加東「…はぁ、その馬鹿な考えも、そこまで一直線に貫き通せば道になるのね…」
俺「ハッハ、扶桑海から3年間、ずっとこの信念で飛んできたからな。曲げもしなければ歪めてもいねぇ。正真正銘の一本道だ」
加東「…あなたとタヒチで会った時、私はあなたに言ったわね、裏切られた、絶望したって。撤回するわ」
俺「あ?」
加東「あなたはもう私達の仲間なのよ?…最初の態度、申し訳なかったわ」
加東は弱弱しく握手を求める。心で揺れる気持ちを知ってか知らずか、俺はその手をぐっと握る。
俺「ハッハ、あの位が丁度いいさ。楽しかったぜ?」
加東「…はぁーあなたが女の子達に好かれるのが分かった気がするわ」
俺「そうかァ?ハッハー、色男は辛いね!」
加東「まったく…ああ、あとマルセイユとトブルクを守ってくれてありがとね」
俺「…ほんとに心まで見えてんのか?」
加東「違うわよ!ただあの後考えたの。確かにあなた達は逃げられたわ。でもあなたはあの時点で増援が追いつかないと判断した。そしてそれは正しかった。
おそらくあなた達が命令に従えばトブルクは今頃やられていたわ…」
俺「買いぶり過ぎだぜ?俺はやりたかったから中尉と戦っただけだ」
加東「その力が敵に勝ると知っていたからでしょう?」ニヤ
確信めいた笑みで加東が俺を見上げる。
ぐっと俺は言葉を探すが見つからない…脳内でぱたりと白旗を上げた。
俺「……俺の負けだ。あんまり見抜かないでくれよ」フウ
加東「将軍達が気に入るのも分かるわね。確かにあなたは佐官級の力を持っている。
常に冷静に戦況を見極め、相手の弱点を見抜き、疲労させ、追い詰める…まさに虎のように容赦がなくね。
本当にピッタリよ。この名を付けた人に会いたいくらい」
俺「レーサー時代からの愛称さ…それに、あんまり褒めると調子に乗るぜ?」
加東「…はぁ馬鹿な弟を持つと苦労するのね」
俺「ハッハッハ、いつから俺はあんたの弟になったんだァ?」
加東「命令は無視するわ、勝手にマルセイユを連れまわすわ、単騎で突撃するわ…本当に手間がかかる」
加東「…ここでは仲間が居るのよ?」
俺「…そうだな、あんたらと戦えればもっと楽しくなるだろうよ」
加東「誰かの為に強くなると言ったわね。せめてここにいる間だけでも―――」
俺「ハッハ、何言ってやがる、誰かってのは何人でもいいのさ。…カトー、俺はそんなに器の小せぇガキじゃねえよ」ニカッ
加東「…ふふ、それさえ忘れなければいいのよ。さ、真美が作ってくれたご飯食べに行くわよ!」グイッ
俺「ああ、一番うまい時に食っちまおうぜ!」
ナアカトー ナニヨ オトウトトシテ、イイタインダガナ… ?イッテミナサイヨ ハヤク ケッコンアイ…グウッ!? ナ、ニ、ヲ、イウカァアアアア!!
ハッハッハ、マダ イナカッタ ノカ!? コノ、サッキノ ゼンブ、ナシ! ワーッハッハッハ!! ドタドタ…
―――――――――――――――――――
夕飯
マイルズ「へえ、ほんとに虎が来たのね。
ティーガーがあるのに」
俺「おっ、ティーガーってあれだろ?シャーロット軍曹――――」
シャーロット「シャーロットでいいよ?私も俺って呼ぶしさ」モクモク
俺「ok,シャーロット。なあなあ、ティーガーってどんなだ?強いのか?あの平面装―――!?」グシャァッ アツゥッ!?
フレデリカ「っふー…この頭の中覗いてみたいわね」コキコキ
シャーロ「や、やり過ぎ!これはいくらなんでもやり過ぎ!」ヒエエエ
加東「大丈夫よ。頭の中はパスタと浪漫の酒漬けが入ってるんだから」モクモク ベシベシ
俺「っぶはぁ!うん、うまいな肉じゃが!!」ベロン
マルセイユ「あの量を一瞬で…!?」センリツ
ペットゲン「さすが虎…大食らいね」ヒキ
稲垣「えへへ、作りがいがありますね!」ニパ
北野「さすがにあれは無いと思うんですが…」
俺「なあルコ!俺のマントどうだった?」
北野「ふぇっ?あ、ああ、少し縫えば終わりますよ。2,3日待って貰えれば完成です!」ニパ
俺「おおーさすが専門家は違うなァ」ナデナデ
北野「え?俺さんって縫物出来るんですか?」(わわっ///)
俺「ああ、ヒモ生活が長くって色んな事出来るようになっちまってなァ…掃除、洗濯、炊事に裁縫。ピアノにバレエ、
乗り物全般に乗馬、サーフィン、芸術も行けるな!」ドヤッ
加東「……なんであなた軍にいるのよ」ハア
俺「ハッハッハ!陸じゃ女の子を守れないからな!」
マイルズ「まったく、今日の活躍聞いたわよ?アンタ陸で戦いなさいよ。私の隊に入れてあげるから」
スプーンで俺の皿に肉を入れながらマイルズが言う。
嬉々として、それを頬張りながら昔の戦場を思い出す。
俺「ルーデルにも言われたよ、だがシールドが張れねぇから5分と持たないぜ?」
フレデリカ「あの人とも戦ったの…」
俺「オストマルクでな。ついでに銀狐ともだぜ?」モクモク
加東「私より知り合い多いんじゃないの?この遊び人」
俺「ハッハッハ、艶福家と呼んでくれ!」
マルセイユ「あ、そうだルコ。ついでに私のワイシャツも縫っておいてくれ」
北野「はい、大丈夫ですよ。…でもどうしたらあんな破け方するんですかね?」フーム
ふうむと唸る北野にさらっとマルセイユが答えた。
マルセイユ「ああ、コイツが破いたからな。仕方ないさ」マッタク ペチペチ
全員「「「「「…はい?」」」」」
またも
アフリカに電流走る。しかし朝の様に皿をひっくり返す者は一人もいない。
何故なら今回は、かわいいかわいい稲垣軍曹が頑張って作ったものなのだから!…無論、安全装置は外れる。
だんだんと空気が荒む中、俺はマルセイユと仲良くじゃれあう。
俺「あーそういえば。でも仕方なかったからなァ…俺は幸せだった!」
マルセイユ「あれのどこがいいんだ!このばか!!」ドスッ
俺「はっはっは!俺の腹筋は世界一ィイイ!!」
マルセイユ「…ッく!」
俺「いくらでも同じ――ポム―――あん?」
パットン「すこーし話が聞きたいなぁ…俺少尉」フゥー
ロンメル「ああ。何、酒もしっかり用意してある…」ゴキポキ
モンティ「さ、私達と一緒に来ようか…」コキコキ
俺「え、おい!馬鹿野郎!離せぇえええええ!!っくそ!中尉!約束は必ず!!」ズリズリ…
マルセイユ「あっはっは、早めになー」パタパタ
連合将A「泣くなお前ら!この悲しみを明日の決戦へとぶつけるのだ!」
連合兵a「はい!…次こそ…次こそ兄貴に勝って、必ずや女の子達と引き剥がしてみせます!」ガツガツ
連合兵b「a…俺も食べます、隊長!明日の為に…いや、女の子達の為に!!」モグモグ
連合将B「馬鹿野郎!…男の闘いに、為にも、必ずもねぇ!有るものは唯一つ…手前の意地だろうがよ…!!」
連合将兵「「「「「「…オウッ!!!」」」」」」」
―――――――――――――――――――――――――――
俺「あ゙ーひでェ目にあったぜ…」ザムザム
砂漠の夜は冷える。本当は中尉に選んでもらったあのマントを着ておきたかったが先の戦闘で破けたり焦げたりしてしまったのでルコの所に預けた。
晩の席で話したのでしっかりやってくれるだろう。
俺「宮殿ねぇ…あれかァ?」
とりあえず自分の天幕にでも戻ろうとして辺りを見回すと…なんとなく当たりの香りがする天幕を眺める。
さりさりと砂を踏みしめる音が耳に届く、ついと音源を見る。
「虎か」ザリ
俺「おお、あんたは昨日の槍投げの―――!?」ドッ
ざわりと辺りに殺気が満ちる。ネウロイなんかの比ではない、警戒だの疑惑だの色んなものをごちゃ混ぜにした圧が降って来る。
俺が咄嗟にステップを踏むと、さっきまで立っていた場所に槍が降って来た。
俺「ッハァ、何の用だい?お嬢さん」
「…戦え」チャキ
俺「…女と戦う趣味はねェんだがな」スッ
「その腰の獲物は飾りか?」ハン
俺「俺の身体じゃ不満かい?」ニヤ
「ふん、十分だ」ヒュオッ
暴風が首を落とさんと吹き抜ける。ナイフを追いかける視界にぼんやりと靄がかかった。
咄嗟に感覚を視覚から、まだ回復しない聴覚に切り替える。
俺「っとお、りゃっ!!」ゴッ
上体をそらし倒れ、後ろ手をついて彼女の足を払う。だが向こうも飛んで避け、蹴りと、投擲を試みる。
俺「うおっ!?」
左腕で体を無理矢理立たせ、避ける。驚いたのか向こうの動きが止まる。
せっかくなのでこちらも彼女の方を見る。あ、頬が切られてる
俺「いい腕だな。だが、これ以上傷が増えたらどうすりゃいいんだ?」グイ
「そのまま砂に埋めてやる」ヒュッ
またも暴風が襲い来る。だが…!
正面から飛んでくるナイフを俺は首を倒してよけ、そのまま彼女の眼前で拳を止める。
俺「ハァッハ…まだやるか?」ニィ
「…フンッ、良いだろう付いてこい」クルッ
ふっと笑い、さっと踵を反して彼女は天幕に向かって歩いてゆく。
俺も頬の血をぐいっと拭い走った。
―――――――――――――――――
「マティルダです。連れて来ましたよ」
俺「おう、中尉。邪魔するぜ!」バサッ
さっきまで夜の闇にいたせいで明るさが目にしみる。中からはほわりと甘く、良い香りが溢れてくる。
隣で彼女―マティルダが呆れたとでも言う様にため息をついていたが止めないあたり平気なのだろう。
俺「…へえ、確かに宮殿だな」
中にあったのは大量の、だが綺麗に整頓された酒瓶。そして飾ってあるのか、中身は無いがこちらも綺麗に並べられ、天幕内の灯りをその瓶の色で美しく反射し、輝いている。
本当にバーがあった。カトーが一人にしては広すぎると言ってたし、なるほど、これは素晴らしい空間活用だ。
そこから少し離れた所のソファーに中尉は座っていた。前にあるテーブルに小さな白ばらが瓶に活けてあるのを見つけ、俺の頬が緩む。
そんな俺を流し眼で見るなり、にっと彼女は笑った。時折ほうと紫煙を燻らせているのを見るに、ああ、あれが水煙草なのかと一人納得する。
マルセイユ「どうだ、気に入ったか?」
俺「ああ、まさか本当に宮殿があるとは…アラジンもびっくりだ」
俺「ハッハ、魔女じゃないか」
マルセイユ「ふふん、俺、ここで私を退屈させたら冷水を一杯飲んでもらうからな」
俺「はっはっは、砂漠の姫は随分と愛くるしいお方で」
マルセイユ「…それより少尉、手の怪我、見せてみろ」
俺「あん?弾痕はもう治療済みだぜ?」グッパ
マルセイユ「はぁ、私を騙せるとでも?右手の甲を見せてみろ」エイッ
俺「あで…分かったよ、ほら」シュルシュル
俺は右手の包帯を取る、患部にそのまま乾いた包帯を付けた為、かなりの痛みが伴うのか、ゆっくりと、時々顔を歪めながら取り、手の甲を見せる。
そこには右手の第二関節辺りから、手の甲全体に広がる裂傷と火傷、そして爛れた痕があった。
マルセイユが顔をしかめて俺をみやる。
マルセイユ「こんな傷…なんで隠した?」
俺「すまんな。だが――――」
マルセイユ「まったく…マティルダ、私は薬とかを取って来るからコイツの傷を洗ってやってくれ。酒はその後だ!」タタッ
またも話を遮り、走って行ってしまう。嘘が苦手な自分に内心舌を打ちながら、桶を持ってきた彼女を見た。
俺「…なんか悪りぃなお嬢さん」
マティルダ「…マティルダでいい、虎。手を出せ」
俺「おう、頼むぜ……なんか俺に恨みでもあるのか?別に何だって構わねえけどよ」
マティルダ「そこに座れ。…強いて言うなら、試しただけだ」パチャ
俺「あで、試しただぁ?」
マティルダ「そうだ。いつ、何時でも戦えるかな」
俺「ハッハ、それで戦って確かめようってか?」
マティルダ「そう言う事だ。確かにお前は強い。慢心もせず、己の限界も知っている」
俺「照れるじゃねぇか」ニシシ
マティルダ「…まだお前を認めた訳ではないが、空では鷲の使いを必ず守れ。いいな?」
俺「ハッハッハ、答えるまでもねぇな!当然だ。それに約束は守るぜ?俺の魂に懸けてな」
マティルダ「…それならいい。ほら、終わったぞ」
俺「んー結構酷いなァ…火傷と裂傷に瘴気の爛れ、しばらく右手は使えねぇな」
マティルダ「使わなければいいだけだ」
俺「ハハーン…無理だな!!」
マティルダ「…ケイ、がんばれ」ボソ
今度から朝食には、牛乳と胃薬を出してやろうと、マティルダは心に誓った。
――――――――――
マルセイユ「薬箱、薬箱…あーもう、こんなことならハルトマンに何か聞いておけばよかった!」タタタ
パタパタとマルセイユが天幕の間を走る。どこを探しても薬箱、救急箱が無い。
それに良く考えれば場所も知らないし…
マルセイユ「はぁ…誰か居れば……ケイ!」
天幕の間を彷徨っていると、二つ前の天幕からケイが出てきた。
思わず駆け寄り、その手を握る。
加東「あらマルセイユじゃない。どうしたの?」
マルセイユ「いや、救急箱、薬箱はどこだ?」
加東「はい」クスリバコー
マルセイユ「おお、気がきく…って、なんで分かったんだ?」
加東「んー?あなたこそなんで俺の事分かったのよ」
マルセイユ「質問を……包帯の巻き方が変だったからな、それにあんな事して拳がおかしくならない方がおかしいだろ?」
加東「ふふ、さすがね」
マルセイユ「ケイこそ――――」
加東「はいはい、早く治療してあげなさい。女の子が治してくれるってだけでもアイツは元気百倍なんだから」
マルセイユ「…そうだったな。ケイ、また明日」タタッ
加東「飲み過ぎないようにねー」パタパタ
走り去るマルセイユを見送りながら、ほっと隠していた酒を取りだし、頬ずりをする。
加東「ふいー危なかった…さーて、一人で一杯やりますか!」フフンフーン
―――――――――――――――
ぺたっ
俺「ゔぐぅうッ!?」
マルセイユ「こら、動くな!…ったく、ここまでやるとは馬鹿もいい所だぞ?」
天幕に悲痛な男の叫びが響く。マルセイユが隣り合って座り、テキパキと軟膏やらガーゼやらで右手を覆う。
軟膏が染みる痛みと、時折染み出る血を拭うガーゼがの擦れが痛い。
軟膏とガーゼに覆われる手の甲を見て、慣れていると感心するが痛い。
涙目になりながら俺はマティルダを見るがふっと笑って返された。
俺「馬鹿じゃなきゃ男なんて……ッ!」ギュッ
マルセイユ「ほら終わった。左手出せ」
俺「左は平気だぞ?ほれ」
マルセイユ「?こっちでも殴ったじゃないか」
そう言ってマルセイユは古傷ばかりで日に焼けた腕を重そうに持ち、なでる。
マルセイユ「……………」スッ
俺「手なんか合わせてどうしたんだ?」
マルセイユ「私より、大きいな」
俺「当たり前だろ?…こんなに小さい」グッ
合わせた手を少しずらし、両手で彼女の手を握る。女性にしては少し大きい手、ほっそりと長く、やわらかい指。不用意に触れば壊れてしまいそうなほど綺麗だった。
指をなぞる俺の手をマルセイユが触れ、何かを確かめるように撫ぜる。
マルセイユ「本当に無いんだな」
俺「使ったのは前半だけだったし、右に魔法力を集中させたからな
それに途中で保護の為のやつも解いたしな」
マルセイユ「そんな事も出来るのか?」
俺「当然。ただ力の消費が激しいんだ。そんなに魔法力を細かく扱えないしな」
マルセイユ「手先は器用なのにな」ニヤ
俺「ゴルァ、女がそういう事言うんじゃねぇの」コツン
マルセイユ「いて…私はそんなつもりで言ったんじゃないぞ?」フフン
俺「はっはっは、まあ自信はあるがな!」キリッ
マルセイユ「はいはい、そういうのは魔法力がうまく配分できるようになってからな」
俺「ハッハー、大胆と言ってくれ!」フンス
マルセイユ「大雑把だ。よし、マティルダー、サケ・マティーニが飲みたい!」
俺「あ、俺はジン多めがいい!」
マルセイユ「ベルモットの方をサケにするのか?」
俺「はっはっは、ジンが好きだからな」
マルセイユ「ははは、私もだ」
マティルダ「どうぞ」
好みを話しているうちにもう出来てしまった。
嬉々としてマルセイユがカクテルグラスを取る。俺もそれにならいグラスを取る。
俺「…今日の良き日に」スッ
マルセイユ「ああ」スッ
俺・マルセ『乾杯』
かちん、と小気味良い音が響いた。
――――――――――――――――――
―――――――――
俺「ハッハ、手にはうまい酒、目の前にはいい女。俺は幸せモンだなァ」ゴロゴロ
そう言ってまた一口。正確には大きめのグラス半分。すでにグラスは大きいものと取り換えたようだ。
熱い液体が臓腑に落ちる感覚を楽しみ、口を舌でなめる。
高揚した気分に思わず喉が鳴る。細かな操作が出来ず、気分が高ぶるとこうやって変化してしまうらしい。
面白がってマルセイユが喉辺りをなでてくるものだから、ゴロゴロ鳴りっぱなしだ。あー幸せ。
マルセイユ「こんな最前線で幸せだなんて暢気なものだな」
俺「かわいい子がいればどんな戦場でも天国なんだよ」
また一口飲み下す。ほうと鼻に抜ける酒の香りに、また酔う。
マルセイユ「くくっ、動機が不純だぞ?」
俺「ハッハ、白いシーツにいい女、うまい酒があれば最高だ。もう幸せだな!」
マルセイユ「…今は酒で我慢しろ」トポポ
俺「おーありがとよ……ハッハ、お前程いい女に注いでもらえるんだ。俺は幸せだよ」
隣に座るマルセイユに頬を寄せ、もっと撫でろと催促する。
耳の裏から喉までをくしゃくしゃと撫でる手が心地よい。何だか分からないけれど、とても幸せだった。
マルセイユ「そうか?」
俺「ああ、嘘はつかねえ」
マルセイユ「…さ、もう帰らないと明日が大変だぞ?雑用君」
俺「そうだな。もう12時かい?」
マルセイユ「ああ、魔法が切れてしまう前に早く」
俺「ははっ、わーった今行く!」グイッ
グラスの中身を飲み干して立ち上がる。若干ふらりと来ただけでほろ酔い加減だろう。
マティルダに礼を言い、マルセイユと共に宮殿を出た。
――――――――――――――――
夜風が火照った身体に心地よい。そう感じるのは俺だけではなく、隣の少女もだった。
深縹色の空にほんのりと顔を隠した黄金の月。空には昼間見えた天の光が夜のカンヴァスの上に瞬いていた。
少女が目を細めて口元を緩めるその姿は夜の瑠璃を照らし、煌々と瞬く遥か上空の星の様に美しかった。
マルセイユ「俺、聞きたい事があったんだ」
俺「何なりとどうぞ。お嬢さん」
視線を十六夜月から、月光に煌めく女神に移す。
火照った頬を月光が柔らかく、神々しく輝かせるその姿に、くらりと酒がまわる。
マルセイユ「…これってなんて書いてあるんだ?」スッ
俺のブロマイドを内ポケットから取り出し、見せる。
俺「ああ…俺のサインと、空軍のモットーだな。プレミアもんだぜ?」ニシシ
マルセイユ「じゃあロマーニャ語か…読めない訳だ」
俺「あ、他のロマーニャの奴等に聞くなよ?絶対だぞ?」
マルセイユ「大丈夫だ。お守りだからな」(何書いたんだ?コイツ…)
俺「ハッハ、これで安心だ。さて、雑用係は明日の為に帰るぜ。今日はありがとな」ナデナデ
そう言って踵を返し、自分の天幕を目指す――――はずだった。
マルセイユ「俺!」ピョン
俺「なん――――――!」クルッ
ちゅっ
マルセイユ「ふふん、帰りの時のお返しだ」
俺の頬に口づけ、してやったりと微笑む少女を前に俺の思考は固まり、目を見開いて硬直する。
そんな様子を、天幕から顔を出したマティルダは、溜息をつきながら眺めていた。
俺「――――ぁぅ…?」
マルセイユ「また明日。おやすみ、俺」
海を湛えた瞳に星を瞬かせ、少女は宮殿に消えた。
『また明日』
花の咲くような笑顔が、少女の声が頭から離れない。
心臓が狂ったのリズムを刻みだす。
俺「ハッハ…嘘だろ?」
だんだん時間の経つうちに遊びに耽ったこれまでを思い出した。そうだこれぐらいの事は今まで星の数ほどやってきた。
だがあの少女の事を考えるだけで体がおかしくなりそうだった。あの笑みが、声が頭から離れない。
俺「……ガキかってんだ」ゴンッ
自分を殴り付け、痛みが頭に染みる音を聴き、夢ではない事を知る。
これは一脈の気なのだ。自分の道は外れていない、自分はこの心をとうの昔に殺したはずだ。
そして少女はこの心を抱く事も知らないはずだ。
自分は忘れたのだ。自由を生きるこの生き方こそが己の道なのだ。
そう思うとたちまち顔が熱くなった。
昨夜少女が己を見て名を呟いた時、3年前の日が鮮烈に目の前に広がった。少女の瞳に広がる青い海、故郷ロマーニャの愛しき地中海。
いかなる時も自信に充ち溢れたその瞳。そしてそれは現在も変わらず、否、さらなる星を瑠璃の瞳に映していた。
俺「走ろう…」
走ろう。こういう時は走るのが一番だと閣下に言われた事を思い出す。
全てを振り切るように走り出す俺の眼の前に、鮮明な夜が現れる。
深縹色の空にほんのり顔を隠した黄金の月。空には誰かが隠した宝箱の中身をひっくり返したような星の光が夜のカンヴァスの上に煌めいていた。
天の光はすべて星とは良く言ったものだ。それこそ地べたに息あるものの様に。
この自由な、天井も壁も何もない大空。まさに幼い頃から取り憑かれた様に求めた自由。
地に這いずりながら天の光に取り憑かれた星屑が求めた上昇の先。
空に星があるように、季節の変わり目の様な、秋風にさらわれる落ち葉にも似たこの気持ち。
はしゃぎ続ける心音を酒のせいだと信じ、俺は走った。道を外さぬ様に、天の光を見詰めながら…
To Be Continued...
次回予告!
苛烈を極めるアフリカを彼は愛機・タイガーバウムと共に駆け抜ける。
その一方では洗濯、炊事、掃除に荷物運び。いつでもどこでも雑用三昧。休まず遅れず給料のでない雑用も、歯を食いしばってこなしていく。
ハルファヤ峠での支援無し、ウィッチの支援も無しの男達の戦い、喜びの洗濯、兵士達との殴り合い、おいしいご飯に、多くの仲間、そして一杯の牛乳を…
愉悦と死が同居する砂漠を、彼は陽気にシエスタしながら歩いて進む。
空へと向かうあの虎は、何をつかめば笑うのだろう
私は、始末書をまとめながら答えを待とう
ノイエ・カールスラントより送られた新型ストライカー。三将軍の苦渋の決断により、
契約書へ記されたサインから、運命の歯車は動きだす…!
『こちら黄の14…これより誰も、私に寄るな……!』
『馬鹿野郎!お前を見捨ててヘラヘラしてられる程、俺は腐っちゃいねえ!!』
『援護するわ!速く行け、馬鹿虎!!』
失ったカケラは還らない…
次回、変態パイロット第2話『ストライクイーグル』
誰もが躊躇し動けぬ時も、あなたは自分を信じて進むのね……乗ってやろうじゃないの!その馬鹿っぷりにね!
最終更新:2013年02月02日 12:59