機装兵 セレンザ

[ショートストーリー]
南部諸国連合(ラ・カルト)に存在する、機兵訓練校や操手科もしくは操手養成科がある中高の学校が行う、機兵同士の対抗戦競技……。
この時点ではその競技に正式名称はついておらず、ただ単に「各校対抗親善機兵模擬戦競技」とか呼ばれていたのだが。
4機対4機で行われるこの競技は、南部諸国連合特有の軽機兵の一種である最低機兵、いわゆるロアコフで行われる事が不文律であった。
そう、不文律なのである。規則ではきちんと決められていなかったのだ。
この時点ではその競技に正式名称はついておらず、ただ単に「各校対抗親善機兵模擬戦競技」とか呼ばれていたのだが。
4機対4機で行われるこの競技は、南部諸国連合特有の軽機兵の一種である最低機兵、いわゆるロアコフで行われる事が不文律であった。
そう、不文律なのである。規則ではきちんと決められていなかったのだ。
『お、おい……。』
『あ、あれ良いのかよ……?』
『あ、あれ良いのかよ……?』
彼の機体の優秀な集音器は、観客の驚き騒めく声も漏れなく拾う。彼は苦虫を噛み潰した様な顔になった。
(……くそったれ、クソ校長の野郎。)
彼は自分の学校、ラ・カルト中央機兵専門学校の校長の髭面を、頭の中で血みどろになるまで叩き潰した。
そう、彼の乗る機体は最低機兵ではない。歴とした機装兵……。
それも初号機ロールアウトは100年近く前だとは言え、名機として未だに現役で使われ続けている『セレンザ』をベースとし、徹底的にカスタマイズを施した機体だ。
彼が機体の首を左右に振らせると、映像盤に仲間の機体が映る。『ロイヤリタートTypeⅡ』が2機、『スペーア』が1機。いずれも都市同盟軍で今も現役で使われている名機だ。
勝って当然。これで負けたら大恥である。
それも初号機ロールアウトは100年近く前だとは言え、名機として未だに現役で使われ続けている『セレンザ』をベースとし、徹底的にカスタマイズを施した機体だ。
彼が機体の首を左右に振らせると、映像盤に仲間の機体が映る。『ロイヤリタートTypeⅡ』が2機、『スペーア』が1機。いずれも都市同盟軍で今も現役で使われている名機だ。
勝って当然。これで負けたら大恥である。
『ラ・カルト中央機兵専門学校チーム、ザイデン第1高等学校チーム、前へ。』
審判の乗る従機の拡声器から、声が響く。彼は腐る気持ちを抑えて仲間を促し、機体を立ち上がらせた。
大会から数年後の今、彼は士官候補生として都市同盟軍士官学校に所属していた。彼は士官学校において、必死の努力により主席の成績を収めている。だがしかし彼は、いつも陰で嗤われているのではないかとの強迫観念に取り憑かれていた。
いや、けっしてそれは只の強迫観念では無い。彼を嗤う者は、たしかに存在していたのだ。曰く、最低機兵を高性能の機装兵で叩き潰し、悦に入っている愚か者だ、と。だが彼はそんな陰口に負けず、ぎりぎりまで自分を追い詰めるほどの努力で、主席の地位を確保していた。
そして今、彼は休日を利用して、『ブリッツ』と名付けられたあの競技会の会場へと、此度は観客として来ていた。無論私服姿で、こっそりと。本当は来る気は無かったのだが、何故か気の迷いで。
いや、けっしてそれは只の強迫観念では無い。彼を嗤う者は、たしかに存在していたのだ。曰く、最低機兵を高性能の機装兵で叩き潰し、悦に入っている愚か者だ、と。だが彼はそんな陰口に負けず、ぎりぎりまで自分を追い詰めるほどの努力で、主席の地位を確保していた。
そして今、彼は休日を利用して、『ブリッツ』と名付けられたあの競技会の会場へと、此度は観客として来ていた。無論私服姿で、こっそりと。本当は来る気は無かったのだが、何故か気の迷いで。
(……!?)
彼は目を疑った。最低機兵……ロアコフが2機、従機が2台と言う編制の今では珍しいチームが、従機を囮にしてフラッグ(旗)を狙う作戦で、機装兵で構成されたチームを次々に下して行くのである。
そして決勝戦……。そのチーム、ザイデン第4中等学校操手養成科チームは、彼の母校であるラ・カルト中央機兵専門学校チームを見事破って優勝してみせたのである。
そして決勝戦……。そのチーム、ザイデン第4中等学校操手養成科チームは、彼の母校であるラ・カルト中央機兵専門学校チームを見事破って優勝してみせたのである。
「……は、はは。……ははは、アハハハハハハハ!!やりやがった!!」
彼は周囲の目も気にせずに、高笑いを上げた。
だが周囲も無名校の快挙に騒然となっており、彼がかつての優勝チーム大将である事に気付く者はいない。
彼は胸のすく思いを味わっていた。そうだ、ロアコフは断じて侮っていい相手では無いのだ。彼を謗る陰口は、的外れな中傷でしか無いのだ。
だが周囲も無名校の快挙に騒然となっており、彼がかつての優勝チーム大将である事に気付く者はいない。
彼は胸のすく思いを味わっていた。そうだ、ロアコフは断じて侮っていい相手では無いのだ。彼を謗る陰口は、的外れな中傷でしか無いのだ。
「セレンザ」のカスタム機である『ブリッツ』を以てして打ち立てた大会3連覇の業績を、彼は今まで誇る事ができなかった。
どんなに努力しても、彼を謗る陰口が寝ても起きても耳に染み付いていた。しかし今ならそれを振り払う事ができそうだ。
どんなに努力しても、彼を謗る陰口が寝ても起きても耳に染み付いていた。しかし今ならそれを振り払う事ができそうだ。
今まで彼は、士官学校に教習機として置いてある機装兵の中で、「セレンザ」だけは可能な限り避けて来た。
しかし今なら、あの機体にも躊躇なく乗れそうである。
しかし今なら、あの機体にも躊躇なく乗れそうである。
翌年、彼は主席の座を誰にも渡すことなく、都市同盟軍士官学校を卒業し、少尉任官した。
[解説]
聖華暦700年代に、カルマッド機兵工房により開発され、そして確かな実績により名機と呼ばれた機装兵。
カルマッド機兵工房に保管されていた機装兵カヴァリエーレのデータと実機、そしてカーライル王朝・聖王国が鹵獲して横流ししてきた機装兵レガトゥスの中破機とそれから得たデータを基にして、試作機が作られた。
その後種々様々な試験を経て改良が積み重なり、量産初号機がロールアウトしたのは717年であった。
ちなみに開発を担当したのは、カヴァリエーレを造った開発2部である。
カルマッド機兵工房に保管されていた機装兵カヴァリエーレのデータと実機、そしてカーライル王朝・聖王国が鹵獲して横流ししてきた機装兵レガトゥスの中破機とそれから得たデータを基にして、試作機が作られた。
その後種々様々な試験を経て改良が積み重なり、量産初号機がロールアウトしたのは717年であった。
ちなみに開発を担当したのは、カヴァリエーレを造った開発2部である。
この機体はフラタニティ・フレームを採用した第六世代機兵である。
その性能は高く、一定数が自由都市同盟の都市同盟軍や、聖王国軍に採用された。
配備先からはいずれも好評を得ていたが、専守防衛の自由都市同盟ドクトリンとは微妙に能力傾向が異なる事、聖王国では自国の会社であるホルン社の機装兵マーセナルが完成間近であった事などから、大量採用には至っていない。
その性能は高く、一定数が自由都市同盟の都市同盟軍や、聖王国軍に採用された。
配備先からはいずれも好評を得ていたが、専守防衛の自由都市同盟ドクトリンとは微妙に能力傾向が異なる事、聖王国では自国の会社であるホルン社の機装兵マーセナルが完成間近であった事などから、大量採用には至っていない。
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