「蒼穹 EX-11」
―遭遇―
1947/7
バッキンガム宮殿での定例会議が終わった。以前は後見役として一緒に来てくれた提督も、私に任
せて参加しなくなった。チャーチル首相も選挙に破れ、アトリー首相がここに座っている。
ネウロイ大戦も人類が勝利し、会議の話題は各国の対外政策の変化が話題になっている。世界警察と
して名乗りをあげたリベリオン合衆国。その覇権主義に、静かに異を唱える扶桑皇国。大ブリタニア
帝国は、その流れを単独で変える事は難しい立場になってしまった。パックス・ブリタニーアは過去の
もの。これからは・・・時代は変わる。昔を懐かしんでも益はない。
扶桑皇国関連の質問と調査依頼が相次いだ。多分、同盟関係をさらに強化したい考えなのだろう。
「国家に友無し。あるのは国益のみ」 ネウロイ大戦が終わった今、それぞれが国益に走り出した。
予想は出来ていたことだが・・・。各国間を繋ぐウィッチのパイプで、緊張状態には至っていないのが
幸いだ。大戦後の最大の遺産かも知れぬ。
国王「本日も有難う。では、皆さん。また来週」
全員が起立し、国王とエリザベス王女が退席するのを見送る。
随行員「サー・俺。申し訳ありません。ここにてお待ちください」
頷きながら、今も慣れることが出来ないこの呼ばれ方に苛立ちを覚える。階級でいいじゃないか。
皆が退席していく中、メモパッドの新しいページにいくつか覚書。ブリーフケースに仕舞う。今日も
王女がお呼びなんだろう。王女は、親しくお話いただけるので肩が凝らずに済む。今日の話題は何だ
ろう。また、皆の話題だろうか。
随行員「サー・俺。お待たせしました。どうぞ、ご一緒に」
別の部屋に案内される。部屋に入って、案内役はすぐに退室した。椅子に浅く座り、背筋を伸ばして
王女を待つ。窓は開け放たれ、初夏の気持ちよい風がカーテンを揺らして室内に入っている。
王女「俺大佐。お待たせしました」
俺「王女様。こんにちは。今日もお招きくださり有難うございます」
王女「俺大佐とお話しすれば、懐かしいときを思い出せますから。明日はお休みでしたね?ゆっくりして
行ってください」
俺「王室の情報網も素晴らしいですね。ええ、提督から休みを取るように言い渡されました」
王女「時として、昔ながらの人的資材のほうが有効なときもありますね」
リベリオンが得意とする電子情報収集重視姿勢を揶揄されているのかもな。
俺「古い手段は、実績があります。新しい手段が、古いやり方の全て凌駕するとはいえませんね」
おや?いつもはすぐに椅子に座るよう、促されるのだが・・・。どこかに移動するのかな?
王女「旧式なやり方に拘るのは、ここが一番保守的かもしれませんね。今日はね、大佐。楽しい趣向を用意
してみたの。さ、バッグを持ってこちらにいらして?」
俺「はい」
ブリーフケースを左手に携え、王女の二歩斜め後ろを歩く。横の部屋に続くドアへ向かった。
王女「さ、こちらの部屋です」
すっと王女を追い越し、ドアを開いて王女に道を開ける。
目礼をしつつ、王女が中に進んだ。私も向きを変えて中に進もうとした。眼に入ったものに硬直する。
「「「「「「「「「「「俺!久しぶり!」」」」」」」」」」」
俺「え!!皆どうしてここに?!」
王女「あら。紳士が驚きを顔に出すとは。余程嬉しいのね。今日は501の旧隊員をお呼びしたの。ガータ
ー騎士団の同窓会ね。さ、ほら。なにを突っ立っているの?大佐」
もう逢うこともできないと思っていた皆の顔が目前にある。制服姿の者、私服姿の者もいる。
皆、元気そうに笑っている。夢に見た笑顔・・・。
俺「は!大変驚きました。王女様」
王女「ああ、そうでした。今日からその呼び方は、変えてくださいね?皆さんともお友達になったの。
だからあなたもお友達よ。『ベス』って呼んでね?あなたは?」
俺「いえ、それは出来ません。王女様は将来の国家元首です。私の次期最高司令官です」
王女「頑固ねえ。では、わたくしから『お願い』をします。それでも?」
俺「・・・・は。畏まりました。では、俺、とお呼びいただければと・・」
王女「全く頑固な紳士ねぇ。ねえ、ミーナ?そう思うでしょう?」
ミーナ「ええ。まったくね、ベス」
額に汗をかいているのを自覚しつつ、皆の軽やかな笑い声が耳を打つ。私は夢を見ているのだろうか。
501の皆がここにいて、王女様と私が友達づきあい??
ミーナ「お久しぶりね、俺さん。ほら、ベスを余り困らせては駄目よ?」
歩み寄ってきた彼女をボンヤリと見る。やっぱり、これは夢だ・・・。ありえない。
俺「お元気そうで。ミーナ・・・大佐?」
王女「全く。ボーッとしちゃって。ミーナは今は大佐よ。あなたと同じ。しっかりしなさい」
王女の笑い声が・・・頭に反響する。これは夢だ。絶対夢だ。
俺「有難うご・・・ 感謝します、ベス・・・? 私は夢を見ているのかな、ミーナ大佐」
ハルトマン「完全に舞い上がってる」
エイラ「駄目なナイトだナ。ね、サーニャ」
笑い声がまた聞こえる。頬を殴って眼を覚ますか。いや・・・醒めないでほしい。
王女「ミーナ、彼に現実だと確認させてあげたら?」
ミーナ「え、ええ。どうやればいいのかしら」
坂本「頬を二三発張るといいぞ」
バルクホルン「坂本中佐、それはちょっと?」
サーニャ「キスして・・・は?」
キス?ありえない。されたら絶対夢だ。違いない。
ミーナ「ええっ!」
ルッキーニ「それいい!やっちゃえ、ミーナ!」
リーネ「それがいいと思います、ミーナ大佐」
宮藤「俺さんは私と似て、自分で確認しないと駄目ですから。キスしちゃいましょう!」
ハルトマン「俺が倒れるよ。手を握るぐらいでしょ、今は」
エイラ「宮殿の中だしナ」
ミーナ「それがいいわね」
ミーナさんの懐かしい笑顔が私に近づいてきた。そっと私の右手を両手で握ってくれる。暖かい。
眼を落すと細くて白い指先が私の手を握っているのが見えた。夢じゃない?
ミーナ「俺さん、これは現実よ?皆ここにいます。私もいます」
何度も頷く。彼女の眼に涙が溢れていく。私もいつの間にか涙を零しそうになった。
王女「全く頑固ね、俺さんは。でも、よかったわ」
エイラ「俺ェー。感激しすぎダゾ」
坂本「エイラ。男のこういう涙は・・・いいもんじゃないか」
――――――
気持ちのよい風が通るテラスで、邪魔されず私達だけでお茶を飲む。私の横にはミーナ大佐がいる。
其々の戦後の話に花が咲く。王女・・・ベスが、楽しそうに皆の話に耳を傾け、絶妙なコメントで皆を
笑わせている。ベスの知らない一面を見たな・・・。
王女「私と同じで、上がりを迎えられた方もいらっしゃるわね。恋人は出来ましたか?」
ミーナ「ベスは、ずっとお付き合いしている方がいらっしゃるのよね」
王女「ええ。もう8年になります。あら?俺さんも知らなかったの?」
俺「初耳です。幸いにも調査命令が国王陛下から出ておりませんので」
バルクホルン「え?命令があったら探るのか?」
俺「え!まあ、命令を公然と無視するわけにも・・・。あ、サボタージュすればいいんだ」
坂本「当たり障りなく?」
ハルトマン「ベスとその彼に迷惑をかけないように?」
俺「うん。そうしないと、その後で私が失業してしまうよ」
王女「優しい方でよかったわ」
エイラ「国家反逆罪で投獄ダロ?」
そうだよなあ。
サーニャ「エイラ、やめなさい?」
坂本「成程な。私は見合いの話くらいは有るんだが・・・なかなか、ね」
ペリーヌ「え!お見合いですか?坂本中佐に!」
宮藤「もてもてなんですよ!お見合いだけじゃなくて、軍民ともにラブレターの嵐なんです!」
ペリーヌ「え、え。どうしましょう」
宮藤「でも、開封もしないで箱に放り込んでいるんです。お返事くらい書けばいいのに」
ペリーヌ「ホッ」
坂本「いや・・。筆不精を盾に取ってな。あはは」
バルクホルン「坂本中佐も、アイパッチを外したらエレガントさが際立つようになった」
ミーナ「ええ。そのほうがお似合いよ?美緒」
坂本「そ、そうかな?」
王女「アイパッチを着けていた時は精悍で。今はとてもエレガンスな乙女よ?」
ペリーヌ「それはもう・・・お綺麗です、中佐」
サーニャ・エイラ・リーネ・宮藤「「「ウンウン」」」
ハルトマン「トゥルーデはねえ。ちょっと気になる人がいるんだよ。かっこいいんだ!」
バルクホルン「ヤメロ・・・」
王女「素敵な人ね、きっと。今度紹介してくださいね?トゥルーデ」
バルクホルン「ええっ? はい。 ハルトマン・・・」
ハルトマン「いいのいいの」
エイラ「ハルトマンは?」
ハルトマン「・・・うん・・・ちょっと」
サーニャ「あら。真っ赤・・・」
バルクホルン「フラウはね、その人の前に出るとしおらしいんだ。乙女になる」
ハルトマン「やめてよ、トゥルーデ」
リーネ「解るような気がします」
エイラ「黒い悪魔じゃ無いのカ」
サーニャ・宮藤「「ニコニコ」」
王女「それはそれは。何時でも紹介してくださいね?」
ハルトマン「うん!それじゃあ、すぐ写真送るね!」
宮藤「エイラさんとサーニャさんは?」
急にもじもじしだすエイラ君。サーニャ君はニコニコしている。
エイラ「あ・・・・あのサ。サーニャと・・・
ずっと一緒に・・・ってね」
サーニャ「はい。エイラと一緒にいます」
王女「愛はそういうものよ。二人が同じ気持ちであることが大事よ」
皆、頷く。彼女達の気持ちはよく解っている。
シャーリー「二人ともリベリオンにおいでよ?結婚届出せるよ?」
エイラ・サーニャ「はい!是非!」
宮藤「リーネちゃん、聞いた?」
リーネ「芳佳ちゃん。うんうん」
ルッキーニ「シャーリー。後一組行くみたいだよー。うしし~」
エイラ「ペリーヌはどうなんダ?」
ペリーヌ「わわわわたくしですか? ずっと前から心に想う方が・・・」
シャーリー「お?坂本中佐を見た」
ルッキーニ「おや? ハッハーン。やっぱ―――」
坂本「まあまあ。余りからかわないでやってくれ」
ルッキーニ「グシシシシシ。早く告白しちゃえ!ペリーヌ!」
ペリーヌ「はい・・・」
坂本「ペリーヌ!後で私の部屋に来い。いいね?」
ペリーヌ「はい!中佐!」
坂本「階級はつけなくていい。な?ペリーヌ」
ペリーヌ「ハイ」
王女「いいお話みたいね」
ハルトマン「シャーリーとルッキーニは?」
シャーリー「言い寄る男は多いんだけどねぇ~、あたしはルッキーニといるほうが気楽なんだ」
ルッキーニ「そそ!なんで、シャーリーが超音速の記録を出したら、退役してね、ロマーニャにね!」
シャーリー「うん。転住するつもりさ。で、ルッキーニが上がりを迎えて仕事もひと段落したら」
ルッキーニ「二人でリベリオンで式をね~ウシャシャシャシャ」
バルクホルン「一番具体的だな」
ハルトマン「まあ、残り二名は」
ペリーヌ「お二人で」
坂本「そうそう。あ、ペリーヌ、お代わり貰えるかな?」
ペリーヌ「はい。ただいま」
そっとミーナさんの顔を見る。眼が合った。皆、私になにをしろと?微笑を返された。まさか・・・。
――――――――
その夜は、国王陛下も交えてのディナーパーティが開催された。でも、陛下とベスのお気持ちで半立
食の気軽な型式。皆、この後は宮殿の其々の部屋で休む。それも有って、制服を脱いで其々が気楽な
格好で参加した。ドレス姿のものも多い。俺は、何も知らされないままの参加となったので、そのま
まの制服姿。坂本中佐と宮藤少尉は扶桑の着物姿。
国王の笑い声が響く。皆もそれに安堵して、気楽に笑うようになった。
ルッキーニ「陛下って、普通の喋り方もできるんですね。あたし、安心しちゃった」
国王「いや、本当はこれが普通の話し方なんだ。急に国王になることが決まったんでね、堅苦しい言葉
を覚える時間が無くて。あれは辛いんだよ。拒否反応が出て言葉も苦手になってしまった。こうやって
軍人仲間と話すのはいいもんだね」
何人かが気付く。『王位をかけた恋』。その流れでの即位。この方も失うものは大きかったんだ・・・。
王女「お父様も今日は気楽でいいでしょう?」
国王「ああ!こんなに愉快なパーティーは久しぶりだよ。皆さんに来て貰えてよかった!」
ミーナ「有難うございます」
リーネ「私、とっても心配したんです。粗相をするんじゃないかって・・・」
シャーリー「いやぁ、あたしも安心しましたよ。もう、どうなるんだろうって胃が痛くなっちゃって」
ルッキーニ「そぉ?あたしはドキドキワクワクしてたけどなー!」
宮藤「あ!私もです!宮殿なんて絵本で見たことしかなかったから」
バルクホルン「宮殿にお招き戴くなんて、なあ」
坂本「ああ。天皇陛下にお会いするのと同じと思うと、私も胃が痛くなった。足が震えたよ」
国王「お国の陛下も、きっと気楽にと思われていらっしゃるんじゃないかな?」
ルッキーニ「どっちも無理にしゃちほこばっているみたいだねー。気楽にやればいいのにね!」
シャーリー「ロマーニャ公国第一公女とルッキーニは友達だもんなあ。お前だけだよ、肩に力がはいら
ないのは」
ルッキーニ「だって~、同じ人間同士だよ?」
王女「ルッキーニさん、それですよ。人間同士ですもの。煩い政治家や新聞記者が居ない事も気楽よね」
国王「気のいい仲間だけ。ははは」
ハルトマン「気楽が一番だよね」
ルッキーニ「うんうん!」
バルクホルン「お前はあの人の前以外ではいつも気楽だろう?」
ハルトマン「えー?そんなことないよ。多分」
王女「ねえ、どんな人なの?その人」
宮藤「聞かせてください!」
ハルトマン「ええと・・・静かな人で。余り笑わないんだけど、笑うと笑顔が可愛くて。えへへ」
バルクホルン「一番大事なことは、お前が作る料理をおいしそうに食べてくれる人、だろう?」
ハルトマン「そう!そうなんだよ!気絶も下痢もしないの!」
王女「まあ!私の彼と同じね!おいしそうに食べてくれると嬉しいわよね~」
「「「ベス。ちょっと違うよ」」」「いいんじゃないか?はっはっは」「凄いです」「ニコニコ」
――――――
ミーナ「そう。俺さんも上がりなのね」
俺「ええ。お陰で気が楽になったよ。人の心を探るのは嫌だったから」
俺がそういうと、ミーナ大佐も微笑んだ。この人の心を探ってしまったことを今更ながら悔いる。
俺「ミーナさんも?」
ミーナ「ええ。なので、今はデスクワークだけです。若手はトゥルーデとエーリカが指導してくれて
いますし」
俺「もう、音楽の道には戻らない?」
ミーナ「あら。昔の資料に書いてあったのね。ええ・・・今から勉強しても、もう。仕方が無いです」
俺「そう・・・。このまま軍に残るんですか?」
ミーナ「大使館での仕事を打診されているんですけど。空を見て考えてしまうんです」
俺「空が懐かしいんでしょう。私もです。もし良かったら明日一緒に飛びませんか?通常機ですけど」
ミーナ「え?」
俺「情報部にも航空ファンが結構居ましてね。複座の練習機があるんです。明日はそれで飛ぶ積もりだっ
たので」
ミーナ「ご一緒しても宜しいなら、是非」
俺「じゃあ、決まり!のんびり飛びましょう。あ、旧501基地を空から見ますか?」
ミーナ「ええ、行きたいわ!是非!」
ハルトマン「ほら、ミーナ、俺さん。ブランディお代わり。何かいい事あった?」
ミーナ「俺さんが、明日空に連れて行ってくれるって」
バルクホルン「ミーナ、良かったじゃないか!」
俺「え?全然飛んでいなかったのかい?」
ハルトマン「うん。安定しては・・・ね。それで、皇帝陛下から専用の通常機をプレゼントして貰ったのに
飛ばないんだよ。スキルはあるのに」
ミーナ「願掛けしていたの。でも、叶ったから」
バルクホルン「ああ。そうだな。楽しんでおいで。空は今も変わらないよ」
俺「じゃあ、上空で操縦をバトンタッチしよう」
王女「それなら、皆さんでご一緒すれば?旧式だけど、ストライカーユニットもあるわ」
ルッキーニ「そうしよそうしよ!任務以外で飛ぶのって楽しいじゃーん!」
シャーリー「ブリタニアの空も久しぶりだよな~」
ペリーヌ「複座ユニットもございますか?」
王女「ええ。ありますよ」
ペリーヌ「坂本中佐!私と一緒に飛びましょう!」
坂本「うん。頼むよ、ペリーヌ。私も安定して飛べなくなってしまったからな」
リーネ「芳佳ちゃん。私と飛んでくれる?」
宮藤「おねがい!リーネちゃん!わぁ、久しぶりだよ~」
バルクホルン「練習機は単発のハーバート?ああ、それなら操縦できる。私も飛ばせて貰おう」
王女「あ、トゥルーデ。私も乗せて!」
エイラ「お忍びダ?」
王女「それはもう、当然!」
国王「いっておいで。ベス」
―――――――――
伝説のストライクウィッチーズが集まったと聞きつけた空軍基地の雀たちが押し寄せた。
T-6二機はプリフライトチェックに時間が掛かる。ユニットを装着した組は、先に空に舞い上がった。
管制「ナイト1。滑走路進入よし。プリンセス1。ナイト1の離陸完了後に
スタートされたし」
俺「コントロール。ナイト1、滑走路に進入する」
バルクホルン「コントロール。プリンセス1、了解。スタンバイ」
前席に座ったミーナさんが左右を見ている。インカムに聞こえる呼吸音が心なしか早くなったようだ。
フットバーを踏んで機の軸線を滑走路に合わせる。よし、ブレーキ。計器最終確認。・・・よし。インカ
ムでミーナさんに呼びかける。
※インカム=前後席の有線通話機として表記します。僚機との通信は無線です。
俺「ミーナさん。離陸からおやりになりますか?」
ミーナ「いいえ。俺さんにお任せします」
俺「じゃあ、高度を稼いだら替わりましょう」「コン。ナイト1、離陸開始」
ブレーキをしっかり踏んで、操縦桿を引いたままでスロットルをゆっくり入れていく。機体の振動が伝
わってくる。
頃合を見て、しっかり操縦桿を腹にひきつけたままブレーキを解除。最初は徐々に、すぐに疾走を始め
る。ガタガタ揺れる機体。操縦桿に伝わる抵抗。フットバーで右に向こうとする機体を修正。
ゆっくり操縦桿を中立にしていく。シリが浮いた。もうちょい。ジワッと操縦桿を引く・・・ガタガタが
フッと消えた。
俺「ミーナさん。お帰りなさい、空に」
緩やかに上昇していく。脚をしまうと速度の伸びがグンとよくなった。
ミーナ「空ね・・・。少しキャノピー空けてもいい?」
俺「うん。どうぞ」
キャノピーが後方に下がってきた。私も自分のキャノピーを前に押す。風が吹き込んできたが、インカ
ムで普通に会話が出来る。
ミーナ「嗚呼・・・この感じ・・・。本当に久しぶり・・・」
俺「旅客機では味わえないよね」
ミーナ「ええ。飛んでいる実感がある・・・」
横にトゥルーデ機が並んだ。前にどうぞ、とハンドサインを送るが、ベスから先行の合図が帰ってくる。
ベスは基地で借りた皮のジャケットに飛行帽。白い絹のマフラーが目立つ。了解、と合図を返す。
ミーナ「あら、みんなも寄ってきたわ」
ユニット装着組が左右に弧を描いて並びはじめた。魔力を喪った坂本中佐と宮藤予備役少尉は、其々ペリ
ーヌ大尉とビショップ中尉が操縦する複座ユニットで飛行中。二人とも喜びが顔に溢れている。仲間と一
緒に飛ぶんだ、嬉しくないわけが無い。
しかし。全く見事な飛行だな。私も気合入れないとな。笑われるぞ。
俺「さて、予定高度と。じゃあ、ミーナさん。ユーハブコントロール!」
ミーナ「あ。ねえ、俺さん。行きはお願いできます?」
俺「折角の機会ですよ?勿体無い」
ミーナ「お願い!」
俺「遠慮はソンリョ、ですよ?替わりたくなったらいつでも言ってくださいね」
ミーナ「ええ。解りました」
俺「各機。ナイト1。進路変更のお時間だよ。ベアリング1-1-0、古巣へ行こう」
操縦桿のボタンを離すと元気な声が答えてきた。普段なら、目立たない位置に空軍のエスコートが
いるはずだが、今日は見当たらない。ま、二機とも武装しているし。王女に危険は及ばない。
俺「ミーナさん、やっぱり歌が好きなんですね」
ミーナ「え?」
俺「インカムは同時通話タイプだから。綺麗な声だ。聞き惚れました」
ミーナ「あらっ! ごめんなさい」
俺「いえいえ。お陰で気分よく飛べましたよ。あ、基地が見えてきた。11時」
ミーナ「ああ!変わらないわねえ・・・懐かしい・・・」
そっと緩降下する。列機も同様にそれに習う。
ミーナ「今、ここはどうなっているの?」
俺「軍の緊急用滑走路として使われています。若干の要員が配備されているそうですよ」
管制「こちら501管制。ナイツフライト、お帰りなさい。プリンセス1、いらっしゃいませ」
俺「501コン、ナイト1。有難う。しばらく上からお邪魔しますよ」
王女「えーと、プリンセス1。有難う」
管制「はい。お茶も出せず申し訳有りません。ごゆっくり」
ミーナ「501の名前を残しているの?」
あれ?送信ボタンを押して話した。あ、そうか。私も。
俺「ええ。チャーチル元首相の提案です。忘恩の徒と言われるな、と」
ミーナ「・・・嬉しいものね・・・」
シャーリー「ねえ!自由飛行してもいいかな?」
エイラ「私も!」
バルクホルン「じゃあ、私も」
管制「ナイツ・フライト。周囲に他の飛行機なし。ご自由に飛んでください」
ミーナ「ええ。無茶はしないでね?ありがとう、コントロール」
俺「501コン。ありがとう」
皆が自由に飛行を始めた。間違っても心配など要らない。今でもブリタニアで敵うパイロットがいる
のかどうか。
滑走路を掠めるシャーリーとルッキーニ。基地要員も手を振っている。
私は基地を中心とするサークルを描いて飛ぶ。あ。ミーナさんが操縦装置に手足をかけたな?重さが
微かに変わった。
俺「そろそろ、飛ばしてくださいよ。エース?」
ミーナ「ええ。それじゃあ、いい?」
俺「ユー・ハブ」
ミーナ「アイ・ハブ!」
すっと両手両足を離す。滑らかに操縦桿、フットバー、そしてスロットルが操作される。上手だ。
加速しつつ、軽く機体を振って確認している。
俺「やっぱりね」
ミーナ「え?なに?」
俺「上手だ。安心してタバコが吸えますよ」
ミーナ「あら。私は両手塞がっているのに」
俺「あはは。すみませんね。よろしくです」
ミーナ「ずるいわ」
ドン!とアクロバット飛行に入られた。縛帯が肩に食い込む。うーん。タバコを意地でも吸ってやる。
坂本「おやおや。言った本人が無茶をしている」
ハルトマン「いけいけー!」
ペリーヌ「お上手ですわね」
リーネ「さすが、隊長です」
ミーナ「私、願掛けしたって言ったでしょ?」
あ、今度はインカムだ。
宮藤「ああ・・・背中に当たる・・・当たっている・・・リーネちゃん、もっとGかけて」
俺「ええ。何の願掛け?また、皆で会えるようにって?」
無線が賑やかだな。インカムに集中しよう。
エイラ「宮藤ー。なに楽しんでんだヨ」
ミーナ「ちょっと違うの。ある人に逢えます様にって」
リーネ「芳佳ちゃん・・・」
サーニャ「きゃっ!」
ルッキーニ「おおーーっ!サーニャのオッパイ大きくなってるぅ!うーん、敢闘賞!」
シャーリー「おー!やったなぁ!サーニャ!」
エイラ「なにやってんだよォ!サーニャから離れろ!ルッキーニ!」
ペリーヌ「羨ましいですわ・・・」
俺「・・・もしかして・・・いや、まさか」
サーニャ「やっと・・・評価してもらえました」
ルッキーニ「ベスのオッパイも良かったぁ~!大きさ、張り!プラチナ賞!」
「「「ベスに何やってんだ!」」」「全くお前は見境もなく・・・」
王女「友達同士だからいいんですよ」
ルッキーニ「やったぁ。また揉ませてね、ベス!」
ミーナ「私が会いたかったのは。俺さんに、です」
王女「お話に聞く扶桑タイプのお風呂が有れば、皆さんで入れますねえ」
宮藤「あ!お風呂でもみ合いっこ!いいですね!是非!」
俺「え・・・。有難う、ミーナさん」
リーネ「芳佳ちゃん!駄目!なんでベスさんのほうに」
坂本「キャノピー越しには無理だろう。おちつけ、宮藤」
シャーリー「風呂、ここの基地のは撤去されたのかなあ?」
バルクホルン「俺大佐は咥えタバコだ。なんとまあ」
王女「信頼の絆ですねぇ」
管制「えー。すみません。大型ボイラーが故障したままでして。使えません」
宮藤・ルッキーニ「「つまんなーい」」
王女「残念です」
俺「私も・・・ミーナさんに会いたかった」
ペリーヌ「お似合いのカップルですわ」
おゎっ!失速反転か!
ミーナ「手元が狂うことは言わないでくださいね?」
皆笑っている。私?ペリーヌ君?どっちだ?
――――――
夕食前、宮殿の庭に散歩に出た。あ、ミーナさんだ。何か考え込んでいるような。
俺「どうしました?」
ミーナ「あ、俺さん。いえ・・・」
俺「一緒に散歩しませんか?」
ミーナ「ええ」
暫く、とりとめの無い話を。だんだん、ミーナさんの口数が少なくなっていく。どうしたんだろう。
ミーナ「ね、俺さん」
俺「はい?」
ミーナ「・・・私のこと、どう思っていらっしゃるの?」
!
ミーナ「私、あなたのこと・・・あなたのことをずっと思って今日まで暮らしてきました」
ミーナ「私じゃ・・・駄目なんですか?」
そんなことは無い・・・でも、私は・・・。
俺「ミーナさん。私は・・・あなたに相応しくないです」
ミーナ「私は、そんなことを思っていません」
俺「しかし・・・」
ミーナ「あなたの過去は、私には知らないこと。あなたも前を見てください。お願いですから」
俺「・・・でも、私の過去があなたを苦しめるかと思うと・・・それは私にも辛い事なんだ」
人殺しで、女垂らしといわれて・・・。事実だ。
ミーナ「もし、そうなったとしたら。二人で一緒に苦しみましょう?あなた一人で苦しむのは駄目・・・」
ミーナ「綺麗ごとだけを言う人より、自分で汚れ仕事をする人のほうが好き。それに辛い過去は忘れる
ことも、乗り越えることも出来ます。二人で頑張って・・・」
ミーナ「だから。私をあなたと一緒に居させてください。あの夏から・・・ずっとあなたが好きです」
彼女から眼を背けて、歩き出す。何かしていないと考えられない。
彼女もそっと後ろからついて来てくれた。
俺「私もあなたのことを・・・ずっと心に秘めて来ました。あなたのことを思うたび、あなたの心を覗いた
事を悔やんで。あなたを怒鳴りつけたことを悔やんで・・・。自分の昔を考えて恥じました。だから・・・
あなたの写真を眺めて。心を慰めていられればいいんだと。そう言い聞かせて・・・」
何を言ったらいいのか解らなくなった。足が止まる。彼女も後ろで立ち止まる。
俺「あなたとまた会えて。夢だと思った。あなたと会話が出来た。一緒に空を飛べた。こんな私に会い
たかったと言って貰えた。・・・それだけで、私は満足すべきなんじゃないかって・・・」
ミーナ「あなたは・・・それだけでこれからも生きていけますか?私には・・・できません」
そうだ・・・。私はそれでよくても。彼女の気持ちを知らずに今迄いた。
俺「今までは・・私の一人だけの気持ちだった。あなたも・・・」
彼女がそっと横に立った。触れる距離ではなくても、彼女の暖かさがわかる。
ミーナ「私の気持ち、考えてください。私も、あなたの気持ちを考えていますから」
そうだな・・・彼女の気持ちを・・・・・踏みにじることだけは。彼女に向き合え。しっかり見ろ!
俺「ミーナさん。・・・こんな私でよかったら、真面目にお付き合い・・・してもらえますか?」
ミーナ「はい。お願いします」
また、彼女の眼に涙。そっと抱きしめる。暖かい。
ミーナ「一つだけ異議があるの。『こんな私』なんて言わないで。あなたは私にとって最高の人よ」
俺「ありがとう。ミーナさん」
―――――
食後のブランディ・タイム。普通は葉巻もでるのだが、タバコをやるのが私だけなのでそれは無い。
王女「あ、俺さん!これが届きましたよ」
王女がポケットから封筒を取り出して渡してくれた。お礼を言って受けとる。情報部の封筒。
ハルトマン「おお!仕事をする男の顔に変わった!」
ルッキーニ「かっこいー!」
坂本「仕事か?」
横に座っていたミーナさんが、体が硬くなったのが手に取るように解る。緊急ならすぐに戻らない
と・・・。
俺「ちょっと失礼」
片隅の机に行き、銀のペーパーナイフを借りて封を切る。
俺「・・・・・やられた」
ミーナ「どうしたの?急ぎの仕事?」
皆の元に戻った私に、心配する声が掛かる。余程顔色が悪いんだろう。酷いツラをしているんだろうな。
俺「あ。いやいや。 古狸に一杯喰わされたんだ」
ミーナ「ふるだぬき?」
サーニャ「・・・?」
宮藤「ぽんぽこ?」
ペリーヌ「懐かしい響きがありますわね」
エイラ「それは豆狸ダロ」
俺「あ。私の上司の提督のことだよ、古狸って。いや・・・何処に配置していたんだろう?参った」
バルクホルン「すまないが・・・提督のこと以外全くわからないんだが・・・聞いちゃ不味いかな?」
俺「仕事じゃないよ。提督が私達のプライバシーを嗅ぎ付けて」
ハルトマン「ん?私 たち?」
ミーナに封筒を渡す。見てくれ。こういう仕事をしているんだよ。本当にいいの?
ミーナ「あら! どうしましょう」
王女「よければ、見せて貰えるかしら?」
王女に渡る。私はブランデーを一口。落ち着け。
俺「こういう仕事なんだ。考え直すなら今のうちだと思う」
ミーナ「このくらいのこと、なんだと言うんですか。気にしません。大丈夫よ」
ハルトマン「ほほーぉ」
王女「ごめんなさい、俺さん、ミーナさん」
俺・ミーナ「「ベスがなぜ謝るの?」ですか?」
王女「庭でね。わたし見ちゃったのよ。で、提督に『ちょっと気を利かせてね』って電話をね」
俺「え!」
ミーナ「・・・聞かれちゃった?」
坂本「何のことだ?もしかしてあれか?」
バルクホルン「だろうな」
ハルトマン「うんうん」
ペリーヌ「そのようですわね」
エイラ「ふふん。俺もやっと動いたか」
サーニャ「ニコニコ」
リーネ「あ。もしかして!」
宮藤「うんうん!リーネちゃん!」
シャーリー「ルッキーニ!乾杯の用意だ!」
ルッキーニ「アイアイ・サー!」
王女「皆さんに発表したらどうかしら?」
ミーナさんの眼を見る。どうする?いいの? 彼女が頷く。
俺「ええ、と。ミーナさんに交際を・・・申し込んだ」
シーンとしている。そんなにショックなのか?私はミーナさんに相応しくないのか・・・。
ミーナ「私達、お付き合いします。皆、ありがとう」
歓声が上がった。そうか、最後まで言わなかったのがよくなかったんだ。それもそうだな。
「「「「「「「「「「かんぱーい」」」」」」」」」」
俺・ミーナ「ありがとう」
ハルトマン「で、提督の手紙はなんて書いてあったの?」
王女「読むわね。『この馬鹿息子が!さんざ私に心配させおって!でも、お前が漸く決心したのは嬉しい
ことだ。今度私にも紹介しろ。そのお嬢さんがここに居る間は仕事に出ることを禁じる。いいな?無視
したら、私の老後の楽しみに作ったアルバムをお嬢さんに渡すぞ。では、幸せになれ』ですって」
ミーナ「明後日まで、一緒に居れるということね」
王女「そうなりますね。良かったわね。でも、ここでは部屋は別ですよ?」
俺「有難うございます。ベス」
ミーナ「ベス。ありがとう」
王女「いいのよ。それに部屋には、部屋同士を繋ぐドアもあるし。ねえ、この『アルバム』ってなに?」
ブランデーに咽た。あの親父!何てことを書く! でも、有難う。
ハルトマン「ははーん。さすが情報部の古狸さん」
エイラ「ふっふっふ」
シャーリー「ほほー。カタログだな?あはははは」
「「「「「「「「「「弱みのアルバムに かんぱぁーぃ!」」」」」」」」」」
勘がよすぎる。参った・・・。
――――
ミーナ「俺さん。私に来てる大使館の仕事ってね。在ブリタニアの大使館の仕事なの」
お開き後、また二人で散歩に出た。月の出た夏の夜。寝るには惜しい。
俺「え?ここの?」
ミーナ「ええ。でも、どうしようかなって」
俺「こっちに来てくれれば、いつでも会えるよ?」
ミーナ「やっぱりそのほうがいい?」
俺「うん。少しでも一緒に居たいし」
ミーナ「どうしよう・・・」
俺「・・・どうした?」
ミーナ「仕事を引き受けたら・・・すぐに結婚は出来なくなるかなって」
俺「結婚・・・私と?」
ミーナ「ええ」
俺「今日、お付き合いの申し込みをしたばかりなのに?」
ミーナ「三年間、ずっとあなたを想っていましたから・・・」
思わず彼女を抱きしめる。ありがとう、ミーナさん。
そっとキス。暫くこのままで・・・。
俺「君さえよければ・・・すぐに戻ってきてくれないか?」
ミーナ「え?」
俺「戻ってきてくれたとき。ミーナさんにプロポーズするから」
ミーナ「ええ」
俺「今のは・・・ミーナさんのお返事なのかな?」
ミーナ「一生の思い出になる言葉を待っています。名前だけで・・・お願い」
俺「ミーナ。愛してる」
ミーナ「私も。愛してる。・・・やっと言えたわ」
******* 終 **************
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最終更新:2013年02月02日 12:24