『1944年9月10日 ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐の手記』

『彼』の遺したドレスと手紙を見つけた。


正直、失うのは今でも怖い。

それでも、過去を否定するのは違う。

それをしてしまったら、自分が得た思いや感情、記憶だけではなく、『彼』自身をも否定する。

そして、過去に連なる今の自分と、周囲の皆の否定。


それだけは、間違っていると思う。



私は『彼』を失ったが、今の私には隊の皆という家族がいる。

その家族を失わぬために、大事な人を失わぬために戦う。


だから、あんな戦い方をする彼を放ってはおけない。

彼は死に急ぎすぎている。


トゥルーデによれば、私がカレーに向かってすぐ、彼もカレー郊外の方へ向かったそうだ。

何か関係があるのかもしれない。



『1944年9月10日 オレ軍曹の手記』

まさか、再びカレーを訪れる日が来ようとはね。


中佐が降りてすぐ、オレも適当に言い訳して街へと向かった。

ま、あれだ、原点回帰って奴だ。

この4年の間に崩れた所もあったが、概ね記憶通り。

拵えの微調整が中々終わらず、詰所のデスクに置きっぱなしだった手甲もそのまま。

かなり汚れてはいるが、磨けば問題なく使えるだろう。

……もっとも、今の俺に使う資格があるとも思えないが。


『俺』の最期の地、郊外の有様も当時と変わらず。

擱座した戦車、放棄された歩兵砲、大小様々の砲弾痕、そして、――。




俺は、何故死ななかったのだろうか。

生き延びて尚、何を為せというか。

護るべきモノを全て失ったこの身に、一体、何が。




魔術師の名を冠した、ウィッチをも凌ぐという兵器。


生き残った理由が、この計画を見届ける為だとするなら。

この計画に協力することが、俺に出来る唯一の償いであるならば、俺は――。





『1944年9月11日 ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐の手記』

とうとう彼の真意は聞くことが出来なかった。

無茶な機動や戦う理由について訪ねても、「性分」だとか「振りかかる火の粉は――」なんて、

茶化したような答えしか返さなかった。


もっと、彼自身の核心に迫る必要がある。

  • ダイナモ作戦に関係している(?)

  • バイクのような形状のストライカーを乗り回す

  • 槍などという、空戦には凡そ向いていない武装を好んで使用

普通のストライカーではなく、あえて旧式の、地を駆けるイメージの強いバイク型のストライカーを使う理由。

銃器よりも、肉薄しての接近戦を好む理由。

そして、ダイナモ作戦に従事した各国空軍のウィッチに、あのような人物がいたとは聞いたことがない。





……陸軍?




『整備班長へのメモ』

突然で悪いんだけどオレのストライカーの魔導エンジンに合いそうな過給器って心当たりない?

こっちも色々と探してはいるんだけど、物が古いせいか中々見つからなくてさ。

それと塗料。

アイツのストライカー地金剥き出しだから、せめて防錆塗装でもしてやらないと。

後は……、機銃の取り付け位置かな。

アレに積載されてる機銃って前方向固定だろ? 後ろに食いつかれた時の対処方法が無いんだよねー。

何か良い方法とか無いかな?


その辺よろしく頼むよ。


追伸
この間の出撃から俺の様子がどうも変なんだよね。暗いというか何と言うか……。

見た目は何でもなさそうなんだけど、どうも取り繕ってる感がねー。

その辺班長何か聞いてない? ほら、男同士の話し合いとか何とかってよくあるだろ?






『1944年9月14日 ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐の手記』

調査範囲を陸戦ウィッチに限定したところ、思ったより早く結果が出てきた。

ガリア共和国陸軍所属、俺中尉。

1940年、ダイナモ作戦従事時18歳。

カレー防衛のために編成された、第一臨時混成大隊所属の中隊長として撤退戦に参加。

尚、同作戦中に大隊は文字通り全滅。自身も任務中行方不明となる。


――『オレ』と『俺』、綴りこそ違えど発音が同じ。俺中尉の写真も見たが、印象こそ違えどオレ軍曹に間違いない。



……何故偽名や偽の経歴を使っているのかは、まだ分からない。

それでも、以前話をした時の私の『守る』という言葉に、少しだけ反応を見せた彼。

それが、ダイナモ作戦によるものだとしたら。

彼が指揮する中隊を失ったことが原因なら。



性急かもしれないが、これから彼と話をして来ようと思う。

次の出撃が迫っている以上、あまりゆっくりとはしていられない。






『1944年9月14日 オレ軍曹の手記』

存外早くバレたな。散々不審な行動しといてアレだけど。


にしても、20過ぎてまで年下に説教されるとは思わんかったな。

おまけにその内容が悲劇に酔ってるだけとか自惚れだとかキツイったらありゃしねえ。



だがまあ、あれだ。少々自信過剰だったのかもしれんな、オレ。

ヒスパニアの怪異討伐で魔力が発現してからこっち、敗走なんざまるで経験してなかったからな。

……いや、完全に同意した訳じゃないんだがさ。


――ウィッチとなってから唯一の、そして最大の敗北。

あの過去について、『仕方がなかった』などと、スッパリと割り切れるとは思っちゃいない。

それでも、少しは考え直しても良いのかもしれない。……それこそ、生者の傲慢なのかもしれんが。


守る『べき』モノではなく、守り『たい』モノ。

オレに見つけられるだろうか?

昔の偉そうな肩書きなんざ取っ払って、只の一兵卒としてやり直す。

その末に、過去を受け入れ、乗り越えることが出来たのならば、その時改めて守護騎士を名乗ろう。

失った先に見つける事が出来たモノを、次こそは無くさぬように。




――仕える相手、守る相手がいてこその守護騎士。

守る相手をまた見つけられたならば、仕える相手も、また見つかるだろうか。






『1944年9月17日 ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐の手記』

本日は特に異常もなく一日を終えられた。

近日中にはネウロイの襲撃が予想されているため、警戒を厳にするように通達する。

後は、いつも通り。

書類仕事に肩を凝らせて、フラウやルッキーニさん達のやんちゃに呆れたり――。


――そして、彼がまた執務室へ顔を出すようになった。

先日の事もあって少々気まずい思いをしていた私に、彼は自身の槍と耳飾りを預けた。

戦う為の理由を再び見つけられるまで、預かって欲しい、と。


まだ、完全に割り切れた訳じゃない。

そう、彼は言っていた。

それでも、過去を受け入れて、それを乗り越えることが出来た時、自身の証であるソレを私の手から自分に授けて欲しい、とも。

最後に、彼がオレ中尉である事は暫く伏せておいて欲しい、と頼まれた。

自分を取り戻すことが出来たなら、その時に自分の過去も何もかも、皆に打ち明けるつもりらしい。


……取り敢えずは一安心だろうか?

もっとも、現状で心配なのは彼に限った話ではなく、美緒もそうなのだけれど。


明日になったら、彼女とも話をつけよう。






『1944年9月18日 オレ軍曹の手記』

やべーな、監視の任務すっかり忘れてた。

それと監視とは別の、もう一つの任務。

――この隊の連中がおかしな行動起こしたら、上に連絡の後、速やかに隊を制圧する事。


こればっかりはどっちを優先するかねぇ……。

切っ掛けを作ったオッサンと、実際に指針を示した中佐。

そう時間を待たずに完成するであろう新兵器と、いつ見つかるやもしれぬモノを探すロートル。


全て打ち明けるってのもあるが――、

「詳細は知らないけどウィッチ()笑ってなるくらいに凄い兵器作ってるんだって。それ以外は全く知らんけど。
 ――あ、ついでに俺アンタ達のなんか有った時は実力行使も兼ねる監視役でした。」

……うん、駄目だこりゃ。


いやー、参ったねこりゃ。こればっかりはスパッとは決められん。


でもま、この任務はイザって時の最終手段みたいなもんだしな。

何事も無く時間が過ぎて新兵器が完成すれば万々歳。後は自分のことに専念できるってね。

おかしな事って定義も曖昧だし、適当にやっとけばいいか。

中佐がマトモに手綱握ってる内はそうそう深刻な事態なんざ起きないだろ、きっと。






――と、出撃か。


『本日二伸目』


あーーーーーーーーーーー、どうすっかなーーーーーーーーーーーーーーー。

なんだっけ、フラグ回収とかいうんだっけか、こういうの。


まあ、隊員が撃墜されるなんて戦場じゃ日常茶飯事だ。

各々の心境はどうであれ、な。


まだ、まだ深刻な事態という訳じゃないさ。






『1944年9月19日 オレ軍曹の手記』


坂本が目を覚ました。

容態は安定、暫くは絶対安静だが、峠は越えたから安心らしい。


そんで、案の定嬢ちゃんは処分を受けた。

ま、自室禁固で済んだだけマシだったか。


――ふぅ、一時はどうなる事かとひやひやしたが、これで少しは安心か。


『本日二伸目』


フラグの回収2本目入りましたーーーってかぁ!?

新兵の嬢ちゃんの脱走、それに伴う緊急出動。

立派に深刻な事態です、本当にありがとうございますってな。



クソッタレ、流石に動かねーとマズイ事態だ。






青年「んで、そっから先は?」

女性「残念だが、手記はここで終わっている」

青年「ふーん」

女性「……君はどう思う?」

青年「……何がさ」

女性「この後の行動さ。彼は一体、どうしたのだろうね?」

青年「さぁね、知らんよ」

女性「つれないな。話し相手になってくれると言ったろう」

青年「はいはいそーですね」

青年は持っていたスパナで自分の肩を数度叩く。

青年「……まぁ、即興の作り話でもいいなら適当に話してもいいが……」

女性「興味深いな、ぜひ聞かせてくれ」

青年「……後悔すんなよ?」

※新しいアーカイブを入手しました→『出所不明の磁気テープ』
最終更新:2013年02月07日 14:11