アイサツ(ニンジャスレイヤー)

登録日:2022/06/09 Thu 07:04:00
更新日:2025/04/25 Fri 18:54:43
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「ドーモ。ニンジャスレイヤー=サン。ダークニンジャです」

「ドーモ。ダークニンジャ=サン。ニンジャスレイヤーです」




初対面での第一印象を左右したり、職場や学校での人間関係を円滑に保ったり、折りに触れて贈り物とともにやり取りしたり、魔法の言葉だったりと、社会において重要な役目を担う「挨拶」……

日本人である以上、いや日本人でなくとも日常生活にはかかせぬものであり、当然ながら読者の皆様もこのマナーについて相応の知識を持ち合わせていよう。


しかし推定読者数5おくにんを超えるちょうエンターテインメント冥府魔導カラテtwitter小説ニンジャスレイヤーにおいて、挨拶、いや「アイサツ」は我らの知るそれとは似て非なる奥ゆかしい*1礼儀作法であり、これに対し適切な知識を持っていなければ

◆ ニンジャスレイヤーほんぺんを読んだ時に、「なんでこいつら殺し合い前に丁寧に自己紹介してんの?バカなの?鎌倉武士なの?」などとあなたが誤解する

◆ ニンジャスレイヤーほんぺんを読んだ時に、「なんだコレ……ぼくの知ってる日本文化と違う……帰ってパラッパラッパー*2しとこ……」などとあなたが混乱する

◆ニンジャスレイヤーほんぺんを読み進めていても、「む……このアイサツは礼儀作法として適正ではないのでは?もしやコイツは礼儀を知らぬサンシタ*3なのでは?」などとあなたが早合点する

◆ある日あなたが突然にニンジャとなり、敵性ニンジャが現れてイクサ*4となった時、敵性ニンジャのアイサツに適切なアイサツを返すことができず、あなたの名誉が失われる

などといったさまざまな弊害が予想される。


しかし心配ごむよう、この項目を読むことによってあなたはこの複雑で奥ゆかしい礼儀作法を完全に理解することとなり、安心してニンジャスレイヤーを読み進められるし、またいつ訪れるやもしれぬニンジャとの接近遭遇にも備えることが可能となるだろう。

なおニンジャスレイヤーといえばその独特なほんやく言語、所謂「忍殺語*5で有名だが、しかし本項目ではピュアなニュービー*6の方々にもわかりやすいよう、平易で一般的な日本語で叙述していくため、初めてのかたでも実際ごあんしんだ……いや、安心してご覧いただきたい。

またどうしても使用せざるを得ない用語などに関しては、注を用いて解説もしているため、どうぞ有効活用あられたい。




◆「ニンジャスレイヤー」における一般的アイサツ行為◆



初見の方や詳しくない方には誤解されがちだが、「アイサツ」とは基本的に我々の知る「挨拶」に近似のものである。
よってアイサツそれ自体は、ニンジャスレイヤー世界においても一般的な日本式の礼儀作法であり、特にニンジャに固有のものというわけではない。
古事記*7にもそう書かれている。

アイサツ……トクガワ・エドの治世から数百年が経過した今となっても、この極東のハイ・テック国家には「義」「礼」と呼ばれる価値観が連綿と生きている。自らを卑しめ、相手を尊ぶ。この国家では何より調和こそが重んじられる。たとえそれが、薬物中毒者と売人のようなマケグミの間であってもだ。

「……ドーモ。あー……」シルバーカラスは会釈した。「カギ・タナカです」カギ・タナカは彼の使う偽名だ。マンションもこの名前で借りている。「ドーモ」少女も会釈を返す。「ヤモト・コキです」二者は自然に名乗った。異常な事ではない。他人同士、同席すればアイサツ有り。日本の奥ゆかしさだ。

「ドーモ。始めまして」アルビノの男はなんと、先手を打ってオジギを繰り出したのである。さらに、頭を上げながら自らの懐に手をいれ、滑らかな動作で名刺を差し出した。「私の名前はエシオです。ピグマリオン・コシモト兄弟カンパニーのエージェントをしております」

「ドーモ。明智光秀です」「ドーモ。織田信長です」織田は座したまま挨拶を返した。本能寺内のアトモスフィアが張り詰め、不穏なカラテが周囲に満ちた。明智は襖を後ろ手に閉めると、しめやかに座し、織田と茶を交わした。

等と言った具合である。

見ての通り、「相互リスペクト」「謙譲の美徳」といった日本的価値観を体現した儀礼行為がアイサツであり、
  • 初対面の相手や改まった場、あるいは単に顔を合わせた時、また別れ際などでアイサツをするのが望ましい
  • アイサツをされたらアイサツを返すのがマナー
  • 多くの場合、会釈などの肉体的礼儀を伴う
  • サラリマン*8等の場合、同時に名刺などを差し出すことも
と言った多くの点で、我らの知る「挨拶」と共通している。

反面、
  • 会釈などにとどまらず、両手を合わせる合掌礼、さらに30-45度程度頭を下げるオジギ*9などを伴う場合がある
  • 「ドーモ*10が、互いの上下関係や場のフォーマル度に関わらず使用できる、汎用性の高いアイサツ用ワードとなっている
  • 適切なアイサツを欠いたことに対する社会的ペナルティが概して重い
などの違いもあり、全体として我々の「挨拶」に比べて、より厳粛荘重儀式的な行為になっていると言える。


……とまあ、そんな感じにニンジャスレイヤー世界の「アイサツ」についてはおおよそ理解されたことと思うが、しかしこれはあくまでニンジャスレイヤー世界における、「一般的な社会」の間でのアイサツである

だがニンジャスレイヤーという作品内においては、「一般的な社会の日常」は登場人物の誰もが過ごす常日頃の光景ではなく、むしろその逆、「非日常の世界」ですらある。

では作中における「日常」とは何か?

……そう。ニンジャとニンジャの無慈悲なるイクサである。




◆ニンジャのアイサツ◆



イクサに臨むニンジャにとって、アイサツは神聖不可侵の行為。古事記にもそう書かれている。アイサツされれば返さねばならない。

ご存じの方もおられよう。
かの伝説的電子ドラッグことアニメイシヨン第1話においてナレーションのゴブリン氏によって発せられた、ニンジャスレイヤーにおける「アイサツ」を象徴するベストセンテンスである。

そう、先に述べた日本人としてのアイサツ儀礼とはまた別に、ニンジャ達は「イクサに臨んでのアイサツ」という独自の礼儀作法体系を持っているのだ。
このアイサツに関するは諸々のルールはニンジャにとって「掟」と称されるほどに重要、かつに拘束力の大きいものであり、一山いくらのサンシタニンジャであろうが、あるいは神話級と称えられる最上位ニンジャであろうが、この厳粛厳正なプロトコルからは逃れられないのである。

ニンジャスレイヤー世界において、ニンジャとは無慈悲な暴力の化身であり、自らの欲望のままに非ニンジャを殺し、搾取し、隷属させることに一片の疑問も抱かない、邪悪で身勝手な超人類である。
そんな彼らが、何ら物質的な強制力のないアイサツという礼儀作法にだけは従わざるを得ない、いやむしろ自ら進んで従っている様は見るからに異様であるが、しかしそれこそがニンジャという存在の特殊性をあからさまにしているとも言えよう。


ただし前項で述べたように、アイサツそれ自体はニンジャに固有の作法ではないため、非ニンジャであってもアイサツ概念、ルール等の多くは共通していると考えられる。
少なくとも平常時のアイサツに関してはニンジャと非ニンジャの間にそれほどの感覚差はみられないし、非ニンジャが戦闘前アイサツや名乗り行為を行う場合もわずかながらあるため、ニンジャ独自のアイサツルールと、広く一般モータルにも共有されているルールの境目は、今のところ判然としていない部分も多い




◆なぜニンジャはアイサツにこだわるのか?◆



簡潔に説明するのはなかなか難しいのだが、身もふたもないことを言ってしまえば「それがニンジャだから」である。
作中のキーワードを使って言うなら、「アイサツがニンジャというミーミー*16の、重要な一部であるから」とも換言できよう。

もともとの起源まで遡れば、ニンジャのアイサツへの執着はそもそもニンジャ社会、それも古き神代の古代ニンジャ社会の性質に由来している。
古代のニンジャにとって、自身の、また属する組織やニンジャクラン*17名誉とは、命や勝敗よりもはるかに重いものだった。
例えイクサ自体に勝利しても、イクサの中で礼儀に欠き、名誉を汚す行いがあったらそれはイサオシ*18とはされず、ムラハチ*19ケジメ*20、甚だしきはセプク*21などの厳しい制裁が科されるほどだったのだ。

そしてニンジャのイクサにおいて、名誉を守るための大前提ともされる礼儀作法、その象徴たるものがイクサに臨んでのアイサツだったのである。
それを定めたのは全てのニンジャの祖カツ・ワンソー本人であり、自身の弟子でもある偉大なるニンジャ将軍だったハトリ・ニンジャの進言を受け入れ、これを全ニンジャが守るべき礼儀作法としたとされている。
これ以後、ニンジャ社会に由来するすべてのニンジャ達にとって、イクサに臨んでのアイサツは名誉のための必須のプロシジャ*22となり、それはやがて彼らにとって本能と呼べるレベルにまで刻み込まれていったのである。

さらに作中にはそうしたニンジャ社会の一員であった本来のニンジャ、即ち「リアルニンジャ」だけではなく、そうしたリアルニンジャの魂が非ニンジャに憑依することによって生まれた「憑依ニンジャ」も存在する……というかそっちの方が作中の年代では圧倒的多数派である。
彼らはそうした古式ゆかしいニンジャ作法を知識として持ってはいないが、ソウル憑依時に本来の人格がソウルと融合することで、彼らもまた半ば本能めいてアイサツを重んじるようになるのだ。

現実世界においては平安時代から戦国時代における武士(あるいは中世ヨーロッパにおける騎士)の「名乗り」が作法とされたものに近い。
これは戦いの中で自身を討ち取った相手の武勲のため、あるいは死にゆく相手への手向けとして、双方の名前を告げ合うというもので、
互いに殺し殺されることを許容し、その一点においては対等であることを認め合う、殺伐としながらも極めて奥ゆかしい礼儀作法である。
故に彼らは互いがどのような立場であろうと、どのような力量差であろうと変わりなく、攻防の手を止め、名乗りを交わすのだ。

それを踏まえると、作中においてアイサツする事もできずに行殺されてしまったニンジャたちは、ブザマであっても決してシツレイではなく、
ましてやアイサツ直後に即殺されてしまうようなニンジャたちですら、互いに殺し殺される事を許容した上でイクサに臨んだ事を思えば、
アイサツという作法そのものを踏みにじる下劣なニンジャなどは、話にもならないという事が理解できるだろう。


◆ハウトゥーアイサツ◆



さてニンジャのアイサツについて基本的な知識を得たところで、いよいよその具体的な流れについて学んでいこう。

ニンジャがイクサにおいてアイサツ態勢に入った時、まずすべきは


① イクサの手を止める


アイサツの際には戦闘態勢をとらず、相互に一時的な無防備状態、あるいはそれに準じた非戦闘状態となるのが基本である。
これで「私は礼儀を守るために命をかけます」という自身の矜持を示すと同時に、また敵手に「貴方もまたこの作法を尊重し、攻撃しないと信じています」というリスペクトを示すことができる。

これは互いに向かい合ってイクサを始めた時だけではなく、アンブッシュ(後述)や乱戦などで戦闘が始まって後にアイサツをする形になった時も同様であり、一時的に手を止めて戦闘態勢を解除したのち行うのが望ましい。


②-a 名乗る


 「ドーモ、初めまして、ドラゴン・ゲンドーソー=サン。ソウカイ・シックスゲイツのニンジャです。ドラゴン・ドージョーに放火に来ました」

次いで、自らの名や所属組織、また場合によってはその戦闘目的などを相手に宣告する、いわば名乗りを行う。
アイサツを受けた側がアイサツを返す時、あるいは事前に相手の名前を知っている場合などは、先に呼びかけを挟んでから名乗るのが基本のようだ。
これらの一連の口上は、原則として敬語で行うべきであり、また相手に対しても敬称つきで呼びかけるのが望ましい
というか作中においては、ニンジャ・非ニンジャを問わず、家族以外の相手に対しては常に敬称(〇〇=サン*23*24)つきで呼ぶのが一般的作法である*25

ただし必ずしも敬語でならなければならないというわけでもなく、普段通りの口調で名乗ったり、あるいは端的に自分の名前を告げただけで済ませる、などの例も少なからずみられる。

「テメェー」キングピンは警棒で警戒する。「ダチュラ=サンじゃねえな。テメェー」「ああ違うね」ダチュラは……否、そのニンジャは不敵に頷き、あらためてアイサツした。「俺はシルバーキーだ」

「ドーモ。ダークニンジャです」ダークニンジャは接近してくる影へ呼ばわった。「貴様の名を忘れたな。名乗れ」「……ランペイジ……」ダークニンジャのニンジャ聴力が、鉄仮面の奥で発せられたくぐもった名乗り声を捉えた。ダークニンジャはさらに、後方にも一つ、別のニンジャ存在を感じ取った。

さらに直接的な名乗り(つまり「〇〇です」の部分)以外に挟まれる口上部分となるとむしろ敬語の方が珍しいほどで、ここで示威や挑発的言動を行う例も多いが、特に問題とはされない。

また多くのニンジャは、いくつかの名前を同時に持ち、日常生活時やイクサ時、ビジネス時などレイヤーに併せて名前を使い分けている。
一般的にイクサ時にはニンジャネーム、つまりニンジャとしての名前を名乗り、また相手もニンジャネームで呼ぶのが基本ではあるが、厳密なルールがあるわけではなく、偽名などを使っても特にシツレイにはあたらないようだ。

さらに負傷や病気などで、または身体的な問題があって喋れない*26場合は省略してもよいし、あるいは他人に代わって言ってもらってもよい。

「フーンク」インペイルメントは小首を傾げた。顔全体を覆うメンポはサイボーグめいている。そして思い出したようにヤモトへオジギした。「フーンク」「……!」「喋れんのだ、そいつは。インペイルメント=サンだ」モスキートが説明した。「インペイルメント=サン、その女子高生はヤモト=サンだ」

また、ショドー*27など声以外の手段で名乗りを行なうパターンも見られる。
もし貴方がニンジャとなり、憑依ソウルの影響や重サイバネ化など種々の都合により発話が困難となった場合は、ショドーを学んでおく、名刺を刷って携帯するなど事前の備えをされるとよいだろう。

異様なニンジャはくるくると回転ジャンプしてこれを回避、着地点にいたクローンヤクザの首を掴み、捩じ切った。「アバッ!」そしてバイオ血液の滴る生首を地面のアスファルトに擦り付け始める。
生首が毛筆めいて、そこに血のショドーが書かれた。「ドーモ」「ザ・ヴァーティゴです」


②-b 敬礼動作を行う


 それは赤黒の装束に身を包み、「忍」「殺」の漢字が刻まれたメンポで口元を隠したニンジャだった。彼はタクシーのドアを閉めると、両手を合わせオジギした。

名乗りにあたっては、オジギをしたり、合掌礼などをして、相手に何らかのリスペクトを示す敬礼的動作を伴うことが望ましい。
名乗りと敬礼動作は基本的に順不同であり、また同時に行ってもよいようだ。

これらは両手をふさいだり敵から視線を切ったりせねばならぬため、アイサツのプロセスの中でもっとも危険な瞬間であり、短時間で行ってもシツレイ*28には当たらないが、故にあえて悠々と行うことで己の強さへの自信と奥ゆかしさを見せつける場合もある。
また名乗り同様、身体的条件その他によって敬礼動作が不可能な場合(肉体が人としての原型をとどめていない異形のニンジャとか)は必ずともしなくてもよい。



……といった感じである。
この「ドーモ。〇〇〇=サン。××です」から始まる一連のアイサツ口上は、ニンジャスレイヤーという作品が生み出したミーミーの中でも最メジャー級センテンスであるため、あるいはニンジャスレイヤー・ニュービーの方でも「なんかこれ見たことある!」と既視感を覚えたかもしれない。
しかし作中では各々のニンジャのスタイルや、あるいは場面・状況に合わせた多様なアイサツが登場するため、実際の所それはあくまでその中の一例(とはいえ圧倒的多数例ではある)にすぎないことには注意がいるだろう。

ちなみに読者諸氏がアイサツをエミュレートする際、「〇〇デス」など名乗り以外をカナ表記にするのはよくあるミスだが、劇中では(カタコトなどの理由で元々カナ表記されている場合でも無い限りは)ひらがなで「〇〇です」とされている。
とはいえニュービーヘッズ*29のミスを鬼の首を取ったように指摘するのは奥ゆかしさに欠ける行為なので、もし指摘する際はシツレイの無い文体を心がけたい。アイサツにおいてそうであるように、奥ゆかしさは日本人として重要な美徳である。




◆アイサツのルール◆



ではアイサツの流れを抑えた所で、今度はアイサツに関する最も重要な要素、即ち戦闘前アイサツ時に守るべき各種ルールについて詳しく解説していこう。


・「アイサツ前のアンブッシュは1度まで」


ニンジャのイクサは互いに向かい合い、丁寧なアイサツと共に始めるのが常ではあるが、アイサツをする前のアンブッシュ攻撃*30もまた認められている。
ただしその機会は1回きりで、そのアンブッシュ攻撃で仕留められなかった場合は互いにアイサツし、普通のイクサを再開することとなる。

しかしアンブッシュ、つまり不意打ち攻撃とは卑劣な行いではないか?アイサツの精神と矛盾しているのでは?と思われた方もいるだろうが、

 一方で、アイサツに持ち込むよりも前に一撃のアンブッシュで惨たらしく殺されたセンチュリオンであるが、これをもってニンジャスレイヤーを責めることはお門違いだ。これすなわち、アイサツする実力すら持ち合わせなかったセンチュリオンの不覚。「ドヒョウ前に犬死に」のコトワザ通りである。

とされている。
要するに1度きりのアンブッシュで軽く殺されるような者は、そもそもニンジャとしての心構えがなっておらず、カラテ*31も足りていない、つまり「リスペクトを払うに値しないサンシタだった」とされてしまうのだ。ニンジャのイクサは無慈悲なのである。

アイサツ関連のルールの中では比較的明わかりやすい条項ではあるが、
  • 「1回のアンブッシュ攻撃」とは具体的にどこまでの範囲をさすのか?
  • 連続コンボだとしたら完走するまで「1回」の範囲なのか?
  • それともコンボは最初の1撃で「1回」なのか?
といった長さ的な面での判断はなかなか難しく、実際作中でもキャラクター同士で判断が割れている場面がある。

実はリアルニンジャが台頭していた太古の昔にはこの決まりは存在していない。
アイサツ前のアンブッシュが認められるようになったのは、太古の昔コブラ・ニンジャクランを興した開祖であるコブラ・ニンジャが「自分はアンブッシュ・ジツを鍛えたが、アイサツをしてからではアンブッシュの意味が無い。この掟を改めて欲しい」とカツ・ワンソーに直訴し、申し出を聞き入れたカツ・ワンソーが認可したのが始まりだと伝えられている。


・「イクサの前にはアイサツする」


言うまでもないようだが、基本中の基本ともいうべきモストベーシックなルールである。
作中でも「ニンジャ同士のイクサはまずアイサツから」的なメソッドが、形を変えつつたびたび強調されることからもその重要性は明らかだろう。

しかし意外なことにこの有名なルール、実は「何があろうと絶対に守らなければならない」というほどの強制力は持っていない
ニンジャのイクサの様態は互いのカラテやジツ、周囲の状況などによって千差万別であり、イクサの流れによっては、互いにアイサツを行うタイミングを見つけられないこともある。
そうした場合、下手すれば両者アイサツなしのままイクサの終わりまで行ってしまうこともあるが、この場合は好ましくないイクサ運びとされるのは間違いないにせよ、シツレイと断じられるまではいかないようだ。

またそうした不可抗力でなくとも、あまりにも互いの実力差がありすぎてイクサの前に片方の戦意が砕けている場合など、アイサツなしでイクサが進むことも実のところままある。

またそうした例外的なケースとは別に、最初からアイサツを免除されているケースもある。具体的には

 A. 超遠距離戦の場合


ニンジャの中には、スリケン*32やユミ*33、または遠距離攻撃ジツの技術を極端に磨き上げ、姿も見えないような超長距離でのイクサを可能としたものもいる。
この場合、標的のニンジャとは到底声が届かないほど離れていることもありうるため、そうした「アイサツが不可能な距離で戦う」場合もアイサツ義務は免除される。

ただしあくまで「免除される」だけであり、義務を越えてアイサツ、またはそれに代わる行為をしたほうがより奥ゆかしいとされるのはいうまでもない。
もし貴方が突然に遠距離戦型ニンジャとなり、かつ名誉を大いに重んじたいとお考えなら、ニンジャ声帯を鍛えて大音声のアイサツを会得するなり、スピーカー付きドローンやLED搭載矢などの最新テックに手を出すなりされるといいだろう。
実際、古のユミ使いニンジャは自分の名前を季語などと共に記した紙を矢に結び、それを最初の1射とすることでアイサツに代えた、という奥ゆかしい逸話も伝わっている。

なお「最初は遠距離から一方的に狙撃していたが、次第に距離を詰められた」など、戦闘中にアイサツが可能な距離まで間合いが縮んだ場合は、その時点で改めてアイサツを行うのがベター。


 B. 相手がモータルである場合


ルールとして明示されているわけではないのだが、基本的にニンジャは非ニンジャの人間、所謂「モータル」を相手にする場合、アイサツの必要はないと考えているようで、実際あまりしていない
モータル相手に上記のアイサツをする場合もあるにはあるが、そういった場合は侮蔑を含んだ上から目線の挑発や威圧目的で行われることが大多数を占める。

先にも少し触れたが、ニンジャは伝統的にモータルを「非ニンジャのクズ」と蔑視していて、自分たちと同列の存在とはみなしていないのだ。
したがってアイサツの根本理念である「リスペクト」を払うべき対象ではそもそもない……というような感覚なのだと思われる。

またそれ以前に、ニンジャを前にしたモータルは一般に「ニンジャ・リアリティ・ショック(略称NRS)」と呼ばれる一種のパニック症状に陥ることが少なくないため、アイサツのしようがないことも多い。
モータルの身でありながらNRSを起こさずニンジャ相手にアイサツを返してしまったことで、敵性ニンジャと判断され戦闘になってしまった事例があるぐらいだ。*34



・「集団戦の場合、個別のアイサツ交換は必須ではない」


数人、数十人以上の集団によって敵と相対した場合などは、1人もしくは数人が代表としてアイサツするなどして、余人のアイサツを省略してもよいとされている。

 「イヤーッ!」ファーリーマンが到達し、ルイナーを援護する。アマクダリのニンジャ達が一人また一人と降り立つ。イクサにおける個別のアイサツは、開戦時の両大将が代表する事で省略可能だ。「イヤーッ!」「イヤーッ!」攻撃応酬を周囲に見ながら、スターゲイザーとスーサイドは押し合う。

ただしこの場合も、イクサの中で敵ニンジャとの個別の一騎打ちが発生するなどして一対一の状況になった場合は、改めて互いにアイサツをするのが望ましいとされる。

またアイサツは省略「してもよい」だけであり、あえて全員分やったとしても無論シツレイにはあたらない。実際作中でも少人数の場合だと、全員がアイサツをしていることも少なくない。
そして相手が省略せずに全員分アイサツしてきた場合は、やはりされた側も全員で返すのが礼儀とされている。

なおこの場合の集団戦とは、複数の勢力が入り乱れるような所謂「乱戦」も含まれる。
つまり
 「ドーモ。ネブカドネザルです」陽炎に霞む巨大なシルエット……恐るべき背部アーマーを装着した鋼鉄ニンジャがアイサツした。全ての者たちが一瞬、固唾を呑んだ。「アーッ!」ヤマミ鋼材の跡取りが風圧で床を転がった。バスター・テツオが叫んだ。「オムラだ!奴をやれ!皆殺しになるぞ!」

「あなた方のアイサツは省略します」ジャキン!音を立て、ネブカドネザルが両肩のキャノン砲と両腕アーマーのミサイルランチャーを展開した。「とりあえず重要対象を除く者達を全滅させます。当然ながら降伏は認めない」「イヤーッ!」ドラゴンベインが跳んだ!
この場合、ネブカドネザルは自分だけアイサツして相手のアイサツをキャンセルした形になるが、この時はニンジャスレイヤーやドラゴンベインを含めた複数勢力によるイクサが既に繰り広げられていた。

そのため新たにエントリーしたネブカドネザルは「乱戦に途中参加した」格好となるため、この場合もアイサツ交換を待つ必要はないとされる。
本来ならば自分がアイサツする必要もないのだが、多くのニンジャはこのようなアイサツ不要状況下でも名乗りだけは短く行う傾向があり、ネブカドネザルも同様なのだと考えられる。


・「アイサツをされたら返さなくてはならない」


非常に優先度の高いルール。相手のアイサツに対してアイサツを返さないのは大変なシツレイである。

ここまで述べてきたように「必ずしもアイサツをしなくていい場合」というのは割とあるのだが、相手がアイサツしてきた場合は話が別。
基本的に「アイサツにはアイサツを返さなくてはならない」というこのルールが優先適用されるのである。

ただし注意すべきは、このルールは「アイサツされれば、即座にアイサツを返さなくてはいけない」という意味ではない
もちろんなるべく早く返すのが望ましいが、イクサの流れ次第では、敵のアイサツの後にアイサツを返せるような時間がなかなか訪れないこともありうるのだ。

さらに言えば、「アイサツを返さない」のはシツレイにあたるが、同様に「アイサツを返させない」のもまたシツレイとみなされる。
例えば自分だけアイサツをして相手のアイサツを待たずにイクサを始めたり、アンブッシュから攻撃を続けつつ一方的にアイサツした、などの場合である。
この場合、自分が相手のアイサツ行為を妨害しているも同然であるため、礼儀を欠いているとみなされるのはむしろアイサツした側となる。

また、上記のようにニンジャがモータルと相対した場合はアイサツの必要なしとして即座に攻撃を始めることが多いのだが、モータルの側からアイサツされた場合はこちらのルールが優先される。
と、いうかその必要は全くないとわかっていても本能レベルでアイサツを返してしまうニンジャがほとんどであるらしい。
そのため様々な伝承や資料といった不確かな情報の中から恐るべきニンジャ真実の一端を掴むことに成功した熟達のニンジャハンターなどは、あえて先手を取ってアイサツを行うことでニンジャに返礼させ、その致命的な隙を突くという戦術を取る。
ニンジャ間の戦闘で行えばこれはシツレイ極まりない行為だが、あくまでもニンジャの掟である以上、モータルがこれに従う義理はないため、この行為そのものをシツレイと断じられる事はない。
……まあ、そもそもモータル風情がニンジャに牙を剥くことそのものが、不遜で身の程を知らぬシツレイな行いなのだが。

原則として非常に優先度の高いルールであるが、適用されない場合もないわけではないらしい。

例えば実際のケースとして、第二部のニンジャスレイヤーVSデスナイト戦のように、「アンブッシュ成功→直後にアイサツ→そのまま相手が戦場からキックアウトされて離脱→結構たってから戦闘再開」といった感じにそれなりのロングスパンを挟んだ場合がある。
この時アイサツを受けた側であるニンジャスレイヤーは、戦闘再開後もアイサツを返していないのだ。
彼はいかな理由があろうと安易なシツレイを自らに許すタイプではないため、こうした場合もあるいはシツレイにはあたらぬとされているのかもしれない。


・「アイサツ中に攻撃しない」


ニンジャのアイサツに儀礼において最も簡潔で、かつ最も優先度が高いルール。

相手の、そして自分のアイサツ中に攻撃行動を取ることは厳に戒められており、アンブッシュであろうが乱戦中であろうが、議論の余地なく最低、スゴイ・シツレイ*36な行いであるとされる。

 アイサツってのはさ、神聖な時間で、相手のために攻撃や防御の手をあえて止めてるだろ?あえて止めてるっていうのが大事だ。わかるか?礼儀を尽くしてるんだよ。その相手の礼儀を踏み台にして攻撃しちゃいけないんだ。

何度も述べてきた通り、アイサツ儀礼の根幹にあるのは「相互リスペクトの精神」であり、サツバツたるイクサにあっても「イクサはイクサ、礼儀は礼儀」としてそれを厳粛に守ることにこそ意義が、そして名誉があるのだ。

なのでアイサツ行為を利用して攻撃するというのは、そうしたアイサツの根本的な精神性、存在意義そのものに対する侮辱とすら言えるのである。
ニンジャが行えば「この恥知らずな戦術に味方ながら戦慄した」と味方から内心でこき下ろされるほどに嫌悪され、組織からは「礼儀を知らぬ」という端的な理由から査定でマイナス評価が下される。
twitter連載が始まってより13年がたった現時点(2023年12月)ですら、この禁を侵したニンジャはただ1人のみ。

ちなみにアイサツ中の攻撃行為ほどの忌避はされないが、同じようにアイサツ中の隙に逃走したりするのも非常にシツレイ、また卑劣な行為であるとされている。

なお、上記のようにモータルが相手でもアイサツをされればアイサツを返してしまうのがニンジャだが、この隙にモータル側から先制攻撃を仕掛けてくる場合がある。元々アイサツとはニンジャ同士のイクサのルールであるため、この場合シツレイには当たらない。
無論、ニンジャ側からすれば卑怯であるとは感じるようだが、どちらかと言えばモータルごときに不覚を取られたニンジャの恥であると解釈される。


◆アイサツ・タクティクス◆



アイサツのルールについては読者の皆様も詳細な理解を得たものと思われるので、次いでは応用編にいってみよう。

幾度も繰り返してきたように、アイサツはニンジャにとって非常に重要なプロトコルであり、侵すべからざる神聖な儀礼行為である。
しかし同時に、ニンジャの本分はあくまでもサツバツたるカラテに、イクサにあるのも事実。

なので多くのニンジャは、「アイサツのルールを決して侵さぬように、しかしルールの範囲内でなるべく戦術的アドバンテージを得るべし」という、ある種の法律闘争めいた現実的な見方をしている。

そうしたアイサツ戦術ともいうべき観点からアイサツを分析すると、


・「アイサツ終了直後を狙え」


アイサツ動作中の攻撃は厳禁されているが、終了と同時にその禁は直ちに、そして完全に消滅する。
なのでアイサツ終了後ゼロコンマ1秒で攻撃を加えたとしても、それはまったくシツレイには当たらないのだ。

そしてニンジャと言えども、オジギ中などの無防備状態から戦闘態勢にシームレスに移行するのは決して簡単なことではない。
よってカラテの足りぬ未熟なニンジャなどは特に、アイサツ終了直後にも隙を残していることは少なくないため、これを狙うのは非常にニンジャ戦理にかなった行動と言える。
ちなみに作中でこのメソッドを最も実践しているのは間違いなく主人公であり、アイサツ直後の情け容赦ない速攻*37によって戦いのイニシアチブを奪い、多くのサンシタニンジャを葬ってきた。

 「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン、ブラックドラゴンです」「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン、シャドウウィーヴです」2人のザイバツニンジャは抜け目ない警戒感とともにオジギを返す。その直後!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーが跳んだ!ブリッツクリーグめいた電撃的トビゲリが空気を裂く!

 その狙いはシャドウウィーヴ!ニュービーにありがちなオジギ終了後の硬直時間を突いた、見事なアンブッシュだ!「イヤーッ!」シャドウは咄嗟に両腕でこれをガード!だが片腕を半分失っている彼にとって、ニンジャスレイヤーのトビゲリはあまりに痛烈すぎた!「グワーッ!」激痛に顔を歪めるシャドウ!

よって「アイサツはキチンとしつつもアイサツ終了直後の隙をどれだけ無くして即座に戦闘に移行・対処できるか」が、ニンジャの力量のボーダーラインの1つと言える。


・「アイサツで逃亡を阻止せよ」

アイサツは原則として互いが認められる距離で戦闘態勢を解き、向かい合って行う。
つまりアイサツの終了後はお互いが近距離で向かい合って立っていることになる為、その状態から直ちに逃げ出すのは非常に難しい
無防備な背中を晒すのは言うまでもなく危険すぎるし、じりじりと下がろうにも距離が近いため安易にはいかない。
また、前述の通り相手のアイサツ中に逃走を図るのは非常にシツレイな行いであるため、余程のサンシタニンジャでもなければアイサツに応じざるを得ない。
また、そのようなシツレイも平気なレベルのサンシタならば、逃走せざるを得ないような格上の相手のソウルに威圧されてアイサツを強いられてしまう。

このため敵を先に捕捉したが、逃亡を阻止したいのであえてアンブッシュでなくアイサツするという戦術も成立し得る。

 「ドーモ。ニンジャスレイヤーです」機先を制し、流れるようにアイサツしたのは赤黒のニンジャであった。レッドハッグはこれによりアンブッシュと逃走の選択肢を奪われた格好だ。彼女はアイサツを返す。「ドーモ。ニンジャスレイヤー=サン。……レッドハッグです」路地裏に殺気が満ちる。


・「先行アイサツ側が有利を得やすい」


一般論として、先んじてアイサツした側がイクサの主導権を握りやすいと考えられている。
まず機先を制することで相手を精神的に圧迫できるし、相手がもたついたりしたらすかさず礼儀不足を指弾したりすることで、さらなる精神的優位に立つことも可能だ。
またそうした心理戦要素以外でも、相手のアイサツを待つ間に精神的・肉体的コンディションを整える時間が得られるし、さらにあまり推奨される行いではないが、開戦直後の攻撃の予備動作などをその時間で密かに行うこともできる。
これがいわゆる「アイサツ的優位」である。


・「後手側は数少ない優位点を活かすべし」


逆に不利となってしまう後手アイサツ側だが、有利な点がないわけではない。
後手側の優位点といえば、なんといってもアイサツに至るまでの「間」、また口上の長さなどを調整することで、アイサツ終了=イクサ開始のタイミングをある程度操作できるという点に尽きるだろう。
先述したようにニンジャのイクサはアイサツ終了後数秒、あるいはコンマ数秒で決着がついてしまうことも少なくないため、このタイミングを操作できるアドバンテージは決して小さくない。


・「隙はなるべく小さくすべし」


アイサツ動作中の安全はニンジャの掟によって守られているとはいえ、物理的に見れば無防備な瞬間であることに違いはない。
このため単純にイクサの勝敗という観点から考えれば、可能な限り無防備な時間を短くし、アイサツ終了直後の攻防に備えるのが望ましい。
またそうした油断のなさを相手にアイサツ前に見せつけ、わからせることで、イクサの前からプレッシャーを与えることにもなる。


・「あえて隙を大きくする戦術」


しかしそれを逆手に取り、あえて丁寧にアイサツしてみせ、長く大きな隙を意図的に作り出すという戦術もありうる。
これは即ち「私はアイサツの際に生じる隙など、気にする必要がないほどの強者です」というアッピールを意味する奥ゆかしいマウンティングであり、相手に威圧感や恐怖を与え、心理的な優勢に立つことができる。

 「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン……イグゾーションです」赤橙のニンジャはぞっとするほど冷酷なアイサツを行った。余裕を見せつけ相手に敗北感を味わわせるための、支配者然としたアイサツである。「ドーモ、イグゾーション=サン、ニンジャスレイヤーです」焦燥を隠しオジギするフジキド。


・「罵倒・挑発行為」

アイサツに合わせて行う応用の中でも割と高等な技術。
アイサツの前後で恐怖心を植え付けたり、相手の逆鱗に触れるような辛辣な文言を意図的に発することで冷静さを奪い、アイサツ前アンブッシュ以外でも追加でイニシアチブを取ることができる。
強者アッピールやマウンティングの一種であり、仕掛ける側の知的教養や巧みな語彙力が求められるので、カラテの練度とは別方向での研鑽が必要。
罵倒や挑発とは礼儀作法に似つかわしくないような手段と思われるが、舌戦で相手の精神的動揺を誘うことはニンジャのイクサでは常套手段であり、れっきとした戦術の1つとして位置づけられる。

 「ドーモ。ファイアブランド=サン。ニンジャスレイヤーです」ネオン看板上で直立したニンジャスレイヤーがオジギした。「よくぞ躱した。褒美に、初撃で死に損なった事を後悔させてやろう」「カハッ……ドーモ。ニンジャスレイヤー=サン。ファイアブランドです」喉を抑えた。「冗談じゃねえ」

ただしこれは「あえて隙を大きくする戦術」同様、カラテに優れた強者のみが有効に扱える高等応用技術であり、実力の足りない者が行った場合、相手の怒りに火に油を注ぐ結果となって自分が不利になったり、後述のアノマロカリス=サンのような惨事になりうる。
また語彙力や教養の足りないチンピラなどが行うとただチンピラがイキリ散らかしてるようにしか見えず、あまり効果がないのも難点。

このメゾットの更なる応用として、「相手の想定外の場所からいきなり現れて精神的動揺を誘った上でアイサツを行い精神的優位に立つ」という手法もある。

 ノレンが翻り、スシ・ソバのドンブリと箸を手に持ったまま、その男は街灯の下に姿をさらした。それを目にしたソニックブームは絶句した。ニンジャだったからだ。それも、赤黒のニンジャだったからである。赤黒の。

 既にスシ・ソバを完食したと思しきそのニンジャの顔には、いつの間にか、特徴的なメンポが装着されている。ソウカイヤのニンジャの間で、今となっては一人として知らぬものの無い意匠、悪夢の具現。禍々しい書体で「忍」「殺」のレリーフを施された、おそるべきメンポが。

 「テメェ、テメェはニンジャスレイヤー!いつからそこに」ソニックブームは狼狽した。赤黒のニンジャはドンブリを手に持ったままオジギした。「ドーモ、はじめましてソニックブーム=サン。ニンジャスレイヤーです。おちおち食事もできんな、この街は」「何を……!」「当然、オヌシを殺しに来た」

ちなみに作中でこのメソッドを最も実践しているのは間違いなく主人公であり、アイサツ前後の情け容赦ない罵倒・毒舌、或いはとんでもない登場の仕方によって相手の精神的動揺を誘い、多くのサンシタを恐怖に陥れるだけでなく強者相手にも精神的有利を取ることもあった。


・「アイサツは丁寧に行うべし」

そもそもの話ではあるが、ニンジャのイクサの作法であるアイサツそのものに熟達しており、丁寧なアイサツを行える事は、それだけで実力のある恐るべきニンジャである証拠となる。

「ドーモ、初めまして、ドラゴン・ゲンドーソー=サン。ソウカイ・シックスゲイツのニンジャです。ドラゴン・ドージョーに放火に来ました」
丁寧なアイサツは、敵にさらなる恐怖心を植え付ける。
「ドーモ、ソウカイ・シックスゲイツ=サン。ドラゴン・ゲンドーソーです」

丁寧に堂々としたアイサツは、それだけでニンジャとしての格を示し、相手を威圧する事ができるのだ。
如何にアイサツを戦術的に行って相手より優位に立つかという事を重点するのも大事だが、まずはアイサツそれ自体を丁寧に行う事を心がけるべきであろう。




◆アイサツ事例集◆



ここまでくれば皆様はもはやアイサツのオーソリティと言ってよく、いつニンジャとのイクサが始まっても名誉を汚さず振舞えるほどの知識を身につけられたことであろう。
しかし油断は禁物である。イクサの流れは千変万化であり、アイサツに至るまでの状況もまた然りなのだ。

よってこの項目では実際にニンジャスレイヤーの作品内で行われたアイサツをいくつか紹介し、皆様のアイサツ知識をより実践に即した形で補強していきたい。

※ ちなみに作品内の文章の引用に関して、一部に編集用プラグインが作動してしまう箇所があったため、やむを得ず該当部分を微修正している。ご了承いただきたい。










































◆アイサツ・トリヴィア◆



「実は描写外でアイサツをしているかも?」

先にも何度か触れたが、原作小説内では意外なほど「アイサツを片方が、あるいは両方がしていないイクサ」が頻出する。
ご存じの通り各種ルールの上ではアイサツは必ずしも必須ではないためだが、しかしこれは「実際にアイサツしていないケース」と「実際にはアイサツしているが、描写が省かれているケース」の両方が存在しているらしい。
原作者、またほんやくチームはこれを「解像度の関係」と述べており、本筋に絡まない背景的な意味が強いイクサだったり、あるいはエピソード内のアトモスフィア*47などによっては、アイサツシーンが省かれてしまうこともあるということだ。
外伝作品『スズメバチの黄色』は、モータル達の視点で描かれたネオサイタマというテーマもあって所謂「忍殺語」表現も極力抑えられた作風なのだが、作中登場するニンジャ達もその正体を明言されることはなく、アイサツについても「両者は名乗りあった」といった程度に省略されている。これも「解像度」の一例といえるだろう。

「敬礼動作の種類」

アイサツ時の敬礼といえば、作中で圧倒的に多くみられるのが両手を合わせた合掌+頭を下げるオジギを組み合わせたタイプである。
かのアニメイシヨンでもキービジュアルとして多用されたため、原作未読の方々の中にもご存じかもしれない。

しかし原作に登場する敬礼動作は決して一様ではなく、

・<利き手で拳を握り、逆の手の掌で拳を包む、あるいは打ち合わせる>
「遊んでやがる、コイツ!」スーサイドは毒づいた。謎の乗り手は加速するハーレーの真後ろにピッタリと着き、速度をシンクロさせて、決して離れはしない!「すっげェー」フィルギアはシート上で器用に座り直し、真後ろを向いた。顔の前で左手のひらと右拳を合わせた。「ドーモ。フィルギアです」
中国のカンフー映画や歴史映画などでよくみられる、いわゆる「抱拳礼」もしくは「拱手礼」のような敬礼動作だと思われる。
合掌+オジギタイプに次ぐ登場率を誇る比較的メジャーなタイプで、利き手の拳を自らふさぐことでアイサツ中の非戦意志を奥ゆかしくアッピールできるという。
また非戦闘時ではあるが、両手を組み合わせて頭より高く掲げてひざまずく、所謂「天揖」めいた最敬礼をしたケースもある。


・<両手で拳を握り、それを打ち合わせる>
スワッシュバックラーは奇妙な自剣を振った。平たい刀身は鞭めいてしなり、ビュルルと音を立てた。そして白金のニンジャがアイサツした。「ドーモ。ニンジャスレイヤー=サン。ドラゴンベインです」両腕には鷲を象った無骨なセスタスが装着されている。拳と拳が打ちあうと、澄んだ高音が広間に響いた。
↑のタイプに近い敬礼であるが、比べるとややこちらの例は少ない。
ちなみにアニメイシヨンでは、#11【メナス・オブ・ダークニンジャ】にてダークニンジャがこれにオジギを組み合わせた敬礼動作を行ったが、実は原作ではそうした詳細な動作の描写はない。
ライバルキャラとして、主人公のアイサツに対するビジュアル的な個性を出しつつ、きちんと原作に依拠はするというリスペクトも忘れないアニメイシヨンスタッフの見事なワザマエである*48


・<両手を腰に添わせたままオジギする>
トビゲリ・アンブッシュを決め終えたニンジャスレイヤーは、素早くバク転を3回決めて体勢を立て直す。そして両手を腰にぴったりと添え、ノトーリアスの機先を制するように、素早くオジギを決めて精神的優位に立った。「ドーモ、サヴァイヴァー・ドージョー=サン。ニンジャスレイヤーです」
我々日本人が改まった場やビジネスシーンなどでよく行う「お辞儀」に酷似した敬礼だが、作中では非常に珍しいタイプで、少なくともニンジャ同士のイクサ前アイサツとしては殆ど例がない。


・<片手のみで合掌様のしぐさを行う>
猶予はもはや無い。ニンジャスレイヤーは眠るナンシーに失礼を詫びる片手アイサツをした後、フートンを剥がした。そして患者衣姿のナンシーを抱き上げた。その身体が、電気ショックを受けたように、数秒間、ニンジャスレイヤーの腕の中で激しくふるえた。ニンジャスレイヤーは目を見開いた。
時代小説などでよく登場する、所謂「片手で拝む」タイプの敬礼動作で、我々にとっては比較的身近なものだが、ニンジャの戦闘前アイサツとしては希少と言うか、実は現時点で例が無い幻の敬礼動作。
ただしイクサ時ではない普通のアイサツとしては使用例もあり、また原作陣営の監修の上で製作されているコミカライズ版においても何度か登場している。
なお、現実の挨拶においても古来より伝わるものは、洋の東西を問わず速やかに攻撃態勢に移れない姿勢を相手に見せることにより、生殺与奪の権を相手にゆだねることをもって敬意を示す動作がもとになり、儀礼化したもの*49が多く見られる。
その点で考えると、片手が空いていて攻撃態勢に移りやすいこの姿勢は攻撃の手を止めていることを示すことが重要なニンジャ同士のイクサ前に行うアイサツとしては適さないのかもしれない。


などなど、多彩な敬礼動作が登場する。
また人型を外れたタイプのニンジャの場合だと、もはや全くテンプレートが通用しないような敬礼動作を取ることもあるが、ニンジャは本能的にそれがアイサツなのか否かを感じ取ることができる。


「何語でアイサツしてる?」

ニンジャスレイヤーにおいては、原則として「今登場人物たちが何語でしゃべってるか」という点はあまり取りざたされない。
日本語と英語など、複数の言語の使用を重点描写されているのは、かのラッキー・ジェイクや、あるいはロシア人ニンジャのサボターなど、ごくまれである。
作中のニンジャは日本を発祥としているし、ニンジャ関連の用語も多くが日本語なのだが、アイサツも日本語で交わされているかどうかは今のところ不明である。備えよう*50




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  • 平易で一般的な日本語(大嘘)
  • 所要時間30分以上の項目
  • ゴーマ・ローザリア
最終更新:2025年04月25日 18:54

*1 編注:状況に対し過不足なく適切であり、また品のあるさま

*2 編注:七音社が開発、ソニー・コンピュータエンタテインメントが販売した1996年発売のプレイステーション向けリズムゲームソフト

*3 編注:「三下」か。礼儀作法や戦闘力に欠け、至らぬニンジャであると軽蔑される存在のこと

*4 編注:「戦」か。ニンジャにとっての戦闘、とくにニンジャ同士の戦闘のこと

*5 編注:ニンジャスレイヤーでは日本語がフルサポートされない

*6 編注:"newbie"の音写か。初心者、あるいは新参者を指す。ここでは、ニンジャスレイヤーにこれから触れようとする新参ファンを指す。

*7 編注:歴史書かそれに近い古代の書物のようだが、我々の知る日本の歴史書『古事記』と共通する部分はいまだ確認されていない

*8 編注:「サラリーマン」か

*9 編注:「お辞儀」か。我々の常識でいうならば、お寺関連で行う礼(「お坊さん」のお辞儀など)が見た目的には近いと思われる

*10 編注:「どうも」か

*11 編注:「空手」か。多義語だが、この場合は肉体的能力、及び鍛錬のことで、端的に言えばカンフー映画で言うところの「功夫」と同意。

*12 編注:「座禅」か。座って行う瞑想トレーニングのこと

*13 編注:「術」か

*14 ただし、アメコミ、特にマーベル・コミックスの世界においては、ミュータント/Mutantとは「先天的突然変異、生まれついての特異体質による異能者」を意味しており、後天的に異能を身に着けたものにはミューテイト/Mutateという言葉が与えられている。忍殺世界のニンジャはリアルであれ憑依であれむしろこのミューテイトが近い。

*15 編注:厳密には第1部~3部における時系列

*16 編注:“Meme”か。模倣を通じて変化しつつ継承・拡散されていく文化情報のこと。ミーム。

*17 編注:”Clan”か。同門の仲間、師弟などで構成される集団のこと

*18 編注:「勲」か。功績、勲功、特にイクサでのそれのこと

*19 編注:「村八分」か。対象者を無視や疎外といったソーシャルハラスメント対象にする刑

*20 編注:言葉は「けじめ」だが、作中の意味としては「指詰め」が近い。また現実の指詰めと違い本作では純粋に失敗に対する罰として一般社会でも行われていること、そして切除対象も小指の第二関節に限らずケジメの度に残った指を切除させられ、重い場合は四肢すら自主的に切除させられる。

*21 編注:「切腹」か。自殺刑

*22 編注:”Procedure”か。「手続き」「手順」「作法」のこと。実際の日本語ではプロシージャと読むことが多い。

*23 編注:日本語における敬称「〜さん」と同意。英語圏でも(主として日本人相手に)「-san」などと付けるスラングが存在する。

*24 編注:なお作中では「〇〇先生」など別の敬称も存在している。その場合は敬称の重複は起こらず、基本的に「=サン」以外の敬称が優先される。

*25 編注:ただし本人に呼びかける場合以外(たとえば第三者との会話中に名前を挙げるなど)では省いてもよい。また「激情のあまり名前を呼び捨てる」シーンなども存在する。

*26 編注:ニンジャ、特に古代の強力なニンジャや現代の重バイオニンジャには、異形化のあまりに言語能力や発声能力を喪失している者もいる

*27 編注:「書道」か。(主として毛筆による)カリグラフィー技術、及びそれによる筆記行為、及びそれにより書かれた文字や作品などを指す。また、単純に「文字」を意味する用法も見られる。

*28 編注:「失礼」か。礼を逸したとみられる行いのことだが現実の意味より重く、シツレイ行為者には死も含めた厳罰を伴うことが多い。「無礼」のニュアンスも含むと考えると分かりやすいか。

*29 編注:編注:ニュービー=新参、ヘッズ=ファンの意。前者は英語圏での一般的スラングだが、後者はロックバンド「グレイトフルデッド」のファン「デッドヘッズ」に範をとったニンジャスレイヤー特有の造語「ニンジャヘッズ」の略。

*30 編注:“ambush“か。奇襲、不意打ち攻撃のこと

*31 編注:この場合は直接的な戦闘能力のこと

*32 編注:「手裏剣」か。ニンジャが使う鋼鉄製の投てき武器で、形態的には我々が知る手裏剣に近い

*33 編注:「弓」か

*34 編注:服装や同行者にニンジャがいたこともあるが。

*35 編注:「下剋上」か。ゲコクジョウとも。立場が下の者が、上の者に反乱をおこすこと

*36 編注:「凄い失礼」か。シツレイの最上級表現

*37 編注:主にスリケン投擲や視界外からのアッパー、蹴り上げなどが多い

*38 編注:哲学的な何かを感じる、とても禅的でかっこいい

*39 煙幕の展開・音響兵器の作動

*40 ちなみに前述のビーハイヴはアルバトロスの指揮下に入りミッションを遂行していた

*41 編注:ヤクザだね

*42 編注:チェインボルトは「ザイバツ・シャドーギルド」、漢字表記で「罪罰影業組合」に所属するニンジャ

*43 編注:この場合は戦闘行為のこと

*44 ただし一対多であったり相手がボロボロだったりなど、「罵倒対象から確実に反撃が来ない」のならばサンシタでもアイサツ後の罵倒が安全に成立する場合もあるため、これらはその時のイクサの状況も絡んでくる。

*45 書籍版及びnote版ではヤクザ天狗参戦後の役割がスタラグマイトと入れ替わっており、早々に爆発四散してしまった。従って上記の台詞はスタラグマイトが発している。

*46 編注:トドメオサセー!!

*47 編注:“atmosphere”。雰囲気?とか空気?とかなんかそんなの

*48 編注:ウィーピピー!

*49 例えば武器を持つ利き手で兜の庇を上げる動作が由来の敬礼など

*50 編注:備えよう

*51 (実際、あれほど強固に仕上げたカゲムシャにかかずらうは徒労が勝つ

*52 (アイサツするほどの礼儀作法と意志力。過去においても例無し、何となればバカバカしい無駄な努力ゆえ!左様くだらぬ真似に修行を費やす暇があればチョップのひとつでも多く打つべし