鉄道唱歌 東海道の巻2023

作詞:大和田健樹・古淵工機
作曲:多梅稚

鉄道唱歌と言えば東海道線……を現代の情景で歌ったらこうなりました。



1.玉の宮居(みやい)の御前(みまえ)より 眺むる煉瓦(れんが)の停車場(ていしゃば)は
 あれぞ東京ステーション わが国鉄路の始点なり

2.帝都繁華(はんか)の要(かなめ)なる 銀座の柳を横に見て
 有楽町]をすぎゆかば はや新橋に着きにけり

3.汽笛一声新橋と 詠まれし昔久しかり
 足元はしる地下鉄道 高架を行くは新交通

4.左に見えし庭園は 黒松 菜種の浜御殿
 右はそびゆる電波塔 登らば海の眺めよし

5.浜松町(はままつちょう)を発(た)つ道は これぞ東京単軌道(モノレール)
 ゆくて羽田(はねだ)の空港(そらみなと) 出で入る翼数しげき

6.田町(たまち)高輪大木戸(たかなわおおきど)を 過ぎて品川(しながわ)ステーション
 山手線に乗りゆかば  渋谷(しぶや)新宿(しんじゅく)すみやかに

7.大井(おおい)大森(おおもり)走りなば キネマに名を得し蒲田(かまた)駅
 つぎは川崎(かわさき)多摩堤 大師へ行くは乗り換えよ

8.右は総持寺諸嶽山(そうじじしょがくさん) 眺むる鶴見(つるみ)の停車場を
 すぎればはやも新子安(しんこやす) 猿田彦(さるたのひこ)のここに坐す

9. 横浜線の分かれ道  東神奈川(ひがしかながわ)あとにして
  つきし横浜(よこはま)ステーション 入りくる線路の数多なり

10.港開きて一世半(いっせはん) なお繁華なる横浜市
  時代(ときよ)うつりて高層の 棟々(むねむね)ならぶ摩天楼(まてんろう)

11.横須賀線は乗り換えと 戸塚で移り大船の
  次は鎌倉いざさらば 源氏の古跡や訪ねみん

12.源氏ゆかりの鶴岡(つるがおか) 八幡宮の大鴨脚樹(おおいちょう)
  別当公暁(べっとうくぎょう)の隠れしと 歴史にあるはこの陰よ

13.ここに開きし頼朝が 幕府の跡は何方(いずかた)ぞ
  松風さむく日は暮れて 答えぬ石碑も苔青し

14.長谷寺大仏極楽寺 白波すずし由比ヶ浜
  七里ヶ浜も江ノ島も 行くに電車の便りよし

15.窓より逗子を眺めつつ はや横須賀に着きにけり
  見よやドックに集まりし 国の守りぞ自衛艦

16.さらに進みて衣笠の 春は花咲く山桜
  菖蒲に藤も薫りよし 三浦(みうら)が城のあと訪わん

17.衣笠すぎて久里浜は 黒船きたる港の地
  上総金谷(かなや)は渡船(フェリー)にて 湾(いりえ)わたりて四十分(しじゅうふん)

18.また本線に立ち戻り 藤沢茅ヶ崎平塚も
  すぎゆく先の大磯は 海水浴のはじめの地

19.国府津降るれば旧本線 御殿場まわり峠道
  挑みて進む機関車の 煙も今や夢のあと

20.渡る酒匂の鉄橋を すぎて小田原ステーション
  天下の険(けん)の箱根へは こくばく繁(しげ)きバス電車

21.右に通いし新線は わが国鉄路の誉(ほまれ)なり
  その疾(と)さ雲を斬るがごと 大阪(おおさか)までも数時半(すうじはん)

22.小田原城を眺めつつ 早川(はやかわ)いでて相模湾
  根府川(ねぶかわ)真鶴(まなづる)湯河原(ゆがわら)も 湯あみに降るる人多し

23.はるかに見えし初島の 眺めもゆかし熱海駅
  伊東線路に乗り継がば 豆州(ずしゅう)下田もほど近し

24.丹那の山を切り抜きて 函南(かんなみ)いたるトンネルの
  工事は難航十五年 苦難のあとぞしのばるる

25.三島駅には官幣(かんぺい)の 三島大社の宮居あり
  駿豆(すんず)線路に乗り換えて 一夜泊まらん修善寺に

26.みなと沼津の市場にて あげたる魚(うお)は何魚ぞ
  白波みえて田子の浦 今や製紙の要なり

27.昔は船で通いたる 日蓮祖山の身延山
  今は富士よりのりかえて 身延線路の至るべし

28.鳥の羽音に驚きし 平家の話も昔にて
  富士川渡る鉄橋の 下ゆく水のおもしろさ

29.由比正雪(ゆいまさゆき)が生家なる 紺屋も近き漁港より
  出で発つ漁船の漁りしは 世にも名高き桜海老

30.つぎの興津の名物も これも名だたる興津鯛
  鐘の音響く清見寺(せいけんじ) すぎて清水の駅につく

31.日本武尊(やまとたける)が御つるぎの その名を受けし草薙を
  さらに西へと走(は)せゆかば つぎは駿州(すんしゅう)静岡市

32.安倍川渡り宇津ノ谷の トンネルすぎて焼津駅
  草なぎ払いし御つるぎの 御威(みいつ)やこの地の名の謂れ

33.ここは駿州随一の 規模誇ろいし大漁港
  鮪(まぐろ)鰹(かつお)も狭(せ)に乗せて 入りし漁船の勇ましや

34.春咲く花の藤枝も すぎて島田の大井川
  むかしは人を肩にのせ わたりし話も夢のあと

35.いつしかまたも闇となる 世界は夜かトンネルか
  小夜(さよ)の中山夜泣石(よなきいし) 問えども知らぬよその空

36.掛川袋井磐田駅 いつしかあとに早なりて
  さかまき来たる天竜の 川瀬の波に雪ぞちる

37.この水上(みなかみ)にありと聞く 諏訪(すわ)の湖水の冬げしき
  雪と氷の懸け橋を わたるは神か里人(さとびと)か

38.遠州(えんしゅう)一の大都会 物の音(ね)ひびく浜松に
  鰻(うなぎ)白子(しらす)の舞阪も すぎて浜名の橋の上

39.右は入海(いりうみ)しずかにて 空には富士の雪しろし
  左は遠州灘(えんしゅうなだ)ちかく 山なす波ぞ砕けちる

40.豊橋駅より豊川や 伊那路(いなじ)へ別つ飯田線
  東海道にてすぐれたる 海のながめは蒲郡

41.見よや徳川家康の おこりし土地の岡崎を
  矢矧(やはぎ)の橋に残れるは 藤吉郎のものがたり

42.安城刈谷うちすぎて 大府の次の大高を
  降りて昔の桶狭間(おけはざま) たずねて戦(いくさ)のあととわん

43.熱田(あつた)の宮に伏しおがむ その草薙の神つるぎ
  名高き金の鯱(しゃちほこ)は 名古屋(なごや)の城の光なり

44.市街のさかえ著(いちじる)く 誰(たれ)がよばんか中京(ちゅうきょう)と
  関西(かんせい)鉄路は艮(うしとら)へ 分かれて伊勢に至るべし

45.伊勢路(いせじ)の旅はまたの日と 木曽川(きそがわ)越えて美濃(みの)に入り
  ゆけばまもなく岐阜(ぎふ)の駅  岐阜には鵜飼(うかい)の見物あり

46.孝子が父をやしないし その説話ある養老(ようろう)の
  滝へ行かなば鉄路あり 大垣(おおがき)駅にて乗り換えよ

47.天下分け目の関ヶ原(せきがはら) 戦(いくさ)のあとも昔にて
  伊吹(いぶき)おろしのその山は 石灰岩の採石場(さいせきば)

48.山はうしろに立ち去りて 前に来たるは琵琶(びわ)の湖(うみ)
  ほとりに沿いし米原(まいばら)は 北陸線(ほくりくせん)の分岐点

49.彦根(ひこね)に立てる井伊(いい)の城 草津(くさつ)に販(ひさ)ぐ姥(うば)が餅
  変わる名所も名物も 旅の徒然(とぜん)のうさはらし

50.いよいよ近く馴れくるは 近江(おうみ)の湖の波のいろ
  その八景も居ながらに 見てゆく旅の楽しさよ

51.瀬田(せた)の長橋横に見て ゆけば石山(いしやま)観世音(かんぜおん)
  紫式部(むらさきしきぶ)が筆のあと のこすはここよ月の夜に

52.粟津(あわづ)の松にこととえば 答えがおなる風の声
  朝日将軍義仲(よしなか)の ほろびし深田は何かたぞ

53.琵琶のほとりの城跡(しろあと)は 膳所(ぜぜ)駅おりてほど近し
  比良(ひら)に八橋(やばせ)もみてゆかん 大津(おおつ)電車も便りよし

54.堅田(かただ)におつる雁がねの たえまに響く三井(みい)の鐘
  夕ぐれさむき唐崎(からさき)の 松には雨のかかるらん

55.むかしながらの山ざくら におうところや志賀(しが)の里
  都のあとは知らねども 逢坂山(おうさかやま)はそのままに

56.さらに高浜(たかはま)今津(いまづ)へは 山科(やましな)駅を乗り換えて
  湖西(こせい)線路の便りあり 敦賀(つるが)へゆくもただ一路

57.大石良雄(おおいしよしお)が隠れ家は 今消えはてて跡もなし
  赤き鳥居の神さびて 立つは伏見(ふしみ)の稲荷山

58.東寺(とうじ)の塔を左にて ゆけば七条(しちじょう)ステーション
  京都(きょうと)京都と呼びたつる 車掌の声もなつかしや

59.ここは桓武(かんむ)のみかどより 千有余年(せんゆうよねん)の都の地
  今も雲井の空たかく あおぐ清涼(せいりょう)紫宸殿(ししんでん)

60.東に建てる東山(ひがしやま) 西に聳ゆる嵐山(あらしやま)
 北は北山(きたやま)光悦寺(こうえつじ) 流るる水も数多し

61.祇園(ぎおん)清水(きよみず)知恩院(ちおんいん) 吉田(よしだ)黒谷(くろだに)真如堂(しんにょどう)
  流れも清き鴨川(かもがわ)に 君がよまもる加茂宮(かものみや)

62.夏は納涼(すずみ)の四条橋(しじょうばし) 冬は雪見の銀閣寺(ぎんかくじ)
  桜は春の嵯峨御室(さがおむろ) 紅葉(もみじ)は秋の高雄山(たかおやま)

63.琵琶湖を引きて通したる 疎水(そすい)の工事は南禅寺(なんぜんじ)
  岩切り抜きて船をやる 知識の進歩も見られたり

64.神社(じんじゃ)仏閣(ぶっかく)山水(さんすい)の ほかに京都の物産は
  西陣織(にしじんおり)の綾錦(あやにしき) 友禅染(ゆうぜんぞめ)の花もみじ

65.扇(おうぎ)白粉(おしろい)京都紅 また加茂川の鷺しらず
  土産を提げていざ立たん あとに名残は残れども

66.山崎(やまざき)おりて淀川(よどがわ)を わたる向こうは男山(おとこやま)
  行幸ありし先帝の かしこきあとぞ忍ばるる

67.淀の川船くだりしも 煙を吐きて行く汽車も
  昔がたりとはやなりて 今や電車の駆けるまで

68.おくり迎うる程もなく 茨木(いばらき)吹田(すいた)うちすぎて
  新大阪(しんおおさか)をすぎゆかば 梅田(うめだ)は我をむかえたり

69.わが国第二に位して 商工さかゆる大阪市
  安治川口(あじがわぐち)に入る船の 便りは今も絶え間なし

70.ここぞ昔の難波(なにわ)の津 ここぞ高津(たかつ)の宮のあと
  千古の英雄秀吉(ひでよし)の おもかげ城に残りたり

71.鳥も翔らぬ大空に かすむ五重の塔の影
  仏法最初の寺と聞く 四天王寺(してんのうじ)はあれかとよ

72.大阪いでて右左 建てりし工場(こうば)の狭間(はざま)より
  神崎川(かんざきがわ)の鉄橋を わたりてゆかば尼崎(あまがさき)

73.この駅よりは乗り換えて 芸術都市の宝塚(たからづか)
  池田(いけだ)伊丹(いたみ)と名にききし 酒の産地もとおるなり

74.神戸(こうべ)に今はつきにけり わが国五港のひとつにて
  集まる船の煙突(ファンネル)は 見れば世界の旗づくし

75.磯にはながめ晴れわたる 和田のみさきを控えつつ
  山には絶えず布引(ぬのびき)の 滝見に人ものぼりゆく

76.七度うまれて君が代を まもるといいし楠公(なんこう)の
  いしぶみ高き湊川(みなとがわ) 流れて世々の人ぞ知る

77.おもえば夢か時のまに 三百(みお)七十哩(しちじゅうり)はしりきて
  神戸の宿に身をおくも げに鉄道の恩ぞかし

78.明けなばさらに乗り換えて 山陽線(さんようせん)を進ままし
  天気は明日も望みあり 柳にかすむ月の陰

  天気は明日も望みあり 柳にかすむ月の陰

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最終更新:2023年03月31日 20:21