「おい、貴様・・・ふざけているのか?
なんだこの頭部は!!よりによって
裏切り者のシュナイダーが開発した簡易品など・・・!
私は本来の頭部パーツの復旧を依頼したはずだぞ!!」
スクールからの脱獄に際して、なんとか奪還した愛機だが。
その頭部の修繕を業者に依頼してみれば、
まるっと全くの別物に差し替えられている。
「オイオイ、バカ言ってんじゃねぇよ。
あんな予算じゃ装甲も張りなおせねぇよ!
そもそも、オッサンの機体にVP−44Dはカッコよすぎだって」
何しろ、自慢の愛機たるガルブレイヴと同型である。
やはり、このデザインはヒロイックな高機動ACに併せてこそ。
見た目のロマンにもまだまだこだわりたいお年頃であった。
投げ売り価格で買い取ったラマーガイヤーヘッドだけでは
流石に申し訳ないと思い、コアのセンサーを
第二の頭部と見做しても良いくらいには補強しているのが
ヴァッシュのなけなしの良心だと言えよう。
「なっ・・・!?顧客に対してなんだその態度は!?
貴様、どういう教育を受けているんだ・・・??
そもそも、提示した金額は前金だと言ったはずだ。
この機体を復旧できれば、温存していた資産を回収して
追加の報酬を提示すると説明したではないか」
「あ〜〜〜ハイハイ。いるんだよなぁ、そういう奴。
おつむに回ったコーラルが抜けてから出直してきな」
男の必死の訴えも、擦れっからしの
ヴァッシュにはてんで響かない。
「貴様っ・・・この私を誰だと・・・コホン、
まあいい。ひとまずはこれで勘弁してやる。
私が資産を回収した後で泣きついても
1COAMたりとも払わんからそのつもりでいろ!!」
憤懣やる方ない、とでも言いたげに鼻息荒く
機体に乗り込んだ男に、ヴァッシュは
ひらひらと手を振って気のない見送りを返す。
「へ〜へ〜、まぁがんばんな。毎度ありぃ〜」
騒々しい足音を立てて苛立たしげにガレージを去った
ACを見送り、あまりにもお座なりな店主の対応に
アシュリーはため息を吐く。
「・・・流石に塩対応が過ぎるぞ、ヴァッシュ」
「いいんだよ。ホラ吹いてタダ働きさせようなんて
厄介客なんざこっちから願い下げだっつーの。
さ、一仕事済んだことだしメシにしようぜ。
ここだとなぁ・・・旨い店があるんだよ」
その一言で、先のやりとりが頭からすっぽ抜けたアシュリーも、
尻尾をブンブン振りながらヴァッシュの後に続く。
件の店、『ミサキ』は、ラカージュが回収したマザーワーム、
エリザベス由来の食材の卸先の一つでもある。
「おお、
ピーファウルさんのとこの新入りだな?
お前さんのトコから仕入れた食材がなかなか好評でな。
こちらもいい商売をさせてもらってるよ。
どうだ?自分が仕留めた獲物、味わってみないか?」
店主である
ホールデンににこやかに迎え入れられ、
アシュリーがウキウキ丸出しで首を縦に振る。
「おお!?プロが調理したらあの食材が
どれほど化けるのか・・・
ぜひともお手並み拝見と行こうではないか!」
相棒の浮かれように半ば呆れつつも、
露店の周囲に配置されたテーブルのほとんどが
埋まっている様子にヴァッシュもその
盛況ぶりを理解する。
「今日も混んでるなぁ・・・っと、
悪ぃ、兄さん。隣、邪魔してもいいか?」
どうにか、4人がけのテーブルに座った
二人組を見つけて相席を提案する。
「・・・君は・・・いや、なんでもない。
俺は大丈夫だ。お前、少し空けてやれ」
「はぁ〜い。どぞ!」
静かだがやや荒んだ気配の青年と、闊達な少女の二人組。
兄妹と見るには印象が違いすぎる。
特に、青年の顔に走る裂傷の跡。
よほど本格的な戦闘にでも参加していない限り
つきそうもないもので、一瞥して
カタギの人間でないことは明らかだった。
どういう関係なのかわからないが、それについては
こちらも同じか。奇しくも年齢は逆だが。
「かたじけない。ときに・・・ご両人。
この店は馴染みだろうか?
おすすめのメニューがあればぜひご教示願いたい」
「それならねぇ・・・今食べてるコレ!
ミートボールがすんごいジューシーで
何個でもいけちゃうよ!!」
少女が指差した大皿には、
トマトソースパスタが山と積み上げられている。
「こ、これは食べごたえがありそうだな!
それに、ニンニクが効いたいい匂いだ。
じゅる・・・店主!こちらも同じものを頼む!」
「勝手に決めんなよ!?」
腹ペコだったアシュリーは即座にこれを注文し、
狭いテーブルには真っ赤なパスタの大皿が2枚、
窮屈そうに鎮座することとなった。
まずは、どっさりと乗せられたミートボールから。
「では早速・・・ふむ」
肉汁は豊かだが肉質がやや硬いホーンワームを
ミンチにして繊維を細断し、程よく配合したツナギに
旨み溢れる肉汁をキャッチしつつ適度な歯応えに整えられた
ミートボールは絶品の仕上がりだ。
「トマトもパスタも星外製の本物だな!
ミラクルムがルビコンに進出してから
この星の食糧事情もだいぶ改善した。
ありがたいことだ」
「特におめーみてえな食い意地張った奴にはな」
ヴァッシュの皮肉もどこ吹く風。
頬を膨らませてパスタをかきこむアシュリーは
すっかり食事に夢中だ。
「コラてめぇ!ソレで肉団子4つ目だろ!?
こっちはまだ2個しか食ってねーんだぞ!!」
「フガ、甘いぞヴァッシュ!体積は私の方が
大きいんだ。これは正当な配分というものだ!!」
「体積増やしてんのはその駄乳だろうが!!
まーたくっだらね〜屁理屈捏ねやがってよぉ・・・
だからお前と大皿囲むのはイヤなんだよ!!」
「えっ」
一瞬の気まずい沈黙。
「その・・・嫌なのか?
私と食事をするのが??」
一転して、捨てられた子犬のように瞳を潤ませる
アシュリーの視線にヴァッシュが勢いを失う。
「いや・・・嫌じゃねぇよけどよ。
お前、いつもすげー旨そうに食うしさ。
お前と一緒だとメシが美味くなった気がするから、
その・・・別に嫌とかそういうのは・・・」
その一言で、アシュリーの表情がたちまち晴れる。
「そうか!じゃあ遠慮なく美味しくいただくぞ!!」
「ああああああーーーーっ!!てめぇ!!
だからそれは俺の分だっつってんだろうがァ!!」
怒涛の勢いで食糧を奪い合う二人に
同席した青年と少女は若干引き気味だ。
「な、仲いいんですね、お二人とも」
若干引き攣り気味な笑顔で少女が呟くと、
「「どこが!?」」
異口同音にヴァッシュとアシュリーが反論する。
二人の口からはパスタがはみ出し、
それは一本のロープとなって両者を繋いでいる。
これはこっちのものだ!と言わんばかりに
フォークでチャンバラを繰り広げる
二人の醜態に、ずっと沈黙を守っていた青年が
微かに微笑む。
「・・・元気そうでよかった」
生憎と、顔面にフォークが刺さって絶叫する
二人には青年の声は聞こえていなかったが。
嵐のようなランチタイムが終わりに近づいた頃、
ヴァッシュの手元で端末が着信を告げる。
「おい、
アッシュガル、ヒマそーじゃねェか。
アタシ1人じゃ手に余る仕事があってよォ、手伝ってくれるか?」
バジャーリガーから送付されたメッセージを、ヴィルが読み上げる。
「依頼主はアーキバス、窓口はV.Oサリエリだ。
作戦内容はある人物の襲撃と捕縛。
対象は・・・スクールNo.6から脱走した
元V.Ⅶ、スウィンバーン。
どうやら奴は、ヴェスパー時代に着服した資産を
ヴァイオント鉱山に秘匿しているらしい。
我々のミッションは、それを回収に向かうスウィンバーンを
待ち伏せし、これを捕縛。必要ならば拷問を行い
隠し資産の場所を吐かせてこれを回収することだ」
元ヴェスパーの脱走者追討とは、
確かになかなかの大仕事になりそうだ。
「せっかく再教育センターに収監したってのに、
その時は隠し財産の存在に気づいてなかったのかよ?
マヌケな話だぜ」
「ヴェスパーの会計はあの男が掌握してたんでな。
よほど巧く誤魔化してやがったんだろうよ」
まぁ、そんな背景情報は独立傭兵にとっては
余録に過ぎない。
「悪ィ、兄さん。急ぎの仕事が入っちまった。
また今度ゆっくり話そうぜ!!」
そそくさと立ち去ったヴァッシュと入れ替わるように、
ある人物が青年たちのテーブルに相席する。
「・・・貴様が、オキーフの奴が言っていた
独立傭兵、ラステッド・ファングだな。
貴様の腕を見込んで・・・折入って依頼がある」
ミッションフィールドであるヴァイオント鉱山は、
アイビスの火以前にはすでに廃坑となっている。
古い遺構には、今更省みるべきものなど何もないと
思われていたが・・・
「なるほど、そういう意味では資産を隠すには
最適の地理だな。
差し詰め、スウィンバーンの埋蔵金といったところか」
鉱山へ至る渓谷の上でターゲットを待ち伏せる
ヴァッシュとアシュリー、そしてバジャーリガー。
「撒いてたリコンに反応があった。
想定通りの
ルートで来やがったなァ・・・
いや、待て。反応が3つある」
程なく視界に飛び込んできたACは3機。
そのうち一つがスウィンバーンの搭乗機なのだろうが・・・
「お、オイィ??」
どうにも、見覚えのある機体が混じっている。
冷や汗をかくヴァッシュの沈黙の意味を
理解せぬまま、アシュリーがあっけらかんと言い放つ。
「おや?おいヴァッシュ!アレは私たちが
整備した機体じゃないか!!
どうやら彼がスウィンバーンその人だったようだな!
彼が言っていた資産は実在したのか!
これは傑作だ!わはははは!!」
「言うなよぉぉぉぉぉ!!
でかい儲け話を拾い損ねた、なんて
改めて言うなよぉぉぉぉおおおお!!」
がっくりと項垂れるヴァッシュだが、
こうなってしまっては仕方がない。
「い、いや、まだセーフだ。
ここでスウィンバーンを締め上げて
埋蔵金の場所を吐かせれば俺たちの総取りだ!
いくぜぇ野郎どもッ!皆殺しだァ!!ヒャッハー!!!」
山賊まがいの野蛮なテンションで、
ヴァッシュは渓谷を進むAC部隊に強襲を仕掛ける。
「やはり来たか。アーキバスの連中も
お前の隠し資産のことは把握していたようだな」
「むぅ・・・止むを得ん!連中を迎撃してくれ!」
「はぁーい!任せてよ!!」
スウィンバーンを守るように、
護衛のACが前後に布陣する。
「敵AC『ヒバナ』。識別名『
ラステッド・ファング』、Bランク。
敵AC『ワンダー』。識別名『
シルヴィ』、Fランク」
ヴィルが即座にアリーナのデータベースに照合する。
「いずれも近接戦から中距離戦まで対応可能な
バランスの良い中量二脚型だ。
『V.V イレヴン』との遭遇戦を生き延びた実績もある。
ランク以上の実力を備えているものと思え」
己の姿を見せつけるように渓谷を駆け下るガルブレイヴに、
ヒバナとワンダーが即座に反応する。
ライフルとリニアライフルによる迎撃を
スラローム走行で掻い潜りながら、
ヴァッシュも反撃のトリガーを引く。
5連グレネードガンの爆炎が前方を広く覆ったところへ、
上空から襲いかかるブレードドローン。
集中的に照準されたヒバナが迎撃に注力している間に、
第二の襲撃者が後方から襲いかかる。
「むっ!スウィンバーンさん、下がって!!」
急接近するアリオーンの前に進み出たのはワンダー。
Fランクとは思えぬ素早い反応だ。
突撃と同時に振るったレーザーレイピアは、
パルスブレードによって弾かれる。
「なるほど・・・その胆力と反応速度!
端倪すべからざる敵手と心得た!!」
一撃離脱を旨とするアリオーンが、突撃の余勢を駆って
再度の突入を図るべく大きく迂回する。
「面倒な連中だ・・・おい、速度を上げて振り切れんか!?」
スウィンバーンの声に、ファングが否定の言葉を返す。
「足は連中の方が早い。
それに・・・どうやら、頭を抑えられたようだ」
ヒバナが睨む進行方向には、鮮やかなカラーリングの
高機動タンク型が陣取っている。
「ここから先は通行止めだぜェ、ノロマなドンガメどもがよォ」
バジャーリガーの操るパステル・キャノンボールが、
全速力でバック走行しながらスウィンバーン達の
行手を抑え、肩部拡散レーザーキャノンをばら撒いて
その前進を妨害する。
「おい貴様ら!しっかり護衛しろ!!
十分な報酬は提示したはずだぞ!
金額相応の働きを示さんか!!」
芳しくはない状況に焦れたスウィンバーンが
用心棒達を叱咤する。
「・・・ちょっとやる気出ないかも」
ぼやくシルヴィを、不承不承ながらもファングが諭す。
「言うなよ、シルヴィ。これも仕事だ」
護衛対象を中心とした密集体系でダメージコントロールを図る
ファング達は、ダメージを蓄積させつつもどうにか襲撃を
凌ぎ続け、戦場はいつしか鉱山内部へと遷移していた。
「勝てる勝負だと思ったんだがな・・・案外しぶといぜ」
廃鉱山内部は狭隘な地形に破損したまま打ち捨てられた
機器や崩落した岩塊が散乱し、襲撃者側の
アドバンテージである機動力が思うように活かせない。
「・・・ここならばいいだろう。
クライアント、振り切るのは無理筋だ。
追手を殲滅するぞ、手伝え!!」
「雇われ風情が私に指図など・・・
だがまぁいい。妥当な判断だ。
堕ちたりと言えど私も栄えあるヴェスパーの一員、
野良犬如きに遅れは取らぬ!」
決戦の舞台は、廃鉱山内部に広がるドーム上の空間。
一斉に振り返り、こちらに正対したターゲット達に
追手も本格的な戦闘の開始を察知する。
「私だって、たくさん特訓してるんだからね!
ファングだけに頼ってられないよ!!」
真っ先に動いたのはシルヴィ。
背部双対ミサイルを皮切りに、ライフルを連射しながら急接近、
真っ直ぐに突っ込んでくるアリオーンに
正面からぶつかっていく。
「突撃戦でこのアリオーンに挑むか!
その意気や、良し!!」
対するアリオーンも2挺のレイテルパラッシュを構え、
立て続けに発砲。
ワンダーのACS負荷を一気にレッドゾーンまで蓄積する。
「まだまだぁ!!」
レーザーレイピアが発振したタイミングを見切って
ワンダーが2連グレネードを発射。
爆炎で視界を塞いだところに止めの
パルスブレードで斬りかかる。
「全く、これだからランクなど当てにならんと言うのだ」
スタッガーに陥り動けないアリオーンだが、
そこに焦りは見られない。
ブレードがアリオーンを捉えんとするまさにその時。
遅れて飛来した散布型ミサイル群がワンダーを直撃。
二人仲良くスタッガーに陥ったアシュリーとシルヴィが
至近距離で睨み合う。
「これがアリーナだったら、もっと純粋に
勝負を楽しめたのかもね・・・!」
「待てぇい!貴様、誉なき引き撃ち戦法など言語道断!
そこに直れ!指導だ、指導!!」
空中からパステル・キャノンボールを追うR e:ガイダンス。
しかし地上を全速退避する軽量タンクには追いつくべくもない。
「ワイロで敵を買収しようとした奴がよく言うぜェ。
どうだ?お前の言う隠し資産の8割を
こっちに寄越すなら、見逃してやってもいいんだぜェ?」
「なんだとぉ!?貴様、この私を愚弄するかァ!!」
逆鱗を的確に突く挑発で敵機の挙動が直線的になった
一瞬を狙い、フルチャージしたレーザーキャノンを発射。
それは過たずスウィンバーンを直撃したが、
同時にその瞬間には、R e:ガイダンスも
反撃の一射を放っていた。
「っくゥ〜〜〜・・・やってくれんじゃねぇか、
ヨボヨボの落武者風情がよォ!」
足元を吹き飛ばす大型グレネードの一撃に足元を掬われた
パステルキャノンボールも派手にスピンし、
勝負は仕切り直しだ。
残るひと組はガルブレイヴとヒバナ。
アジャイル・フェアリングをフル稼働させた高速機動で
ラステッド・ファングを翻弄しているかに見える
ヴァッシュだが、操縦桿を握る手には
じっとりと汗が滲み、内心の緊張が見て取れる。
展開したタレットと両手のグレネードガンによる
猛攻を、最小限の動きで捌くヒバナからの反撃は
一切ないが・・・それこそが恐ろしいのだ。
敵機の武装は、高火力型リニアガン2挺を主軸に、
肩には拡散バズーカとパイルバンカー。
もしこれらの火力を一時に収束されれば、
確実にACS負荷は限界を超える、
そこにパイルバンカーを撃ち込まれれば・・・
一瞬の油断で、勝敗は決する。
一瞬の隙も見せることなく、この腕利きを相手に
確実な命中弾を出してノーミスで勝負を決める。
まさに薄氷を踏むが如きギリギリの戦いだ。
「・・・ザイレム以来だな、
ヴァスティアン・ヴァッシュ。
随分と腕を上げたじゃないか」
ボイスチェンジャー越しの、懐かしいその声は。
「・・・その声は・・あんたなのか!?」
薄氷を踏み抜くには十分だった。
一瞬の動揺を捉え至近に踏み込んだヒバナが
放つ拡散バズーカの一撃には、かつて干戈を交えた
V.Ⅰ フロイトを思い起こさせる圧がある。
爆炎を貫き、リニアライフルのフルチャージショットが2連発。
瞬く間にACS負荷は限界に達し、
ガルブレイヴの機動がついに止まる。
「だが、まだ甘いな。もっともっと技を磨け。
守りたいものがあるなら。
果たしたい使命があるなら!」
ゼロ距離へと踏み込んだヒバナの左腕で、
パイルバンカーが爆炎を噴き上げる。
「言われなくったってなァ・・・!」
ガルブレイヴの全身のハッチが解放され、
ジェネレーターから迸るコーラル粒子が放射される。
「負けっぱなしじゃあ・・・いられねぇんだよッ!!」
コーラルアサルトアーマーが零距離で弾け、
ヒバナの攻勢を跳ね除ける。
間合いを取り直し、睨み合う両者に
オープン回線で割り込むアシュリーからの通信。
「あっちゃぁ・・・?ヴァッシュ??
ちょっとマズいかもよ〜〜〜??」
いや、これは
エセリアの言葉か。
「今ので、鉱山に走ってたコーラル支脈が刺激されたっぽい。
逆流が来るよ!さっさと逃げちゃいな!!」
疑念を挟む暇は無かった。
放出されたコーラルの煌めきが岩盤に達するや、
その奥に潜んでいたコーラルが一斉に深紅の
焔を噴き上げる。
「ったく、これじゃ全部ワヤじゃねぇかよォ!」
こういうとき、バジャーリガーの
逃げる判断の速さは一級品だった。
「えぇーーーっ!なにこれなにこれぇ!?」
浮き足立つシルヴィを、ファングの声が叱咤する。
「考えるのは後だ。とにかくここを離れるぞ!!」
言うが早いか、アサルトブーストを起動して
元来た道を引き返すヒバナを、ワンダーも追う。
「ちょっとぉ!置いてかないでよぉ!!」
ガルブレイヴ、アリオーンもこれに続く中、
最後に残されたRe:ガイダンスだけが
未練がましく廃坑の奥を見つめていたが・・・
「おああああああーーーっっっ!?
わ、私がコツコツと貯めてきた資産がぁああああっ!!!」
それも、鉱山の奥から溢れ出すコーラルの怒涛を
前にしては観念せざるを得なかった。
───
エセリアの警告が無ければ、逃げ遅れていたかもしれない。
一瞬の逡巡が明暗を分けかねない、際どい脱出劇であった。
それでもどうにか、6機のACは鉱山から脱出し、
コーラル逆流の惨禍を免れることができた。
「ちょいと肩透かしな結末だったが・・・
あんたと潰し合いにならなくてよかったよ」
「それは同感だな。次はぜひ、味方として肩を並べたいもんだ」
奪い合うべき標的を失い、和やかに語らう
ヴァッシュとファングをよそに。
「うう・・・あんまりだ・・・
裏帳簿をこさえ、資材を横流しし、業者にリベートを送り、
来る日も来る日も、少しづつ少しづつ、貯めに貯めて
ようやくここまできたというのに・・・!!」
スウィンバーンは、頭を抱えてうずくまる。
「それは・・・こうなって然るべきなんじゃないかな」
呆れ気味のシルヴィがぽつりと呟いた。
関連項目
最終更新:2024年02月27日 16:12