ミッケリ臨時空軍基地 廊下 夜

俺「エイラの奴、水持ってくるだけで何処まで行ってるんだよ」

 電気の薄暗い基地の廊下を、俺はカツカツと歩いていた

俺「穴吹少尉もあれから部屋に戻ってないし…消灯過ぎても士官は特別なのか?」

 本日、智子に届けられた扶桑の新鋭機による墜落を思い出しながら、
 ちょうど階段に差しかかろうとした所で、階段を上ろうとしているウルスラと鉢合わせをした
 俺は少し苦い顔をする

俺「…今戻った所か?」

ウルスラ「整備してた」

 そういうウルスラの手には、クリップボードに挟まれたMG151/15機関銃のマニュアルが握られている

俺「そっか…」

 それだけ言って、俺とウルスラは階段ですれ違う
 ウルスラが階段を上りきった所で俺は振り向かずに声をかける

俺「あのさ」

ウルスラ「何?」

 ウルスラは足を止め、グリーンカラーのカールスラント軍服を揺らしながら、同じテンポで階段を下りた俺の方を向く
 俺は依然として彼女に背を向けたままだ

俺「その、だな、この前は…」

 俺はまだ傷跡が残る右手を握ったり開いたりしながら、しどろもどろに言う
 ウルスラはそんな様子の俺を、小首を傾げて見ている

俺「…何でもない。呼び止めて悪い」

ウルスラ「そう」

 ウルスラは俺に背を向けて、いらんこ中隊の居室に向けて再び歩き出した

 俺は自分の右手を見てため息をつく

俺「…やっぱ無理なのかね」

 俺は右手をジャケットのポケットに突っ込み、階段を下りてエイラを探し始めた






ミッケリ臨時空軍基地 家庭科室前廊下 夜

 階段を降りてしばらく歩いていると俺は何かを見つけた様に足を止める

俺「ん、食堂の明かりがついてる?」

 家庭科室と書かれている教室、今は臨時の食堂として使っている教室の明かりが付いている
 目を凝らすと、二つある入り口の一つのドアを少しだけ開けて屈んで覗いているエイラが居た

俺「何してるんだエイラ?」

エイラ「ぃ!?しぃー!」

 急に呼ばれたエイラは肩をビクッとさせて、歩いてきた俺に振り向き、口に人差し指を立てて
静かにというジェスチャーを送る

俺「んん?」

エイラ「静かに来いヨ」

 小声で注意するエイラに従って、俺はソロリソロリと忍び足でエイラの所まで行き、
エイラと同じ格好で食堂の中を覗く

 食堂の中には椅子に座って顔を少し赤くした智子と扶桑の技師である糸川が会話していた
 智子の前の机には封の開いている酒のビンと空になったコップが置かれている

智子「敵を減らす事は純粋に戦術上の優位をもたらすわ。そのために、格闘戦の能力は必要よ」

糸川「扶桑皇国航空界の大勢もきみと同意見さ。でも、実際カールスラント戦線では、僕が言った様な
 戦い方が行われている。これからの戦いは、格闘戦なんておまけになる」

 少し開いたドアの奥で俺はため息をついて再び会話する智子達を見据え

俺「おまけね…」

 と小声で呟いた

智子「極端ね、あなたの持って来た、まがらないキ44と同じくらい」

 智子は赤くなった顔で糸川を睨んでいる

糸川「性能を追い求めた結果さ。キミの意見が正しいか、ボクの意見が正しいか、それは歴史がそのうち決めてくれるだろう」

 智子は諦めたようにため息を付いて糸川に尋ねた

智子「強情ね…どうして回りくどい説明までして、キ44を私に使わせたいの?」

糸川「君は音に聞こえたエースじゃないか。そんなエースに使ってもらう事は、僕達の考えたコンセプトが正しい事を証明する」

 智子は一度ため息を付いたが、首を一度振って糸川を見直そうとしたら、
糸川が智子の肩を抱いて何かをささやき始めた

エイラ「聞こえないゾ?なんて言ってるか分かるかオレ?」

俺「無理だろ、というかなんでお前はこんな覗きをしてるんだ?」

 廊下にて小声でやり取りしている二人の耳に大音量の智子の声が響き始めた

智子「何言ってんの! ば! 馬鹿のこと言ってると怒るわよ!」

糸川「馬鹿な事なんて言ってないよ。いやぁ、一目惚れってあるんだね。驚いたよ」

 糸川は、智子の顎をいきなり掴んだ。
 智子は何が起きたか分からない表情をして止まったままだ

智子「あ…」

エイラ「ァ…」

俺「うぉ…」

 家庭科室の智子と、廊下の二人の声が同じタイミングで小さく響いたと同時に、
智子はそのまま引き寄せられ、唇を奪われる

 しばらく唇を合わせた後、ゆっくりと糸川は唇を離す

糸川「許してくれ、あまりにも君が美しいのだから…」

 智子は唇を奪った張本人の顔を見てわなわなと震えながら、糸川の頬を叩いた
 糸川は叩かれた頬に手をさすりながら呟いく

糸川「おや、もしかして、キスは初めて……、だったかな?」

 糸川の言葉すら聞かず、智子は顔をおさえて、俺とエイラが覗いていたドアとは違う出入り口に走り出す

俺「げっ!?隠れろエイラ!」

エイラ「わっ!むぐぅ!」

 エイラの口を両手で押さえドアから体を離して廊下の影に座り込み身を縮める
 それと同時に智子は二人から見て向こう側のドアから飛び出して行った

俺「この基地は本当に、いや、あれが正しいのか?一応男女だし…」

 糸川も智子の出て行った同じ出入り口を使って食堂から廊下に出て歩いて行く

 俺の両足の間に収まっているエイラは、彼女の口を押さえてる彼の両手の腕をそっとおさえる

俺「どうしたエイラ?」

エイラ「ん…」

 エイラは口を押さえられたまま顎を上げて彼の手をぺロッと舐めた

俺「うぉっ! 舐めるなよ…びっくりしただろ」

 俺はゆっくりと彼女の口を開放し、立ち上がるようにエイラを手で促すが、
彼女は立とうとしない

俺「エイラ?」

エイラ「…なあオレ」

 エイラは座ったまま俺の方に体ごと振り向く
 影の暗闇で分からなかったが、よく見ると彼女の頬は赤く染まっていた

エイラ「オレはああいう事したこと…アルノカ?」

俺「いや~…」

 俺は右手で後頭部をかいてエイラから目線を逸らす

エイラ「トモコ少尉より年上なのにしたこと無いノカ…そっか」

俺「悪いかよ」

 エイラは首を左右に一度小さく振り、俺を見つめる

俺「な、なんだよ?」

エイラ「よ、良ければ相手にナルゾ…?」

俺「はっ?」

エイラ「だから、その…さっきトモコ少尉達がしたヤツをダナ」

 エイラは目を潤ませ小声で俺の顔を見つめる
 座っているせいかお互いの顔が近く、吐息がかかるのではないかという程の距離だ

 俺は両手を優しく彼女の頬に当てる

エイラ「ぁ…」

俺「エイラ」

 そのまま俺はエイラの両頬をつねった

エイラ「イダダダダダダっ!ギブッ!ギブアップなんダナ!」

俺「このマセガキが!そういうのはまだお前にははえーんだよ」

 バタバタと抵抗するエイラを無視して、1分ほど手加減をしながら彼女の頬をつねった俺は、
満足そうに立ち上がる
 エイラは両頬をさすっていた

俺「ほれ、戻るぞ。明日は出撃だしな」

エイラ「うう…酷いンダナ」

俺「何言ってんだよ、覗きをしていたお前が悪い。自業自得だ」

エイラ「それはオレも同じダロー!」

俺「俺は誰かさんに誘われただけだし~?」

 俺はおどけたように笑いながら薄暗い廊下を歩き出す

エイラ「な、納得行かない…」

俺「ふふふ、そういう事はお前がエルマ中尉くらいになったら考えな」

エイラ「むn」

俺「胸じゃねぇからな?」

エイラ「うぐぅ…」

 エイラはよろよろと立ち上がり俺の後ろに付いていって居室に向かった






翌日 スオムス上空 正午

 迫水ハルカを除く『いらんこ』中隊の7人は、各々に当てられた新鋭機を装備して、
スオムス上空を飛行している
 ただ、智子だけは扶桑から送られたキ44ではなく、キ27を装備していた

俺「やっぱ爆弾持たないと身が軽いなぁ」

 短機関銃を持ち、巨大な剣であるツヴァイハンダーを背中にベルトで固定して飛行する俺が、
そう一人ごちると無線からのエイラの声が返答する

エイラ<全くダナ、まるで羽でも生えたみたいダ>

俺「こっちがデフォルトだけどな、メッサーシャルフの調子はどうだ?」

エイラ<快調ダゾ!バッファローと違ってとっても軽いんだ。そっちはドーナンダヨ?>

俺「こいつはロール率はかなり高いけど、不思議と使いやすい感じがするな」

 俺の足に装備されたFw-190A0は以前のBf109D型のエンジン音とは違う野太い音で俺を後押ししている

エイラ<また最初の時みたいに私に体当たりするのは止めてくれよ?>

俺「多分大丈夫…だと思う」

 不安そうに無線でやり取りしているとハッキネン少佐の冷たい様な声が無線から届く

ハッキネン<作戦行動以外の無線は極力控えるように、カールスラント2番、スオムス2番>

俺「げっ、カールスラント2番了解」

エイラ<むぅ…スオムス2番了解>

 その通信が終わり無線から何も聞こえなくなった為、はるか後方にいるエイラを見ると、
何が原因かエイラは怒った顔をこちらに向けていた

俺「仕方なねーだろ、命令なんだから…」

 俺は視線を前に戻して前を見る

俺「まさか俺が穴吹少尉の3番機をやる事になるとはねぇ…」




出撃前 ミッケリ臨時空軍基地 臨時滑走路

 それぞれハルカを覗いた『いらんこ』中隊の面々は、出撃準備の為に装備の最終確認をしている中
ビューリングは智子に近づく

ビューリング「ちょっといいか?」

智子「な、何よ?」

 不意を付かれた様に少しだけビクッっと驚いた智子の耳に、ビューリングは顔を近づけて、
耳打ちを始めた

智子「そうね…分かったわ」

ビューリングは智子の耳から離れる

智子「皆聞いて!」

 智子の声に出撃準備をしていた中隊の皆は智子に視線を送る

智子「出撃の前に編隊を変更します、俺軍曹、私の3番機につきなさい」

俺「えっ?」

エイラ「えええええええええっ!」

 呼ばれた本人よりエイラの方が驚いている

智子「あなたは近接戦も覚えないといけないでしょ。出来るだけ私の後ろについて軌道を覚えて頂戴」

俺「りょ、了解」

智子「私の2番機にビューリング少尉が居るからそんなに気構え無くていいわよ」

俺(ついていけるか心配なんだけど…)

智子「他はキャサリンとウルスラの二機編隊(ロッテ)、エルマ中尉とユーティライネン軍曹の二機編隊(ロッテ)で行くわよ」

 その指示に、エイラは小さいながらも、了解と中隊の皆の返答と同時に答えた





スオムス上空 正午

 出撃から数十分が経った程、俺の前に居る長機である智子がそわそわしたり地団駄を踏んだように、体を大きく揺らしている

俺「何やってんだ?」

 後ろから見ても分かる怪しい行動に、怪訝な顔でエルマ中尉は智子を見つめる

エルマ「トモコ少尉?」

智子「あ、いえなんでもありませんです。はい」

 キャサリンが智子の目の前で、手を上下に振る

キャサリン「なんか、心ここにあらずねー」

智子「大丈夫よ」

ビューリング「全然大丈夫なようにはみえないぞ…熱はないようだな」

 ビューリングが寄って来て、智子の額に当てた手を離す

 エルマは頭をかきむしって泣きそうになってる

エルマ「トモコ少尉、どうしたんですか~~~。少尉は一番頼りになるっていうのに!」

 エルマの様子を気にせず、マイペースに寄ってきたウルスラが、トモコの顔をじっと見つめる

智子「な、なぁに?」

 首をかしげたウルスラが、ぽつりと呟く

ウルスラ「恋」

智子「な!何言ってるのかしら!このメガネっ子ったら!ふざけたこと言うと、メガネ割るわよ!」

 いつの間にか編隊飛行からいらんこ中隊の面々は智子を囲うようにして飛行している

キャサリン「なに!トモコ!ユー、恋したねー!相手は誰ねー!」

 乙女トークから蚊帳の外状態である俺は、小さく呟く

俺「…やっぱりあれか?」

 俺は両手を組みながら、あさっての空を見上げクルクルと横回転した後、エイラを見る

 エイラの顔は真っ赤になっていた

俺「はぁ…刺激強すぎってか、教育上悪いっていうかなぁ」

 横回転を止め、飛行体制に戻った俺の前にはキャサリンがトモコの脇をくすぐった光景が映った

キャサリン「誰ねー!相手を早く言うねー!」

 ビューリングが、キャサリンの隣で顎に手を当てる

ビューリング「あの、本国からやってきた技師だろ?違うか?」

智子「違う! 違う! 絶対違う!」

 智子は錯乱したように、本日、護衛任務の為の機関銃を撃ち始めた

ビューリング「わ! ばか! 撃つな!」

 その弾がシールドを張った俺の額の前でいくつも止まる

俺「危ねっ! というよりシールドが無かったら即死コースだぞ!」

 バリバリという機関銃の銃声と悲鳴に近い騒ぎを見つめて、エルマはせつなそうにしている

エルマ「せっかくお願いしたい事があったのに…、今日は無理そうですね…」






スオムス上空 昼

 少し落ち着いた智子より高い位置に避難していた俺は、辺りを見回す
 前方には、ミカ・アホネン大尉が率いる第一中隊の影が見える

俺「迫水ハルカ一等飛行兵曹は大丈夫かねぇ…落ちないと良いが」

 俺は心配しながら、いらんこ中隊から抜けてしまったハルカの姿を探す
 遠くてよく見えない為、俺は目を凝らす

 第一中隊の編隊の中に、密着している2機のウィッチを見つけた

俺「…心配するだけ無駄だったな」

 遠くから見えるその2機、ミカ・アホネン大尉と迫水ハルカ一等飛行兵曹が、空中でくんずほぐれつしているのが
見えた所で、俺は視線を後方に向ける

 その方角には護衛対象の爆撃中隊、その先頭にルーデルの呆れ顔があった

俺「ま…普通はそうなるよな」

 俺は視線を前方に、なるべく第一中隊を見ないように飛行していると第一中隊から無線が入る

アホネン<敵発見、これから攻撃に移りますわ>

智子「りょ、了解、中隊は編隊に戻って!」

俺「了解!」

 智子を囲んでいた『いらんこ』中隊のメンバーは、それぞれ適度に離れて編隊飛行に戻り戦闘態勢を取った所で、
俺の喉頭式マイクのイヤホンからエイラの声が聞こえる

エイラ<あ、おいオレ、アレ見ろアレ!>

俺「作戦中の私語は禁止だってさっき言われたばかりだろ」

エイラ<違うってノ!左の雲の隙間に黒いのが!>

俺「ん~?」

 俺は目を凝らして左の雲を凝視する
 そこにはラロス(戦闘機型)改の黒い機影が6機、編隊を組んでこちらに向かっていた

俺「敵だ!カールスラント2番から扶桑1番へ。敵発見、左雲の隙間に6機!」

 慌てたように無線で智子に知らせるが反応が返ってこない

俺「カールスラント2番から扶桑1番、聞いてますか! 穴吹少尉!」

 5秒ほどして智子の腑抜けた声が返ってくる

智子<え? あ、どうしたの?>

俺「敵です左前方雲の隙間からラロス改と思わしき機影が6機です」

智子<あ、ありがとう。じゃなくて了解! 扶桑1番より中隊全機へ、左前方のラロス改を迎撃します 続いて!>







スオムス上空 スラッセンの街・十五キロ手前

俺「右も左も敵だらけだ!くぅっ!」

ビューリング「しっかり付いて来い俺軍曹!」

 俺は先頭で上昇を始めた智子とビューリングに続いて上昇し、10機以上のラロス改とすれ違う

エイラ<20機以上いるんじゃないかコレ!>

エルマ<きゃぁ、きゃぁ!ついてこないで下さいぃぃぃ>

キャサリン<6機のラロス改は囮だったのかねー>

ビューリング<やられたな…っ!トモコ正面だ!>

 智子率いる三機編隊の上にはさらに5機以上の敵が急降下をしながら両翼の機銃を掃射する

智子「くッ!」

 智子は上昇を止め水平飛行に意向し、そこから旋回を始め、ビューリング、俺はそれに続く

 さらに敵2機が上空から智子の背後に付いた

俺「穴吹少尉、後ろ!後ろだ!」

 スオミ1932短機関銃で智子の背後をとっていた2機のラロス改に弾丸を送るが
バチバチと音を立てるだけでまるで効果は無い

ビューリング「コイツならどうだ?」

 ビューリングの20ミリ機関砲が、野太い発射音と共に弾丸を1機のラロス改に送り込み、
敵の片翼があっけなく吹き飛ぶ

智子「あ、ありがとう!」

 俺の声と、二人の銃声でやっと気がついたのか智子は、機銃を構え身をひるがえす

 一機撃墜したビューリングの背後に一機のラロス改が取り付いた

ビューリング「ちッ! 私はこいつを振り払う、俺軍曹はトモコについて行け!」

俺「了解、旋回はやっぱり少尉のが早い…な!」

 智子は、横にS字を描くように旋回したかと思うと、急に下へロールするなどして、
追っていた2機のラロス改の背後に取り付いた

 俺は途中から智子の軌道をトレース出来ずに途中から違う軌道から智子に追いつこうとする

智子「落ちてーーーーーー!」

 叫びながら7・7ミリ機関銃の弾丸を送るがラロス改の表面で機銃弾が跳ね上がるだけだった
 智子の機銃の弾薬が無くなるが、弾倉を変える気配は全く無く、真っ直ぐ飛んでいた

俺「穴吹少尉?何をぼーっと、まずい! 穴吹少尉ぃ! くそっ!」

 俺は一機のラロスが自分の背後に取り付いたのを確認して旋回を始める
 だが智子はまだ真っ直ぐ飛行しているだけ

 一旦俺を追いかけようとしたラロス改だったが智子に標的を変えて赤い機銃弾を彼女へ送る

俺「少尉! 穴吹少尉! 撃たれてるぞ!」

智子「え? ええ?」

 智子は呆気に取られた表情から我に返るが

 ガガガンガガガンッ!

 という被弾音が俺の耳にも響いた

ビューリング「煙を吹いてるぞ!」

 智子の背後に取り付いたラロス改を追い払ったビューリングは彼女に追いつこうとする

 智子は体を捻って旋回を試みている

智子「ど、どうして、旋回できない!」

 別のラロス改がビューリングと智子の後方に取り付く

俺「させるかぁああああああああ!」

 俺は旋回を終えて長機達を捕らえたラロス改にベルトから引き抜いた巨大な剣、ツヴァイハンダーを振ろうとするが、
ラロス改は俺が0距離に届く前に、旋回してしまう

俺「くそっ!数が多すぎる」

 旋回の出来なくなった智子と撃墜しようと、複数のラロス改が後方から接近し、赤い機銃弾を掃射し

 ドオンッ!

 という爆発音が響いた

俺「っ!」

智子「ああああッ!」

 左足のストライカーが爆発し墜落していく智子
 俺は空を向いていた機首を地面に向けようと旋回する

俺「間に合うか?うおっ!」

 ブウゥウン!

 短いレシプロエンジンの音と風切り音が混じりながら俺の横を、バッファローを装備したキャサリンが智子が墜落する速度より
何倍も速い速度で智子に追いつき彼女を抱きとめる

 その後ろからビューリングは20ミリ機関砲を打ち込み、智子を狙っていたラロス改集団の1機を撃墜したのを皮切りに、
敵は全員旋回し始める

俺「凄い急降下性能だ…ん?」

 キャサリンの速度に見とれていた俺は自分の辺りを確認する
 はるか下方、墜落した智子を抱えたキャサリンに続いてビューリングが追いつく

 その辺りには旋回して上昇し始めている10機以上のラロス改、その機首は孤立している俺に向かっていた

俺「ちょっとまずいか…」

 俺は智子の方角に向かって下に向けていた機首を上げて水平移動に意向しラロス改10機の右脇から逃げようと試みる

 敵6機は旋回率が間に合わず俺の後方を上昇して通り過ぎるが、4機は俺の背後にぴったりとくっつき、両翼の機銃を掃射する

 ガガガガガッ!

 4機の赤い機銃弾が後方に展開した俺のシールドを削り始める

俺「うぐぁっ、くそったれ!」

 俺はフラックウルフA0の高いロールレートを最大まで利用して、急激に体を反転させ、機首を上げて
地面に向かって縦旋回を始める

 敵は俺の横回転についていけず、反応が遅れて俺の軌道コースから大きく膨らんで縦旋回し始める

俺「あとは上昇して振り切、っ!」

 先ほど上昇して通り過ぎた6機が、俺の後方の高い位置から既に射撃体勢を取って機首をこちらに向けている

 俺はその様子が、その瞬間がとても遅く、長く感じた

俺(シールドはさっき削られたしな、今度は6機。落ちる…だろうな)

 俺は防ぎきれないと分かっていてもシールドを展開し目を瞑る

 ガガガガガガガガガガッ!

 ラロス改の赤い機銃弾が俺の体を狙い、赤い弾丸の雨をピンポイントで降らせる

俺「っ!」

 ガガガガンッガガガガガガ…

 機銃弾が命中した音が響き、ラロス改のエンジン音が通り過ぎる音が俺の耳に届いて、
 俺はゆっくりと目を開ける

俺「…耐え切れた、のか?」

 俺は自分の体を確認し周囲を確認する

俺「おい………冗談…、やめろよ…」

 俺は自分よりわずかに高度を飛んでいる『何か』を確認した

 再び俺の見える世界の時間がゆっくりと流れるように感じる

俺「なんで、なんでお前がそこにいるんだよ…なぁ…?」

 その『何か』はストライカーを履いており、黒いススが体中についている

 俺の心臓の音は次第にはやる

俺「カールスラント軍人ってのは…そうじゃねぇだろ?」

 短い金髪がゆれ、トレードマークであるメガネが無くなり、額から血を流したウルスラ・ハルトマンが目を瞑り、
上昇していた体が重力によって引っ張られ、ゆっくりと速度を落とし、落下していく

 2機のラロス改は再び旋回して、意識の失ったウルスラの後方につこうとしている

 俺はフラックウルフの魔道エンジンにありったけの魔力を注ぎ込み

 バンッ!

 という両翼下にある排気口から短い爆発音を鳴らさせて、意識を失った彼女の元に急降下する

俺「うぁぁぁああああああああぁあああああぁああああああああっ!」

 俺は叫びながら巨剣、ツヴァイハンダーを両手で握り締めて
ウルスラの後方についたラロス改に突進する

俺「邪魔だああああああああぁあああぁぁああああああああああああ!」

 フラックウルフの高出力の魔道エンジンと重力を味方にして、いままで体験した事のないスピードでラロス改に迫り
剣を一振りする。

 ガァァァァン!

 強烈な金属音と共に1機のラロス改の翼を根元から『叩き壊した』

 もう一機のラロス改は俺を避けようと旋回しようとする

俺「逃がさねぇ、逃がさねぇぞーーーーーーッ!」

 俺はスピードをそのまま、一度水平飛行に無理やり機体の機首を上げ、旋回しようとするラロス改の上から再び急降下し

 グシャァ!

 そんな擬音が似合う程に、ラロス改の本体をツヴァイハンダーでくの字に折り曲げた

俺「くっ!」

 急降下で生まれたスピードを殺さずにそのままウルスラの所までたどり着き、彼女を抱きとめる

俺「はぁ…、はぁ…、はぁ…」

 奇襲をかけたラロス改編隊は撤退を開始し、俺はそれを見て、ウルスラに視線を移した

俺「どうして…どうしてだ…」

 俺はうわ言のように同じ疑問を繰り返し、スオムスの空の上で肩を小さく震わせていた


続く
最終更新:2013年02月04日 14:53