リップシュタット戦役は前世世界の宇宙暦797年3月19日から同月8月まで銀河帝国領で行われたクーデター。

1 騒動の背景

 宇宙暦796年(帝国暦487年)10月14日、諸惑星の自由第2戦・アムリッツァ星域会戦直前に第36代皇帝・フリードリヒ四世がに急性心疾患で死去、しかも後継者を決めずに。国璽と詔勅を掌る国務尚書クラウス・フォン・リヒテンラーデ侯爵はエリザベートサビーネエルウィン=ヨーゼフ二世の中からルートヴィヒ皇太子の息子・エルウィンを第三七代皇帝に擁立する。更にその武官代表として帝国元帥・ラインハルト・フォン・ローエングラム伯爵を侯爵に擁立する。この事にエリザベート、サビーネの父親のオットー・フォン・ブラウンシュヴァイク公爵とウィルヘルム・フォン・リッテンハイム侯爵、更に彼らを支えラインハルトを毛嫌う門閥貴族は皆失意し大激怒。こうして皇帝派(リヒテンラーデ=ラインハルト枢軸)と反対派(ブラウンシュヴァイク=リッテンハイム連合)との確執はより深刻化しラインハルトは因縁の門閥貴族と遂に決着をつける時が来たのでありました。それに先立つ同年11月、ラインハルトは戦力が弱まった自由惑星同盟にも同様なうちわもめをさせ更に瓦解させようとエル・ファシルの逃亡者という思想犯となり辺境星区の矯正区にある捕虜収監所で酒浸り生活をしているアーサー・リンチ少将に計画を説明させ捕虜交換式と称してフェザーンから秘密裏に惑星ハイネセンに帰還させ士官学校の先輩で現在は国防委員会事務総局査閲部長を務めるドワイト・グリーンヒル大将にクーデター・救国軍事会議を起こさせる。宇宙暦797年(帝国暦488年)2月初旬頃、この論争にある1人の貴族が悩みを抱えていた。フランツ・フォン・マリーンドルフ伯爵である。彼は昨年のカストロプ星系の動乱で当時少将だったジークフリード・キルヒアイスに助けられラインハルト陣営には深い恩義があったが、中立を望み帝国貴族ならそれが定めだと反対派につこうとしたが、その事に娘のヒルダがラインハルト陣営の利点と反対派の欠点を父親に解かりやすく説明し自分が家を代表してラインハルト陣営に加わると言うのでありました。そんな娘を見て父親は納得したかのようにヒルダに全てを託しました。6日間の宇宙旅行を経てヒルダは帝都オーディンに到着し宇宙港からローエングラム元帥府へ向かいました。そして応対室でラインハルトと初めて会い会談を始めました。ヒルダの貴族の令嬢らしからぬ発言見てラインハルトは彼女を温かく迎え入れマリーンドルフ伯爵家の家門、領地を安堵する保証書を渡す約束を取り交わしました。そこにカール・グスタフ・ケンプ中将からリップシュタットの森に位置するブラウンシュヴァイク家の別荘に大量の門閥貴族が集まり不穏な動きがあると報告が入った。集会の名目は園遊会と古代名画のオークションと思われていたが本質は皇帝派を呼号する決起集会であり、この時おこなわれた愛国署名の文面は、リヒテンラーデ公・ローエングラム侯を非難するとともに、伝統的貴族階級をして王朝守護を担うべき選良と謳ったものであった。この「愛国署名」をリップシュタット盟約と通称し、これをもって門閥貴族による軍事組織・リップシュタット貴族連合が誕生した。

2 リップシュタット貴族連合

参加した貴族は3740名。正規軍と私兵を合わせると総員2560万人。
氏名 階級 役職
オットー・フォン・ブラウンシュヴァイク 元帥、公爵 盟主
ウィルヘルム・フォン・リッテンハイム 上級大将、侯爵 副盟主
ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ 上級大将 総司令官
ベネティクト・フォン・オフレッサー 上級大将
マクシミリアン・フォン・ヒルデスハイム 大将、伯爵
アルフレット・フォン・ランズベルク 大将、伯爵
クルト・フォン・シュターデン 大将
アーダルベルト・フォン・ファーレンハイト 中将
マクシミリアン=ヨーゼフ・フォン・フレーゲル 少将、男爵
アンスバッハ 准将
アルツール・フォン・シュトライト 准将
アントン・フェルナー 大佐
レオポルド・シューマッハ 大佐
アルベルト・フォン・ラウディッツ 中佐 ウェーゼル狙撃兵大隊
ベルンハルト・フォン・シュナイダー 少佐
ヤーコプ・ハウプトマン 少佐
コンラート・リンザー 大尉 輸送艦デューレン8号副長
コンラート・フォン・モーデル 輸送艦デューレン8号所属

当初司令官はブラウンシュヴァイク公爵直々にやる筈だったがリッテンハイム侯爵が「盟主が軽々に前線指揮に出るべきではなく、専門の職業軍人を総司令官につけるべきだ。」と言いメルカッツを推薦、他の貴族達も賛同した為、ブラウンシュヴァイク公爵はメルカッツの総司令官就任を要請するも中立的立場を望むメルカッツは貴族連合軍にもラインハルトにも就く気は無いと固辞を通そうとした。しかしブラウンシュヴァイク公爵のしつこい説得でやむなくメルカッツは「実戦の全権を委ね指揮系統を統一する事、地位身分にかかわらず命令に従い反すれば軍規に則り処罰を受ける事」という条件を受け入れる形で受諾する事となった。

3 戦火

3-1 第一次惑星オーディン制圧作戦

4月初頭、ブラウンシュヴァイク公爵の家に仕えるシュトライト准将とフェルナー大佐は戦争なんかせずラインハルト個人を暗殺すれば良いと進言するもブラウンシュヴァイク公爵は怒り狂いこれを却下した。だが諦めきれないフェルナーは配下のハウプトマン少佐らを連れアンネローゼを人質に取ろうと夜中にシュワルツェンの館を襲撃するもラインハルトとキルヒアイスは待ち伏せしたかのように館を固めていた。更に元帥府の部下達は軍部中枢を制圧・掌握しようと軍務尚書エーレンベルク統帥本部総長シュタインホフ幕僚総監ユリウス・フォン・クラーゼン両元帥、統帥本部次長・グライフス上級大将を拘束、更に参加した貴族も宇宙港を張っていたミッターマイヤー艦隊に宇宙空間内に張っていたキルヒアイス艦隊ロイエンタール艦隊ケンプ艦隊によって悉く逮捕された。
シュトライトはブラウンシュヴァイク公爵に捨てられたかのように置いてかれラインハルト陣営に逮捕された。元帥府に連行されたシュトライトはラインハルトに「あなたを放置しておけばこの事態になるのは判っていた。そうなればブラウンシュヴァイク家のみならずゴールデンバウム王朝は崩壊し帝国領は地獄と化したでしょう。我が主君に決断力があれば拘束されていたのはあなたの方だったでしょう。」と無念のように暗殺計画自供するのでありました。そんな彼を見てラインハルトは私の部下にならないかと誘うもシュトライトは「主君を裏切って敵の部下にはなれない。」ときっぱり断るのでありました。それを聞いてラインハルトは彼を釈放し自由にするのでありました。一方、逃げ切れないと判断したフェルナーは自ら憲兵隊に出頭し元帥府で自分のやり方をラインハルトに説明した。如何なる危機でも自分の才覚で切り抜ける事が出来ると考えている自信を言いラインハルトは彼をオーベルシュタインの副官に任命するのであった。
一方、ブラウンシュヴァイク公爵とリッテンハイム侯爵は民間船を盾に何とか難を逃れ、他の貴族や軍人と共にガイエスブルク要塞へ逃げ込みそこを本拠地に定めるのでありました。
リヒテンラーデ公爵はエルウィン=ヨーゼフ二世立ち会いの下、ラインハルトに帝国軍三長官を兼ねた帝国軍最高司令官の就任辞令を出し貴族連合軍討伐の勅命が下すのであった。ラインハルトは出発に先立ち軍務省の書記官から公称を求められていた。そこで彼は門閥貴族連合を賊軍と命名し、留守をコンラート・フォン・モルト中将に任せ出立、戦いは宇宙空間へ移されました。

3-2 アルテナ会戦

ラインハルトはキルヒアイスにルッツ艦隊ワーレン艦隊を傘下に置いて帝国辺境星域の鎮定にあたるよう命を下す。一方、ガイエスブルク要塞を本拠地・仮新無憂宮とし軍服を身につけた門閥貴族はラインハルトが公称した賊軍に大激怒。これを受けブラウンシュヴァイク公爵は今ある15万隻以上を首都オーディンから本拠ガイエスブルク要塞に至るまでを戦略縦深とし、航路上の9箇所おいた軍事拠点に配置した戦力をもって討伐軍に消耗を強い、最終的に消耗しきった討伐軍をガイエスブルク要塞から出撃した貴族連合軍主戦力が撃滅するという作案を提示する。だがこの作案にメルカッツは待ったをかけた。公爵の案には大きな欠点があったのだ。各拠点への兵力分散するとガイエスブルク要塞が手薄になり、討伐軍が通信・補給の遮断により各拠点を間接的に無力化してガイエスブルク要塞へと直行した場合には作戦じたいが無意味になるという危険があるからだ。そこでメルカッツは各拠点には偵察・監視の機能を担わせて実戦力はガイエスブルク要塞へと集中配備すればいいと提案した。だがこれにシュターデンが待ったをかけるかのように余計な作案を提示したのだ。討伐軍をガイエスブルク要塞に引きつける一方で大規模な別働隊により帝都オーディンを急襲、皇帝を擁して彼我の正当性を逆転させるものだった。これを聞いたランズベルク伯爵は歓喜するも誰がそれを実行するんですかと言われ結果シュターデンがヒルデスハイム伯爵を副司令官に16000隻を率いて自ら実行する事となった。4月19日、ガイエスブルク要塞に潜り込んだスパイの情報からラインハルトはシュターデンが教官時代だった教え子・ミッターマイヤーを呼び出し当時の話を聞いて彼に討伐の命を下しました。
ミッターマイヤー艦隊14500隻はガイエスブルク要塞と帝都オーディンとを結ぶ最短コース上に位置するアルテナ星系方面へと出撃させる。これに続き、ラインハルトの本隊もガイエスブルク要塞へと進発した。
両軍はアルテナ星系近辺の恒星間空間で対峙したが、それから数日の間、実際に両軍が砲火を交える事はなかった。討伐軍を指揮するミッターマイヤーは自艦隊の前面に600万個に及ぶ核融合機雷を散布して防壁となすと、あだ名に似合わず球形陣をとって動こうとしなかった。これを知ったシュターデンも何らかの策略を危惧して動く事が出来ず、状況を理解出来ないヒルデスハイム伯達を尻目に、状況は完全に膠着した。
膠着して3日目、ミッターマイヤーは大規模な討伐軍本隊が迫っているという正しい情報を流し、シュターデンの動揺を誘う。シュターデンはその情報が意図的に流されたものである事は察したものの、援軍の情報が正しければミッターマイヤーの消極的姿勢を説明出来てしまうだけにその意図が読めず混乱、結局は厳重警戒を指示するに留まった。しかし過熱したヒルデスハイム伯達はほとんど脅迫的に出戦を主張し、拒否すれば暴発的に無秩序な戦闘に突入する事必至の状況に陥ったシュターデンは積極的行動を余儀なくされる事となる。
貴族連合軍は、最低限の指揮統制を維持するべくシュターデンが立てた作戦案に従い全軍を2分すると、シュターデン直接指揮する8000隻がミッターマイヤー艦隊と交戦する為に左方向から機雷原の迂回を開始。残る半数はヒルデスハイム伯が率い、シュターデンと交戦するはずのミッターマイヤー艦隊の後背に回りこむ為右方を迂回していった。しかしミッターマイヤーは既にこれを予期して機雷原外側に艦隊を動かしており、まず秩序を欠く右翼ヒルデスハイム軍8000隻を機雷原との間に挟み込む形で粉砕。ミッターマイヤーはしかるのち、神速の用兵でもって時計回りにシュターデンの貴族連合軍左翼の後背を突き、こちらも壊乱した。だがその最中、シュターデンが青年貴族達の威圧と戦いのショックで胃を悪くし血を吐いて倒れてしまう。部下達の懸命な指揮でなんとか逃走してフレイア星系に位置するレンテンベルク要塞に避難し療養となった。結局、ラインハルトの本隊がアルテナ星域に到着するより先に戦闘は終結しました。そしてこの敗北にブラウンシュヴァイク公爵は怒り心頭でした。

3-3 レンテンベルク要塞攻略戦

ラインハルトはガイエスブルク要塞を攻略の本拠地を作ろうとレンテンベルク要塞を全力をもって制圧する事を提案しロイエンタールとミッターマイヤーに制圧の指示を下す。2人は駐留艦隊を圧倒して要塞内へと侵入し、外壁から要塞の死命を制する核融合炉への最短経路である第六通路に部隊を突入させるが、同通路の防御を指揮するオフレッサーの前に9回にわたり撃退される。頭を悩ませるラインハルトにオーベルシュタインは貴族連合軍に相互不信の種をまく為にオフレッサーを生け捕りにするよう提案する。そこにオフレッサーから通信が送られてきた奴はラインハルトだけでなくアンネローゼも侮辱したのだ。これにラインハルトは第激怒しロイエンタールとミッターマイヤーにオフレッサーの生け捕りを命じる。2人は直に出戦して、囮と陥し穴によってオフレッサーを捕獲し、第六通路を制圧したのであった。療養中のシュターデンはその状況のまま捕虜になる。
捕らえられたオフレッサーの映像を見ているラインハルトにオーベルシュタインは「オフレッサーは死を恐れない。今ここで殺せばゴールデンバウム王朝の殉教者として歴史に刻まれますよ。」と進言。そこでオフレッサーを何もせず無傷のままガイエスブルク要塞に送り帰すようラインハルトに提案するのであった。これにはラインハルトはおろか苦労して捕らえたロイエンタールやミッターマイヤーも大大激怒するもオーベルシュタインはその理由、内容を詳しく説明した。これを聞いたラインハルトは納得し作戦を決行するのであった。
何の疑いもなくガイエスブルク要塞に戻っで来たオフレッサーは到着早々アンスバ
ッハから嫌疑をかけれれていた。そして大広間に連れてこられたフレッサーは将兵全員冷徹な目つきに違和感を抱きそしてブラウンシュヴァイク公爵から「よく生きて帰ってこれたなオプレッサー。卿の部下で主だった者達が尽く公開処刑されたのに何故卿だけが生きて還ってこれたのだ!?」と言われ驚く。そして壁面に映し出されたレンテンベルク要塞で行われた公開処刑のVTRが映し出されオプレッサーはこれを引くなった。そうオーベルシュタインは門閥貴族の性格を利用し捕虜となった同僚・部下16名が処刑された映像を流した状況でオフレッサーを無傷のままガイエスブルク要塞に送り帰し味方から背信の嫌疑を受けるように仕向けたのだ。そして公爵から「どうだ何も答えられんかオプレッサー?貴様1人生きて還ったのは金髪の小僧に良心売り渡したからだろう。恥知らずの犬め!わしの首を手みあげに持ち帰るとでも奴に約束されたか!」と指摘される。これを聞いてオフレッサーはだと大叫びをしみんなに殴られながら公爵に襲いかかるもアンスバッハによって射殺される。アンスバッハは疑問に思うも公爵は「少々疑問はあったかも知れんが襲いかかったのが反逆の証拠だ。この事実はとりつくろっても隠し通せん。オフレッサーは味方を裏切った罪で死刑。そう全軍に伝えろ」と指示を出した。みんなに殴られ羨ましい顔して死しだオフレッサーの顔を見てアンスバッハは「そう羨ましい顔をするな。私だって明日どうなるのか判らないんだ。先に死ねた事を卿は天国で喜ぶんだな。」とこれがこれから起こる自分や連合軍の未来だと痛感するのであった。この報告はラインハルトにも伝えれれ自分はおろかアンネローゼをも侮辱した男の最期を聞いてホッとするのであった。こうしてオーベルシュタインは門閥貴族達に相互不信の種をまく事に成功したのだ。だがロイエンタール、ミッターマイヤーは自分の部下達を多く死なせてしまったのにその報復が出来なかったが悔しくて溜まらなかった。こうしてラインハルトはミッターマイヤー艦隊の参謀長・ディッケル中将を基地司令官に任命しレンテンベルク要塞はラインハルト軍の本拠地へと生まれ変わった。

3-4 キフォイザー星域の会戦

キルヒアイスは60回を超す戦いに悉く勝利した。その途中、地球教の巡礼者達を乗せたベリョースカ号と遭遇した。キルヒアイスは彼らの為に船内に簡易ベッドを取り付けたり食糧や医療品、乳児用のミルク、衣服等の不足品を提供してくれました。軍人とは思えない態度にマリネスクは感服するもボリス・コーネフは「お気の毒に」と喋った。彼は思った戦争が長引くこのご時世いい奴は早く死ぬと。
一方、貴族連合軍はオーベルシュタインの相互不信の種まき計画の影響でブラウンシュヴァイク公爵とリッテンハイム侯爵の確執が顕在化。侯爵は「辺境星域を奪回する。」という名分のもと、全軍の3割にあたる5万隻の大艦隊を率いてがイエスブルク要塞を出て行き、キフォイザー星域のガルミッシュ要塞に拠点を構えた。
この報告を受けたラインハルトはキルヒアイスに討伐の命を下す。5万隻に上るリッテンハイム艦隊に対しキルヒアイスは無秩序に構成された艦隊編成を見抜き本隊は高速艦隊800隻だけでいいから左翼のルッツが前、右翼のワーレンが後になる斜線陣をとるよう指示を出す。
会戦はリッテンハイム艦隊の砲火で始まった。左翼ルッツ艦隊は距離600万キロで砲撃を開始すると、そのまま前進を続け、両軍は艦載機も使用した近接戦闘に突入する。いっぽう右翼を担うワーレン艦隊はいまだリッテンハイム艦隊との距離を保っていたが、その影から艦艇わずか800隻からなるキルヒアイスの直属高速艦隊が躍進し、リッテンハイム艦隊左側面に回り込んで奇襲砲撃を加えた。
ワーレン艦隊と向き合っていたリッテンハイム艦隊はキルヒアイス本隊の攻撃に対応するため急ぎ左方向へ回頭を始めたが、この時ワーレン艦隊が砲撃を開始し、二方向からの砲撃を受けた事で一瞬の混乱を見せた。キルヒアイスはこれを見逃さず、直属高速艦隊に突撃を下令。もとより各種の艦艇が雑然と配置されていたために無秩序な様相を呈していたリッテンハイム艦隊の中央部を二度に渡り突貫して大混乱に陥れ、事前の作戦計画の時点でリッテンハイム艦隊の内情を見ぬいていたキルヒアイスの慧眼が証明される形となった。
このリッテンハイム艦隊の混乱が前線にまで及ぶと、ルッツ、ワーレン両艦隊も機を逸する事無く突撃に移行、リッテンハイム艦隊の敗北は決した。恐慌状態に陥った侯爵は旗艦・オストマルクとともに逃走し、その過程で、後方に控えていた自軍の輸送艦隊を邪魔だと言って砲撃するという惨事を引き起こしてしまった。
リッテンハイム艦隊は侯爵と共にガルミッシュ要塞に逃げ延びたのはわずか2990隻で18000隻が破壊され5000隻は逃亡、24010隻は何れもキルヒアイス艦隊に降伏するかもしくは拿捕される結果となった。その上、侯爵の味方撃ちで将兵の士気は著しく低下してた。
ガルミッシュ要塞の司令室でやけをおこして酒に溺れた侯爵は彼の逃亡により戦死した部下の復讐をはたそうとした士官がまいたゼッフル粒子によって爆殺される。こうして貴族連合軍は副盟主と全兵力の3割を失った。

3-5 シャンタウ星域の戦い

ロイエンタール艦隊はは討伐軍側の勢力拡大にともなってシャンタウ星域に進出。これに対して貴族連合軍はメルカッツ総司令官が大軍を率いて直接前線に出戦。
従前の戦闘と異なり、メルカッツが血気盛んな大軍を直接効率的に統率しえた為、貴族連合軍は粘りある攻撃と統一された動きによって、数に劣るロイエンタール艦隊に対し三次にわたる攻勢を実施するにいたった。ロイエンタール艦隊はこれをいずれも撃退したものの、貴族連合軍の攻勢の前に意外なほどの損害を受けた。
ロイエンタールは貴族連合軍の指揮官を把握していなかったが、戦況から対手がメルカッツに替わった事を推測。その指揮能力と彼我の兵力差の不利から、これまでのような圧倒的な勝利は不可能であり、シャンタウ星域防衛の為には多大な犠牲が必要となる事を認識して星域の放棄を決断する。この選択は貴族連合軍に初の勝利を与える形になるものの、死守する為の犠牲は同星域の戦略的重要性に見合うものではないという判断であった。
7月9日、後退の準備としてロイエンタール艦隊は全方面で攻勢を実施する。戦線数カ所へ兵力を集中したロイエンタール艦隊に対し、貴族連合軍は艦列を崩す事なく迎撃に移り、ロイエンタール艦隊の攻勢限界にあわせて反撃を開始した。これを受けたロイエンタール大将は戦列中央の後退と両翼の横展開によって艦隊を凹形に再編成し、貴族連合軍の突出を誘うかのような体勢を作り上げたが、これは撤退を容易にするための偽装であった。
ロイエンタール艦隊の再編成はメルカッツからも明瞭に見て取れた為、諸参謀も突出の危険性を具申している。メルカッツはその動きの不自然さからむしろロイエンタール艦隊が後退する可能性を予測していたが、貴族連合軍全体が持つ無謀無秩序さへの懸念から戦術的に慎重方針をとらざるをえず、またロイエンタール艦隊の撃滅を戦略目的としているわけではない事もあって、参謀の意見を受け入れ追撃を緩和した。ロイエンタール艦隊はその後も慎重に凹形陣形を維持して追撃に備えつつの後退を続けたが、星域外縁部に達すると一転して球形陣を形成し、最大限の速力で撤退に移った。こうしてシャンタウ星域は貴族連合軍の支配領域として確保された。
ロイエンタールがシャンタウ星域を放棄した理由をラインハルトも理解するところであった為、その敗北は問題とはされず、むしろロイエンタールが示した戦略レベルの視野が高く評価される事なった。
一方、貴族連合軍は戦役中初の勝利に湧き、その立役者であるメルカッツを全面的に賞賛した。当のメルカッツは、自軍の勝利というよりもロイエンタール艦隊が星域を放棄したにすぎないとして貴族たちの楽観を諌めたが、勝利に水をさすかたちとなったこの諫言は貴族連合内の空気を転換するにはいたらなかった。そしてこの時、メルカッツはリッテンハイム侯爵がブラウンシュヴァイク公爵との確執の末、全兵力の3割を率いてガイエスブルク要塞から出発した事を知るのであった。

3-6 ガイエスブルク要塞攻防戦第1回戦

シャンタウ星域の戦いの勝利に沸く貴族連合軍に7月末、ラインハルトは「蒙昧にして臆病な貴族共よ。ネズミの尻尾の先程でも勇気があるなら要塞を出て堂々と勝負せよ。その勇気がないなら内実のない自制心など捨てて降伏するがよい。生命を救ってやるばかりか無能なお前達が食うに困らぬ程度の財産を持つのも許してやる。先日、リッテンハイム侯は人柄に相応しい惨めな最期を遂げた。同じ運命を辿りたくなければ、無い知恵をしぼって、より良い道を選択する事だ。」と古典的な決戦状を送付してきました。その無礼な内容によって連合軍を挑発。そこにミッターマイヤー艦隊がガイエスブルク要塞の主砲射程外を遊弋するのであった。これを見たメルカッツは討伐軍側の策略であると認識し、要塞からの出撃を堅く禁じた。しかし挑発を受ける側であるフレーゲル男爵ら青年貴族達は忍耐を欠き、わずか3日目にして激発同然の出撃に及んだ事で戦闘が開始される事となった。
フレーゲル男爵らの襲撃を受けたミッターマイヤー艦隊は潰乱状態をみせ、多くの軍需物資を放棄して撤退した。これは連合軍の油断を誘うため擬態として行われたもので、連合軍ではブラウンシュヴァイク公爵自身が戦果を絶賛したのをはじめ自軍の圧勝を疑わず、討伐軍を過小評価する事となった。
ガイエスブルク要塞に戻ってきたフレーゲル男爵らはメルカッツから怒号を浴びせられ軍法会議への出頭準備を通達するも男爵らは自殺をほのめかすなど強く抗議したが、ブラウンシュヴァイク公爵は、事態を盟主自身の権限に属するものとし、具体的な対処を行わなかった。これ以降、メルカッツの総司令官としての影響力は著しく低下し、門閥貴族達はメルカッツの命令を無視し、統率を欠くようになっていく。
連合軍を油断させたラインハルトは機を見て麾下の各艦隊をそれぞれの戦区に配置するとともに、再びミッターマイヤー艦隊をガイエスブルク要塞へと送った。8月15日に来襲したミッターマイヤー艦隊は、前回と異なり長距離レーザー水爆ミサイルを撃ちこむなど積極的にガイエスブルク要塞を攻撃した。対する連合軍はブラウンシュヴァイク公爵の直接指揮のもと、統一された指揮系統をもたないままガイエスブルク要塞を大挙出撃して迎え撃つ。
両軍の戦闘は長くは続かず、後退を始めたミッターマイヤー艦隊は連合軍の総力攻勢にそのまま敗走した。これも前回同様擬態であり、討伐軍の縦深陣に連合軍を誘い込むためのものだった。猪突追撃にうつった連合軍は、戦闘に参加していたファーレンハイトから深追いの危険性が呼びかけられた事で速度を緩めて再編成を試みるも、ミッターマイヤー艦隊が時機を捉えて反撃と貴族連合軍側の再反撃に対する再後退を繰り返した為、戦列を前後に伸び切らせたままに縦深陣へと誘引される事となった。
何度目かの反撃に移ったミッターマイヤー艦隊は、過去にない圧力と速度で猛反撃を加え、貴族連合軍の先頭集団を撃砕した。もともと無秩序だった連合軍は一挙に混乱を極め、ファーレンハイトが抗戦を断念して急速後退を指示したのに従って戦闘宙域からの撤退を開始する。しかし討伐軍の縦深陣はこれを予期したもので、左右側面からケンプ艦隊メックリンガー艦隊が迫り、両艦隊からのがれた先では黒色槍騎兵艦隊ミュラー艦隊が両側面を衝いた為、連合軍は効果的な反撃も出来ないまま全面敗走を余儀なくされた。
敗走と追撃のなか、ロイエンタール、ミッターマイヤーの両艦隊は敗走するブラウンシュヴァイク公爵を捉えかけた。しかしその時、連合軍後衛にあったメルカッツが近距離から猛烈な斉射を加え、突進中の為に後退命令を徹底できず混乱する両艦隊に対して軽快艦艇からなる接近戦に優れた直属艦隊を投入した為、討伐軍先頭集団はひるがえって劣勢となり、後退と再編に集中せざるをえなかった。メルカッツ艦隊はブラウンシュヴァイク公爵を収容してガイエスブルク要塞へと撤退し、連合軍は危うく完全崩壊をまぬがれる事となる。この腕にラインハルトはメルカッツを高く評価するも壊滅は時間の問題だと微笑むのであった。
ガイエスブルク要塞へ戻ったメルカッツはブラウンシュヴァイク公爵から「何故もっと早く救援に来なかった」と怒号を浴びせられた。この光景にシュナイダーは怒りをぶつけるもメルカッツに制止されました。そして公爵と別れた後、シュナイダーはメルカッツからブラウンシュヴァイク公爵が病人だという衝撃的な事実を聞かされました。「貴族病という精神面の病だ。その病気を育てたのは前にも言ったが500年前にも及ぶ貴族の特権と伝統だ。100年前なら病人と通じたかもしれないが今となっては卿やローエングラム侯のような若者や他人からすればただのきちがいと思われても仕方がないのだ。そういった意味では公爵は不運な被害者なのかもしれない。」とメルカッツは哀れのように語りました。これを聞いてシュナイダーは「確かにブラウンシュヴァイク公爵は不運な人かもしれないが、その人に未来を託さなければならない人達の方がもっと不運じゃないのか?」と辛い気持ちを募らせ宇宙空間を眺めていました。

3-7 ヴェスターラントの虐殺

追い詰められた貴族連合軍。そこにとあるシャトルがガイエスブルク要塞に到着しました。シャトルに乗ってた人物はブラウンシュヴァイク公爵の甥・シャイド男爵でした。彼が統治していた惑星ヴェスターラントにおいて民衆反乱が発生。シャイドは反乱を鎮圧しようとするも民衆の策略で起きた洪水で瀕死の重傷を負いシャトルで要塞に逃げるも着いた時には息絶えていました。これを知ったブラウンシュヴァイク公爵は大激怒し報復として13日戦争以来禁忌となっていた熱核攻撃を実行すると言い出しました。これにアンスバッハは「お怒りはごもっともです。しかし閣下の領地・ヴェスターラントに熱核攻撃を加えるのはいかがなものかと。それにローエングラム侯と対陣している今、余分な兵力を割くわけにはまいりません。そもそも全住民を殺すというのはあまりにも無謀、首謀者を即刻見つけ出しその者を処刑すればよろしいではありませんか。」と必死に反対し静止するも、公爵は「黙れ!ヴェスターラントはわしの領地だ。当然、わしにはあの惑星を身分卑しき者共を吹き飛ばす権利がある。ルドルフ大帝はかつて何億人という暴徒を誅戮あそばしゴールデンバウム王朝の基礎をお固めになったではないか。」と貴族病と甥を失った怒りで聞き入れてくれなかった。大広間を退室したアンスバッハは「ゴールデンバウム王朝もこれで終わった。自らの手足を切り取る事でどうして立っていられるのやら。」と無念事を言うのでありました。だがスパイとして潜り込みこれを聞いていたハウプトマンが公爵にバラしアンスバッハは牢にいれられ、更に攻撃中止を訴えるメルカッツも面会拒否され熱核攻撃はもう止められませんでした。
故郷が滅ぼされると聞いた貴族連合軍のヴェスターラント出身の兵士はガイエスブルク要塞を逃げ出しラインハルトのもとへ投降してきました。ハウブトマンからの報告も受け事情を知ったラインハルトは艦隊を率いて熱核攻撃を阻止しようとするもそこにオーベルシュタインが待ったをかけたのだ。アンスバッハとメルカッツが切り捨てられた今、更に内紛を深刻化させようとこの件は黙認し核攻撃で焦土化したヴェスターラントをビデオ衛星で撮影し帝国全土に流すよう進言するのであった。こうすれば民心を失い、戦争の終結が早まる事になるのは必然で更に貴族連合軍が最後まで抵抗を続けた場合、その間の両軍の戦死者は少なくとも1,000万人に達し熱核攻撃は何度でも起こると言い多くの犠牲を出さない為に、小さな犠牲を容認する必要があるというものだった。これに対しラインハルトは「人の命は数の多寡で計れるものではない」と言うもヴェスターラントの人民200万人と帝国領人民250億人と差の事を言われてラインハルトは黙認する事にした。そして言い訳は発射時間が予定より早かった事で派遣した艦隊は間に合わなかったと言えばいいとオーベルシュタインは進言しました。
その頃、ヴェスターラントでは人々によって集会が開かれていた。人々はこれからはラインハルトにお願いして自分達で星を切り開こう話し合っていた(自分達がラインハルトに見捨てられたとは知らず)。そこに貴族連合軍の熱核攻撃が発射され人民は命を奪われヴェスターラントは死の焦土となった。焦土化したヴェスターラントの映像を見たラインハルトは今になって取り返しのつかない事をしたと後悔するのであった。
その頃、帝国辺境星域の鎮定にあたりリッテンハイム侯爵を討ち取ってラインハルトに合流しようしていたキルヒアイスのもとに懐かしい客人がやって来たのだ。戦艦ブリュンヒルトの初代艦長・カール・ロベルト・シュタインメッツ准将だった。再会を喜ぶキルヒアイスだったがシュタインメッツはなんだか神妙な顔つきだった。そこにワーレンがある1人の人物を連れて来ました。それは貴族連合軍に所属しヴェスターラントの熱核攻撃を実行するよう指示されるも途中怖くなって逃げ出した兵士だった。彼の口から「何度も言いますがローエングラム侯は貴族連合軍の熱核攻撃を知りながら政治宣伝の為にヴェスターラントを見殺しにしたんだ。」というとんでもない噂を聞きました。キルヒアイスは驚きを隠し通せなかったが、そこにシュタインメッツが声をかけてきました。彼がここに来たのはその事だったのだ。シュタインメッツが疑問に思った事は2つ。1つ目は撮った映像が成層圏から撮られていた事、2つ目はその映像を撮ったビデオ衛星が派遣した艦隊より早く着いていた事、全てが作為的なもとだと感じられると。これを聞いたキルヒアイスは周り者全員に箝口令を出しました。そしてもしこの噂が事実なら自分達はこの先どうなるのかと不安な気持ちで一杯でした。
帝国全土に放送された焦土化したヴェスターラントの映像と内容は全人民に大きな衝撃を与えラインハルトは帝国人民に大期待をもつようになるがただ1人アンネローゼだけは弟が人がかわったんじゃないのか不安を抱いていた。一方、ブラウンシュヴァイク公爵や門閥貴族は彼らを支援した人民から一斉に離反されガイエスブルク要塞から孤立。更に内部では参加した兵士達のサボタージュやラインハルトに投降する者、貴族達には年老いた者、内戦で息子を失った者が相次いでラインハルトに対する憎悪と呪詛を並べ立てながら古代ローマ人に習った手首の血管切りや、毒ワイン飲酒等と自殺者が数多く現れ今まさに要塞は仮新無憂宮から門閥貴族の巨大棺へと変貌していった。
そしてラインハルトと合流したキルヒアイスは休息する暇も無くヴェスターラントの虐殺の噂をラインハルトに問いかけた。ラインハルトはオーベルシュタインにそそのかされた事は省き事実を認めるのでありましだ。これを知ったキルヒアイスは「ラインハルト様がお求めになるのは、現在の銀河帝国・ゴールデンバウム王朝に存在し得ない公正さに拠って意味があると考えておりました。門閥貴族達が滅亡するのはいわば歴史の必然、500年来のつけを精算するのですから流血もやむ得ない事です。でも民衆を犠牲になさってはいけません。新しい体制は解放された民衆を基盤として確立されるのです。その民衆を犠牲にするのはご自分の足元を掘り崩すものではありませんか。相手が門閥貴族達であればことは対等な権力闘争、どんな策をお使いになっても恥いる事はありませんが民衆を犠牲になされば手は血に汚れどのような美辞麗句をもってしてもその汚れを洗い落とす事は出来ません。ラインハルト様ともあろうお方が一時の利益の為に、なぜご自分を貶められるのですか。」と苦言を呈しました。この事にラインハルトは「お説教はもうたくさんだ!それにキルヒアイス、この件でいつお前は俺に意見を求めた?すんだ事だもう言うな。それとキルヒアイス。お前は一体俺のなんだ?」とその場から逃げようとするもキルヒアイスは「私は閣下の忠実な部下ですラインハルト様。私はこの件に意見を求めてはいません。ですが門閥貴族達はやってはならない事をやりましたが、ラインハルト様は成すべき事をなさらなかったのです。どちらが大罪でしょうか?」と返答した。これに対しラインハルトは「もういい!」と言ってキルヒアイスに命令があるまで部屋で休むよう退室させました。そしてラインハルトは立体映像レターを確認していました。2通目から6通目は無視し7通目のアンネローゼからの手紙を再生しました。「貴方にとって大切な物が何であるかをいつまでも忘れないで欲しい。時にはそれが煩わしく思うでしょうけど失ってから後悔するより失わない内にその貴重さを理解して欲しいの。何でもジークに相談して彼の意見を聞いて欲しいのよ。それでは帰る日を楽しみにしています。また遭う日まで」と聞き終えるとオーベルシュタインを呼び出し来るまでの間考えながらもう1度聞き直しました。そしてオーベルシュタインが入室すると1通目のヒルダからの手紙を再生しました。「リヒテンラーデ公爵が国政全般を総轄なさる一方、帝都にいる貴族達の間を熱心に動き回っておられます。何か遠大な計画を持っておいでのようですわ。」と、ラインハルトは思った古狸(リヒテンラーデ公爵)が自分を叩く準備を始めた事を。ラインハルトはオーベルシュタインにリヒテンラーデ公爵を討つ準備をするよう指示を出し、一方のオーベルシュタインはエルウィン=ヨーゼフ二世即位時から抗議していたNo.2不要論を再び言い出した。この戦争が終わったらキルヒアイスの階級はそのままでいいから彼をロイエンタール、ミッターマイヤーと同列に置くべきだと進言。無能なら無能なりに、有能なら有能なりに、組織を瓦解させます。No.1に対する部下の忠誠心は、代替の利くものであってはなりませると。このオーベルシュタインのしつこさにラインハルトはまいったなと言わざるを得なかった。同じ頃、人生で初めて仲に亀裂が生じる口論をし、お互いの精神的変化を引き起こした今回の出来事は元帥府の提督達にも広まっていました。ロイエンタールとミッターマイヤーはポーカーをしながらラインハルトとキルヒアイスの大口論が進展した場合、自分達はおろか部下達にも同様な亀裂が生じるんじゃないかと不安を抱き元凶であるオーベルシュタインを強く警戒するのでありました。
一方、ガイエスブルク要塞では連日兵士達のサボタージュや自殺者が相次ぎ残った門閥貴族達は皆失意の末凋落な思いで酒に溺れ生き残る選択肢を模索していた。ただ1人ラインハルトに闘志を燃やしているフレーゲル男爵は「金髪の小僧を討てば罪は消え我らの天下を取り戻せる!」と叫び権威と人望を失墜させ酒宴にふけり精神を鼓舞している伯父・ブラウンシュヴァイク公爵を説得させ残余の戦力をもって最後の決戦を挑むのでありました。

3-8 ガイエスブルク要塞攻防戦第2回戦

この無謀な出陣にファーレンハイトは「要塞の利を活かして長期持久戦に持ち込むべし」と強く抗議するもブラウンシュヴァイク公爵は「臆病者」と言って一切聞き入れてくれなかった。そしてメルカッツも無謀な出陣と判っているも黙々と従い、要塞に残るファーレンハイトに降伏を勧めました。
そして戦争は再開された。貴族連合軍の戦意は高く、猛烈な砲撃を経て力づくの突撃に移り討伐軍の砲艦部隊による連続斉射にも怯まず、低からぬ戦意をもって6回にわたる波状攻撃を敢行したが、波状攻撃により疲労したそのタイミングで討伐軍がキルヒアイスの高速巡航艦隊を投入すると、強烈な逆襲を受ける事となる。あわせて討伐軍主力が全面攻勢を実施するに及び、貴族連合軍の敗北は確定的となった。
敗走する連合軍各艦では、貴族将校に対し平民出身者が叛旗を翻し、内部抗争が酸鼻をきわめた。貴族将校を殺害して降伏する艦だけでなく、私刑行為に熱中するあまり降伏信号の発信を失念し破壊される艦、味方を撃って旗幟を鮮明にする艦もあった。フレーゲル男爵は戦艦同士の一騎打ちを望んでロイエンタールやビッテンフェルトに接触したが拒否される。この状況にシューマッハは生き延びるよう諫言するも男爵は逆ギレしてシューマッハを射殺するも部下の兵士達によって返り討ちにあい死亡。シューマッハはラインハルトに今更つく気はないから艦にいる部下達と共にフェザーンへ亡命する事にしました。そして討伐軍のスパイと工作員によってガイエスブルク要塞は占拠され帰路を阻まれ前線に孤立したメルカッツは旗艦の自室でブラスター自殺を図るもシュナイダーに制止される。そして彼から捲土重来の為、ヤン・ウェンリーを頼って自由惑星同盟への亡命を決めヤンのいるイゼルローン要塞へ向かいました。
一方、戦場を脱出し討伐軍に占拠されたガイエスブルク要塞に帰還したブラウンシュヴァイク公爵は牢に入れたアンスバッハを探していました。ようやく部下達によって牢を脱出したアンスバッハを見つけた公爵はラインハルトとの講和を決めました。自分ら門閥貴族は今後ラインハルトの覇権を支援し更に娘のエリザベートを彼の婿にすると、だがアンスバッハは「無益です閣下。半年前ならいざ知らず現在ではローエングラム侯がそんな条件を受け入れるはずがございません。彼は実力をもって地位を手に入れ誰一人それを阻む事は出来ないでしょう。」と言う。公爵は「わしは銀河帝国において比類ない名門・ブラウンシュヴァイク公爵家の当主だぞ。何故小僧がそれを受け入れんのだ!」と叫ぶもアンスバッハは「それだからこそです。門閥貴族の長でヴェスターラントの人民を無差別殺害し人道的なる敵と化した閣下をローエングラム侯は大不満をもった平民達に与するでしょう。今まで銀河帝国は閣下をはじめとする貴族の論理で動きましたがこれからは平民達の論理が宇宙の半分を支配する事になります。それを知らせる為にもローエングラム侯は閣下を殺すでしょう。いや殺さねばならないのです。そうしなければ彼の大義名分は成り立ちません。」と説明させ公爵に自決する道を望むように仕向けました。死ぬにあたって公爵は「金髪の小僧が帝位を簒奪するのはたえられん。奴はわしと共に地獄に堕ちるべきだ。なんとか奴が簒奪するのを阻止してくれ。それを誓ってくれればわしは自分1人の生命を惜しみはせん。奴を殺してくれ。」とアンスバッハに頼み、アンスバッハも最後の忠義の為、それを実行させ成功させると誓うのでありました。そして楽に死にたいという公爵の為に毒ワインによる自殺を勧めました。だが貴族病と死への恐怖で公爵はは「いやだ。死にたくない!わしは死ぬのはいやだ。領地や地位を差し出して奴に降伏し生命を全うしたい!」と大騒ぎをするもアンスバッハは公爵にある遺体を見せました。それは他でもない妻・アマーリエ・フォン・ブラウンシュヴァイクと娘・エリザベート・フォン・ブラウンシュヴァイクだった。これに公爵は「貴様何をした!」と騒ぐもアンスバッハは自分を牢から出したのはアマーリエとエリザベートで2人が「夫(父)を許して」と彼に詫びて自害した事を一切答えず部下達に公爵を押え無理矢理毒ワインを飲ませ殺害しました。こうして貴族連合軍の盟主でゴールデンバウム王朝名門・ブラウンシュヴァイク公爵家の最後の当主・オットーは裏切られた部下の手によって自業自得の最後を遂げました。そして死んだのを確認したアンスバッハは公爵の死体を医務室へ運ぶように部下達に指示しました。「これでゴールデンバウム王朝は事実上倒れた。次に来るのはグリューネワルト王朝か?ローエングラム王朝か?それとも」とアンスバッハは良からぬ事を考えながら呟きました。
その後も、ガイエスブルク要塞内では散発的な抗戦を試みる士官は存在したものの、貴族連合軍の組織的な抵抗は終結した。生き残った多くの貴族が降伏か逃亡を選びました。この情けない門閥貴族達の姿にロイエンタールとミッターマイヤーは「奴らの時代は終わった。これからは俺達の時代だ。」と胸を張りました。こうしてガイエスブルク要塞は討伐軍によって完全に制圧されリップシュタット貴族連合は崩壊しました。

4 終戦後

4-1 戦勝記念式典の悲劇(ローエングラム元帥暗殺未遂事件)

9月9日、ガイエスブルク要塞の大広間にて戦勝記念式典が行われた。その際、キルヒアイスは兵士からブラスターを取り上げられる。ラインハルトはオーベルシュタインの進言でキルヒアイスを部下扱いにしたからである。キルヒアイスは自分はラインハルトに捨てられたのではないのかと思いもう自分達はもう遠くの世界の人間になってしまったと直感する。
そして式典は捕虜の処遇から始まった。シュターデンは病気の為、そのまま病院送りとなりファーレンハイトは自分の愚かさを恥いた。そんなファーレンハイトを見たラインハルトは部下になる申し出を出し彼はそれを承諾し元帥府のメンバーとして提督の列に加わる事となった。そしてアンスバッハが自害したブラウンシュヴァイク公爵及び妻・アマーリエ、娘・エリザベートの遺体を運んできました。全員に確認させようと公爵の遺体の入ったケースを開き遺体を触ろうとしたその時、中から大きな筒状のものが現れたハンド・キャノンだ。アンスバッハは公爵を殺害した後、遺体を医務室に運んで内臓を取り出しハンド・キャノンを仕込んでいたのです。最後の忠義の為にハンド・キャノンを構え「ローエングラム候、我が主君の仇取らせて頂く!」と叫びラインハルトに向けて発射しました。だがキルヒアイスが体を張って位置をずらしたお陰でラインハルトに当たる事は無かったが、アンスバッハは左手にレーザー銃を仕組んた指輪をはめておりキルヒアイスに発砲、頸動脈を貫き致命傷を負わせた末、ケンプとビッテンフェルトに取り押えられる。そして取り押えられたアンスバッハはブラウンシュヴァイク公爵の遺体を見て「閣下、お許し下さい。このアンスバッハ無能にも誓約を果たせませんでした。代わりに赤毛の小僧の命をもぎ取って参りました。でずが金髪の小僧が地獄に落ちるには幾年かかかりそうです。力量不足ながら私がお供致します。天国にてお待ち下さい。」と言いロイエンタールの制止も虚しく奥歯に仕組んでいた毒入りカプセルを飲んで自害しました。他の提督達は直ちにアンスバッハやブラウンシュヴァイク公爵、アマーリエ、エリザベートの遺体を大広間から遠ざけました。ミッターマイヤーは血まみれのキルヒアイスを何とか助けようとするも討たれた所が悪くもう手遅れだった。そしてキルヒアイスは「ラインハルト様…ご無事、ですか…私は…もはやラインハルト様のお役には…立てそうもありません…申し訳、ありません…ラインハルト様…宇宙を…手に、お入れ下さい…それと、アンネローゼ様にお伝え下さい。ジークは、昔の誓いを守ったと……」と詫びラインハルトが叫ぶ中、みんなに囲まれ息を引き取りました。

ジークフリート・キルヒアイスは21歳。帝国軍若手No.2で将来を期待する名提督がポリス・コーネフの予言が的中したかのように不慮の死を遂げた。ラインハルトは油断と彼を部下扱いにした事で取り返しのつかない大悲劇を生み、最悪の友を失いました。

それから3日、ラインハルトは食事や睡眠もとらないまま保温ポットに入れられたキルヒアイスの遺体と共に大広間にいました。高級士官クラブに待機していた元帥府の提督達はラインハルトの虚脱状態がこのまま続くと組織が瓦解すると直ちに打開策を練っていましたがなかなか思いつかずアンネローゼに相談したいところだが逆に彼女までも虚脱状態になるのは明白だった。悩んだ末、この場にいないオーベルシュタインに知恵を借りるしかないと彼を呼びに行こうと決めたその時、まるで聞こえたかのようにオーベルシュタインが入室してきました。討議をしてもいい案が思いつかない提督達にオーベルシュタインは思いたったかのように「アンスバッハに「ブラウンシュヴァイク公爵家の名誉を守る代わりにラインハルトを抹殺せよ!」と彼を唆し実行させキルヒアイスを死なせた帝国宰相・リヒテンラーデ公爵を逮捕せよ。」と言い出しました。オーベルシュタインは今回の大悲劇を利用して背後の敵を打つというとんでもない打開策を提示してきたのでありました。怒りをあらわに驚く提督達だったが、この際これに乗るしかなかった。このまま放置しておくとリヒテンラーデ公爵の陰謀によって宮廷クーデターが発生しラインハルトはおろか自分達も排除されるのは確実だったからだ。ロイエンタールとミッターマイヤーはガイエスブルク要塞にオーベルシュタイン、メックリンガー、ルッツを残し、黒色槍騎兵艦隊、ケンプ艦隊、ワーレン艦隊、ミュラー艦隊、それにケスラー、ファーレンハイトを率いて早急帝都オーディンへ帰還しました。

4-2 第二次惑星オーディン制圧作戦

 ロイエンタール、ミッターマイヤー率いる艦隊は高速巡航艦隊20000隻だったがワープの繰り返しでヴァルハラ星系に着いた時には3000隻しかなかった。ミュラー艦隊800隻が衛星軌道を制圧し、他提督達の艦隊は大気圏に突入した後、湖水に半数は着陸するなどして素早く帝都オーディンの各省庁を制圧した。リヒテンラーデ公爵は居館の寝室のベッドに半身を起こして読書をしていたが、突然のうるささに起きて窓を見ると大艦隊が止まっていた。この光景に大激怒したその時、ロイエンタールが兵士達を連れ入ってきたのだ。ドアを蹴って入り見に覚えのない罪状を言われリヒテンラーデ公爵は怒りは頂点に達しながら「馬鹿者め!何の証拠があってそんな事を言うか。」と抗議するも「ほう、不逞極まる陰謀家の貴方が銀河帝国に証拠が必要だなんて珍しい事を言いますな。」とロイエンタールに皮肉事を言われ拘禁される。彼の一族や副宰相・ゲルラッハ侯爵も元帥府の提督達に拘禁され、ミッターマイヤーは宰相府へ向かい職員を全員取り押さえ国璽と詔勅を奪い取りました。こうしてゴールデンバウム王朝は事実上倒れました。
一方、未だにガイエスブルク要塞の大広間から動かないラインハルトは夢を見ていました。それはラインハルトとキルヒアイスが幼年学校の生徒だった頃フリードリヒから休暇をもらったアンネローゼと共にフロイデンの山荘で過ごした日々のものでした。彼らにとってアンネローゼに会うのは1年半ぶり事で3人にとってこの時が唯一の幸せな人時だったのです。そんな夢から覚めたラインハルトの前にオーベルシュタインが現れアンネローゼからFTLですと言われ彼に逆ギレしました。オーベルシュタインは誰もやらなかったキルヒアイスの訃報報告をさっきのFTLでアンネローゼに伝えたからだ。そんなラインハルトにオーベルシュタインは「閣下、私はまだ貴方を見放してはいません。ご自分をお責めになるだけで、私に責任を押しつけないのはご立派です。ですが、これ以上過去ばかりをご覧になって未来に立ち向かおうとなさらないなら貴方はそこまでの人です。宇宙は他人の手に落ちるでしょう。キルヒアイス提督が天国で情けなく思うでしょう。そうじゃなく姉上が怖くなかったらお会いになってください。」と言いラインハルトを通信室に向かわせた。
通信室に入ったラインハルトの目の前にあったのは悲しいアンネローゼの映像だった。彼女の最初の一言は「かわいそうなラインハルト。」だった。「あなたはもう失うべきものを持たなくなってしまったわね、ラインハルト。」と言われラインハルトはまだ姉上がいますと返答するが「そう、私達はお互いの他にもい何も持たなくなってしまった。たがら私は館を出ていきます。どこか静かな場所を探してください。そして当分お互い会わないほうがいいでしょう。私達は生き方がちがうわ。私は過去があるだけ貴方には未来があるわ。だから私が貴方の懐にいると足手まといにになりわ。疲れたら私の所へいらっしゃい。でも、まだ貴方は疲れてはいけません。」と別離を告げるのでありました。これをいわれたラインハルトは何も言わず受け入れました。そして最後にラインハルトはアンネローゼに問いましたキルヒアイスが好きだっのかと。返答はしなかったが姉の表情を見て思いました事実だという事を。こうしてラインハルトは野望の為にキルヒアイスを部下扱いにした事で彼の命を落とすだけなく姉・アンネローゼを遠ざけるという悲しく虚しい結末を迎えてしまいました。
アンネローゼとの会話後オーベルシュタインから事情を聞くラインハルト。そこに元帥府に戻ったロイエンタールからFTLが来ました。ラインハルトは拘束監禁したリヒテンラーデ一族の裁断を以下の通りに執行するよう命じました。まずリヒテンラーデ公爵には毒ワインによる自殺令、女子供は辺境に流刑、10歳以上の男子は全員死刑と、更にラインハルトはロイエンタールに付け加えてこういった。「卿等も同様だ。私を倒す自信と覚悟あるならいつでも挑んできても構わないぞ。」と。通信を終えたラインハルトはブリュンヒルトに乗り急ぎ帝都オーディンへ戻りました。

5 ローエングラム体制誕生

10月、帝都オーディンへ戻ったラインハルトは爵位を公爵に上り詰め現職兼務のまま帝国宰相に就任。またオーベルシュタイン、ロイエンタール、ミッターマイヤーの3人は上級大将に昇進し統帥本部総長代理、幕僚総監代理、宇宙艦隊副司令長官に就任。元帥府には降伏したファーレンハイトを始め、新たにシュタインメッツ、ヘルムート・レンネンカンプエルンスト・フォン・アイゼナッハが加わり統帥本部次長に就任したメックリンガーを筆頭に全員が大将に昇進しました。翌日にはキルヒアイスの国葬が執り行われ帝国元帥への昇進と帝国三長官、帝国軍最高司令官代理、帝国宰相顧問の称号が贈られました。数日後、アンネローゼはシュワルツェンの館を出てフロイデンの山荘に移りキルヒアイスの墓もその近くに立てられました。
最終更新:2025年06月04日 11:36