寒さが和らぎ、穏やかな陽の光が降り注ぎ始めた三月の十四日。
中庭の一角に敷かれたレジャーシートの上に腰を降ろすガランドが手に持つカップから立ち昇ってくる芳醇な香りに頬を綻ばせた。
満足げな笑みを表情に貼り付けたまま、しばし香りを楽しみ縁に唇をつけて中身を一口啜る。
更に深まる微笑。
淹れたての紅茶で身体を温めたガランドは同じように目の前で一服する男に視線を投げかけ、
ガランド「それにしても驚いたよ。いきなり一緒に来てくれと言われたときは」
俺「今日はホワイトデーだろう?
バレンタインのお返しがしたくてな」
シートの上で胡坐を掻く俺が空になったカップを脇に置く。
ガランド「だからといって基地の庭まで連れて来られるとは思ってもみなかったよ」
その日、一仕事終えたガランドはまるでその瞬間を窺っていたかのようなタイミングで執務室に入ってきた俺に基地の中庭に連れ出された。
何事かと不思議に思う自分の前で芝生の上にレジャーシートを敷いた彼が持参してきたバスケットを見せたときにようやく今日が何の日であるかを理解したのだ。
俺「もしかして迷惑だったか?」
ガランド「いいや。せっかくの良い天気なんだ。外で食べるのも悪くないし、傍にいるのが君なら拒む理由など無いよ」
俺「ありがとう。そう言ってもらえると助かる」
笑顔で返すなり俺がバスケットの蓋を開けた。
すぐさま漂ってくる甘い香りに鼻腔を満たされ、ゆっくりと綻んでいくガランドの頬。
身を乗り出して中身を覗き込めば、表面に浮かぶ四角い模様が特徴的な楕円形の焼き菓子が姿を見せた。
ガランド「これは……ワッフルだね。それもベルギガ風じゃないか」
俺「あぁ。街で型を買って厨房で作ったんだ」
今日の日のために街中を歩いてようやく手に入れたワッフルの型であったが、今後も基地を移動することを考えれば荷物でしかない。
故に調理後は厨房を使わせてもらったお礼として基地に寄贈することにした。少し勿体無い気もするが彼らならば、きっと上手く扱ってくれるだろう。
あの型を使って基地に所属するウィッチや職員、整備班の人間たちが美味しいワッフルを食べられるのならば安い買い物である。
ガランド「作ったって……き、君の手作りなのかい!?」
俺「あぁ。やっぱり手作りのチョコを貰ったら、手作りのお菓子を贈りたいからな」
何度もバスケットの中身と自分に視線を送るガランドの姿を前に頬を掻く俺が気恥ずかしげに視線を泳がせる。
やはり男が焼き菓子を作るのは変だっただろうかという胸裏に生じた緊張は恋人の微笑によって拭われた。
ガランド「あ、ありがとう! 君が作ってくれたなんて……すごく嬉しいよ。俺くん」
瞳を輝かせるガランドが手に取った恋人手製の焼き菓子をあたかも宝物を扱うような手つきで眺め回した。
初めて手にする恋人の手料理に喜びと幸せと期待の三重奏が胸を膨らませていく。
傍から見れば、たかがワッフルかもしれないが、作ってきてくれた相手が恋人の彼だからこそ喜びも一際大きかった。
俺「その喜びをちょうど一ヶ月前にくれたのはフィーネなんだ。ちゃんとお返しになってるか?」
ガランド「もちろんさ! た、食べてもいいかな!?」
俺「どうぞ。召し上がれ」
ガランド「で、では……いただきます」
おずおずと口を開いて一口齧ると歯ごたえのある食感に舌が蕩けてしまいそうなほどの甘さが口内に広がっていく。
食道を通って胃に流れ込んだ瞬間、溶けたワッフルから彼の優しさが身体中に染み渡るような感覚に浸りつつ、もう一口。
噛めば噛むほど、言葉では言い表せない温かな幸福感が全身を包み込んでいくのがわかる。
丁寧に、余すことなく咀嚼を続けるガランドの表情は日頃の凛々しさが嘘であるかのように緩み切っていた。
俺「どうだ? ちゃんと様になっているか?」
ガランド「あぁ、君の優しさがたっぷり詰まっているよ。食べるのが勿体無いくらいにね」
俺「よかったぁ……」
微笑とともに返された言葉にほっと胸を撫で下ろす。
何度か味見は
繰り返したものの甘さの加減というものが今ひとつ掴むことが出来ず、こうして彼女が口にするまで不安が残っていたのだが、そんな心配もどうやら杞憂に終わったようだ。
ガランド「そうだ。君は食べないのか?」
俺「俺か? 俺は味見のときに何個か食べたからな。それに、これはフィーネのために作ったんだ。俺のことは気にしないで食べてくれ」
ガランド「だけど……一人で食べるのは何だか寂しいよ。こういうものはやはり二人で分かち合いたいんだ」
実に俺らしい答えだが、彼の前で自分だけが食べるというのは気が引ける。
たしかにこれは俺が自分のために焼いてくれたワッフルなのだが、それでも一人で食べるというのは寂しいものである。
喜びも辛さも共に分かち合いたいからこそ、このワッフルも二人でつまみたいのだ。
そんな自分の心情を察したのか俺がバスケットへと手を伸ばす。
俺「……そうだな。二人で食べた方が美味しいよな」
手に取ったワッフルを齧り、満足げな笑みを零す俺の姿を前にとある情景がガランドの脳裏に蘇る。
それは去年のクリスマス。
自分の手料理に舌鼓を打っていた彼が今と同じような笑顔を浮かべていたことを思い出した彼女は胸の内に込み上げてきた一つの欲求に気付き、薄い微笑を口許に湛えた。
また自分の料理を食べて欲しい。自分の手料理で幸せな気分を味わって欲しい。
そして、いま浮かべているような笑顔を見せて欲しい。
ガランド「(まったく私は……)」
自分でも気付かない内にすっかりと尽くす女になってしまったものだ。
だが悪くは無い。あぁ、悪くは無いぞ。
世界中の誰よりも愛おしい男に自分の手料理を食べて貰えるのだから。
誰よりも愛する男を自分だけが幸せにしてやれるのだから。
そう胸裏で零し、舌先まで込み上げてきた言葉を囁かんと口を開く。
ガランド「俺くん。また今度休みが取れたら手料理を作るよ。そのときは食べてくれるかな?」
俺「当たり前だろう。フィーネの料理なら何杯だっていけるさ」
ガランド「っふふ、ありがとう。美味しそうにものを食べる君の顔を見ていたらね……また私の料理が食べて欲しくなったんだが……うん、そのときは腕によりをかけないといけないね」
俺「フィーネの料理は美味しかったからなぁ……俺もまた食べたくなってきたな。期待してるよ」
瞑目した俺の舌の上にガランドから振舞われたカールスラント料理の味の数々が蘇る。
それらはどれも旅の途中に立ち寄った酒場で出されたものとは比べ物にならないほどの味わいであった。
いや、たとえどんな一流シェフが腕を振るったとしても彼女の愛情がたっぷりと詰め込まれた料理には到底及ばないだろう。
ガランド「あぁ、楽しみにしていてくれ。そうだ! 俺くん」
何か思いついたかのようなガランドの顔つき。
一体どうしたのだろうと疑問を抱く俺を他所に二枚目のワッフルを口に咥えた彼女が、徐に自分の顔を彼のそれへと近づけた。
心なしか妖艶さを帯びる微笑を前に俺が慌てた様子で辺りを見回す。
人の姿も気配も感じ取れないが、基地の窓から誰が見ているとも分からない。
そのような状況の中で、まさかこんなにも大胆な行動に出てくるとは。
俺「(えぇい! 見たかったら見てろ!!)」
――ほら。どうしたんだい?
象嵌された碧眼がそう語っているのを前に腹を括った俺が勢い良く身を乗り出し、差し出された焼き菓子にかぶりつく。
半ばやけ気味とも取れる彼の赤らんだ表情にガランドの目がみるみると細くなり、艶やかな唇はあたかも闇夜に浮かぶ下弦の月のように吊り上っていった。
ガランド「ふふっ……はむっ」
そんな悪戯めいた笑みを表情に貼り付けたまま口を開き、ワッフルを噛み千切って顔を離す。
口許に指を沿え、丹念に咀嚼を終えたガランドが今度は四つん這いの姿勢ですり寄ってきた。
俺「お前のそういうところは相変わらずだな」
同じく口の中に残ったワッフルを食べ終えた俺が腕を広げて彼女を迎え入れる。
ガランド「積極的な女は嫌いかな?」
俺「そんなわけないだろう。恥ずかしかったけど……お前が食べさせてくれたおかげで味見したときよりも美味く感じたよ」
どことなく愛しい飼い主にじゃれつく猫の姿を思わせるガランドを抱き寄せた俺が彼女の両頬に手を添える。
暗夜を髣髴させる己の黒瞳とは対照的なまでに澄んだ色合いの青玉。
決め細やかな白い肌を強調するかのような優美な黒髪。
それら全てが見事に噛み合わさったことで完成された美貌を前にした俺が喉を鳴らして生唾を飲み込んだ。
ガランド「おれ……くん?」
そよ風のような弱々しい声に我を取り戻せば、白い頬を紅潮させたガランドが潤んだ瞳で自分のことを見上げていた。
儚げで、それでいて色気を備えた上目遣い。
視線を落とせば瑞々しい桃色の唇が視界に入ると同時に自分の目を釘付けにする。
艶やかな肉の隙間から零れ落ちた吐息の音が耳から侵入し、脳髄さえをも溶かし始めていく。
速まっていく心臓の鼓動。
オーバーロードを引き起こしたかのような勢いで灼熱を産み落とす呼吸器官。
吐き出される息に熱が篭っているのがわかる。
俺「フィーネ……いま……良いか?」
息苦しさを覚えながらも何とか言葉を吐きだしたとき、既にガランドとの距離は互いの吐息がかかるほどにまで縮まっていた。
逸らすことなく自分に向かって視線を注ぎ返し、朱色で顔を染め上げながらも小さく首肯する彼女の頬に手を添え、最後の一線を越えた。
重なり合う唇と唇。それら二つの合間から零れ落ちる声とも言えぬ声。
俺「……っ」
弾力に富んだ唇の感触を楽しみながらガランドの柔らかさ、温もり、香りを堪能する。
これら全てが自分だけのものだと思うと沸き起こる衝動を抑えられない。
欲しい。
彼女の身も心も。
何もかもを独占したい。
ガランド「んっ……んぅ」
俺「んっ!?」
ガランド「……んふふ」
不意に自身の胸中で渦巻いていた黒い情念の存在に気がついた俺が目を見開いた。
このままでは彼女を押し倒しかねない。
それだけは避けねばと自身を叱咤する俺の頬にたおやかな指が添えられる。
しっとりとした感触の、その繊手がガランドのものだと気付くのに俺は数十秒の時間を要した。
自分を正視する青い瞳に浮かんだ優しげな光。
まるで自身の胸裏に生じた欲望を見通した上で包み込むほどの柔らかな眼光を捉えた瞬間、脱力感を覚えつつ静かに離れる。
ガランド「大丈夫かい?」
頬を撫でながらガランドが囁いた。
彼女の指が触れているのは頬だというのに俺は何故だか自分の心を触れられているような錯覚を覚えた。
俺「あぁ。おかげさんでな……」
自分を正気に戻したその白い手を握ると温めるように包み込む。
いつまでも握り締めていたくなるような肌触りは自分の手の平から抜け出し、彼女の細い腕が今度は自分の首に回された。
ガランド「君さえ良ければ……もっとしても構わないかな?」
俺「大丈夫だけど……何だか今日はやけに求めてくれるんだな」
ガランド「何せ今日はホワイトデーだ。少しくらいねだっても罰は当たらないと思うのだよ」
俺「別に今日じゃなくたって。いつでも、いくらでもねだっても良いんだぞ?」
ガランド「ふふっ」
唐突に笑い声を零すガランド。
はて、自分は何か彼女を笑わせるようなことを言っただろうか。
訝しげに首を傾げる俺の前でガランドが小さく手を振ってみせる。
俺「フィーネ?」
ガランド「いや。君ならそう言ってくれると思ったよ……俺くん」
言うなり体重をかけて俺の身体をシートの上に押し倒したガランドが再び俺の唇に自分のそれを重ね合わせた。
半ば押し付けたといっても何ら差し支えないほどの口付けを受け止めた俺が空いた両手を彼女の背に回し強く抱きしめる。
しばし、彼女の髪から漂う甘い香りで鼻腔を満たしていると唇の隙間から侵入してきた舌の感触に思わず身体を強張らせてしまった。
ガランド「……うん、やはり君のその顔は良いね。可愛くて大好きだよ」
俺「……男に可愛いってのは禁句なんだぞ?」
そこはかとなく棘を含む声。
可愛いと言われて喜ぶ男が果たして世界中にどれほどの割合でいるのかは知らないが少なくとも自分は可愛いなどと言われたくは無い。
ガランド「そう?」
俺「そうなの」
語気を強めると彼女の頭から飛び出る白猫のそれを思わせる耳が力なく萎れた。
ガランド「それは残念だよ」
俺「そんな露骨に落ち込むなよ。こっちまで傷つくだろう」
ガランド「……本当に駄目?」
俺「駄目なの」
ガランド「……それじゃあ、仕方ないね」
シートの上に横たわる俺の身体に圧し掛かったガランドが今度は鍛え上げられた体躯に頬を埋めた。
交際を始めてから何度も施される愛撫にむず痒さを覚えた俺が身を捩らせる。
俺「お、おい」
ガランド「少しだけ、少しだけで良いんだ。頼むよ……」
どこか縋るような声音に俺は無言で、なだらかな背に手を回す。
片手でさすり、もう片方の手で心地よい温もりの背中をあやすような手つきで小さく叩き始めた。
日頃、自分を抱きとめてくれる優しさに満ちた腕の感触に安心感を抱いたのか、穏やかに瞑目するガランド。
いつしか清澄な声色は小さく、儚なげなものへと変わっていた。
ガランド「ありがとう……俺くん」
俺「落ち着くか?」
ガランド「……落ち着きすぎて……なんだか、眠く……」
俺「いいよ、疲れてるんだろう? 寝たら部屋まで連れてってやるから……いまはゆっくりとおやすみ」
ガランド「うん……ありが、と……」
遂に言葉を最後まで紡ぐことなく寝息を立て始めたガランドを背負い、畳んだシートをポットとカップと一緒に空になったバスケットの中に詰め込んで立ち上がった。
俺「おっ」
ふと目を丸くする。
気がつけば、いつのまにか沈み始めた太陽が朱の光を放っていた。
自分と彼女を照らす鮮やかな朱色の陽光に俺が目を細めた。
どこにでもあるありふれた光景。世界のどこを回っても見ることが出来る一日の終わり。
それを、寝ているとはいえ恋人と一緒に眺めることできるのが……なんとなく、うれしい。
俺「フィーネ。ほら、夕日が綺麗だぞ。今度は二人一緒に見られるといいな……」
ガランド「……んぅ……おれ……くん……」
返事とも寝言とも取れない声に口許を綻ばせた俺が基地へと向かって歩き出す。
背中に当たる恋人の胸の感触への感動を抱きながら。
俺「さてと……どうするかな……」
日が傾きはじめ、徐々に風が冷たくなっていくなか。
寝息を立てるガランドを背負い、紅色の光が差し込む基地内の廊下を歩く俺は一人
物思いに耽っていた。
それは五日後の三月十九日のこと。すなわち、ガランドの誕生日のことである。
何を贈れば良いかという悩みは既に解消し、プレゼントも購入済みだ。
問題はそのプレゼントを如何にして渡すか。要はシチュエーションの問題。
その日をガランドにとって一生忘れることのない思い出にしたいと考えている俺にとってプレゼントを渡す状況というのは極めて重要なことなのである。
俺「(フィーネが休みを取れれば旅行とかにでも行けるんだけどな)」
胸裏で零された言葉はすぐさま現実によって打ち消される。
もちろんウィッチ隊総監の彼女が戦時中に旅行に出られるはずが無い。
出られたとしてもせいぜい一泊が関の山だろう。
秘書官「俺さん? それに……少将閣下?」
廊下の曲がり角に差し掛かったとき、不意に隣から聞き覚えのある声が飛んできた。
首を曲げれば両手に書類を抱え、不思議そうな表情で自分たちを見つめる秘書官の姿が視界に入る。
俺「疲れが溜まってたみたいでな。ついさっき寝ちまったんだ」
俺の言葉に思い当たる節があったのか目を細め、小さく俯く。
秘書官「そうでしたか……たしかにここ最近は閣下も執務に追われていましたからね」
俺「……そうか」
秘書官「俺さん?」
俺「いや。こういうとき……何も力になれないっていうのは辛いな」
秘書官「それは違いますよ」
ガランドほどではないものの、その澄んだ声色には自分が放った言葉に対する確かな自信が含まれていた。
秘書官「……たしかに貴方は軍会議にも出られませんし、軍部への発言力もありません。ですが、貴方は他の殿方では決して手に入れることのできないものを既に手に入れているじゃないですか」
俺「…………あぁ」
確かに、軍上層部に身を置く他の男たちと比べれば自分は胸を張れるような肩書きなど持ち合わせていない。
だが彼女が述べたように、そういった飾りや立場が霞んでしまうほどのものを自分は既に手に入れているではないか。
アドルフィーネ・ガランドとの間に結ばれた固く深い愛情を。
これに勝る誇りなど、この世のどこを探しても見つけることはできないだろう。
俺「そうだったな……」
飾りや立場など関係ない。大切なのは彼女に対してどれほどの愛を注げるか。
そして、常に激務に追われる彼女を包み込み、支えることができるのは彼女と結ばれた自分ただ一人。
どうしてこんなにも重要なことに気がつかなかったのかと言いたげに俺が苦笑いを零す。
秘書官「……俺さん。改めまして閣下のこと、これからもよろしくお願いしますね」
どこかを念を押すような言葉を零し、優雅に一礼して去っていく秘書官の小柄な背中に頭を下げる。
自分は自分にしか成せないことをすればいい。そう胸裏に誓う俺は背負うガランドを起こさないようゆっくりとした歩調で自室へと向かった。
その日の夜のことである。
妙なこそばゆさを感じて目を覚ましたガランドはベッドから起き上がろうともせず、ただ無言で自分の胸元を凝視していた。
彼女の視線の先に佇んでいたのは自分の胸元に頬を密着させて寝息を立てる俺の無防備な寝顔であった。
まどろむ意識が段々と明瞭になるにつれて、意識を睡魔に奪われる直前の記憶が蘇る。
ガランド「俺くん? そこは枕じゃないよ?」
弾んだ声音を零し、自分の胸を枕代わりに使う恋人の頬を軽く突っついてやる。
すると呻き声を洩らした俺は更に彼女の胸元に頬を摺り寄せることで魔手から逃れる。
胸をまさぐられているかのようなくすぐったさに身を捩りつつも、子どもじみた寝顔を前にガランドの口許から笑みが弾けた。
ガランド「私の胸はそんなにも気持ち良いのかな?」
俺「ぅん……んぅぅぅ」
ガランド「よしよし……ごめんよ」
自分と同じ俺の黒髪を撫でるガランドがもう片方の手を彼の背に回して抱き寄せる。
ガランド「俺くん。もうすぐ私の誕生日だけど……君は覚えてくれているよね? 誕生日プレゼント、期待していても良いのかな?」
返ってくるのは相も変わらず寝息と寝言。
それでもガランドは口を噤むことなく、まるで子守唄を唄うかのような柔らかな口調で囁き続ける。
ガランド「私としては君が傍にいてくれるのなら……別に何も無くても構わないのだけどね」
頭を撫でる手を今度は頬に添える。
手の平に伝わってくる仄かな熱が心地良い。
ガランド「これからも……ずっと傍にいるよ。絶対に離れたりしない。だから、君も……ずっと私の傍にいてくれないと、嫌だよ?」
――私はもう、君なしでは生きていけないのだからね。
そう胸中で付け加え、俺の鼻先へと軽く口付ける。
ガランド「私ももう一眠りするかな。おやすみ……俺くん」
そのまま俺の頭を胸元に抱きこんで瞼を閉じ、ガランドはもう一度意識を手放した。
夢の世界でも愛しい彼と出会えますようにと祈りながら。
~おしまい~
時期を過ぎすぎたので直投とさせていただきましたが……ロスマンタイムどころではありませんね
最終更新:2013年02月04日 14:31