――731部隊研究所跡地にて――
元の世界の歴史、ストライクウィッチーズの世界の歴史、俺ストSSの誕生から今までの歴史、
俺はノートパソコンに、自分の知っている限りを打ち込み始めた。
――元の世界:1939年9月1日 第二次世界大戦勃発
――ストライクウィッチーズの世界:1939年9月3日 第二次ネウロイ大戦勃発
――俺「ストライクウィッチーズ?」:2010年9月16日 スレッド誕生
自分の記憶で補いきれない分は、パソコンに残っているデータから情報を調べる。
それはまるで、俺ストSSを書くための資料集めのように。
教官「小説を書く…どういうことだ?」
俺「SS『731な俺』は本来のストライクウィッチーズの世界の共通点を完璧なまでに多く含んでいるから、ネウロイは利用し再現しようとした…」カタカタッ
カタカタと部屋内にキーを叩く音が響く。
俺「だから今度は、俺達がネウロイを利用する番だ。」カタカタッ
教官「利用する?はっ…一体何を」
俺「侵略に有効な情報を活用する特性。それと…別の世界、別の時代で生きていた俺と教官を誘拐したように、宇宙や時間を行き来出来る地球外生命体であること…」カタカタッ
絶望から抜け出したい一心で思考する。
俺「ネウロイは電波を通じて『ストライクウィッチーズ』という元の世界で生まれた作品を発見した時、感心したはずだ。この世界の設定を正確に描いてしまっていたために。だけどハッピーエンド、彼らにとって侵略には有効じゃない。」カタカタッ
教官「…有効になると思うがな。奴らにとって相手側の行動を先読みすることが可能になる。」
俺「確かに。でも、信憑性に欠けるはずだ。設定は合っていたとしても作品通りの展開になるとは言えない。」カタカタッ
教官「……。」
俺「俺が思うに…だからこそ『731な俺』と言う『彼』と『731部隊』等の設定がほぼ完璧なまでの共通に溢れ、バッドエンドな展開を持つSSを確率的に優先し、テストを含めて再現を望んだ。」カタカタッ
教官「ほぅ。」
俺「ネウロイのお偉いさんは喜んだはずだ…『彼』を生かしたらそのSSの展開が実現していったことを。あとは再現の調整をするために大型や小型ネウロイを台本通りに出撃させ、」カタッ…
俺の手が止まる。
俺「俺や教官のような兵士A~Kの適正を持った11人の脇役を用意する。」
教官「…なるほど。まぁ兵士K役の現代人から一通り説明を受けていたが、どうやらお前も学習しているようだな。」
俺「ロマーニャを侵略されたのも、501が崩壊したのも…宮藤が死んだのも、兵士E役である俺の行動が全て…ネウロイに分析され、先読みされていた所為でもある…」
ちくしょう…全てはコントロールされていた…俺が宮藤と再開しようとする行動も……慰めようとした行動も……
どう行動するかをネウロイは知っていた……。
俺「くやしいが…もうっ…バッドエンドの結末は過ぎた……でも、これから先の未来は脇役の適正は通用しない…はずだ」
教官「それで、そのネウロイ共の特性をどう利用するつもりだ?」
俺「この世界だけでなく…元の世界とスト魔女世界の歴史全てを描く正確な設定、そして『731な俺』を超える共通と、この先の未来と完全に一致する展開…――」
俺「小説…いや、完璧なノンフィクションSSを書き上げるんだ。ネウロイが再現し、俺が最終的に望む展開へと変えてもらうために。」
教官「――……一応聞いておこう。お前の望む展開とはどういうことだ?」
俺「フィクションをノンフィクションに……悪く言えば妄想を現実にするみたいな…さ…」
完璧なノンフィクションに脚色し、ネウロイに再現させる。
……あの時、俺がこの世界に来たキッカケのように…
俺「俺がネウロイのコアになって、元の世界で2012年に土手を走っている俺に触れさせる。」
そして伝える。ネウロイとの「共鳴」を利用して…俺がコアになって…「兵士E」になろうとする俺自身に…
「未来を変えてくれ」と…「自分を変えてくれ」と…「戦ってくれ」と…
「501を…宮藤を救ってくれ」と……
俺「
トラヤヌス作戦が失敗した時にスト魔女世界に訪れる俺と俺自身が『共鳴』し……訴え続ける。」
…過ぎたことかもしれない…でも、こんな未来は許せないんだ…
宮藤たちが死ぬ未来なんて、絶対に認めちゃ駄目なんだ――
俺「今度こそ嫉妬、劣等、潜在意識を乗り越え、未来を変えろと…。」
教官「………」
俺「たとえ俺の声が『ネウロイの声』になったとしても、『兵士E』になろうとする俺自身を変えてみせる…」
――絶望のさなかで俺が掴み取った可能性。しかし…
教官「……不可能だ。」
俺「っ…やるんだよっ!『731な俺』がバッドエンドなら、俺達が書く小説もバッドエンドにする!ネウロイが侵略に有効だと認識できるために」
教官「書けたとしても、お前がネウロイのコアになるとは限らん。」
俺「ネウロイは元の世界から人を誘拐したように脇役の俺達を操作できる!だから一度『共鳴』を患った俺をコアに改変することだって可能なハズなんだ!」
教官「お前がネウロイになった時点で、自らが人間であった時の意志を伝える方法など無くなる。」
俺「どうして!?」
教官「ネウロイがお前の書く小説を再現するとして、奴らにとって危険な発想を持つ人間の記憶を残したままコアに改変すると思うか?」
俺「そ…それは…。」
教官「第一、過去の501の救助を優先するために、未来を最悪の展開にさせようとするなど言語道断だ。」
俺「彼女達の未来が変われば全てが変わるんだっ!みんなが生き残れば…再現にズレが生じて最悪を回避できる!」
教官「……まだ、気が付かないのか。再現時のネウロイは確実にお前の記憶を消し、コアへと変えるだろう。だが、奴らを釣って再現に至るまでに一番の問題がある――」
可能性は無いに等しい。仮に小説内で「俺が人間の記憶を残したままコアになる」と書き、ネウロイ側の再現を望んだとしても、
危険性を感じたネウロイは、その小説の再現など決して実行しない。
つまり描かなければならない小説は、完全に人類から非難される作品。
だが、最大の問題点は小説を書く「過程」に存在する。
教官「――この先の知りもしない未来をお前に描くことが何故出来る?出来はしないはずだ。『未来予知』とやらの魔法を使える訳でもない。」
納得させる、ある程度の未来の展開を正確に描かなければ、ネウロイは再現に応じない。
俺「……だから……だから何年も生きて書き続けるんだ!!ネットが蔓延る60年後までずっと、ネウロイが納得する…正確な未来の展開を何通りもっ!!」
教官「書いた展開が未来と合致するなど有り得ん。」
俺「可能性はゼロじゃないんだ!何千、何万冊もの作品を書いて…それをネウロイが電波で気付くようネットに流す!!」
教官「それまで生きればの話でもある。」
俺「生きる…絶対に…。だから、教官にも手伝って欲しいんだ…あんたなら元の世界での戦争経験もあるし、そ」
教官「ふざけるな、断る。」
俺「なっ…なんでだよ…!?」
教官「小説だがSSだが何だかを書くために戦争を利用し、霊英を侮辱するような現代人のお前に加担などしない。」
俺「っ…古い頭で考えるんじゃねぇよ!!お願いだ…これしか…方法が残されてないんだ……」
教官「そしてまた、この世界の先の未来をも絶望に落とそうとしている。どっちにしろ納得できん。」
俺「だから、それも変えてみせるんだ……俺を信じてくれ…っ!過去を変えれば、未来も変わる…。」
教官「無理だ。」
俺「頼むよ…昔に死んだはずだったあんたは…今この世界で生きてるじゃねぇか…だから…」
教官「…………」
俺「……っ……くっ…」
教官「……諦めろ。」
俺「…まだ…っ」
教官「もう何もかもが遅い。」
俺「俺はまだっ…!」
教官「これは戦争だ。」
俺「…ぅぅ…っ………ま…まだぁっ…!」
教官「ストライクウィッチーズは死んだんだ。」
俺「っ!!……………まっ……まだだああっ…!!」
俺は感情が抑えきれず、椅子から立ち上がって、教官の胸倉を掴む。
俺「俺はっ…あきらめないんだぁああ!!」
教官「……離せ。」
俺「まだなんだ……たとえ俺が…脇役だとしても…才能が無くても……活躍できる主人公じゃないとしても…っ」
湧き上がる感情を募らせる口が唾を飛ばし、胸倉を掴んだ腕が振動する。
俺「馬鹿にされる人間でも…弱い人間でも…演出に利用されるザコ役でもっ…ネウロイになっても…」
教官「………離せ。」
俺「自己犠牲を強いられる人間でも……誰かの引き立て…踏み台になる人間でも…兵士Eでもっ」
教官「…………」
俺「一人の生きている人間なんだ…だから可能性があるんだ……そう思わなくちゃ、やっていけないんだ……――」
俺「死んでしまった人達や、ストライクウィッチーズが好きなんだ。宮藤芳佳が好きなんだ。…だから守りたいんだ!!」
教官「――………。」
俺「……俺が……変えるんだ…俺が……」
教官「いい加減離せ。」バッ…ドンッ
俺「あぅっ…!」ドサッ
教官に突き飛ばされ、腕を離して地面に転がった。
教官「何度おれに突っかかる気だ、俺二等兵。」
俺「…………。」
教官「……扶桑とロマーニャ軍上層部による731部隊の隠蔽は完璧ではない…後にこの廃墟も再度調査され、解体されるだろう。」
俺「…………だからなんだよ…」
教官「…………」
俺「くそっ…っ…。」
教官「さて、最後の講義を始めるぞ。なぜ隠蔽しようとしているか分かるか?」
俺「……えっ?」
いきなりの教官の言葉に、俺は困惑する。
教官「自国の民意に反するからだ。ネウロイ戦争終結後は平和、ではなく確実に国同士の競争社会が実現する。まさに元の世界、アメリカ…ソ連邦…日本…数多くの国々のように。」
俺「……それはでも…この世界には魔法力があるし…団結力だって」
教官「ウォーロック事件が良い例だ。誰がしも「上位に立ちたい」という闘争本能は拭い切れん。」
教官はノートパソコンを横目で見ながら、俺に話し続ける。
教官「脇役やネウロイが引き立て役となる俺ストSSを描いた現代人のように…この世界の人間誰もが独占欲を有する。」
俺「…………。」
教官「そして、彼少尉の命令違反が原因で引き起こした事件により、ネウロイ側ではなく人間への不信感が生まれつつある。」
俺「…………」
教官「いずれこの世界でも戦争は起こるだろう…人同士のな。」
俺「……そ…そんな……」
教官「――だがしかし、それはネウロイにとってとても望ましい展開と言える。」
俺「………………!!?…っ…それって…」
教官「国同士が対抗するため、奴らにとって敵の軍事力が上昇することになるだろう。しかし人々の不信感により、ネウロイが介入した瞬間敵は錯覚を起こす。」
俺「…この世界の人が…他国や他人を信じられなくなって……」
教官「ましてや『この国に協力している』と銘打ち、人間同士の戦争中にネウロイが何処かの国を支援し始めたのならば…。」
俺「…敵対心が増して…人々が……更に殺し合いをはじめる…。」
教官「まぁ予想であり、ネウロイ戦争が終結し、ネウロイの残党がいればの話だが。」
――俺はハッとした。
教官が話したこと、それはネウロイに再現させるための小説を書くヒントに成り得る。
教官「ノートパソコンの存在を知った政府は驚愕するであろう。そして、確実に利用しようとする。」
俺「きょ…教官…あんた…」
教官「それだけは、避けなければいけないことだ。分かるか?現代人。」
俺「……あ…あぁ…。」
教官「…以上、講義を終了する。」
そう言うと教官は、研究所の奥の部屋に向かって歩き始めた。
俺「…?…どこに行くんだ?」
教官「731部隊の存在と正体を世間全体に知らしめるための証拠集めだ。」
俺「……!!」
教官「政府の奴らの手に渡る前に回収しなければならん。人々の不信感は更に増すだろうが、隠し事は良くない。軍人して公表しなければならないこともある。」
俺「…あっ…きょ教官…」
教官「お前も731部隊のことは良く学習しておけ。過去に戻り、いずれ乗り損ねた梅花に搭乗するのだからな。」
俺「…!……あっ…あの教官…!ありがとうござ]
教官「勘違いをしているようだな。」
教官は振り返った。
照明が暗くて分かりにくかったが、堀の深い教官の顔が薄い笑みを浮かべているように俺は見えた。
教官「民意を尊重したまでだ。」
――歩いていく教官の後姿を見て、訓練施設にいた時と同じように俺は思わず敬礼した。
俺「…ありがとうございました。」
教官は奥の部屋のドアノブに手を掛ける。しかし、立ち止まって俺に再度話しかける。
教官「お前はおれの教え子でもあり、そして同じ日本人としての祖先でもある…そうだろ?」
俺「…?は…はい。」
教官「なら戦え。この現実と化した世界、そして記憶を消すであろうネウロイと。」
俺「…はいっ。」
教官「……戦争に主人公などいない。」
教官は部屋のドアを開ける。
教官「………先ほど、『脇役でも』『兵士Eでも』『ネウロイでも』と言っていたな。しかし、それは違う。」
俺「…………――」
教官「お前はお前だ。」
――教官は、最後にそう言ってドアを閉じた。
――
――あれから、20年もの月日が流れた。
俺は軍を離れ、扶桑国内のひっそりとしたボロアパートに身を置いていた。
ノートパソコンに残ったウィッチのイメージモデルになった人々の歴史データ等を基に、元の世界の戦争を正確に描く。
さらに、元の世界とストライクウィッチーズ世界との共通点も詳細に表す。
そして、何通りもある未来を予想するために、ひたすら文字を書く日々。
世界の情勢を調べ、教官の名を借りて協力してもらっている軍人からの情報や、戦況報告などを活用する。
その日々の中で俺は、ネットだけでなくメディア全体にもネウロイは反応するのではないかと思い、書物として幾つもの作品を発表した。
「前半では元の世界の戦争を描き、それをテーマに後半ではストライクウィッチーズの世界の戦争を描き、結末はネウロイは一旦身を引き、人類が殺し合いを始めるまで待機している」という内容で。
しかし扶桑憲兵の検閲により書物は当然黒く塗りつぶされ、出版社を追われ、何度も逮捕されかけた。
ラジオも利用し、俺は一般人が聞けない周波数上で朗読した音声を流した。はたしてネウロイに聞こえていたであろうか。
その数年後、教官の予想通り、ネウロイと人類との戦争は終結した。
ネウロイが突如出現しなくなったために。
――更に20年の月日が流れる。
当時、高度経済成長の最中にいた扶桑は、科学と魔法を通し、軍事力という面で一番大きな発展を遂げる。
しかしその成長によって得た力は、人々の信頼に反して牙を剥き始めた。
両国間の衝突によりウィッチがウィッチを撃墜するという事件が発生。
平和の歯車が大きくガタついた瞬間だった。人々は国境に意識を持つ。
想定され始める、人類同士の戦争。
そしてその時の俺は、「変人」として扱われるようになっていた。
はたまた、「最悪の小説を書く作家」として。
俺の作品を読みきった読者はこう語る。
「実在したウィッチ達をモデルに、魔法の無い世界で戦わせる発想は良い。」
「だが、何故後半から現実を舞台にした話が始まったのだろうか。2012年の魔法の無い世界から来た青年が、第二次ネウロイ大戦、その後の未来を体験する。」
「そして一番意味不明なのが、自らがネウロイのコアになって、魔法が無い世界からこの世界に来た切欠となった土手の場所へ2012年当時の1分前に戻ると言う結末。」
「無限ループのような結末を望んだのだろうか?それともネウロイ大戦後の社会への不安を表しているのか?政府への不満が高まった『731部隊騒動』に関連する描写もあり。」
――そして更に20年後、2005年、扶桑国内のボロアパートにて――
カチッ カチッ…
宅配員「鳴らない……はぁぁー…。」
誰も住んでいなさそうなアパートへの配達を上司から任されたため、嫌々ながら引き受けざるを得なかった。
しかしインターホンを鳴らそうとしても鳴らない。
宅配員はボロっちいドアの前で溜息を吐いた。
ポストを確認すると、何年も前の新聞のチラシが挟まっている。
宅配員「すみませーん。クロネコアカギの宅急便でーす。留守ですかー?」
返事は無い。恐る恐る、ドアノブに手を掛けた。
宅配員「いませんかー?(ガチャ)あれ…鍵は掛かってないのか。」
ドアを開けると宅配員の目に異質な空間が飛び込んだ。
宅配員(うぁっ!?何これ怖ッ!?)
――壁一面に張られた無数のメモ書き。手のひらサイズの紙が何千…何万枚と隅々を覆っている。天井さえも。
宅配員「なに?なにこれ?」
気になってメモ書きの一部を読む。
宅配員「2007年4月…扶桑にてネウロイが目撃される。2008年5月…『731部隊騒動』の犠牲者遺族の再公判…」
その紙以外にも一日違いで同じ事を何度も書いている。組合せば何通りものパターンが生まれるだろう。
宅配員「2011年3月…扶桑にて震災…ってこの年号、数年も先のことじゃねぇか。エセ預言者?」
不審に思いつつも部屋を散策して行く。するとメモ書きで埋もれた中に、画鋲で止められた写真が一枚だけ存在した。
宅配員「誰だこれ?うーんかなり昔だ…海軍の格好してるし………でも可愛い女の子だなぁ」
その時、背後でモソッっと何かが動いた。
宅配員はビックリして振り返る。そこには布団から起き出た一人の老人がいた。
宅配員「じっ…じいさんかぁ!あ!怪しいものでは無いです宅配便です!」
俺「……あぁ…。」
宅配便「(ずいぶん歳いってんなぁ…)これ…判子お願いします。」
郵便物を手渡す。
俺「あぁ……サインでいいかい?………ちなみに……君…今はぁ…何年だ?」
宅配員「えっ?2005年ですけど…」
俺「そうか…じゃあ、あそこの壁にあるメモを剥がして貰えるかな?あっちは全部、2004年のものだから。」
宅配員「??ぇえ?」
俺「…それじゃあ、俺はそろそろ投下する時間なんでな。」
老人はパソコンを起動させ、テキストを開く。そしてそこに描かれた大量のSS。
『元の世界とストライクウィッチーズの世界の歴史を描き、結末は老人がコアとなり、そして人々による戦争が始まる』
結末と設定は同じだが、時間系列や展開が少しずつ違う何通りものそれを専用のまとめページに何時間もかけてアップし始めた。
俺「………………さあ…どうだ…?今回も駄目なのか?まだ足りないのか?」
宅配員「あのー……剥がし終わりましたよー………?」
パソコンにと話しかけている俺を見て、宅配員は資料が入った荷物を置き、静かに去って行った。
――6年後、2011年、ボロアパートにて――
俺「……………ぁ」
身体が動かない。視界がぼやけ、声が発せられない。
唯一動くもの、それは脳。
……もう…だめか……やはり…俺には……成せなかった……
『れ…さんっ…――』
……誰の声だったか。思い出せもしない………ただ一つ分かるのは……
…俺は救えなかったってことだ…。
はっ…誰を?
『…さんっ――』
そんなに親しいわけでもなかった…俺の一方的な……ものだっただろう
もう…希望は尽きた…脇役は…脇役のまま……
『お…れ…――』
………でも好きだった。脇役でも…
『俺さん…――』
俺の名を呼んでくれる…宮藤が好きだった。
『俺さん――』
…宮藤?――
動かない手を無理矢理動かして、俺は投下予定の最後のSSに、ある一節を加えた。
キーを打ち込み、投稿ボタンをクリックしようとする。
俺「これ…ぁ……さ…い…ご………。」カタッ…カタッ…
脇役だって…いじめられっこだって…出来るってことを証明するんだ…
これが……俺の最後の…「共通」点……
「2011年」カタカタッカタカタカタ…
最後の…戦い…
「10月」カタカタッ…
でも…まだ……
「俺」カタッ…
戦わなくちゃ…
「享年85歳」カタカタカタカタカタカタ
…まだ……
……
「2011年10月 俺 享年85歳」
カチッ
――
同じような内容が描かれた数多ものSS。
その中で、ネウロイは遂に発見する。
再現すれば侵略に有効であろう、
最大限の共通、正確な展開、最悪の結末、
そして、未来を変えるという希望が隠された、
俺の描いたSSを――
――ネウロイの巣にて――
死亡したはずの俺が次に目を開けた時、俺はネウロイの巣の中にいた。
自分の身体を見る。しかしそれはもう人間の身体ではなかった。
意識と記憶が飛び始め、ネウロイのテレパシーのようなものが俺の頭を支配する。
『おまえはこれから兵士E役の適正者と共鳴し、そいつをこの世界につれて来るんだ』
「ああ…俺自身を……か…」
何もかもがコアへと変わっていく。
「…あれ…何しなくちゃいけないんだっけ…思い出せない」
「そっか…きっと……俺は
繰り返してるんだ…バッドエンドを…」
「…ループしてるんだ…こうなることも…はじめから決まってたんだ…」
記憶が消えていく。
『おまえはネウロイ』
「…ネウロイ…」
「…そうだ、おれはネウ」
『「――俺さん!」』
「…?」
「いや…違う…」
「おれ…は…ネウロイじゃない……」
『おまえは兵士E』
「…兵士E……でもない…」
「………お……れは…」
「おれは…」
宮藤の声が、気付かせる自分の存在。
66年。
もう一度生きて会えることを願い、懸けてきた時間。
過去を変え、実現しようとする未来。
ストライクウィッチーズの未来――
2011年、日本
あるクリエイターが発表した、エースパイロット達をイメージモデルとした作品、
「ストライクウィッチーズ」は小説、アニメ、ゲーム、映画化と多くのファンの間で親しまれていた。
同年、扶桑
とある作家が発表した、ウィッチ達をイメージモデルとした作品、
魔法のない世界で人間同士が戦争をするという物語は、出版当初からの批判もあり、
今では多くの書店からその姿を消した。
そして、2012年、日本
俺が発表した、二つの世界を完璧に描いた作品、
作者がコアとなって日本へ戻り、人類同士の戦争が予期されるSSは、ネウロイの手によって再現されることとなる。
コアとなった俺は、共鳴によって俺自身へ呼びかける。
「お前はネウロイじゃない。兵士Eじゃない。脇役じゃない。一人の人間だ――」
――覚えている。
『「――お前はお前だ。」』
頭に響く、教官の声。
「…忘れていない…。」
そして、
「…あぁ…そうだった。」
心の奥底に刻まれる、
「おれは……俺は…」
決意。
「――俺は俺だ。」
EDテーマ Stance Punks - Hello, No Future
未来は変わり、オペレーション・マルス後、ロマーニャは開放され、ストライクウィッチーズは休息を得る。
それも一時。元501のウィッチ達は平和を目指し、すぐさま戦い続ける。
彼やおじさん、脇役、兵士達の未来とは。
俺が成し遂げた望み。代償は「自分」という自己犠牲。
だが信じている。
あの日戦ったことが、いつか「俺自身の力」になるということを。
そして耳に響く、
笑顔になった宮藤の声。
最終更新:2013年02月03日 16:01