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427な俺 ◆zy78pfH52E [sage] 2013/02/08(金) 00:28:45 ID:qHprTDy2 [4/14]
その頃の俺は、やり場の無い怒りに狂っていたのだと思う。
大佐を、戦友達を奪ったネウロイへの怒り。ありもしない汚名を被せた連合軍への怒り。そして、戦いすらまともにこなせない自分への怒り。
1944年初め。俺の
戦線復帰が許された最初の行き先は東部戦線のカールスラント方面。第502統合戦闘航空団ブレイブウィッチーズの援軍として送り込まれた。
今なら確実に解る。彼女達に諭されていなければ、427はそこで死んでいただろう。
1944年初頭東部戦線
ネウロイを撃退した。
撃墜したんじゃない。撃退だった。戦線復帰してもう既に1週間近く経つ。
なのにあの日以来、俺は一匹たりともネウロイを撃墜していなかった。空や陸を我が物顔でのし歩く宿敵を。悪魔達を。
後少し、後少しだったというのに…!
「おい。出てこいよ……出て来いってんだろ!」
格納庫の隅で、思い切り拳を足に叩き付けると。
灰色の綺麗な毛並みが、俺の体からすっと姿を現した。俺の使い魔のオオカミだ。
オオカミは格納庫の床に座ると、俺を見上げる。
「お前、本当に魔力まともに寄越したか…?追いつけねぇじゃねぇかよ…奴らによ」
そう告げても使い魔は反省する様子も無ければ、嫌がる様子も無く、ただ俺をじっと眺めていた。
使い魔に馬鹿にされているようだった。
「どうなんだよ!もう少しだったんだよ!」
頭を掴み、数回揺さぶる。だが、使い魔はまだ表情を変えない。怯えた様子すら見せない。
頭にきた。思い切り拳を振り上げ、叩き付けた。
ここでようやく使い魔が悲鳴をあげ、格納庫の床を数回転がる。
「立て。まだ言う事は終わっちゃ…」
「なにをしてるんですか!」
直後、後ろから502の隊員の声がした。確か、下原少尉、だったか。
何も言わずにいると、下原少尉は俺の目の前に横たわる使い魔を見て「ひっ」と呟くと慌てて助け起こす。
「軍曹が、やったんですか」
「言う事聞かねーからな。制裁しただけだ」
「でもこんな酷いこと…!」
「もう少しでやれたのにこいつが怠けたせいだよ!」
「違います!使い魔に当り散らさないで下さい!」
下原少尉は助け起こした使い魔の頭を撫でる。自分の使い魔でも無いのに。
嫌な気分になってきた。
「……チッ!」
596 427な俺 ◆zy78pfH52E [sage] 2013/02/08(金) 00:31:49 ID:qHprTDy2 [5/14]
踵を返して、格納庫からさっさと出ることにした。飛行記録は後で提出することにしよう。
背後から「軍曹!まだ話は…」と言っているが無視して、さっさと行こうとした。
直後。
強烈な拳骨を喰らった。
「管野さん!」
下原少尉の声と共に、視界の隅に男にしては小さい俺と変わらぬ体格の、扶桑海軍から来た少尉の姿が見えた。
吹っ飛ばされて、床に倒れこむ。再び胸倉をつかまれて、一撃。
「使い魔に責任はねぇだろ!何考えてんだよお前!」
「けど…!」
「けどもクソも無い!自分のミスを使い魔に当たるな!」
「どうしたんですか?騒がしいですけど…」
もっとうるさい人間がやってきた。ロスマン曹長だ。
ああ、クソついてない。俺はどうにもこの人は苦手で何かと口うるさく言ってくる。また面倒な事になりそうだ。
案の定、ロスマン曹長は「使い魔に暴力を振るうとは」とおかんむりで俺には格納庫掃除が課せられた。
「おや、お前も格納庫掃除か?」
「……ああ」
「相変わらずつれないヤツだ。ちっさい割に」
「余計なお世話だ」
頬が腫れたまま格納庫掃除をするべくモップをかけていると、カタヤイネン曹長がやってきた。
どうやら彼女も格納庫掃除を命じられたらしい。また何かやらかしたのだろう。
広いハンガーではあるが、格納庫掃除に慣れている彼女は手馴れたものだし、俺も格納庫掃除をやった経験は死ぬ程ある。
二人で始めた格納庫掃除は一時間もしないうちに終わった。
「やっぱ二人だと早いな」
格納庫から出た所でカタヤイネン曹長の呟き。それには答えず、ポケットからラッキーストライクを一本取り出す。
冷たくかじかんだ指では上手く挟めないがどうにか咥えて、少し焦げ付いたリベリオンのジッポライターを取り出す。
戦友がそうしていたように、片手で火をつけようとして、上手く行かない。カチリ、カチリと空の音だけが響く。
「おいおい、その歳で煙草なんて……それ、オイル切れてんじゃないか?」
「クソ、マジかよ…」
仕方なくマッチを取り出して、火を点け、ひとしきり吸い込もう―――としてやはり咳き込んだ。
そりゃそうだ。アルやブレストンみたいに毎日吸っていた訳じゃない。時々二人から貰っていたようなもんじゃ、慣れてる筈が無い。
「……無理にそんなの吸わなくてもいいんじゃないか?」
「ほっといてくれ」
「それにしちゃライターは使い込まれてるんだな。誰かの形見か」
「……仲間の遺品だ」
597 427な俺 ◆zy78pfH52E [sage] 2013/02/08(金) 00:35:21 ID:qHprTDy2 [6/14]
594
了解した
変な事聞いてごめんお
壊滅した基地から持ち出せた、数少ない427の仲間達の遺品。
それらを可能な限りいつも身に付けてるせいか時々502の戦闘隊長に服飾規定云々を言われてしまうのだが。
それ以前に喫煙してるところを見られても怒られる。カールスラントでは喫煙が許可されるのは16歳からだし(あと1ヶ月ぐらいで16だが)、国全体が禁煙を奨励してるのだ。
カタヤイネン曹長がふぅ、とため息をついた後「後でな」と言って兵舎の方へと戻っていった。
オイルが切れているなら補給する必要がある。しかし、オイルが手に入りそうなところ…。
「あ……」
灰が落ちて、煙草はもうすぐ吸う所が無くなりそうだった。
手を離して、地面に落ちると、落ちた場所の雪が溶けて、火は消えた。
この火が消えるように、皆の命も消えていったのだろうか。
二本目を咥えて、マッチで火をつけようとした時、ざくざくという雪道を歩く足音が聞こえた。
「軍曹、格納庫掃除は終わって…またあなたは何を!」
「……大尉」
502の戦闘隊長、ポクルイーシキン大尉だった。この人に限らず、オラーシャ軍の人はどうにもどこか堅い人が多く、俺は苦手だった。
マズいところを見られたな、と思うが煙草は消さない。仲間達と離れてしまう気がするから。
「その歳でそんなものをしたって害にしかならないから止めなさい!」
「……」
まぁ、煙草の味なんて、正直わからないんだ。
煙の味しかしねぇしな。
「今日の飛行記録。まだ出てませんよ」
「格納庫掃除してたからな…後で出す」
「それと。使い魔は大事になさい。ウィッチにとっては、大事なパートナーですよ?」
「……ああ」
「それと、あなたは少し休んだら?来た時もそうだったけど――――」
「そんなの許可されてねーよ。俺の個人データ見りゃ解るだろ」
「………」
俺の返事に、大尉は言葉を失っている。苛立ちを隠せない。別に不用意に喧嘩を振りまいてる訳じゃない。
だけど、憎しみも怒りも消えない。何をどうしたって。俺の中の火種が、消えない。
余計に気分が悪くなる。さっさと退散することにしよう。
「……ガソリン置き場は、裏だっけ?ジッポのオイル、切れちゃってさ」
「……
初めて軍務以外の事を話しましたね。ええ、裏です」
「ありがと、大尉」
とりあえずそう告げて、まだ何か言いたげな大尉を置いて、ガソリン置き場に向かった、
今は一刻も早く、酒でも飲むか煙草を吸ってこの苛立ちを収めたかった。
599 427な俺 ◆zy78pfH52E [sage] 2013/02/08(金) 00:38:27 ID:qHprTDy2 [7/14]
それからどれぐらいの時間が経ったのだろうか。ベッドの上で目を覚ましたら、もう夜になっていた。
床に転がり、中身がぶちまけられたワインの瓶。食堂に行けばグラスはあるが、そうすれば下原少尉と顔を合わせそうで嫌だったからラッパ飲みしていたのは覚えている。
だがこうして転がっているという事は飲みすぎて寝たのか。どうにも、頭痛が酷い。
いや、今日は出撃があったから多分ミーティングがあるはずだ。
そう思い出して時計を見れば、ちょうど夕飯の時間だった。隊のメンバーはまだ食堂にいるのだろう。ならば先にミーティングルームに行って、酔いでも醒ました方が良いかも知れない。
ふらりと立ち上がって、ジャケットを羽織る。頭痛のせいか、上手く歩けない。
どうにか歩いてミーティングルームまで向かう。もちろん、誰も来ている筈が無い。黒板を所定の位置まで移動し、白墨も用意しておいていつでも始められるように準備だけしておく。
そして、席に座った。
とても、静かだ。ミーティング前のミーティングルームがここまで静かなんて、あんまりない。
これが427だったら、マイケルがアホな事を言い出すか、ルドルフがジョークを飛ばして皆が笑い出し、もしくはカールが何かやらかすか。
大佐とアルフォンスが来るまでトランプをやったりハットリが扶桑の民族歌謡を歌ったり、色々やる事があった。
戦場に立つ者として、軍に入ったときから、昨日までの友情が消えるなんて有り得るとは解っていた。解っていた筈だ。
でも、それが二度と取り戻せないものだと思うと…それが、今まで以上に、懐かしく思えた。
ああ、クソ。煙草でも吸って落ち着こう。部屋から灰皿を持ってきて良かった。
カチリ、とオイルを補給したジッポから明るい炎が立ち、煙草に火を点ける。それと同時に、ぱっとミーティングルームの明かりがついた。
「あれ?軍曹?」
ルマール少尉は驚いたように俺を見ると、黒板の様子を見て「やっててくれたんですか。ありがとうございます」と口を開く。
とりあえず「ああ」と答えるが灰が落ちそうになったので慌てて灰皿を下へ。
「でもどうしてこんなに早く?晩ご飯の時に見かけなかったですし…」
「飲み過ぎて寝過ごした」
「……軍曹。ここに来てからちゃんと食べてますか?それに…なんだか私が見る度にお酒を飲んでないですか?」
「ほっとけ。飲まないと、ろくに寝れもしねぇしよ。あ、そうだ…」
そういえば今日の飛行記録を出してない。いまのうちに書いてしまうか。
ややひしゃげたが正式な書類である事に間違いは無いのでそのまま書いてしまう。ルマール少尉はそんな俺を心配そうに眺めていた。
「よし、終わりと…」
書き上げると同時に、煙草の殆どが灰になっていたので、火を消す。
すると同時に扉が開き、管野少尉が入ってきた。
「うわっ煙草臭っ!誰だミーティングルームで煙草吸ってたの!」
「あ、ナオちゃん」
「あれ、俺がいる…って事は煙草吸ってたのはお前か。なんで灰皿まで用意してんだよ。どんだけ煙草好きなんだよ」
管野少尉は呆れた様子でそう呟くと、続いて…伯爵ことクルピンスキー中尉もやってきた。
「やあ、軍曹、随分青い顔だけど具合でも悪いのかな?そういえば夕食にも顔を出さなかったしな」
「中尉も言ってあげてください。軍曹、飲み過ぎて寝ちゃってたそうで…」
「そんなに強くないんだから無理に酒に逃げる事も無いだろうに。そんな乱暴な飲み方をしては酒が泣いてしまうぞ?」
「酒が泣くかよ…余計なお世話だ」
600 427な俺 ◆zy78pfH52E [sage] 2013/02/08(金) 00:41:32 ID:qHprTDy2 [8/14]
本当にこの人と話してると色々疲れる。つーか、頭痛が悪化して更に酷いことになった…。
頭を抑えていると、この中尉ときたらとうとう隣りに座ってきた。
俺の手元にある飛行記録に気付くと、ひょいとつまみ上げる。
「飛行記録の方は完璧だな。これで戦果があれば文句なしなんだが」
「そうだぞ俺。戦果の一つもあげてないで…」
「わかってんだよ…うるせぇよチビ」
途中で口を挟んできた管野少尉にそう言い放つと、案の定、湯沸かし器並の速度で激昂した彼女が椅子を蹴飛ばして飛び掛ってこようとして――――。
あっさりクルピンスキー中尉に止められた。
「おいおい、そんなに喧嘩を売る事も無いだろう。お互いに、な」
俺と菅野少尉を、それぞれ片手ずつで止めていた。振り上げそうな俺の拳は、凄まじい力で抑えられている。
どれだけ力を込めても、その手を振り払えない。
「だいいち、君もそんな身体で無理に戦おうとするものじゃない。消耗するばかりだ」
「そんな身体って――――」
「嘘だと思うのなら自分で鏡を見るといい、軍曹。少なくとも個人情報の写真とは、別人にしか見えないよ」
その言葉を続けたのは入り口からの声――――502統合戦闘航空団隊長、グンドュラ・ラル少佐だった。
そう言われても、俺はもう長らく自分の姿なんて気にしていなかった気がする。
そんな事を考えている間に、残りの面々もラル隊長の後からやってきて、あっという間に席に着く。
「では、ミーティングを始めよう」
ミーティングの後、飛行記録を大尉に提出した。その時にもやっぱり喫煙を責められたが、まぁこれはいつもの事だ。
空腹ではあるが、既に夕食の時間も過ぎているし飲みすぎたせいで腹も調子が悪い。さっさと寝るとしよう。
しかし一日はそれで終わらなかった。下原少尉とルマール少尉に食堂へと連行されたのだった。
「胃が重いんだけど…」
「それは飲み過ぎたせいです。若いんですから、飲みすぎない!」
珍しく下原少尉から強い調子で言われた後、すっと差し出してきたのは、湯気が立つお椀だった。
どこか嗅いだ覚えのある香り。ああ、確か出汁の香り、か。
「お茶漬けです。それならすぐにかきこめますし…って、あれ?もう食べてます?」
下原少尉の言葉に返事もせずに、一口食べた。懐かしい味がした。
義兄弟の契りを交わした親友が夜食によく作っていたお茶漬け。あの時は確か、魚や梅干を具にしていたが…こちらは具の方が海苔とねぎぐらいしかないが、それだけで充分だった。
かすかに塩の味がしたのは、多分気のせいじゃない。
気がついたら、夢中で食べ終えていた。
601 427な俺 ◆zy78pfH52E [sage] 2013/02/08(金) 00:44:40 ID:qHprTDy2 [9/14]
「…ご馳走様でした」
「お粗末さまです」
「タオル使いますか?」
ルマール少尉が差し出したタオルを借り受けて、顔を拭いた。たぶん、気付いてるはずだ。
「扶桑人の親友が、時々夜食代わりに作ってた」
「そうだったんですか…ふふっ、軍曹からそんな話を聞くの、初めてですね」
「……そうかもな」
そう言えばポクルイーシキン大尉も、軍務の事以外を話すのは初めてとか言っていた気がする。
「おやすみなさい、軍曹。また飲まないで、すぐに眠ってくださいね?」
「うん、そうする…お休み」
少しだけ……よく眠れる気がした。
「どうなってるんですかこのストライカー!」
ある日、ストライカーの整備をしていたらポクルイーシキン大尉がやってきて、その作業を覗き込むなりそう叫んだ。
人のストライカーを勝手に見ていきなり叫ぶとは何をしたいんだこの人。
「機体制御補助ユニットがまるまる無くなってるなんて、そんなんじゃまともに飛べないでしょうに!」
その叫び声を聞いたのかわらわらと集まってくるブレイクウィッチーズの三人。中尉だけは興味津々な顔だけど。
「道理でまともに飛べてない訳だ…どんな仕様だよ、不良品でも掴まされたのか?」
「まっすぐ飛ぶ事すら難しいだろうなー。修理しろよ」
「……カスタムだよ」
口々に好き勝手な事を言い出す管野少尉とカタヤイネン曹長にそう返すと、大尉まで三人揃ってぽかんと口を開ける。
「そんなバカなカスタムが…」
「いや、熊さん。これは理にかなっていると思うよ?なんなら試しにボクが履いてみようか?」
「だから熊さんと呼ばない!」
そんな大尉をスルーしてクルピンスキー中尉は俺のストライカーをするっと履いてしまった。
「おおっ?おおっ!」
少しだけ起動し、中尉は慌てて脱いだ。その顔は――――途轍もないご機嫌顔だった。
604 427な俺 ◆zy78pfH52E [sage] 2013/02/08(金) 00:47:54 ID:qHprTDy2 [10/14]
「なんという暴れ馬!今までの教本に慣れ切った機動ではこいつは絶対に使いこなせないだろう!一つの部品を外すことでストライカーがここまで違うなんて!」
「そりゃそうだろ。そんなバカな真似する奴いねーだろ普通」
「甘いよ、ナオちゃん。確かに危険だし、正気には見えない。でもそれ素人判断だ。こいつを使いこなせるようになれば文字通り、空を自分の思い通りに飛べるようになるんだ。
ストライカーには危険機動への安全装置があるだろう?まぁ、ナオちゃんはそれすら無視するけど」
「ほっとけ!で、それがどうしたんだよ」
「しかしこれにはそれが無い。つまり制限なく飛べるという事だよ。ただアシストが無い分、使いこなせなければ機体に振り回されると思うがね」
「……それで?まさか中尉もそのカスタムをしたいというんじゃないでしょうね?」
「それは当たり前だろう熊さん!ボクと同じ機体が、たった一つの違いで安定性は最悪になるが、新しい可能性を示してくれるんだぞ?やるに決まってるじゃないか!」
「中尉と軍曹は今すぐ正座しなさい」
「おい、なんで俺まで」
「そんな危険な事、認められる訳無いでしょう!軍曹も何処で聞いたか知らないけれど、そんなバカな事をしてないで―――」
「おい、今なんつった!」
俺の叫び声に、中尉以外の三人が一斉に気圧されたようだった。
「この仕様は、大佐のものだ!俺が受け継いだんだ、俺は大佐から学んだんだ!」
「わ、わかったから落ち着きなさい!軍曹!」
「そうだぞ、軍曹。営倉に入りたくはないだろう?」
「――――」
「軍曹?」
クルピンスキー中尉が止めなければ、たぶん俺は大尉相手にでも殴りかかっていたかも知れない。
「………ともかく、正座!」
大尉は落ち着きを取り戻すなりそう叫び、俺とクルピンスキー中尉は正座する羽目になった。
中尉を思い切り巻き込んでしまったようだ。それに、苦手な相手ではあるが…理解を示してくれたのは、少し嬉しかった。考えて見れば教本を丸めて捨てるようなカスタムだもんな。
「すんません、中尉」
「気にするな軍曹。ボクこそ、勝手にストライカーを履いてすまなかった」
「アレを使いこなせるようになるまで、俺は50回以上墜落してます。慣れないストライカーで出て戦死なんて洒落にならないんで、中尉は止めた方がいいです」
「ふむ、そうか……そういう君もあれで上手く風に乗れてないんじゃないか?」
「………」
そうかも知れない。ストライカーで、中尉が言うように自由自在に飛んでないんだ。
この空を、思うがままに。自由に。飛べてない。ほんの2ヶ月ほどなのに、何が違うんだ。
「あっはっはっはっは!サーシャ、それは本当かい?なるほど、あだ名も嘘ではないという事か」
「カールスラント空軍の教本どころか、全世界のウィッチに泥をかけてるようなカスタムですね、それ…」
数分後。ポクルイーシキン大尉の報告を聞いたラル隊長は大笑いし、ロスマン曹長は盛大にため息をついた。
「ええ、本人は相当頑固に…」
「それが染み付いてしまっているんだな。彼には」
「でも、撃墜数ゼロだし、そもそも訓練で真っ直ぐ飛ぶ事すら―――」
「そうなってしまう程の事が彼にあったのだろう。だが、彼から闘志の火が消えることはない…と閣下も言っていた。それにな、サーシャ。彼のかつてのあだ名、知っているか?」
605 427な俺 ◆zy78pfH52E [sage] 2013/02/08(金) 00:51:31 ID:qHprTDy2 [11/14]
602、>>603
またスレ凸した奴いたのかよ…
「え?」
「『誰にも追いつけないエース』だそうだよ。誰一人として、彼の前を飛べないらしい」
「……『誰にも追いつかない』の間違いでは?」
「今はそうかも知れない。だけどな――それが嘘ではないかも知れないとも思える。私は彼を信じようと思う」
「そうですね。まだ若い子ですし。もう少し心を開いてくれれば良いのですが…」
「でも…あんな飛び方を続けていては…」
ポクルイーシキン大尉は、沈痛な面持ちで言葉を続ける。
「彼が持ちません。本人の意思はあっても、身体の方がもたない…」
「歩き煙草は良くないですよ」
足が痺れるまで正座した後、煙草を咥えたまま部屋まで戻ろうとした時にルマール少尉と遭遇した。
なんとなく悪い気がしたけど、灰皿の代わりも無いので。
窓を開けて投棄。雪の中だからすぐ消える。
「こら!ポイ捨てはもっと良くないです!」
「何処にでも使える灰皿があればいいんだけどな、そんなのないし」
「拾ってきてください!」
マジかよ。こんな寒い中出て行ったら死んじまうよ!
何だろう、昔そんなやり取りをアルとしたような…と思いつつ窓から出て吸殻を回収。もちろん火は消えている。
「お酒に煙草に…軍曹、幾つでしたっけ?不健康にも程がありますよ」
「15…ああ、もうすぐ16になる」
「……もっと下かと思ってました。私と大差ないんですね」
「ルマール少尉は俺より年上なんだっけ…」
「誕生日はいつなんですか?」
「…3月の、6日だ」
「サーシャさんと、同じ日なんですね。あ、でも身長はサーシャさんの方が勝ってます」
男なのにこの小ささは気にしてるんだよ!
502で一番ちっさい管野少尉と2、3センチの差しかないなんて、低すぎるわ俺!ロスマン曹長とは差が無いレベルだし!
頭を抱えて悶々としていると、ルマール少尉は笑いながら口を開いた。
「身長を伸ばす為にはしっかり食べて、お酒と煙草も止めてくださいね。成長を阻害しますよ」
「それ奪われたら俺はどうすりゃいいんだよ…空だって自由に飛べない。戦わなきゃ、いけないのに…飛べないんだ」
「ストライカーで、飛べてますよ、軍曹は」
「違う。あれは飛んでるとは言わねぇよ。ストライカーのせいでもない。使い魔のせいでもない。じゃあ、何のせいなんだよ…」
「……」
ルマール少尉が困り果てていると、そこへ下原少尉がやってきた。
608 427な俺 ◆zy78pfH52E [sage] 2013/02/08(金) 00:54:32 ID:qHprTDy2 [12/14]
「珍しいですね、軍曹。ジョゼさんと話してるんですか?」
「ああ、下原さん…その、軍曹が…今の自分は飛べてないって」
「なるほど…」
下原少尉は俺を見てそう呟くと、少しだけ声のトーンを落とした。
「軍曹。撃墜されたウィッチは、死んでしまう人もいれば、生きている人もいます。ウィッチは貴重です。生きている人たちのうち、重傷の人は戦線離脱します。
でもそうじゃない人はたいていは戦線に復帰します。でも……大きな傷を負わなくても、ウィッチが戦線復帰できない理由、何だか知ってますか?」
「……知らねぇ」
「心の傷です」
下原少尉が俺のほうを見てきたので、耐え切れずに煙草を吸うべく、ポケットに手を伸ばそうとして―――手をつかまれた。
「軍曹が煙草を吸うようになったのだって、相当最近の筈です。しょっちゅう咳き込んでますから。お酒だって、本当は弱い。けど、飲まなきゃ眠れないぐらい」
「……」
「そして機動も凄く不安定。ストライカーでの飛行は、精神的な部分も出るんです。あなたが幾ら口で…いえ、頭の中では、戦う意志を消して無くても。身体が、心が、追いついてない」
「……んな事言われても」
「軍曹は」
「身体と心から、恐怖が拭いきれてないんです。だから、飛べない」
頭をまるで、ハンマーで殴られたような感じがした。
心と身体が、追いついてない?俺がどれだけ考えても、どれだけ願っても、ろくに飛べないのは、俺自身のせい?
「ごめんなさい。あなたを傷つけるつもりで言ったんじゃない。でも」
「私の目の前で、人を死なせたくないの」
そう言った少尉の顔が、とても悲しそうだったのを覚えてる。
何か言いそうだったルマール少尉を、下原少尉が引っ張っていった。そうしてくれたのが、有難かった。
壁に手をついて、立っているのがやっとだった。重い現実を、ぶつけられたような気分だった。
灯りの消えた格納庫で、自分のストライカーを出した。
今の俺は、こいつで自由に空を飛べない。ほんの2ヶ月前、仲間達と共に飛んで、皆の切り込み隊長として前線をこじ開けていたこと。
相棒のヘルマンがなかなか撃墜数100を越えない事をからかいつつも、アシストのお陰で何度も助けられていた事。
思い出す事なんて山ほどある。でも…そんな日々はもう全部過ぎてしまった事だ。
仲間達を失い、大佐すらも失い、戦果も誇りも勲章も何もかも奪われて、その挙句…俺の身体と心は戦う事を拒否してるだなんて。
そんなバカな話があるかよ、と思う。大佐と約束したんだ。
戦える限り、戦う事をやめない事を。それから逃げる事を、大佐は許さない。俺も許しちゃダメなんだ。
拳を握り締めて、思い切り壁にたたきつけた。痛みしか無かった。
「俺はもう戦えないのか…皆との約束を守れないのか…?」
609 427な俺 ◆zy78pfH52E [sage] 2013/02/08(金) 00:57:46 ID:qHprTDy2 [13/14]
今でも覚えてる。俺ならカールスラント解放への道が開けると遺して、俺の背中で死んでいったパウルの事を。
俺なら多くの人をネウロイから守れるといったカスパーを。自身を犠牲にしてでも俺達を生かそうとしたハルトムートを。
427の皆だってそうだ。カールスラント奪還の為、ネウロイの脅威から人を守る為、皆同じ夢を掲げていた。
そして、倒れた仲間の分まで十字架を背負い、一人になっても戦うのが、427のノーブレス・オブリージュじゃなかったのか。
そうだよ。それなのに…それなのに俺は…。
抑え切れない、悔し涙が俺を責める。膝を折って、声を押し殺して、とにかく涙を流すしかなかった。
「ああ、軍曹ここに…軍曹?」
背中からそんな声をかけられて、ふっと顔を上げる。拭いきれない涙がまだ頬にある。
この声の主は、ポクルイーシキン大尉か。
「また晩ご飯に顔を出してないって、ジョゼさんが心配し…」
「…大尉、一つ聞いてもいいかな…」
「……なんですか?」
「約束一つ、守れない奴って、どう思う?」
「いきなり、何を」
「約束したんだ。死んでった仲間達の十字架も背負って、戦うこと。戦える限り、戦い続ける事」
「でも…俺の心と身体が、追いついてないって言われた…戦う事を、拒否してるって……」
「俺はもう、皆との約束も守れないのか?そんなの…そんなの…」
「俺には耐え切れない…でも、死んだらもっと、何も果たせやしない……」
======================
671 427な俺 ◆zy78pfH52E [sage] 2013/02/16(土) 10:41:35 ID:WbMAp2BU [3/12]
ポクルイーシキン大尉による彼の印象は、どうして最前線に送り込まれたのか解らないほど、見ていて痛々しいウィッチだった。
必死に前線に出ようにも、幾ら銃撃を放っても、それら全てが空回りしている。そもそも飛行すらも不安定。死にに来ているようなものだった。
しかしラル隊長は彼から闘志の炎は消えてないと言っていたし、何よりも今の言葉はそれを証明するものだった。彼もまた戦場で戦ってきたウィッチなのだ。
個人データに書かれた、ゼロの文字。撃墜数はゼロ。勲章の受章歴もなければ、それまでの戦歴もゼロ。
それが黒く塗りつぶされた欄の脇に無理やり書き込まれた文字だとしても、書類の上では彼はゼロ。
でも、傷ついた心と身体に幾ら鞭を打とうと、彼自身が最も忌避する死へと近づいていくだけだ。
だから休息が彼には必要―――と言っても、彼にはそれが許されない。普通、まず見かけるはずも無いカールスラント皇帝の紋章と共に書かれた『一切の休暇を認めず』の文字。
彼を殺すようなものだ、と思う。だから腐ってしまっているのだろうか。
出会うまで存在すら知らなかった男のウィッチ。
たった一人しかいない、夜間戦闘航空団。
そこにいた唯一の彼は―――痛々しいほどにボロボロだった。全てが。でも。
人類は彼を失ってはいけない。この世から消してはいけない。
自然とそう思える気がした。違う部隊で、援軍どころか足を引っ張ることすらあるのに…でも彼を失ってはいけないとしか、思えないんだ。
そんな事を考えていると、犬の鳴き声のような、声がした。
「?」
ふっと視線を向けると、彼の背中に頭を垂れる、灰色のオオカミ。彼の使い魔だった。
先日彼に暴力をも振るわれたというのに、それでもこの使い魔は主人を心配そうに見ている。
ああ、この使い魔もまた主人を思っている。彼は部隊のように一人ぼっちではないのだ。ここに502がいるように。
「軍曹、私はあなたを失いたくない」
「だから、その言葉は……」
はっきりそうだと伝える事は、彼を傷つけてしまうと解っていても。でも、言わなきゃいけなかった。
そう、思った、時だった。
ネウロイの襲来を告げるサイレンが鳴り響く。
ネウロイの襲来を告げる音。でも、俺の心と身体は戦う事を拒否している、では俺はどうすれば―――?
いいや、バカ言えと俺は呟く。戦う事を止めるな、戦える限り。それが427のノーブレス・オブリージュ。たとえ体がいう事を聞かなくても、戦うんだ。
立ち上がり、駆け出そうとした俺の手を、ポクルイーシキン大尉が握り締めて止めた。
そしてもう一つ、足に引っ張られる感触――――使い魔も、俺を止めようとしていた。
「離してくださいませんか、大尉」
わざと皮肉のように告げた。事態は一刻を争う。この人だって、こんなコトをしている場合じゃない。
672 427な俺 ◆zy78pfH52E [sage] 2013/02/16(土) 10:44:39 ID:WbMAp2BU [4/12]
「嫌です」
「戦場は常に状況が変わる。こうして無駄な時間を過ごしている間にも被害が出るかも知れない。だから―――」
「離したら、あなたは出撃するでしょう。誰が止めても」
「ああ、そうだよ!それが俺のやるべき事なんだから!」
「許可しません。私は――――」
「アレクサンドラ・I・ポクルイーシキン大尉!」
思わず、声を荒げた。いつもは勇ましい彼女が、俺に二度目に気おされた。
「あなたは戦闘隊長という立場にありながら、状況確認をしないでこんなことで油を売っているのはダメだ!冷静な判断をしろ!」
「――――――」
「行きますよ」
まだ驚いた顔をしている大尉の手を引き、作戦室へと向かう前に。
他の502の面々が先にやってきた。
「熊さん、どうして作戦室に姿を現さなかったんだい?熊さんともあろうものが――」
「状況は?」
クルピンスキー中尉の軽口に答えず、大尉はいつもの彼女に戻っていた。
「ワルシャワ方面からの攻撃だ。現地部隊が対応しているが、地上型がわんさかいるらしい。航空もかなりいるそうだ」
ワルシャワ方面と聞いて、俺の脳裏に浮かんだのはあの鉱山だった。
陸戦ネウロイの巣窟で、カスパーとハルトムートを置き去りにせざるを得なかった、あの忌まわしい場所を。
「とにかく、準備を―――軍曹は気が早いな」
そう、中尉の言葉が終わるより先に、出していたストライカーに飛びついていた。
8本のショートソードをホルスターに収め、背中の扶桑刀を背負い、MG42を引っつかむ。
「ダメです、軍曹!無断出撃で――――」
「救援要請は出てんだろ、中尉」
「ああ。それと忘れ物」
中尉がインカムを投げてきたので装着。多少の軍規違反だが、事態は一刻を争う。
「先行する!」
「待ちなさい軍曹、軍曹!」
大尉の言葉を置いて、文字通り気合を込めた。が、大尉ときたら、格納庫の入り口に立ち塞がった。
そのままでは滑走路に向かえず、飛べない。だが、それは並のウィッチの話だ!
「ダメ!行ってはダメ!お願い――行かないで!」
「いいや、いける!」
673 427な俺 ◆zy78pfH52E [sage] 2013/02/16(土) 10:47:44 ID:WbMAp2BU [5/12]
格納庫の床を蹴るイメージと共に、格納庫の天井まで飛び上がって、急旋回、急旋回で内部を飛んで加速に使う。
滑走路に爆撃を受けて使えない状態でも飛べるように、格納庫内を上手く飛んで加速をつける。大佐に教わったやり方だ。
そして最後は、大尉の脇をすり抜ける!
「嘘っ…なんであんな無茶苦茶な」
「上手いもんだねぇ。なるほど、機体制御補助が無いからこそ、出来る芸当だな」
中尉の言葉を置いて、俺は夜空へと飛び出した。
『まさか格納庫内を飛び回って強引に加速するとは大した芸当だよ。いやはや、君の機動に教本に載るようなものは無いのかな?』
「ラル隊長。現地軍の状況は?」
『ああ。なにぶん、数が多くて対応しきれないそうだ。地上も、空もな。我々が追いつくまでの間に詳しい数を教えてくれ』
「了解」
それが妥当な仕事だといえるだろう、何せろくに戦えていないのだから。
そう思いつつ、速度を上げて飛ばしていく。少しでも気を抜けば雪原に真っ逆さまになりそうな身体を適時に修正しながら、だ。
だけどこいつは相当な暴れ馬。下原少尉の言うように精神的な部分に影響を受けるストライカーは、ただでさえ難しいこいつの機動を余計に難しくさせる。
クソ、しっかりしろよ。
夜の闇に紛れて低空飛行で飛んでいく。
30分近く。爆音が響き始め、月夜の中にぽつりぽつりとネウロイの影。それプラス、陸戦型ネウロイも月明かりに照らされた雪原のあちこちにわんさといる。
それぞれ50…いいや、空の方は明らかにそれ以上だ。
「報告。陸戦型は中型が20ほど、小型が30。空戦の奴は中型が10以上…小型は数え切れない!」
『把握したわ。あなたはすぐに引き返して――――』
「救援要請が出てるのにのこのこ帰るバカがどこにいるんだ!通信終わり!」
俺の報告にそう返事をした大尉にそう叫んでから通信機を切った。
陸戦型の方は地上軍が到着するまでの間とはいえ、空を飛んでる奴は数が多すぎる。現地軍のウィッチだけじゃ明らかに足りない。
剣を飛ばそうと魔力を込めても、動かない。ここ数日で、何度も
繰り返した事。
「動けよ、バカ…!」
悪態をつきながら、MG42を構え、引き金を引いた。
現地軍のウィッチたちが俺の姿を確認するなり、慌てて通信を入れてくる。
『数が多すぎて手が回りません!』
「落ち着け!援軍は近くに来ている!後退して援軍と合流しろ!地上部隊はまだ来てないんだろ?」
『は、はい』
「俺が飛んできた方角に502が来る。とっとと下がって合流しとけ!殿は任せろ!」
2機のウィッチと入れ替わるようにして前に出る。くそ、前より射撃下手になったのは明らかだ、ろくに当たりもしない!
リロードするついでに空になったドラムマガジンを地上の小型ネウロイに投げつける。火力が足りないのは明らかだった。
「ぼんやりしてないでさっさと行けよ!」
俺の怒声に、二人のウィッチ達は心配そうに見ながら飛んでいく。
が、その直後に新たな通信が入ってきた。ポクルイーシキン大尉である。
674 427な俺 ◆zy78pfH52E [sage] 2013/02/16(土) 10:50:51 ID:WbMAp2BU [6/12]
『あなたも無茶をしてないで早く下がりなさい!』
「俺まで下がったら敵の位置を見失うだろ!今どこまで来てる?」
『ナオちゃんが一番早いが、ボク達も大して変わらずに着くと思う。全員が急いでるよ』
クルピンスキー中尉が途中で割り込んできてそう告げる。耳を凝らせば、確かに近くにいるようだ。
かすかなストライカーのエンジン音が聞こえる。だが、それまでこの編隊の中を持つか?
いいや、持たせるんだ。俺は427の切り込み隊長。いつも先陣を切ってネウロイを蹴散らした。今ここでやらずして、どうするんだよ?
『見えたぞ!あそこだ!』
『軍曹、もうすぐ着くから待って――――軍曹ッ!』
管野少尉の言葉の後、大尉の悲鳴が響いた。
一瞬の気を抜いた隙だった。一筋の、迫るビーム。
こういう時は全身を傾けてかわせ―――間に合わない?当たる?いいや、当たる。
シールド、間に合うか?シールドを張るのって―――――。
眩しい光が、俺の腕のMG42に当たって、弾けた。
「軍曹ッ!!!」
夜空に咲いた、一筋の光の花。
コントロールを失い、高速で墜落してく小さな身体。
「ダメだ熊さん!敵の数が多い、救援している暇が無い!」
「そんな!まだ生きてるかも知れない!おいてく訳には!」
飛び出していこうとするポクルイーシキン大尉を、クルピンスキー中尉がそんな言葉で止める。
しかし、502の隊長であるラルは唇を噛みながらも首を左右に振った。
「サーシャ。悪いがクルピンスキーの言うとおりだ…敵の数が多すぎる、危険すぎる」
「イチかバチか、オレが…」
「ナオちゃん。夜の雪原のど真ん中な上に、このネウロイの数だ。たとえ拾っても、一人を抱えて飛ぼうとしてる時に陸戦型ネウロイが来るだろうし、空を飛んでる奴も多い。人を抱えてりゃいい的だよ」
「中尉、あなたは軍曹の事をどうとでも…」
「熊さん!君は自分の立場をわかってるのか!?ラル隊長の言うとおりだと言っているんだ!……出来れば今すぐすっ飛んで行きたいよ!」
「……可哀相だけど、現状はおいていくしかありません、大尉」
「そんな…早めに処置をすれば軽症で済む筈です」
「お願いです、せめてジョゼさんに…」
「ダメだ、二人とも。許可できない」
クルピンスキー、ロスマンといった面々に言われて、大尉は何もいえなくなった。
でも、下原もジョーゼットも、彼女と同じように、助けに行こうと考えているようだった。
そうだ。自分の立場で考えろ、このままでは隊そのものが崩壊する。だけど、だけど…。
しがみついてでも、私はあの時止めるべきだったのだ。
無理やり飛んでいった彼を、止めるべきだったのは私だ…私に責任があるのだ。
675 427な俺 ◆zy78pfH52E [sage] 2013/02/16(土) 10:54:29 ID:WbMAp2BU [7/12]
「ごめんなさい!」
命令違反をやるなんて、初めてだ。
他の皆の声も聞かずに、大尉は彼が落ちていった方角へと、向きを変えて全力で飛んだ。
「軍曹!」
その姿は、雪原のど真ん中に大きな跡をつくり、横たわっていた。
右腕と胸の付け根に、何か大きな黒い破片―――恐らくビームを受けて大破したMG42だろう。あふれ出る血が、雪を赤く染めていく。
近くへ降り立ち、駆け寄って声をかける。意識が無い。
手で触れてみると、かすかな鼓動が伝わってきた。今にも消えそうな鼓動が。
落ち着け、とにかく応急処置を。
「お願い…死なないで…!」
凄まじい熱を持った痛みが襲ってきていた。
朦朧とする意識。月夜だった筈なのに、いつの間にか空は青空になっていて、雲ひとつ無いのに、吹雪のように冷たい風と雪が吹き付ける。
そう、青空なのに降り続く雪。吹雪のように冷たく吹く雪。
痛みに悩まされながら、視線を身体へと向ける。
落とされたんだ。雪に墜落の後が残ってる。そして、俺の右腕の付け根に、ちょうど肩と肺の間ぐらいに、黒い鉄の塊が突き刺さっていた。
MG42がなくなっている事からこの破片はネウロイのビームで壊れたMG42か。
痛みが酷くて、どこか朦朧としている。ストライカーは動くのだろうか。
そう考えている時、一台のトラックが見えた。
トラックは俺の目の前で止まり、運転席から一人の男が降りてきた。
「……カスパー?」
カスパーだった。あの時と変わらぬ姿のまま、カスパーはトラックの荷台にいる奴らに何事か声をかける。
ぞろぞろと、姿を現したのは……見覚えのある仲間たちだった。皆あの時と変わらない姿だった。
ハルトムート、フランツ、レオン、オスカー、ヴェルナー、そしてパウル。
エックスレイ時代に、死んでいった仲間達。それぞれ力を合わせてトラックの荷台から下ろしたのは―――棺だった。
その意味はもうわかっていた―――いやだ、やめてくれ。まだ、死にたくない――死にたくない!
「やめてくれ!連れてかないでくれ!」
棺の蓋を開くレオン、俺の腕を持って運ぼうとするフランツとオスカーの手を無理やり振り払う。
カスパーが悲しげな顔で俺を見下ろした。
「ああ。俺だってお前を連れてきたくない。……本当にな。でも、連れてかなきゃいけない。まだ、俺との約束も守れてない癖に」
「ああ!そうだ!だからまだ行きたくないんだ!戦わなきゃ…」
「でもそんな身体で何が出来る!今のお前はなんだよ!戦えてすらいないだろ!」
ああ、そうだ。身体と心が、戦う事を拒否してるんだ。でも…。
676 427な俺 ◆zy78pfH52E [sage] 2013/02/16(土) 10:57:50 ID:WbMAp2BU [8/12]
「俺はまだ戦わなきゃいけないんだ!お前達の為にも!カールスラントの為にも!」
「だが今のお前はただの役立たずだ」
「カスパー」
吐き捨てるように呟いたカスパーの横から、パウルがやってきて、他の皆を手で少しだけ振り払い、俺の顔の横に膝をついた。
「今の君、ゼロだね。撃墜数も、戦果も。はは、僕と同じだね」
パウル。ああ、パウルは。撃墜数ゼロのまま死んでいった。妹の誇りとなろうとして死んだウィッチ。
その妹さんの誇りを、奪ったのは俺なんだ。
「ああ、そうだよ……俺、全部無くしたんだよ…」
そう、あの日。忌まわしい撃墜の後、意識を取り戻せば全てがなくなっていた。
アルも、相棒だったヘルマン、運が無いカールに、おしゃべりすぎたルドルフ。エックスレイの仲間達だけでも、四人が消えてったんだ。
そして皆の師匠だった、クロステルマン大佐も…あの人に褒められたから、認められたからこそ得た戦果も。
勲章も、誇りも、何もかも無くしたんだ。
「何も無いんだ…!辛いんだよ、本当に…」
そうだ。俺、辛いんだ。まともに戦えない自分が悔しいのと同じように。
全部を失った自分が辛いんだ。
「そうだね。辛いよ。何も無い、ゼロは。でも…僕、言ったよね?」
パウルは少しだけ視線を落とした。
「君ならいつか、カールスラントへの道が開けるって」
「ああ……」
「それが今日、潰える。二度とカールスラントへは戻れない」
「……ダメだ、そんなの…ダメだ!」
「そうだね。でも、今の君はゼロだよ」
「でもだから何だって言うんだよ、俺!」
パウルが声を荒げたのを、初めて見た。
「今まで積み重ねてきたもの、得てきたもの、全てが奪われてゼロになった。でも……ゼロになったのなら、またゼロから始めればいい」
「…ゼロから、また…」
「そうだよ。ゼロからまた取り戻せばいいんだ。カールスラントの為に」
「……ああ!」
そうだ。そうだったんだ…。
無くなったんだ。でも、なくなったのはもうしょうがないんだ。もう一度ゼロから、やり直せばいい。
勲章を奪われたのなら同じ実績を上げればもう一度もらえる。
戦果がゼロになっても前以上にネウロイを撃墜すればいい。ネウロイを殺せば、その分守れる人も増えるんだから。
そうだよ…俺は今まで、何をやっていたんだ…。
677 427な俺 ◆zy78pfH52E [sage] 2013/02/16(土) 11:00:53 ID:WbMAp2BU [9/12]
「戦う事を…やめちゃいけない…諦めては、ならない…戦える限り…!」
「そうだよ、俺」
「ああ。行け、親友。俺たちが果たせなかった願いを載せて、飛んでいってくれ」
カスパーが、ハルトムートが、フランツが、レオンが、オスカーが、ヴェルナーが、そしてパウルが。
それぞれトラックへと乗り込んでいった。そう、彼らの願いは、俺に託されたんだ。俺はそれを乗せて飛ぶ。
もう一度、ゼロからやり直すんだ。そうだよ。427のノーブレス・オブリージュだ。一人になっても、仲間の願いを引き継ぐんだ…!
「…軍曹!」
その声と共に意識を取り戻すと、ポクルイーシキン大尉の顔が視界に飛び込んできた。
空は先ほどと同じ夜空。雪の中に突っ込んだお陰か、ストライカーは無事なようだった。
「ああ、意識を…動いてはダメ、もうすぐ
衛生兵が――――」
慌てて視線を身体に向けると、MG42の破片が身体に突き刺さっていた。大尉が必死に抑えてる間、その手も袖も赤く染まる。だけど。
「……また、ゼロからやり直せばいい……そう、今ここから…」
破片を、左手でしっかりと掴む。大尉が何か言っているが気にせず、渾身の力を込めて引き抜け―――引き抜いた。
「たとえ誰かが倒れても…生き残ってる奴が願いを引き継げ…たとえ一人になっても、仲間達の願いの為に戦うんだ!それが、427の…ノーブレス・オブリージュ…ッ!」
全身から上がる苦痛と悲鳴を抑えて立ち上がる。ストライカーはまだ動く筈だ。二歩、三歩前進する。
「427はまだ死んでない!俺が生き残っている!」
「軍曹、そんな身体で無茶を――――」
「動け相棒―――427はまだ生きているんだ。俺は、皆の十字架を、願いを背負ってるんだ!だから、飛べ!飛べぇぇぇぇぇぇッ!!!!」
数歩の跳躍と共に、全身から襲う痛みを誤魔化して、エンジンがフル稼働した。
飛んだ。
それと同時に、俺の魔力が込められた、8本の剣が。今まで、まるで動きもしなかった剣が。
固有魔法が、もう一度戻ってきた。
一気に加速して、502の仲間達がいるであろう戦場へと戻る。俺は、今日、戦線復帰したのだ。
地上型ネウロイと航空ネウロイの凄まじい数に加えて戦闘隊長であるポクルイーシキン大尉を欠いてるせいか、大苦戦をしているようだった。
流石のクルピンスキー中尉やロスマン曹長も、敵の数が多すぎて得意の一撃離脱戦法が出来ないようだ。
そう、こういう乱戦の時こそ。俺の出番だ。
一体のネウロイに狙いを定め、二本の剣を左右から狙い、飛ばした。
「おおっ?今のは…え?軍曹?」
流石のクルピンスキー中尉も墜落した奴が復活するとは思わなかったらしい。
678 427な俺 ◆zy78pfH52E [sage] 2013/02/16(土) 11:03:55 ID:WbMAp2BU [10/12]
とりあえず中尉には集中しろよと手で合図し、二本の剣を喰らってボロボロになりつつあるネウロイに戻ってきた二本の斬撃をもう一度加える。
いっちょうあがり、戦線復帰後初スコア。
「ラル隊長、状況は?」
『……サーシャが命令を無視してまで助けに行ったと思えば復活するとは君何を食べたらそうなるんだい?最悪だね。どうする?』
「じゃ、誰か二人ぐらい残して地上の方に戦力を集中してください。それ以外の空は引き受けます」
『……君、隊長に命令するのかい?』
「俺はこういう状況のときが大得意なんですよ、隊長?任しといてくださいなっと!」
とりあえずニヤリと笑うと、一気に加速してネウロイの群れへと突っ込んだ。
わーお、わんさといやがるな。全部叩き落してやるよ!
墜落したウィッチが、負傷したままその場で立ち上がっていくなんて、普通では考えられない事だらけだ。
ポクルイーシキン大尉が戦場へと戻ると状況は一変していた。
『サーシャ、地上への攻撃に集中してくれ。空は彼に任せろ、だそうだ』
「そんな無茶な…」
『ところがそうでもないんだ。見てくれ』
ラルが指差す先。そこにいた俺の姿は―――凄まじいを超えていた。
今まで飾りか接近して突き刺すように使うのかと思っていた8本の剣が、空を自由自在に飛びまわり、彼の手足となってネウロイを攻撃していく。
時に遠距離にいるネウロイを撃ちぬいたかと思えば、引き戻した剣を片手で掴んで楔のように突き立てる。
その剣の一撃一撃は軽いが、何発もの連続攻撃で小型ネウロイを離れた場所から回避すら許さずに撃墜できている。
「あれは…」
『彼の固有魔法は《物体操作》だそうだが…なるほど、ああやって使うのか。あれならたくさんの敵を攻撃できる』
『剣を自由自在に飛ばせるように、自分も自由に飛んでる…』
続いてロスマン曹長の驚嘆した声。そう、彼は自由に飛んでいた。
ネウロイのビームが飛んでくれば、速度と方角を保ったまま身体を回転させることで回避し、ネウロイに包囲されても1メートルも無い隙間を潜り抜けている。
ネウロイに逆に捕捉されたと思えば旋回どころかほぼ直角に曲がって相手を振り切り、見えないところから逆に剣を突き立てる。
しかしネウロイもさるもので、数を生かして包囲し、俺軍曹へと追いすがる。が。
ここで初めて背中から扶桑刀が、左手一本で抜かれた。そう、右腕は負傷して動かない。
しかし追いついてきたネウロイが至近距離でビームを撃つより先に、その場で真上に90度旋回するような要領で、扶桑刀を突き刺して撃墜。
そのまま大きく左腕を振り回すようにして身体の向きを変えて別のネウロイへ斬り付けた。
「い、いったい何が、どうしたら?」
大尉は思わず呟く。
時に加速してネウロイの包囲から突破したかと思えば、そのままエンジンを停止して空中で宙返りをするように身体の向きを変えて再起動。
旋回一つせずに方向を180度転換して剣を飛ばすなど、普通に飛んでいるだけでは有り得ない機動だ。
679 427な俺 ◆zy78pfH52E [sage] 2013/02/16(土) 11:06:57 ID:WbMAp2BU [11/12]
どんな教本にも載っていない彼の機動。バランスを崩して墜落しかねない危険機動。エンジン停止すらものともしない、通常では有り得ない機動の連続。
でもその機動をフルに生かして、ネウロイを撃墜していく。あれでは僚機がついていけない。でも、ネウロイの方も彼に追従できない。
「誰にも追いつけないエース…なるほど、嘘ではない、か」
ラル隊長は満足げに頷く。そう、誰にも追いつけないエースとは。
どんなウィッチにも、彼の機動を真似する事が出来ない。どんなネウロイでも追いつけない。そしてもう一つ―――戦果の方だった。
「周囲の多数の敵に同時に攻撃することも、一人で多方向から攻撃できる。相手がたくさんいて、こういう乱戦状態だからこそ真価を発揮する固有魔法だよ。
それに加えてあの機動だ。乱戦状態をそのまま飛ぶのでは危険だから、あの機動が必要。あの機動なくして、能力は活かせない」
「そして多数を相手に出来る能力ゆえに…ネウロイへの撃墜数は多くなる…」
「ああ。対多数の為の能力に……あの機動なくしては生き残れないだろう。二重の意味で誰にも追いつけないエースだ」
「確かにね。……あの子が本国撤退戦の時にいれば…犠牲は少なかったかも知れない。それほどまでに、彼は凄い才能の持ち主だとボクは思うよ」
クルピンスキー中尉も驚嘆する。そう、スコアも機動も、他の追従を許さない。誰一人として、彼の前を飛べない。
彼の中に燃えていた闘志の火が、燻っていた火が、大きく燃え上がったのだ。
不安定で、真っ直ぐ飛ぶ事すら困難だった彼の機動。
でも今は空を、彼の思い通りに、そこが自身の支配する領域であるかのように、舞う。
その8本の剣は彼の矢。飛ばして返して、ネウロイ達を貫き切り裂く。
そして近づいたのなら、カールスラント人としては珍しい扶桑刀を振り回し、接近しての戦闘は修羅が如く。
「今ので何機目なんだよ?雑魚ばっかとはいえ、数多くね?」
「13機目です、管野さん」
「13機!?一人がこんな短時間で落とせるスコアなのかよ…」
下原少尉の報告にカタヤイネン曹長も驚き、そんな事をしている間に14機目と15機目のネウロイが彼の餌食になっていた。
航空ネウロイ達は彼に射程を定めたらしい。
鬼神の如く暴れ狂う彼を放っておいたら危険と判断したのだろう、戦力を集中し始めた。いけない。
「軍曹、ネウロイがあなたに狙いを集中しようとしてる、逃げて!」
『……みたいだな。でも、一箇所に集中した方が…射撃じゃ落としやすいだろ?つーことで、射撃のほうをよろしく』
「軍曹!」
まったく、こちらの言う事をまるで聞かないんだから!
ポクルイーシキン大尉がため息をつくと、ラル隊長は相変わらず笑っていた。
「状況を見る能力はある、という事か。確かにネウロイが彼一人を追って団子になれば射撃しやすいからな」
「うおおおおおお!!!」
「おっとナオちゃん抜け駆けはダメだよ?」
しかし射撃命令を出すより先にネウロイの方へと飛び出していくブレイクウィッチーズ。
「雑魚しか落とせない相手に負けるかぁぁぁぁぁっ!」
そっちに対抗意識を持つ管野直枝であった。
最終更新:2013年04月02日 18:59