ウメ

登録日:2025/01/30 Thu 21:03:56
更新日:2025/05/10 Sat 15:29:27
所要時間:約 15 分で読めます





ウメ(梅)とは、樹木の一種である。




写真はいずれも記事作成者が撮影。
(上)白梅の写真。新宿御苑にて撮影。
(中)重弁の紅梅の写真。自宅近くの公園にて撮影。
(下)未熟果(青梅)。東京都薬用植物園にて記事作成者が撮影。


【科名】バラ科スモモ属
【学名】Prunus mume
【原産地】中国
【生態】落葉高木


目次


生態

 中国が原産の落葉小高木で、わが国への正式な渡来時期は特定が難しいのだが、弥生時代の遺跡から炭化した種子が発見されていることから、そのころにはすでに栽培が始まっていたものと思われる。奈良時代にも中国から渡来した記録が残っている。
現在は花木或いは果樹として庭に植えられる*1
樹高は6mに達し、多く枝分かれし、若い枝には毛がかすかにあるかあるいはほぼない。4月から5月にかけて葉を出す。葉は枝に互生し、全体の大きさは5㎝~8㎝で、先端がとがる卵型ないしは細長い楕円形で、周囲に細かな鋸歯(ぎざぎざ)がみられる。ただし、ウメの変種で、アンズと自然交配した可能性があるとされるブンゴウメ(var.Bungo)はアンズと似た葉で、ややウメのそれより幅が広くなる。
 1月から3月にかけて、葉の出現に先立ち、前年枝の葉腋に芳香のある5枚の小さく丸みを帯びた花弁からなる花を咲かせる。花色は薄紅色紅色など多彩である。咲き方も、一重咲きや八重咲などがある。ガクは普通は赤みを帯びた褐色だが、「緑蕚梅」という園芸品種のように、ガクが黄緑色になるものもある。
とにかく品種が多彩で、現在では300種を優に超えるとまで言われている。
雄しべと雌しべのある両性花と、雄しべのみの雄花をつける。
 5月から6月にかけて、直径1cm~4㎝程の黄緑色の球形の果実(核果)をつける。この果実はほかのスモモ属の植物の果実のように縦に浅い溝が1本入る。この果実は梅雨過ぎ頃に熟して鮮やかな黄色になるが、そのころにはぐちゅぐちゅに柔らかくなって特有の甘酸っぱい香りを放つ。
なお、梅が熟す頃の長雨が続く気象現象を「梅雨」と呼ぶが、この名称には梅の実が直接関係していないという説もある。
実が多すぎると熟する前に余分な実を自ら落とす生態がある。
再生力が強く、剪定するとその周辺の新芽が長く伸びるのだが、これを放置すると花や実に回す養分が減るので剪定の必要があり、
対を成す桜の方は剪定すると傷口から腐りやすいのと対比して「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」という。


利用

 前述のように、わが国では早春の花としてウメの花を観賞してきた。本種の花を咲かせ始める時期は花木の中で最も早いため、「百花(ひゃっか)(さきがけ)」「花の兄」「春告草」「初名草」「初花草」とも呼ばれる。
…はいそこ、「『木』なのに『草』って呼ばれてんじゃねーか」とか野暮なこと言わない。
庭に植えて大きく木を成長させたうえで花を観賞にするのはもちろん、盆栽仕立てにして観賞することも多い。

 また、果実は古くから食材として利用されてきた。ただし、黄緑色のウメ(青梅)は生のままでは青酸配糖体の「アミグダリン」という有毒成分*2を果肉や種子(及びその内部の(さね))に含んでいるため、絶対にそのままでは利用しないこと!
幸いこの成分は加工すれば除去できるため、古くからご飯のお供である梅干しや、梅干しをほぐしてペースト状にした「梅肉」、酒に漬け込んで梅酒など様々な形に加工されたうえで我々日本人の食卓に上ってきた。果実だけでなく、加工したあとの梅の果実から取り出した(さね)も食用にすることができる。同じバラ科のアーモンドに似た風味があるといわれるが、食べすぎは控えた方がよい。*3それゆえ、「梅は食うとも仁食うな 中に天神寝てござる」ということわざがある。

以下に、梅干しの作り方を記す。

1、梅の果実をよく洗ったあと、陰干しにして軽く乾かす。
2、水分が飛んだところを見計らい、塩漬けにする。
3、梅の水分が上がってきたところで、2日から3日の間日干しして水分を完全に抜く。この段階で終了させたものは「白梅干し」とよばれる。
4、水分が抜けた梅の実を干した赤紫蘇の葉と共に重しをして、元の漬け込み液(梅酢)に再び漬ける。
5、赤紫蘇の色が梅の実に移ったころを見計らって容器から取り出して日干しにし、好みの柔らかさになるまで水分を抜く。
6.甕や煮沸消毒した瓶に梅干しを詰め、冷暗所で保存する。

なお、おつまみとして有名な「カリカリ梅」は梅干しを干す工程に「日干し」の段階を挟まないものである。しかし、あのカリカリとした食感は、途中に卵の殻(カルシウム)を加えることで、果実に含まれるペクチンをペクチン酸カルシウムにすることで硬度を保っているからなのである。
また、中国のお菓子である「話梅(ワームイ)」は梅の果実を干したものを甘い調味液につけたもので、わが国の梅干しの作り方とは根本的に異なる。
地方によっては梅酢を調味料として使う所もある。

食用以外にも、果実を黒くなるまでいぶした「烏梅(ウバイ)」は、漢方薬の一つとして知られ、健胃、整腸、消炎、細菌性腸炎、腸内異常発酵、駆虫、止血、強心作用がある。


わが国における梅の歴史

 前述のとおり、わが国では古くからウメを観賞用の花木や食材として利用してきた。『古事記』や『日本書紀』には登場しないが、わが国最初の漢詩集『懐風藻』が初出である。『万葉集』では、ハギ*4に次いで本種を題材とした歌が多く、百十八首詠まれている。
平安時代中期の官僚・菅原道真は梅の花が大好きだったことでも知られ、大宰府に左遷された際に詠んだ「東風吹かば 匂ひ起こせよ 梅の花 あるじなしとて 春な忘れぞ」という短歌や、大宰府の道真の屋敷に花をつけたウメの枝が飛んできた「飛梅伝説」が知られている。
この「飛梅伝説」により、福岡県は「県の花」としてウメの花を採用している。福岡銘菓の『梅ヶ枝餅』もこの「飛梅伝説」にちなんでいる。ほかにウメの花を「県の花」に採用している都道府県は大阪府和歌山県が知られる。なお、変種のブンゴウメは大分県の「県の花」に指定されている。
 早春の風景である『梅に鶯』は取り合わせの良いものの代表例として知られ、これは詩歌や絵画の題材にしばしば取り入れられてきた。花札の図柄にも「梅に鶯」が用いられている。現在、「日本の花」といえば「」が連想されるが、それは江戸時代以降の話で、江戸時代までは「花」といえばウメを指した。
 戦国時代には梅干しが「気付け薬」として陣中に持ち込まれたことがあったという。「気付け薬」として用いられたことから察するに、戦国時代の梅干しは相当塩辛く、酸味もかなり強かったことが推測される。現在のように梅干しがご飯のおかずとして人口に膾炙するようになったのは江戸時代以降のことである。

梅に関する逸話

  • 吉川英治の小説『三国志』には、ウメと魏の曹操に関する「梅酸渇を医す」という逸話が収録されている。
    建安三(198)年の張繍(ちょうしゅう)攻めの行軍中、魏の軍勢は飲み水がなく、のどの渇きに苦しんでいた。曹操は兵士たちに
    「皆もう少しだ!頑張れ!この山を越えると、梅の林がある。梅の林に行って好きなだけ梅の実をとって食べていいぞ!」
    と声をかけて励ました。そうして兵士たちは梅の実の酸っぱさを思い出し、やる気を取り戻したというのだ。
    なお、吉川の『三国志』の原作である『三国志演義』では回想シーンとしてさらっと扱われる程度だが、これほどまで名場面として扱われるようになったのは、江戸時代に出版された日本人向け『三国志』である『通俗三国志』によるところが大きく、これを吉川がアレンジしたことで名場面としての知名度が上がったという。
    さらにこの「梅酸渇を医す」の逸話の出どころは、5世紀に編まれた『世説新語』の「仮譎篇」の一節である。それによると、
    「行軍中に水がなく、兵が渇きを訴えたので、曹操は『この先に大きな梅林がある。その甘酸っぱさで渇きを癒せ』と言った。そう聞いた兵は口のなかが潤って、泉がある場所まで進むことができた」とのことである。
    「仮譎」とは「人をだます」という意味なので、この題名から考えるに、『世説新語』での曹操は「人をだますのが上手な策略家」として表現されているといえよう。
    戦国時代(日本)長崎県にもこれを知っていたものがいたのか、長与村を治めていた地頭の長与太郎衛門純一の謀反の企てが藩主純忠にバレて純一の立て籠もる浜城を包囲した大村彦右衛門純勝の軍が遠征の末の急勾配で喉の渇きに苦しんだが、誰かが梅干梅干と叫んだために息を吹き返して城を攻め落とし、落城後には唾飲城(つのみじょう)と呼ばれるようになった、という逸話がある。


関連キャラクター

梅モチーフのキャラクター


「梅・うめ」が名前に入っているキャラクター・人物


梅の使用されている/イメージしている食品

梅花
  • 梅花茶
  • 花漬け(塩漬け)

梅果
  • 梅酒
  • 青梅漬け
  • ジャム
  • 甘露煮
  • 梅シロップ
  • のし梅

梅干し
  • 梅干し
  • 梅酢
  • 煎り酒
  • 干し梅
  • 梅ミンツ
  • 小梅(ロッテが発売している飴)
  • スッパイマン
  • たねぬいちゃった ほしうめ
  • ウメトラ兄弟、ウメトラハニー



追記・修正は梅に鶯で一句吟じてからお願いします。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

最終更新:2025年05月10日 15:29

*1 九州地方の大分県や宮崎県の一部では野生化した個体がみられるという

*2 胃腸の酵素によってこの成分が加水分解されることにより、猛毒であるシアン化水素、すなわち青酸が発生するのである

*3 和歌山県では梅の加工会社から仕入れた梅の種を使用する梅仁豆腐が商品化されているが、毒素を抜く処理によって安全性を確保している。

*4 マメ科ハギ属の植物の総称。「秋の七草」の一種