ミセス・ダウト(映画)

登録日:2024/11/22 Fri 18:52:21
更新日:2025/04/15 Tue 21:47:41
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料理 洗濯

何でもござれ

子供も任せて安心

今時めずらしいお手伝いさん……

でも何かヘン


ミセス・ダウト(Mrs. Doubtfire)』とは、1993年に公開された20世紀FOX制作のコメディ映画。
主演はロビン・ウィリアムズ。
監督はホーム・アローンシリーズやハリー・ポッターなどでも監督を務めたクリス・コロンバス。

●目次

【概要】

妻と離婚し、愛する子供たちと離れて暮らすことになった男が奇想天外な手段で家族と一緒にいようと奮闘する様を描いた作品。
主演と共に製作も兼ねたロビン・ウィリアムズは本作における演技で『グッドモーニング,ベトナム』、『フィッシャー・キング』に続いて三度目のゴールデングローブ賞主演男優賞を獲得。
また、特殊メイクを担当したグレッグ・キャノムは同年の第66回アカデミー賞で二度目のメイクアップ賞を受賞した。
『七色の声を持つ』と称されるロビンの真骨頂とも言える変幻自在なパフォーマンスは圧巻で、彼の代表作にも数えられている。
典型的なコメディ作品ではあるものの『家族』というもののあり方について一つの回答を示す現実的で切ない結末は胸が締め付けられる事だろう。
ちなみに意外と知られていないが1987年にイギリスの作家であるアン・ファインが発表した小説『Madame Doubtfire』が原作。
日本語版では多くの作品でロビンの吹き替えを担当している江原正士の他、ロビンに負けず劣らずの『七色の声』の持ち主としても知られる山寺宏一が吹き替えたバージョンが存在する。


【ストーリー】

サンフランシスコに住む俳優のダニエル・ヒラードは妻のミランダ、そして息子と二人の娘を世界中の誰よりも愛する男。
だが、俳優としてはこだわりの強い性格が災いしてほとんど失業状態であり、収入はほぼ妻頼み。
おまけに妻が不在の間に自宅で息子の誕生パーティーを開いて大騒ぎした結果、近所から騒音で通報されてしまう有様。
帰宅した際に家の惨状を見せつけられ、長年不満を溜め込んでいたミランダはとうとう堪忍袋の緒を切らし、ダニエルに離婚を要求する。
最初の親権裁判の結果、収入ゼロのダニエルに親権は認められずミランダが親権を持つ事となり、ダニエルは子供達と週に一度の面会日にしか会えなくなってしまう。
だが、子煩悩なダニエルには週に一度しか子供に会えない状態などとても耐えられず、なんとか打開する手段を模索した所、
ミランダが仕事中に子供達の食事や家事を任せるための家政婦を募集するつもりである事を知ったダニエルは一計を案じる。

数日後、ヒラード家に家政婦としての面接のために一人の老婆がやってきた。
彼女の名はミセス・ダウトファイア。
上品で丁寧な物腰からミランダはダウトファイアを家政婦として雇う事を決めるのだが……。


【登場人物】

※吹き替えはソフト版/テレビ朝日版/フジテレビ版
  • ダニエル・ヒラード
演:ロビン・ウィリアムズ/吹き替え:山寺宏一/山寺宏一/江原正士
本作の主人公。ヒラード家の家長で職業は俳優・声優
子供がそのまま大人になったような、とでも称するべきエネルギッシュで天真爛漫な性格。
いつでも明るく陽気で、自分の家族と過ごす時間が大好き。
特に三人の我が子を心の底から愛しており、子供達からも大変慕われている。
……と、ここまでなら子供にとっての理想のパパに見えなくもないのだがその一方で、
  • 仕事の内容*1に納得がいかなければたとえ収録の真っ最中でもあっても遠慮なく自分から降板してしまう*2
  • そのせいで俳優の仕事はないに等しく、実質的に妻であるミランダのヒモ状態
  • そんな状況にも拘わらず、家事の一切や子供達と大騒ぎした後始末をミランダに丸投げ
  • 挙げ句の果てに仕事に家事にと多忙を極めるミランダに「君は仕事にかまけてばかりだ。もっと家族の時間を増やすべきだ!」と逆に説教をかます
と、かなり問題のある行動を取っている。
要するに「子供にとっての明るく楽しいパパ」ではあっても、「妻にとっての良き夫」ではないという人物。
また、自身の家族、特に子供達と過ごす時間を大事にする余り、一般的なルールや社会常識等を無視してしまう傾向がある。
加えて真面目な話や場といったものが苦手でそういったものはついついふざけたり茶化したりして煙に巻こうとする悪癖を持っている模様。
オペラからホットドックのモノマネまで器用にこなすなど俳優としての実力はあるのだが、前述の通り信念やこだわりが強すぎるきらいがあり、制作陣からすると使いにくい性格。
そんな状況を顧みることなく生活してきた結果、我慢の限界に達したミランダによって映画冒頭でとうとう三下り半を突き付けられる。
家を追い出され、収入もないダニエルでは親権など認められず、子供との面会は週に一度と制限されてしまう。
その状況を打破するべく三か月後の再審判までに共同親権を得ようと、テレビ局の配送係として働き始めると共に、ミランダが家政婦を募集していることを利用し、とある計画を実行する。

  • ミセス・ダウトファイア
演:ロビン・ウィリアムズ/吹き替え:山寺宏一/山寺宏一/江原正士
ヒラード家にやってきた家政婦。
イギリス訛りの英語を話す推定60歳代ほどの女性としては大柄な老婆
「15年間イギリスのスマイス家で食事の用意と掃除、4人の子供達のお世話をしていた」という前歴を持つ。
かつては結婚していたが8年前に夫を亡くし、現在は未亡人。
本人によればかつてはその体格を活かして女子サッカーをやっていた事もあるという。
仕事で多忙なミランダに代わってヒラード家の家事一切を引き受け、結婚経験者という共通点から相談にも乗る人格者。
子供達の教育や食事に関しては厳しい一面もあるが、基本的には物腰柔らかで穏やかな性格もあってヒラード家の面々からは実の家族同然に慕われていく。
なのだが、時折下品な言動や奇妙な振る舞いをして周囲を困惑させる事もあるようで……?

  • ミランダ・ヒラード
演:サリー・フィールド/吹き替え:小山茉美/佐々木優子/一城みゆ希
ダニエルの妻。
職業はインテリアデザイナーでバリバリのキャリアウーマン。
収入のないダニエルに代わって一家の家計を担う存在。
さらには子供達の教育や家事なども行うデキる女。
……が、それ故に多忙を極めており、おまけに夫のダニエルは家事に協力するでもなく子供を甘やかして一緒に大騒ぎするばかりで、それによって発生する問題の解決や後始末を全て押し付けられていた。
やがて結婚14年目に溜まっていた怒りが爆発し、ダニエルとの離婚を決意する。
その後、かつての恋人であるスチューと再会し、親密になっていくが……。
決して悪い人物ではないのだが、楽観的なダニエルと正反対の生真面目な性格である上に、忙しさからヒステリックになりがち。
とはいえこれは仕事も家事も全て押し付けられている影響も多分にあり、本人曰く結婚したばかりの頃は仲が良かったようだが、出産後にダニエルが仕事そっちのけで子供にかかりきりになったあたりから徐々に仲がギクシャクしていった模様。
事実ダウトファイアが家政婦として働きに来てからは余裕ができたせいもあって穏やかな笑顔を見せるようにもなっていた。
作中ではダウトファイアに、
「ダニエルと一緒に過ごしているといつもイライラしてガミガミと小言ばかりの嫌な自分ばかりが出てきてしまう。
夫と子供達の前でそんな態度を見せてしまう自分自身が嫌いになる。だから離婚して別々に生きた方がお互いに幸せになれる」

という離婚の真意を明かしている。
演者のサリー・フィールドは翌年の『フォレスト・ガンプ』においても母親役を演じている。

  • リディア・ヒラード
演:リサ・ジェイカブ/吹き替え:伊藤美紀/坂本真綾/渡辺美佐
ヒラード家の長女で一番の年長者。父親であるダニエルの事が大好き。
しっかり者で自分の言いたいことはハッキリと言うタイプ。
当初は離婚を決意したミランダに対して反抗心を抱き、家政婦としてやってきたダウトファイアへも敵愾心を隠さなかった。
だが、ダウトファイアが来た事で負担が減った母を見て「あんなに笑顔のママを見るのは久しぶり」とお礼を述べ、心を開いていく。

  • クリストファー・ヒラード
演:マシュー・ローレンス/吹き替え:石田彰/優希比呂/佐々木望
ヒラード家の長男。愛称はクリス。父親であるダニエルの事が大好き。
生意気盛りでサッカーが大好きな腕白少年だが、勉強は苦手。
映画冒頭で12歳の誕生日を迎えているが、テストの成績が悪かったためミランダから誕生パーティーを禁止されていた。
ところがダニエルはその約束を無視してミランダの留守中に移動動物園を雇って自宅をヤギポニーやヒツジなどでいっぱいにし、さらに子供達の友人を大勢連れ込んだ上に大音量で音楽を鳴らして近所から通報された事がミランダとの離婚の決定打となる。

  • ナタリー・ヒラード
演:マーラ・ウィルソン/吹き替え:渡辺菜生子/こおろぎさとみ/池上麻里子
ヒラード家の次女。父親であるダニエルの事が大好き。
まだ6歳という年齢もあってダニエルからは特に溺愛されている。
絵本が大好きで寝る前に読んでもらうのを楽しみにしている。
なお、中の人は本作が映画デビュー。

  • フランク・ヒラード
演:ハーヴェイ・ファイアスタイン/吹き替え:渡部猛/島香裕/玄田哲章
ダニエルの兄。
職業はメイクアップアーティストでハリウッド映画での特殊メイクなども担当している売れっ子。
ゲイであり、吹き替えや字幕ではオカマ口調で表現されている。*5
離婚により家を追い出されたダニエルに何かと世話を焼き、「アンタさえ良ければいつまでもウチにいてもいい」と同居を提案した他、「にしてくれ」というダニエルからの頼みも「やっとその気になったのね!」と快く引き受け、試行錯誤の末にダウトファイアとしての姿を作り上げた*6

  • スチュアート・ダンマイア
演:ピアース・ブロスナン/吹き替え:堀秀行/堀内賢雄/有本欽隆
ミランダの大学時代の恋人で、愛称はスチュー。ホテルの経営などを手掛けるビジネスマン。
以前はプレイボーイとして名を馳せていたようだが、40歳を前にして心境の変化もあり、かつての恋人であるミランダに接近し積極的にアプローチしていく。
傷心中のミランダとは急速にヨリを戻して親密になっていき、子供達ともすぐに打ち解け、家政婦であるダウトファイアにも友好的。
おまけにハンサムな上に心優しく、さらにはお金持ちとダニエルにないものを全て持っていると言っても過言ではない好人物
が、ダニエルからすれば自分の代わりに父親面をして家族に割り込んでくるいけ好かない男であり、作中では、
などの散々な目に遭う。
ロンドン出身でダウトファイアのイギリス英語の発音が奇妙である事にすぐ気付いた*7
唐辛子アレルギー持ち。
当初の脚本では金持ちを鼻にかけ、さらに結婚後はミランダと二人きりになるために、子供達を全寮制の学校へ行かせようと画策するような悪役然とした男になる予定だったが、ダニエルと徹底的に対の存在として描くために聖人君子のような性格へと変更された*8
中の人は本作から二年後に説明不要の有名映画007シリーズにおける5代目ジェームズ・ボンドに就任し、世界的な知名度を得る事に*9


  • ジョナサン・ランディ
演:ロバート・プロスキー/吹き替え:阪脩/川久保潔/富田耕生
ダニエルが配送係として働く事になったテレビ局の社長。
好々爺然とした快活で人懐こい人物。
長年放送している子供向け教育番組の視聴率が低下している事が悩みの種。
お酒はスコッチ党。

  • ミセス・セルナー
演:アン・ヘイニー/吹き替え:竹口安芸子/矢野陽子/京田尚子
ダニエルが親権を得るにふさわしい家庭環境かを調査するために裁判所から派遣された家庭訪問員。
事務的かつ生真面目な性格で、ダニエルが目の前で演技や冗談を言っても「それって自分で面白いと思っていらっしゃるの?」と聞き返すほど。
さらに家庭訪問日にうっかりダウトファイアの姿でセルナーと会ってしまったせいでひと騒動が起きてしまう事に。
なんとかセルナーを誤魔化すため必死に一人二役をこなすダニエルの姿は本作屈指の笑い所。
撮影時にはアドリブを大量に交えたロビンのコミカルな演技に周囲の人々は必死に笑いをこらえていたが、セルナー役のヘイニー女史は一切笑わずに自分の演技をこなしたことからスタッフが感服したというエピソードを残している。

  • グロリア・チェイニー
演:ポリー・ホリデイ/吹き替え:島美弥子/不明/不明
ヒラード家の隣に住んでいる老婆。ガーデニングが趣味。
いつも大騒ぎするヒラード家、特にダニエルを厄介者扱いしており、当のダニエルからも「口うるさいババア」と嫌われている。
映画冒頭でダニエルが大量の動物を招いてパーティーをした事で警察に通報し、物語の発端を作る。
本編での出番はそれだけだが未公開シーンでは家政婦としてヒラード家に出入りするようになったダウトファイアと顔見知りになり、「ミランダの元旦那はどうしようもないろくでなしだった」と事実を話した事で怒ったダウトファイアからの、「お花には犬のオシッコをかけるといい」といったアドバイスを真に受けて実行した結果、大事に育てていた花を全て枯らしてしまうという仕返しを受けた。


【後半からの展開】

※以下はネタバレ含む。



【余談】

  • 作中でダニエルがダウトファイアに変装するためのマスクは1枚のマスクを被るだけだが、実際の撮影では8枚のマスクで構成された複雑な作りになっており、装着に4時間、外すのに1時間もかかるという非常に手間のかかるシロモノだった。

  • 2014年には続編を制作する予定もあったのだが、同年に主演のロビン・ウィリアムズが逝去。企画は幻となってしまった。

  • 『ダウトファイア(Doubtfire)』は珍しい部類の姓だが実在しており「勇敢な」「男らしい」などの意味から派生した名字。
    つまり全くの偶然ながらダニエルは自分の正体を自白するような姓を名乗っていた事になる。
    また、日本では馴染みのない単語ゆえに本作の邦題は『ミセス・ダウト(Mrs. Doubt)』となっているが、『Doubt』は「疑わしい」「疑問に思う」を意味する単語なので意訳すれば「怪しい老婦人」となり、老婆に変装しているダニエルを暗示する意味になるという中々に秀逸な邦題となっている。

  • 作中でピアース・ブロスナン演ずるスチューはハイムリック法で応急処置を施されているが本作から9年後、『007/ダイ・アナザー・デイ』でラブシーンの撮影中に共演していたハル・ベリーがフルーツをのどに詰まらせた際は自身が応急処置をする事になった。

  • 作中冒頭でダニエルがアフレコを行っているアニメを制作したのは『トムとジェリー』などでも監督を務めたアニメーターのチャック・ジョーンズ。
    本編では短時間しか画面に映らないがきちんと丸一話分制作されたとの事。
    また、アメリカにおけるアニメの収録は声優の声を先に録音して後から絵を付けるプレスコが主流だが、本作ではアニメーションとダニエルの芝居を同じフレームに収めるため、演出の都合でアフレコ形式にしたと語られている。

  • 作中でダニエルはジェームズ・ボンドのモノマネを披露しているが、ダニエルの日本語吹き替えを勤めた江原・山寺の両名は共にボンドを吹き替えた経験を持つ声優である。
    • そんなシーンが挿入されてから約2年後の1995年、今作でロビンと共演したピアース・ブロスナンが『007 ゴールデンアイ』にて5代目ジェームズ・ボンドに就任するというミラクルが起こる事になった。


パパとママが別々に暮らしていた方がいいこともあるの
喧嘩しているときより、よい人間でよいパパとママになれるの
そして仲直りするときもあるし、しない事もある
だけど決してあなたのせいではないの
あなた達への愛がなくなったわけではないのよ
家族には色々な形があるの
ママしかいない家
パパしかいない家
親の違う兄弟
おじいさんやおばあさんと暮らしている子供
よその家庭にもらわれる子
兄弟が別々の家、別々の町に住む事もある
めったに会えなくて、時には何年も会えない事もある
でも愛があれば、皆、結ばれているの
心の中では、家族が生きているのよ



追記・修正は家族と一緒にお願いします。

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  • セビリアの理髪師
  • 1993年
最終更新:2025年04月15日 21:47

*1 「子供向けのアニメでタバコを吸うシーンがあるのは問題」として勝手にセリフを変えたり、変更を要求する等。喫煙シーンへの指摘自体は真っ当なものだが……。

*2 作中でリディアから「またなの?」と言われている事やミランダの言及などによれば以前から似たようなことを何度も繰り返していた模様

*3 現実ならば偽計業務妨害罪に相当する立派な犯罪行為

*4 フランクによれば「ママにソックリ」らしい

*5 演者自身もゲイであることを公言している。

*6 この際3パターンほどの女装を試しているがこれは映画の製作段階で実際に考えられた外見が元になっている

*7 スチュー曰く「いろんな地方のアクセントが混ざっている」

*8 作中で知り合いから「子供は嫌いのはずだろ?」という声を掛けられるのはこの設定の名残

*9 というか本作で監督を務めたクリス・コロンバスがMGMの幹部からボンド役にふさわしい俳優はいないか意見を求められた際にピアースを推薦したのが採用理由の一つなんだとか