2024年日本シリーズ

登録日:2024/11/04 Fri 3:15:25
更新日:2025/04/07 Mon 21:14:02
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横浜進化(勝ち切る覚悟)
VIVA


概要

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この項目では、2024年のプロ野球日本シリーズの激闘を紹介する。

広島の歴史的な自滅によって何とか3位に滑り込み、そこから2位の阪神・リーグ優勝の巨人を下して下克上でCSを勝ち上がってきた三浦大輔監督率いる横浜DeNAベイスターズと、圧倒的な強さで4年ぶりにパ・リーグを制覇し、CSでも日本ハムをあっさり退けた就任1年目の小久保裕紀監督率いる福岡ソフトバンクホークスが対戦した。

奇しくも2017年と全く同じ構図だが、この年はソフトバンク.650(91勝49敗3分)、DeNA.507(71勝69敗3分)と勝率面では圧倒的な差があり、貯金差も40というシリーズ史上最大の凄まじい格差*1。加えて各種成績や指標でもソフトバンクは多くの面で12球団トップクラスを記録した一方、DeNAは打撃こそソフトバンクに負けず劣らずながらも投手や守備の面で大きく水を開けられており、加えてエースの東克樹、後半戦に活躍したローワン・ウィック、正捕手の山本祐大、3番手捕手の伊藤光と負傷者も続出*2
さらにソフトバンクは2018年の第3戦から日本シリーズ12連勝中と無双状態であるなど、DeNAがソフトバンクに勝てそうな要素がまるで見当たらず、下馬評ではソフトバンクの圧倒的優勢とされていた。
プロ野球ファンの間では「DeNAがどこまで食い下がれるのか」が焦点になり、当のDeNAファンですら「1勝できれば御の字」「2017年の2勝もほぼ無理ではないか?*3」「2005年の阪神や2020年の巨人に並ぶ歴史的惨敗になるのでは?」などとソフトバンク優勢という見方が大勢を占めていた。

なお、シーズン3位チームの複数回の日本シリーズ出場も史上初となる。


両チームの2024年

横浜DeNAベイスターズ

三浦監督4年目のシーズンになったこの年は広島との開幕戦を新人・度会隆輝の活躍で勝利。現役時代を含めて通算10連敗していた中、ようやくうれしい開幕戦初勝利を手にした。
序盤は混戦セ・リーグの中を首位から最下位まで行ったり来たりする中、4月16日に筒香嘉智が5年ぶりに復帰。6月以降は首位の広島を巨人・阪神とともに追いかけるマッチレースを展開したが、主砲のタイラー・オースティンがオールスターで負傷してからは痛恨の9連敗を喫し、4位に転落。巨人・阪神に遅れを取る形になったが、9月に入ると広島が5勝20敗と大失速したことで再び激しいAクラス争いが勃発。最終的には広島が10月2日のヤクルト戦に敗れ、何とか3年連続Aクラス(1999年~2001年以来)と2年連続3位を確保した。

CSではファーストステージで2017年以来の甲子園に挑み、阪神を2連勝で下して2018年以来6年ぶりにファイナルステージに進出。三浦監督としても2022年・2023年と敗退していただけに3度目の正直になった。
東京ドームに乗り込んだ巨人とのファイナルステージでは3連勝で王手をかけるものの、そこから連敗を喫して成績がタイになり、セ・リーグでは2012年以来12年ぶりの第6戦にもつれ込む。同年に3連勝からまさかの3連敗を喫した中日の再来が危惧されたが、最後は土壇場の9回にキャプテン牧秀悟が値千金の決勝打を放ち、辛くも2017年以来7年ぶりの日本シリーズ進出を決めた。
このファイナルステージでは巨人の投手陣と固い守備によって自慢の打線が6試合で合計10点と振るわなかったものの、その分DeNAもシーズンとは別人のように好投・好守が光り、巨人打線を得点圏打率.029と完璧に封じ込めた。


福岡ソフトバンクホークス

小久保監督1年目のこの年は議論を呼びながらも待望の右の大砲である山川穂高の獲得を敢行。開幕戦では3連覇のオリックス相手に勝ち越し発進でスタートすると、投手・野手ともに充実した戦力で首位を快走。主力の故障がありながらも穴埋めに成功して戦力は落ちず、全ての月で勝ち越しを収めるなど1強5弱の独走状態を作った。
7月30日の楽天戦に快勝し、優勝へのマジックナンバー42が初点灯(7月の点灯は1995年のオリックス以来29年ぶり)。9月23日のオリックス戦に勝利し、4年ぶりのリーグ優勝を球団発祥の地・大阪で達成した。

2023年は防御率がリーグ5位の3.63と苦しんだ先発陣だったが、この年はリーグトップの2.50と大幅に改善。607得点・チーム防御率2.53・53失策は12球団最高で、390失点もパ・リーグ最少を記録するなど投打の好バランスが原動力になった。得失点差+217も12球団ダントツのトップで、球団ではダイエー時代の2003年の+234(822得点・588失点)以来21年ぶりの+200以上になった。
小久保監督は2002年の伊原春樹氏(西武)、2015年の工藤公康元監督(ソフトバンク)を上回る新人監督最多の91勝を記録。また、福岡移転後の生え抜き監督として初のリーグ優勝を達成*4
対戦成績は日本ハムこそ12勝12敗1分の5割だったものの、ロッテは16勝8敗1分・楽天は16勝9敗・オリックスは18勝6敗1分・西武は17勝8敗と圧倒的な貯金を作り、2位日本ハムに13.5ゲーム・最下位西武には42ゲーム差をつけての独走になった。主催72試合の総観客動員は272万6058人と発表され、ソフトバンクとしては歴代最多を更新。
3・4月は柳田悠岐、5月は栗原陵矢、6月はリバン・モイネロと近藤健介、7月は有原航平、8月はモイネロ、9・10月は栗原と、2005年以来19年ぶりとなる毎月の月間MVPの快挙を達成。

CSでは劇的な形でロッテを退けた日本ハムと対戦し、圧倒的な強さでアドバンテージを含めた4連勝を達成。2020年以来4年ぶりの日本シリーズ出場を決めた。
無敗での突破は2020年(アドバンテージ含む3勝)以来4年ぶり4度目で、セ・リーグを含めると2023年の阪神以来16度目。21回の日本シリーズ出場は西武に並ぶパ・リーグ最多タイになった。
小久保監督は2021年の中嶋聡氏(オリックス)以来19人目となる新人監督の日本シリーズ出場、2012年の栗山英樹氏(日本ハム)・2015年の工藤氏(ソフトバンク)・2021年の中嶋氏に次いで4人目となる新人監督のCS全勝突破になった。


出場有資格者

太字の選手は2017年の前回対戦時にも出場(※は当時対戦相手のチーム所属)。




国歌・始球式

試合 名前 職業 備考
第1戦 始球式 権藤博 元横浜監督 1998年に横浜を日本一に導く
国歌 前田亘輝 ミュージシャン TUBE
第2戦 始球式 上地結衣 プロ車いすテニス選手 パリパラリンピックシングルス・ダブルス 金メダリスト
大会スポンサーの三井住友銀行所属
第3戦 始球式 Ami ブレイクダンスダンサー パリ五輪ブレイキン女子金メダリスト
国歌 atagi ミュージシャン Awesome City Club
第4戦 始球式 山下美月 女優 元乃木坂46。三井住友カードのCMに出演
第5戦 始球式 福島史帆実 フェンシング選手 パリ五輪フェンシング女子サーブル団体 銅メダリスト
第6戦 始球式 中畑清 DeNA初代監督 万年Bクラスの暗黒球団だったDeNAをAクラス争いできる球団に立て直した
始球式後はTBS系中継の解説を務め、DeNAの日本一を見届ける
(第7戦) (始球式) アレックス・ラミレス DeNA前監督 (2017年に日本シリーズ進出に導く。第6戦で決着のために実現せず)


試合内容

第1戦(10月26日・横浜スタジアム

DeNA 3 - 5 ソフトバンク

2017年とは逆に横浜スタジアムで始まった第1戦。DeNAの先発は後半戦に活躍し、球団外国人投手としては10年ぶりに規定投球回に到達したパワーピッチャーのアンドレ・ジャクソン。交流戦では対戦がなかったため、ソフトバンク戦には初登板となる。
ソフトバンクの先発はこの年最多勝を達成するなどエースとして活躍した有原航平。DeNAとの対戦はソフトバンクに移籍後初登板になった2023年6月6日の交流戦以来で、日本ハム時代を含めて通算3度目。

試合が動いたのは2回表で、2死1塁から牧原大成が左翼線に落とす二塁打でチャンスを拡大すると、甲斐拓也の申告敬遠を経て投手の有原が2点適時打を放ち、ソフトバンクが先制する(De0 - 2ソ)。有原としてはプロ初打点で、日本シリーズで投手が打点を挙げるのは球団では南海時代の1966年(渡辺泰輔)以来58年ぶり。右翼手の梶原昂希のちょっとした隙を逃さない牧原の好走塁が光った。
ジャクソンはその後日本シリーズタイ記録となる5者連続奪三振を奪うなど持ち直したが、5回表にピンチを作ると降板。2番手のアンダースロー投手・中川颯が何とか無失点に抑える。
一方の有原は緩急とムービングボールで打者に的を絞らせずにゴロを量産し、7回4安打無失点の好投。8回表はダーウィンゾン・ヘルナンデスが制圧する必勝体制に入る。
9回表、ソフトバンクはCSで好投した堀岡隼人を攻めて今宮健太・栗原陵矢の適時打で3点を追加し(De0 - 5ソ)、守護神のロベルト・オスナを投入。
ところがオスナが二死から梶原・森敬斗の連続適時打に自らの失策も絡み、一気に2点差に詰め寄られてしまう(De3 - 5ソ)。続く牧秀悟の当たりは左中間に飛ぶが、あらかじめ左翼寄りに守っていた周東佑京が捕球してゲームセット。楽勝ムードから一転、ヒヤヒヤムードの中ソフトバンクが何とか逃げ切った。
ソフトバンクは日本シリーズ連勝記録を13に更新。有原は勝利打点も記録しており、日本シリーズで投手が勝利と勝利打点を同時に記録したのは1986年の第5戦で延長サヨナラ打を放った工藤公康元監督(当時西武)以来38年ぶり。


第2戦(10月27日・横浜スタジアム)

DeNA 3 - 6 ソフトバンク

DeNAの先発はシーズン最終戦とCSで好投した大貫晋一。こちらもソフトバンク戦初登板。
ソフトバンクの先発はこの年先発に転向して最優秀防御率に輝いたリバン・モイネロ。6月7日の交流戦では8回をオースティンのソロによる1失点のみで勝利しており、リリーフ時代を含めて通算2勝3ホールド1セーブを記録している。

初回からソフトバンクは念願の日本シリーズ初出場になった山川穂高の2ランで幸先よく先制し(De0 - 2ソ)、3回表にも牧原の適時打に梶原のミスも絡んで3点を追加(De0 - 5ソ)。ここで大貫をKOし、4回表に2017年のシリーズで好投した3番手・濵口遥大から山川の適時打で1点を追加する(De0 - 6ソ)。
しかしDeNA打線も5回裏に森の内野安打から松尾汐恩・桑原将志の連続二塁打で2点を返すも(De2 - 6ソ)、牧が併殺に倒れる。7回裏にも桑原・梶原の連打から牧が汚名返上の適時打を放つが(De3 - 6ソ)、前日の自打球の影響でベンチ外のオースティンの代わりに4番に座った筒香が倒れ、反撃もここまで。前日炎上したオスナもこの日はしっかり抑えてソフトバンクが逃げ切り、日本シリーズ連勝記録を14に伸ばした。

このように最初の横浜スタジアム2連戦は下馬評通りにソフトバンクがあっさり連勝し、既に大勢が決したかのようなムードが漂う中、ソフトバンクの本拠地であるみずほPayPayドーム福岡へ向かうことになったが……。

移動日、DeNAはCSで負傷した東克樹をぶっつけ本番で登板させることが発表されると、第3戦の試合前にソフトバンクの村上隆行打撃コーチが「パ・リーグにもそんなにいないかもしれないけど、宮城*5の方が断然いい。小島*6、加藤貴*7とかのチェンジアップの見極めの対応になっていく。我慢するところは我慢させながらになる」というコメントを残す。

そう、どこかで聞いたことあるようなこの発言。まさかこれが本当に両チームの命運を変えるきっかけになるとは誰も思いもしなかった。


第3戦(10月29日・福岡市中央区みずほPayPayドーム福岡*8

ソフトバンク 1 - 4 DeNA

みずほPayPayに舞台を移した第3戦。ソフトバンクの先発は今年9勝を挙げたパワーピッチャーであるカーター・スチュワートJr.、DeNAの先発は上述の通り東克樹。両投手は6月8日の交流戦でもともに先発していた。
シーズン終盤に故障してCSから復帰した近藤健介、自打球で第2戦がベンチ外だったオースティンの両リーグ首位打者がともに指名打者としてスタメン復帰した。

DeNAは初回から桑原の二塁打が飛び出すと、梶原が犠打で送って牧の遊ゴロの間に先制(ソ0 - 1De)。対するソフトバンクもすぐさま近藤の適時打で同点に追いつく(ソ1 - 1De)。
その後は両投手が耐え切るが、ソフトバンクは5回表に四死球の目立ったスチュワートJr.から2番手の大津亮介に交代。しかし桑原が大津の代わりばな2球目を捉えて勝ち越しの本塁打を放つと(ソ1 - 2De)、満塁のチャンスを作って筒香が大飛球を放つ。何とか柳田悠岐が好捕したが、それでも犠飛には余裕の距離があり1点を追加(ソ1 - 3De)。8回表にも杉山一樹からCSMVPの戸柱恭孝が適時二塁打を放ってさらに1点を加えた(ソ1 - 4De)。

この年初めて戸柱とバッテリーを組んだ東は、10安打を浴びながらも要所を締めて7回1失点の粘投。その後は伊勢大夢・森原康平とつないでDeNAが初勝利を挙げた。
敗れたソフトバンクはDeNAを上回る10安打を放ちながらも打線がつながりを欠き、日本シリーズの連勝記録が14、2011年の第7戦から続いていた本拠地での連勝が16でそれぞれストップした*9

この試合の6回表にいわゆる「指笛事件」が発生。東が「投球時にバックネットから鳴らされる指笛が気になる」と審判に申告し、そういった行為をやめるよう場内アナウンスが行われたにもかかわらず、しばらく指笛を続けたという由々しき事態が起こった*10
また東は試合後に自身のXのアカウントで「投球モーションに入ったタイミングで指笛をしないでほしい」と意見を表明した。
現場だけでなくネット上もざわつく出来事ではあったが、この時点では「観客による迷惑行為に東が毅然と対応した」という受け取り方をされていた。


第4戦(10月30日・みずほPayPayドーム福岡)

ソフトバンク 0 - 5 DeNA

ソフトバンクの先発はこの年中継ぎもこなした石川柊太、DeNAの先発は左腕パワーピッチャーのアンソニー・ケイ。

序盤から両投手の好投が続いたが、4回表にオースティンのソロでDeNAが先制(ソ0 - 1De)。6回表に再びオースティンを迎えたところでソフトバンクは尾形崇斗を投入し、三球三振に封じる。
ところが7回表、CSから絶不調だった宮崎敏郎が回またぎの尾形から1発を放って2点目を挙げると(ソ0 - 2De)、ここから尾形が乱れてしまい、1死満塁のピンチを迎えたところでルーキーの岩井俊介を火消しに投入。しかし桑原が粘って8球目に左翼オーバーの適時二塁打を放ち、2点を追加(ソ0 - 4De)。オースティンもさらに適時打を放ち(ソ0 - 5De)、この回4点を挙げた。
投げては、ケイがシリーズ初となる初回から4者連続奪三振を記録するなど7回4安打無失点の好投。この後は点差もあって坂本裕哉とJ.B.ウェンデルケンが何事もなく抑えてDeNAが逃げ切り、対戦成績をタイに戻すとともに横浜での第6戦開催が決定した。
シリーズでは2017年の第4戦以来となる球団5度目の完封勝利で、敵地では大洋時代の1960年の第4戦以来64年ぶり。

一方のソフトバンクは散発5安打に抑え込まれ、2017年の第4戦以来球団10度目の完封負けを喫してしまった。シリーズでの連敗も同年第4・5戦目以来で、本拠地完封負けはダイエー時代の「ON対決」こと2000年の第5戦以来24年ぶり。
なお、第4戦までビジターチームが全勝するのは2011年以来13年ぶり6度目で、4試合全て先制して4連勝するのは史上初。
また、石川はオフにFA権を行使してロッテに移籍したため、これがソフトバンクでの最後の試合になった。


第5戦(10月31日・みずほPayPayドーム福岡)

ソフトバンク 0 - 7 DeNA

ソフトバンクの先発は9月18日の試合で故障して以来の復帰登板になる左腕の大関友久。捕手もシーズンで主に組んでいた海野隆司がスタメンに入った。
DeNAは第1戦に先発したジャクソンを中4日で投入。

大関は制球に苦しんで毎回のようにピンチを作る不安定な立ち上がり。2回表までは何とか耐えたが3回表に筒香の適時打でDeNAが先制し(ソ0 - 1De)、ここでソフトバンクは左腕の松本晴を投入して何とか1点で凌ぐ。
4回表、ソフトバンクはこの年一軍デビューした育成出身の若手左腕・前田純をマウンドに送るが、無死1・2塁のピンチを招くと牧がポール際に3ランを放って3点を追加する(ソ0 - 4De)。
先発のジャクソンは第1戦の借りを返すかのようなピッチングでソフトバンク打線に何もさせず、7回3安打無失点の力投。8回裏は伊勢が抑えると、9回表にも回またぎの津森宥紀を攻めて3点を追加(ソ0 - 7De)。最後は点差が開いたことで中川を投入し、DeNAが3連勝。1998年以来26年ぶりの日本一に向けて王手をかけた。

一方のソフトバンクは13安打7失点と前日以上の完敗で、打線もわずか4安打と沈黙。第3戦の2回裏以降点が入っておらず、26イニング連続無得点のシリーズワースト記録に並んで崖っぷちに立たされてしまった。シリーズ3連敗はダイエー時代の2003年以来22年ぶりで、シーズンも含めてこの年初の本拠地同一カード3連敗。シリーズでも2011年の第1・2・6戦以来13年ぶりで、3連戦3連敗はダイエー時代の2000年以来24年ぶり、2試合連続完封負けに至っては南海時代の1951年以来73年ぶりと不名誉な記録に次々と並んでしまい、後がなくなった。


第6戦は2004年の第4戦以来20年ぶり、令和初の雨天順延になった。


第6戦(11月3日・横浜スタジアム)

DeNA 11 - 2 ソフトバンク

横浜へ戻った第6戦。王手をかけたDeNAは第2戦から中7日で大貫をマウンドに送り、ソフトバンクは第1戦から中8日の有原で望みをつなぐ。いずれも前日からスライド登板になった。
コンディションの関係で第3~5戦の全試合指名打者だったオースティンと近藤の動向が注目されたが、ともに強行で守備につく展開になった。

初回、大貫は第2戦と同様の状況で山川を迎えるが、今度は三振を奪ってリベンジを果たす。すると2回裏、筒香がバックスクリーン右に先制本塁打を叩き込むと(De1 - 0ソ)、2死2・3塁から桑原が2点適時打を放って一気に3点を先制(De3 - 0ソ)。3回裏にも森が押し出し四球を選んで4点目を追加する(De4 - 0ソ)。
ソフトバンクは4回表、柳田がバックスクリーンに2ランを放ち、30イニングぶりに得点を挙げる(De4 - 2ソ)。その裏には尾形を投入し、ピンチを招きつつもアウト全てを三振で奪う好投。
5回表、DeNAは大貫から濵口に交代すると、三者凡退に抑える好投。濱口は吼えながらの派手なガッツポーズを見せるにとどまらず、ベンチに向かう際に球場の観客を鼓舞するかのような煽りパフォーマンスも行い、ただでさえ熱狂しているDeNAファンの盛り上がりがより一層熱いものに。
その裏、ソフトバンクは第3戦に先発したスチュワート.Jrをリリーフで投入。しかし1死満塁のピンチを招き、シリーズ大活躍の桑原が冷静に見極めて押し出し四球で5点目(De5 - 2ソ)。続く梶原の適時打でさらに点差を広げると(De6 - 2ソ)、ソフトバンクはすかさず岩井を投入。
牧の痛烈な二ライナーに動揺したのか、岩井はオースティンに押し出し死球を与えてしまい(De7 - 2ソ)、筒香にはあわや満塁弾の走者一掃適時二塁打(De10 - 2ソ)、さらに宮﨑にも適時二塁打が飛び出し、なんとこの回1イニング7点(De11 - 2ソ)。球場は完全にDeNAの押せ押せムードになるなど大勢が決した。
8回表の攻撃ではソフトバンク応援団が鼓舞のために「いざゆけ若鷹軍団」を演奏したが、試合の状況とマイナーキーである曲調もあってか、盛り上がるどころか半ばお通夜状態となってしまったことが哀愁を誘った。
その後は坂本が6・7回を抑え、勝ちパターンの伊勢・森原を贅沢に投入。最後は森原が柳田をフォークで空振り三振に仕留め、試合終了。
横浜DeNAベイスターズが横浜時代の1998年以来26年ぶり3度目の日本一を達成した。マウンドに歓喜の輪ができ、スタジアムに駆け付けた大勢のファンの歓声とともに三浦監督が横浜の夜空に舞った。

シーズン2位以下からの日本一は2019年のソフトバンク以来5年ぶりで、セ・リーグでは2007年中日以来17年ぶり2度目の下克上。3位からは2010年ロッテ以来14年ぶりで、セ・リーグでは史上初の快挙になった。
また、対戦成績がセ・リーグ38勝、パ・リーグ37勝になり、2018年以来6年ぶりのセ・リーグ勝ち越しになるとともに、2000年~2002年(巨人・ヤクルト・巨人)以来22年ぶりとなるセ・リーグ球団の日本一連覇も達成。

本拠地での日本一決定は2020年のソフトバンク以来4年ぶりで、セ・リーグでは2012年の巨人以来12年ぶり。横浜スタジアムでは1998年の前回の日本一に続いて再びDeNAが日本一を決めており、セ・リーグで唯一現行本拠地で対戦相手の胴上げを許していない*11
また、2021年のヤクルト(20年ぶり)・2022年のオリックス(26年ぶり)・2023年の阪神(38年ぶり)に続き、史上初となる「4年連続20年ぶり以上の日本一」になった。
2連敗→4連勝の星取りは2016年の日本ハム以来8年ぶりで、セ・リーグでは2000年の巨人以来24年ぶり。
26年ぶりのブランクは歴代7位タイで、「2度の25年以上のブランク」は史上初。シリーズ2桁得点は2020年第2戦のソフトバンク以来4年ぶりで、球団では1998年の第5戦以来26年ぶり2度目。
DeNAの日本一により、21世紀に日本一を達成していないのは広島のみになった(1984年が最後)。

一方、ソフトバンクはダイエー時代の2000年以来24年ぶり、および2005年のソフトバンク改称後初めて日本シリーズ敗退になり、南海・ダイエー時代を含めても球団史上初めて巨人以外のチームに敗れた。
シリーズ4連敗は南海時代の1973年・ダイエー時代の2000年に続いて球団史上3度目。シリーズ2桁失点は南海時代の1952年第2戦・1966年第1戦に続き、58年ぶり3度目の屈辱になってしまった。
貯金40以上のチームが敗れるのも2002年の西武以来22年ぶりであり、貯金差40・勝率差.143をひっくり返される史上最大の逆転負けを喫してしまった。
奇しくも前回DeNAが日本一を達成した1998年のように先制したチームが一度も逆転されることなく逃げ切ったシリーズであり、2011年のように最終戦以外はビジターチームが勝利するという「外弁慶シリーズ」でもあった。

なお、この年のDeNAは二軍においてもファーム日本選手権を制して球団史上初の二軍日本一を達成している。親子日本一は2019年のソフトバンク以来5年ぶり。
特筆すべきは二軍の対戦相手もソフトバンクであり、親子同一カード対決で親子日本一になったのは2005年のロッテ(vs阪神)以来19年ぶり2度目である。この年のロッテもシーズン2位からプレーオフ勝利によるリーグ優勝を達成し、2位中日に10ゲーム差をつけて独走した阪神相手に「33-4」の総スコアでストレート勝ちした。

牧・桑原・佐野恵太・栗原の4人は日本シリーズ終了後も休む暇なく、第4回プレミア12に挑む侍ジャパンに合流。長い1年になったが*12、決勝でチャイニーズ・タイペイ(台湾)相手に0-4で敗れ、大会連覇はならなかった。
一直併殺という形で最後の打者に倒れた栗原は日本シリーズに続いてまたしても相手の歓喜を見届けることになってしまい、「もう力不足でしかないですし。勝ちきれなかったのは、まだまだ技術が足りなかっただけですね」と悔しさをにじませた。

なお、甲斐はオフにFA権を行使して巨人に移籍したため、これがソフトバンクとして最後の試合になった。濵口もオフにトレードで対戦相手のソフトバンクに移籍したため、こちらもDeNAとして最後の試合になった。


表彰選手

  • MVP:桑原将志(DeNA)
球団右打者初の受賞。打率.444・1本塁打・9打点の好成績で、5試合連続打点のシリーズ新記録を樹立。6試合9打点も長嶋茂雄やランディ・バースに並ぶタイ記録。守備でもファインプレーを披露し、攻守両面でチームを引っ張った。
この年の日本ハムとの交流戦ではベンチで白目を剥きながら誇張しすぎた「きつねダンス」を披露しており、日本ハムファンからも応援されたとかされていなかったとか*13

  • 敢闘選手賞:今宮健太(ソフトバンク)
全試合で安打を放つなど打率.375・2打点と気を吐いた。

  • 優秀選手賞:筒香嘉智(DeNA)
打率.286・1本塁打・6打点。第3戦で追加点となる犠飛を挙げ、第6戦では本塁打を含めた4打点を記録し、日本一を決定付けた。
ちなみに、この年彼が本塁打を放った試合ではDeNAが必ず勝利しており、シリーズでもこの不敗神話が継続することに。

  • 優秀選手賞:ケイ(DeNA)
第4戦に先発し、7回4安打7奪三振無失点の好投で勝利投手。初回から4者連続奪三振のシリーズ新記録を樹立し、外国人投手では球団初のシリーズ勝利投手。

  • 優秀選手賞:ジャクソン(DeNA)
第1戦と第5戦に先発し、1勝1敗・防御率1.54。第1戦では敗れこそしたものの5者連続奪三振のシリーズタイ記録を挙げ、第5戦では7回3安打8奪三振無失点の好投で勝利投手。外国人投手2人での連勝は球団初。

  • SMBCみんなの声援賞:牧秀悟(DeNA)
Xで最もタグ付きの投稿をされた選手が表彰される。第5戦で3ランを放つなど、打率.222ながらもキャプテンとしての意地を見せた。


総評

SMBC日本シリーズ2024
試合日 戦目 ホームチーム スコア ビジターチーム 球場
10月26日 第1戦 DeNA 3 - 5 ソフトバンク 横浜スタジアム
10月27日 第2戦 DeNA 3 - 6 ソフトバンク
10月28日 移動日
10月29日 第3戦 ソフトバンク 1 - 4 DeNA みずほPayPayドーム福岡
10月30日 第4戦 ソフトバンク 0 - 5 DeNA
10月31日 第5戦 ソフトバンク 0 - 7 DeNA
11月1日 移動日
11月2日 第6戦 雨天中止 横浜スタジアム
11月3日 DeNA 11 - 2 ソフトバンク
優勝横浜DeNAベイスターズ(26年ぶり3度目)

解説陣も含めて前評判ではソフトバンク優勢と言われていたが、ふたを開けてみればそれなりの接戦になった2戦目まではともかく、第3戦以降はCSを下克上で突破したDeNAが投打ともにかみ合ってちぐはぐなソフトバンクを圧倒。終わってみればDeNAの快勝という形で幕を閉じた。
実際に『プロ野球ニュース』の予想では大半が4勝1~2敗でソフトバンクの勝利を予想し(田尾安志氏のみ4勝3敗)、DeNAに入れた人も全員が4勝3敗という予想だったため、結果として「4勝2敗でDeNAの勝利」という予想を的中させた人は誰もいなかった。
加えて明確にキーマンを桑原と的中させた人もいなかった(岩本勉氏のみ1・2番の存在と予想していたが)。

総スコアはDeNAから見て「33-14」(漢字にすると「三三ー四)で、3戦目以降はDeNAの「27-3」と2020年の「26-4」をも超えるワンサイドゲームに。
DeNAは2017年のリベンジを果たした形での日本一になり、三浦監督は選手と監督の両方および球団生え抜き初*14の日本一を果たして一躍時の人に。この功績を称えられ、球団監督初の正力松太郎賞を受賞した*15。選手・監督の両方で日本一は史上20人目で、投手としては史上6人目。
また、リーグ優勝の回数と下克上による出場回数が並び、優勝回数より日本一回数の方が上回るという珍記録を達成した他、勝率.507・貯金2はともに1975年の阪急が保持していた最低記録も更新した。
これまで貯金差が25以上あった対決は何度かあるが、いずれも全て多いチームが勝利していた。勝率が1割以上低い球団が勝ったのも初めてになる。

一方のソフトバンクは勝利した2戦目までも中継ぎの脆さがにじみ出ており、第3戦以降は先発も中継ぎも打ち込まれるという投壊を晒すなどシーズン中とは別人のように振るわず。走者を溜めた後に押し出しを与えたり、その後動揺して痛打を浴びるという場面が目立った。
打線も第3戦以降はほぼ沈黙し、スコアボードにタコ焼き(横浜なのでシュウマイともいえるが)のように0が並び、シリーズワーストとなる29イニング連続無得点という不名誉な記録を樹立*16。そのため一部のファンから「本当にシーズンを貯金42で制覇したチームなのか?」と唖然とされる羽目に。
2017年の前回対戦時の合計得点はソフトバンクから見て「25-20」の5点差であり、今回はその立場が逆転して4倍近くもの得点差が開くことになった。
これは「指笛事件」発生後の話であるため、「ソフトバンクは指笛でサイン盗みをしていたから強かった」という風評被害を受けてしまい*17*18、本拠地や応援歌もとばっちりで「みずほピュイピュイドーム吹く岡」「無笛の若鷹軍団」などと揶揄されてしまうことに。
なお、東は2023年の春季キャンプで宮城を参考に投球スタイルを改造するなど実際に手本としていることは事実らしく、上記の指笛への説明ポストにおいても宮城をフォローする内容を入れている。

また、ソフトバンクは首脳陣のモラルの低さもやり玉に挙げられてしまった。
村上コーチの「宮城の方が断然いい」発言もそうだが、小久保監督も
  • 「日本シリーズでは3つ負けられる」*19
  • 「短期決戦では敗因を振り返る意味がないので」
  • 「(記者から「今シリーズで2勝1敗。あと3つ負けられますね」と言われた際に)そうそうそう」*20
  • 「よく分からないですね。口笛って何。指笛? 笑ってしまいましたね。みんなで大爆笑していました」*21
  • 「雨天中止で流れが来るかなと思った」
  • 桑原がラッキーボーイ的な存在*22
など、慢心とも他人事とも取れる発言を連発し、批判が集中してしまう。
選手に関しても、第2戦勝利後のお立ち台で山川が「牧選手の応援歌が好きです」と言ったことにも批判的な意見が見られた。

さらに采配でも疑問視される場面があり、特に「山川・近藤の打順固定」「状態の上がらない中村晃の重用」「栗原の犠打」などはシーズン中からもソフトバンクファンの間で議論があった。

  • 山川・近藤の打順固定
2023年から加入した近藤はその年本塁打王・打点王・最高出塁率のタイトルを受賞し、本拠地が広い札幌ドームから打者有利のみずほPayPayになったことで一転して強打者に変貌。今季も首位打者・最高出塁率に加えてシーズンMVPのタイトルに輝き、卓越したバットコントロールや選球眼も加味すればこの年のNPB最高打者と呼べるほどの好成績を残した。
一方、今季から加入した山川は2年ぶりの本塁打王と打点王の二冠を獲得するという一見文句の付けようがない成績を残したが、打撃の好不調の波が非常に「激しい・長い」の傾向にあった*23
小久保監督としては当初は2番近藤の起用を予定していたものの、奈良原浩ヘッドコーチや村上打撃コーチは「4番の山川と勝負させる」ために5番近藤を提案。それを呑んだ小久保監督によって、シーズンでは一貫して4番山川・5番近藤で使い続けた。
小久保監督自身、現役時代はどんな不調に陥っても当時の監督だった王貞治会長によって4番で使い続けられた経緯があり、山川にも4番としての責務に期待していた節がある。

  • 状態の上がらない中村の重用
山川の加入によって主に代打起用になり、小久保監督をはじめとする首脳陣からも厚い信頼を受けながらも、101試合・203打席の出場で打率.221・0本塁打・16打点と自身キャリアワースト級の低調な成績に終わった。
特にソフトバンクは栗原・山川・近藤のクリーンナップ以外は状況に合わせて打順をよく変更していたほど野手陣の層が厚く、今季は好成績を残した柳町達や正木智也などがいるにもかかわらず、代打一番手として中村を起用した試合が非常に多かったことから、小久保采配への疑問としてこの中村重用がよくやり玉に挙げられていた。35歳という年齢もあって彼自身にも批判的な声が集まってしまった。
これに加え、日本シリーズでは7月末に入団したジーター・ダウンズにも代打起用が集中。当然ながらDeNAとの対戦はなく、第3戦では1番で先発したものの4打数無安打に終わっている。
シリーズ中のソフトバンクの代打起用は10回あったが、のべ6人を中村とダウンズの2人で占めた。なお、シリーズを通して代打安打を打ったのは初戦の嶺井博希のみ。

  • 栗原の犠打
シーズンでは柳田の離脱後は3番打者として活躍し、近年の故障を乗り越えて3年ぶりに140試合出場をクリア。山川に次ぐ20本塁打・87打点の好成績を残したが、試合終盤では犠打を指示する場面が多く、結果として3年ぶりにシーズン10犠打を記録*24
日本シリーズでも第1戦の8回表において、先頭の山川が四球で出塁後に実行し、6番の正木の代打に近藤を起用したところ、一塁が空いていたのであっさりと敬遠されてしまい、代走を送られて一瞬で近藤の出番が終了。後続も倒れたことで無得点になった場面があった。

日本シリーズでも概ねその路線を続けた結果、打線においては第3戦以降は出塁すら0と大不振に陥った山川を最後まで4番に固定し、DeNAが勝負を避ける理由がないにもかからわらず5番近藤を継続。彼自身はシリーズ打率.385と好調ながらも第3戦の第1打席で同点打を放って以降は一度も得点圏で打席が回らなくなるなど彼の前で完全に打線が途切れてしまい、6番以降の打者も軒並み振るわなかったことで完全に孤立する事態になってしまったが、なおも最後までテコ入れを行わなかった点が特に指摘された。
その点、好調な梶原の打順を上げ、不調だった宮崎の打順を下げるなど柔軟に打順を組み替えた三浦監督との差が浮き彫りに。

その他、第三捕手としてDeNAから移籍していた嶺井がベンチ入りしており、この年も出番こそは少ないながらも交流戦では3安打3打点1本塁打と活躍しており、何より古巣を知る捕手として期待がかかったものの、実際には代打2回と第5戦での途中出場のみと出番そのものが少なかった。


継投面でも疑問視される場面が多々見受けられた。
まず第1戦からいきなり、守護神のオスナが2点差まで詰め寄られた上になおもピンチが続き、あわや逆転サヨナラの危機という状況にもかかわらずブルペンに誰も待機させておらず、結局オスナが最後まで続投を余儀なくされた。続く第2戦でも前日大乱調のオスナを2日連続で投入(この日は三者凡退)。
中でも最終戦で有原が4失点で引きずりおろされた後、柳田の2ランで久しぶりに得点を得て追撃したいという場面投入したのが四球で自滅しやすいスチュワート.Jrだった点が指摘される。
当然ながら今季リリーフ経験はなく、仮に第2先発だったとしても彼が誤算だと分かった時点で投入したのが第4戦で火消しに失敗していた新人の岩井だった点は解説陣からも疑問視される点である。
結果として彼は火消しにまたも失敗し、一挙7失点のビッグイニングになってしまった。負けたら終わりの後がない試合の上に雨天中止で投手運用にも余裕があったため、劣勢の状況でも圧倒的な奪三振能力を誇り第2戦までDeNA打線に何もさせなかったヘルナンデスなどの勝ちパターン投手をなりふり構わず登板させていれば……という意見はよく見かけられた。
実際彼らは大勢も決した6回以降に今さらのように登板しており、悔やまれる点である。

第3~5戦においても、先発に転向した大津や前田など、このシーズンで一度もやっていない先発投手のリリーフ起用も問題点として挙げられる。ポストシーズンでは比較的日程に余裕があるので余剰の先発投手をリリーフ投入することは必ずしも間違った選択肢ではないとはいえ、特に前田はシーズンでは1試合のみの登板であり、調整不足が結果に影響したのは明らか。しかもロングリリーフも可能なはずの松本晴を1/3回で降板させてしまっている。
第4戦でも火消しを成功させた尾形を回またぎさせたことでDeNA打線につかまり、一挙4失点した点も指摘される。

一応、セットアッパーにしてオスナの離脱中にはクローザーも務めた松本裕樹の不在による影響もあるが、その彼も序盤からハイペースで登板がかさみ、5月までの48試合だけで23登板かつ4度の3連投があった。
さらには首脳陣も肩の故障を知りながら起用し続けたことによって終盤に故障。結局復帰することなくシーズンを終え、ポストシーズンにも間に合わない事態になってしまったという首脳陣の不手際もあった。
松本以外にもシーズン40試合に登板したリリーフの藤井皓哉が腰痛で登録を外れるなど、日本シリーズ中盤以降のソフトバンクの投壊の主要因はシ-ズンでの投手起用にあったと言っても過言ではないだろう。


小久保監督は2015年の侍ジャパンの監督時代にも、第1回プレミア12準決勝の韓国戦にて終盤の継投に大失敗し痛恨の逆転負けという事態を招いて大いに批判された「前歴」があり、その際も今回と同様に「先発投手の中継ぎ起用」「前の登板で失点している投手を送り込んで炎上」といった偏った投手起用や不調の選手にこだわり続けた点が敗戦の要因になっている。
それでも2017年の第4回WBCで何とか2大会連続ベスト4までこぎつけ、世間からの評価はある程度持ち直していたところからのこの結果に、ファンからも「短期決戦には向いていないのでは?」「プレミア12から成長していない」「あれだけ金をつぎ込んで他球団の選手を集めたのに使いこなせないのかよ」「とにかく口が軽すぎる」などと村上打撃コーチともどもやり玉に挙げられ、監督としての評価が再び失墜してしまった。
シーズンでは新人監督最多となる91勝の快挙を達成していただけに、ファンの間では2017年~2020年に日本一4連覇を達成するなどポストシーズンで異様なほどの勝負強さを発揮した工藤元監督に対する敬服の念が再度広がるとともに、「どれだけ巨大戦力を有していても使いこなせなければ意味がない」「短期決戦は別物」という認識が改めて広まった。

なお、上記のプレミア12決勝においても辰己涼介(楽天)が試合前の声出しで「どうも未来から来ました」「優勝おめでとう」などと発言したことが物議を醸すと、試合でもスーパーラウンド3試合でいずれも9得点と爆発していた日の丸打線が一転して冷温停止し、0-4の完封負けで大会連覇を逃すなど、2024年はつくづく「口は災いの元」を痛感させられるシーズンでもあった。


余談

第3戦前の村上コーチの台詞を聞き、1989年にシリーズ3連勝を決めた近鉄・加藤哲郎の「シーズンの方がよっぽど、しんどかったです」などという発言がメディアに「巨人はロッテより弱い」という形で広まったことで巨人ナインに火が付き、そのまま4連敗で敗退したことを知るプロ野球ファンは多いが、実は村上コーチはその1989年当時の近鉄に所属しており、第7戦で最後の打者として倒れた経験があった
そのこともあって上記の発言後、当事者にして先輩にあたる加藤はX「村上、いらん事言わんでええねん 記者もいらん事聞かんでええねん」とツッコミを入れたことが話題になり、村上コーチは「令和の加藤哲郎」と揶揄される羽目に。
村上コーチは敗退後に「……。(報道を)見ました。(受け止めは)それはもう答えられない。(顔の前で手を横に振りながら)話が全然違う方向になってしまっているんで。まあでも、それをいろいろ言っても仕方がないので。言い訳みたいになっちゃうので」とコメントしており、少なくとも真意は違うものだったことが示唆されている。

一方でDeNAにもその報道が知れ渡り、「なめてかかられている。ふざけるな」などと奮起のきっかけになったという説がある。
第2戦後にはキャプテンの牧を筆頭に選手たちが率先して緊急ミーティングを行い、2017年の悔しさを知る筒香・山﨑康晃・柴田竜拓らが率直な意見を吐露。その中で桑原が「今の雰囲気ではソフトバンクに勝てない。勝ち負けだけじゃなく、そういう雰囲気がやっていて腹立たしい。負けて悔しくないんか?」と檄を飛ばし、士気が高まったことでその後の4連勝につながった…と言われていたが、日本一決定後のインタビューにそんなことは言っていなかったことが本人の口から明かされ、こちらも話題になった。

ちなみに、この年は大谷翔平・山本由伸の所属するロサンゼルス・ドジャースがニューヨーク・ヤンキースと対戦するMLBのワールドシリーズと日程が完全に重複したことが話題になり、日本シリーズ中継の裏でワールドシリーズのダイジェストが放送された。
その際、ワールドシリーズの放映権を獲得したフジテレビ*25がNPBから取材出入り禁止を喰らっていたことが毎日新聞の取材で明らかになり、「中継を見られなかったからありがたい」「他番組を潰してまで再放送するのはどうなのか?」「3戦目の日本シリーズ中継もやるけど他局の時にはワールドシリーズ再放送ぶつけるのは悪趣味」と賛否を呼んだ*26
また、第2戦は28年ぶりに衆議院議員選挙とも日程が重なり、時間帯によっては選挙特番と2画面での同時中継で進行し、日本シリーズは副音声で放送された。

なお、年が明けた2025年1月に東の女性問題が報じられ、「村上コーチの発言の真意は人間性のことだった説」が生まれて一転して再評価される流れに。



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最終更新:2025年04月07日 21:14

*1 2017年はソフトバンクが勝率.657(94勝49敗)、DeNAが勝率.529(73勝65敗5分)。

*2 東は下記の通り復帰したが、山本はベンチ入りしただけで出場には至らず、ウィックと伊藤も出場有資格者に入らなかった。

*3 参考までに、2010年に3位から日本一を達成したロッテは優勝したソフトバンクとは2.5ゲーム差しか離れていなかったが、この年のDeNAは優勝した巨人と8ゲーム差。

*4 王貞治会長は現役時代巨人一筋で、秋山幸二氏と工藤氏はいずれも西武出身。

*5 宮城大弥(オリックス)のこと。この年のソフトバンクも2勝2敗・防御率2.18と抑え込まれていた。

*6 小島和哉(ロッテ)のこと。

*7 加藤貴之(日本ハム)のこと。

*8 スポンサーがSMBCのため、この日のみ球場名が番組で表示されなかった。

*9 これに加えて、ドーム球場を本拠地とする巨人も2019年(東京ドーム)と2020年(京セラドーム)にスイープしており、敵地も含めたドーム球場20連勝も記録していたが、これも止まった。

*10 近くにいた野球評論家の池田親興氏の証言によると、実行したのは泥酔した5~6人のソフトバンクファンだった模様。

*11 パ・リーグではソフトバンク(みずほPayPayドーム福岡)と楽天(楽天モバイルパーク宮城)も該当。逆に阪神とロッテは創設以来一度も本拠地での日本一決定がなく、後者に関しては1950年の初の日本一の際はホーム扱いの大阪スタヂアムでの胴上げになったが、当時はまだフランチャイズ制がなかったことから1試合ごとに球場を変えていたため、純然たる本拠地胴上げとは言い難い。また、西武も1998年のドーム化後は敵地でしか胴上げしていない。

*12 中でも牧は2023年においても開幕前の第5回WBCからオフの「アジア プロ野球チャンピオンシップ」まで長い1年を過ごしており、2年連続ということになる。

*13 この余波はすさまじく、パ・リーグTVで取り上げられたり、日本ハムの新庄剛志監督にInstagramのストーリーズで「桑原君いいね〜最高」と反応されたりするなど話題を呼び、この年の『珍プレー・好プレー大賞」に選出された他、この年初めて開催された「パテレアワード」でもチャンネル登録大賞を受賞した(セ・リーグ選手唯一の受賞)。

*14 それぞれ1960年の三原脩監督は巨人、1998年の権藤博監督は中日一筋だった。

*15 1998年は権藤監督ではなく当時最多のシーズン45セーブを挙げてMVPに輝いた守護神・佐々木主浩が受賞。

*16 参考までに2005年の阪神は甲子園での第3・4戦、2020年の巨人も臨時本拠地でありながら京セラドームの第1・2戦でそれぞれ合計3点を取っていた。

*17 実際にソフトバンクは指笛の指摘までチーム打率.295・12点と好調だったのが、指摘があった第3戦の6回裏1死以降は打率.159・2点と完全に沈黙してしまった。

*18 一応指笛によるサインの伝達は可能との見解はあるが、禁止されている球場が多いことやそもそも高音で即座にバレることから現実的ではなく、あくまでネタとしての表現……であることを信じたい。なお、この一件からDeNAバッテリーのサインが複雑化したことが第4戦の解説を担当した槙原寛己氏から指摘されている。

*19 第1戦勝利後に発言。負けた際に「まだ試合は残っている」というニュアンスで発言した監督はいるが、勝った試合での発言ということが「過信しているのでは?」との批判を受けた。

*20 当然ながら1敗から3つ負けると4敗で敗退になってしまう。ただしこれに関してはインタビューした記者にも問題はあるが。

*21 「指笛を口笛と称した場内アナウンスに対する発言」という見方もあるが、監督就任時に「勝利の神様は細部に宿る。普段の振る舞い、言葉遣いが勝ちにつながる」と自ら発言していたこともあり、やはり批判的な意見が大半である。

*22 シリーズ敗退後のインタビューで発言。

*23 月間打率ではちょうど交流戦にあたる6月は打率2割未満・0本塁打と絶不調に陥るが、8・9月では合計16本塁打を放つという大爆発ぶりだった。

*24 2021年の東京五輪アメリカ戦では延長10回裏のタイブレークにて代打で登場し、1球で犠打を成功させるなど技術そのものは高い。

*25 こちらの放映権は民放各局の持ち回りで、この年はたまたまフジテレビに廻ってきたもの。

*26 一部報道ではNPBや日本シリーズのスポンサー企業が激怒したとも言われている。