迎撃に上がった坂本、ペリーヌ、
シャーリー、ルッキーニの四名はネウロイとの交戦予想地点に近付きつつあった。
少し遅れてエーリカが合流し、五名となる。
ミーナ『目標はローマ方面を目指して南下中。ただし、徐々に加速している模様。
交戦予想地点を修正。およそ……』
坂本「大丈夫だ。こちらも補足した。……んっ!?」
突如、ネウロイがブースターパーツを分離。一機だったネウロイは五機の編隊となった。
指令室でレーダーを見ていたミーナは突然の事態に驚いて声を上げた。
ミーナ『分裂した!?』
坂本「違う、子機を切り離したんだ。数を利用して突破する気か……」
エーリカ「五対五か。ちょうどいいじゃん」
坂本「そうだな。各自散開、各個撃破。ここから先へ行かすな!」
「「「「了解!」」」」
坂本「シャーリー。コアのある本体は、あの真ん中の奴だ。かなり速い。お前に任せた」
シャーリー「ラジャー。あいつか!」
高度を上げて空域を抜けようとする本体を追い、シャーリーも緩やかに反転して上って行く。
追い付ける速度だ。後ろを取るなど、造作もない。
シャーリー「逃がすかぁっ!!」
ブローニングが勢いよく弾丸をバラ撒いて行く。だが、ネウロイには当たらない。
シャーリー「あれっ?」
いや、避けられている。このネウロイの推進部分は後方に一つきりだが、真横に近い異常な角度で移動して弾丸を回避しているのだ。
ストライカーだって一応は物理法則(笑)に則った存在だというのに、ネウロイと来たらこれだ。
そのネウロイは大きく弧を描いて反転してきた。ドッグファイトに応じるつもりなのだ。
シャーリー「お、やる気か? そうこなくっちゃ!」
ウサギは、舌なめずりをして獲物を待ち構えた。
* * *
シャーリー『くっ……じっとしてろよ……!』
ハルトマンに不意打ちで装着させられたインカムから、シャーリーの声が聞こえてくる。
すばしっこいネウロイを相手に、苦戦しているようだ。
バルクホルン「リベリアン……」
おそらくは自分を気遣って様子を見に来てくれたのに、結局喧嘩別れに終わってしまった。
どうしていつもそうなってしまうんだろう? 俺や仲間たちのことも……。
バルクホルン「私なんかより、ずっと私の心配をしてくれたのに」
得体の知れない何かに突き動かされて、結局は迷惑を掛けてしまった。
バルクホルン「どうして、私はいつもこうなんだ……」
シャーリーの荒い吐息がインカムから流れ込む。
なかなか勝機を掴めずにいるらしい。せめて……
バルクホルン「せめて、助けてやりたい……」
・・
このやり方ではまた怒られてしまうだろう。でも、今からシャーリーの所に行くには他に手がない。
俺の魔法に頼るという手もあるのだが、飛行停止処分がある以上、大っぴらに助力は仰げない。
何より、俺とした約束を反故にしてしまうことが最後まで後ろ髪を引いた。
バルクホルン「私こそ矛盾しているな。許せよ俺、シャーリー……!」
* * *
芳佳『みみみミーナ中佐! どうしましょう!』
シャーリーの苦戦の報に、ミーナ中佐は宮藤とリーネを援護に上げた。
その宮藤から連絡が入っていた。バルクホルン大尉がジェットストライカーの封印を破って持ち出したと言うのだ。
俺「あれほど言ったのに……」
ミーナ「今はそれを言ってる場合じゃないわ。トゥルーデ! 応答しなさい!」
バルクホルン『済まんミーナ、俺も。罰は後で受ける。今は……!』
ミーナ「……俺くん。トゥルーデは、あとどれくらい持つの?」
俺「回復具合から概算して五分……も持たないでしょうね。大尉、聞いてますね?」
バルクホルン『聞いている。私はあとどれくらい飛べるんだ?』
俺「三分ってとこです。三分以内にネウロイを撃破して下さい。そんでストライカーを投棄して、シャーリーに拾ってもらうんです。
それ以上の着用は最悪の可能性を招くと思っていい」
バルクホルン『了解した。それだけあれば充分だ』
了解を告げる声には、覇気があるのかないのか、よく分からなかった。
それを勘ぐる間もなく、レーダー上のネウロイがまた分裂した。
ミーナ「! レーダーの影が増えた。シャーリーさんが挟み撃ちにされるわ。急いで」
バルクホルン『もう射程に入る。ジョーカー1、攻撃を開始する!』
ミーナ「ふう。……さて、俺くん」
あぁ、怖ぇ。それ以外の感想が出てこねぇ。
ドドドドドドという実に漫画的な擬音が中佐の背後に浮かび上がって見える。
俺「……何でございましょうか」
ミーナ「ジェットストライカー。すぐに起動回路を解体するよう言ったわよね?」
俺「はい……」
ミーナ「なのに、どうしてトゥルーデは飛んでいるの?」
俺「ええと、その……。開発省に持ってかれる前にやりたいことがありまして……ちょっと弄ってたんですよ」
ミーナ「なぜ?」
俺「返す前にもう一度飛ばせないかなって。だから、余計な魔法力の吸収を減らすフィルター組み込んでみたりして」
ミーナ「それで?」
俺「きょ、今日中に仕上げてテストしてレポートまとめて、それから命令通り
起動回路をバラして封印する予定だったんです。全くネウロイめ……」
ミーナ「だから?」
俺「……ごめんなさい」
ミーナ「んもう。謝って済むなら軍規は要らないわ……!」
つい先日、坂本少佐にも同じことを言われた。全くもってその通りだ。
これまで散々軍規に触れることをしてきたが、今回ばかりは洒落にならん。
俺「大尉……どうか無事で……」
神に縋りたくなる気持ちというやつが、今は痛いほどよく分かった。
* * *
再び海上。二つに分かれたネウロイの本体が、前後からシャーリーを挟み込むべく旋回してくる。
シャーリー「やばい、挟まれた……!」
ジ ャ ム
どうする。銃は弾詰まりを起こしてしまって役に立たない。
こうしている間にもネウロイは迫ってくる。
シャーリー「くそ、考えてる場合じゃないぞ!」
ひとまずその場を離れて回避しようとするが、推力はそのままに身軽になったネウロイは速かった。
間一髪、間に合わない……!
シャーリー「ダメだ、やられる……!?」
バルクホルン『泣き言は似合わないぞ、リベリアン!』
シャーリー「バルクホルン!? どこだ!?」
ドパン! ドパン! ドパン!
どこかで聞き覚えのある轟音と共に、シャーリーの背後から迫っていたネウロイが歪にひしゃげ、砕け散った。
まだ一機残っているということは、今のは本体ではないようだ。
シャーリー「リーネのよりでかい……まさか50ミリカノン? それじゃジェットか!?」
続けて連射。初めの二発がシャーリーの目前にまで迫っていた本体を消し飛ばす。
その破片の中から放り出されたコアを、三発目が貫いた。
シャーリー「……すげー……」
コアの撃破によって、坂本たちと交戦していた子機も全てが破片へとその姿を変えていた。
ペリーヌ「ジェットストライカーは使用禁止のはずでは……?」
坂本「バルクホルンめ……無茶しおって」
エーリカ「しっしっし~」
その御膳立てをしたエーリカは一人、ほくそ笑むのだった。
しかし、問題はそれでは終わらなかった。
シャーリー『やったぞバルクホルン! ……バルクホルン?
どうなってんだ? バルクホルンのスピードが落ちないぞ!』
坂本「いかん! ジェットストライカーが暴走しているんだ。
このままだと魔法力を吸い尽くされるぞ!」
案の定。これほどまでにこの言葉が似合う状況が他にあるだろうか?
今度は、エーリカは一人、真っ青になった。
* * *
ミーナ「何てこと……! 俺くん、時間は!?」
俺「三分十七秒。一応四分までは持つと思って言ったんですけど……ここまで消耗してたなんて。
こうなったら仕方ねぇ、大尉の回収は俺がやります」
左手の五本の指先に意識を集中し、魔法を使おうとする俺を、ミーナ中佐が制止した。
ミーナ「ダメよ! 距離がありすぎるわ。そんなことしたら、今度は俺くんの命にかかわる!」
俺「でも、このままじゃ大尉が……!」
俺にも責任がある。俺が起動回路を解体していればこんなことにはならなかった。
いや、それはそれでシャーリーが危ないのかもしれないが、それは結果論だ。
ミーナ「シャーリーさんが居るわ。シャーリーさん、聞こえる? バルクホルン大尉をお願い!」
シャーリー『了解!』
俺「くそっ。シャーリー、左脚の真ん中ら辺に緊急停止レバーがある。左右連動だ。大尉を捕まえたら思いっきり引っ張れ!」
シャーリー『ああ、一度見てるから大丈夫だ。任せとけ!』
まるで心臓を握り締められているような感覚が、俺と中佐を支配する。
祈ることしか出来ないというのは、こんなにも人間を苛むものだったのかと、俺は今更ながらに噛み締めた。
* * *
やはりジェットストライカーのスピードは異常だった。制御を失って加速し続けているということもあった。
改造されたP-51の全速力でも離されないのがやっとだ。
シャーリー「あと少しなのに……! んの、くそったれぇぇぇぇぇっ!!」
シャーリーの咆哮に応じたのか、P-51の排気管から排気炎が噴き出す。
音速を超えて、ようやくジェットストライカーとの距離が縮まり始めた。
そしてついに、シャーリーの指がバルクホルンを捉えた。
シャーリー「届いたっ! 止まれーーーーーっ!!」
俺が言った通りの位置にあったレバーを思い切り引き絞る。
ジェットストライカーの魔導エンジンが黒煙と共に機能を停止し、やがてストライカーごと脱落していった。
シャーリー「はぁ……あっぶね……ん?」
いつの間にかバルクホルンは、シャーリーの豊かな胸に顔を埋めて幸せそうに寝息を立てていた。
こんなに幸せそうな顔を見せるのは
初めてかもしれない。どんな夢を見ているのだろう?
シャーリー「……ま、たまにはいっか」
そう結論付けて、彼女は帰路へとついた。
そして、それを遠距離から確認した人間が一人。
ルッキーニ「ああああーっ! それあたしのあーたーしーのーっ!!」
彼女は、自分の特等席に別の人間が入り込んだことに、ひどく憤慨した。
いや、二人。
芳佳「うらやましい……」
リーネ「よ、芳佳ちゃん……?」
彼女の目には見えてはいなかったのだが、何やら感じ取るものがあったようである。
正確には、三人。
サーニャ「バルクホルンさんの声……? やわらかい……?」
魔導針というものは、何かと便利なのである。
エイラ「むにゃ……サーニャぁ……ウヘヘヘ」
サーニャ「………」
……便利なのである!
* * *
日も傾き、夕暮れに染まる第501統合戦闘航空団基地。
ハンガーの一角に、回収されたジェットストライカーと武装が置いてある。
と言っても全損しており、このまま兵器開発省の担当者に引き渡されることになっていた。
エイラ「私たちが寝てる間に何があったんダ?」
サーニャ「バラバラ……」
ペリーヌ「まったく、人騒がせなストライカーでしたわね」
ミーナ「ええ。それを使う人間もね」
坂本「管理を任された人間もな」
命令違反は命令違反。バルクホルン大尉と俺は、罰として大量の芋の皮剥きを命じられた。
俺は俺で、中佐に一対一でこってり絞られたのだが、その上罰を与えるというのは如何なものかと異議を申し立てたい。
シャーリー「お陰でネウロイを倒せたんだ。少しは大目に見てくれよ」
ミーナ「規則は規則です」
坂本「しかし……俺はともかく、バルクホルンが命令違反なんて初めてじゃないか?」
俺「ともかくって何だよ。これでも昔はいい子ちゃんだったんだぜ」
ミーナ「空軍時代はね。それがどんどん転げ落ちちゃって。兵器開発省は不良の養成でもしてるの?」
くそ。昔のことを知っている人間が居るというのは、どうにもやりにくいものだ。
エーリカ?「皆さん、どうもお騒がせしました」
やたらしおらしいエーリカが謝罪する。
……いや、エーリカじゃない。この子は……
坂本「何故お前が謝る?」
シャーリー「ハルトマンのせいじゃないだろ?」
エーリカ?「いえ、私は……」
みんな気付いていないらしい。中佐も何も言わないことだし、しばらく黙っておこうか。
……それはそれとして、基地に通じる通路の方から何やら香ばしい香りが漂ってくる。
やがて宮藤とリーネが、大量の料理を載せたカートを押してやってきた。
リーネ「皆さーん、おなか空いてませんか~?」
芳佳「お芋がいっぱい届いてたから、色々作ってみましたよ。
はい、ハルトマンさんもどうぞ」
全部芋か……食物繊維に困らない生活が始まりそうだ。
エーリカ?「頂きます」
エーリカ?「はい、ずっと」
エーリカ「わぁ、おいしそう」
芳佳「あ、こっちのハルトマンさんもどうぞ……えっ」
宮藤の驚きの声に、俺・エーリカ・中佐を除く場の全員が違和感を察した。
揃いも揃って二人のハルトマンを見比べている。
もう少しこらえていたかったが、もう無理だ。俺は思わず吹き出してしまった。
エーリカ?「お久しぶりです、姉様。俺さんも」
エーリカ「あれ? ウルスラ?」
俺「よぉウーシュ。お目当てのモンはあっちだぞ」
ミーナ「紹介が遅れてしまったわね。こちらはウルスラ・ハルトマン中尉。
エーリカ・ハルトマン中尉の双子の妹さんよ。ジェットストライカー開発スタッフの一人なの」
「「「妹ぉ!?」」」
ああ、笑いが止まらない。
* * *
バルクホルン「こちらこそジェットストライカーを壊してしまったというのに、詫びなんて……」
俺「で、このジャガイモの山か」
ペリーヌ「ま、またこんなに……」
ウルスラ「お詫びと言っても、これくらいしか渡せるものがなくって。
俺特務中尉には、もういくつか持ってきてあるんですけど」
俺「俺に? ……お仕事の時間か」
ウルスラ「はい。では、こちらへ……」
ウルスラに案内されて向かった先は、ジャガイモ満載の巨大なケースに囲まれた一角。
興味があるのか、他の連中もついて来ている。いいのか?
ウルスラ「構いませんよ。どうせテストで見せることになるんですから」
俺「そりゃそうだ。で、これが新型の魔導兵器か」
俺が持ち上げたのは黒塗りの拳銃……にしては大きい。
どちらかと言えば機関銃や狙撃銃の銃身を取っ払った基部に近い大きさだ。
ウルスラ「はい。魔導技術研究班の新作、NWX-01グリップベースです」
俺「カールスラント語じゃないのか?」
ウルスラ「色々と事情がありまして。こちらがマニュアルになります。
グリップベースはその名の通り基部ですが、単品でも大型拳銃としての使用が可能です。威力は落ちますけど」
マニュアル作成はウーシュが担当したのだという。
予想通りの分厚いマニュアルにげんなりしながら、口頭での説明に耳を傾ける。
ウルスラ「続いてこちらがNWX-02スコープバレル。グリップベースに装着することで狙撃銃として運用出来ます。
スコープは魔導光学式の新型なので、そちらのテストもお願いするとのことです。
スコープバレルを装着した状態でバレルを折りたたむことで、近~中距離に対応した短機関銃としても機能します。
左側のダイヤルでマニュアルとセミオートの切り替えや弾の発射間隔等を調整して下さい。実体弾では出来ない芸当ですね」
次から次へと飛び出す専門用語と状況説明に、ついて来た連中がついて来てない。
ウーシュもそれに気付いたのか、説明のレベルをいくらか下げた。
ウルスラ「えっと。つまり、俺さんには開発省の仕事で新型兵器のテストをしてもらうんです。
元々そういう名目でこちらに出向しているので、これからが俺さんの本分となりますね」
リーネ「真っ黒な銃ですね。何ミリの弾を使うんですか?」
普段はこういうミリタリー話には参加してこないリーネだが、
同じ狙撃手として俺の新しい玩具に興味があるようだ。
俺「カートリッジは……これか。何だ、空じゃねーか。ていうか小っさ」
グリップベースから取り外したカートリッジは、俺の片手と同じくらいの大きさだった。
ウルスラ「当然です。それ、バッテリーですから」
芳佳「バッテリー?」
バルクホルン「充電して使う電池のことだ」
リーネ「電池……じゃあ、電気を撃ち出すんですか?」
俺「そういうことか……。リーネ、そうじゃねぇ。この電池は、この銃に組み込まれた……
エンジンって言っていいのかな。そいつを作動させるためのモンなんだよ」
シャーリー「ストライカーでもないのにエンジン? 自走でもすんのか?」
ウルスラ「厳密にはエンジンではありません。魔導炉……
疑似魔法力を生み出し圧縮する装置を稼働させるために必要なんです」
サーニャ「その装置のコアは、ネウロイと同種のものなんですね」
サーニャが魔導針でグリップベースを探りながら言った。
一同にどよめきが広がる……おそらく全員が同じことを考えている。
ウォーロック……かつて
ガリア戦の終盤でブリタニア軍によって秘密裏に投入された、
ネウロイのコアを組み込んだ機械兵の存在を。
ウルスラ「はい。その通りです」
それがどうしたとでも言わんばかりに、彼女はあっさりと肯定した。
<つづく>
次回予告
ウルスラ「ウルスラ・ハルトマンです。次回、『もごもごっ』」
俺「ステンバーイ、ウーシュ。まだ慌てるような時間じゃない」
ウルスラ「は、はい……(触ってもらった……手、あったかかった///)」
バルクホルン「で、次回はどんな話なんだ?」
エーリカ「何でも、高度30000メートルの上空にコアを持つネウロイが出るんだって」
芳佳「ネウロイのバリエーションも豊富ですよねー」
シャーリー「そんなに高いと空気もないだろうし、どうやって攻めるんだ?」
俺「その辺は次回をお楽しみに。アニメ準拠だけどな。ちなみに今回ウーシュから受け取った武装が活躍するのはもう少し先だ」
エーリカ「それじゃウルスラ、改めてゴゥッ」
ウルスラ「はい。次回、『星に願いを』」
俺「ビューティフォー。……発音こんなで大丈夫か?」
ガランド「うん、流暢なブリタニア語だった。実にエレガントだ」
ミーナ「ガランド少将!? 次回に出ないのに!? じゃなかった、いつこちらに!?」
エイラ「ていうか私とサーニャがメインの回なのに予告に出ないってどういうことダヨ」
最終更新:2013年01月30日 14:24