「蒼穹の絆3-3」

―適応中―
 ある意味、地獄の三週間。ある意味、楽しい三週間。

 楽しいことから列記しよう。
 1.朝から晩まで、元気な女の子と一緒に過ごすぷうすけは大満足。あっちこっちに顔を出しては
 遊んでもらっている。夜も引く手あまた。ぷうも巡回して各隊員のベッドにお邪魔している様子。
 隊員も、それを期待してドアを閉めずに居るらしい。こいつは全身全霊『善意』で出来ている。
 ペットケアには丁度良いだろう。風呂場にまで行っているとか。道理で、最近毛艶もいいわけだ。
 風呂嫌いの筈が。スケベな奴だ。朝方には俺のベッドに戻っているのだから、文句は言わん。

 2.空を飛べる。ようやく、過度の緊張もしなくなった。バイクで峠を攻めるときの感覚だな。
 風圧もさほどない。速度はいうまでもない。思いのまま、飛ぶことがこれほど楽しいとは。
 緊張感の持続が心地いい。空中射撃も別に難しいことは無い。クレー射撃と同じだ。

 3.隊員とも普通に打ち解けることが出来た。シャイな子もいれば、とっつき難い子もいるが。
 いい子達だ。戸惑うことの多い俺に親切にしてくれる。特にバルクホルン大尉とシャーリーだな。
 リーネ君と宮藤君、それにサーニャ中尉は懐いてくれた。ぷうの影響だろうな。俺は年だ。

 4.整備及び警備の連中とも仲良くなれた。扶桑の近所にあるジャパンからの義勇兵、としてくれた
 ミーナ隊長の心配りに感謝。心のよりどころだからな・・。制服もどきも揃えてくれた。多国籍その
 もの。まあ、いいさ。

 辛い事。
 自分の「理解能力」に疑問が。言われたことがなぜ出来ない。バルクホルン大尉は丁寧に教えてくれる
 のに。
 テレキネシスとテレポートの練習も結構身体にこたえる。特にテレポート。距離を誤って固形物の
 中で実体化してしまうと、元の場所に跳ね返されて失神してしまう。まあ、岩と一体化してしまうの
 はごめんだが・・・。回復に時間がかかり、苦しい。まあ、徐々に大質量、遠距離もこなせるようになった。
 バルクホルン大尉達に協力を願って、同行ジャンプの精度を上げることに精進中。

*

 警報だ。ユニット整備を終えたところでよかった。駆け足でブリーフィングルームに向かう。今日もまた
 見学か?空戦域外で、皆が必死に戦っているのをただ見ているのは辛い。

ミーナ「本日は俺候補生にも攻撃隊として参加してもらいます。私の二番についてください」

 おお!最後のテストか?

 ハンガーから飛び出し、上空で編隊を組む。武器はM1919A6。30-06は8ミリマウザーに比べてちと威力
 が不足だが、弾道の低伸性能もいいし、装弾数が250発だ。これでいいさ。予備弾は1箱。あと拳銃。

 接触予定空域に向けて高度を取りつつ飛行する。許可を貰って、装填と試射を済ませる。よし。他の
 隊員は試射までやらない。余程慣れているのか?だろうな。俺だけヒヨコだ。でも、俺には俺のルール
 がある。不確定要素は徹底して除外する。

 接敵。大型1.小型50.武者震いが身体を走る。隊員も若干飛行姿勢が乱れる。皆、同じなんだろう。

バルクホルン「ミーナ、例の『ポン!』でやるか?俺候補生も用意はできている」

 ポン!とは、俺がテレポートして消えるときに発する音のこと。真空になった場所に空気が流れこむ
 ので、面白い突破音が出るらしい。俺は聞こえないんだけど。

ミーナ「ええ。そうしましょう。俺さん、坂本少佐とバルクホルン大尉、サーニャさん、リネットさんを
 伴って『ジャンプ』してください。大型の後方500に。その後、俺さんは大型の前方200へ。いい?」

俺「了解。4人を後方500に運搬、その後、前方200にて牽制攻撃」

ミーナ「ええ。私は小型相手の指揮を取ります。準備して!」

 編隊を一時解き、四人が俺に直に接触する。二人は俺の腕を、残り二人は俺のベルトを掴んだ。

俺「がっちり握って!絶対離すな。離されたらどうなるか解らんぞ!隊長、大型班の準備よし」

ミーナ「待機。小型班、突入!…大型班、突入!」

 大型後方に意識を集中。距離4000。問題なし!ジャンプ!

 一瞬、意識が乱れる。収まった瞬間インカムに吼える。

俺「完了!離れろ!」

 手と腰の接触がなくなった瞬間、上方へループを開始。テレポートしても、それまでの『慣性』は
 続いている。インメルマンターンを完了する前に大型の背中が見えてきた。よし、距離は有っていた。
 4人もそれぞれ攻撃位置に付こうと飛んでいる。
 では、前方へ。銃を握りなおし、意識を集中。相対速度も考えろ!

 ジャンプ!

 また意識が乱れる。頭を振りつつ身体を回す。よし!

 敵に向かってテレキネシスを発動。質量が違いすぎるから俺が引っ張られる。高度を下げつつ、同航に。
 ようやく敵が撃ってきた。吃驚しただろう? ちょっと右にもう一度ジャンプ。よし、速度合った。
 テレキネシスを反発に切り替えて、距離を保つ。よし!攻撃開始!
 自分がさっき居た辺りにビームが集中された。いい照準装置だな。同時に複数の火点から同一目標に
 ぶっ放せるのか。ビームを集中制御しつつ屈折させて発射か!コイツもオーパーツな敵だ。撃ちまくる。
 相手は人間じゃない。生命体かどうかも怪しいもんだ。迷いは全くない。只のターゲット。

 インカムに坂本少佐の声が響く。向うも始めたか。良く見えん。遠ざかれば見えるだろうが、それで
 はより多くのビームを喰らう。シールドで裁ききれなくなったら消し炭だ。

 徹甲弾3発に曳光弾1発の割合で組んだ赤い射線がネウロイの装甲を打ち砕き続ける。俺にもビームが
 集中するが、シールドを精一杯張って対抗。負けるか!進行方向に背中を向けたままで撃ちまくる。
 大気がオゾン臭い。中心軸狙いで撃っているが、コアは何処だ?

 視界が真っ赤になっている。相当撃たれているんだ。曳光弾も見難い。不思議と怖さは感じない。
 坂井三郎が言っていた『自分が撃つ限り撃たれていても怖さはない』って、このことか。なるほど。

 あまりに視界が悪くなると何処を撃っているのか、敵との相互距離も解らなくなる。上下左右に適当
 にジャンプして、敵のビームを一旦反らしつつ、攻撃を続行する。銃身が赤くなってきた。構わん。
 撃ち続けろ!

 緑の曳光弾に切り替わった。残り50か!同航から軸線を外して斜め上に離脱を始める。撃ちつくした!

 そのままジャンプ。前方斜め左、1000!
 よし!弾箱交換!やばい。加熱しすぎたか?暴発するなよ。

俺「少佐。弾交換中」

坂本「俺!急いでくれ!こいつのコアは移動式。手こずっている」

俺「終わった!少佐側にジャンプして加勢するか?」

坂本「そうしてくれ!」

 答える時間も惜しい。ビームが撃ちまくられる空隙を狙って、適当にジャンプ。

俺「少佐!到着!」

坂本「サーニャと合流!その後サーニャを敵近くへ運搬!誘導は私がやる!」

俺「了解!」

 サーニャ君の姿を探す。ビームが邪魔だ。
 居た。上方、端でフリーガーハマーを構えて回避しつつ待機している。すぐ下にジャンプ。

俺「サーニャ中尉!お待たせ。少佐!合流した!」
サーニャ「お願いします」
坂本「現在、コアは軸線の左側、機首より50の位置!」

俺「中尉!その位置の真上50にジャンプする。武器を真下に向けて構えて!斉射したらすぐ
 ジャンプして離脱!」
サーニャ「はい」

 問答無用、彼女の尻尾の根元を鷲掴みにして、敵位置確認。ジャンプ。

俺「撃て!」

 フリーガーハマーから次々とロケット弾が放たれる。今の位置の反対上空だな。9発!ジャンプ!

 実体化。ネウロイを探す。
 おお、撃墜だ!やった!

 サーニャ君の肩を叩いて喜ぶ。彼女は照れている。あ、そうだ。この子はシャイなんだった。
 ごめんよ、衣服だとジャンプが完遂できるかわからないんだ。

坂本「サーニャ!よくやった! 俺!小型に向かえ!」

俺「了解。サーニャ中尉は残弾無し!単機戦闘に入る!」

 続けざまにジャンプ。小型の群れの後方でいい。

 ふむ?大混乱だな。あの子は誰だ?3機に追尾されている。よし。ジャンプで割り込もう。

 実体化。ああ、イェーガー大尉か。

俺「シャーリー。撹乱する。適当にブレイク!」

 シャーリーと敵機の間に位置して、蛇行しまくる。ほれ、照準の邪魔だろうが!

シャーリー「サンクス!俺! ブレイク 今!」

 一気にループに入った。んじゃ、俺急降下。よし、付いてきたな。撃ち始めやがった。凄く怖い。
 ジャンプするか?

ルッキーニ「俺!そのまま!」

 ルッキーニ少尉が背後の敵機を撃墜。点射が上手いな。さらっとちっとやばかったよ、ありがとさん。

俺「グラッツェ!アンジェラ!」

ルッキーニ「ヴァッベ!俺!」

 なんだって?解らん! 次は?よしあそこ!

俺「隊長!構わず!支援する!」

 返事も待たずに、隊長のケツに食いつこうとしていた敵機二機に連射、撃破する。
 お?横から撃たれた!適当にジャンプ!

 どんぴしゃ!10メートル。お前か!俺を撃ったのは!墜ちろ!よっしゃ!近づけば弾も節約できるな。

 どれ。試してみよう。ペリーヌ中尉の後ろを取ろうとしているアイツ!

 ジャンプしながら敵機の邪魔をし続ける。どうせ単機だ。気にせず動き回って友軍の援護をするさ。
 鼓動は激しい。でも、不思議と恐怖が少ない。俺も撃たれりゃ死ぬのに。でも、やられるという気が
 しない。高揚した気持ちだ。体が思うままに動く高揚だ。変なもんだな・・・。

*


 ブリーフィングルームで、戦闘経過の報告。混乱することもなく報告を終えた。はあ、疲れた。
 早くぷうをもふもふしたい。7機プラス0.5機の撃墜で、エースの仲間になったそうだけど。どうでも
 いいや。ぷうの顔を見るほうが大事。アイツ、ハンガー前で整備員とともに待っていたんだぜ。

*

 昼食後の一時。宮藤君とリーネ君から質問攻め。

宮藤「俺さんは、躊躇なく引き金を引けましたか?私、銃は今も嫌いで・・・」

俺「全く無いよ。人間じゃない。生物かどうかも怪しい。それに、向うは遠慮無しに攻撃してくる。
 なんで、俺は撃つよ」

リーネ「相手が人だったらどうします?」

俺「その状況にならないと解らない。今、考えても綺麗事の答えでしょ。ただ、俺を撃つ奴には遠慮なし
 に撃ち返すよ。生きて帰りたいからね」

シャーリー「わたしが撃っても?」

俺「威嚇で無いとわかったら、撃つ。でも、シャーリー君がそうする理由があるのかな?」

 微笑んだら笑顔で顔を横に振る彼女。

俺「精神異常者でなければ、人を殺したいと思う奴はいないだろ」

 皆が頷く。宮藤君はまだ考え込んでいる。

宮藤「でも、俺さんはハンターで、鹿とか熊とか撃つんですよね?」

俺「ああ。撃つよ。でも、その肉を食べる為に撃つんだ。必要がないなら撃たない。無意味だから」

サーニャ「食べる分だけ・・・獲る?」

俺「そう。引き金を引く直前、照準越しに獲物に謝る。ごめんな、ってね。信じられないかも知れない
 けれど、俺は動物が好きだよ。自然も好きだ」

リーネ「でも、お肉はお店に売っていますけど?」

俺「誰かが君にその肉を提供する為に、牛とか羊を殺しているから店に並ぶんでしょ?お肉は畑で育た
 ないよね。自分の手を汚したくない人はそれでいいさ。人間だけが、そこを選ぶことが出来る」

 皆が笑う。俺も笑う。罪悪感を感じる人は菜食主義へいくわけだ。

リーネ「ああ、そうですね。其処まで考えませんでした」
宮藤「解りました。そういう見方をしたことがなかったです。俺さんは生きて帰るために戦うと?相手が人
 でも?」

俺「うん。悪事を自分が犯したなら別だけどさ。わけもわからず殺されるのは真っ平だ。大義名分も好き
 ではないけどね」

サーニャ「国と国の・・・人間同士の戦い?」

俺「そう。お互い綺麗ごとばかりでね。正義だって双方が主張する。勝った方が正義。負けたら悪になる。
 馬鹿らしい」

バルクホルン「ああ、確かにそうだな」

俺「俺は・・・明日も生きるために戦うよ。俺が罪を犯していない限り、誰にも奪えない権利だと思うから」

バルクホルン「お前の考える『罪』とは?」

俺「無抵抗の人間を故意に殺したとき、かな」

宮藤「!・・・もし、もしものときは?」

俺「預かった拳銃で自分の頭を吹き飛ばす。罪から逃れようと思わない」

坂本「侍魂、だな」

*


 午後の飛行訓練は宮藤軍曹とペアになり、バルクホルン大尉とハルトマン中尉のペアとの編隊空戦。
 宮藤君に一番になって貰い、一生懸命追従する。丁寧な操縦なんだろうな。次に俺が長機となって
 彼女を引っ張る。うーん。今まではバルクホルン大尉の二番ばかりだったから、何か変だ。
 四戦四敗。ま、腕の差は歴然。ひよこはひよこ。こりゃ、トンビに成れたら御の字か。

ハルトマン「ねえ、俺。なんでジャンプして逃げないの?」

バルクホルン「ああ。てっきりそれで逃げて、とんでもないところから撃ってくるんじゃないかと
 警戒していたんだけどな?」

宮藤「ですよねー。でも、俺さん頑固で・・・・」

俺「基礎を訓練しないと。それに、アレ結構疲れるんだよ。アレに頼ったら、体力消耗して墜とさ
 れると思ってさ。やっぱり、基本を身に着けなきゃダメでしょ」

宮藤「そればかり言ってるんですよー。今日は勝てると思ったのに」

バルクホルン「正論だ。その気持ちで頑張れ。お前は筋はいい。訓練で学べ」

俺「教官、宜しくです」

バルクホルン「ああ!候補生。宮藤も、だぞ」

宮藤「えへへー。あ、地球の裏側までいけるんだろうって思っていましたけど?ロマーニャへの
 買出しも楽だろうなあって」

 おもいっきりの笑顔で、とんでもないこといいやがる。俺はグッキーでもクロネコでもない。

俺「裏かよ!ハワイ辺り?生死が掛かるならやれるかも。でも、その時点で失神する自信があるよ」

バルクホルン「ふむ。買出し荷物の運搬役は私も考えていたんだが」

 パシリかよ。あ、目は笑ってるから冗談か。この人は真面目の殻で覆っているからなあ。世話に
 なってるし、そのくらいはやってみてもいいかな。大尉の為なら。

ハルトマン「訓練してさ、ハワイ連れて行ってよ!日帰りでバカンス!」
宮藤「わぁ!それいいですね、ハルトマンさん!俺さん!さ!訓練しましょう!」

 人の話を聞いてくれ。可愛い顔して言う事は鬼だ。

俺「ジャンプに失敗したら。異次元に宙ぶらりんになるかもよ?まあ、やってみようか」

 嘘。あまりに長大なジャンプの場合も、出発点に戻されて失神するだけだ。嘘も方便。

ハルトマン「えー!それはちょっと。でも俺が居るならいいかな。オッサン過ぎるかな?」
宮藤「エエと・・・・異次元?宙ぶらりん?うーん?」

バルクホルン「宮藤?考える必要があるか?ハルトマン、義務から逃げ出すのか?カールスラント
 軍人として・・・・」

 おやおや。ハルトマン中尉が説教され始めた。流れを変えるか?
 宮藤君に耳打ちして、目で合図。二人のシッポを優しく掴み、俺たちは手を絡める。よし。

バルクホルン「あ!宮藤!急にな―――」
ハルトマン「きゃ!俺!感じちゃ――」

 ジャンプ。座標は前もってイメージ済み。管制塔のまん前。

 ほい、出た。管制塔のガラス窓から30メートル。ドンピシャリ。今は誰が詰めているんだろう?

宮藤「きゃああああああ!」
ハルトマン「うゎっとぉ!」
バルクホルン「ひっ!」

 巡航速度のまま、四人で管制タワーを掠める。ありゃ!坂本少佐だわ。

坂本「こらぁ!なにやっとるかぁ!」

俺「はい。長距離ジャンプの訓練中。15キロメートルを3人運搬。次は30キロを予定」
宮藤「し、心臓が・・・」
ハルトマン「おっもしろーい!」
バルクホルン「・・・俺候補生」

坂本「了解!元気があってよろしい!実体化は離れた場所にしろ。ガラスが割れそうだ!二三人、
 コーヒー零したぞ!はっはっは!」

 内心にやりと笑う。思ったとおりの反応だ。『訓練』が魔法の言葉さ。

俺「了解!500メートル以上の距離を取る。戻りは50キロで!以降距離を広げる。では!」

バルクホルン「俺!まて!失敗すると異次元だろう?やめろ!」
宮藤「俺さん!今日は止めましょう!まだ夕食の支度とか洗濯――」
ハルトマン「最終目標はハワイだぁ!いっけー!俺!」

坂本「了解!気合だ!根性だ!ウィッチの意地を見せろ!レーダーで位置測定する。以上!」

 ハルトマンに目配せ。さっきと同じようにする。今度は俺がバルクホルン大尉の尻尾担当。

バルクホルン「俺!やめろ!不確実なことは――」

俺「大丈夫です。大尉が居てくれれば」

 俺を見上げた目にウィンク。あなたを危険に晒すと思うか? 多分大丈夫だ。
 目が柔らかくなった。そうそう、大丈夫!多分。いや、この尻尾の手触りいいなあ。短いけど。
 短毛種のワンコかな?

俺「各スタンバイ。目標西方30キロ空域はただの空。障害なし、かな。ジャンプ!」

ハルトマン「私もついているぞぉ!イケイケー!」
バルクホルン「命、預ける」
宮藤「おかあさぁぁ―――」

 200キロの往復までテストできた。疲れた。一名はぐったりしていたが。長距離もなんとか
 なるな、この調子だと。部隊全員抱えてジャンプも面白そうだ。奇襲を掛けられる。

*****

 朝、早朝のランニングもどきから帰ってくると、ペリーヌ中尉が花壇の前で立ち尽くしているのに
 出くわした。お高い・・・否、気高いあの子がどうした?泣いている?

俺「ペリーヌ中尉。どうしたの?」

ペリーヌ「あ。俺准尉。・・・・花壇が・・・動物に・・・」

 ああ、花壇の花が穿り返されて酷いことになっている。全滅か。
 激しく泣き出した。いつも愛情込めて手入れしている姿は良く見ている。うちの親父も植物が好きだ
 から、姿を重ねていた。『愛情を掛けて育てると、綺麗な花を咲かせて応えてくれる』ってのも同じ。

俺「イノシシだな。土中の虫を穿り返したんだろう。オケ。隊長に掛け合って駆除してしまおう。
 だから、さ。ほら、泣かないで」

 彼女の肩にそっと手をかけて励ます。退治するしかない。牙でさくられたら死人が出る。

 許可はあっけなく出た。隊長もイノシシの怖さを知っていたらしい。俺も経験者だしな。防衛隊の兵力
 を使うか、と提案もあったが断る。戦争と猟では必要な技術が違う。

 その晩から、M1Aを抱えて花壇を見下ろせる建物側の樹の上で待ち構える。夜行性の雑食。何頭かいる筈。
 整備部が20連弾倉を元に戻してくれた奴を装着。体が痺れてくるが、じっと待つ。
 サーニャ中尉とエイラ少尉が夜間哨戒に飛び立つのを耳でだけ聞く。今夜もご苦労様。俺もがんばるよ。

 二日目夜。通常勤務もしているのでちと眠い。カフェイン錠を車から持ってきて飲用。コーヒーが
 いいが、小便したくなる。基本、目は瞑って耳だけ効かせる。今夜は新月。暗い。今夜の哨戒は単機
 だった。新月だから三人くらい出したほうがよくないか?

 朝方3時過ぎ。来た。
 3頭?いや、5頭。群れている。ふむ。魔力を展開。ああ、良く見える。さて、順番を考えよう。でかい
 奴から撃つ。二連射づつで。人差し指で安全装置を再確認。よし、解除してある。
 そっと、そっと銃を構える。フロントサイトのトリチウムが、リアのピープサイト越しとなった。少し
 狙いを低めに。もう一度、頭の中で順番をリハーサル。では。夜間なので左目を静かに瞑る。
 速射開始!銃口のフラッシュハイダーから吹き出る発射炎が右目に眩しい。照準を動かすときだけ左目を
 開け、体全体で照準する。また左目を瞑り発射する。
 どうだ?構えたまま、目を瞬く。左目で全体を確認・・・4頭倒れている。もがいている奴もいる。あと1頭は
 どこにいった! あ!海岸よりに逃げたか。前足が不自由らしい。逃がさん。左目で目標を追う。銃は
 左目で見ている中心を照準しているはず。苦労して覚えた技術。

 止めを刺して終了。地面にジャンプする。目測を誤って30センチほど落下。うーん、今後の課題だな。
 銃から抜弾して、幹に立てかける。さて、新鮮お肉ゲット。

 両手とテレキネシスを併用して海に放り込み、ナイフで心臓を抉る。太もも付け根にも深くナイフを
 入れる。放血をしっかりしないと折角の肉が不味くなる。
 その頃、皆がどやどやと拳銃片手に押しかけてきた。懐中電灯も持っている。岸に上がったほうがいいな。
 海水は真っ赤だろう。彼女達に見せたくない。

俺「御免。起こしちゃって。済まん」

ミーナ「俺さん!怪我は?」

俺「大丈夫です。イノシシの群れを殲滅しました」

バルクホルン「おお、見事だ」
ペリーヌ「俺さん!有難う!」

 皆からも声を掛けられる。いやいや。さほどのことでは。

坂本「お疲れさん。で、海で何しているんだ?」

俺「海水で肉を冷やすんですよ。イノシシは体温が高いんで。海水の浸透圧で血抜きもしています。
 美味いトンカツとか作りましょう」

ルッキーニ「美味しいの!ヤター!」
ハルトマン「成程!合理的だ。さすが俺」
宮藤「焼きブタもどうでしょう?ブタ、ですよね?」
バルクホルン「ああ。家畜ブタの原種だ」
坂本「角煮もいいんじゃないか?酒のアテに最高だ!」

俺「いいですな。宮藤君、手伝うよ。リーネ君は・・・あれ、居ない?」

シャーリー「なあ、それさ。美味しい?臭くない?糸引かない?」
ルッキーニ「美味しく作って!俺!芳佳! 糸はイヤ・・・」
ミーナ「そうね。出来れば、糸を引かないほうがいいわね?」
エイラ「臭くないことは大事ダ」

宮藤「えー!納豆嫌っちゃ駄目ですよー!身体にいいんですよー!」

俺「納豆か。余り好きじゃないんだけど、俺も」

 全員が爆笑。宮藤君も笑う。

バルクホルン「解体を手伝ったことがある。手伝うよ。吐いたりしない」

 ありがたく手伝ってもらうことにする。宮藤君達には、ちょっと無理だろう。

 大尉以外が部屋に戻ってから、二人で海岸にて内臓を抜く。そうか、親父さんの手伝いでね。
 へー。そう。お国は結構狩猟が盛んだったんだ。鹿肉のステーキも好き?あれ美味いよね。
 こっちに来るタイミングがずれれば、百キロ単位で鹿肉を車に積んでいたのになあ、と言うと、とても
 残念そうな顔をする大尉。思わず笑ってしまう。

 内蔵もモツ煮にすると美味いんだが、レディ達に野蛮人扱いされるかな。しょうがない、捨てるか。
 自由ガリアから派遣された整備員から欲しいと希望が出た。お国料理であるんだと。レバー3つだけ
 俺たちに頂戴、と話をつけて、他は持っていって貰う。
 血糊で汚れた砂を、テレキネシスで海に吹き飛ばして終了。

 熟成させる為、毛皮つきでぶら下げて置く。古い清潔なシーツを宮藤君が届けてくれた。大尉が手配
 したの。親父さんに教わった?ほお!本物だ。これで包んで、乾燥とハエ対策。重力で最後の放血も
 できる。精肉処理は・・・気温が高いね、今夕にしよう。え?そのときも手伝ってもらえる?有難う!

 レバーを回収し、厨房の流しで血抜きを徹底的にやる。水道水掛けながら揉み捲る。レバーステーキ
 を後で焼くよ、といったら大尉が相好を崩した。バルサミコ酢のソースで美味しく作るから。汚れ仕事
 を手伝ってくれた御礼。

 5頭分の肉は、あっという間に消費した。全員に好評。臭みが無く処理できたのがラッキーだった。
 腹撃ちもしなかったし。肋骨沿いについた肉も焼肉となって、全員の腹に収まった。

************************************************************************
最終更新:2013年02月02日 12:12