「相変わらず貧相な風体をしてやがる 久しぶりだなァ善逸」
実は柱稽古の辺りで鬼の最高幹部である 黒死牟と遭遇、戦う前からその圧倒的な実力を悟って命乞いし、
鬼舞辻無惨配下の鬼、それも敗死による欠員が出ていた「十二鬼月・上弦の陸」に成り下がってしまった。
この事実は鬼殺隊にも伝わっており、桑島翁は己の教え子から鬼を出した者は責任を取るべしという規律と、
獪岳を正しく導けなかった己への憎悪から、介錯もつけず切腹して長時間苦しむ形で自決した。
この事実を知った善逸はそれまでの弱気な態度が一転して修羅と化し、仇討ちするべく獪岳の討伐を誓った。
「俺は常に!!どんな時も!!正しく俺を評価する者につく! 」
同章で明かされた獪岳という人物は、才能には恵まれていたが 同時に承認要求と自己保身の塊であり、
他者より下に見られることを何よりも嫌っている男であった。
善逸を過剰に見下していた彼だが、実は獪岳も壱ノ型「だけ」使えず、
一連の行動は 「自分はあいつ(善逸)よりはマシだ」という自己正当化のようなものだった。
しかし、善逸と異なり勤勉な努力家だったのも事実であり、
桑島翁は兄弟子二人揃って足りない部分を補い合う形で継承者にしようと考えており、
善逸も獪岳のことは嫌ってこそいたものの彼の実力と姿勢だけは認めていたのだが、
獪岳は善逸と同列扱いされることを侮辱と捉え、最終的に桑島翁への恩義よりも命惜しさを優先して鬼となる事を選んだ
( 無論、実力的に逃亡も勝利も不可能な黒死牟に遭遇するという不運に見舞われたのも理由の一つだが)。
実は入隊以前にも鬼相手に命乞いをして生き永らえた過去があり、世話になっていた孤児院で盗みを働いている所を他の子供達に咎められ追放された際に遭遇、
保身のために鬼を孤児院へ案内し、子供達を襲っている隙に逃走したのである
(だが、これが後に 鬼殺隊最強の柱( 嘴平伊之助談) が誕生する切っ掛けとなった)。
獪岳は「自分は努力している」「だから認められて当然だし、生きてさえいれば勝ち」「生き残るために何でもする」という男で、
「自分は何をやってもダメだった」「だから鬼と戦えば負ける」「絶対に死ぬ」と泣き喚きながらも決して逃げなかった善逸とは、
その能力や性格、スタンスを含めて、まったくの正反対、対極のような人物であった。
善逸からは、師匠や自分から特別で大切な存在として扱われるだけじゃ満足できず、いつも不満を抱いていた事を指して、
「心の中の幸せを入れる箱に穴が空いていて、その穴に気づいて塞がない限り、決して満たされる事はない」と評されていた。
前述の幼少期の出来事を思えば、その当時から何一つ獪岳は変わっていなかったのだろう。
善逸との対戦時には人を大勢喰い血鬼術にも開花しており、与えた傷から体にイナズマのような亀裂が奔り肉体を罅割り続けさせる能力を備えていた。
強化された雷の呼吸は防御しても余波だけで裂傷を生み、掠り傷でも一度食らえば時間が経過する程に傷が広く深く身体を蝕み、
いずれは致命傷に到る危険な能力である。
この能力と善逸を上回る手数、さらに手の内を把握している事もあり自分の勝利を疑っていなかったが、
未知の奥義「漆ノ型」により呆気なく頚を切断されて敗北。
未知の技を翁が善逸だけに教授したと考え「贔屓されていた」と恩師への罵声を喚き散らすが、
善逸から自分が編み出したオリジナルの型だと教えられ、散々見下していたはずの善逸に、
自分が実力はもちろん雷の呼吸の使い手としても及ばなかった事実を突き付けられる。
それでも性懲りもなく全力を使い果たし意識を失い転落する善逸を見ながら、
「自分と一緒に死ぬため負けではない」と負け惜しみの感情を抱くが……。
「…耐えられない 耐えられない!! そんな事実は受け入れられない!!
あんな奴に俺が? 俺が負けるのか? 頭が変になりそうだ」
「いや 違う 負けじゃない あのカスも落下して死ぬ
もう体力は残ってないはず アイツも俺と死ぬんだ」
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その末路 |
「人に与えない者はいずれ人から何も貰えなくなる
欲しがるばかりの奴は結局何も持ってないのと同じ」
「自分では何も生み出せないから」
「独りで死ぬのは惨めだな」
善逸に圧倒されながらも負けを認めず自分と共倒れしようとする彼を嘲笑う獪岳だったが、
突如として鬼殺隊員に化けて潜入していた愈史郎が現れ、彼に善逸を救出されただけでなく、
一連の戦いの言動に対する嘲りと侮蔑の言葉を投げかけられて「敗北」から目を背けることができなくなり、
もはや声にならない断末魔を上げながら消滅した。
一方、善逸は愈史郎の治療と村田などの仲間のヒラ隊士達が手負いを襲おうとする雑魚鬼を食い止めようと尽力した事により一命を取り留め、
道を違えたかつての兄弟弟子は何もかも対極的な結末を迎えた。
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