「蒼穹の絆3-12」
―終幕―
坂本「俺の回復は間に合わないな。今度は俺抜きでやるしかない」
ミーナ「そうね。司令部の作戦だから、私たちの都合は聞いてくれないし」
坂本「止む無し、だ。回復していない俺を出すとバルクホルンが可哀想だし、いいとしよう」
連合軍のベネツィア奪還作戦の会議の帰路、機内で会話をする二人。顔色は冴えない。
ミーナ「俺さんには、言わないほうがいいわね」
坂本「ああ。何が何でも出撃しようとするぞ、あいつは」
マルタ島の作戦終了後、警報が鳴るたびに病室を抜け出そうとする俺に医療部も手を焼いている。
バルクホルンから叱責されると大人しくなるのだが、彼女が出撃を待機している状態でも飛び出
そうとする。個人的な動機でないことが解ったので、バルクホルンも余り強く言えなくなった。
気持ちはありがたいのだが、と二人は溜息をつく。肋骨が再生していない状態で、空戦は無理だ。
でも、大和を護衛する任務に俺の特殊能力は必要なことも事実。
********
何時まで病室に居るんだろう。詰まらん。読書も飽きた。トゥルーデ達が来てくれるときだけ、
元気が戻る。
そっとわき腹をさすって見る。まだか・・・。肉組織と内臓は、殆ど新品にしてもらったんだけど。
魔法にも、限界――いや、宮藤君の厚意に失礼だぞ。撃たれた自分自身に文句を言え。ま、彼女
が被弾しなくてよかった。
明け放たれた窓から、ストライカーの音が聞こえる。早く復帰したい。椅子に寝ているぷうの頭
を撫でながら、外に注意を凝らす。全員が何度も同じ航程を
繰り返しているらしい。今までは、
経験していないな。なにか、新しい作戦をおっぱじめるのかな?ふむ。後で探ろう。
看護婦さんが居なくなる隙にでも。
*
ミーナ「あ、悪いわね、トゥルーデ」
バルクホルン「構わない。どうした?ミーナ」
ミーナ「ねえ、俺さんに何か聞かれなかったかしら?」
バルクホルン「・・・。いや、特別無いが」
ミーナ「そう・・・。私には探りを入れてきたのよ。坂本少佐にも」
バルクホルン「気付いたのか!あれに!」
ミーナ「多分、具体的には知らないと思うの。でも、怪しんでいるわね」
バルクホルン「不味いな。緘口令を出しなおそう。宮藤やリーネだと、問い詰められたら!」
ミーナ「ええ。もう、時間もないし。もし、あなたが許してくれるなら・・・」
バルクホルン「うん?鎖で身体を縛るとか? 駄目だ。俺はテレポーターだぞ」
ミーナ「だからややこしいのよね。ええと、もし、許してくれるならだけど、当日の朝食に
睡眠薬をね?」
バルクホルン「!成程!眠りこけている間に、か!」
ミーナ「構わないかしら?」
バルクホルン「ああ!私が食べさせる!食べるのを監視する!是非そうしよう!私も安心できる!」
*
見舞いが激減した。やっぱり、何かあるな。大尉以上の見舞い客だけ。そして、常に彼女を
伴っている。ははぁ。情報制限を掛けるって?何も気付いていない振りをするとしよう。
*
バルクホルン「俺!おはよう!どうだ、調子は?」
俺「おはよう、トゥルーデ。暇で死にそうだよ。何か仕事をさせてくれよ」
毎朝、恒例の挨拶。軽くキスする。俺は彼女の眼をじっと見る。少し逸らした?
バルクホルン「仕事をしたいなら、早く肋骨を再生しろ。あと少しだと軍医殿が仰っていたぞ?」
俺「トゥルーデ。毎日同じ台詞もね・・・。仕事させろぉ。身体が腐りそうだ」
バルクホルン「俺?恋人の言うことが聞けないのか?」
俺「トゥルーデ?恋人のお願いを聞いてくれないのかい?」
バルクホルン「まったく」
二人で笑いあう。大きな声をださなければ、胸に響かないようになった。
バルクホルン「もっと確り食べなくては駄目だ!なので、今日から私が食べさせる」
ん?また眼が。怪しいぜ。
俺「うん。楽しみにしている。頼むから普通の食事で――」」
バルクホルン「駄目だ。オートミールのミルクポリッジには滋養分が沢山含まれる。仕事に早く
戻りたいなら、文句を言わず食べてくれ。頼む」
俺「うん。トゥルーデが食べさせてくれるなら沢山食べるよ」
バルクホルン「有難う。じゃあ、後で持ってくる。ハルトマンを起こしてくるよ、じゃあ」
彼女がドアから出て行った。怪しいな。朝からハンガーの作業音もしているし。
*
ミーナ「トゥルーデ。どうだったの?」
バルクホルン「ああ。全部平らげた。薬の量は?」
ミーナ「軍医に相談して、通常量の1.6倍よ」
バルクホルン「1.6倍?!おい、大丈夫なのか?」
ミーナ「シーッ!声が大きいわよ。ええ、悪影響は無いそうよ。真夜中までは効く筈だって」
バルクホルン「そうか。安心した。あ、皆揃ったぞ」
ミーナ「はい」「皆さん、おはよう。今日はオペレーション・マルスの実行日です。今更多くは言いま
せん。頑張ってください。ロマーニャを解放しましょう!」
*
窓から、全機が飛び立つ音を数える。やっぱり。警報は鳴らなかった。そして全員出動。こりゃ、
どう考えても、大規模作戦じゃないか。
身体がだるい。トゥルーデが食器を片付けに出たときに全部吐いたんだが。よく効くのを処方した
んだろう。親切な軍医殿だよ。
さて!迅速に事を運ばないと。でも、このだるさと痺れが取れないと飛行するのも難しい。吐いた
とき、胃洗浄を兼ねて水を飲んでまた吐いたから・・・もうすぐ抜ける筈なんだけど。今は寝た振り
をするしかないか。看護婦が出て行くはずだし。
*
ようやく、満足に動けるようになった。看護婦も安心してお出かけ中。どれ。
ぷっちょを抱いて、自室にジャンプ。着替える。またジャンプ。ブリーフィングルーム。お。有った。
作戦の説明資料がそのまま残っている。ベネツィアか!なるほどな。思い切った作戦だ。大和?えー。
すっごく嫌な予感がする。
ぷうと共に、ハンガーへ。整備兵の目の前だった。
整備兵「うわったぁ! ああ、俺少尉でしたか。びっくりさせないで下さいよ」
俺「わりい!俺のユニットを貰いにきた。整備は?」
整備兵「常時完璧です! ・・・って、少尉殿はでな――」
俺「よし!有難う!では出撃する。あ、ぷうを頼むぞ」
整備兵「・・・」
俺「どうした?」
整備長「おい!準備をしろ!急げ!」
整備兵「あ! はい!ぷう、お出で」
整備長「止めたって聞く気はない、だろ?少尉」
俺「悪いな。最悪殴り倒すことも考えていた」
整備長「おいおい、話せば解るよ。いってらっしゃい。絶対戻ってきてくださいよ!」
俺「感謝する!」
念入りに試運転をする余裕は無い。コールド
スタート。ブローニングを抱えて飛び出した。
*
ジャンプを繰り返して先行した本隊を追う。前方に巨大な巣と、海上にいる艦艇の航跡が見える。
何処にいるんだろう?インカムには混乱した通信が飛び込んでくるが、501の所在がわからん。
とりあえず、もうちょっと近づくか。
?「単機で移動している所属不明機!応答しなさい!」
俺「501JFW所属。俺少尉。本隊へ向かっている。本隊の居場所を知っていたら教えてくれ」
?「針路そのまま。合流します」
誰だ?ウィッチらしいが。
ああ、あれか。四人だな。銃には手を触れずにおこう。殺気立っているとヤバイ。
俺「やあ。悪いが教えてくれるかな。留守番させられそうになってさ。飛び出してきたわけだ」
?「504JFWの笹井です。あなたがこの前の負傷者ね?」
俺「ええ。504にもお世話になりました。有難う」
笹井「いいのよ。負傷はもう?」
俺「まあ、本調子ではない。けれど、仲間が戦っているのに寝ているのは絶対嫌だ。教えて欲しい」
笹井「…急いだほうがいいわ。美緒・・・坂本少佐が大和で特攻をかけているの。あの巣の中央部よ」
目礼だけ返し、ジャンプする。実体化し、再度ジャンプ目標を選定したとき、巣が爆発を起こした。
間に合わなかったのか。終わったか。特攻・・・やっぱり大和はそういう・・・。
しばし呆然としていたが、インカムの交信が大混乱を始めたのに気付く。どうした?
俺「501!501!俺少尉。どうした?」
・・・・
ミーナ「俺さん?一体なにをやっているの!あなたは――」
俺「隊長!その話は後で!一体何が起こっているんだ?巣は消えたようだが?」
ミーナ「坂本少佐が!コアに取り込まれたの!攻撃を受けている!」
取り込まれた?意味が解らん。
俺「本隊は今何処に?」
ミーナ「扶桑空母赤城の甲板上です!」
俺「直ちに向かう!」
艦隊をオーバーしないよう、注意してジャンプした。ああ、あの空母か。赤城?
ターンしながら、空母甲板の近くにジャンプ。よし、あそこか!
実体化し、テレキネシスで急制動をかけて降りる。
バルクホルン「どうやってここに?」
ハルトマン「やっぱり来たね!」
俺「うん。食べ過ぎでメシを吐いちゃったんだ。で、どういうこと?」
説明を受ける。人間がコアに合体?いやはや。どうする。
・・・どうしようもない?コアが坂本少佐のシールドを利用している。とんでもない強度で。
ミーナ「私たちは、もう魔力が尽きてしまって・・・」
バルクホルン「どうしたものか・・・」
俺はまだ飛べる。どうやる?武装は二挺の銃。なにかやり方があるはずだ。
ミーナ「宮藤さん!一体何を!」
眼を向けると、宮藤君が発進したところだった。何をするつもりだ?
まあいい、援護しよう。何か考えがあるんだろう。
俺「彼女の援護に向かう。では!」
返事も聞かず、宮藤君の後方を目指して一気にジャンプ。実体化してからエンジンを始動。
少し距離が開いてしまった。追いかけつつ、彼女を狙う小型を落す。
俺「宮藤君。援護する。作戦は?」
宮藤「俺さん!坂本さんの烈風丸を使います!」
俺「了解。支援する!」
エンジン出力も正常になったのを確認し、一気に彼女の傍へジャンプ。
俺「どこにあるんだ!それ!」
宮藤「大和の艦首に突き立っています!」
よりによって!あそこか!小型がうじゃうじゃどころじゃない。黒く見えるぞ。
ミーナ「我々も援護します。俺さん、宮藤さんを連れて行って!全機!フォーメーション・ビクトル!」
「「「「「「「了解!」」」」」」」
皆の声援が宮藤に送られる。
ちらっと背後を見ると、敵小型が爆散しはじめている。ああ、本隊も着たか。
俺「了解!」
宮藤君の腰を抱き抱える。よし!
俺「ジャンプしつつ接近する!前方を撃ちまくれ!」
宮藤「ハイ!」
細かくジャンプして、ジグザグに回避しつつ接近。大和の右舷後部から接近する。クソ、大和まで
俺たちを撃ちやがる!バカヤロ!日本人だぞ!あ、宮藤が銃を捨てた。弾切れか!
俺「烈風丸が見えたら位置を指示して!」
宮藤「一番先にある大砲の前です!見えますか!」
俺「まった!」
ジャンプ。
俺「確認!行くぞ!」
返事も待たずにジャンプして真上に。テレキネシスで急制動し一気に下がる。俺のユニットが激突
して嫌な音が。出力が不安定になる。壊したか、まあ、いい。
俺「頼む!」
宮藤君を遮るようにシールドを張る。俺はいい。撃ち捲る。
すぐに左のユニットに直撃を食らった。ユニットを強制排除して撃ちかえす。脚が二本ありゃ、
動ける!この前の礼だ!墜ちろ!ちらりと見ると、宮藤君が全開で刀を引き抜こうとする姿が
見えた。頼むぞ。がんばれ。
弾が尽きたブローニングを捨て、M1で撃ち捲る。あ、背後に誰か?
バルクホルン「手伝うぞ!宮藤!頑張れ!」
ああ、トゥルーデか。また一緒に戦えるな。安堵感がどっと押し寄せる。
宮藤「!!!!!!!!!!」
凄まじい気合が宮藤君から迸った。さっと振り返ると、彼女が離陸を始めていた。慌ててシールドを
移動させる。平面じゃない!包み込め! そうだ!包め!脚をビームが掠める。くそ!シールドを!
シールドだ!
俺「トゥルーデ!宮藤援護!行け!」
バルクホルン「了解!」
俺のシールドは消えてしまったが、トゥルーデが援護に入った。あ、俺も撃たれてら。シールド?張れた。
距離に制限があるんだな。周りに隊員が散らばり、シールドで宮藤君をかばっている。いいぞ。そうだ。
自分をドーム状にシールドで包み、牽制攻撃しながらトゥルーデ達を見守る。頑張ってくれ!
くそ。M1の弾倉が切れた。拳銃!少しでもひきつけろ!
また、宮藤の気合がインカムから迸る。どうだ?
やった! ふっと力が抜けた。シールドも消える。まあ、いいだろ。もう。少佐は大丈夫かな。
あ、あらま。この感じは?・・・・大和が墜ちている。ありゃ。身体が浮いてきたか。
上空を見る。よし、少佐は確保されたらしい。んじゃ、俺も脱出するか。トゥルーデはどこだ?
バルクホルン「何している!捕まれ!」
ああ、来てくれたのか。手を伸ばす。脚がやけに強張る。腕も痛む。掠っていたか。
俺「ありがとう。トゥルーデ」
バルクホルン「一人で墜ちるな。さ、確り捕まって」
俺「すまんね。他の方法は無いかな・・・これはちょっと?」
バルクホルン「私のやりたいようにやる。いいだろう?それにお前、また負傷してるぞ」
ハルトマン「トゥルーデぇ。新婦が新郎を抱っこするのは違うでしょう」
エイラ「お姫様抱っこされてるゾ、サーニャ」
ミーナ「戻ったら、お話しましょうね?俺さん?宮藤さん?」
宮藤「ギク!」
坂本「ミーナ、何とか許してやってくれんか?それを言ったら私もだな」
ペリーヌ「まぁ!お似合いですわ、大尉、少尉」
ミーナ「いいえ。三人ともです!扶桑の魔女って!」
サーニャ「・・・いいなぁ」
ハルトマン「ミーナぁ。もう諦めなよ。扶桑の血なんだよ」
エイラ「!!抱っこさせて!」
坂本「それだ!」
シャーリー「あれあれ。幸せそうで結構!」
ルッキーニ「キャホォォォォゥ!」
ミーナ「全く・・・」
リーネ「えへへ。芳佳ちゃんは私が抱っこしますね」
宮藤「えへへ~」
俺「やめようよ、恥ずかしい」
バルクホルン「恋人同士だ。構わないさ」
俺「それもそうだな。重かったらごめんな」
バルクホルン「大丈夫。来てくれて有難う」
自然とキス。 口笛!煩い!
眼下の艦隊が霧笛を交わしている。終わったな、トゥルーデ。
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ご覧下さりありがとうございました。
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最終更新:2013年02月02日 12:16