12 :
427な俺[sage] : 2012/10/25(木) 20:16:31.61 ID:eSDG7S5l0
ちと早いが、投下しないうちに落ちてしまうかも知れんので
始めよう
翌日。
あの模擬戦の後、501の俺の評価は、バルクホルン大尉とエイラ中尉は前からだったが…クロステルマン中尉も俺の評価がストップ安になったらしい。
固有魔法なしで、とは言われなかったけれども、あんな隠し球みたいな事されれば嫌な気持ちにはなる、とエーリカに後で怒られてしまった。
怒られたと言えば坂本少佐には刀の使い方が荒すぎることで怒られてしまった。ただ、修繕はしておくと言ってくれたのでそれはありがたいが。
お陰でしばらくの間、戦闘には扶桑刀なしで参戦である。まぁ、いざとなったらホルスターのショートソードでも振り回せばいいか。
そんな事を考えつつ、談話室のソファでゴロゴロしていると、ひょっこりイェーガー大尉が現れた。
「おや? 俺は昼寝中か?」
「まさしくその通り。イェーガー大尉もいかがです?」
「うーん、ソファが占領されてるから今日はやめとく」
「残念」
とりあえずそう答えながら再びゴロゴロ。ここのソファは柔らかくて最高だ。
「いやーそれにしても、昨日の
模擬戦すごかったな。アタシなら絶対、あの投げた拳銃のほう見てたと思う」
「あの後でエーリカにむっちゃ怒られたんですよ…」
イェーガー大尉は、芳佳ちゃんやエーリカのように距離が近いというほどではないが、フィルターを通さずに俺を見てくれる数少ない人間だ。
「イェーガー大尉だってすごい腕前じゃないですか。あのバルクホルン大尉と互角に渡り合うなんて」
「はははは! ああ、それと
シャーリーでいいよ。堅苦しいのは苦手なんだ」
「了解、シャーリー…リベリオンの人は気さくな奴が多いから、話してて気楽でいい」
なんとなく目を閉じて、427にいたリベリオン人達を思い出す。
ああ、あいつらはとても愉快な奴らだったよ。
「ああー…まぁ、そういう連中多いからなぁ」
ちなみにそんな事を話している間にも俺の視線はイェー…シャーリーのおっぱいに注がれている。
501で一番大きいのではないだろうか? リネットちゃんよりも大きいぞ。
「そういや俺って、ストライカーの改造とかはしてないのか?」
「あー…いちお、航続力や戦闘時間伸ばせるように調整を」
「へぇー」
17 : 427な俺[sage] : 2012/10/25(木) 20:22:36.37 ID:eSDG7S5l0
「へぇー」
「なにせそうしないとネウロイを全部撃墜できないまま退却ーなんてことになりかねないからなぁ」
今まで行ってきた基地で整備兵たちが俺のストライカーについて噂する事は、「本人だけじゃなくてストライカーもマヂキチ」だそうだ。
そりゃあ航続力や長時間戦闘を可能にするために魔力変換の調整が必要な訳で、どこからか余分に魔力を回してもらわなきゃ出来ません。
ではどこから? 答えは防御を担当する部分と機体制御補助の部分から引っ張ってくる、なのでシールド変換がろくに出来ないわ、機体制御は全部自分の身体という変態ストライカーが出来ました。
機体制御が全部自力だから自分の思い通りに飛ぼうと思えば飛べるというメリットもあるけど。ビーキーすぎる操作性なので他人には履かせられません。
…まぁ、流石にこれは言わないでおこう。
「おい、俺少尉。ミーナが呼んでいる、執務室へ行け」
俺とシャーリーがそんな事を話していると、談話室の扉が開いてバルクホルン大尉が顔を出した。
「りょーかい。今行きます、と」
「その態度はなんだ!? 貴様は本当にカールスラント軍人としての…」
右から左へスルーしながらとりあえずミーナ中佐の執務室へ。
「第427夜間戦闘航空団。俺少尉です」
執務室に着く頃には真面目な俺になっている。仕事ぐらいは真面目にしないとね。
「司令部から、あなた宛に命令が届いてるわ」
「はい」
早速開いて読み始めるが、ミーナ中佐は「まだ話は終わってないわ」と言葉を続ける。
「それと、ヴェネツィア上空からアルプスの方まで迂回してロマーニャ北部にネウロイが来ているわね。速度は遅いから、そこまで心配する必要は無いだろうけど、これの迎撃に――」
「中佐。この命令はそのネウロイの討伐命令です」
その命令書にはアルプス方面からロマーニャ北部を狙うネウロイを討伐してこい、と書かれていた。
「……では、何人か向かわせて」
「それには及ばないです。427に下された命令ですので、自分がケリをつけます」
よくあることだ。俺だって腐ってもエースである。
「心配いらんでください。俺一人でも十分って上層部が言っている以上、大した数でもないでしょう」
「…中型が6、小型が30…」
「ああ、それぐらいでしたらなんとかなりますね」
ミーナ中佐はそこで盛大にため息をついた。
19 : 427な俺[sage] : 2012/10/25(木) 20:28:39.26 ID:eSDG7S5l0
「駄目よ、許可できないわ」
「しかしこれは427に下された命令です。中佐が指揮権を持つ指令じゃありません」
俺の返事にミーナ中佐はじっと俺を見る。こりゃ下手な事言えないな。
「それに……下手に動きすぎると余計に立場が悪くなります」
現にミーナ中佐には、昨年のマロニー大将云々という前例があるのだ。
ブリタニア軍はともかく…そんな彼女を煙たがる奴だって皆無ではない。
「駄目よ」
しかしミーナ中佐はそれでも突っぱねた。
「危険すぎるわ。しばらくの間は保留にしておいて。速度が遅いのなら、向こうの出方をある程度伺えるわ。それに…」
「ロマーニャの防空も私達の任務よ?」
流石にそういわれては何も言えない。
「失礼します」
敬礼をして、退出。俺は届いた命令書を広げると、もう一度位置を確認する。
「そんなに離れてない…ついでに」
夜のうちは動きが停滞している、らしい。
「今夜中にさくっとやってくか」
夕飯を食べた直後だが、まぁ早めに殲滅するのに越した事は無い。
サーニャちゃんが夜間哨戒しはじめたらいらぬ心配をかけてしまうかも知れないし、討伐対象に反応してサーニャちゃんがこっちへ来たら、危険に晒すことになる。
出来れば避けたい。つまり、さっさと行ってさっさと撃滅してくるのが一番いい。
「…アレ使うか」
ハンガーに来た俺は武器庫の扉を開け、427用と書かれたコンテナを引っ張り出す。
22 : 427な俺[sage] : 2012/10/25(木) 20:34:41.55 ID:eSDG7S5l0
男性ウィッチは女性ウィッチに比べて体力があり、また魔力の方も並みのウィッチよりかは比較的高い傾向にある。
それ故か、積載量も多い。お陰である程度までの重武装が可能になってしまう。
かくして俺も、ワンマンアーミーになって以降、短期決戦用の重武装を使う事がある訳で―――。
ストライカーユニットに外付けのハードポイントを取り付け、そこにハーネルStg44を2丁ずつ、両足で4丁接続する。
固有魔法を使えば固定機銃としても使えるし、ショートソードのようにネウロイを取り囲んで集中砲火も出来る。俺の固有魔法あってこその装備だ。
ショートソードとの同時展開は出来ないが、大型や中型ネウロイが苦手な俺にとってはあると便利だ。
それからいつも使っている、8本のショートソードをつけたホルスターを腰にぶら下げる。
そして最後にもう一つ。こいつを忘れてはいけない。フリーガハマーだ。
それだけ武装を持っている時点で既に変態武装だ。重量のせいで機動性は落ちるし、シールドに回す魔力も無い。しかし、ネウロイが攻撃してくるより先に殲滅してしまえば問題ない。
「よし、行くか!」
とりあえずそれだけの重装備を背負って滑走路へと向かおうとすると、頭上から「あれ~」という声が聞こえた。
「おろ、ルッキーニ少尉。こんなところで…ってええ!?」
おいおい、ルッキーニ少尉、何をしている。ハンガーの梁の上に寝転がり、こちらを見下ろしていた。
「眠いのに俺がいたから~」
「……そんなところで寝てて落ちたら危ないだろー…の、前にちゃんと歯は磨いたか? 虫歯になったらこわーい大尉殿が虫歯を引っこ抜きにくるぞ?」
いつも固すぎる、エーリカと同室のバルクホルン大尉を想像しながらそう口を開く。大尉だったらやりかねない。
「うじゅー…それはいやだー」
「じゃあ、歯磨きだな」
俺がニヤニヤしてるとルッキーニ少尉は柱を伝ってするすると降りてくる。よしよし、俺が宿舎まで送ってやろう。
ルッキーニ少尉を連れて宿舎まで来た時、ちょうど良いタイミングでシャーリーに出会った。
「おろっと、シャーリー。いい所に。ルッキーニ少尉の歯磨きを」
「なんだ、ルッキーニ。ちゃんと歯磨きしないと駄目だぞ…って、俺…その格好は?」
「ああ、これ? ちょっと偉大なる航路に行ってひとつなぎの財宝探しに行ってくるんだよ」
そういえばまだ変態装備を抱えたままだったので、そう返す。
24 : 427な俺[sage] : 2012/10/25(木) 20:40:18.36 ID:eSDG7S5l0
「財宝探しに行くの~? 一緒に行く!」
「だめだめルッキーニ少尉。良い子はもう寝る時間だ。歯磨きしてちゃんと寝な。でないとこわーい堅物殿が火を吐いて来るぞ」
俺がルッキーニ少尉にそう声をかけると、シャーリーがそれを眺めつつ口を開いた。
「……一緒に行こうか?」
「平気、平気。2時間後にはベッドインさ」
俺は片手をひらひらと振ってシャーリーと別れ、今度こそ出撃することに決めた。
夜間飛行というのはあまり好きじゃない。夜の闇が、どこまでも飲み込んでいくようで。
おまけにこの重武装のせいでバランスを取って飛ぶのが難しい。左手でMG42を抱え、右手ではフリーガハマーを保持するというのは厄介なものだ。
誰かフリーガハマーを背中に固定する器具を発明してくれないものだろうか。
ウルスラに手紙でも送ってみようか、でも受け取ってくれるかなぁ。長らく手紙なんて出してないし。
そんな事を考えていると、ようやく作戦予定空域に到着した。
「わーお」
夜の闇の中、目を凝らしてみる。胸にぶら下げてきたライトをONにすると、離れた場所だがうっすらとネウロイの姿が見える。
だがしかし、こちらのネウロイ共は夜は停滞するとだけあってか、ろくに動いていないしライトの光にも気付いていない。夢の世界に旅立っているようだ。
「んじゃ…いい夢見ながら、死後の世界に旅立ってもらいますかね!」
フリーガハマーを右手で構え、よく狙う。可能な限り落としておきたい。出来れば中型を!
「Fire!」
9発のロケット弾が一斉に飛び出し、そのままネウロイ達に着弾すると同時に爆発、小型の奴なら近くの奴を巻き込むぐらいの威力はある。
そして、今のでネウロイたちは一斉に動き出した。
「落としたのは…OK、小型が14か。ちょっと外れすぎたかな」
目だけで数えてからフリーガハマーを投げ捨て、MG42を構える。残りのネウロイの数は、小型が16、中型が6。
「さぁ、行くぞ!」
ネウロイたちの群れに突っ込みながら、8本のショートソードへ、身体を通じて魔力を込める。
26 : 427な俺[sage] : 2012/10/25(木) 20:46:20.79 ID:eSDG7S5l0
8本の剣は、この瞬間から、俺が自由に動かす、矢になる。どこにいようと、逃がしはしない。
大きく左へと捻りこみ、それに迎撃するべく飛び出してきた小型ネウロイを、剣を1本飛ばして貫き、2本目をすかさず続けて撃墜。
「おっと? 包囲してきたかな?」
あっという間に5体が俺を取り囲む、が1体はMG42で迎撃するも、残りの4体は時間差で狙い打つようにビームを放ってきた。
「ほいほいほいっと!」
だが、それぐらいの事には慣れている。身体を傾けながら回避し、そして。
「後ろがお留守ですよ!」
ビームを放ったネウロイたちは、後ろへと飛ばしておいた剣に次々と貫かれ、砕け散っていく。
8本の剣を引き戻して、再び状況を確認。小型10と、中型が6。
だが、さっきから動いているのは小型だけで、中型は動いていない。動いてないなら、いい的だ。
「行くぜ、ハーネル!」
ストライカーユニットのハードポイントから外れた4丁のハーネルを展開し、中型の1体を左右と上から取り囲むように展開。
「マガジンまとめて、喰らっとけ!」
4丁のハーネルと、MG42による4方向からの集中砲火。ネウロイの装甲がたちまち削られていく。
いける。このまま削っていけば、コアがすぐに見えてくる。
そう、思った直後だった。
ぶわり、という音と共に、ネウロイが4つに分かれた。千切れたんじゃない、分かれたんだ。それぞれ別固体になるように。
「なっ!?」
分裂して、数が増えるネウロイだなんて…そんなのありかよ。
分離した奴らは俺を包囲しつつ、MG42並みの速度で小さなビームを連射し始める。
「くそっ!」
慌ててハーネルを引き戻して、戻った奴から弾倉を交換する。弾倉を交換するのだけは手動で行うしかない。
これじゃ、扶桑刀で斬ったほうが早かったか…と思うが、扶桑刀は修理中だ。
「一発一発の威力は少なそうだけど、弾幕を張られるのはキツイ!」
そう、この装備の状態で弾幕を張られるのはキツイ。シールドに回す魔力の余裕が無い上に、いつもより機動性も劣っている。
しかもネウロイは、分裂した中型は1体だけじゃなくて、他にもいる。
28 : 427な俺[sage] : 2012/10/25(木) 20:52:09.47 ID:eSDG7S5l0
残りの中型5体も次々と分裂しては集中砲火を浴びせてくる。まるで俺の攻撃を真似するかのように。
「なめんなよ…!」
弾倉を交換したハーネルを再び飛ばし、乱射する、が分裂して小さくなった分、ネウロイたちも素早くなっている。
「掠っただけかよ…くそ!」
だが、ここで逃げる訳には行かない。死ぬ訳にも、行かない。
ハルトマンが食堂までやってきた時、ちょうどサーニャが夜間哨戒前に夜食を食べようとしている時だった。
「あ、サーにゃんだ。今から夜間哨戒?」
「うん…あの、ハルトマンさんも食べる?」
「もちろん! なになに、今夜のメニュー?」
夕飯を散々食べたというのにまだ食欲のあるハルトマンが近寄る。
「あ、シチューだ。美味しそう」
小さな鍋から皿にシチューをよそい、食べ始めるとサーニャはふと口を開いた。
「そういえば、ハルトマンさんって、俺さんの従兄、なんだよね」
「うん。住んでた家も近いし、子供の頃はよく遊んでたなー…軍入ってからは殆どさっぱりだったけど」
ハルトマンは寂しそうに口を開いた後、さらに言葉を続ける。
「それに…あの調子で、無理しないといいんだけど…」
ハルトマンとサーニャがそんな会話をしていた時、食堂の扉が開いてシャーリーが顔を出した。
「おろ、サーニャにハルトマンって珍しい組み合わせだな」
「どうしたの、シャーリー?」
「いやー、水でも飲もうかなって」
シャーリーはコップで水を汲んでくると、「何の話してたんだ?」と問いかける。
「俺の話」
「へー、そうか…あれ? そういやまだ戻ってきてないのかな?」
「戻ってくるって、何が?」
シャーリーの呟きに、ハルトマンがそう聞き返した。
29 : 427な俺[sage] : 2012/10/25(木) 20:57:56.61 ID:eSDG7S5l0
「俺がまだ戻ってないのかなーって。もう2時間半は経ってるし…」
「へ?」
答えに、ハルトマンは目をぱちくりさせる。
「さっき、俺がなんかすごい重武装で出撃しようとしてたんだけど…。2時間後にはベッドインだぜとか言ってて見送ったんだけどさ、部屋には戻ってないみたいだし」
「……! ごめん、サーニャ! ミーナの所に一緒に来て!」
「へ? う、うん」
それを聞くなりハルトマンはサーニャの手を掴み、慌ててミーナの執務室へと急ぐ。
「ミーナ!」
いつものマイペースな態度とは180度違うハルトマンが執務室へ駆け込んだとき、ミーナはまだ作業中だった。
「あら、サーニャさんはもう夜間哨戒の…どうしたの、フラウ?」
「俺が出撃したってホント?」
「ええっ!? まさか夕方の……出撃してからどれぐらい!?」
顔つきが変わったミーナの問いかけに、ようやく追いついてきたシャーリーが「もう2時間半ぐらい経ってる」と答える。
ミーナは地図を見ると、3人に視線を向ける。
「……遅いわね。フラウ、サーニャさん、シャーリーさん、悪いけどすぐに追いかけて!」
「わかった! あ、ミヤフジも連れてく!」
ハルトマンの言葉に、ミーナは嫌な想像と共に「ええ」と頷いた。
「2人はストライカーの準備してて。ミヤフジを呼んでくるから」
シャーリーとサーニャはハンガーへ向かい、ハルトマンは宿舎の奥にある芳佳・リーネ・ペリーヌの部屋に向かう。
が、3人はもう寝る準備をしていたらしく、途中の洗面所にその姿を見かけたので立ち止まる。
「あれ? ハルトマンさん、どうしたんですか?」
「ごめん、ミヤフジ! 俺がまだ戻ってきてない…一緒に来てくれる?」
「え? 俺さんがまだ戻ってないって…」
「夕飯の後、ちょっとネウロイの討伐に行ったらしいんだけど、シャーリーが言うにはまだ戻ってきてないんだって」
3人は一瞬だけ呆気に取られたが、芳佳はすぐに「わかりました!」と言って着替えるために慌てて部屋へと戻る。
30 : 427な俺[sage] : 2012/10/25(木) 21:04:39.33 ID:eSDG7S5l0
「待ちなさい、宮藤さん!」
「よ、芳佳ちゃん待って!」
ペリーヌとリーネもすぐに追いかけ、1分も経たないうちに3人が着替えて部屋を飛び出してきた、が。
「リーネさん、あなたは残ってなさい。別のネウロイが来るかも解らないわ」
「は、はい」
「さ、宮藤さん、ハルトマンさん、行きますわよ!
「え…ペリーヌも来るの?」
「行って差し上げるんですの!」
ハルトマンはその意外さに少し驚いたが、2人を連れて慌ててハンガーへと向かった。
既にシャーリーとサーニャは用意を終えていたので、3人もすぐに飛ぶ準備を手早く終える。
「サーにゃん、ネウロイの位置わかる?」
「探してみるね」
滑走路から、次々と飛び立ちながらハルトマンはそう問いかける。夜間では、ストライカーにつく航空灯ぐらいしか光源が無く、ネウロイはともかく自分の位置すら見失いがちだ。
ある意味、サーニャの魔導針は命綱のようなものだ。
「こっち。距離は結構遠いけど……小型だけど、たくさんいるみたい」
サーニャの言葉に、ハルトマンの顔がさらに青くなる。
「俺のバカ…!」
「まったく、
ナイトウィッチでもないのにどうして夜間に出撃しますのよ」
ペリーヌが悪態をつく。
「俺さん、無事だといいんだけど…」
芳佳の言葉に、いつもなら余裕の言葉を返すハルトマンが黙り込んでいる。
「大丈夫だ、俺は結構強いし、たくさんの敵にもなれてるから大丈夫だろ」
シャーリーがそんな二人を安心させるように声をかける、がシャーリーも、あれだけの武装を背負っていては動きにくいのでは、と内心その言葉に自信が無かった。
「急ごう! サーニャ、こっちで合ってるよな?」
「うん」
シャーリーの言葉に、サーニャが頷き、5人は更に速度を上げた。
31 : 427な俺[sage] : 2012/10/25(木) 21:10:41.06 ID:eSDG7S5l0
ヤバイ。数が、多すぎる。
「…おいおい、まだ相当残ってるじゃねぇかよ」
倒しても倒しても、コア持ちの親機が出てこない。残るネウロイは、分離した中型だけで16体、小型はまだ10体…いや、20?
もしかして、増援が来ているのか?
しかし、MG42のドラムマガジンはこれで最後だし、ハーネルも今変えた弾倉で最後になった。
と、なると後はショートソードを頼りにするしかない。
「…おまけに弾幕も多い!」
少し気を抜けばすぐに包囲網を狭めてくるネウロイめがけてショートソードを展開して穴を開け、包囲網から抜け出しながらそう呟く。
だが、抜ける時に背中を向けたせいで、後ろから迫るビームに気付かなかった。
「がぁっ!?」
小さいビームは既に何発か貰っているが、それは小型が撃った小さい奴。
中型が分裂した奴は、中型の奴並のビームを撃ってきていた。
「くそぉっ…!」
腹から、脳へと伝わってくる激痛。焼けるような痛みに耐えながら旋回する。
そして力強く飛ばした剣は、中型から分離した奴に直撃して、撃墜する…が、それだけで焼け石に水だ。
仲間を落とされたネウロイが3体、小型を護衛のように引き連れて再び包囲網を狭めてくる。
「またかよ…」
加速しながら振り切ろうとするが、振り切れない。傷口から、溢れる血が、止まらない。
「ここで死ぬなんて…できねぇよな」
痛みのせいで、上手くストライカーの制御が出来ない。意識を保持しながら、速度を上げようとする。
あがらない。ネウロイの距離が近くなる―――。
死んでたまるか。
「ここで死んだら……仲間達に、顔向けできねぇよ…」
ぐっと、ネウロイを睨みながら震える手でMG42を構える。
「死ぬかよ…死んでたまるかぁぁぁぁぁぁぁあっ!」
そう叫びながら、引き金を引こうとした―――引けなかった。引く力すら、残ってなかった。
33 : 427な俺[sage] : 2012/10/25(木) 21:18:29.93 ID:eSDG7S5l0
嘘だろ。
俺がそう思った直後、ネウロイ達は完全に俺を取り囲み、そしてビームを―――。
「―――俺っ!」
エーリカの声と共に、俺を包囲していた何体ものネウロイ達に銃撃が襲い掛かり、陣形を崩していく。
「エーリカ…?」
高度を下げかけた俺を抱きとめる小さな手。
「…どうして…なに、泣いてんだよ……」
いつも笑ってたり眠そうな顔ばかりしてるのに、泣きそうな顔でエーリカは落ちそうな俺を受け止めていた。
「だって…心配したんだよ!? こんなに…ミヤフジ! ミヤフジ!」
芳佳ちゃんがすぐにすっ飛んでくると、エーリカから俺を受け取った。
「俺を頼むね」
「はい!」
「応急処置でいい…まだ、やれる」
「無茶言わないでください! 何発も受けてる…」
芳佳ちゃんはすっと手をかざして、治癒魔法で処置を施していく。
暖かいな、と思った時、その時になって、妙に身体が冷えてることに気付いた。
数が多く、隙さえあれば包囲攻撃を仕掛けようとしてくるほど、ネウロイの動きは均整が取れている。でも!
「まったく、随分と統率の取れた行動をしますのね!」
「でも、1体1体確実に落としてけばそこまで怖くは無い!」
「ええ!」
ペリーヌの言葉にシャーリーがそう返し、二人はそれぞれ小型を1体ずつ落とす。
そう、俺が一人だったからこそ、統率の取れすぎるネウロイを分断出来なかった。それが大苦戦の理由だ。しかし今は、俺の治療をしている芳佳を除いても4人いる。
そして、芳佳と俺のほうへネウロイが行かないように、適度に密集したネウロイ達の隙間を縫うようにハルトマンが飛び回り、陣形が崩れたところへサーニャがフリーガハマーを打ち込んでいく。
ここで一旦終わり。
959 :427な俺:2012/10/31(水) 00:13:24 ID:ItEYRRYQ
「もうすぐ終わる…」
ハルトマンの呟きどおり、あれほどいたネウロイ達は数を減らしていた。分離した中型もほぼ撃ち落され、小型ぐらいしか残ってない。
そして小型も、落とされ行く仲間達を見て撤退を開始するべく、数を集めている。
「逃がしませんわよ!」
「おい、ペリーヌ! そんなに出たら…」
「大丈夫ですわシャーリー大尉!」
ペリーヌは小型たちの群れに飛び込むなり、腰のレイピアを抜いて構え、そして―――。
「トネール!」
閃光と共に放出された電撃は小型ネウロイ達を焼き尽くす。
それは夜の空に咲いた、花火のような雷。彼女を中心に伝わる電撃は次々とネウロイの身体を焼いていく。
「ふぅ」
ペリーヌが髪をかき上げたとき、ネウロイ達は既に完全に沈黙し、砕け散っていた。
治癒魔法の暖かさに少しばかり身をゆだねながらも、戦況を見ていた。
飛び回るエーリカの姿は…本当にエースの姿だ。そう、501がエース集団である事を示すように、俺があれほど苦戦していたネウロイ達が、次々と落ちていく。
そして最後に―――中尉の固有魔法を見た。
同じだった。同じ固有魔法と、同じ仕草―――そして。
空を舞うその姿も、彼女と同じ、高貴さを――――美しさを。
いつか地上からウィッチを見上げた時と同じように、一度ペイント弾まみれにされた、視界から見えた彼女と同じように。
心の全てが奪われたのかって思うぐらいに、綺麗に見えた。
960 :427な俺:2012/10/31(水) 00:16:44 ID:ItEYRRYQ
「俺さん?」
芳佳ちゃんに声をかけられて、意識を引き戻す。
「あ、うん…」
あれほど苦戦したネウロイが、もう一体も残っていない。
「もう飛べる…大丈夫だ」
「駄目です。傷口開いちゃいます」
芳佳ちゃんに半分抱えられる形で、帰投する。
顔を合わせるのが気まずい。シャーリーとも、サーニャちゃんとも、芳佳ちゃんとも。
そして何より、クロステルマン中尉とも…エーリカとも。
基地の灯りが見えてきて、それからあっという間に滑走路まで降下していた。
「担架は要るか?」
「いや、多分歩けるかな?」
バルクホルン大尉の問いに、真っ先に降りたシャーリーがそう答える。
芳佳ちゃんの肩を借りて降りる。
ミーナ中佐も、坂本少佐も、バルクホルン大尉もエイラ中尉にリネットちゃん…ルッキーニ少尉以外の皆がそこにいる。
命令違反に加えて色々と――――。
「少尉」
真っ先に口を開いたのはエーリカだった。
その直後、強烈な拳骨が右の頬に飛んだ。
エーリカが殴った、と判断した直後、左側に2発目。
961 :427な俺:2012/10/31(水) 00:19:50 ID:ItEYRRYQ
958ちょ、人いたしwww
「がっ!?」
その意外な強さに、ハンガーの床にしりもちをついた。口の中が切れたのか、血の味がした。
「どうして殴られたか、解ってるよね?」
ぞっとするほど冷たい声。
「いつまでへたりこんでる、立つ!」
「あ、ああ」
「上官に対してその口の利き方は何!」
「は、はい!」
姿勢を正しながら立ち上がる。
「……何か言う事はある?」
「面目ありません」
「そういうことじゃないよね?」
ぎろりと睨まれた。やばい。これはやばい。何がやばいかというと、エーリカがめっちゃキレている。
俺は息をごくりと飲む。
「命令違反の無断出撃は重罪だよね? どういう意味か解るよね?」
「…はい」
「で、君はどうしたのかな? 言ってみる? いいや、命令!」
「ハルトマン!」
エーリカが再度怒声をあげた直後、バルクホルン大尉の声が飛んだ。
「お前はもう部屋に戻れ」
「けど」
「いいから戻れ」
がっしとバルクホルン大尉はエーリカの襟首を強引に掴むとそのまま引き摺って行った。
962 :427な俺:2012/10/31(水) 00:23:37 ID:ItEYRRYQ
口の中は切れているし、ついでに治癒魔法をかけてもらったとはいえ、傷は完全に治っている訳ではない。
そんな状態でいつまでも整列している訳には行かないのだけれど…本来俺を叱るべきはずだったミーナ中佐と坂本少佐はしばらく顔を見合わせた後で。
「…宮藤さん、俺少尉を医務室に」
言おうとした何かよりも激怒したエーリカのインパクトが強かったらしい。
ミーナ中佐、頭抱えるだろうな…。
「俺さん、行きましょう」
芳佳ちゃんに伴われ、ゆっくりと医務室へと歩き出す。
「無茶しすぎです」
「うぐっ」
そして一言。芳佳ちゃんも怒っているようである。
「もう少しで俺さん、死んじゃってたかも知れないですよ? ハルトマンさんが怒ってるのも解ります」
「返す言葉もねぇ…」
「まぁ、後でミーナさんや坂本さんにとってもとっても怒られてきて下さいね。だから私はそれ以上は言わないです」
そ、それは有難いのか有難くないのか解らんぞ?
と、ともかく芳佳ちゃんからはこれ以上怒られずには済みそうである、たぶん。
「……フラウって、あんな風に怒れるのね」
芳佳と俺の姿が見えなくなった後、ミーナは思わずそう呟いた。
「確かにハルトマンが軍規について怒るというのも……私が知る限り
初めてだな、うん」
坂本も思わず首を傾げる。普段、ハルトマンは軍の姿勢というものに真っ向から反発するようなタチであるし。
また、独断行動による無断出撃…とはいえ、それ以上に重罪である脱走行為を芳佳がやってのけた際にもハルトマンは叱ったりはしなかった。
ついでに独断行動云々はハルトマン自身もやった過去がある事だし…流石に無断出撃は無いが。
何より彼女が叱るよりミーナやバルクホルンが叱るから、というのもあるからだろうが。
しかし今回はミーナが何か言うより先に、鉄拳制裁をしてまで怒るのは異常というべきだろう。
「ま、まぁアイツなりに心配していたんだろうな。はっはっは!」
坂本はそう笑った後、俺少尉の処分をどうすべきか、とミーナと顔を合わせてため息をつくのだった。
963 :427な俺:2012/10/31(水) 00:26:42 ID:ItEYRRYQ
二人が顔を合わせてため息をついた後、ハンガー内はなんともいえない空気に包まれていた。
「…あ、そうだ。わ、私は芳佳ちゃん手伝ってきますね!」
リーネがその沈黙を破るように医務室へと向かっていった。
「まぁ、アイツにも問題があったとはいえ…ハルトマンがあそこまで怒るのも珍しいよな」
「うーン…従兄だから、トカ?」
エイラが首を傾げた後、ペリーヌは口を挟む。
「と、ともかく! 今後はあのような無茶はしないで欲しいものですわね!」
「ダナ」
「……眠い」
「そうダナ、サーニャ! 休むカ」
「…あたしも寝る」
エイラ、サーニャ、シャーリーは休むために寝室へと戻っていき、ミーナと坂本は執務室へと戻っていく。
一人残されたペリーヌも部屋に戻ろうかと思ったが、リーネと芳佳が医務室へ向かった事を思い出し、医務室へ寄っていく事にした。
部屋に戻るまで、エーリカは何の口も利かなかった。
「ほら、ハルトマン」
彼女をベッドに寝かすと、エーリカはぐるりと寝返りを打って、枕に顔を埋めた。
「……」
彼女がこんなコトをしているのは落ち込んでいる時だ、と長い付き合いのバルクホルンはすぐに解る。
「俺が心配だったか?」
「……うん」
「軍規違反、とは言いたいが先にお前が怒ってしまっては私が怒る隙も無いな」
「ミーナに後で怒られてくる」
「それはあまり心配ないだろうな。鉄拳制裁に注意はされるだろうが」
エーリカの背中を撫でながらバルクホルンは答える。
964 :427な俺:2012/10/31(水) 00:29:53 ID:ItEYRRYQ
長く一緒にいた戦友だからこそ、お互いの事がわかる。
「あのね」
「なんだ?」
「俺って昔、私やウーシュにすっごいよく似てた。今でもまだ結構似てるけど…」
「ああ、そうだな」
一度だけ、俺の部屋でちらりと見た写真(俺はすぐに隠したのでよく見た訳ではないが)に写ってた俺は、エーリカに似ていた。
「家も近所だった。何度も遊んでくれたし、何度も助けてくれた。ウィッチになるって言った時は男の子だけどわんわん泣いてた」
「それだけお前の事を思ってたんだろうな」
「でも、俺が軍に入って、ウィッチになった後…本当に何にも無かった。電話なんて無いし、手紙も殆ど来なくて…来て返事書いても、あて先不明で返ってきたりで、連絡取れなくて」
「……」
「次に話聞いたら部隊が壊滅しててっ…! 生きてたら生きてたで敵前逃亡なんていわれてて…! でも、本当はそんなことしてなくてっ」
泣いているのだろうか、涙声のエーリカをバルクホルンは上からそっと撫でる。それしか出来ない。
「それから一人になってっ…もしかしたらいつ死ぬかも解らない、だからそれが怖い……怖いっ…」
そこで抑えきれなくなったのだろう。エーリカは枕に顔を埋めて…嗚咽をこぼした。聞こえないように頑張っていても、嗚咽が聞こえる。
家族を失う、失いかける恐怖を、バルクホルンは知っている。
故に一人で戦うのは…かつてバルクホルン自身も犯した過ちだ。芳佳がいなければ、バルクホルンは今頃戦死していたかも知れない。
「そうだな……うん。今度、話せばいい。そうしないように」
「うん…!」
「わかってくれるさ。アイツだって、お前の事を思ってくれてたんだ」
医務室に辿り着いた後、芳佳ちゃんに傷の手当をしてもらった。
「出血は止まってますけど、しばらく安静にしないと駄目ですよ」
芳佳ちゃんに促されてベッドまで辿り着く。
965 :427な俺:2012/10/31(水) 00:33:02 ID:ItEYRRYQ
「あ、パジャマ持ってくるのを忘れちゃいましたね」
芳佳ちゃんがそう声をあげた時、医務室の扉が開いてリネットちゃんが顔を出した。
「芳佳ちゃん、タオル要る?」
「うん、お願い…あ、リーネちゃん、パジャマの予備ってある?」
「それだったらそこの戸棚に…」
二人のやり取りをしばらくぼんやり眺めていると、リネットちゃんが思い出したように濡れタオルを出してきた。
「頬、冷やしたほうがいいですよ」
「あ、ああ。そうだな。ありがと」
お礼を言って濡れタオルを頬に当てる。エーリカに思いっきりぶん殴られたんだっけ。
「あの」
「ん?」
リネットちゃんが口を開いた。
「一つだけ、聞いてもいいですか?」
「……うん」
「ペリーヌさんと、何かあったんですか?」
「どうして、そう聞くんだ?」
「…俺さんって、ペリーヌさんには凄く丁寧ですけど、でも…昨日の時に」
「昨日の奴、ばれてたか」
まぁ、エーリカがすぐに止めてくれなけりゃあそこで爆発していただろうし。
リネットちゃんが気付くのも無理は無い、か。
「あ、あの、話したくない事なら」
「秘密にしといてくれるか? クロステルマン中尉に」
二人は一瞬だけ顔を見合わせたが、すぐに「はい」と頷いてきた。
「中尉って…パ・ド・カレー出身で、
ガリアの貴族で…ガリア陥落時に家族をなくした。これで、間違いないよな?」
「…そ、そう聞いてます」
「じゃあ、間違いないな。……俺をウィッチにしてくれた人がいたんだ。一人前の。その人は…」
966 :427な俺:2012/10/31(水) 00:36:06 ID:ItEYRRYQ
「クロステルマン中尉のお姉さんだ」
芳佳ちゃんとリネットちゃんはその余りの中身に言葉を失ったようだった。
「……4年前に、なるのかな。カールスラント本国が陥落して、ノイエ・カールスラントに疎開した頃さ。もう、その頃はエーリカも、ウルスラもウィッチになってたんだよ。
前から薄々と感じてはいたんだ。俺にも魔力があるかも知れないって事さ。実際、扶桑とかでも魔力を持つ男の伝説ってあるだろ?
ウチの家系の血かな、俺にも魔力適正がある事がわかって、カールスラント軍に送られた。
その時はなんていうか、凄く嬉しかったんだよ。不謹慎だけど。女の子もそうだけど、男もさ、ウィッチに憧れるんだよ。
ネウロイと戦うその強さに、その美しさに、そして―――これはウィッチになってから知った事だけど、ネウロイと戦うウィッチとしての誇りに」
「ええ、そうですね…。ウィッチに憧れる人って、どこにでもいますし」
芳佳ちゃんの返事を聞きつつ、言葉を続ける。
「軍にやってきた俺は、そこで俺と同じように魔力適正を確認された奴らが他にもいた。男のウィッチって、普通のウィッチよりも体力や持久力に優れている分、長期戦向きなんだと。
殆どの奴らは陸軍行きだった。でも、俺は空軍を選んだ。
航空ウィッチに憧れてたってのもあるけれど…俺達にもネウロイと戦う力がある。だから、今まで守ってきてもらった分、俺達が彼女達を支える。そんな思いもあった。
笑っちゃうよな…俺が空を飛ぶ始まりって、そんな子供じみた理由なんだよ。それは俺以外にも空軍にやってきた、魔力持ちの野郎共も同じ。
そんな奴らが俺も含めて16人。そんな物好きたちを待っていたのは―――ただの不毛な日々だった」
「え?」
「宮藤博士のお陰で、空戦用ストライカーが大きく変革された。より扱い易く、より性能が良くね。カールスラントの工廠は当時、それへの転換に追われていたんだ。
ノイエ・カールスラントに疎開したばかりの工廠、生産したストライカーは次々と戦場へと送られた。
そう、つまり。これから訓練をやるような奴らに回る、ストライカーが無いんだ。おまけにろくに数もいない奴らだ。そいつらの為にストライカーを送る余裕も無かった」
「じゃあ、その間…」
「その間は体力つくりと、空戦理論。最初の頃はそれが当たり前だとばかりに必死こいてた」
「でも、そんな日が幾ら続いても、俺達が空を飛ぶためのストライカーが来ない。そんな頃、陸軍に行った奴らは既に訓練を終えて出撃するぜ、なんてニュースだ。
俺達は日に日に腐っていった。講義もろくに聞かない。体力つくりも何かとサボる。最初の思いはどこへやら、ガキが国の金でグータラしてるだけだった。
そうやって3ヵ月の時間が過ぎた頃に―――その人はやってきた。
今でも覚えてる。俺達のケツを蹴っ飛ばしてこう言ったのさ。『訓練の時間よ。準備しなさい』ってさ」
967 :427な俺:2012/10/31(水) 00:39:15 ID:ItEYRRYQ
「中庭に集まった俺らの前に、ストライカーが置かれてた。戦場での使い古しだろう、あちこちボロボロで補修だらけの奴だ。
でも、俺達はそんなストライカーでも構いやしなかった。ようやく飛べるんだって、嬉しかった」
「飛ぶこと自体はすぐに慣れたよ。一応、講義もある程度は聴いていたんだ。おんぼろなストライカーでも、自分が自由に空を飛べるって気付けば、いい相棒になる。
それから30分後、俺達は彼女を相手に模擬戦をやる事になった。…信じられるか、1対16で、だ」
「俺達は人数ゆえに最初から勝ったつもりになっていた。燻っていた俺達が初めて飛べるって思いもあったんだろう。
俺達の実力を見せてやる―――天狗になってた。15分も経たないうちに決着はついてたのさ。俺達全員、ペイント弾まみれになってたよ。
信じられなかった。彼女は歴戦のウィッチだった。俺達なんかとは比べ物にならないぐらいに。
だけど…とても綺麗だった。ペイント弾まみれにされたっていう屈辱なんて、消えてた。
そんな思いよりも、その高貴さに俺達は魅了されていた。そして彼女はこう言った」
『あなた達を一人前のウィッチにする。四の五の言わずに、ついてきなさいな。それが嫌なら、さっさと家に帰りなさい』
「俺達はウィッチになりたくてここに来た。どうして今更家に戻ることが出来るか。俺達の答えは一つだった。
それが、クロステルマン大佐との出会いだった。今でも覚えてる…その時からさ。俺が空を飛び始めたのは」
「大佐は何処までも凄かったよ。俺達一人ひとりの癖や特性に合わせて、色々な飛び方を示してくれたし、教えてくれた。
ウィッチとしての心構えとかも、な。ウィッチは軍曹から始まるけれど、普通の兵士が軍曹になるまではだいぶかかっちまう。
故に、その階級から始まるからこその振る舞いとかもな。生活態度とかも色々だ。……辛い部分もあったけど、俺達と真剣に向き合ってくれたからこそ、だ」
「そんな俺達が、実戦に投入されたのは、軍に入ってきて半年が過ぎた頃だった。俺達の部隊名は、第13特別実験中隊。
”エックスレイ”なんてコードネームがついて…大佐が、当時は少佐だったんだけど、隊長になった。
初めて戦場にたった時、手の震えが止まらなかった。怖かったんだ。でも、俺らと同じぐらいの女の子もそんな思いをしてる。だから、頑張れた」
968 :427な俺:2012/10/31(水) 00:42:20 ID:ItEYRRYQ
「俺達が放り込まれたのは激戦区の東部戦線。地獄のようだった。俺達がエックスレイとして動いていたのはたったの3ヶ月。
その間に、16人いた俺達は9人にまで減っていた。…だけど、どれだけ仲間が死んでも俺達は彼女を恨んだりはしなかった。
3ヶ月しか戦場にいない俺達がこんな思いをしてるんだ、彼女はもっと辛いだろうってね。
…俺は現に、あの人が戦死した部下や同僚達への手向けを見たことがあるよ。今でも忘れられない」
「厳しくも優しい、そんな人だから俺はついていった。俺をウィッチにしたのは、大佐のお陰だよ。
心の奥底から尊敬している。出来る事ならずっとついていきたいと思っていた。あの人の部下として生きられるならそれでいいと思ってた。
今でも、信じられないんだ。大佐がもういないって事…だから、その…怖いんだよ」
「私が、ですの?」
思わずぎょっとした。慌てて、医務室の入り口のほうへと視線を送る。
「中尉…」
「ペリーヌさん!」
芳佳ちゃんとリネットちゃんも驚いたようだった。
「その…いつごろから、ですか?」
妙な敬語になってしまったが、そう聞いてみる。
「ストライカーが来ない、辺りからですわ」
クロステルマン中尉は医務室の扉を閉じながらそう口を開いた。ほぼ最初からか。
ずいっと近寄ってくる中尉。逸らす視線。
「正直な話、顔を合わせづらいです、はい」
正直に白状するしかなかった。いや、だってそうとした答えようが無い。
俺がそれ以上何も言えず、芳佳ちゃんもリネットちゃんも黙っている。
がちゃり、という音と共に。
目の前に拳銃が突きつけられていた。ブリタニア軍で広く使われている、エンフィールド。
969 :427な俺:2012/10/31(水) 00:46:04 ID:ItEYRRYQ
「では、本当に貴方は姉様を…見殺しにしたんですの?」
「「ペリーヌさん!?」」
「二人とも、待ってくれ」
芳佳ちゃんとリネットちゃんが慌てて止めようとしたので二人を制した。
「俺は、そんな事をしていない。神に誓って、だ。……あの日、一年半前に、俺は一番最初に撃墜された。記録でもそうなっている筈だ」
「記録上、ですのね」
「そして一番最初に撃墜されたからこそ、他の仲間たちの死因を俺は知らない。基地が壊滅した時もその場にいなかった」
そしてそうだからこそ。
「俺が一番最初に撃墜されたと証明する人間がいないのもまた事実だ。だが、俺は決して! 大佐や仲間達を見殺しにはしていない!」
「俺は嵌められたんだ! その1月半前に、オストマルク戦線で448夜間戦闘航空団が全滅してる、それに続いて427が壊滅とあらば立派な大敗だ。
だが、俺という生き残りが敵前逃亡したことにすれば、大敗は逃亡兵が出たから敗北したという認識になる。
俺は責任を押し付けられた! 祖国に、連合軍に俺は裏切られたんだ! 戦友も、敬愛する人も全部失った! それでも…戦わなきゃいけなかった。
戦う事を約束していた! 例えどんなことがあろうとも、俺は立ち止まらないと、大佐と約束したんだ!」
するりと、拳銃が目の前から消えた。
「…ごめんなさいね」
「?」
「そんな顔をする人は、嘘をついてはいませんわ」
そんな顔って言われてもなぁ…と俺が考えていると、芳佳ちゃんは黙ってタオルを出してきた。
「色々思い出させてごめんなさいね…もう遅いですし、休んだほうが良いですわ。私達も休みましょう」
「は、はい。そうですね」
「じゃあ俺さん、おやすみなさい」
「あ、それと」
クロステルマン中尉は芳佳ちゃんとリネットちゃんを促しつつ、最後にこう言った。
970 :427な俺:2012/10/31(水) 00:49:33 ID:ItEYRRYQ
「私の事は、ペリーヌでいいですわ」
そう告げると、ペリーヌは二人を連れて去っていった。
そういえば、なんでそんな顔…と思って窓のほうを見た時、その理由はわかった。
「あ…」
そうだ。
427の仲間達が、大佐が、俺の前からいなくなった時からずっと。
一度も、泣かなかったんだ。祖国に裏切られても。どれだけ辛くても。
ずっと感情を、むき出しになんか出来なかったんだ。本当の気持ちを…。
抑えきれなくなったんだ、今日。
ぼろりぼろりと零れ落ちる涙を、止められなかった。泣き顔を見られるなんて、恥ずかしいのに。
そしてそのまま、夜が更けるまで、俺はずっと涙をこぼしていた。
最終更新:2013年04月02日 18:55