レクトに連れられながら人気の多い街中をコトネは歩く。どこに行くのか尋ねてみたもののレクトは応えなかった。無言のまま、街を歩き続けている。
――――――どこへ行くのだろう? そんなことを考えながらレクトの後を付いて行くと次第に人気のない、そればかりか建物がまばらになっていく上にエスヴィア冒険者街では珍しく開けた広場へと風景が変わっている。その広場では大理石を削り出したと思われる構造物が等間隔で地面に打ち込まれているのが分かる。レクトによればそこは墓地と呼ばれる場所で死んだ人を弔うための場所であるとのことだった。弔うということがどういうことなのかコトネには分からなかったが。
――――――どこへ行くのだろう? そんなことを考えながらレクトの後を付いて行くと次第に人気のない、そればかりか建物がまばらになっていく上にエスヴィア冒険者街では珍しく開けた広場へと風景が変わっている。その広場では大理石を削り出したと思われる構造物が等間隔で地面に打ち込まれているのが分かる。レクトによればそこは墓地と呼ばれる場所で死んだ人を弔うための場所であるとのことだった。弔うということがどういうことなのかコトネには分からなかったが。
そうして墓地の手前まできたところで、唐突にレクトがその場に立ち尽くした。かと思えば頭を抱えその場に蹲ってしまう。その上全身が小さく震えている。どうすればいいのか分からずコトネがおろおろしていると――――――
「――――――やっぱり、無理だ」
声を震えさせながらレクトはそう呟く。固有魔法である感応を通じてレクトの恐怖、悲憤、そして強い自責の念と言った感所が入り混じり冷たくて暗く、そして鉛のような重たさを伴ってコトネの中に流れ込んでくる。レクトの感情に心が引きずられ自分まで苦しくなりそうになる。行きかう人たちはレクトとコトネの姿を見て奇異の視線を向けてくる。
どれくらいそうしていただろう。唐突にレクトは立ち上がり墓地から背を向け逃げるように歩き出す。コトネは一歩遅れ慌ててその背中を追いかける。レクトを追いかける中、その背中が迷子の子供のようにも見えた。
どれくらいそうしていただろう。唐突にレクトは立ち上がり墓地から背を向け逃げるように歩き出す。コトネは一歩遅れ慌ててその背中を追いかける。レクトを追いかける中、その背中が迷子の子供のようにも見えた。
鍛冶屋にてミリカは先ほどまで鍛造していたナイフを、師であるアルムに見てもらっていた。鍛冶職人であるアルムが提示する修行の一環だ。日常用品でもあるナイフは鍛冶師にとっても大事な収入源の一つだ。これを如何に丁寧に、そして品質良くに作れるか、それは鍛冶師にとって大事なことであるのだ。一通りその短い刃を眺めていたかと思うと壁に立てかけられていた的に向かって投げ付ける。投げ付けられたナイフは的の中心にたいして中腹まで突き刺さる。
「……合格点を与えられる出来栄えだな」
アルムの一言にミリカは満面の笑みを浮かべて満足げに拳を握る。いわば師に成果を認められたということだ。これで喜ばない弟子はいないものだ。
「あくまでひよっこ卒業と言うところだ。喜ぶにはまだ早い」
「でもししょーが認めてくれたんだ。喜ぶに決まってんだろ」
「でもししょーが認めてくれたんだ。喜ぶに決まってんだろ」
浮かれ気味なミリカであったがそれもすぐさま冷まされることととなった。帰宅したレクトの様子が明らかにおかしかったからだ。やけに余裕がなく憔悴しているようにも見える。どうかしたか声を掛けようとしたがレクトのその様子に何も言えなかった。レクトはそのまま二階まで上がっていくのを見送るしかなかった。そして遅れてコトネが帰宅してきた。
「た、ただいま……」
「おかえり……、何があったん?」
「おかえり……、何があったん?」
ミリカはコトネにそう尋ねると彼女の口からレクトが誰かに襲われたこと、そして墓地に向かおうとしたことなどを説明される。それを聞いたミリカは呆れかえることとなった。
「あのバカ……、無理なの分かってるくせに……」
そうぼやき、アルムもそれに同意するように頷く。一方二人のその反応が分からずコトネは躊躇いがちにどういうことか尋ねる。
「ケイルって誰なの? レクトと何があったの?」
数瞬、ためらうような反応を見せた後にミリカは口を開いた。
「ケイルは私の兄。もう死んだけど」
死という言葉に一瞬心臓が縮みあがるような感覚を覚える。つい最近コトネがその身で経験しかけたこともあるのだろう。全身の血の気が引いていくのを感じる。
「アイツ、ケイルに懐いてたから……それもあってかケイルの墓参りに行けないんだ。自分がケイルを殺したって思いこんでるから」
「どういうこと?」
「よく分からないけどケイルが死んだとき、あいつ自分のせいだって言ってたんだ。でもどういうことかちゃんと言ってくれなくてさ……あたしたちにもよく分からないんだ。そもそもアタシはレクトの飼い主なんだから説明くらい――――――」
「言えないことがあるってことだろ? ミリカも嬢ちゃんも余りレクトの過去を詮索してやるな」
「どういうこと?」
「よく分からないけどケイルが死んだとき、あいつ自分のせいだって言ってたんだ。でもどういうことかちゃんと言ってくれなくてさ……あたしたちにもよく分からないんだ。そもそもアタシはレクトの飼い主なんだから説明くらい――――――」
「言えないことがあるってことだろ? ミリカも嬢ちゃんも余りレクトの過去を詮索してやるな」
ミリカの言葉を遮るようにアルムが口を挟む。
「エスヴィアには訳ありな連中が集まりやすい。言えないことの一つや二つも出来たって仕方がない。だからその話はここで終わりだ」
コトネとミリカの詮索を窘めるような声色で話を中断させる。そのことにミリカは不満そうな表情を浮かべ、コトネはただ戸惑う。そんなコトネにいつの間にか奥から出てきたメルカが耳元で囁いてくる。
「そんなに知りたいならレクトに聞けばいいのよ。例えばね――――――」
ミリカとアルムに聞こえない程度の声量でメルカはコトネにあれこれ吹き込んでいく。その途中徐々にコトネの顔が真っ赤になっていくのをミリカとアルムは怪訝な表情で見る。メルカは言いたいことを言い終えたのかすっきりしたような顔をし、コトネは顔を真っ赤にしたままぎこちない動きで二階に上がっていく。その一部始終を見てミリカはメルカに対し疑問を口にする。
「コトネに何を吹き込んだ? メルカ」
「ちょっと色々とね」
「ちょっと色々とね」
ミリカの問いに対しメルカは愉快そうに誤魔化す。
「恋は戦争よミリカ。うかうかしてるとレクトを取られちゃうわよ?」
「本当に何を吹き込んだのさ?! 後レクトを取られるってなんだ?!」
「自分の胸に聞くことよ」
「本当に何を吹き込んだのさ?! 後レクトを取られるってなんだ?!」
「自分の胸に聞くことよ」
そう言ってメルカは満足したように奥に引っ込もうとする。
「随分とコトネ嬢ちゃんの事を気に入ったようだな。同じ魔女だからか?」
アルムの言葉に反応しメルカはその足を止める。
「そういう貴方はレクトに肩入れしてるけどどうしてかしらね? 同じイルニクス出身だからかしら? どこ出身だったかしら? 確か勅許自由都市じぶ――――――」
「昔の話だ。今はただの鍛冶職人だ」
「昔の話だ。今はただの鍛冶職人だ」
アルムはメルカの言葉を遮りながらミリカに次の指導を言い渡す。ミリカはレクトやコトネ、アルムとメルカのやり取りが気になりながらも特に追及はしなかった。追及したら今までの生活が壊れてしまいそうな予感がミリカの胸中によぎっていた。
夜も更けてきた頃、エスヴィア冒険者ギルドの『ホーム』、その内の一角にある酒場は夜の静けさとは対照的に賑わいを見せている。仕事上がりに酒場で酒を飲み、同業者とどんちゃん騒ぎをするのは冒険者の嗜みと言ってもいい。日常や将来の不安、仕事や依頼主にチームを組んでいる同業者に対する愚痴を吐くため、若しくは命がけの状況下で積もり積もっていく精神的疲労を癒すために、あるいはただ単に酒を飲んで騒ぐために、様々な理由から冒険者達は『ホーム』の酒場で酒盛りに走るのだ。
そんな中、エレナ=レンホルムはカシャギ=フォメトとユーイン・クラジフの二人と共にカウンター席に集まっていた。本来であればカシャギと二人で飲むはずだったのだが、酒場に入る前に複数人に囲まれ暴行を受けていたユーイン・クラジフをカシャギが介入したことから何故か三人で飲むこととなってしまったのだ。なおユーイン・クラジフを助けた理由を聞いたところ
そんな中、エレナ=レンホルムはカシャギ=フォメトとユーイン・クラジフの二人と共にカウンター席に集まっていた。本来であればカシャギと二人で飲むはずだったのだが、酒場に入る前に複数人に囲まれ暴行を受けていたユーイン・クラジフをカシャギが介入したことから何故か三人で飲むこととなってしまったのだ。なおユーイン・クラジフを助けた理由を聞いたところ
「見捨てるのもちょっと寝ざめが悪いからかな?」
とのことだった。正直エレナとしては前日のエスヴィア晶柱林調査にてカシャギに対して酷い暴言を浴びせたユーイン・クラジフの事を快く思っておらず見捨ててしまってもいいのではないかと考えていたのだが敢えてそれを口にすることはなかった。助けられたユーイン・クラジフはと言うと――――――
「……助けてくれたこと、一応礼を言っとくよ」
と不満げな表情を浮かべつつカシャギに対して礼を伝える。
「じゃあ、僕とエレナの分奢ってくれないかな? 貸し借りなしにしておいた方がそっちも気が楽だろうしさ」
そう提案するカシャギだが実のところ、ここしばらく酒浸りになっていたこともありあっという間に前日の依頼で受け取った報酬を使い切りそうになっているため、どうにかただ酒にありつこうとしていただけである。そのことに気づいているエレナはカシャギに対して胡乱な目を向け、ユーインの方はそう言ったことには気づいていない様子であった。
「……それと、前に八つ当たりした事……悪かったよ。気が立っていたとはいえ、よく考えたらあれは本当に酷いことを言った」
「まあ、気にしてないとは言わないけど……それも今日の奢りでチャラと言うことで。いつも言われ慣れてるし、それに君も大事な恋人……達? が目の前で死んでいったんだし仕方がないことだよ」
「まあ、気にしてないとは言わないけど……それも今日の奢りでチャラと言うことで。いつも言われ慣れてるし、それに君も大事な恋人……達? が目の前で死んでいったんだし仕方がないことだよ」
ユーインの謝罪を軽い調子で流すカシャギに対してエレナはもっと怒っていいのにと思った。あの時の言動はいくらなんでも度が過ぎている、一発殴ってやってもいいことだというのがエレナの考えであった。しかし、ユーインはカシャギの言葉に対してやけに気まずそうにしている。
「……あれ、実は恋人ではないんだ」
「え?」
「なんというか……その……、僕の魔法って武器とかい服とか作れるから……それ目当てに寄ってきた女の子たちにハーレムメンバーになってもらうって条件で一緒にいただけで……。僕の方はその……それなりに情はあったのだけど向こうからはそうではない感じだし……」
「つまり個人的な事情と感傷をカシャギで八つ当たりしたってことね」
「え?」
「なんというか……その……、僕の魔法って武器とかい服とか作れるから……それ目当てに寄ってきた女の子たちにハーレムメンバーになってもらうって条件で一緒にいただけで……。僕の方はその……それなりに情はあったのだけど向こうからはそうではない感じだし……」
「つまり個人的な事情と感傷をカシャギで八つ当たりしたってことね」
ユーインの事情をバッサリとエレナは切り捨てる。エレナはカシャギに暴言をぶつけたユーインに対して憤りを感じていた。暴言に対して特に怒りもしないカシャギに対する苛立ちもあったが。一方カシャギはと言うと――――――
「……人それぞれの事情はあるし、一方的とはいえ情が芽生えること自体よくあることだからまあ、今日の奢りでチャラとしよう。だからエレナもそう怒らないで……」
「むしろ貴方はなんでそんなに怒らないのよ。もっと怒りなさいよ」
「こんなこと対したことでもないよ。そりゃ暴言吐かれた時はちょっと傷ついたけどさ……。天空人に対しての言動であれだけで済んだのだしそんなに怒る必要もないかな」
「今まで何を言われてきたのよ貴方……」
「むしろ貴方はなんでそんなに怒らないのよ。もっと怒りなさいよ」
「こんなこと対したことでもないよ。そりゃ暴言吐かれた時はちょっと傷ついたけどさ……。天空人に対しての言動であれだけで済んだのだしそんなに怒る必要もないかな」
「今まで何を言われてきたのよ貴方……」
エレナのその言葉にカシャギは曖昧に笑って受け流し、ジョッキを呷る。ビールの苦みが口の中に広がりながら爽快感と共に喉に流し込まれる。この苦みと感覚がとても心地よいのだ、生き甲斐とも言っていい、そうカシャギは思う。このビール特有の苦みと爽快感はどんな酒にも劣らない、素晴らしいものなのだ。しかしファルークはワインの方がよほど素晴らしいと宣って譲らないが故に論争に決着がつかないのだが今はさておくこととする。
「それで? エレナ嬢は僕にどんな相談があるのかい? 恥ずかしがらずに言ってみな?」
ジョッキをカウンターに置きつつ固いパンをスープにひたしているエレナに声をかける。エレナから相談に乗ってほしいことがあると言われたため酒を奢るという条件で『酒場』までやってきたのだ。一人余分について来ることになるとは思ってもみなかったが。エレナはスープに浸したパンを口にし飲み込んでから口を開く。
「……前の晶柱林調査依頼の後から……コトネの事が怖いの」
「コトネ嬢が?」
「コトネ嬢が?」
意外だと言わんばかりにカシャギは驚く。しかしよくよく考えてみればレクトの見舞いに鍛冶屋まで行ったとき、エレナとコトネは若干距離があったように思える。コトネの方はいつも通りだったために気にはしなかったがあれはそういうことだったのかと今更ながらに思う。
「クリストロアダーに攻撃された後のコトネ、なんか変だったから……影みたいなのが出てきて……あんな巨大で強い魔物をあっという間に……。大けがを負ったはずなのに気が付いたら治ってて何事もなかったように振舞って……、私、あの子のことが分からないの……」
「コトネ嬢に聞いてみたらいいんじゃない?」
「コトネに聞いても分からないって……そもそも記憶にないって言って……。どうしたらいいのか分からないの。ねえ、私はあの子にこれからどう接すればいいの?」
「いつも通りでいいんじゃないの?」
「コトネ嬢に聞いてみたらいいんじゃない?」
「コトネに聞いても分からないって……そもそも記憶にないって言って……。どうしたらいいのか分からないの。ねえ、私はあの子にこれからどう接すればいいの?」
「いつも通りでいいんじゃないの?」
深刻そうに告げるエレナの言葉にカシャギは軽い調子で応える。まるでたいしたことではないと言いたげであった。そのことにエレナは苛立ちを覚える。
「いつも通りでいいってそんな簡単に……!」
「どうしようもない事なんだしひとまずいつも通りでいいじゃん。簡単なことだよ。分からないことで延々と悩んでいても仕方がないしどうにもならないならいつも通りに振舞って、いつも通りに接すればいいんだよ。それで終わりだ」
「どうしようもない事なんだしひとまずいつも通りでいいじゃん。簡単なことだよ。分からないことで延々と悩んでいても仕方がないしどうにもならないならいつも通りに振舞って、いつも通りに接すればいいんだよ。それで終わりだ」
エレナは目を細めカシャギを睨みつけるもどこ吹く風と言わんばかりに飄々とした態度で受け流される。カシャギからすればエレナの相談は大したことではなかった。生きていれば誰もがぶつかる程度の問題でしかない。
「第一さ、コトネ君に何かあったとしてエレナ嬢はどうしたいの? 距離を置きたい? 怖いから自分に何か起きる前に始末したい?」
「そんなわけないでしょ!」
「じゃあさ、エレナ嬢にとってコトネ嬢は何? 言ってみ?」
「……友達よ。初めての」
「じゃあ簡単だよ。さっきも言った通りいつも通りに接すればいい。君の悩みは初めてできた友達の知らない一面を見て戸惑ってるだけのことだよ。そういうこともあるって受け流すのも人づきあいで大切なことさ」
「……そういうものかしら?」
「そういうものだよ。ね、ユーイン=クラジフ君」
「そんなわけないでしょ!」
「じゃあさ、エレナ嬢にとってコトネ嬢は何? 言ってみ?」
「……友達よ。初めての」
「じゃあ簡単だよ。さっきも言った通りいつも通りに接すればいい。君の悩みは初めてできた友達の知らない一面を見て戸惑ってるだけのことだよ。そういうこともあるって受け流すのも人づきあいで大切なことさ」
「……そういうものかしら?」
「そういうものだよ。ね、ユーイン=クラジフ君」
エレナの言葉を流しつつカシャギはユーインに話を振る。一応というべきか話を聞いていたのかユーインは二人の方に視線を向ける。
「まあ、よくあることだ。僕だってハーレムメンバーの知らない一面を目撃する度に戸惑うばかりだったよ。最後まで慣れることはなかったな」
「だってさ。よくあることなんだよエレナ嬢」
「それはなんか違う気もするけど……私が知らないだけでよくあることなのね……。確かに私コトネのこと全部知ってるわけでもないし……」
「そんなもんだよ。友達だからって相手のことを何でも理解できるわけでもない。人間関係はそんなもんさ。僕だって未だにファルークとビールとワインの素晴らしさに対する論争が終わらないし、レクトのことも未だに知らないことが多いんだからさ」
「だってさ。よくあることなんだよエレナ嬢」
「それはなんか違う気もするけど……私が知らないだけでよくあることなのね……。確かに私コトネのこと全部知ってるわけでもないし……」
「そんなもんだよ。友達だからって相手のことを何でも理解できるわけでもない。人間関係はそんなもんさ。僕だって未だにファルークとビールとワインの素晴らしさに対する論争が終わらないし、レクトのことも未だに知らないことが多いんだからさ」
そう言ってカシャギは再びジョッキを呷り生温いビールをのどに流し込む。時間がたったことで温くなってしまっていた。ふとエレナが手元のジョッキをじっと見ていることに気づく。
「……ビールに興味があるのかい?」
そう言ってジョッキを持つ手をエレナの方に向ける。するとエレナはカシャギの持っていたジョッキをそのまま手に取り口に付けて中の液体をのどに流し込む。まさか本当に飲むとは思ってなかったため彼女の行動に呆気にとられるカシャギを余所にエレナはむせたのか思わずせき込む。ユーインはそれを見てからかうように口笛を鳴らす。
「……苦い。何で大人はこんなのを飲めるのかしら?」
そう言って口をすぼめながら眉を顰める。
「なんでって……ビールはそういうものだし、その苦みがいいとしか言えないな」
「私には理解できない感覚だわ。こんなのを有り難く飲めるなんて」
「そこまで言うのならなんでわざわざ飲んでみようと思ったんだい? 僕は別に飲めとは言ってないし」
「私には理解できない感覚だわ。こんなのを有り難く飲めるなんて」
「そこまで言うのならなんでわざわざ飲んでみようと思ったんだい? 僕は別に飲めとは言ってないし」
エレナからジョッキを受け取りつつカシャギはそう尋ねる。エレナはそれに対して恥ずかし気に顔を赤らめつつ視線を逸らす。
「なんとなく気になったからよ」
そう言って手元にあったミルクを煽るように飲み干した。酒場の喧騒は止まないまま夜が更けていく。
鍛冶屋にある自室にてレクトはベッドで横になりながら昼間の事を思い返していた。今なら、コトネがいるのならケイルの墓まで行けると思っていた。しかし実際はどうだ。ケイルが自分を恨んでいるかもしれない。あの時ケイルを見殺しにしたくせに今更……。そんな思考が夜霧った途端に墓地の前で足がすくみ一歩も進めなくなる有様だ。自分が情けなく思えて仕方がなくなっていく。コトネにも悪いことをしてしまったとも思った。わざわざ自分の奇行に付き合わせてしまったばかりか振り回す有様だ。最悪だと言ってもいい。
そんな風に自己嫌悪していた時だった。ふと気配を感じたため起き上がろうとして、その前に自身の身体の上に誰かがまたがってきたのだ。マウントポジションを取られたことで上体を起こすことが難しくなる。視線を向けると自身に馬乗りになってる人物は布地の少ない寝間着を身に纏っており、胸部の谷間が露出している。更に顔を上げるとその人物は幼い顔立ちで真剣な表情を浮かべている。その人物はコトネだった。普段は細いリボンでまとめている薄桃色の髪を後ろに流している。コトネは真剣な顔で問いかけるように口を開く。
そんな風に自己嫌悪していた時だった。ふと気配を感じたため起き上がろうとして、その前に自身の身体の上に誰かがまたがってきたのだ。マウントポジションを取られたことで上体を起こすことが難しくなる。視線を向けると自身に馬乗りになってる人物は布地の少ない寝間着を身に纏っており、胸部の谷間が露出している。更に顔を上げるとその人物は幼い顔立ちで真剣な表情を浮かべている。その人物はコトネだった。普段は細いリボンでまとめている薄桃色の髪を後ろに流している。コトネは真剣な顔で問いかけるように口を開く。
「レクトの昔の話とケイルって人のこと教えて?」
ケイルという名に喉が一気に乾いていく。
「……なんで唐突に?」
「墓地?っていうところに行ってからのレクトが変だったから気になって……。それにわざわざ連れまわしたのに級に帰っちゃうから余計に気になったの。だから教えて?」
「……嫌だって言ったら?」
「恥ずかしいことする」
「墓地?っていうところに行ってからのレクトが変だったから気になって……。それにわざわざ連れまわしたのに級に帰っちゃうから余計に気になったの。だから教えて?」
「……嫌だって言ったら?」
「恥ずかしいことする」
顔を赤らめながらコトネはそういってレクトの服に手をかける。
「メルカが言ってたの。男の人に何かを聞きたいなら恥ずかしいことをすればいいって……。レクトも男だからきっとノリノリになるって……。わたし、レクトのこと知りたいし……レクトって何を聞いても応えてくれそうだから無理矢理にでも聞こうって……だから―――――――」
そう言って服をめくろうとしたコトネの手を勢いよく掴んで止める。何を吹き込まれたかは知らないがこのままではとんでもないことになりそうな気配をレクトは感じていた。コトネはレクトの手を振り払おうとするが大した力もないためそれは出来なかった。
「……メルカに何を吹き込まれたかは知らないけどそんなことしても答えないからな。第一コトネにケイルの事は関係ない――――――――――――」
「関係ないのに墓地まで連れて行こうとしたの? そんな事されたら余計に気になるよ。それに……墓地に行くときのレクト、なんかつらそうな顔してたし……」
「関係ないのに墓地まで連れて行こうとしたの? そんな事されたら余計に気になるよ。それに……墓地に行くときのレクト、なんかつらそうな顔してたし……」
そう言って顔を近づけコトネは真剣な目でレクトを見つめる。どうにかはぐらかそうと思っていたレクトだったがコトネの目と様子から簡単に引き下がってくれなさそうだと思った。だからか、コトネの手を離し、観念したように自身の顔を覆うように腕を頭に持っていく。
「分かった。話すよ」
その言葉を聞いてコトネは顔を明るくした。レクトの口からどんな話が出てくるのかも知らなかった。レクトは口を開き、自身やケイルとの過去を語り出す。まるでシスターに対して懺悔の言葉を紡ぐ罪人のように。
レクト=ギルノーツはもともと神聖イルニクス帝国、ギルノーツ家と呼ばれる貴族の家で庶子として生を受けた。しかし、その生まれはまともとは言えないものだった。老齢にも差し掛かろうとする当時のギルノーツ家の当主、ロブロニア=H=ギルノーツが使用人の女性を手籠めにした上でレクトを孕ませたからだ。ロブロニアはレクトをそのまま使用人に産ませた。自身の息子や孫をギルノーツ家の当主候補から外す為だったのかもしれない。しかし、そうなる前にロブロニアは息子であったルイニア=F=ギルノーツの手で当主の座から引きずり降ろされ排除されることとなった。当時のロブロニアの振る舞いは大層酷いものであったらしかったため当然ともいえるかもしれない。
それがレクトの母であった女性とレクトにとって辛く苦しい日々の始まりとなった。二人はギルノーツ家のあらゆる人間から冷遇されることとなった。嫌がらせやいじめなどは当たり前で、酷いときには集団で暴行を加えられることすらあった。
特にレクトは腹違いの兄たちからは相当に疎まれ虐められた。訓練と称しては木剣で叩きのめされるのはいつものことだと言えた。レクトはいつも母に泣きつき、母はそんなレクトを抱き締め慰めることしかできなかった。ルイニアはそれに何もしなかった。そればかりか二人と顔を合わせるたびに憎悪と罵倒を叩きつけてくる有様だった。
それがレクトの母であった女性とレクトにとって辛く苦しい日々の始まりとなった。二人はギルノーツ家のあらゆる人間から冷遇されることとなった。嫌がらせやいじめなどは当たり前で、酷いときには集団で暴行を加えられることすらあった。
特にレクトは腹違いの兄たちからは相当に疎まれ虐められた。訓練と称しては木剣で叩きのめされるのはいつものことだと言えた。レクトはいつも母に泣きつき、母はそんなレクトを抱き締め慰めることしかできなかった。ルイニアはそれに何もしなかった。そればかりか二人と顔を合わせるたびに憎悪と罵倒を叩きつけてくる有様だった。
「ロブロニア=H=ギルノーツは我がギルノーツ家の恥だ! 醜悪な男だ! あの男と姦淫した貴様も、あの男の血が流れているそのガキも、あの男と同じ醜悪な罪人だ!」
レクトだけは助けてほしい、そんな母の願いをルイニアはそう切り捨て一蹴した。その言葉を叩きつけてからは堰を切ったようにルイニアも他の家族と同様に二人を貶すようになった。
「醜悪な男の血が流れし忌み子め! あのロブロニアと同様に貴様も罪人だ! あの男の血が流れ続ける限り貴様も同罪だ!」
ルイニアはレクトを呼び出してはそう吹き込むようになった。レクトの精神に罪の意識を刷り込むように。母はそれを止めるよう何度も懇願したがすべて無視された。そうしていく内にレクトの中に得も言われぬ罪悪感が芽吹くようになった。犯したはずのない罪の意識に苦しみ、ギルノーツ家の人間から冷遇され酷い扱いを受けては母に慰められる日々が続いた。終わりなど見えるはずもなかった。
そんな日々も唐突に終わりを告げた。ギルノーツ家が何者かの襲撃を受け焼かれたからだ。レクトは恐ろしくてギルノーツ家から逃げ出した。ルイニアも見捨てて。助けを求める人々の声も無視して。途中で母親の遺体を見つけたが怖くなって見なかったことにした。
逃げた先で強い罪悪感と自身が見捨てた人間の嘆きや憎悪から来る幻聴に悩まされることになるとも知らずに。実際レクトは一人ぼっちだったが夜になると何度も何度も誰かの言葉が、自身を恨むような声が聞こえてくるのだ。それが眠るたびに続くものだから何度も飛び起きては逃げ出すことを繰り返し、いつしか本当に眠ることができなくなった。
当然、そんなことを繰り返せば限界が訪れても仕方がない事だった。イルニクスの国境線を超え、共和国同盟のエスヴィア冒険者街の近くの平原でレクトは行き倒れることとなった。今まで碌な食事もとっていない上に眠れなくなる日々も続けばそうなるのは当たり前のことだった。普通はそのまま死んでしまってもおかしくはなかったが運が良かったのだろう。たまたま街の外まで出ていた人族の子供に助けられたのだ。その子供はミリカと名乗り定期的にレクトの元にパンと水を渡しに来ては薪となる木材広いから薪割り、水汲み、薬草摘みとレクトを扱き使った。彼女は自分が拾った、だからお前の飼い主だと言ってレクトのやめたいという声を無視した。この時の出来事のおかげで生きていられたと言ってもいいためレクトは感謝しているが扱き使った挙句飼い犬扱いされたことは若干恨んでいる。
それはさておき、そんな日々も終わる時が来た。ミリカに扱き使われながら薪となる木の枝や木片を集めていた時に魔物に襲われたのだ。この時の攻撃で深手を負ったため死んでもおかしくはなかったとレクトは振り返る。ミリカは戦う術を持っていなかったため手元の鉈で戦うという発想に至らず怯えるばかりだった。このまま死んで魔物の餌になってもおかしくなかったがそうはならなかった。
ミリカの帰りが遅いことを心配したケイルが魔物を倒し、深手を負ったレクトをアルムの鍛冶屋まで連れ帰ったからだ。アルムからお説教を受けるミリカを余所にレクトはメルカの回復魔法によって一命をとりとめた。ほんの少し遅かったらそのまま失血死していたと後でメルカから聞かされた。傷が治った後、レクトはアルムから追い出されそうになった。アルムからすればレクトは得体のしれない怪しい子供でしかない。その上子供とは言え人一人養うには負担が大きい。自分でも厄介者でしかないと思っていたからアルムの言う通りに出て行こうとした。しかし――――――
逃げた先で強い罪悪感と自身が見捨てた人間の嘆きや憎悪から来る幻聴に悩まされることになるとも知らずに。実際レクトは一人ぼっちだったが夜になると何度も何度も誰かの言葉が、自身を恨むような声が聞こえてくるのだ。それが眠るたびに続くものだから何度も飛び起きては逃げ出すことを繰り返し、いつしか本当に眠ることができなくなった。
当然、そんなことを繰り返せば限界が訪れても仕方がない事だった。イルニクスの国境線を超え、共和国同盟のエスヴィア冒険者街の近くの平原でレクトは行き倒れることとなった。今まで碌な食事もとっていない上に眠れなくなる日々も続けばそうなるのは当たり前のことだった。普通はそのまま死んでしまってもおかしくはなかったが運が良かったのだろう。たまたま街の外まで出ていた人族の子供に助けられたのだ。その子供はミリカと名乗り定期的にレクトの元にパンと水を渡しに来ては薪となる木材広いから薪割り、水汲み、薬草摘みとレクトを扱き使った。彼女は自分が拾った、だからお前の飼い主だと言ってレクトのやめたいという声を無視した。この時の出来事のおかげで生きていられたと言ってもいいためレクトは感謝しているが扱き使った挙句飼い犬扱いされたことは若干恨んでいる。
それはさておき、そんな日々も終わる時が来た。ミリカに扱き使われながら薪となる木の枝や木片を集めていた時に魔物に襲われたのだ。この時の攻撃で深手を負ったため死んでもおかしくはなかったとレクトは振り返る。ミリカは戦う術を持っていなかったため手元の鉈で戦うという発想に至らず怯えるばかりだった。このまま死んで魔物の餌になってもおかしくなかったがそうはならなかった。
ミリカの帰りが遅いことを心配したケイルが魔物を倒し、深手を負ったレクトをアルムの鍛冶屋まで連れ帰ったからだ。アルムからお説教を受けるミリカを余所にレクトはメルカの回復魔法によって一命をとりとめた。ほんの少し遅かったらそのまま失血死していたと後でメルカから聞かされた。傷が治った後、レクトはアルムから追い出されそうになった。アルムからすればレクトは得体のしれない怪しい子供でしかない。その上子供とは言え人一人養うには負担が大きい。自分でも厄介者でしかないと思っていたからアルムの言う通りに出て行こうとした。しかし――――――
「オレが面倒見る。冒険者をやらせる。それならここに置いても問題ないだろ?」
レクトを追い出すことに反対したケイルがそう言いだしたことでレクトは鍛冶屋でケイルたちと共に生活することになった。ケイルは宣言通りにレクトの面倒を見た。冒険者の仕事を手伝わせつつレクトを鍛え、戦う術やエスヴィアのこと等、色々なことを教えた。何をするにもケイルと共に行動する日々が続く中、どうしてそんなことをするのかレクトには不思議で仕方がなかった。
「何でぼくのこと助けてくれたの?」
子供ながらに抱いた疑問をケイルにぶつけた。彼は照れ臭そうに笑いながらレクトの目をまっすぐに見ながら答えた。
「困ってそうな誰かを見捨てることなんてできないんだよオレ」
その言葉の通り、ケイルは冒険者ギルドからの依頼のみならず、街中での人々の頼みをできないこと以外は断るような真似はしなかった。
「え? お母さんの病気を治すのに薬草がいる? しかもその薬草が魔物が大量に集まる場所に生えるって? 何も問題ない。採ってきてあげよう」
そう言って単身で魔物が大量出現している森まで行き、必要な分の薬草をきっちり採ってきた。相手が子供だからという理由で格安の依頼料で済ませていた。
「なに? 小屋の修理に使う木材が足りないって? 任せとけって」
そう言って木材を採ってきたうえに修理まで手伝っていた。それも格安の報酬だった上にギルドを介さない依頼だった。後で職員から怒られていた。
「え? 急ぎで魔物の内臓が必要? しかもその魔物が強い? やってやるから報酬ヨロ!」
そう言って火急の依頼を簡単に引き受け、きっちり魔物を討伐し必要な内臓も傷一つ付けずに依頼主の要望道理に依頼をこなした。尚納入の際に、多少色を付けて依頼主に渡していたことは秘密なとケイルから口止めされて今もだれにも口外していない。
レクトの知る範囲ではあるがいつも嫌な顔一つもしないで誰かを助けていた。仲間からお金が必要だと頼まれた際は気前良く出していたし、街中で落とし物をして困っていた老人のために夜遅くまで探して回っていた事だってある。時には仲間内で酒を夜まで飲み明かしては朝帰りすると言った不健康な生活を繰り返し金欠になってはミリカやアルム、彼の仲間から叱られていたが。しかしケイルは人々に囲まれて、いつも誰かと笑っていた。それはレクトが知らない光景で不思議な人種でもあり、そしてとてもまぶしく感じられる生き方であった。
ある日、ケイルはエスヴィア冒険者街の近くで発生した魔物のスタンピードを止めるために単身で立ち向かい、そして片腕を喪いながら帰ってきた。ミリカや仲間達に無茶をしたことを叱られながらも『エスヴィアの長虫』を倒したことを笑って自慢していた。ケイルの周りに集まる人たちは皆彼を心配しつつも讃えていた。レクトにはそれが不思議でならなかった。同時にケイルの生き方がどうしようもなく眩しくて、格好いい物だと思えてならなかった。いつしか、自身もケイルのようになりたいと考えるようになりケイルの後を付いていくことが当たり前のようになっていった。
しかしそんな日々も突然終わりを告げた。ある依頼の最中になんらかの武装集団と遭遇したからだ。その中にはレクトが知っている男もいた。武装集団は有無を言わせずに襲い掛かりケイルの仲間達を殺していった。レクトも戦ったが途中からケイルに気絶されどこかに隠されることとなった。気が付いた時には戦いが終わっていた。男が異形の剣をケイルに突き立てている光景を目にした。レクトは思わず飛び出しケイルに駆け寄った。だがケイルはすでに事切れていた。レクトは男を睨みつけてたが同時に恐怖で足がすくみそこから一歩たりとも動くことができなかった。男はそんなレクトを見て鼻で笑った。
「弱い奴から死んでいく。この世の当然の摂理だ」
男はそう吐き捨てた。一歩も動くことのできないレクトと事切れ地面に倒れ伏すケイルを嘲笑いながら。
「今日も俺は強くなった。『エスヴィアの英雄』をこの手で殺してな。気分がいいから見逃してやる。いつぞやの時みたいにな」
そう言って鼻歌でも歌いそうな雰囲気のまま、背を向ける。ケイルとレクトを嘲笑うように。
「お前も強くなれ。いつか殺して糧にしてやるからよ」
男はそう言い残しその場を立ち去った。レクトだけが取り残された。誰も生きてはいない。ケイルも、依頼を共に受けた彼の仲間達も、襲ってきた集団も。どれだけ声をかけてもケイルは起き上がることはなかった。目を開けたまま、血を流し続けるばかりだった。もう声を上げることもなかった。レクトは慟哭した。ケイルの死を悲しみ、己の無力さを嘆きながら、それしかできない自分を呪って。レクトの慟哭が周囲にこだますだけで虚しく空と降り出した雨に溶けていった。
それがレクト=ギルノーツの過去だった。それを聞いて最初は明かるげな表情を浮かべていたコトネも次第に顔を曇らせっていった。知らなかったのだ。レクトにそんな過去があることを。ただ知りたかっただけだった。何故レクトが辛そうにしていたのか、固有魔法を通じて流れ込んできた暗い感情について。
「オレはあの男を殺さないといけないんだ」
ぽつりとつぶやいた言葉に、コトネは尋ねた。あの男とは誰なのかを。レクトはすぐに答えた。
「リベリオ=ギルノーツ。ギルノーツ家を焼いて、大勢の人を殺して、多分母さんも殺したアイツをオレは殺さないといけないんだ」
その言葉と共にレクトから強い自責の念と苦しみを固有魔法を通じて流れ込んでくる。どうして、そんな言葉が零れた。
「オレは母さんもリベリオに殺された人たちを見捨てた。ケイルもそうだ。オレが見殺しにした」
「そんなの……レクトが悪いわけじゃないじゃん!? リベリオって人が悪いのに何で……!?」
「オレがアイツの腹違いの弟だからだ! アイツを見過ごしたせいで母さんも何の罪もない人たちも……ケイルも死んだ! アイツに殺された!! アイツの血が流れてるオレも同罪だ……! きっとみんなそう思ってるさ! ケイルも………………オレを恨んでいるに決まっている!」
「そんなの……レクトが悪いわけじゃないじゃん!? リベリオって人が悪いのに何で……!?」
「オレがアイツの腹違いの弟だからだ! アイツを見過ごしたせいで母さんも何の罪もない人たちも……ケイルも死んだ! アイツに殺された!! アイツの血が流れてるオレも同罪だ……! きっとみんなそう思ってるさ! ケイルも………………オレを恨んでいるに決まっている!」
レクトは顔を覆いながら声を張り上げる。自分が悪いと言い聞かせるように、本当に自分のせいだと言わんばかりに。ひたすらに強い罪悪感がコトネの中に流れ込んでくる。
「……レクトは悪くないよ」
コトネはそういうがレクトに届くことはなかった。オレが悪いんだ、レクトは再びそう呟いた。それを聞いたコトネは悲しげに表情を歪ませる。どうにかしたいのにどうにもならない自分の無力さが恨めしかった。
しばらくして、コトネはレクトの上から退いて部屋を出て行こうとする。唐突にレクトは飛び起きベッドから転がるように離れる。その瞬間、スワンプスネイルが窓を突き破りレクトの部屋に侵入してきた。
「うえぇぇぇぇ、気持ち悪い……」
深夜のエスヴィア冒険者街にてエレナとユーインの肩を借りて歩きながらカシャギは吐き気をこらえていた。酒場はとうに閉まっている。原因は分かり切っていた。
「飲み過ぎよバカ」
エレナはそう切り捨てる。あの後、エレナとユーインの奢りであることをいいことに大量のビールを注文し全てを飲み切ったのだ。気が付けば周りにいる冒険者達もカシャギの飲みっぷりに興奮しあれよあれよと集まりだし酒飲み対決から始まるどんちゃん騒ぎとなっていた。当然そんな無茶な飲み方をしてしらふでいられるはずもないのは自明の理と言える。吐き気を催すレベルで盛大に酔っぱらっても当然と言えたのだった。
「……なんでこんな奴を差別してたんだろうか……。悪魔なんて上等なもんじゃないただの酔っぱらいを……」
一方ユーインはユーインでカシャギの醜態を見て自身の差別的感情に疑問を覚えていた。ほのかに罪悪感も感じるのは気のせいじゃないとエレナは思いたかった。
「ほんと、いい奴なのにね……酒カスなのが最大の欠点だわ」
そんなことを言い合いながら宿屋を目指していたが、途中でカシャギが吐きそうになっていたため休むことになった。カシャギは近くにあったどぶ溝に盛大に吐いている。ユーインは若干罪悪感があるような表情を浮かべながらカシャギの背中をさすっている。そんな時だったエレナは背後から殺意を感じたのかとっさに前に転がり、彼女の首があった空間を鋭いナイフが勢いよく横切る。
背後を振り向くとそこにはボロボロの外套を纏った小柄な少女がナイフを片手に持ちながら立っていた。そして背後から大きなハルバードを引き抜きエレナに突き付ける。
背後を振り向くとそこにはボロボロの外套を纏った小柄な少女がナイフを片手に持ちながら立っていた。そして背後から大きなハルバードを引き抜きエレナに突き付ける。
「貴女達に問う。コトネ=フィームはどこにいますか?」
フードの奥から銀髪と鋭く光る碧い瞳が垣間見えた。
エスヴィア冒険者街から少し離れた小さな林にウルム=ウォルムードは訪れていた。レクト=ギルノーツに締め上げられた後何か証拠が出てこないか隷属精霊に尾行させていたが何もなく、定期報告の時間が近づいてきたため調査を切り上げカルツェン猟兵隊のメンバーとの合流地点に来ていたのだ。何かしら手柄を挙げようとしていたのだが上手くいかなかったため他のメンバーからいいように笑いものにされるのだろうと考えると憂鬱な気分となる。
渋々ながら合流地点に辿り着いたウルムは異様な光景を目にすることとなった。カルツェン猟兵隊のメンバーが全員惨殺され血の海が広がっていたのだ。仲間達の遺体を調べてみれば全員鋭利な刃物のようなもので殺されていることが見て取れた。エスヴィア冒険者街からこの林まで来るのにそこそこに時間はかかる。メンバーの遺体の状態から見て殺されてからある程度の時間は立っていると見て言い。レクト=ギルノーツがエスヴィア冒険者街からここまで来て兵たちを殺したとは考えられなかった。
渋々ながら合流地点に辿り着いたウルムは異様な光景を目にすることとなった。カルツェン猟兵隊のメンバーが全員惨殺され血の海が広がっていたのだ。仲間達の遺体を調べてみれば全員鋭利な刃物のようなもので殺されていることが見て取れた。エスヴィア冒険者街からこの林まで来るのにそこそこに時間はかかる。メンバーの遺体の状態から見て殺されてからある程度の時間は立っていると見て言い。レクト=ギルノーツがエスヴィア冒険者街からここまで来て兵たちを殺したとは考えられなかった。
「……最悪だ」
そんな言葉が零れる。今までレクト=ギルノーツが怪しいと踏んでいたのにここに来てその候補から外れた上に調査が振り出しになった挙句、新たな謎が増えたのだ。どうすべきか考えているとふと、血の跡がある方向に向かって残っていた。血を辿っていくとある地点から徐々に薄くなっていったがある程度場所は絞り込めた。エスヴィア冒険者街だ。それも自分が来たルートとは別のルートで向かっている。
行幸と言ってよかった。今すぐ向かえば犯人を捕らえられるかもしれない。ウルムは急いでエスヴィア冒険者街へ向かう。カルツェン猟兵隊メンバーを殺した犯人を殺して柄を挙げるために、夜の林道を駆け抜けていった。
行幸と言ってよかった。今すぐ向かえば犯人を捕らえられるかもしれない。ウルムは急いでエスヴィア冒険者街へ向かう。カルツェン猟兵隊メンバーを殺した犯人を殺して柄を挙げるために、夜の林道を駆け抜けていった。