愛しのトゥルーデ」

バルクホルン「~~~~!! ……ああ、もう、行ってしまったか。
  ……はっ、結局昼間のことを何一つ言えてないじゃないか!」

エーリカ「やっと終わった。毎回このパターンなのに必ず引っ掛かるんだよねートゥルーデはさぁ」

バルクホルン「ぬ! ハルトマンに馬鹿にされた気がする……!」

エーリカ「目と鼻の先に居るっつーの」


          *          *          *


 風呂上がりの俺は、すぐには部屋に戻らず、部屋からそう遠くない場所にある庭園に来ていた。
 ここで毎晩星空を眺めてぼーっとするのが俺の日課だった。

 俺の部屋には必要最低限のものしか置いてない。
 以前は自室に愛用の対戦車ライフルを飾っていたが、アフリカに置いてきてしまって今は手元にない。
 どのみち、そんな殺風景な部屋に居ても思い出のライフルを見ていても、あいつのことを思い出した今日は気が滅入るだけだ。

俺「星が綺麗だねぇ……」

 アフリカの星。彼女は今そう呼ばれている。あのティナが、今やアフリカ戦線の希望の星だと言うのだ。
 一瞬、柄でもないと笑いそうになるが……

俺「……いや。あいつには、そういうのこそ似合ってるのかもしれないな」

 俺とハンナ・ユスティーナ・マルセイユの出会いは、実に十五年程前に遡る。
 実家がお隣さんだった。歳は一つしか違わない。俺の両親は純粋培養の扶桑人だが、仕事の都合でカールスラントに住んでいた。
 一時期は疎遠になったりもした。が、俺にウィッチの適性が見つかり、ウィッチ養成校の門を叩いてみたら、入学式でばったり再会してしまった。
 男女比一:数百のハーレムを期待していたのに、入学初日でその目論見が木っ端微塵に打ち砕かれたわけさ。
 実際に軍に配置されたら、今度は(愛しの)トゥルーデの部下となったお陰で、浮ついた話の無さにはちょっとした自信があった。

俺「ガキん頃はお兄ちゃん、お兄ちゃんって可愛かったんだがなぁ」

エーリカ「おにーちゃん、しょーらいはティナをおヨメさんにしてぇ~」

 いつの間にか隣にエーリカが座っていた。一応、こいつには感謝している。
 俺とティナが付き合うことになったのは、七割ほどこいつのお陰だからだ。

俺「ようキューピッド・フラウ。夜更かしはお肌の天敵だぜ」

エーリカ「いいもん、睡眠時間はちゃんと確保してるから」

 以前、どうして俺とティナの仲を取り持ってくれたのか聞いたことがある。
 曰く、何かと勝負を挑んでくるティナが鬱陶しくて仕方ないので、オトコの一人でも出来れば矛先が変わるのではと思ったそうだ。
 しょうもない理由だが、その結果として俺とティナはくっついたわけで、それはそれで感謝するべきだろう。
 ちなみに、エーリカ自身の目的は達成されなかった。配属先が分かれるまでティナに付き纏われていた。

エーリカ「どうして連絡取ってないの?」

俺「いきなり踏み込んで来んな」

エーリカ「私功労者だよ? もし俺がこんなんになったの、ハンナとのことが原因なら、ちょっとは責任あるわけじゃん?」

俺「お前までこんなん扱いかよ」

エーリカ「こんなんで充分。で、どうなの」

俺「……あいつはさぁ、ウルトラスターなんだよ。ウルトラスターになっちまった。
  俺みてーについてくだけでやっとの野郎が傍に居ていい存在じゃなくなっちまったのさ」

エーリカ「……それだけ?」

俺「おうともよ。実際にアフリカ行ってそれが良く分かったよ。だから欧州に戻って来たんだ」

エーリカ「どうだかー。そんな理由だったらハンナが離さないと思うなー。俺のことテッテー的に鍛えそう」

俺「ばれたか。……まぁ、エーリカならいいか。俺な、アフリカじゃ死んだことになってんだよ」

エーリカ「えっ……?」

俺「知っての通り、向こうじゃティナは超・ウルトラ・スーパー・スゴイ・人気っぷりだ。
  そんな女神に男が居るなんて分かったらどうなる? それも、とんでもなく身近にだ。
  ウィッチと男性兵士は必要以上の接触禁止なの、加味して考えてな」

エーリカ「あー……何となく分かった」

俺「……ケイが報せてくれてなかったらマジで死んでたよ。あ、ケイってのは統合戦闘飛行隊アフリカのボスな。
  それで、ケイのコネ使って俺を本当に死んだことにして、こっちに帰ってきたところをミーナ中佐に拾われたのさ。
  中佐にはその時に事情を全部話してある。あの人は情報の流れに敏感だし、信用出来るからな。
  兵器開発省に所属してたのも幸いした。あそこは機密を取り扱うことが多いから、話さえ通せば公式に身分を偽れるんだ」

 ちなみに俺の場合は、俺が基礎設計を担当した試作ストライカー・エーヴィヒシュテルンに組み込まれたある機能と、
 魔導技術研究班が鋭意開発中の新型魔導兵器のテスト運用という名目で話を通してある。
 どちらも完成前に表に出すには危険すぎる代物なので、機密性は充分だった。

エーリカ「ナルホドねー。ハンナはそのこと知ってんの?」

俺「知らないよ。ケイにも開発省で噛んでる連中にも堅く口止めした。悪いとは思ったけど、知ってればどうしても態度に出るからな。
  向こうの陸軍には非公開情報に精通した佐官も多い。知らせず、一切の連絡を絶つしか選択肢がないと思った」

エーリカ「じゃあ、不真面目だったり書類出さなかったりするのは、わざと露出を控えてるってこと?」

俺「メディアに出ることだけは絶対に避けないといけないからな。最初はそのつもりで……
  今は半分がそうだ。いつの間にか、色んなことがどうでも良くなっちまった」

エーリカ「ハンナのことも?」

俺「んなわけねぇだろ。今でも一番大事に思ってるさ。俺がアフリカの情報集めてるの、知ってるだろ?」

エーリカ「だったら死んだことになんかしなくてもいいじゃん。こんなやり方、おかしいよ」

 エーリカの口調が徐々に熱を帯びてくる。こいつは何を必死になっているんだ?

俺「おかしかろうが何だろうが、死んだら元も子もねぇだろ。ティナに危害が行かねぇとも限らねぇし」

エーリカ「違うよ……。俺はハンナを理由にしてるだけだよ」

 その一言は、俺のド真ん中を遠慮なく貫いた。

エーリカ「最初に言った理由、嘘じゃないんでしょ。そっちのが本当の問題なんじゃないの?」

 ……あらら。そう言えばトゥルーデに聞かれた時もこいつ居たっけ。
 あれを聞いてたら類推出来なくもないかもしれない。

エーリカ「俺はさ、もっと自信持っていいと思うよ。銃の腕とかストライカーの知識とか凄いじゃん。
  自分のストライカー自分で作ったりさ、ここに居る誰にも真似出来ないよ」

俺「……そうやって自信持って、頑張ってもさ。あいつには届かねんだよ。届かねぇってこと、気付いちまったんだよ」

 そんな状態で一体何をどう頑張ると言うのか。やればやるだけ、決して並べないという事実が重なるだけなのに。
 それほど、アフリカで見たあいつは輝きに満ち満ちていた。その分、出来る影も濃くなるってもんさ。

エーリカ「ねぇ俺?」

俺「何だ?」

エーリカ「そんなにさ、自分のこと悪く言わなくてもいいじゃん……」

 普段のエーリカらしからぬ言葉に彼女を見ると、その双眸が潤んでいた。

エーリカ「自分のことそんな風に言ったらさ。俺に期待したり俺を信じてる人たちはもっと馬鹿みたいじゃん」

 ふと、昼間の坂本少佐の言葉が浮かんできた。501再結成以後、散々迷惑を掛けっぱなしだが、それでも目を掛けてくれている。
 ……そうだな。エーリカの言う通りだ。普段も普段だが、今日の俺はどうかし過ぎだ。

俺「……悪かった。今言ったことは全部忘れろ。それじゃ俺、もう寝るわ」

 でも、こうやってお茶を濁すことしか出来ないあたり、俺はやっぱりダメな奴なんだと思うのさ。


 そして。

エーリカ「忘れないよ。俺とのこと、一つだって忘れない。忘れてあげない……」

 溜まった涙が零れ落ちたことを知る者は、彼女以外には居なかった。


          *          *          *


 翌朝――
 エーリカはいつも通りだった。いつも通りに寝坊して、いつも通りに一番最後に食堂に現れて、
 いつも通りにゆっくりと飯を食って、いつも通りに二度寝に戻った……いや、最後のだけはバルクホルン大尉に阻止された。
 結局、朝のブリーフィングの席で爆睡していたが。

ルッキーニ「俺ー、身体大丈夫?」

俺「ん? ああ。流石に逆エビはきつかったけどな。痛い所はねぇよ。もう気にすんな」

ミーナ「今日の午前中の哨戒任務は……俺くん、ペリーヌさんのロッテね」

ペリーヌ「俺さん……ですの」

 ペリーヌ・クロステルマン中尉。この部隊の中では俺を毛嫌いしている、マイノリティさんだ。
 いや、本来なら毛嫌いされて当然のことをしてきているわけだが、どいつもこいつも俺への態度を変えたがらない。
 それこそが異常なんだ。

俺「まぁ、気楽にやろうや。そういやお前と組むのはガリアん時以来だな」

ペリーヌ「そうなりますわね。あれからさらに男を下げたようですこと」

 ああ、下がりまくってるだろうな。昨晩も最安値を更新したばかりだ。

坂本「そう邪険にしてやるな。我々が素早く再結集出来たのは俺の力による所も大きいんだぞ」

俺「たまたま人脈があればこそですよ」

ペリーヌ「~~~っ」

 俺が少佐に評価されているのが気に喰わないのか、押し黙ってしまった。
 この子はガリア貴族の出で、ガリア解放までは精神的に余裕がなかったのか、非常にツンケンとしていた。
 ここロマーニャに移ってからは少しは柔らかくなったように見えたのだが、俺に対してだけは態度を硬化させる一方だった。
 まあ、その理由は俺自身にあるんだけど。

俺「そう睨むなよ。仕事は果たすさ。そうでなきゃここに居る意味がないからな」

ペリーヌ「フン……せいぜい、わたくしの背中をお守りなさいな」

俺「へぇ、前に出なくていいのか。そりゃ楽だ。尻を眺めてりゃいいだけだなんて何て素晴らしい仕事なんだ」

ペリーヌ「……『トネール』ッ!!」

 雷鳴、もしくはコノヤロウという意味だ。これが彼女の固有魔法。俺もこっそり固有魔法で対抗したため無傷で済んだが
 たまたま近くに居たフランチェスカ・ルッキーニとエイラ・イルマタル・ユーティライネンが巻き添えを食った。

ルッキーニ「びぇぇ~~~っ」

シャーリー「お~よしよしルッキーニ。おいペリーヌ、いきなりトネールはないだろう」

エイラ「ナニすんだヨこのツンツンメガネ!!」

サーニャ「エイラ、髪ぼさぼさ……」

ペリーヌ「ええい、おだまりなさいな!」

俺「大人気ねぇなぁ。小皺が増えるぞ」

ペリーヌ「ムッキー!!」

 大人気がないのは俺も同じだがな。ははは。

 やがてミーナ中佐のインディグネイションが落下し、トネールなど取るに足らないレベルのそれは、問題を強制的に終息させた。
 俺もこっぴどく叱られたことは言うまでもない。ジョークの通じない奴らだ。


          *          *          *


 まあ、こんな出来事があればギクシャクするのは当然なわけで。
 空に上がっても、ペリーヌは一言も口をきいてくれなかった。

俺「お前はさぁ、カタ過ぎんだよ。あのくらいツーンとすまして受け流しゃいいんだ」

ペリーヌ「お願いだから口を開かないで下さる? うっかり殺してしまいそうですから」

俺「やれるもんならやってみな。俺に当てられないことは分かってんだろ」

ペリーヌ「~~~っ」

俺「やれやれ。……ん? 今、上に何か居たぞ」

ペリーヌ「口を開くなと、言いましたのよ」

俺「あれは……ネウロイじゃないか?」

ペリーヌ「そんなこと言って気を引こうとしても無駄ですわ」

俺「スコープで確認するか……ってやっぱりネウロイじゃねえか。あ、スコープの反射でこっちに気付きやがった。
  ペリーヌ、バカやってる場合じゃねぇぞ。司令室、こちら哨戒任務中のフェンサー2。ネウロイ発見。方位320、高度約20000」

ミーナ『こちら基地司令室。ケファラス型一体確認。中型爆撃タイプが単独行動というのが気になるけど……周りに敵影がないのも確かね。
  接近して情報を収集してもらえるかしら。すぐに増援を上げるわ』

ペリーヌ「この声はミーナ中佐? ということは……本当にネウロイ?」

俺「……だから言ってんだろうが。フェンサー2了解。ただし陽動の可能性を考慮し、エース連中を中心に半分は基地待機にしてくれ。
  迎撃行動に移る。先行くぞ」

ペリーヌ「ふぇ、フェンサー1了解。ちょっと、先任指揮官はわたくしですわよ! お待ちなさいな!」

ミーナ『……ふう。大丈夫かしら……』


俺「フェンサー2よりフェンサー1、及び基地司令室へ。目標確認。速度約15ノットで真っ直ぐ基地に向かってる」

ペリーヌ「お待ちなさいってば! もう!」

ミーナ『基地司令室了解。交戦を許可します。威力偵察及び足止めをお願い』

ペリーヌ「とにかくこちらの指示に従いなさい! フェンサー1、エンゲージ!」

俺「へいへい。フェンサー2、交戦」

 いくら爆撃型のネウロイだからと言って、対空砲を持っていないわけではない。
 敵の射程内に入るなり、ビームの応酬が俺たちを襲った。

ペリーヌ「まずは一撃入れて様子を見ますわ。撃ちなさい」

俺「……俺の方が軍歴長いんだけどなぁ」

ペリーヌ「ぼやく暇があったらさっさと撃ちなさい!」

 これ以上怒らせたら本当に小皺が増えそうだ。
 俺は得物のシモノフを構え……ネウロイのド真ん中目掛けて引鉄を引き絞った。

俺「さて、当たったは当たったが……」

ペリーヌ「もう修復されてしまっていますわ」

俺「単独行動の理由はこれか」

 食らっても即再生して耐える。目標を破壊するまで。とてもタチが悪い。

俺「どうする? あれより速く撃ち続けるのはちょいと厳しいぞ」

ペリーヌ「攻めるなら頭数が必要ですわね。増援を待ちましょう。それまで足止めに仕掛けますわ」

俺「了解。フェンサー2、敵翼部に攻撃を集中する」

ペリーヌ「ええ。バランスを崩せば速度も落ちるはずですものね。良い着眼点でしてよ」

俺「……威張ることかよ。まるっきり教本通りだぜ」

ペリーヌ「何か言いまして?」

俺「フェンサー2、攻撃開始」

ペリーヌ「誤魔化しましたわね……」


          *          *          *


シャーリー「俺! あとペリーヌ! 無事か!」

エイラ「ったく、ナンで私までツンツンメガネの方なんだヨ」

ルッキーニ「うじゅービリビリイヤー」

サーニャ「ダメよみんな。真面目にやりましょう」

ペリーヌ「な、何でこの人選なんですの……。それと、ついでみたいに言わないで下さいまし!」

坂本『コアの位置が見えた。機体の中央やや後部だ。装甲が一番厚い部位になる。手が足りなければすぐに援護要請しろ』

俺「フェンサー2了解。引き続き対空監視頼む。……どうでもいいから前衛はさっさと行け。
  とにかく一点集中で装甲を削るんだ。サーニャはエイラが撃った所に撃ち込んでダメージを稼げ」

シャーリー「ラビット1了解。行くぞルッキーニ、撃て撃て撃て!」

ルッキーニ「ラビット2りょうかーい」

エイラ「リンクス1了解。サーニャ、ラビットに合わせて行くゾ」

サーニャ「リンクス2了解。リンクス1に追従」

ペリーヌ「ちょっと、先任はわたくしでしてよ!」

俺「敵を前にして、どうでもいいこと喚いてる奴になんか任せておけるか。命が掛かってんだぞ」

ペリーヌ「~~~っ!! 何でこんな時だけ真面目になるんですの!」

俺「死にたくねぇからだ。訓練サボっても書類出さなくても死なねぇが、敵の前で遊んでたら死ぬんだよ。
  ……フェンサー2、射線を確保する。敵の上部に出るぞ。フェンサー1、近接防御は任せた」

ペリーヌ「……フェンサー1、了解ですわ。前に出ます」

 ネウロイが噴く黒煙に紛れ、ビームを掻い潜って高度を上げる。
 煙を噴いているということはサーニャのフリーガーハマーが着弾したんだろう。

俺「コアはまだ見えないか……」

ペリーヌ「だいぶ撃ち込んでいるようですけど、皆さんの残弾が心配ですわ」

 俺とペリーヌは牽制射撃しかしていないし、哨戒中の会敵に備えて多めに弾を持ってきている分、まだ余裕がある。
 だが、スクランブルで基地からすっ飛んできたシャーリーたちはそうも行かないだろう。特にサーニャは九発撃ったらおしまいだ。

サーニャ「これで最後……!」

 言った傍から最後の一発が着弾し、ネウロイは爆炎と共に揺らいだ。

俺「リンクス2、安全位置まで後退しろ。各員も残弾知らせ」

シャーリー「こちらラビット1、あとマガジン一個。ラビット2も同じく。BARは弾かれてダメだ」

エイラ「リンクス1、弾切れダ。サーニャと一緒に下がるゾ。ナンだってこんなカタいんだよコイツ……」

俺「ラビット隊は斉射後後退。フェンサー1、今再生されると勝ち目がなくなる。行ってくれ」

ペリーヌ「仕方ありませんわね……貴方の機関銃もお借りしますわよ」

俺「ああ、俺はシモノフだけでいい。リンクス隊、基地に援護と補給の要請だ。手が足りない」

サーニャ「了解です」
エイラ「任せロ~」

 ペリーヌが抱える二門の機関銃から弾丸が湯水の如く吐き出されている。
 シャーリーたちが傷つけた部分に正確に撃ち込まれているが、コアの露出には及ばない。

シャーリー「あの大きさからするとあと一歩ってとこなんだが……」

俺「そうだな。どれ、援護くらいはするか」

坂本『各員、聞け。サーニャから援護の要請を受けたが、今回せる戦力はない。
  小型のネウロイがそちらとは反対側に多数出現し、ミーナと私もその迎撃に出ている状態だ。
  何とか持たせろ。こちらを片付け次第、すぐ救援に……しまった! うおおっ!』

俺「少佐!? 少佐、応答しろ!」

ミーナ『少佐なら大丈夫です。フェンサー2、そちらの状況はどうなの?』

俺「良くないです。再生速度が速すぎてコアを露出させられない」

ミーナ『してやられたわね……』

俺「あと一押しって感じなんですけど」

ペリーヌ「心配は要りませんわ。中佐、そちらは迎撃に専念して下さいまし。こちらはじきに片が付きますわ」

ミーナ『ペリーヌさん? どういうこと? 状況を正確に……』

 ペリーヌの持つ二丁の機関銃が同時に沈黙する。弾が切れたようだ。
 それと同時に、彼女はシールドを張りつつ腰のレイピアを抜いた。

俺「おい、そんなもんでどうにかなる相手じゃねぇだろ。援護すっから後退しろ!」

ペリーヌ「わたくしにだって……意地というものがありましてよ!」

俺「ペリーヌ! 無茶だ!」

シャーリー「ペリーヌ戻れ!」

サーニャ「危ない……!」

エイラ「ツンツンメガネ!」

ルッキーニ「ビリビリー!」

ペリーヌ「そう……! 弾が切れたって、わたくしにはコレがありますのよ! 『トネール』ッ!!」

 彼女の一声と共に強烈な放電が発生する。青白く光るそれは、手にしたレイピアに帯電し……

ペリーヌ「坂本少佐が危ないかもしれないというのに……これ以上時間は掛けられませんわ!!」

 ネウロイの被弾部、コアへの最後の防壁にと、投擲された。
 一直線に突き刺さったレイピアは帯電した電気を一気にネウロイへと流し込む。再生中の装甲が爆ぜ、その向こうにコアが見えた。
 これに乗らない限り、勝機はないだろう。

ペリーヌ「俺さんッ!」

俺「あぁもう。仕方ねぇな!」

 俺は、ペリーヌのレイピアのさらに奥を狙い、続けざまに二発の弾丸を撃ち出した。
 一発目がこの瞬間にも再生しようとする装甲を吹き飛ばし、二発目が隠れ損ねたコアを食い破る。
 次の瞬間、ネウロイは粉々に砕け散った。

シャーリー「おお! やったぞ!」

ルッキーニ「やたー!!」

ミーナ『えーと。誰か、正確に報告してくれる?』

サーニャ「あ……こちらリンクス2。ネウロイを撃破しました」

ペリーヌ「ふう。さて、レイピアを回収して……あら?」

 ネウロイの破片をシールドで防ぎながら上昇しようとするペリーヌだが、急に推力を失い、ガクンとその身体を揺らした。

サーニャ「あっ、ペリーヌさん、ストライカーが……!」

 見れば、ネウロイの破片が直撃したのか、ペリーヌのストライカーの片方が煙を噴いている。
 機能不全に陥っていることは誰の目にも明白だった。

ペリーヌ「落ちるっ……!? きゃあああっ!」

 だが、ペリーヌは落ちなかった。俺が回り込んで抱きかかえたからな。

俺「手の掛かる奴だな、ったく」

ペリーヌ「あ、お、俺……さん」

 ちょうどお姫様抱っこの体勢になり、状況を把握したペリーヌは見る見るうちに赤面した。
 あれ。こいつこんなに可愛かったっけ?

エイラ「剣は私が拾っといてやったゾ。ホラヨ」

ペリーヌ「あ、ど、どうも……俺さんもエイラさんも、あ、ありが、とう……」

俺「仲間だろうが。お前が俺のことどう思ってるかは……大体知ってるが、俺はお前を仲間だと思ってるぜ。ガリアん時からずっとな」

ペリーヌ「俺さん……」

俺「そうでなきゃ二番機なんてやらねぇよ。……その、なんだ。今回は俺も悪ふざけが過ぎた。許せ」

ルッキーニ「やったー! ペリーヌすごーい!」

 満面の笑みを浮かべたルッキーニが突撃してきた。そのまま体当たりよろしくペリーヌに抱き付く。
 ブリーフィングの時のしがらみはもう綺麗さっぱり忘れているようだ。

ペリーヌ「ちょ、ちょっと! こんな状態で抱き付かないで下さいまし!」

俺「馬鹿野郎、重てぇよ! スキンシップは基地に帰ってからにしやがれ!」

シャーリー「いやー見事だった。トネールってああいう使い方もあるんだなぁ」

サーニャ「仲直り出来たみたいね。良かった……」

エイラ「あーデレるメガネなんか見てらんネ。先に帰るかんナ」


          *          *          *


 その夜、俺はいつも通りにいつもの庭園で星空を眺めていた。
 この星空の下に俺が居て、あいつも居て……なのに今はこんなに離れている。
 たまったもんじゃないね。全く。

ペリーヌ「ここでしたの。お部屋に居ないから探しましたわよ」

 声の方を振り返ると、寝間着姿のペリーヌが立っていた。

俺「よう。夜更かしはお肌の天敵だぞ」

 昨日も同じ台詞を言った気がする。

俺「で、何か用か?」

ペリーヌ「一つ……お聞きしたいことがありますの。貴方が、何故普段は戦闘中のやる気を見せないのか。
  ずっとお話ししてませんでしたから……知っておきたくて」

 ……昨日も丸一日そんな話題と付き合ってた気がする。

俺「昼間も言ったろ。訓練をサボろうが書類を出さなかろうが、死なねぇってな。命懸かってりゃ誰だって真剣になるさ」

エーリカ「嘘ー。実は、ただの失恋だったりしてー」

 ああ、キューピッド・フラウ。お前はどうしてタイミング悪く出てくるのか。

ペリーヌ「し、失恋!? 恋人がいらしたの?」

 そして、どうしてそっちに食い付くのか。

エーリカ「遠く離れた砂漠にね」

俺「その辺にしとけよ。とっくに終わった話なんだからよ」

 死んだことにして出てきたのだから、強制終了以外ありえないわけで。

エーリカ「……ごめん」

ペリーヌ「そう……でしたの」

 居たたまれない空気が流れる。エーリカには後で落とし前を付けてもらおう。利子付けてな。

俺「ペリーヌが悪いわけじゃねーよ。そんな顔すんな」

 フォローを入れつつ、エーリカを追い払うようしっしっと手を振ってやった。
 エーリカは流石にばつが悪かったのか、ひらひらと手を振って素直にこの場を後にした。

ペリーヌ「でも……」

俺「生きてりゃ色んなことがあるさ。良いことも、良くないことも……。
  取りあえずだな、お前はもっと胸張っていいと思うぞ。昼間のMVPはお前だからな」

ペリーヌ「仕留めたのは貴方でしょう?」

俺「俺は横から掻っ攫っただけ。実質お前が決めたようなもんだろうが。
  ……カッコ良かったぜ。ちょっと羨ましいよ」

ペリーヌ「え?」

俺「俺は、あんな風には出来ないから。あんな風にがむしゃらになれたらって……思うよ。時々」

 そうなれたら、少しは違った今を過ごしていただろうか。
 もしかしたら、今でも彼女の隣に居られただろうか。

ペリーヌ「わたくしは……そんなやり方しか出来ませんもの」

俺「それも強みだと思うがなぁ」

 夜風が冷たい。そろそろ室内に入るべきだろうか……。
 そう思って腰を上げると、いつの間にやらペリーヌが傍に来ていた。

ペリーヌ「出来ますわよ」

俺「え?」

ペリーヌ「貴方にも出来ます。わたくし如きに出来るんですから、貴方にだって出来ますわ」

俺「……ありがとうよ。優しいんだな」

ペリーヌ「あ……えっと。あ、貴方が、普段からもっと真面目にやっていれば、その、もっと、その……」

俺「自分から余計なもん背負い込みに行くのはちょっとなぁ。俺はラクな方がいいや」

ペリーヌ「もうっ! そんなだから貴方は……!」

 俺は肩をすくめて、ペリーヌは吊り上げた眉を落として、お互いに笑った。

俺「前向きに検討しとくよ。いつまでもこのままで居られるわけじゃないからな」

ペリーヌ「では、貴方が前を向く日を楽しみにしていますわ。……お休みなさいませ」

 一際美しく微笑むと、ペリーヌは庭園を後にした。
 まあ……これまで見られなかった彼女の一面が見られたのだから、今日はそんなに悪くない一日だっただろう。

俺「前を向く日……。そんな日、来るのかね。なあ、お前はどう思う? ……ティナ」

 俺は星空を見上げる。
 星は、何も答えない。


<つづく>



次回予告


バルクホルン「かたい!」

シャーリー「はやい!」

俺「……ものすご~い。くそっ、こんな茶番やってられっか!」

ミーナ「持ち場を離れちゃダメよ俺くん。任務を果たしなさい!」

坂本「わっはっはっはっは」

リーネ「芳佳ちゃん、私たち出番なかったね……。ペリーヌさんはすごくクローズアップされてたのに……」

芳佳「私たちアニメの主人公なのにねー。ペリーヌさんアニメでもここでも目立ってて羨ましいなぁ」

ペリーヌ「人徳の差ですわ。おーっほっほっほ」

エイラ「ナニやってんだアイツラ?」

サーニャ「さあ?」

エーリカ「次回、『真紅の流星』~」

俺「心の炎が燃え上がるぜ! ……ちくしょう! 台本書いた奴覚えてろよ!」

エーリカ「にししし」

俺「お前かよ!」

最終更新:2013年01月30日 14:24