――ロマーニャ、訓練施設にて――

教官「これより諸君等に基本動作をたたき込む!時間は無い!言われたことは一度で覚えろ!分かったか!?」

俺・兵士達「「「はいッ!」」」

周りにはロマーニャの新兵達がいる。
この中で一番年齢が高いのは俺であろう。殆どが最近入隊したばかりのようだ。

俺は新兵を養成する訓練施設にいた。
おじさんの親戚名義で入隊後、501基地に雑用として即配属されたため、新兵訓練というものは今まで全く受けていなかった。

普通、そのようなことはあり得ない。軍の法規上、訓練を受けていない二等兵がいるのは当然問題である。

なので俺は名目上の「訓練終了」のため、今更だが一週間程訓練することとなった。

本来の訓練はもっと日数がかかるが、ネウロイの侵攻状況、そして俺は雑用係だからということで基本的な動作しか学ばないらしい。

では何故俺が、入隊して直ぐ基地に配属になったのかと疑問が生まれてくる。

俺(何で今更訓練を…もう2ヶ月以上経ってるのに……。)

俺はこの世界じゃ名前も出身地も通用しないから……扶桑生まれのおじさんの親戚名義で入隊したことまではいいけど…
本当は訓練が必要なのに、直ぐ基地に配属されてたなんて……。

…おじさんを結果的に助けることが出来て………それで優遇してくれたから?

教官の話を聞き流し、俺はおじさんについて考え始めた。

でも…訓練もさせないで、俺を即配属させる程の権力って、おじさんにはあるのか…?
役割は整備長と……後は彼のストライカーの専属整備士ぐらいだし……

確かに重役だけど……そこまで

……!……彼の………専属整備士……

彼が話していた「扶桑のとある研究所」と「ネウロイを倒すための専用ストライカー」のことが頭を過ぎった。
そして俺が基地に配属されて間もない頃、おじさんが彼のストライカーを整備していた時に見かけた、設計図のようなものも思い出される。

……そうだ……どうして…おじさんが専属なんだ……?彼は研究所での実験によって、自分専用のストライカーを手に入れたと言っていた……。
それをおじさんだけが整備できるのは……ベテランだから?……本当にそれだけの理由なのか?

…いや……もしかして…整備できるのも、専用ストライカーの図面を持っていたのも…

……彼の研究所と何か…関係が…………

教官「聞いているのか貴様ぁッ!」

俺「…はっ…はぃっ!」

俯いていたところを教官に指摘され、俺はすぐに頭を上げて素っ頓狂な返事をした。

そして周りの新兵達からの視線を感じる。

………………501のウィッチ達は…今頃何をしているんだろうか……。

俺「……………。」


――同時刻、ロマーニャの海岸にて――

シャーリー「あははははっ!イヤッホォー!」タタタタタタ

ルッキーニ「ほ~ら、はーやくぅ~♪」タタタタタタ

バルクホルン「おっおい、準備体操ぐらいしろー!」

エーリカ「わ~い、わーい♪」バシャバシャ

バルクホルン「いきなり水をかけるとだなぁ……!」バシャバシャ

俺が新兵訓練をしている時、ウィッチ達は2期9話と同じ展開である、海岸へ来ていた。
シャーリーやルッキーニ達は遊んでいるが、宮藤、リーネ、ペリーヌ、彼の4人は訓練をしなければならない。

坂本「いいかっ!訓練だからといって、気を抜いてはいかんぞ!」

ミーナ「久しぶりだから、気をつけてねぇ~。」

彼を含めた4人のウィッチが、海に墜落したときのための訓練を行おうとしていた。
崖から海へ飛び込み、ストライカーを履いたまま浮上するといった内容だ。

リーネ「今日は海に行くって…訓練だったんだ……。」

彼「これは……初めてだな………。」

宮藤「またやるんだ……。」

ペリーヌ「…………なんでわたくしまで…。」

坂本「…さっさと飛び込めッ!」
崖の下から、坂本の檄が飛んだ。

バシャン! バシャン! バシャン! バシャン!

4人がほぼ同時に飛び込んでいったが、無事に浮き上がってきたのは彼一人だけだった。

この訓練が終了した後、宝箱騒動へと発展し、坂本は酔っぱらい、ペリーヌの活躍によって遺跡の謎が解け、ミーナは黄昏れるという、本編とは殆ど変わらない展開になった。

変わっていたところはどこかというと、洞窟で宮藤が彼によく抱きついていたということぐらいだった。


――5日後、軍司令部にて――

ロマーニャ空軍元帥(将軍A「何とか大和が到着したようだな。」

ブリタニア陸軍元帥(将軍B「あれが無事だっただけでも、501は再度創設した甲斐があったというものだ。配属された彼少尉の活躍も期待できる。」

ミーナ「(やはり彼さんも視野に…)この地域での、戦力強化が目的だと聞いていましたが、それだけではないのですか?」

大和を重要視する発言と彼についての発言から、ミーナは上層部に疑問を抱く。
彼女自身、研究所の謎や、何故彼がこの基地に配属になったのかも把握できていない。

将軍A「…いいかねミーナ中佐。ネウロイとのコンタクトを試みた、トラヤヌス作戦は失敗に終わった。もはや共存の道は絶たれたのだ。」

将軍B「今までと同じ戦略では足りないのだよ。」

ミーナ「そのための大和…?」

将軍A「その話はここまでだ。」

将軍B「そういえば中佐…新たな作戦の申請が出ていたようだな…?」

ミーナ「はい!選ばれたウィッチによって、ネウロイを叩きます。」

将軍A「我々もその作戦の助けとなるよう、アイデアがあるのだが……。」

ミーナ「えっ?」

将軍B「入りたまえ!」

バタン!…タッ…タ

ミーナ「!!……あなたは……――」

そこには第31統合戦闘飛行隊アフリカ所属、
通称「アフリカの星」であるハンナ・ユスティーナ・マルセイユがいた。


――更に2日後、ロマーニャ基地に向かう道にて――

ブロロロロロ…

俺「…………はぁ…あ…。」

基地へ向かうトラックの荷台に、疲れ果てた俺は膝を抱えて座っている。
あれから一週間が経ち、訓練を終えた俺は501へと戻ってくることになった。

しかし、もうこの501基地に戻りたいとは思わない。このトラックの荷台から飛び出したい気分だ。

……ここに帰ったって、どうせ何もならない……
…何処へ行っても……俺は邪魔者扱いだ………。帰ったところで、ミーナは俺に何も声をかけないだろう…。

訓練に行ってたことなんて…もう忘れてるんだろうな…。他のウィッチも、俺が一週間基地にいなかっただなんて…絶対に知らない。知るわけがない。

宮藤…だって………

どうせ…帰ったらまた彼が………奴がイチャイチャしてるだけだろう………。

未来も……あまり変わってはいないだろう……。

俺の予想は当たっていた。
本編同様、マルセイユとエーリカのコンビによって、マルタ島のネウロイはすでに殲滅されていた。

俺がいない間に、本編10話終盤へと時は進んでいたのだった。


――夜、ロマーニャ基地、廊下にて――

そして夜、基地に到着し、ほんの少しの期待をそれでも抱いていた俺は、一応報告だけでもしようと廊下を歩いていた。
執務室にはいなかったため、何処に行ったのかと基地内を探し回る。

すると、廊下の奥からマルセイユを含めた13人のウィッチ達の声がした。

ワイワイ マタカキサマッ! バンッ! アッチデヤレー! ワイワイ

奥には食堂があり、そこから聞こえてくる、楽しそうな声達。
食事をしながら、今日の作戦の成功した喜びを分かち合っているのだろう。

宮藤が震電を見つけて飛び立った時も……そういえばそうだったな……
今回も、マルセイユの活躍も、彼女自身も………水着回もこの目で見ることが出来なかった。

俺の立場じゃ…今後はもう、ウィッチ達の姿も、愉快な日常も、活躍するところも……この先の未来を見ることはできない…。

いずれ訪れる11話や12話の時、雑用係の俺は確実に基地待機を命じられるであろう。

せめてもの願いとしてあった「物語を見とどけたい」という思い。
しかしその最後の願いも、今は崩れ去ってゆく。

どうして俺にだけ……悪いことばかりが続くんだよ………。

しかし、それは変えようのない事実だった。

雑用の毎日……彼女たちとの接触を禁じられて、下っ端のままで……
アニメの世界でも………現実世界と同じ自分自身……いや、これも現実か…

……俺はもう、何も…許されない……見ることさえも、駄目……

元の世界と同様、もしくはそれ以下の俺の立場。彼女達を見ることさえも許されない。手段も何もない。

もう、希望の全てが無くなった。

そう思った時、何かがプツンと、最後の一本がちぎれるような音がした。
そしてその音とともに、涙が頬をつたって流れていく。

俺「……………。」

それでも俺は、食堂の方向へと瞬きもせずに見つめ続けていた。

俺「…………おわりだ。」

ミーナに報告はせず、そのまま共同寝室へと向かった――


俺はその後も、雑用の日々が続いた。

今自分がいる現実を突き付けられる。本編の裏側である、俺のような男兵士の生活は何も変わらない。
ただ毎日、同じ事を繰り返す。

……奇跡は起こらない。

ウィッチ達が出撃し、その戦う姿も、ネウロイを倒す姿も、勝って喜び合う姿ももう殆ど見ることは出来ない。
その姿を見ることが出来るのは、選ばれた「彼」という存在ただ一人だけ。

……どの世界でも、俺は変わらない。

主人公に憧れるが、永遠に彼のようにはなることは出来ない。
元の世界、そしてストライクウィッチーズの世界、両方の世界とも同じ扱い、同じ存在。

……こんな世界、住んでいたくない。彼をどん底に突き落としたい。いや、他のウィッチ達さえも……

…全て、いなくなって欲しい。

心の奥底からの「やめてくれ」という声はもう聞こえてこない。
元の世界同様に、この世界から逃げ出したいと考える。だが…

…そうだ、逃げ出す必要なんてないじゃないか………俺は、この先の未来を知っているんだよ!

俺は気付いた。この世界で、自分一人にしか持っていない特性、アニメ本編から未来を予想することを。
それを利用すれば、未来を変えられるということも。

いずれ訪れる「オペレーション・マルス」……それに失敗すれば、ここロマーニャは支配され続けられる…!

俺を踏み倒して避難していったあのロマーニャの人々も……ネウロイの支配下に晒される…!

いい気味だ…!みんな不幸だ!それでこそ、平等だろ?

あの作戦を失敗してしまえば、501は最悪の形で解散…!ははっ…彼を含めたあいつ等の楽しい日々も消えて無くなる!

…そうだよ!…そうだったよ!俺は未来を変えようと思えば、出来るんだよ!最悪のエンディングに!

元の世界とストライクウィッチーズの世界、両方に対する憎しみから生まれた、俺にとっての復讐の念。
その念が溜まりに溜まり、宮藤が震電を発見する前日の夜以上に、俺を行動に移させようとし始める。

……でも、どうやってやれば……

……そうだ………!

坂本少佐だ……彼女を……マルスの時に出撃させないようにすれば…………いいんだ!

そうすりゃ、この基地も、ロマーニャも、彼も宮藤も……みんな……!

「俺は変わらない」というのは、ある意味、間違いであったと言えるだろう。


――「オペレーション・マルス」前日、軍司令部にて――

坂本「たとえ大和といえど、通常兵器です!空にあるネウロイの巣を、倒せるとは思えません!」
戦艦大和によりネウロイの巣を破壊するという作戦に対し、坂本は上層部に反発した。

将軍A「通常兵器では無いのだよ、少佐…。あれは、戦艦大和は我々の決戦兵器なのだ。」

坂本「決戦兵器…!?」

杉田「その通りです。我が扶桑海軍では、ガリアでのウォーロック実験を研究した結果、より安定度のあるコアコントロールシステムを開発しました。10分間暴走を完璧に防ぎつつ、ネウロイ化が可能です。」

ミーナ「大和をネウロイ化させるですって……!?」

坂本「……血迷ったか…っ。」

将軍A「ネウロイを倒せるのはネウロイだけ、巣を倒すのはウィッチでは不可能だ。」

坂本「…ウィッチに不可能はありませんっ!私の…真烈風斬さえあれば……たとえネウロイの巣であっても、必ず勝てます!」
坂本は拳を握りしめ、声に力を入れて発言した。

将軍B 「坂本少佐……本来なら君はすでに退役して然るべき年齢ではないのかね?」

ミーナ・坂本「…!!」
2人が動揺する。ミーナも、坂本の魔法力は既に限界だと言うことに気付いている。

扶桑海軍中将(将軍C「この作戦が失敗したら、もはや我々には、ロマーニャを明け渡す以外に方法はないのだよ。その時は、当然501部隊も、そのままではいられない。…分かるかね?」

将軍A「…会議は終わりだ。明日、10時より『オペレーション・マルス』を発動する。」

坂本「将軍っ!」

ミーナ「やめなさい、坂本少佐。」

坂本「!……ミーナ…!」
坂本が反発しようとしたところを、ミーナは止めにかかった。

将軍A「501統合戦闘航空団は、敵ネウロイに突入する大和を護衛せよ!」

ミーナ「了解しました!」

コッコッコッ……バタン…

上層部へ向けて敬礼をした後、坂本とミーナは退室した。
続いて杉田、ブリタニア陸軍元帥も退室する。

しかし、ロマーニャと扶桑、2名の将軍は部屋に残り、何かを話し始めた。

将軍A「………本当に大和だけで巣を破壊するつもりですかな?」

将軍C「ご存じの通り……501には彼少尉が配属されております。大和は名目上…本命は少尉に託されております。」

将軍A「731部隊……ウォーロックやコアコントロールシステムの開発、そして彼少尉が存在するのも、その部隊の研究があったためというものか…。」

ロマーニャと扶桑の両国の間には、彼や今の将軍達の発言からして、「731部隊」「研究所」によって何かの繋がりがあると言えるだろう。

将軍A「しかし、少尉の存在、そしてこれ以上の情報の漏洩は我々に影響が出てくる。かつてのトレヴァー・マロニーのように……。」

将軍C「すでに手は打っております…。501にいる唯一の元研究員、そして少尉自身も作戦についてよくお分かりのはずでしょう。明日の早朝には、501にあの機体が到着する予定です…。」

将軍A「…少尉には悪いが、止む終えないということだ……我々のために、彼にとっての……最後の任務をこなしてくれなければな。」


――ロマーニャ基地、ハンガーにて――

軍司令部より帰ってきたミーナと坂本により、ヴェネツィア上空のネウロイの巣を破壊する、「オペレーション・マルス」が伝えられた。
明日の最終作戦に向けて、おじさんを含めた多くの整備士がストライカーの整備を丹念に行っている。

その情報を聞きつけた俺は、薄ら笑いを浮かべ、興奮しながら廊下を歩いていく。

…そうだ…この時だ……!
この日のために、俺は我慢してきたんだ!

俺はハンガーに入り、整備しているおじさんの所に近づいた。

よし…周りには他の整備兵もいるな……。

おじさん「………?……俺…?」カチャ…
手を止めて、俺の方へ振り向いた。

俺「ねぇおじさん。坂本少佐って、もう魔法力の限界が来ていますよね?」

おじさん・整備兵達「……!!」
周りの整備兵にも聞こえるよう、俺は大きな声でおじさんに話し掛けた。

おじさん「…それは……どういう意味だ……。」

俺「気付いているはずです。魔法力がないのに、最後の作戦に参加させるなんて…それじゃ、少佐は死にいくようなものじゃありませんか。」

もし坂本が出撃しなければ、ネウロイの巣を破壊する寸前で止まった、大和の魔道ダイナモを再起動させようとする者はいないだろう。
そうすれば作戦は失敗に終わる。
仮に彼や宮藤が再起動させようとしても、その強大な魔法力を吸収して発生するであろう大きなコアは、誰にも破壊することはできないと予想できる。

それに「烈風丸」が戦線に無いのなら真烈風斬は打てず、魔法力を吸い尽くすあの剣を、坂本は出撃前に宮藤や他のウィッチ達に託そうとはしないだろう。
部下の全魔法力の喪失によって成される勝利の可能性など、彼女が望むはずがない。
今の彼女は自分の魔法力が無いことに対して、とてつもない悲しみを抱いているのだから。

後々になって烈風丸を届けようとしても、それはもう遅いだろう…
その頃には…大和も扶桑艦隊も……みんな……ネウロイに壊されているはずだからなぁ……!

つまり、坂本を出撃させないように未来を変えることが、501の崩壊に繋がると俺は考えたのだった。
ストライクウィッチーズの世界に、元の世界を含めた今までの憎しみの全てをぶつける。

坂本にストライカーを履かせないようにするには、まず手始めにおじさんや整備兵を説得し、味方につける必要がある。
だが説得は容易に終わるだろう。おじさんは特に、ジェットストライカーやロケットブースターの時と同様、ウィッチに無理な出撃をさせようとはしないはずだ。

…出撃しなけりゃ、ネウロイの巣は破壊されない!…大きく影響しているもっさんが出撃しなければ……未来は変わる!

俺「少佐の出撃は……中止させるべきです。」

…ストライカーを今まで長く整備し続けてきたおじさんや整備兵達は当然、もっさんの魔法力の限界に気が付いているはずだ………

なら…中止させるはず……。

おじさん「……坂本少佐を…どうしても、飛ばさなければならねぇ…。あの人にとって、戦うことは生きること…。それを今奪えば…それこそ殺したようなもんなんだよ…。」

俺「……!!」
おじさんの予想外の発言に、俺は苛立ちを覚えた。

!!……はぁ!?……今なんて言った?……こいつ…っ!

飛ばさせる?なんで止めないんだよ!?
こういう時だけ、彼女を飛ばさせる気か!?ふざけるな……

戦うことが生きることだと?そういや、もっさんはそんなこと言ってたよなぁ……!
才能が無くて戦いたくても…戦えない奴がいる中で、よくもそんなことを…っ…!

俺「戦いが生きることなんて、少佐のただのわがままじゃないですか!」

俺の感情が言葉となって、ハンガーへ響き渡る。整備を続けていた整備兵も、手を止めて俺がいる方向を見始めた。

俺「戦うことが生き甲斐!?戦いたくても戦えない奴もいるんだよ!少佐はウィッチの才能がおありだから、そんな贅沢なことをおしゃってるだけなんだよっ!!何が生き甲斐だっ!!」

おじさん「…っ!!てめぇ…っ!」

おじさんは立ち上がり、怒りで唇を震わせた。
今まで呆然としていた周りの整備兵達も、俺を睨めつける。

しかし俺は、この自分の訴えによって、おじさんや整備兵達を必ず説得させられるとも思っていた。
……だって、それが真実だろ!?才能に甘やかされて生きてきた、奴らのわがままだろっ!?

俺「いいじゃないですか、もう引退で!戦うって理由をつけて、ネウロイを倒して、今まで散々楽しんできたんですからねぇ!!」

おじさん「…少佐の気持ちを馬鹿にしやがって…っ………新米が……いい加減にしろよ……俺ぇぇっ!!」ギリッ
おじさんが歯を食いしばりながら、俺の方へズンズンと歩いていく。

俺「だから、なんで少佐が死ぬのを止めようとしないんだよ!?ネウロイと無茶を承知で戦わすなんておかしいだろっ!おじさんは少佐を殺させる気なのか!?」

おじさん「っ…!!……くっ…………」

俺「このまま飛んだら、少佐は作戦の足手まといにもなりますし、何より死ぬ可能性があるんですよ?他の犠牲者だって出るかもしれない!」

俺の言葉を聞き、おじさんが一瞬怯んだ。それに気が付いた俺は、説得に成功するという兆しが見え始める。
おじさん自身も、本音は坂本を出撃させたくないと切実に思っている。

……そうだよ、俺は正しいことを言っているだけだ…。
このまま説得が成功して、おじさん達がもっさんにストライカーを履かせないようにしてくれれば、最悪の展開に……!

俺「ははっ……坂本少佐はいいよなぁ……才能もあって、自分の楽しみも含めてネウロイを倒せて…英雄扱い…贅沢な生き甲斐だよなぁ!」

気分が高まった俺はハンガーの天井を見上げ、叫ぶように言葉を発した。
心の中に今まで隠していた感情をさらけ出すことにより、俺の快楽は更に増していく。

俺「生き甲斐…?はっ……何がだ…本当は楽しんでるだけじゃないのかよ…?」
俺は坂本をあざ笑った。

これで……501はロマーニャごと………!

これ以上自分がなんと言おうと、おじさんの性格上、上官に逆らってでも坂本を出撃させようとはしないだろうと俺は確信する。

…その時だった。

俺「だから、少佐のわがままを止め――」




――バキィィィッ!




俺「………っ!!??…………がぁ……っ…!!?」

見上げていた俺の顔の左頬に、突然鋭い衝撃が突き刺さる。

視界がグルンと一回転し、周りの光景が高速で移動しているかのように見えた。
何が起こったのかが分からない。しかしその衝撃によって舌は切れ、血の味が口全体に広がった。

………!?……何…が…………。

俺「…ぐ……っ………かヒュ……っ……」ズシャァァ…
身体ごとはじき飛ばされ、俺は床に転がった。

俺「…何…うう…あ…っ…っ……………ぁうっ!!……」

5秒後、衝撃が治まったと脳が認識した瞬間、猛烈な痛みが寒気とともに左頬を直撃する。

俺「…!……いぇ…で……ぐぞ…っ…」

なんだ…よ…っ……!口が痛たい………なんだよ……殴られたのか……俺は……っ!

左頬は赤く腫れている。歯で口内を深く切ってしまったため、血が止まらずドクドクと溢れ出てくる。

俺「ぐが……がぁぁっ……。」ガクガク…
身体が痙攣し、手や足がガクガクし始めた。背筋に凍るような寒さとともに、腫れていない右頬にまでも内側から突き抜けるような痛みを感じる。

うぅ…ぁ…頬が痛いし、歯がぐらぐらする…………

痛いい……痛い………痛い…っ……!

何処か覚えのある衝撃。元の世界と同じ、殴られたときの痛み。

くそっ…………誰だよ…
誰だよ…っ!殴ったのは……整備兵か!?いや…おじさんがなぐったのか……っ!

あいつ……くそっ……くそ……っ!痛てぇ……あいつ……っ!

震える右腕を使って、自分の上体を起こそうとする。
俺はおじさんに殴られたと思い、じんじんする左頬を左手で押さえつけ、顔を上げて目の前にいる人物を睨みつけた。

だが、目の前にいるのは、おじさんではなかった。

俺「!!…………がぁああああっ!」

殴られた痛みによって、自分のものとは思えない声が響き渡る。
あふれ出る怒りが、傷だらけの口を叫ばさせた。

お前か……!

またお前か…ぁ…っ……!

いつもいつも、俺を陥れて……おまえのせいでぇ…っ!

許せない……お前だけは……

………消してやりたい……!

なんでだよ……お前がなんで存在するんだよ…っ…!

くそっ……ちくしょう!

お前さえ…
お前さえっ……!

生きていなければぁ……っ…ぁ!

彼…っ……

彼えええええぇぇぇッ!!


目の前には拳を握りしめ、俺のことを睨み返している「彼」がいる。

俺を殴りつけた相手、それは彼だった。


~つづく~



同じ仲間としての坂本を侮辱した俺を、彼は殴りつけた。
作戦「オペレーション・マルス」当日、12人のウィッチ達は全員出撃することとなる。

そして動き始めた、隠された真実。

彼達は仲間の絆と共に、最後の敵と戦うため、空へと飛び立つ。

基地に残った俺は、作戦の失敗を願って止まなかった。
最終更新:2013年02月03日 15:56