登録日:2022/03/01 Tue 23:49:15
更新日:2025/04/22 Tue 23:15:39
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【ブリテン創世記】
◆妖精歴12000年~ブリテンの始まりと妖精達の罪
これいじょうむかしはないほどの、
それはむかしのお話です。
1万4000年前、まだブリテンがブリテンと呼ばれていなかった頃、とある大地に「はじまりのろくにん」と呼ばれる6人の妖精達が住んでいた。
ある時「はじまりのろくにん」が自分達の故郷である大地の遥か奥深く、星の内海にいる間に、
遊星の巨人セファールが襲来。
セファールは破壊と略奪の限りを尽くし、「はじまりのろくにん」が星の内海から外に出てみると大地は跡形も無く消え、海だけが残されていた。
住み慣れた土地を失い途方に暮れる6人だったが、そこにケルヌンノスとその巫女が現れる。
ケルヌンノスはその巨体で荒波から「はじまりのろくにん」を守り、彼らはその礼としてケルヌンノスを祭る様になった。
……が、そんな日々も長くは続かなかった。
いつまでたっても変わらない状況に「はじまりのろくにん」は不満を抱き始め、挙句その責任をケルヌンノスのせいだと決めつける様になっていった。
ついには「ケルヌンノスの巨体が大地の代わりになるのではないか」という恐るべき結論に至り、ある日供物を用意した盛大な祭りを開くと、
捧げ物に紛れ込ませた毒酒でケルヌンノスを殺害してしまったのである。
妖精達の悪意は留まる所を知らず、その魔の手はケルヌンノスの死体に泣きすがる巫女にまで及んだ。
彼らは巫女に魔術をかけて不死の状態にすると、彼女の体をバラバラに切り刻み人間を生み出すための素体としたのだ。
ケルヌンノスの死体という大地、巫女の体から人間を作り出す術を手に入れた事で、自分達の新天地の礎とした「はじまりのろくにん」だったが、100年経ったあたりから子孫の妖精達が理由も無く死ぬ現象が発生する。
元来不滅の生命である妖精は仮に死んだとしても同じ魂を持つ新たな個体として生まれ変わる性質を持っていたが、それでも理由の無い死は恐怖でしか無かった。
そしてその原因が「大地としたケルヌンノスの亡骸から発生する呪い」にある事に気づいた「はじまりのろくにん」は、恐れをなして逃亡。
やがてケルヌンノスの亡骸の周りが干上がって大穴が形成され、後には妖精達の死体を土として広がり続けるブリテンの大地と、妖精と人間が残された。
「罪なき者のみ通るが良い」───その掟と祖先の原罪により、妖精達は故郷である星の内海へ帰る事は出来ず、滅びるまで永久に呪いに苛まれる事となったのである。
こうしてブリテンはできたのです。
こうしてあやまちははじまったのです。
はじまりのろくにん に すくいあれ。
はじまりのろくにん に のろいあれ。
◆妖精達のもう一つの罪
しかしここで一つの疑問が生じる。
ケルヌンノスはそもそも何のために「はじまりのろくにん」の前に現れたのか?
両者には元々繋がりは無く、セファールの襲撃によって大地が消えた後に突然現れた。
恩を仇で返されたとは言え、自分達から首を突っ込んでおいて殺されたから恨むのはやや一方的に過ぎるのでは無いか───それが話を途中まで聞いていた村正の考えだった。
実はその疑問に対する答えこそが全ての始まりであり、6人の妖精達が犯した最大の過ちだった。
「セファールの襲来」という出来事自体は、汎人類史でも異聞帯でも、凡そ全ての歴史において起きている。
汎人類史では多くの神々が敗北し蹂躙されたが、最後には「星の聖剣」を持つ人間の手によって撃退されている。
(ちなみにギリシャ異聞帯では「星の聖剣」ではなくオリュンポス十二神の独力によってセファール撃退を成し遂げており、そこが禁断の歴史の分岐点となった)
星の聖剣とは、地球外の脅威に対する対抗手段であり、人類の脅威に対する特攻を持つ。
この聖剣を作り上げる役目を担っていた妖精が「はじまりのろくにん」と呼ばれてきた、星の内海にいる妖精である。
しかしカルデアがブリテン異聞帯に来てからというものの、ブリテンの歴史に深く紐づいているはずの「聖剣」というワードは全く耳に入ってこなかった。
最初からそんなものは存在していないかの様に。
それもそのはず、
このブリテン異聞帯で「星の聖剣」は鋳造されなかった。
聖剣が存在せず、ギリシャ異聞帯のような別種の対抗手段も生じなかった結果地球の民は完全に滅ぼされ、大地もその全てが奪われて消え失せて、後には生命の源にならない無の海しか残らない、というところまで地球は壊滅した。
はじまりのろくにんが地上に出てきたら何もなかった、とはこのことを指す。
では、なぜ他の歴史では作られた聖剣が
この歴史に限って存在しなかった
のか?
はじまりのろくにんの使命が果たされなかった理由はあまりにも信じ難い、たった一つのシンプルな答えであった。
その理由とは───
元々怠け癖があったのか、この異聞帯の分岐に限りたまたまそうであったのかは不明だが、「はじまりのろくにん」はあろうことか星の危機という時に「今回くらい休んでもいいだろう」という自己判断で使命を放棄。
結果として星は襲来したセファールに対して成す術も無く大地のすべてを奪い去られ、「はじまりのろくにん」が異変に気付いた時には何もかもが手遅れになった後だった。
星の危急存亡の秋を看過した大罪は糺されなければならない。
その咎を戒めるための使者として遣わされたのが、セファールから巫女を守るために「星の内海」に逃れていたケルヌンノス神だった。
当初は妖精達を守るために現れたと思われたケルヌンノスだが、真の目的は妖精達を罰することにあった。
しかし罪の意識など欠片も抱いていなかった「はじまりのろくにん」にとって、反省を促すケルヌンノスと巫女は口うるさい邪魔者でしかなかった。
おまけにケルヌンノス自身も温厚な性格であり、どちらかといえば妖精擁護派に近かった事が災いして、祭り上げられた事により「妖精達が改心してくれた」と勘違いし、罠にかかって殺されてしまったのである。
聖剣鋳造という使命の放棄、ケルヌンノス神とその巫女の殺害。
これが創世の時より続く妖精達の原罪。即ち「厄災」の正体とは獣神の怒りと嘆きにより生まれ、永劫に妖精國を滅ぼし続ける呪いだった。
そしてそれらの罪を六の氏族の妖精達に償わせ、「はじまりのろくにん」が造らなかった聖剣を改めて造る使命を背負って遣わされたのが2人の「楽園の妖精」、ヴィヴィアン=モルガンとアルトリアだった。
モルガンとアルトリアはどちらも妖精達の謝罪の証である鐘を全て鳴らし、巡礼の旅を完遂した身だが、モルガンはブリテンの結末と妖精達の悪性を拒絶し、支配する道を選ぶことで、その使命を事実上放棄することとなった。
一方、何度も挫折しかけながらも巡礼を終えたアルトリアはモルガン死後、使命のまま魔術師マーリンの導きを受け、楽園アヴァロンの『選定の場』で
聖剣の素となって消滅する事でそれを終えようとしていた。
しかし
仲間の一人がその身を呈して本懐を全うしたことにより、アルトリアは消える事のないまま聖剣作成の約束を果たす事となる。
【ストーリーでの活躍②】
◆女王歴2017年~キャメロット上空の決戦
想像だにしなかった結果に流石のマーリンも驚くが、形はどうあれ聖剣鋳造は成し遂げられ、同じく聖剣を失った白紙化地球に届けるべくカルデアにその神造兵装の基型が渡された。
それを見届けたマーリンは妖精國全体に幻術をかけ続けていたとサラッととんでもない事を明かし、ケルヌンノスのここ2時間を幻であったことにして2時間前の状態に戻した。
これが自分に出来る最後の手助けであると伝え、魔術で主人公達一行をストーム・ボーダーに送り返す。
カルデアは大穴に再度向かう道中で大厄災に呼応して目覚めた「炎の厄災」と「獣の厄災」に立ち向かい、円卓の騎士達の助けを得てこれらを撃破。
直後、蓄積した莫大な呪いによって文字通り死に体となりながらもマシュを執念で追いかけて来たべリル・ガットに道を阻まれるも、なんとか引導を渡す事ができた。
大きな回り道を経て大穴に辿り着いた時には、呪いがキャメロットを破壊し地上を覆うまで残り30分を切っていた。
大穴から出現したケルヌンノスと再び対峙するストーム・ボーダー。
しかし今回はケルヌンノスに勝つ為の武器があり、逆に巻き戻しのセカンドチャンスはもうない。
厄災氾濫・地球崩落までのタイムリミットが今度こそ迫る中、
ホームズの号令を合図に決戦の火蓋が切って落とされた。
これよりサーヴァント戦を開始する!
目標、『大穴』のケルヌンノス!ブリテンの『厄災』、ここで完全に断ち切るべし!
主人公達は賢人グリムの援護を受けながら全力で攻勢を仕掛けるが、何度殴ってもその度にケルヌンノスは復活。
ケルヌンノスの体を構成しているのは1万年以上に渡り積み重ねられた呪いと妖精達の死体であり、神核が無事である限りいくら攻撃しても即座に再生してしまう。
その呪いはもはや
意味不明な領域にあり、
呪いを押し留めていたグリムの呪詛返しに更に呪詛返しをして彼の片目を潰し、
その前にストーム・ボーダーを呪詛の奔流から守っていた
コヤンスカヤ はその強大な霊基を軋ませ
「自死の呪いであるため防いではいけない。抱え込むしかなかったが、とんだ不良債権」と呻いたほど強烈な破壊力だった。
この状態のケルヌンノスを倒す方法はただ一つ、
神造兵装級の大火力で体表の呪いごとコアである神核を破壊するしか無い。
"カルデアの戦いは初めからケルヌンノスの進行を押しとどめるためであり、その目的は既に十分果たされていた。"
グリムのこの言葉を聞いた時、主人公は
アルトリアがいつの間にかいなくなっている事に気づく。
アルトリアの行く先を悟った主人公とマシュは、最後の時間稼ぎのために徹底防戦に方針を切り替えるのだった。
一人キャメロットの玉座に辿り着いたアルトリアは、本来モルガン専用に造られた城壁の聖砲ロンゴミニアドの魔術構造を自分に合わせて書き換え起動。
「天才が使うために天才が作り上げた自分専用の兵器」を無理やり起動したアルトリアは膨大な魔力によって全身がボロボロにされながらもケルヌンノスに強烈な一撃を叩き込むが、本来の使い手では無いアルトリアでは威力を出し切れない。
反動によって重傷を負い意識が朦朧とする中、アルトリアは感じ取っていた。この呪いが恨みによるものではなく、自身の甘さ故に妖精達を生かしてしまったケルヌンノスの「この生物をブリテンの外に出してはならない」という責務である事を。
神の怒りは正しい。神の呪いは正しい。
彼は妖精たちに殺された。善意で手を差し伸べて欺かれた。
愛すべき巫女は、命も尊厳も奪われた。1万4千年に亘り、罪人たちは繁栄した。
『厄災』は憎しみによるものではなかった。怒りと、嘆きによる『責務だった』
『この生き物たちを放置してはいけない』と。
彼らを生かした者として、世界のフタを閉ざそうとした。
───それでも、やっぱりアナタは間違えているのです。
その想いを理解しながら、それでも間違っていると否定したアルトリアは自身に宿る聖剣の概念を城壁砲門に装填し、力を振り絞り二撃目「
エクスカリバー
」を放つ。
聖剣、抜刀──!
祭神よ、我らが罪を、許し給え───!
ロンゴミニアドとエクスカリバー、2つの神造兵装魔術による砲撃はケルヌンノスの呪層を抉り出し、遂に神核が露出。
玉座には、役目を終えた杖だけが残された。
◆決着~妖精國の終焉
アルトリアがその全てを賭けて作った機会を主人公達は見逃すはずもなく、神殺しの弾丸「ブラックバレル・レプリカ」を叩き込むことを判断。
しかしマシュは旅の途中でブラックバレルを本能的に手放していた。だがとある妖精が、自らに相当の負荷を懸けながらも、マシュの大事なものだからと片時も手放すことなくブラックバレルを持ち続けており、この瞬間に返却される。
体表を消し飛ばされたケルヌンノスはなおも再生を始めるも、再生が終わる直前ブラックバレルを神核に撃ち込まれた事で呪い諸共完全に消滅。
数多くの犠牲と戦いの末に「呪いの厄災」ケルヌンノスの亡骸は討ち滅ぼされ、崩落は食い止められた。
後に残っていたのは夕焼け空と、炎と呪いが消え焦土と化した妖精國の大地だけだった。
例えその成り立ちが悪意から生まれたものであったとしても、その國は確かに美しかった......。
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誰も気づいていなかった、或いは主人公だけが気づいていたのかもしれない。
ロンディニウムの壁画に描かれた獣神の足元には、竜の様な何かが大口を開けていた事。
賢人グリムが去り際に「自分は汎人類史から来た唯一の助っ人」と言い残した事。
そして旅の仲間に一人、同じく助っ人を名乗りながら常に気になる行動をとり続けていた人物がいた事。
モルガンはその気になればケルヌンノスと戦えるだけの力を有していたが、対抗手段を用意するだけで自分から手を出さず、封印・抑止するに留めた。
ブリテンにやってきたケルヌンノスにはもう一つの役目がある事を、彼女は知っていたのかもしれない。
世界が新しくなるほど根は古び、
誰も知らないまま、このとおり
取るに足りない、小さな虫のひとかみで崩れるのです
「崩落」はまだ始まってすらいなかった。
ケルヌンノスが蓋となって封じられていた最後の厄災、「 奈落の虫」がブリテンを汎人類史ごと飲み込むべく這い出た時、ブリテン異聞帯の戦いは真の最終局面を迎える事になる。
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