投下スレ:俺「ストライクウィッチーズですねぇ」143-166




「―――ネウロイかっ!」
 警報音に、いち早く坂本が反応する。
「予測では明日のはずだったけれど、早まったようね…全員、すぐに出撃準備に入ってください!」
 間髪入れず、ミーナが室内の全員に指示を飛ばす。全員からの了解の返答を確認した後、ミーナは坂本と共に、
ブリーフィングルームを後にした。他の501の面々も、素早く移動を開始した。


 数分後、男を含む501全員が、基地のハンガーに集合していた。
「今回のネウロイは、大型が一機と、中型が三機ずつ確認されています。情報では、中型は20機ほどの子機を周囲に
 配置、大型は中型からやや後方に配置されている、とのことです」
 ミーナが、今回出現したネウロイに関する情報を部隊の面々に伝え、指示を飛ばす。
「今回の戦闘では、坂本少佐、ペリーヌ中尉、バルクホルン大尉、ハルトマン中尉、宮藤軍曹、以上のメンバーは中型との
 戦闘を行ってください。その際は、主に中型の牽制及び子機の掃討をお願いします」
 名前を呼ばれた面々は、即座に了解の言葉を発した。ミーナは指示を続ける。
「さらに、エイラ中尉、サーニャ中尉、リネット曹長―――そして俺少佐は、私と共に大型撃墜に向かいます。シャーリーさんと
 ルッキーニさんは、万一に備えて待機していてください」

 各々が出撃準備に向かう中、バルクホルンが、ミーナの指示に噛み付いた。
「本気か、ミーナ!?今日来たばかりの、能力もよく分からない人間を―――」
「大丈夫よ、バルクホルン大尉。私と坂本少佐は、事前に彼の能力も知らされているわ。その上で、彼は今回の戦闘に
 適任であると判断したの」
 バルクホルンの言葉を途中で遮り、ミーナは、新任の男少佐を戦闘へ投入する根拠を告げた。

「……ミーナがそう判断したのなら、従おう。だが、あの男の実力が未知数な以上、万一を警戒しておいてくれ」
 バルクホルンは、そう言い残すと、自身の出撃準備へと向かった。それを見届けた後、ミーナは、彼女の正面に
立つ面々――――先ほど大型撃墜を命じた、男、エイラ、サーニャ、リーネの四名に向き直る。
「中型と子機はもう一つの部隊に任せ、私たちは直接大型のネウロイを撃墜に向かいます。主に男少佐とエイラ中尉が
 大型ネウロイへ攻撃、サーニャ中尉、リネット曹長は、私と一緒に二人の攻撃を援護してください」


 ミーナが指示を終え、彼女自身も準備に向かった後、エイラが男へと声をかけた。
「なあなあ、、大尉じゃないけどサ、結局、お前の固有魔法って一体何ナンダ?」
 戦闘の直前にも関わらず、気の抜けたような調子で質問を投げかけてくる少女に対し、男は、一瞬目を丸くした。
「エ、エイラさん、今は、その、そんな事言ってる場合じゃ…」
 そんなエイラの行動に、リーネは慌てた様子になり、
「…エイラ、男さんとは初対面なのに、そんな聞き方、良くないわ」
 対してサーニャは、エイラの態度を窘めた。サーニャの言葉に、エイラはばつの悪そうな顔になる。一方でリーネは、
状況から微妙にズレたやり取りを行うエイラとサーニャを前に、当惑していた。

「あ、あの、今注意するべきなのは口調じゃなくて…」
 上手く言葉を表せず、しどろもどろのリーネに、男が声をかける。
「まずは落ち着きましょう、フロイライン。今は、何よりもまず、出撃の支度を調えるべき、でしょう?」
「へ?えっ、あ、はい、そ、そうです!その通りです!」
 男の言葉に、リーネが反射的に同意の言葉を放つ。その言葉に男が続いた。
「そういう訳です、奔放なフロイライン。今は私の魔法よりも、ネウロイの方を優先しましょう」
「……“ほんぽーなふろいらいん”って、私のことカ…?」
 男は笑いながら、エイラ達に出撃の準備を促す。対してエイラが、男の言葉の一部に納得のいかないとでも言うかのような
顔を浮かべるものの、男はエイラの表情を意に介さず、彼のストライカーのある場所へと向かう。それに続いて、エイラ達三名も、
各々のストライカーの場所へ向かった。



「……あれ、男のウィッチで、一人で大型を倒してて…?そういえば、どこかで聞いたことがあるヨウナ…」
「どうかしたの?エイラ」
 ストライカーの所へ向かう途中、エイラが小さく呟いた。それに気づいたサーニャが、エイラに問いかける。
「え?あ、いや、何でもナインダ。ちょっとした独り言なんダナ」
 思い出せないなら、大したことではないのだろう。それより、今はネウロイだ。そう判断したエイラは、ふと湧いた小さな
違和感を意識の隅へと追いやり、彼女のストライカーへと向かった。




―――――基地に警報が鳴り響いてから、約四分後。空中では、すでに501とネウロイの戦闘が開始していた。

 坂本率いる部隊は、子機もろとも中型を囲むように展開し、中型機と大型機の合流を防ぎつつ戦っていた。
「――――トネール!」
 その中の一人、ペリーヌが呪文を唱詠し、固有魔法の発動を宣言する。

 次の瞬間、ペリーヌの周囲に、電流の網が張り巡らされた。その電気の網は四方へと広がった後、大量の子機を
包み込み、強力な電流と電圧を以てして、その軌道を停止させた。動きを止めた子機は、すかさず無数の鉛玉をウィッチ
達に打ち込まれ、雪のように白い結晶と化し、砕け散った。ペリーヌから発せられた電流は、なおも周囲へ蛇のように
広がり、時にはネウロイに巻き付き、時にはその牙を食い込ませ、ネウロイの動きを阻害する。

 一方で、バルクホルンとハルトマンの二人は、中型機への攻撃を試みていた。バルクホルンは正面から中型機へ向かい、
ハルトマンは海面へと降下していった。
 バルクホルンは、ネウロイの放つ光線を上下左右の軌道で避けつつ、ネウロイ本体へと銃弾を撃ち込み、その装甲を
引き裂く。その後、彼女はそのまま直進を続け、ネウロイとすれ違っていった。そしてネウロイがバルクホルンを追おうと、
方向を反転させようとしたところへ、ハルトマンが、遙か下方からネウロイへ向かって来る。
「シュトゥルム!」
 先ほどのペリーヌと同様、呪文を唱詠する。その直後、ハルトマンの周辺を暴風が走った。そのままハルトマンは上昇、
ネウロイと激突し、その黒い巨体を大きく抉った。体に大きく穴を開けられたネウロイは、バランスを著しく損ない、動きが
不安定になり、速度も激減していた。
 そこへ、坂本が、自身の鍛えた扶桑刀、烈風丸を握りしめながら、高速で急降下して来る。彼女はさながら流星の如く
ネウロイへと向かう。そして、そのネウロイが愛刀の間合いに入った刹那、坂本は、握った刀を振り抜いた。
「―――烈風斬!」
 魔力を吸い、幽鬼の如く青白く輝く烈風丸から、強力な魔力の刃が放たれ、ネウロイへと襲いかかった。機動力を削がれた
ネウロイは、為す術無く烈風斬によってコアを両断され、粉々に砕け散った。


 ――――これで、あと二機。坂本は、残る中型ネウロイの数を確認し、体勢を立て直そうとした。その瞬間、彼女は、
自身が複数の子機に狙われている事に気づいた。周囲に浮かぶ黒い球体の子機は、発射口と思しき赤い箇所を、
一斉に坂本へと向けている。そして、坂本が動くよりも早く、子機は、複数の光線を坂本へ向けて発射した
 しかし、放たれた光線が坂本に届くより先に、ネウロイと坂本の間に、宮藤が割り込む。宮藤は素早く巨大なシールドを
展開し、迫り来る光線を防いだ。進路を遮られた光線は、そのまま四散する。それとほぼ同時に、坂本が宮藤の後ろから
飛び出し、子機へと斬りかかる。十機ほどの子機は、瞬く間に真っ二つに両断された。

「怪我はありませんか、坂本さん!」
 宮藤は、素早く子機を破壊した坂本に向けて、その安否を気遣う。
「ああ、大丈夫だ、助かったぞ宮藤!」
 坂本は宮藤へと振り返り、その気遣いに応えると共に、助太刀への礼を告げる。尊敬する上官からの賞賛に、宮藤は、
はにかむような照れ笑いを浮かべた。
「さあ、さっさと残り二機も片付けて、ミーナ達の援護に向かうぞ!」
 坂本が、宮藤に激励の言葉をかける。宮藤が元気の良い返事と共に頷いた。それを見届け、坂本は宮藤を連れて、
現在バルクホルンとハルトマンが攻撃を仕掛けている中型の元へと向かった。


―――――――――――――――――――――

 一方、ミーナ達の一団は、眼前の大型ネウロイに対して、攻めあぐねている様子だった。
今回の大型は、その巨体の割には、装甲はそこまで堅くはない。だが、火力が尋常では無かった。一人が近づけば、
その一人に向けて、十数本の太い光線が一斉に、それも点ではなく、放射状にほぼ隙間無く放たれる。その一撃を上手く
シールドで防御したとしても、次の第二波が間髪を入れずにやって来た。
 ある程度の距離を置けば、回避はさほど難しくない密度となるものの、ネウロイに有効打を撃ち込めるほどに近づく事は
出来なかった。
 かといって、全員で四方から近づけば、大型ネウロイは全方位に無数の光線を発射し、ウィッチの接近を断固拒絶する。
迂闊にネウロイに近づけないまま、ミーナ達は、ネウロイの周囲を飛行していた。

「何だヨ、アレ。避ける隙間のない攻撃なんて、初めて見タゾ」
 自身の能力を以てしても接近できない状況に、もどかしさ故か、エイラが愚痴をこぼす。
「こうも攻撃が激しくては、私たちでは近づけないわね…」
 ミーナもまた、ネウロイの火力に辟易した様子で言葉を漏らす。そんなミーナの隣へ、先ほどまでネウロイの上方にいた
男が降下してきた。男は、ミーナに対して一つの手段を提示する。
「私が行きましょう。正面から突っ込んで、叩き潰してしまえば、終わりです」
 無謀そのものの提案に対し、エイラとサーニャ、リーネの三人が驚愕の声を上げる。
「ナニイッテンダオマエー!一人で無茶してどうにかなる相手じゃナイダロー!」
「男少佐、その、一人じゃ危ないです…特に、今回のネウロイは…」
 エイラとリーネの二人が反対の声を上げる傍ら、ミーナは数秒ほど思案顔になった。そして
「いいでしょう、男少佐。許可します」
 冗談にしか聞こえない提案を、あっさり承諾した。その返答に、男は笑みを浮かべる。対して、エイラ達の顔からは、
一瞬、表情が消えていた。

「中佐、いくらなんでも、それは男さんが……」
「大丈夫ですよ、フロイライン」
 少なからず慌てた様子で反論するサーニャを、男が制する。それでも何か言いたげなサーニャに対し、男が続ける。
「私の固有魔法は、今回のような輩に対しては打って付けなのです。ご心配には及びませんよ」
 言いながら、男はサーニャの頭に手を乗せ、軽く撫でる。その行動に対し、サーニャは口を閉じ、顔を僅かに赤く染め、
恥ずかしそうに俯いた。
「ナニヤッテンダオマエー!」
 そこへ、エイラが素早く割り込んだ。二人の間はエイラによって遮られ、男の手はサーニャの頭を離れた。その瞬間、
サーニャの顔には若干の名残惜しさと、ごく僅かな不満の色が浮かんでいた。それに気づかず、エイラは男に吠える。
「そもそもお前、なんでか知らないケド、武器も持って無いじゃナイカ!ソレデどーやって戦うんダヨ!」
「いえ、武器ならありますよ?」
 エイラの追求に対し、男は事も無げに返す。そして、エイラの前に、両の手の拳を差し出す。その拳には、双方ともに
黒い革手袋がはめられており、その手袋には、白い線で、不可思議な紋様が描かれていた。

「………?ナンダ、ソレ?」
 エイラが首をかしげながら問う。対して男は「これが私の武器です」と、当然のように言った。
「………その模様、なんかの魔法でも仕込んでるノカ?その手袋からビームでも撃てるノカ?」
「撃てませんよ?確かにこの紋様は魔法のものですが、この手袋自体には、攻撃能力はありません」
「………じゃあお前、何で戦うンダヨ?」
「拳です」
「…………………」
「え?拳?……?」
 エイラはじとっとした目で男を見る。その一方で、リーネは頭上に大量の疑問符を浮かべていた。
 エイラの問いに、男はことごとく平然と返してきた。エイラは小さくため息をついた。そして
「オマエ、バカダロ」
 男に対して冷たく毒を吐き、
「そんな言い方駄目よ、エイラ」
 すかさずサーニャが、エイラの言動をたしなめた。エイラは、ぐ、と声を漏らし、悔しげに男を見る。そんなエイラの様子に
構わず、男はミーナの方へ向き直った。

「それでは、そろそろ行って参ります」
「ええ、よろしくお願いするわ、男少佐」

 短い言葉をミーナと交わし、男は単身、大型のネウロイへと向かった。

「……中佐、ホントにアイツなんかで大丈夫ナノカ?」
 エイラは、疑わしげな視線と言葉を、ミーナへと向ける。サーニャとリーネもまた、不安げな表情で、既に大分離れた位置
にいる男を見ていた。しかしミーナは、一切不安の色を浮かべることなく答える。
「少なくとも、今回は絶対に大丈夫よ、二人とも。今日のネウロイのような、火力で圧してくるタイプのネウロイは、彼に
 とっては絶好の獲物なのだから」
 隊長たるミーナの言葉を聞いても、なお不安げな二人に、ミーナは言葉を続けた。
「本当に心配いらないわ。なにしろ、彼の魔法はね―――――――――――」



――――――――――――――――――――

「――――烈風斬!」

 坂本の放つ烈風斬が、最後の中型ネウロイを両断した。その一撃は正確にコアを破壊し、ネウロイとその周辺の子機は、
全て真っ白な破片となって砕け散った。そして、ネウロイの破壊後、空中で散開していたハルトマン、バルクホルン、ペリーヌ、
宮藤が、坂本の下へ集合した。
「お見事でしたわ、少佐!」
「さすがですね、坂本さん!」
「いや、お前達二人もよくやってくれた。おかげで私もやり易かった」
 ペリーヌと宮藤の二人が、坂本に賛辞を送る。対して坂本も、二人の働きを労った。

「少佐、ミーナ達の方はなかなか苦戦しているようだ。高火力型のネウロイらしい。すぐに応援に向かおう」
 宮藤らと共に降下してきたバルクホルンが、大型ネウロイ撃墜に向かっているミーナ達の援護に向かう事を提起した。
バルクホルンの隣にはハルトマンが滞空している。連戦になりそうな気配に、ハルトマンがぼやく。
「嫌だなーもう。大型と中型、一度に両方じゃなくて、片方ずつ来てくれれば―――――」

 不意に、ハルトマンの言葉が途切れた。不審に思ったバルクホルンがハルトマンを見る。ハルトマンの視線は、自分たちの
今いる位置から、遙か後方へと向けられていた。バルクホルンはその視線の先を追い、次の瞬間、その顔が強張った。
「どうした、二人とも。何かあったか?」
 尋常でない様子の二人に、坂本もまた表情を堅くしつつ問いかけた。その問いに対し、バルクホルンが吠える。

「――――あの男、単独であの大型ネウロイに向かっている!」
 その言葉を聞いた瞬間、ペリーヌと宮藤の顔も、一気に緊張に包まれる。
「少佐、このままでは、男少佐は……!」
「坂本さん、早く男さんを助けに行きましょう!」
 ペリーヌと宮藤は、緊迫した声で叫ぶ。それとは対称的に、坂本は余裕の笑みをこぼしていた。

「大丈夫だ、心配するな。あの大型が高火力型だというなら、何も問題はない」
 坂本の態度に対し、ペリーヌと宮藤、バルクホルンの三人は、不思議そうな表情を浮かべる。その表情を見て、坂本は
言葉を続けた。
「それというのもだな、あの男の固有魔法は―――――――」
  坂本が語ろうとした矢先、ハルトマンが、遙か彼方のネウロイへと向けて急発進した。それを見た坂本が叫ぶ。
「ハルトマン中尉!何のつもりだ、止まれ!」
「―――……このままじゃ、このままじゃ男が、ネウロイにやられちゃうよ!」
「待て、落ち着いて聞け!あいつの魔法は―――駄目か、まるで耳に入ってない!」
 坂本が制止を指示するも、ハルトマンには届いていなかった。その間にも、ハルトマンは、ほぼ最大速度でネウロイの元へ、
――――正確には、ネウロイへと迫る男の元へと、鬼気迫る表情で向かっていた。
「三人とも、ハルトマン中尉を追うぞ!あのまま突っ込んでは、格好の的だ!」
 坂本は、残る三人に指示を飛ばすと同時に、ハルトマンを追って発進する。それに続き、宮藤らも坂本と共にハルトマンを追う。
この時、男は既に、ネウロイの光線の有効射程範囲寸前まで、大型との間の距離を縮めていた。


「このままじゃ、このままじゃ男が……!」
 ハルトマンは、今にも泣き出しそうな顔をしつつ、高速でネウロイへと向かう。今、ハルトマンの感情は、男が撃墜される
かもしれないという恐怖と焦燥に支配されていた。坂本が何を言おうとしていたのか、何故ミーナはあのような無茶な行動を
許したのか、ということに思慮を巡らせる余裕は、既に彼女の中には残ってはいない。
 とにかく、一刻も早く、男を止めなければならない。もし間に合わなければ―――――最悪の光景が、ハルトマンの脳裏を
よぎる。その惨劇を回避するため、ハルトマンは、限界までストライカーに魔力を注ぎ込んだ。
 しかし、その間にも、男とネウロイの距離は刻一刻と狭まっていく。今以上に速度を上げようとしても、彼女のストライカーは
とうの昔に限界速度に達していた。それでもなお、ハルトマンは魔力を注ぎ続けた。そして、すがるように、男へと向けて、
精一杯に手を伸ばした。

 ―――――次の瞬間、大型ネウロイから放たれた無数の光線が、男へと向けて、豪雨の如く降り注いだ。


 その瞬間、ハルトマンの意識は真っ白になった。宮藤とペリーヌは小さく悲鳴を上げ、バルクホルンは顔を蒼白に染めた。


 二十を超える光線が、隙間無く男へと降り注ぐ。それに構わず、男は更にネウロイへ向けて突き進んでゆく。真っ赤な光の
濁流が、男へと迫っていく。そして、その光線は男へと届き、――――――――――次の瞬間、光が完全に掻き消えた。


「―――………え?」
 予想だにしなかった展開に、ハルトマンは思わず前進を止めた。今この瞬間にも、ネウロイは、無数の光線を男へと向けて
放ち続けている。しかし、その全てが、男に届いたその瞬間、男を傷つけることなく、始めから放たれてなどなかったかのように
消滅していた。
 男は、シールドを張っている様子もなければ、何か特殊な魔法を展開している仕草も見せていない。にも関わらず、ネウロイの
放つ赤い光の槍衾の中を、男は当然のように突き進んだ。
 やがて、男はネウロイの真上へとたどり着く。ネウロイとの距離が一メートルも無い至近距離に、男は滞空している。相も
変わらずネウロイの光線が男へと飛びかかるが、その光は男に触れると同時に、傷を負わせることも叶わないまま、空しく
消えていった。

 男は、手袋をはめた右手を握りしめる。次の瞬間、男の右手が、強く、赤い光を―――ネウロイの光線と同じ輝きを
発し始めた。男は、絶えず降りかかるネウロイの攻撃に構わず、右手を高く振り上げる。そのまま、高く上げたその手を
一気に振り下ろし、赤く輝く右の拳を、ネウロイへと叩きつけた。
 男の拳がネウロイに触れると同時に、轟音が辺りに響き渡る。空気は震え、ネウロイの真下の海は大きく波打った。
男が拳を打ち付けた箇所からは、真っ赤な光が球状に広がっていく。衝撃の余波は、遠く離れたハルトマンやミーナ達へも
届き、その髪や、衣服の裾を震わせた。
 赤い光の球は止まることなく広がり続ける。やがて、その光は、大型ネウロイのほぼ全体を包み込むほどに広がった。
そして、その光がネウロイを完全に飲み干すと同時に、ネウロイの金属音のような断末魔が響く。直後、ネウロイの白い
破片が、周辺の空域一帯に飛び散った。



 ハルトマンは、呆然とした様子で、先ほどまでネウロイが存在した場所にいる男を見ている。先ほどまでの焦燥も、恐怖も、
すでに彼女の中には残っていない。代わりに驚愕と混乱が、彼女の中で駆け回っていた。

 不意に、ハルトマンの頭に、鈍い痛みが僅かに走る。
「―――全く。大丈夫と言っただろう。人の話はちゃんと聞かんか、馬鹿者」
 驚いたハルトマンが後ろを振り向くと、そこには、彼女を追いかけてきた坂本たちがいた。坂本の右拳は、ハルトマンの
頭の上に乗っている。先ほどの痛みは、坂本に頭を小突かれたことによるものだった。

「それに、あのままお前一人が突っ込んでも、何ができた訳でもあるまい。いつも冷静なお前らしくないぞ、ハルトマン」
「………ごめんなさい」
 坂本の言葉に、ハルトマンは素直に頭を下げる。こうして事が穏便に済んだ事に対して宮藤は、起伏の少ない胸を
なで下ろしていた。一方ペリーヌは、ハルトマンの行動が腹立たしいやら、結局無事に済んで安心したやらで、何とも
複雑な表情を浮かべている。

「…それにしても、あの男は一体何をやったんだ、少佐。ネウロイの攻撃が消滅していたように見えたが……」
 全員が一息ついたところで、バルクホルンが、かねてからの疑問を投げかける。宮藤とペリーヌ、ハルトマン達も、
不思議そうな表情をしながら、坂本を見た。坂本は、口の端を若干つり上げ、愉快そうな表情で口を開いた。


「奴の固有魔法は――――――エネルギーの吸収、及び放出だ」

 坂本が言い終えると同時に、ミーナからの通信が、501の全ウィッチへと送られた。
「―――――――こちらミーナ。ネウロイの完全消滅を確認しました。全機、基地へ帰投してください」

 ミーナの言葉を皮切りに、501のウィッチ達は、それぞれ驚愕や疑問は抱えながらも、基地へと帰還した。


最終更新:2013年01月31日 15:43