「蒼穹の絆3-9」

―たった一人のコマンド隊―

 翌朝、俺の作戦が採用されたことを知った。即、ストライカーユニットでロマーニャの
 海軍本部へ飛ぶ。二日間で習熟しなくてはならない。俺の190は、後で来る基地の整備部隊が
 再整備してくれることになる。
 軍港に案内され、其処の司令部で挨拶。男のウィッチということで歓迎される。女の子のほう
 がよかったってさ。涙が出るよ。

 潜水母艦のヒゲ面艦長と挨拶。がっしり握手をされたので、全力で対抗。痛みを堪えて微笑み
 続けて、ようやく歓迎してもらえた。やれやれ。熊かコイツ。

 特殊潜航艇のパイロットを紹介される。ウィッチだった!ハイジ・デラペンネ中尉。『なんだ、
 電動式ではないんだね、こっちのは』と呟いて聞きとがめられる。気をつけよう。
 使い魔はカワカラス。なるほど。それで潜航艇か。色々いるもんだ。しかし、このマイアーレの
 開発目的がわからぬ。本来は潜航艇だけ目標船の下において、乗員はトンズラ、爆破撃沈する
 ものだろう?ネウロイは海は苦手だった筈だけど?なんでストライカーに?

 作戦立案を失敗したような気がする。ストライカーとしての潜航艇は想像していなかった。
 パイロットのハイジ君は、ワンピースの水着。呼吸器を胸と背中に振り分けている。
 俺も似たような格好になるわけだ。潜水服だとばかり・・。いやはや。

 一番の問題は、スピード。誰だ、ドン亀とか言っていた提督は。水中スピード60キロ/時。
 浮上時最大スピード実に80キロ!死ぬわ。必死にお願いして、30キロに抑えてもらう。シールド
 を張ると更に凄まじい圧力を受ける。航空特性ってこういうこともあるのか?平面のシールド
 しか俺は展開できない。彼女は円錐形。後流が結構当たる。絶対不利だ。盾くらい付ければいい
 のに、とぼやいたら『気持ちいい水流を感じられないでしょう?あんた、バカ?』ときた。もうね。

 彼女の操縦は『暴走水中/水上バイク乗り』としか言いようが無い。海底の岩でスラロームするな!
 何度小便漏らしたか。フィジーで体験したジェットボートよりひでぇ。可愛い顔して無茶するわ。
 ロマーニャ海軍、ウィッチ達を喜ばせる目的でこれを作ったような気がする。

 水中装備にはその日のうちに慣れた。明日は改造を受けた潜航艇のテストと潜水母艦への装着をみる
 だけだ。あとは装備確認と座学でもしよう。

 静かに夜を過ごそうと思ったが、潜水艦の乗組員一同から歓迎酒宴に引き摺り込まれる。ほうほう
 の体でベッドにもぐりこむ。暫くしたら、ハイジ君がベッドに入ってきた。抱きつかれ転がり出る。
 共有ってなんだよ。今夜は甲板で眠ろう。トゥルーデを心配させることは絶対に避ける!
 出航したら魚雷発射室で寝るか。空いてるだろ、多分。電池部屋は嫌だ。
 ぷうはトゥルーデに頼んでおいた。大丈夫さ。あいつは彼女を癒してくれる。

*


 出航。余裕を2日弱とって4日間のコース。問題なく開始できそうなら、その分時間を早める。
 カールスラントのシュノーケル技術により、潜航時にもディーゼルで速度と距離を稼げる。
 万が一を考えて、昼間でも夜でも基本は潜航。お陰でタバコをディーゼル室で吸うことになった。

 等高線の入った地図を確り暗記する。装備の点検は、出航前に念入りにやったから敢えてしない。
 下手をすると、俺の性格では不安が増すことになりかねないから。

 基本、お客扱いなのでやることがない。艦内で作られる美味い飯をいただき、机に向かう。そして
 飽き始めた頃に、小悪魔がワインもって乱入。交代してこれから寝るはずの乗員までもが参加して
 バカ話をすることになる。飯のたびにワインを飲んで勤務するロマーニャ海軍。お国柄か。

ハイジ「俺少尉さん。恋人は?」

 一瞬躊躇う。誤魔化すか?まて、彼女の眼に何か閃いている。怪しいぞ。

俺「いるよ。いい娘さ」

乗員「そりゃ幸せだ。おめでとう。まさかウィッチじゃないだろうな?」

俺「ん?ウィッチだけ――」

 乗員とハイジにボコボコにされる。何だゴラぁ!応戦開始。
 艦長と副長が間に割って入って収まる。で、なんで祝福されて乾杯だよ。鼻血でてるぞ、俺たち。

艦長「ウィッチを恋人にするとは!果報者だな!お前たちもそう思うだろう!」

 歓声が上がる。怨嗟の声もあったような気がするが?

艦長「とりあえず、コイツが手の早い野郎だということは解った。一つ二つ警告しておこう!よく
 聞けよ?まず、ハイジ君に手を出したら!」

乗員「錘をつけて海中に放り出す!」「ウォーーーーッ!」

 変なところで息が合うな、てめーら。頷いておこう。別にその気も無い。

艦長「私が自ら指揮を取る。さて、次だ。ハイジ君を泣かせたら!」

乗員「スクリューに叩き込む!」「ウォーーーーーッ!!」

 ひき肉になるわ。馬鹿野郎。

艦長「そうだ!私と副長で手足を掴んで放り込む!というわけで、ハイジ君に惚れられないように
 十分気をつけたまえ。では!乾杯!色男の哀れな末路を祈って!」

乗員「かんぱーーーーーい!」

 この艦、大丈夫だろうか。ハイジ君、笑っている場合じゃないだろう?小悪魔!

 長波無線による情報では、マルタ島には変化はないと。従来と同じ偵察行動を取るようにお願い
 したが。それが守られている事を祈るしかない。艦長に最短コースに戻すことを進言。
 了承を受ける。勤務中は慎重ながらも好戦的な男だ。ただ、暇さえあればハイジ君を口説くのは
 艦内の士気に・・・と思ったが、皆がハイジ君に求愛しているから諦めた。好きにやっとれ。

 小悪魔警戒網の一旦、魚雷室での睡眠は艦長から許可が出た。妙な笑い方をすると思ったが、現場を
 見て納得。歩くスペースしかない。ルッキーニ君の寝姿を思い出し、魚雷の上に跨って寝ることに
 した。毛布を敷きまくり、抱きついて寝る。意地だ。慣れたら落ちなくなった。

 結局、二日目の夜に予定海域に侵入。ハイジ君も夜間視力はごく普通のウィッチ並みというので、
 黎明前に最終準備を終え、黎明となったら出撃と決める。今夜が静かに寝れる最後の夜。といって
 も0130時までだが。魚雷の寝床で安眠。ウナギとセックスするのか、と魚雷担当員に笑われる。
 『鋼鉄の処女なもんで、俺のウナギが縮んじまったよ』といったら爆笑された。

 0330時。ハイジ君も俺も装具を整えて準備完了。ハイジ君は海図など、俺はゴム袋に入れたM1カー
 ビン銃を抱えている。鉛の錘が入っているので重い。ここはゴゾ島北西10キロの海上。回避行動を
 とることを考えると、これ以上は接近できない。漂泊中。鎖が外されたマイアーレに跨り、命綱を
 固定して待機。

 0345時。日の出前の紫の時間となる。艦長が潜航指示を出した。海水が身体を叩く。ハイジ君は
 平然と、否、喜んでいるが、俺はどうも気に食わない。結構冷たいな。きっとハイジ君の前世は、
 人魚なんだろう。俺は暗い水は嫌だ。ハイジ君のカワカラスの尾羽を見て気をそらす。

艦長「セニョリーナ、切り離し準備よし!10メートルで静止する!」

ハイジ「了解。コマンダンテ。皆、帰るまで待っててね♪行くときは一緒よ。置いてきぼりは嫌♪」

 なんだか意味深に聞こえる。豪快な笑い声が応えた。周りも笑っているようだ。ハイジ君が
 プラグを引っこ抜く。通信途絶。さて、いよいよか。小便してえ。ま、どうせ・・・。
 水深10メートルで静止した。排気音も消えて静かだ。

ハイジ「切り離し。 マグネット固定解除確認。発進する」

俺「よろしく。スィレーナ!」※人魚姫・セイレーン

 有線インカムに明るい笑い声。覚悟を決める。飛ばさないでくれといっても無理なんだ・・・。

・・・やめんと水着引き裂いて泣かすぞ。

・・・・・・トゥルーデ・・・・君にもう逢えないかも・・・

ハイジ「到着したわよ。少尉?どうしたの?」

俺「」

ハイジ「俺!」

俺「あ・・・終わった?」

ハイジ「ええ!楽しかったわぁ!さ、荷物出しましょう!」

 俺は楽しくなかった。なんで潜航艇が空中に躍り上がるのさ。イルカか。挙句に蛇行しつつハイ
 スピードランしてくれるし。隠密行動の定義を言ってみろ。サービス精神旺盛なんだな。噛み締め
 ていた奥歯が痛い。

ハイジ「ほら、色男!ぶつくさ言っていないでさっさとやる!」

俺「うぇぃ」

 目前500メートルほどに海岸線。明るくなった空の下、はっきりわかる。とりあえず、最初の目標
 を定めようかね。
 ハイジに告げて、ジャンプ。波打ち際で実体化。すばやく奥を探す。崖下にいいくぼみを見つけた。
 乾燥している。ジャンプで戻り、艇首のハッチに注水。海水が入ると軽く開く。荷物が出てきた。
 両手にストライカーを持ち、そのほか小物もテレキネシスで身体に密着させる。ジャンプ。

 2回繰り返して終了。

俺「終わった。有難う。トリム大丈夫?」

ハイジ「ええ、ちょっと潜航してみたけれど問題ないわ。前よりクイックになったかも」

 帰りも飛ばして帰るんだろうな。

ハイジ「気をつけてね。成功を祈るわ、ダーリン♪」

俺「浮気はしないよ。有難う。気を付けて帰ってな。艦長や皆さんに宜しく」

ハイジ「ふふ。いいの。片思いでも恋だもの。行ってらっしゃい。チャオ!」

 手を振り合って、潜航とターンを始めた彼女を見送る。気ぃつけてな、暴走ロマーニャ娘。

*

 日が昇るまでに装備を確認。海水で濡れた物はなし。幸先いいぞ。
 日の出直後から、地図で目星をつけた場所を確認にジャンプする。うん、西海岸は安全らしい。
 敵のパトロールも無い。資材置き場を決め、搬送を開始。ストライカーユニットで増幅しないと
 余り距離も質量も運べない。ユニットと水が重い。水源地が無いんだと。

 コミノ島を経由することを考えていたが、安全と見て一気にマルタ本島へ進出した。本島でも
 西海岸側を選ぶ。理由は、町が少ないから。その少ない町も破壊し尽くされ、瓦礫となっている。
 島民と思われる死骸も見当たるようになった。ムタルファの東の丘陵地で一服。周囲を偵察しても
 敵の姿は見られない。ただ、市街地でみた弾痕が気になる。飛行型はビームだ。つまり、あの弾痕
 は飛行型でない陸戦型のものではないのか?何処をうろついているのやら。

 一服し、水を確り摂ってから、資材の判別を始める。ここをベースキャンプの1としよう。丘陵地
 のなかにあって、比較的小高いところなので見晴らしが利く。森林と呼べるものもないしな。

 前進基地に持ち込むものを選別。ストライカーユニットはここで保管。キャンバス布で覆い、上に
 枯れ枝やら土を振りまいて偽装する。これから運ぶ荷物は少し横に動かした。さて、前線に行こう。

 東へ。双眼鏡で念入りに探ってからジャンプする。この繰り返し。樹木も少ない。短距離の繰り返し。

 ネウロイ・ドームが見えてきた。でかいな。更に慎重に進む。

 ドームまで2キロ。とりあえずここで確り見ることにする。バレッタ港の一部を取り込んでいる。
 地表に動くものがいくつか見える。陸上型だろう。どう見ても、ドームと地面の間に隙間は無い。
 ここを前線デポにするか。後で荷物を運ぼう。

 では、左右にジャンプして、等距離で観察しますか。

 暫く観察して、陸上型が少ないエリアとなる港湾部に進出を決定。M3と予備マガジン、拳銃、
 カメラと水筒を持ってジャンプ。
 実体化と同時に、壁にへばりつく。回りを確認しつつ、短距離ジャンプを主体として動く。少なく
 見えた陸戦型が結構多く思えてきた。ゴミを漁っているらしい。タイプが違うものだけ写真に撮る。

 陸戦型の隙間を縫って、ドームの真下へ到着。だめだこりゃ。大型ネウロイとおなじ装甲だよ。
 それが密に地面や建物と接している。建物か?中はどうなっているんだろう。

 駄目だ。室内にも装甲プレートが出来ている。どうやって入るか。

 海はどうだ?ネウロイは水がお嫌いと聞いた。どれ、見てみよう。
 手間をかけてようやく港湾にたどり着いた。そっと水に入り、静かに近づく。手を伸ばし、装甲の
 下を探る・・・。おお、大丈夫だ。頭を水に突っ込んで見る。結構装甲の厚みは有る様子。こりゃ、
 潜っていったら死ぬな。うん。あ、呼吸装具。よし、取りに戻ろう。

 慎重に戻る間、公園の池を見つける。音に気をつけつつ、銃等の塩気を洗い落とす。最後に自分も
 漬かって、水浴とした。銃の水気を良く振り切る。

 第一ベースに戻った。疲れた・・・。ちょっと休憩。
 くぼみに入って、タバコに火をつける。ふう。トゥルーデとぷっちょは今頃何をしているかな。

 銃に油をさす。マガジンも良く水気を切りなおして、弾を一発一発磨く。サビでも出たら、故障
 の原因となる。錆びたら恥だ。スプレータイプの油がこの時代にあればな、楽なのに。

 次のお出かけは夜にしよう。荷物を前線デポに運ぶ。前線デポメモを書いて、飯と休養だ。
・・・・

 さ、夜勤のお時間。
 水中装備も荷物に加えてお出かけ。夜のほうが陸戦型が多く出ている。どうにもならない時は
 テレキネシスで崩れかけた壁を壊したりして、ネウロイを誘き出しては前進。港に直行する。

 呼吸具を装着。エアはまだ大丈夫。深呼吸してからゆっくり沈む。

 装甲の厚みを、両手を使って数える。お、ここが端か。えーと?・・・100メートルちょっと?
 厚過ぎる。穴をあけての進入は不可能だ。

 まあ、先に進もう。頭を出すことなく、呼吸も控えて泳ぎだす。
 石壁に手がぶつかって停止。結構あるな。ああ、疲れた。ゆっくり浮上。よし、岸壁だ。

 赤い光に照らされたドーム内。気味が悪いな。
 飛行型が何機か舞っている。警急隊か?25機。俺を探している様子は無い。影を選んで前進。
 乾いたところにでた。小型船を引き上げるスロープが有るので、匍匐して上陸。置いてある船の間
 で、また銃器の水気を払う。

 赤い光が、超巨大なコアから発することを知る。レーザーレンジファインダーで距離を測定。それ
 から概算で直径を計算。300から350メートル?ひぇー。もう一度検算しても、変わらない。ドーム
 の向うまではレーザーが届かない。

 4階建てのビルにジャンプする。屋根の高度計算を少しミスったが、テレキネシスで落下の勢いを
 相殺できた。アブね・・・。
 中にもぐりこみ、窓から周囲を観察。陸上型がうじゃうじゃ居る。数えるのは不可能だ。
 シャッタースピードを遅くし、窓枠に固定してぶれないようにしつつ写真を撮る。露出が合わない
 ことは承知。位置を変えつつ、何枚も撮る。自分の位置を算出してから、コアの写真も取る。あとで
 専門家が再計算してくれるさ。よし、今はここまで。水筒の水で銃と弾薬を洗う。タオルを拝借して
 磨き捲る。さて、携帯口糧を食って寝るぞ。

 銃を抱いたまま、他家のベッドでひっくり返る。すぐに寝込んだ。

 眼が覚めて時計を見る。朝の5時。どれ、周りはどうだい?
 変化無し。
 水を飲みつつ、じっくり見る。コアは垂直につながる根っこ状のもので地面と接しているようだ。
 その辺りが一番敵の密度が高い。というより、覆われている。出て行くものばかりか。望遠が出来
 無いカメラだが、数枚撮る。

 移動してみたが、余り変化がない。見所の無い観光地だ。
 1000時過ぎ。急に騒がしくなった。見つかったのか?と緊張する。しかし、どうも外で何かが起き
 たらしい。ドームに穴が開き、根っこから出てきた大型ネウロイが其処から出て行く。やっぱり
 根っこか。でかい根っこだな。

 暫く様子を見ていたが、戻ってこなかった。多分、友軍に殲滅されたんだろう。可能性が高いのは、
 501だ。皆大丈夫かな?大丈夫だよな。トゥルーデは・・・きっと大丈夫。
 また、手頃な民家の一室に篭って一服。赤い光が癇に障ってきた。人間には合わん!

 1240時。窓から外を見ていて、悪戯を思いつく。ビルの壁にへばりつくようにしてゴミを漁っている
 陸戦型が二匹。大き目のと小さ目の奴だ。こいつらの頭上の壁は大きく崩れかかっている。
 よし、面白そうだ。
 テレキネシスを全開。壁を大きくネウロイ側に引っ張る。何度かやっているうちに一気に崩れた。
 さて、結果は?
 土煙が収まった其処には、完全に潰れた小型が一匹。半分潰れかかってもがいているのが一匹。よし。
 周囲の連中は、崩れた壁に向かって発砲を続ける。ふむ。こいつ等の装備は通常弾か。あ、でかいの
 がビームをぶっ放した。なるほど。
 暫くして発砲が止んだ。もがいていた大き目の奴も壊れたらしい。仲間が撃ち崩した壁に潰されてる。
 助けるそぶりも無かった。それでお仕舞い。見える範囲の陸戦型のタイプを写真に取る。割合は専門
 に計算させるさ。

 1500時。何の変化も無い。帰るとしよう。つまらん。フィルムを巻き取り、防水ケースに確り仕舞う。
 カメラには新しいフィルムを詰める。懐かしい作業だ。くるくる回すのが好きだったっけ。空撮りを
 念を入れて7枚。よっしゃ。

 一気に港の小型船引き上げスロープに戻る。実体化して暫く動かずに様子を探るが安全のようだ。
 水中装備を身に付け、カメラなどの防水を確認してから匍匐開始。静かに沈みこむ。
 今度は往路とちがう壁を計測してみるか。脚ひれ欲しかったな。やっと到着。計測開始。あ!ここの
 水深が必要かな?でもこいつは余り深く潜れない。思いついて、ゆっくり浮上。頭で装甲を擦るよう
 にして、ギリギリの場所で頭を出す。右・・あ、あの灯台。距離はおおよそ800.次正面。港湾城址からの
 距離、おおよそ700.左、あの長い波止場から500、8-7-5だ!覚えておけ! よし、帰ろう。

 こちらの壁の厚みも前と同じ100メートル程度。8-7-5の1だな。
 疲れが出てきた。思い切り遠方の海面にジャンプ。よし。次は陸地。海岸にジャンプ。そっと周囲を
 伺う。大丈夫かな。
 磯に上陸。ああ、つかれたよ。取り出した手帳に、さっきの数値を書きなぐる。一服してから帰ろう。
 これで偵察はお仕舞い!

 あ!いけね!もう一度、前進偵察位置に戻る。港湾部とドームを数枚写真を撮る。これで現時点の
 ドームの前縁の位置がわかるはず。移動したかどうかは時系列で確認すればいい。
 それともう一つ。
 あの装甲を突き抜けてレポートできるのか。躊躇うが、実験は必要だろう。最初に間借りした部屋に
 照準を合わせてジャンプ。お、失神せずに通過できた。よかった。戻ろう。

 夕暮れ時にベース1に帰着。前進基地の物資も持って帰った。まあ、水とゴミは埋めたけど。
 詳細に見てきたもの、事柄をメモに記す。特にコアの場所。忘れていることは無いかな?大丈夫か。

 水で食事を取る。努めて、任務のことを頭から消し去る。食い終わったが、特別思いつくことも無し。
 大丈夫だな。

 デポの資材で、弾薬・弾倉を全て新品のものに取り替える。万が一、はごめんこうむる。銃も二挺を
 確り整備する。廃棄した弾薬とゴミを穴を掘って埋める。持ち帰る必要の無い機材と水は、別の場所に
 埋める。地図におおよその場所を記載。後で文句を言われてもかなわんし。

 さて、帰りの時間を検討しようか。
 今は2000時。月夜。敵さんは静かだ。早朝に脱出するか?それとも、真夜中?はたまた、黎明にするか?
 どうせ相手は人間じゃない。何時だから疲れている、ってこともないだろう。
 となると、黎明は人間側の都合だな。俺もそれで黎明侵入したんだし。出て行くときは関係ないわ。
 真夜中なら、遠方からは視認はできない。探知のみだ。明るくなってからじゃ、遠くからも見える。
 うん、真夜中にしよう。月を背に飛びたい。もうちょっと後だな。よし、0100時頃!決めた!寝る!

 寝過ごした。疲れだな。水で溶いたコーヒーをちびちび飲みつつ、タバコを手で覆って吸う。
 周囲の地表・空中に敵影が無いのは確認済み。でも念のため。0230までかけて、頭が働くように
 しようかね。

 よし。帰りましょ。もう一度回りを確認。忘れ物・・・フィルムとカメラ、それに銃よし!かえろっ。
 トゥルーデに早く逢いたい。

 テレキネシスでユニットを地表に固定。もう一つのテレキネスで自分を引き上げ、ユニットと結合。
 エンジン始動。慌てずに試運転。うん、問題なし。少しだけ浮上し、西海岸を目指す。あ、まてよ。
 敵にサーニャ君と同様の手段があったならば?魔力がユニットで増大したから、それを探知したか
 も知れない。うん、可能性はあるな。よし、今のうちに最大距離を!針路3-5-0.ロマーニャ最短
 コース。よし、ジャンプ!

 実体化。後ろを振り向いてみる。・・・・あれって電灯じゃないか?さて、ここは何処?無闇にジャンプ
 するとこうなるか。まあ、撃墜されるよりゃいい。いいほうに考えろ、俺。

 ロマーニャとマルタ島の直線距離が、大雑把に1100キロ。今までの照準をつけた無負荷ジャンプの
 最大距離が300キロちょっと。まあ、300として?方位3-5-0だ。おや。シシリア島越しちゃったか。あの
 灯りはシシリア島の北岸か。多分そうだ。結構遠いな。よし、少し解った。多分パレルモ市だろう。
 腕の計器を見る。星を見る。おっけ。もう一回やっとくか。どうせ、ここから先は海ばかり。その先に
 ロマーニャ半島があるんだから。北北西に行けばいい。おっと、銃の試射。よし。
 おら、行ってみよう!ジャンプ!

 二度目の当てずっぽうジャンプを終え、暫くは通常飛行することにした。インカムには何も入ってこない。
 世界は平和ってことか。そろそろ、無線を発して見るかね。まもなく沿岸が見えると思うんだが。

俺「こちら501JFW所属、俺少尉。501管制。聞こえるか?」

サーニャ「俺さん!サーニャです!ご無事でしたか!」

 おお!サーニャ君か!

俺「サーニャ!ああ、元気だよ。今戻ってきた」

サーニャ「良かった・・・。インカムの電波はまだ無理です。私が増幅中継しましょうか?」

俺「そうして貰えるかな?基地にも挨拶しておきたい。俺はロマーニャに直行だけど」

サーニャ「え?直帰なさ・・・いえ。今から中継します。お待ちください」

俺「すまん。宜しく頼みます」

 サーニャが何を言いかけたか解る。でも、今は任務が優先だ。ごめん、サーニャ。

サーニャ「中継の準備が出来ました。どうぞ」

俺「こちら俺少尉。501管制、聞こえますか?」

バルクホルン「俺!!無事か!良かった」

俺「大尉?!ええ、任務完了。負傷無し。今夜は管制室に?」

坂本「替わった。ご苦労!早く後始末して戻って来い。身体が持たんぞ、大尉の」

俺「了解。どうかしたんですか?」

坂本「大尉が心配して毎晩詰めていたんだ。今は その、泣いている」

俺「了解。大尉。済まなかった」

バルクホルン「無事ならいい!確り最後までやり遂げろ!以上!」

 泣き声。

俺「了解。完遂する。以上」

 自分が泣いていることに気づいた。すまなかった、トゥルーデ。

 暫く経って、接近してくる翼端灯を発見。一応、銃の準備をする。
 ああ、サーニャ君か。

サーニャ「おかえりなさい」

俺「ただ今。さっきは有難う」

サーニャ「いえ・・・。お役に立てて嬉しかったです。・・・俺さん?」

俺「なんだい?」

サーニャ「泣いておられたんですね・・・」

 あ、夜目のいい彼女に、涙の痕が見えたのか。笑って誤魔化そう。

サーニャ「大尉は、お幸せですね・・・あ、すみません」

俺「ううん。いいんだ。ありがとう」

サーニャ「何か、言付けはありますか?」

俺「うん。安心して、ちゃんと寝て、身体を休めて、と伝えてくれるかな」

サーニャ「はい。お伝えします!私は哨戒に戻ります。あ、ぷうちゃんは元気ですよ!」

俺「よかった。有難う。気をつけてね。では!」

・・・・

 司令部でのデブリーフィングは夕方まで掛かった。
 待っていてくれた501の整備兵と共にトラックで帰投中。疲れた。お願いして、トラックの荷台で
 横にならせてもらう。帰ったら、トゥルーデに謝って、風呂はいって寝よう。

 揺り起こされて目覚めた。もうすぐだと。差し出されたレモネードを一気に飲む。少し眼が覚めた。
 もう、こんな時間だ。皆、すまなかったね。

 ハンガー前で止まったトラックの荷台で手伝う。最後に降りる。
 ミーナ隊長に報告か。順番は守らなければな。

 階段を登り始めたとき、上から誰かが抱き付いてきて尻餅をつく。トゥルーデだった。泣き笑い
 の顔。彼女を確り抱きしめる。帰ってきたよ。泣かないで。ああ、ぷうも一緒だね。お前が吼える
 とは珍しい。ただ今。

***

 一日の休暇をもらえた。トゥルーデも残業分として一日休みとなった。隊長の温情。

 海岸でのんびりしながら、俺が居ない間のことを彼女が話しをしてくれる。宮藤君が魔力が超過
 して、従来ユニットでの戦闘が出来なくなったこと。扶桑艦隊がネウロイに襲撃され、其処に
 居合わせたリーネ君と宮藤君が頑張って凌いだこと等など。『大和』の名を聞く。そうか、大和
 ね・・・。知っているのかと問われ、俺の世界でも有名だとだけ答える。

 時系列を聞くと、俺が見ていた大型の出撃がそれだったらしい。見送った自分が恥ずかしくなる。
 まあ、しょうがないんだろう・・・。

 居ない間、ぷうが毎朝トゥルーデのベッドにお邪魔していたそうだ。俺からしか飯を食わなかった
 お前なのに。トゥルーデから手渡される食事には口をつけるし。全くお前は利口だ。
 トゥルーデの気持ちを癒してくれて有難うな、というと大きな眼で俺たち二人を見上げた。その姿
 に彼女が
 笑う。そう、いつも励ましてくれた、と。今も、彼女の足にぴったりくっ付いて寝ている。
 二人で撫でると、尻尾をゆらゆら振る。深く溜息をつくその姿に笑いが漏れる。

 頭上を4人が駆け抜けていった。ああ、あれが噂の新型ユニットか。俺の世界では実戦には間に合わ
 なかった震電。ここでは、宮藤君の新しい相棒となってデビューしたんだな・・・。微妙に違う世界。
 この分なら、もしかすると核兵器など作られないのかもしれない。そうなれば、俺は彼女と一緒に
 安心して暮らせるだろう。

バルクホルン「どうした?私の顔に何かついているか?」

俺「いや。君と一緒に築く家庭は、きっと平和だろうなって思ってね」

 そっと頭を俺の肩にもたせ掛けてきた。彼女の腰に手を回す。



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最終更新:2013年02月02日 12:15