星のカービィ 夢幻の歯車を探せ!

登録日:2020/03/21 Sat 00:07:40
更新日:2025/05/11 Sun 09:45:53
所要時間:約 12 分で読めます






ナゾとふしぎを追いかけろ!
カービィたちが大冒険!


『星のカービィ 夢幻の歯車を探せ!』とは、角川つばさ文庫より出版している小説版星のカービィシリーズの一作である。
作:高瀬美恵
絵:苅野タウ・ぽと
対象年齢:小学中級から
価格:680円(税抜)


概要

つばさ文庫版星のカービィシリーズの第16弾。
国内外が新型コロナウイルスの対応に追われて各業界が大変な時期の最中、予定通り2020年3月14日に無事刊行された。


2019年にゲームとは別路線でグッズ展開されたアートワーク、『カービィと夢幻の歯車』を題材にしたノベライズ。
このため、同じ小説版カービィでもパラレルワールドに迷い込む『カービィハンターズ』シリーズとは異なり、完全に本編から独立した世界が舞台となる。なのでデデデは大王じゃないし、ワドルディは住まいでなく(ついでに沢山いたりしない)、メタナイトも戦艦に乗っていない。
原作(?)のスチームパンクファンタジーな世界観をもとに繰り広げられるカービィ達の活躍はどこか新鮮に映るだろう。
……が、その一方で厳しい階級社会、贅沢で堕落した貴族層、腐敗した権力などといった背景設定も描かれており、久々に黒いつばさ文庫全開の内容である。

また、例によって小説版独自のオリジナルキャラクターも登場する。勿論読者の期待を裏切らない黒さを見せてくれます

ちなみに、『カービィと夢幻の歯車』については「星のカービィファン」という雑誌でもそれを題材とした漫画が掲載されている。


あらすじ

ここは鉱山の街、ダイヤモンド・タウン。
飛行機乗りのカービィが、楽しく暮らしている。
ある日、鉱山で古代機械が見つかって、街は大さわぎ!
機械を動かすためには、街のどこかに封印された
「歯車」を見つけなければならないらしい。
カービィ、ワドルディ、デデデ社長、メタナイト、
ドロッチェ、そしてマホロアは、歯車を探して大冒険!
でも、どうやら、この「歯車探し」には、
とてつもない悪だくみがかくされていて……!?
(裏表紙より引用)


登場人物

メイン

「かぜのまち」に住む飛行機乗り。
食いしん坊で元気いっぱい。

「でも、そんな機械なんてなくても、コックカワサキのデラックスランチを食べたら、みんな幸せな気もちになれるのにね」

小型飛行機「ワープスター号」を駆る飛行機乗りで、本作の主人公。本作ではスチームパンク風のゴーグル付き帽子を被っている。世界が違っても食いしん坊で昼寝ばかりなのは変わらない模様で、その性格と飛行機乗りとしての腕前からか、「かぜのまち」では有名人らしい。
今回のカービィは吸い込みはできるが、コピー能力は使用していない(使用不可なのかまでは不明)。しかし、魔法都市の魔物を退治した経験があることから戦闘能力は高い方と思われる。
住居がゲームのようなドーム型の家ではなくそのうち取り壊される予定の誰も住んでいないボロアパートという地味に衝撃的な生活環境だが、当人は屋上に飛行機を置ける事や、大声で歌っても怒られない事、冒険に出かけたり荷物運びを手伝ったりの日々を過ごしている事もあり、むしろ楽しく暮らしている。
ライバルのデデデ社長とは飛行機乗り同士、レースで競い合う関係。作中冒頭で通算百連勝を達成している辺り、結構長い間柄であることがうかがえる。
歯車の話には案の定ほぼ興味無かったが、賞金でたらふく食事ができると分かってテンション上がり、歯車探しの冒険に出かける。


デデデ工場で働く腕ききの整備士。
カービィの友だち。

「カービィならね。でも、願いごとは、みんないっしょじゃないよ」

やはりこの世界でも心優しい性格で、カービィと同様、本作ではスチームパンク風のゴーグル付き帽子を被っている。
カービィとは大の仲良しで、その事について社長からは特に咎められていない様子。
ダイヤモンド・タウンの後述の性質上、お菓子を食べたことが今まで一度も無いため、その中でも特にチョコレートを食べることを夢見て、カービィと共に歯車探しに出発する。
細かい部分にもよく気づく機転を持ち、それを活かして機械の故障を直してきた。今回の事件の真相に近づく上でもその注意力は大いに発揮される。


デデデ工場の社長。
飛行機乗りで、カービィのライバル。

「あのくらいの墜落で、ケガをするようなオレ様ではない!」

何とまさかの社長。服装もパイロット風になりカッコいい。自称止まりだった本編世界と違い、肩書きは違えどれっきとした権力者である。
カービィとは百回もレースで対決する関係であり、毎回勝とうと躍起になるのだが一度も勝てた事がない。
作中冒頭でも無理が祟ったのか機体が不調に陥った挙句、レバーを力任せに押し込んだせいで折れて墜落……という間抜けな敗北を晒した。しかも墜落はこれまで十七回も引き起こしたらしく、カービィから「墜落に慣れてるもんね」と悪気なく言われる始末。
そういったミスを本人は認めようとせずワドルディに責任を押しつけるが、何だかんだとカービィの実力は認めており、ワドルディの事も部下として大切に思っている。
カービィには及ばないものの、飛行機操縦の腕前自体は決して悪くなく、それ故にある人物に目を付けられる。
わがままで意地っ張りだが、フーゴーと違って曲がりなりにも正義感を持ち合わせ、歯車騒動の真相を知ってから彼と対立することになる。


余談だが、星のカービィ デデデでプププなものがたり20巻には「デデデ社長誕生!?」という話がある。

「ひかりのまち」に住む貴族。
冒険心がある紳士。

「いつもどおりさ。たいくつな会話と、こってりした料理ばかり。うんざりだ」

「ひかりのまち」に住む貴族の一人だが、金には興味がなく、心の奥底で冒険を欲している変わり者。本作では歯車と羽根の飾りを付けたシルクハットを被っており、カッコいい。
逆に刺激のない退屈な貴族社会には辟易している。
以前よりフーゴーの本性を知っており、ドロッチェから歯車の件を持ちかけられた時も、賞金ではなく古代機械への興味も一端となって行動を開始した。
本作では剣を使わず、どこぞの紳士の如くバラや帽子の羽根飾りを飛び道具として使う。そのせいなのか本編のようなバーサーカー気質は見せないが、代わりに乗り物を操縦すると人が変わるスピード狂という新しい一面を見せつけてくれる。
敵に自動車のタイヤをパンクさせられた時も窮地なのにタイヤ自慢しながらキレる程。
「ひかりのまち」に暮らす貴族であるため、「かぜのまち」に住むカービィとデデデ社長とは面識がなかった。
しかし終盤、ワープスター号にカービィと(ついでにマホロアも)同乗した際には互いに「初めて会った気がしない」と意気投合した。
本編シリーズではカービィを厄介者扱いすることが多いので、少々新鮮に感じる。

なお例によって甘いもの好き……なのだが、ドロッチェの作るスイーツが美味しすぎて他のものではもう満足できないとの事(実際、初登場のシーンでは貴族のパーティーに出されたスイーツを頂こうともしなかった)。


おいしいカフェの店長。
しかし、そのウラの顔は大盗賊!

「そこらのドロボウといっしょにしてもらっちゃ困るな。オレは、世界を股にかける大盗賊ドロッチェ!」

「かぜのまち」のカフェ「ドロッチェ・カフェ」を経営する店長。
しかし、裏の顔は悪い貴族から盗みを働く義賊のような大盗賊である。
普段はカフェ店員で裏の顔が赤いシルクハットの義賊的泥棒だが某ありがチューな快盗ではない
歯車探しを始めたのも、フーゴーの悪事を暴き古代機械の秘密を探るためだが、同時に歯車をコレクションするという目的もあった。
部下には多数のチューリンを従えているが、ストロン、スピン、ドクは存在しているのかも不明。
メタナイトとはある事件をきっかけに知り合った仲であり、頻繁に会う程ではないが、事件が起きるとメタナイトの屋敷に忍び込んで知らせてくる
バル執事からは不法侵入を毎回咎められているものの、ドロッチェ自身は彼がどうにも苦手であり正面から入りたがらないらしい。食物連鎖的に猛禽類とネズミでは仕方ない

ダイヤモンド・タウンにやってきた薬の行商人。
古代機械にくわしい。

「ウン! タップリ賞金をもらって、ケンキュウジョを建てて、クスリの開発をするのが夢ナンダ!」

夢幻のあんちくしょう。
カービィとは彼が雪の上で転げまわって風邪を引いた時、薬をあげて知り合った関係である。
デデデ社長とも彼がラーメンの食べ過ぎで腹痛を起こした時に薬をあげてからの知り合い。主役とライバルが揃いも揃って何やってんだ
一緒に歯車を探して賞金を分けようとカービィに持ちかけると、歯車探しのより具体的なヒントを与え、歯車を見つけやすくする「魔法の目薬」を与えた。
……と思いきや、その後もデデデ社長、メタナイトの所にも回って同じような話を持ちかけては目薬を与えるという不可解な行動を取る。
果たしてこの一連の行動に秘められた意味とは……?



  • フーゴー
「ひかりのまち」に住む、やさしい大富豪だと言われているが……?

「賊め……ゆるさん! 必ず、とっつかまえて、痛い目にあわせてやるぞ! じゃまは、させん。古代機械を、必ず動かしてやる……!」

本作のオリジナルキャラクター。「ひかりのまち」に住む有名な大富豪。名前は直球に富豪からだろう。
地の文では一貫して「フーゴー氏」と呼ばれている。キレると怖いギャングとは関係ない
ダイヤモンド・タウンの事業(鉱山、鉄道会社、パン工場など)殆どを所有しており、事実上ダイヤモンド・タウンの支配者でもある。市民のために寄付やパーティーを行い、そうした善行から市民達にも支持されている。

……が、これらは表の顔に過ぎず、本性は悪どい金儲けや取り引きを裏で行う闇の権力者である。
(意外にも本作までのオリジナルキャラクターと違い、物語前半の早期から腹黒い人物だと明かされている)

極めて自己中心的かつ傲慢な思想の持ち主で、心優しい大富豪というのも虚飾でしかない。
本編のいつぞやのあんちくしょう以上に腹黒く、自分に楯突く者を決して許さない。
ドロッチェとメタナイトに屋敷を荒らされた際に発した上記台詞に、フーゴーという男の本質が見え隠れしている。
金にとても汚く、古代機械に執着するのもその恩恵を独占するため。屋敷でも絵画を金や宝石で飾り付けて金持ちアピールするなど悪趣味の極み。

実は歯車にかけた賞金も払う気などさらさら無く、古代機械の文字を解読してくれたマホロアを含め、最後は発見者全員ダイヤモンド・タウンから追い出してしまえばいいとさえ考えている。
しかも後に古代機械の起動が重大な危機を同時にもたらすと判明しても、それで市民に及ぶ影響など知ったことかとばかりに吐き捨て意にも介さない正真正銘のドグサレ。
兼ねてよりドロッチェは彼の本性と悪事を既に把握していたものの、街の権力者であるため証拠なしに動いても捻り潰される危険があり、今まで行動に移すことが出来ずにいた。
その点では過去作の黒幕達とも異なった、遥かに厄介な敵と言える*1

本作では古代機械の文字を解読できたマホロアの助言を受け、歯車に賞金をかけて街中に報せを出したはいいが、屋敷に忍び込んだ賊(ドロッチェ達)が古代機械に関連する資料を盗み出したと知って怒り心頭。
更にある人物が自分をも出し抜こうとしている事を把握しており、何が何でも、古代機械を利用しようと本格的に動き出していく。


サブ

  • バル執事
「お帰りなさいませ、だんな様」

本編と違ってハルバードが無いため、メタナイトに仕える執事となった。
ドロッチェをはじめとして許可なく来客が上がり込んでは怒りまくる。


  • 魔法ギルドの大長老
「星のコンパスはな、悪い心を持つ者の手に渡れば、恐ろしい結果をもたらすことになる。だが、カービィどのならば、安心じゃ」

魔法都市に住む、マホロア曰く「トッテモ偉い」魔法使いの老人。
都市で暴れていた魔物をやっつけたカービィに、お礼として星のコンパスを授けた。
コンパスを生き物のように扱っており、プレゼントしたのもコンパスがカービィの事を気に入っていると感じたから。
足元まで届く程立派なヒゲを生やし、ローブを羽織ったブルームハッターっぽい見た目。



名前だけ登場。
スチームパンク仕様のカワサキもそれはそれで見てみたい気はするが。


  • チューリン
ドロッチェの部下。音も気配もなく盗みの対象となる屋敷を探索する。最新式の鍵も朝飯前に開けてしまう。


  • フーゴーの手下
名無しのオリジナルモブキャラ。ただし、名無しのモブにしては珍しく挿絵で登場している。名有りなのに挿絵に出れなかったグレイやベリルとは正反対である
顔だけは『星のカービィ3』のドゴンっぽくもある。


地名・設定など

  • ダイヤモンド・タウン
本作の舞台となる、小さな街。
ダイヤモンド鉱山で繁栄した街であり、大富豪フーゴーの手によって支えられている。

これだけ見ると普通の鉱山の街なのだが、最大の特徴は貴族は全て「ひかりのまち」に、それ以外の普通の住民は「かぜのまち」に分けて暮らしていること。
「かぜのまち」の住民は勝手に「ひかりのまち」へ入ることは出来ず、例え外からの行商人であっても例外は無い。街の外から持ち込んだお菓子も全部取り上げられてしまう厳しいルールが存在する。
逆に、「ひかりのまち」の貴族達は自由に甘い食べ物を食しており、毎日パーティーを開くなど贅沢の限りを尽くしている。贅沢三昧の生活を送っているために、メタナイトのような冒険心ある貴族の方がむしろ珍しい程。
明らかに貴族階級と労働階級に分かれた階級社会が敷かれており、作中の世界観も相まって産業革命時代の西洋諸国を思わせる。


  • 星のコンパス
カービィが魔法都市で大長老から貰った、文字通り星の形をしている不思議なコンパス。
魔法の力を探すアイテムであり、魔法陣や砂などの準備が必要なのだが、カービィには当然ながら使い方が分からず、壊れていると思い込まれて活用されていなかった。


  • ワープスター号
カービィが乗る飛行機。黄色い星が翼にペイントされている。
かなりの高性能な機体らしく、デデデ社長の飛行機には一度たりとも負けたことがない常勝無敗の機体。

ちなみに、メタナイトが後にこのワープスター号に搭乗したことがきっかけで飛行機を購入するのだが……歴戦のカービィファンならその飛行機の名前を見た瞬間、どうなるか察しが付くだろう。

  • グレートキングDDD十八世号
デデデ社長が乗る飛行機。機体に「DDD」の文字がペイントされている。
性能もパイロットの腕も悪くは無いのだが、これまで一度もワープスター号に勝てたためしがない。
かの戦艦のごとく墜落が当たり前になっているらしく、作中でも墜落するたびに十九世、二十世と名を変えていく。


  • デデデ工場
デデデ社長が「かぜのまち」で経営する工場。勿論こうじょうけんがくとは何も関係ない。
何の工場かは具体的に書かれていないが、飛行機を所有する所から少なくとも飛行機の製造は関わっていそうである。
ちなみに休みは週一日。


  • 時計塔
「かぜのまち」の西地区にある時計塔。
かつては魔法ギルドの塔が建っており、歯車の一つもそこに封印されていたが、長い時が経過して塔は崩れ、歯車のことを知る者はいなくなってしまった。
普段は番人が守っているため監視が厳しく、正面からは入らせてくれない。


  • 古代機械/歯車
本作の重要なキーアイテム。
ダイヤモンド鉱山で発掘された謎の巨大な機械と、それを動かすのに必要なパーツ。
「みんなを幸せにする」力を秘めているとされるが、かつて悪い魔法使いによって機械を動かす歯車が盗まれてしまい、ダイヤモンド・タウンのどこかに眠っているという。
歯車は魔法がかけられており、誰かの手に触れないと目に見えず、それまでは魔法の目薬の効き目がある間だけ一時的に見えるようになる。
フーゴーは古代機械を動かすため歯車に賞金をかけ、市民に協力してもらって集めようとしていたが……






前『星のカービィ スーパーカービィハンターズ大激闘!の巻』
次『星のカービィ メタナイトと黄泉の騎士



追記・修正は人の幸せを考えられる方にお願いします。
この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • 星のカービィ
  • 児童文庫
  • 小学中級から
  • 角川つばさ文庫
  • 苅野タウ・ぽと
  • 高瀬美恵
  • カービィと夢幻の歯車
  • 夢幻の歯車を探せ!
  • スチームパンク
  • 階級社会
  • 権力の腐敗
  • ダイヤモンド・タウン
  • パラレルワールド
  • ひかりのまち
  • かぜのまち
  • 魔法ギルド
  • 古代機械
  • フーゴー
  • 2020年
最終更新:2025年05月11日 09:45

*1 とりわけ本作の世界観的に、カービィは吸い込みを特技とすれどもコピー能力を持たず、メタナイトも剣士ではない上にバーサーカー気質が鳴りを潜めている&別方面に発揮しており、ドロッチェのアイスレーザーみたいな特殊能力を持つメンバーに乏しい、というのも大きい。

*2 逆上した時に古代機械の光を浴びてチョコまみれにされた程度であり、本当にそれ以外の大した制裁を食らっていない。

*3 逆に『メタナイトとあやつり姫』のガリック男爵は、ある道具に依存した事で改心の余地すら無く、児童文庫と思えないゾッとするような末路を遂げている。