「蒼穹の絆4-1」

―赴任―


1943/10月

 ミーナ中佐以下4名が司令官執務室に集まり、椅子に座って書類を捲る。

ミーナ「これが今度来る補充兵の概要です。中堅として役立つ経歴の持ち主と思うんだけど?」

バルクホルン「ふむ。またリベリアンか。真面目か?今度は?」

シャーリー「誰のことかなあ?不真面目って」

バルクホルン「貴様だ。他に誰がいる」

シャーリー「あたしかよ!あたしはてっきりハルトマンのことかと思ったけどなあ」

バルクホルン「!貴様!」

ミーナ「はい。じゃれあいは其処まで。どう思います?坂本少佐」

坂本「見てみないとな、本人を。まあ、シャーリーを見て予想はしておくよ。ハッハッハ!」

シャーリー「こんなに胸が有るのはざらにはいないと思うけど?」

 声を合わせて笑う坂本少佐とイェーガー中尉を忌々しそうに見るバルクホルン大尉。

バルクホルン「経歴・・・戦歴は、まあまあだな。アフリカで初陣、あれよあれよとエースか」

ミーナ「ええ。『パットンの短刀』とか、『ブッチャー』という渾名があるみたいね」

シャーリー「パットン将軍が良く手放したね」

ミーナ「政府の肝いりでしょう。部隊は違うけれど、やはりトップエースが502や504に派遣さ
 れるそうですし。うちにはこの人ね、俺中尉」

シャーリー「上手くやっていけるかな。それだけが心配だよ。だってねえ」

坂本「海兵隊だから、か?そんなに質が悪いのか?噂は聞くが、士官だぞ?」

バルクホルン「士官教育の最高峰はカールスラントだからな。坂本少佐の扶桑も、カールスラント式
 だと思ったが?」

坂本「ん?そりゃ陸軍だ。私達海軍はブリタニア海軍を範とした。すまんな、大尉」

シャーリー「ぷっ。いや、なんでもないよ」

ミーナ「海兵隊ってそんなに酷いの?シャーリーさん」

シャーリー「戦力としては絶対の信頼を置けるよ。大統領の懐刀だもの。絶対に降伏はしない。でも」

「「「でも?」」」

シャーリー「荒くれ者の集まり、って言われているよ。兵卒が乱暴なら、上品な士官がそれを統率
 できるかなあ?」

「「「はぁ~~~~~」なんと。士官でもそうなのか?」」

シャーリー「溜息つかないでよ。リベリオンの誇りだぞ。あたし達陸軍だって一目置くんだ」

バルクホルン「一番心配なのが、よりによって男だってことだな」

ミーナ「同じリベリアン出身で中尉同士ですから、シャーリーさんが面倒を見てやってください」

シャーリー「うん、了解」

――――――――

 朝のブリーフィングルーム。隊員が椅子に腰掛けて中佐を待っている。ひそひそ声で話される
 話題は、噂の補充兵が朝食時に到着した件。きっと、この場で紹介するんだろう。

ペリーヌ「栄えある501に、使い物にならないのが来ても意味がありません!いけ好かない相手は
 私がたたき出します!」

リーネ「・・・・・ごめんなさい」

ハルトマン「リーネが謝る必要ないんじゃない?いいの、私はリーネ好きだから。ね?」

ルッキーニ「ねえ、シャーリー。なんで黙ってるの?教えてよ~。胸はどのくらい?ねえ!」

シャーリー「あは、は。すぐわかるかな?」

エイラ「誰かみたいにサーニャを苛めない奴ならいいんだけどな。な、サーニャ」

サーニャ「zzzzz」

ペリーヌ「誰が苛めているんですって?」

エイラ「お前だロ。ツンツン眼鏡!ベーッ」

ミーナ「はい、皆さん。おはようございます。では、最初に新隊員を紹――」

 警報が泣き叫びだした。敵襲だ。

ミーナ「総員直ちに上がります!中尉― あ、もう行っちゃった。皆も急いで!」

 ミーナ達も走り出す。前方の人影は、もう居ない。

シャーリー「早いな、アイツ!」

 ごった返すハンガーに皆が走りこんだとき、滑走路へ飛び出していくのが一名。

バルクホルン「なかなか!負けていられないぞ!ハルトマン!」

 皆も発進準備に。通常の発進手順は殆どが省略される。エンジン始動と共に整備員が武器ラック
 の安全釦を叩く。インカムオン。

?「コン。了解。先行し足止めをする。隊長に伝えられたし!」

管制「中尉。了解。会合速度訂正!6-0-0!」

?「コン!Rog!」

バルクホルン・シャーリー「「管制!発進準備よし!」許可求む!」

管制「コン!滑走路ヨシ!各各!申告のみ!」

バルクホルン「ヤー!」
シャーリー「いっくぞぉ!」

ハルトマン「エーリカ!出る!」
ミーナ「ヴィルケ!発進する!」
サーニャ「リトヴャク!行きます」
坂本「坂本!いくぞ!」
・・・・

ミーナ「皆さん、聞いて。先行した新隊員・・中尉が敵と接触、足止めを図ってくれる予定です。私達
 は針路をずらし、敵の先へ回り中尉と合流、敵を殲滅します」
 「第一突入班!トゥルーデ、フラウ、シャーリーさん、ペリーヌさん、ルッキーニさん。第二班!
 私、坂本少佐、サーニャさん、エイラさん、リネットさん」
 「第一突入班は小型を蹴散らして!機数約80。第二突入班は大型へ!機数1。何か質問は?」

坂本「占位は?」

バルクホルン「敵高度プラス1000が第一突入班。プラス2000が第二。第一は1000先行するのはどうだ」

サーニャ「先行機、接敵。戦闘を開始しました」

ミーナ「了解。そうね。それならいい角度で反航上位攻撃位置を取れるわ。そうしましょう。では、
 班を組んで上昇しましょう」

ハルトマン「ねえ、ミーナ?ちょっといい?」

ミーナ「なにかしら、フラウ?」

ハルトマン「さっきの無線、やけにハスキーな声だったね」

ミーナ「すぐに解るわよ。さ、戦闘に集中して!敵目視!」

バルクホルン「こちらも視認!合図は私が?」

ミーナ「ええ!総員安全解除!先行の俺中尉!これより戦闘に参加する!」

 スピードと位置を優先する一撃離脱で敵を混乱させている先行機の姿が見えてきた。

?「リード。俺。了解、本隊を確認した。やってくれ」

バルクホルン「第一!攻撃!攻撃!攻撃!」

ミーナ「坂本少佐。コアは?」

坂本「見えた。ど真ん中だ!上下位置も同じく!」

ミーナ「サーニャさん、リーネさん、いいかしら?」

サーニャ・リーネ「「はい!」」

坂本「リーネ、落ち着け。私について来い。エイラ、サーニャをサポート!」

エイラ・リーネ「「はい!」」

ミーナ「第二班!突撃!」

・・・
・・・・・

ミーナ「皆さん、お疲れ様。怪我は無いわね? では、遅くなりましたが新隊員を紹介します。
 俺中尉。自己紹介を」

 ホバーした全員の前に、新隊員がスライド移動した。ミーナの横に位置する。革ジャンを纏い、
 シャツは第一ボタンを外している。短パンの上からごつい装備ベルトを付けている。背負った
 重機関銃の銃身からは陽炎が立ち上っている。サングラスを外した。 

俺「リベリオン合衆国海兵隊、第215海兵攻撃飛行隊所属。俺中尉。本日より501に配属になった。
 宜しく」

ミーナ「はい、有難う、中尉。ではみなさ―」

ペリーヌ「男性でしたの??!」
エイラ「男は駄目だァァァァァ!」
ルッキーニ「ウギューーーーーッ!胸ないじゃーん!」
リーネ「・・・・はい?」
ハルトマン「はー。男・・・のウィッチ?」
サーニャ「・・・・・初めて

 ミーナが俺中尉の顔を見る。と、朗らかに笑っている俺がいた。

俺「ハイ!レディース!まあ、そんなに煙たがるな。噛みついたりしないから。アハハハ」

バルクホルン「静粛に!」

ミーナ「では、皆さんも自己紹介を。左から右へ、シャーリーさん、お願いね」

 自己紹介を交わす俺中尉を坂本もバルクホルンも注視する。

坂本「(乱暴者、というほどでもないか?)」
バルクホルン「(典型だな、リベリアンの。軽すぎる。でも、今の戦闘で7機以上墜としたはず)」
ミーナ「(なんとか、第一段階はクリアからしら。9機撃墜、か。カールスラント語も話せるのね)」

 母国語であるブリタニア語のほか、カールスラント語、オラーシャ語、ロマーニャ語もある程度
 使いこなす俺。母国語で挨拶されたものの多くは笑顔になる。

エイラ「何だヨ。スオスム語はからっきしカ。つかえねー奴だナ」

俺「ごめんな。『キュッラ!』だけなんだ。今度教え―」

エイラ「おお!知ってるのカ!お前大した奴だナ!私のこと、イッルでもエイラでもどっちでも
 いいゾ!サルミアッキ食べるカ?」

俺「ご厚意ありがたく。一粒でいいよ」

ハルトマン「何処で覚えたの?」

俺「親が教えてくれたんだ。牧師でさ」

ハルトマン「なるほど!」

―――――

シャーリー「ここが俺の部屋な。鍵はないんだ。トイレは出て右。角曲がってすぐに誰も使って
 いない男用がある。水は流れるだろ。荷物は後で運んでくれるから」

俺「ワォ!個室なのか!嬉しいね」

シャーリー「男は俺一人だからなあ。相部屋は不味いだろ?」

俺「だナ。男に生まれてよかったぜ。洗面所も付属か!いやー。いい基地だ」

シャーリー「そうだろ?美人揃いだしな。あはははは」

俺「美人は見て楽しむものだ。それだけだナ。で、シャワールームは?」

シャーリー「あれ?お前女に興味がないのか?これを見ても?」

 胸をゆさゆさして見せるシャーリー。

俺「すげーなあ。大したもんだ。が、俺は別に巨乳フェチじゃないんでナ。大胸筋鍛えておけよ?」

シャーリー「何のために?訓練はどっちかってーと嫌いだけど」

俺「垂れるぞ?自慢のパイオツが重力に負けたらかわいそうだと思ってナ」

シャーリー「あはははは!お前、やっぱりオッパイフェチじゃないか!重力に抗う胸の魅力が
 解ってる!」

――

シャーリー「ここがこの基地自慢のパイロット専用大浴場だ!どうだっ!」

俺「こりゃぁ・・・ロマーニャのカラカラ遺跡顔負けだナ。すげえ」

シャーリー「いや。完全に勝っているね。こっち見ろよ、ほれ、あれ」

俺「サウナ?マジ?保養所か、ここ!」

シャーリー「そそ。食事も寝ることも、そして戦闘も出来る保養所さ!ブァッハッハッ!」

俺「アハハハハ!すげぇ!ここで一生暮らそうかナ!」

シャーリー「ここで結婚して?」

俺「そそ。子供育てて。医務室も結構な設備と聞いたぞ?分娩くらいできるだろ」

シャーリー「図書館も有る!勉強もばっちりだ!」

俺「部屋数多いし!突然の来客にも慌てないで済む!」

シャーリー「二人の恩給で買い取っちゃおうか!滑走路も付いてるぜ!」

俺「シャーリーとかよ!」

シャーリー「不満なのかよ、おい!脚だって綺麗だぞ!ほれほれ!どうだ!」

俺「笑顔も可愛い!不満無し!エクセレント!」

 二人で腹を抱えて笑う。通りかかったミーナが頭をかしげた。何か面白いのかしら?お風呂が?

――――――

バルクホルン「お手並みを見せてもらう。単機で模擬空戦。ペイント弾が一発でも当たる、または
 弾切れ、制限高度を割ったら負け。シールドは無し。いいか?俺中尉」

俺「了解。んじゃ始めましょうか」

シャーリー「(F-4Uコルセア、かぁ。どうなんだろうな。アレと絡んだことがないや。見せて貰おう)
 よーし!反航開始!始め!」

 双方が向首で接近し、すれ違った瞬間に開始。二機とも、一気に機首を持ち上げた。

シャーリー「(190には勝てないぞ?無理だ!)」

 早々に、俺が上昇をやめ、失速反転を始めた。ロールしつつ、バルクホルンがその後ろを取ろうと
 降下しつつ急加速をかける。バルクホルンが撃ったが、避けようともせず悠々と下降していく俺。
 射線を無視して下降スピードを上げつつ縦下方へのバレルロール。バルクホルンがオーバーして
 突っ込んでしまう。位置を変えつつ上昇しようともがくバルクホルンに、一気に距離を詰めた俺が
 接近、偏差射撃をした。滑らせて何とか射弾を躱す。

 更に追うことをせず、そのまま上昇してターンしながらバルクホルンの動きを注視しているらしい。
 それを嫌ったバルクホルンが誘いをかけるが、乗らない。徐々に高度を取りつつ、サークル飛行を
 続けている。じれたバルクホルンが牽制射でサークルを断ち切る。ロールしてそれを避け、急激に
 頭を落して急降下を俺が始めた。バルクホルンがそれに食いつく。俺がバレルロールを始めた。
 バルクホルンもそれに追従。機速が十分付いた時点で、俺が無理やりにシザース運動に持ち込んだ。

ミーナ「マイペースを保つわね、俺中尉」

坂本「うん。190との経験が無いといっていた」

ミーナ「データーを取っているのかしら?」

坂本「かも知れない。マイペースが不気味だな。牽制すらしないしな」

 シザースを繰り返していた俺が、ポッと上に弾かれたように飛び出し、そのまま一気にインメルマン
 ターンのような機動を取る。インメルマンのような悠長な機動でないが。追従できないまま、機首を
 向けるに留まったバルクホルンに斜め上方から一連射。真っ向からの射線をダイブして躱したバルクホ
 ルンも撃ち返す。が、射弾が届く前に、俺はロールしてダイブ。それを追いかけるバルクホルン。
 急降下のスピードはコルセアが有利らしい。相互の距離が離れだした。

ミーナ「レーダー。高度に注意して」

 制限高度の800上から、一気にコルセアが急上昇を掛けた。遠心力で更に下に引っ張られつつ、パワーで
 重力に抗う機体から水蒸気が尾を引く。190も眼前で俺の機動を見た瞬間、アップをかけるがRが大きい。

レーダー「制限高度割りません。200余裕!」

 俺の飛行機雲のRが急に小さくなる。上昇中のバルクホルンの背後位置。俺がそっけなく一連射。
 発射音が聞こえる前に、バルクホルンの体がペイントで塗れた。

バルクホルン「え?え?・・・やられた。繰り返す。撃墜された」

シャーリー「撃墜判定!状況終了!戻ってきて~!(おいおい、マジかよ!)」

ミーナ「アレだけGをかけながら撃って当てた?」

坂本「なんと・・・。点射を送っただけだ。良く計算できるもんだ」

 二人が戻ってきた。共に汗をかいている。

シャーリー「お疲れさん!凄かったな!」

バルクホルン「あの位置で撃って当てるとは。完敗だ。どうやったんだ?」

俺「未来が見えるんだ。状況にもよるが、4秒から10秒は。だから、位置も、自分がこれから撃つ弾道も
 見える。最適なときに最適な射弾を未来位置に撃ち込むだけ」

エイラ「私と同じ?未来予知カ?」

俺「予知というのかな?確率論じゃないんだ。よくわからないよ」

バルクホルン「なんとなく、わかるかな」

俺「空戦技術以前の問題なんだ。すまないナ、バルクホルン大尉」

バルクホルン「いや。空戦技術も私と変わらないか、上かもしれない。絶対有利な位置にどうしても
 喰い付けなかった。まだまだ未熟だ、私は」

俺「俺もだよ。大尉」

バルクホルン「こちらこそ。よろしく、俺中尉。ブッチャーのほうがいいか?」

俺「どっちでもいいよ、よろしく」

ミーナ「トゥルーデから手を差し伸べたわ」

坂本「バルクホルンは素直だよ。認める相手は認める。それがあいつのいいところだ」

――

ハルトマン「俺~。逃げてばっかりはずるいよ」

俺「逃げるのがやっとだ!ありゃ凄い。見えなくなるぞ。間合い間違えるとやられるナ」

 ハルトマンと対戦し、シュトルムで追い掛け回された俺。

ハルトマン「でも、私の移動先にたっぷり撃ち込んでくれるじゃない。おあいこだよ」

俺「おあいこかねえ?どう思う?バルクホルン大尉?」

 笑って応えないバルクホルン。

ルッキーニ「で、固有魔法はそれだけ?」

俺「いや。・・・遠隔点火がある」

シャーリー「え!複数持ち??」

バルクホルン「火をつけるのか?」

シャーリー「おまわりさーん!放火魔がここにいまーす!」
ハルトマン「私のハートに火をつけて♪」
ルッキーニ「すご!マッチ要らないね!」

「「「あははは」」」「なにが面白いんだ?」

俺「点火というか、爆破というか。俺にも良く判らん。まあ、相手は破壊できる」

ハルトマン「多数の敵に対しても?」

俺「距離が近ければね。爆発の衝撃で破壊できるが、相互距離をとっているとだめだ。回数は
 一回のみしか使えない。俺も疲れる。それと」

バルクホルン「なんだ?」

俺「もし、それを使う場合は、女性ウィッチは遠距離に避退する必要がある。最低で2キロはナ」

ハルトマン「私たちも爆発しちゃうの?」
シャーリー「ひょー!あぶねー奴!」
ルッキーニ「コワイヨォォォ!」

俺「いや、吹っ飛びはしないが・・・まあ、なんだ。肉体的影響が・・。まあ、避難警告するから」

バルクホルン「男のウィッチは問題なし?よく解らんが・・・」

俺「爆発自体は双方に影響する。相手が大型なら、俺も数キロは離れていたい。重度の日焼けの
 ようになるし、衝撃波とかナ・・・。市街地とかでは絶対使いたくない。俺が民衆の敵になっちまう」


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最終更新:2013年02月02日 12:16