――2013年、2月、日本、俺の自宅にて――

SS「731な俺」を再度読み返し、友から許可を貰った俺は再編集をし始めた。

自分のストライクウィッチーズ世界での体験を基に、友の言っていたこと、主要ウィッチのこと、脇役のこと、ネウロイのこと、未来のこと、
その全てを考慮し、wiki内の「編集」をクリックしてから修正を行う。

だが、先ず第一に考えたのが主役「彼」の存在であった。

俺「ここに書かれた…『俺』は、つまりは彼のことなんだよな…。」

最終話を除く他の全ての話には、彼は俺の望んでいた「イチャイチャ」を実現している。
再び俺は彼に嫉妬していた時の自分の心情が蘇って来た。

「731な俺」内で「俺」と言う名の主役がウィッチ達と恋愛をしていても、それは俺ではなく彼である。

SS内で褒められたり好意を持たれる対象が「俺」だとしても……それは彼だ……俺自身じゃない…

そう思った瞬間、「俺」の名にカーソルを置いてクリックし、バックスペースのキーに指を乗せた。

…………はは……

………馬鹿だな俺は。まだ憎いのか…?

確かに悔しいさ。悔しくて仕方がない………でも…
…あいつの居場所を奪って、何になるんだ……。

俺はキーから指を離した。

彼を羨ましく思う感情はそう簡単に抜けるものではない。
だが、指をキーから離させたのは「宮藤の言葉」だった。

イチャイチャとは言いがたいかもしれない。
しかしSSに書いてある補正の掛かった「俺」ではなく、生身の「自分自身」に言われた最後の「ありがとう」という言葉は、

俺「俺自身がもらった…言葉……――」


それだけは作り物ではない、本物の言葉。


俺「………でも、現実の俺が好かれるのって難しい…。」

友が電話で喋ってたのも……結局は「現実の自分を見ろ」って話だったのかもな…。

「彼女に好かれるような俺になれていたならば」、そう思い後悔する。

だが、後悔するだけではない。

俺「はは…頑張るか。今後の…俺自身のためにも――」カタカタッ


――演出となっている脇役や「兵士A~K」の死亡シーンを全てカット。――

――俺の体験を基にしたロマーニャが解放され501メンバー全員が生き残る最終話の展開。――

――ネウロイとのコミュニケーション実験が成功。ネウロイ戦争の終結。双方の生存圏問題の解決。――

――人類の協力により他の星へ居住区を発見したネウロイの協力により抑止力の実現。人類同士の戦争の防止。――


俺「――…よし。これでいいかな。」

内容は前のものより大分変わっている。多少無理な表現もある。
それでも俺はストライクウィッチーズの平和を目指す内容を書いた。

命懸けの戦争を止め、他の犠牲を生まず、「守りたい」という希望を実現する内容を。

何故ならそれは、自らの成長のために。けじめを付けるために。

もう会えなくなってしまった彼女達に好かれたいために。宮藤に好かれたいために。

俺「…あ、そうだ…これも追記しよう。」カタカタッ


――ロマーニャ基地第501統合戦闘航空団解散後、行方不明であり、ネウロイの巣に取り込まれていた宮藤一郎博士の生存を確認。――

――その出来事を切欠に、博士協力によるネウロイとのコミュニケーション計画の再始動。――

――宮藤芳佳は父との再会を果たす。そして人類とネウロイは平和へと歩み始める。――

――END――


…こじ付けだけど……もし…この展開が実現できたならば…宮藤はお父さんに会えることが出来る…。

これなら…きっと作者の友も納得できるだろう。

俺は再編集を完了させた。

俺「………終わったし外でもランニングしてくるか。他にすることも無いし。」

パソコンをシャットダウンし、着替えて外へ向かう――






――






ネウロイとは何なのだろうか。なぜストライクウィッチーズの世界を襲うのだろうか。

しかし彼らの行動の根拠は、高度な生命体であるが故に元の世界の人間の思想にも基づいていた。

アニメでも報じられるように、容貌が怪異であるネウロイは「人類の敵」としての扱いを受けている。

兵士A~Kの脇役を摘出した「ネウロイとの共鳴」。相互のコミュニケーションの進化と分析。

元の世界の人間との共鳴によりネウロイ自身にも「敵役、そして侵略者にならなければならない」という潜在意識、固定概念を人類より植え付けられていた。

「可愛い彼女達が武器を持って戦う切欠になって欲しい」という原作やファンの希望を叶える為に。

だが、本来「やられ役」であったネウロイが自らの願望を優先して501相手に勝利するという展開が発生した。それが「731な俺」の再現にあたる。

そして変わるはずの無い未来が変わった今、ネウロイ自身が「敵役である」という長年の潜在意識を乗り越え、自らの生存と平和を選択し始める。

その出発点となるものが――




共通に溢れ、ネウロイが倒される結末ではない、「再編集された731な俺」の再現。


――1945年、8月下旬、扶桑、横須賀基地前にて――

彼「…………。」ガシャン

門を開け、彼は基地の外に出た。
しかし服装は軍服ではなく、普通の服を着ている。

軍法会議にかけられ銃殺刑を下されそうになったものの、元501ウィッチ達の731部隊に関する摘発により、
彼は軍を退役することとなった。

おじさん「これから何処へ行く気だ。」

そして同じく、「おじさん」も。

彼「…………」

おじさん「…嬢ちゃんのところへは行かねぇのか?顔ぐらい見せてやったらいいじゃねぇか。」

彼「……おれにそんな資格は無い。」

おじさん「いい加減、俺の気持ちを察しろ。何のためにあいつが梅花に乗り込んだと思ってんだ。」

彼「…………。」

おじさん「不貞腐れてる暇なんかねぇぞ。それにおれ達が背負わなきゃならねぇ罪だってあるんだ。」

彼「…そうだったな…………。今のおれに出来ることをやるさ――」


――


坂本「彼はもう出て行ってしまったか。」

土方「はっ。先程基地をお発ちになりました。」

坂本「そうか…。」

土方「…彼少尉はこれからどちらへ?」

坂本「分からん。しかし、あいつはあいつなりの生き方を探しているはずだ。」

土方「生き方…ですか。」

坂本「あぁ、そして私も……」

坂本は部屋の奥に飾っている2本の刀を眺めた。
受け継がれた刀、そして自らが作り出した刀。

坂本「…………そういえば、宮藤は欧州留学の件はどうするつもりだろうか…。」

坂本が窓の外を見た時、走ってきたであろう息を切らした兵士が突然入室してきて土方に何かを伝えた。

土方「…なんだと!?坂本少佐!ガリア軍令部より入電です!それが…――」


――ウィッチを引退し、駐在武官として執務を担い始める坂本の元にある報告が届いた。
それは2年経った1947年時の彼女にとっても決して忘れられない出来事となる。


――2013年、5月、日本、とある陸上競技場にて――

タータントラックの上に老若男女、多くの人々が走るための格好をして集まっている。
ハーフマラソンのレース。列は持ちタイム順に並び、先頭の列は強豪大学が位置を取ってスタートまでの時間に備えていた。

その先頭から7列ほど離れた後ろに俺はいた。学生参加としてのゼッケンを着けている。

陸上部も無い大学から立ち上げた同好会。メンバーは俺と友の2人のみ。
人数集めのために配ったチラシも全てがゴミ箱行きとなった。

今日がその団体の初レースである。

スタートまで残り1分。周りの様子が騒がしくなる――


……ストライクウィッチーズの世界を体験して……俺は自分が飛べないことに気が付いた。


…超えられないことや、叶わないこと。才能、生まれつき。妄想じゃない現実。


どう頑張ったって無理なことだってあるし、逃げ出したいことだってある…。


だけど、どうなるかなんて分からない。いつまでも報われないかもしれないし、いつか報われるかもしれない。


だから…俺は…


10秒前――


もし…もう一度、宮藤や501のウィッチ達、あの世界の人達に会えるなら、前より変わっている自分でありたい。


SSの中の「俺」じゃなくて、本当の俺自身でも胸を張って会えるように……愛されるように。



だから…走ってみよう。




空は飛べないけど、どこまでも地を走ってみよう。





それが、俺にできることだから。






――空へ空砲の音が鳴り響くと同時に、俺は走り出した。






――1945年、8月下旬、扶桑、宮藤診療所前にて――

服部「…此処でいいのかな?あの、すみません。」トントントン

服部静夏は診療所の戸を叩いた。

清佳「はい。どちら様でしょうか?」

服部「こんにちは。私は扶桑海軍士官候補生の服部静夏と申します。宮藤芳佳少尉に御用があって参りました。」

清佳「芳佳に?芳佳なら今は庭の縁側に居ます。どうぞ上がってください。」

服部「失礼します。」

ギシギシと鳴る廊下を歩く。庭が見える部屋に着くと、そこには宮藤の後姿があった。

チリーン… チリーン…

風鈴の音が鳴り響く。

服部「宮藤さん、欧州留学への決心は付きましたか?」

宮藤「えっ?」




――




――2013年、5月、日本、とある陸上競技場にて――

俺「はぁ…はぁ…っ…あぁっ……はあぁっ…」

ゴールした後、俺はしばらく立ち上がることが出来なかった。
身体が熱く、今はただ呼吸をすることだけを考えている。足も震えが止まらない。

友「おっ…おう。お疲れぇ…ったく、嫌になっちゃうよ全く…。」
ゴールしてきた友が俺に話しかける。

友「んで…勝てたの?なんか速いとかいう強豪大学…に。」

俺「いいゃ…全然追いつけなかった…駄目だこりゃ。あいつ等は俺とは違うよ…。」

友「へへっ…ボロ負けしたんか。」

俺「あぁ……自分に負けた。自分の所為だ。いやぁ……やっぱり俺は俺だなぁー。」

友「変わんねぇな。またお前その口癖かよ。」

俺「……ははっ…そうだな…っ…」

まだ息が苦しい。足も簡単には動かない。それでも俺は無理矢理立ち上がって顔を上げた――


俺「でも…勝つまで走ってやるよ。何たって…あの時、貰った希望があるからな。」


友「?――」






俺(…ありがとう…宮藤…――)






――






――1945年、8月下旬、扶桑、宮藤診療所にて――

服部は宮藤に欧州留学への志の有無を尋ね、診療所を後にした。

宮藤は留学への決心を悩む以前に、何か不思議な感じがした。
前にも誰かが自分を尋ね、此処に来たような記憶がある。


――パサッ


宮藤「ひゃぁ!?」


その時、空から何かが降って来て庭の植木の葉に当たった。


宮藤は気になってその位置へと歩いていく。


宮藤「…あれ?これって…」


そこには、1つのインカムが落ちていた。


宮藤「何でここにインカムがあるんだろう…。」


咄嗟に耳につけて無線をオンにする。しかし何も聞こえない。



チリーン…



チリーン…



チリーン…――




風鈴の音だけが、宮藤の耳に響く。


宮藤「何でだろう…。」


この音を聞くと、何故だか俺のことを思い出す。


宮藤「…………俺…さん…」


何故だか嬉しくも悲しくもなる。


宮藤「俺っ………さん……」


宮藤はそのインカムに向かって話しかけた――








宮藤「…ありがとう……俺…さんっ…」









――








それは、俺の耳に届く、希望を与える宮藤の声――







土方「――坂本少佐、到着しました。」キキィ

坂本「よし、急ぐぞ!」

車を降り坂本は診療所の戸を叩く。

清佳「はいはい…あら、坂本さん?」

坂本「突然押しかけてしまって申し訳ありません。早急にお伝えしなければならないことがありまして。」

清佳「…なんでしょうか?」

坂本「落ち着いてお聞き下さい。先程ガリア軍令部から入電がありまして、宮藤一郎博士の生存が――」




――




たとえ手が届かない世界でも、繋がるものを確かに感じていた。

戦争の無い現代の日本から訪れた俺。理想とは裏腹のストライクウィッチーズの世界の現実。

その経験、その時間、その繋がりは、

色あせることなく心の中に存在し、

俺の背中を、宮藤の背中を押してゆく。



宮藤「…ありがとう…………」


何故だか家の中が騒がしい。


清佳「芳佳!大変よ、こっちに来なさい!」


玄関のほうから母の声がする。


宮藤「どうしたのお母さん?」


清佳「坂本さんが来てるわ!それに一郎さんが…お父さんが生きてたのよ!」


宮藤「えっ…ええっ!!――」




――




宮藤芳佳は走り出した。



家族、仲間、親友、恋人、



嘗て敵として対立したネウロイ、



これから出会う沢山の人達、




そして、






戦争の無い、平和な未来へと――











チリーン…







チリーン…







チリーン…







チリーン…――






宮藤「俺さん……聞こえますか?」



EDテーマ 奥井亜紀 - 限りなき旅路





~おわり~
最終更新:2013年02月03日 16:03