――槍少尉とミーナの基地到着時――

ミーナが少尉を抱えながら基地に帰還した。
暇つぶしにぶらぶらしていたのであろうか、ハルトマンが出迎える。

ミーナ「今、戻ったわ」

ハルトマン「あ、お帰りー」

槍「すいません中佐…ありがとうございます」

ハルトマン「大丈夫少尉?」

槍「はい。…いえ、ちょっとまだしんどいので部屋で休みます。失礼します」
と、言い残すとふらつきながらもハンガーを出て行った。

ハルトマン「……少尉あんなに疲れちゃって…いったい何やってたのさミーナ。」

ミーナ「なっ…!何もしてないわよ!」

ハルトマン「そんな必死に否定しなくてもいいのに~。
      まぁ、そっちのことはいいや。それより彼のこと、トゥルーデとか結構気にしてるみたいだよ?
      戦闘中のあの言葉のことも含めて話してくれるんでしょ?」

ミーナ「……わかっているわ。でも彼の口から話してもらえるのを待つべきだと思う。
    彼の過去を調べまわった自分が言えたことでもないのだけれどね…。」

ハルトマン「まぁ…私はあまり気にしないけどね。気長に待つとするよ。」

と、言い残すと彼女もその場を後にした。

――数時間後――
夕飯時になりウィッチーズの面々が続々と食堂にあつまってくるが、槍少尉の姿はない。

ミーナ「大丈夫かしら…」

宮藤「部屋にいるんですよね?呼んできましょうか?」

ミーナ「そうね…。お願いするわ。」

数分後宮藤に続いて少尉が食堂に入ってきた。
バルクホルン「遅いぞ、槍少尉。ってずいぶん疲れた顔をしているな…大丈夫なのか?」
足取りは特に問題ないようだが、多少顔色は良くない。そして少し赤らんでいるようにも見える。

槍「いえ…ただ寝起きなだけです。疲労の方はもうだいぶ…。多分明日になれば問題ないと思います。」
そういって自分の席に座った。しかし体は酷くダルそうだ。

宮藤「ビックリしましたよ。ベッドにそのまま倒れこんだみたいに横向きに眠ってるんですもん。」

坂本「そんなに疲れていたのか…?戦闘後魔法力も使い切っていたようだが…」

槍「最後に使った天槍、あれ上昇と下降はアームストライカー握りっぱなしで加速するんで魔法力の消費が激しいんですよ。
  しかも今回は普段より高度だいぶ上げたので尚更…。いえ、今後の戦闘ではこんなことは無いようにしますので。
  心配かけてすいません。」
すると、ミーナは何かに気づいたかのように彼の席近づき、座っている彼の頬に手を当て、顔を近づけた。
そして
槍「ちゅ、中佐…!?」
(ピト)

互いの額を合わせ、何かを計るかのように目を閉じる。

ミーナ「やっぱり…海水に浸かってそのまま寝ちゃって、挙句疲労が重なれば風邪くらい引くわよね。」

シャーリー「おいおい大丈夫なのか?」

彼の顔が更に赤くなっていく。
槍「いえ、大丈夫です…!」

ハルトマン「(ニヤニヤ)顔真っ赤だよ?」
退路は絶たれた。このまま突っ張ると余計な恥をかく羽目になると本能で察する。

槍「……。すいません…。どうやら少し体調が悪いみたいです。」

ミーナ「(はぁ)宮藤さん。後でなんか食べやすいもので栄養のあるもの作ってもらえるかしら?」

宮藤「あ、はい!」

ミーナ「それと、槍少尉?呼び出しといて申し訳ないわね。食事は部屋まで持って行くからもう自室で休みなさい。」

槍「はい…。いえ、そうしたいのは山々なんですが、少し、話したいこと、いえ話さなきゃいけないことがあります。
  今日を逃したら、なんかダメな気がするんです。」
顔色は悪いが、その顔には覚悟のようなものが宿っている。さきほどの砕けた雰囲気が打って変わって、食堂は真剣な空気に包まれる。
ミーナは何かを悟ったかのような顔をするが、すぐに心配そうな顔になる。

ミーナ「無理はしなくていいのよ…?誰も急かしたりしないし、何なら私から言ってもいい。」

槍「いえ、今まで自分に散々甘えた分、もう中佐には甘えられません。」

ペリーヌ「何やら深刻そうな話ですが。いったい何のことですの?」

槍「あ、すいません。…皆さんに、少し聞いてもらいたいことがあります。個人的な話で申し訳無いですが、槍の、過去のことです。」

その言葉に誰もが口をつぐんだ。あの戦闘後、超巨大ネウロイを一撃で撃墜してみせた彼のことは、各々が多少は気にしていた。
加えて、ミーナとの会話で何やら耳慣れない言葉も口にしている。
そして少し間をおいて、再び彼が口をひらいた。

槍「自分はダイナモ作戦の折、殿をつとめて結果壊滅した、とある中隊の生き残りです。」

ほぼ全員、特に経歴の長いウィッチが驚愕した。前の撤退戦は、後方での避難が間に合わず、多くの民間人も犠牲にしている。
そして彼は、再び、少しずつ一つずつ自分のことを語りだした。
王冠中隊、撃墜されたが奇跡的に生き残ったこと、勲章と名誉、そしてそれからの自分…。

槍「以前世話になった上官がずいぶん偉くなってたみたいで、なぜかその根回しであちこち飛ばされましたね。
  戦場では盾役として、いるだけで味方の被害は減る上、スコアに全く興味がなかったので邪険にはされなかったと思います。
  そのおかげであの態度にもある程度目を瞑ってもらえて、除隊させられるようなことはありませんでした。
  それで巡り巡って今度はこの隊に飛ばされたわけです。正直ここまでの激戦地に来る羽目になるとは思いませんでしたね。」
長々と語り、疲れたのか、ふと息を付く。そして彼に声をかける者がいた。

坂本「それで…なんで今更そのことを私たちに話す…?」

槍「…甘えてたんだと、分からされました。
  考えて見ればそうですよね。今まで何も失わず戦場に居続けてる人なんているわけがないのに、
  自分ばかりが不幸なんだと思いあがってたんです。
  …これは、自分のけじめです。散々燻って、怠けていた分、これからは全力で戦います。
  ただ、それだけの自己満足です。
  すいません、長々と。これが自分の言いたかったことです。」
そう言うと彼は席をたった。

槍「中佐のお言葉に甘えて今日はもう休みます。熱が上がったら元も子もないので。」
(バタン)

しばらくは全員の沈黙が続く。
そして…
(グゥゥゥゥ・・・)
ルッキーニ「お腹すいた…」

ミーナ「ふぅ…、そうね、少し遅くなったけど夕食にしましょうか」

宮藤「あ、じゃあ先に食べててください。私、槍さんのために何か先に作っちゃいますんで。」
そう言って厨房の方に入っていった。残ったメンバーは食事に手をつけ始める。

バルクホルン「しかし、つい昨日まではどこかやる気のない雰囲気だったのに、人間変われば変わるもんだな。」

ハルトマン「だよねー。ミーナがなんか言ったんでしょ?戦闘のあとやたらと従順だったし調教でもしたの?」

ミーナ「調教って、そんなわけないでしょ!?私は別に…。みんなが出払ったあとちょっと口論になって、ちょっと説教したというか…その。」

シャーリー「ミーナの説教は怖いからなー。そういや一番槍とか言ってたけどあれは何なんだ?」

ミーナ「みんなが帰った後聞いたのだけど王冠中隊時代に付けられた通り名だそうよ。
    最後に使った天槍が直接の由来らしいけど、彼の戦闘における戦い方からも来てるのでしょうね。
    今度出撃の際は見られると思うわよ。」
とやたら誇らしげな笑顔で語る。

シャーリー(なんでミーナがうれしそうなんだ?)
ハルトマン(彼氏自慢?)
ルッキーニ(おー!!)
ペリーヌ(仲がよろしいですこと)
坂本(ずいぶん嬉しそうだな)
エイラ(ナンダナンダ?)
サーニャ(ミーナ中佐…嬉しそう…)
リーネ(キャー///)
バルクホルン「……」
何やら皆がニヤニヤしているが、バルクホルンだけが何か考えこむような顔をしている。
ミーナは周りを無視していった。

ミーナ「トゥルーデ、どうかした?」

バルクホルン「いや、なんでもない…」

そのとき厨房から宮藤が戻ってきた。手にはおかゆなど簡単なものを載せたお盆を持っている。
宮藤「でもすごいですよねー。『かつて英雄と呼ばれたウィッチ』なんて。なんか映画の話みたいです。」

ミーナ「そうね…。色々あったけど、彼は間違いなく私たちの大きな力になってくれるわ。これからも頑張りましょう。」
その言葉で今日は一先ずお開きになる…かと思ったが、

ハルトマン「ところで槍少尉のご飯、誰が持ってくの?」
その言葉で皆の動きが止まる。だがすぐに皆が同じ方向を同時に向いた。

全員(じー……)

ミーナ「わかったわよ!私が持っていけばいいんでしょ!」
と、こんな感じでオチが付いた。


――槍少尉の部屋――
(コンコン)
ミーナ「少尉、起きてる?」

槍「中佐ですか?はい、大丈夫です」

(ガチャ)
ミーナ「食事を持ってきたわよ。おかゆくらいなら食べられるでしょ?
    って、なにやってるのかしら…?少尉。」

槍「えーと、さっきまで寝てたせいか、眠れなくてですね。
  そういえば久しぶりに天槍使ったなぁと思いまして、一応アームストライカーの整備をしとこうかと…」

ミーナ「はぁ…。後にしてちょうだい。宮藤さんが作ってくれたわよ。」

槍「すいません。じゃあ頂きます。」

ミーナ「………」

槍「えーと、何か?」

ミーナ「食べさせてあげよっか?」

槍「ブッ!ゴホッゴホッゴホッ!」

ミーナ「大丈夫?喉も痛いの…?」

槍「いえ…ちょっとびっくりしただけです…。何言い出すんですか、いきなり。」

ミーナ「あら、嫌なのかしら?」

槍「嫌とかじゃなくてですね…色々と恐れ多いといいますか…」

ミーナ「私から言い出したんだから問題ないでしょ?はい、アーン。」

槍「(拒否権なし…!?)…あ、アーン(モグモグ)」

ミーナ「美味しい?」

槍「(緊張して味がわからない…)お、美味しいです…はい。」

ミーナ「どうしたの?そんなに硬くなっちゃって。」

槍「(貴女のせいです)いえ、なんでもないです…」

ミーナ「そ。じゃはい、アーン。」

槍「(何だろうこの苦行)アーン…(モグモグ)」

ミーナ「ところで、食事の傍らでいいから聞きたいことがあるのだけれどいいかしら?はい、アーン」

槍「アーン…(モグモグ)はぁ、なんでしょうか?」

ミーナ「今日の戦闘終了後、私貴方にキスしたじゃない?あれについてどう思ってるのかなぁと思って。」

槍「ブフっ!!」

ミーナ「汚いわよ?」

槍「急に何を言い出すんですか…!?ゲホッゲホッ」

ミーナ「いや、大事なことじゃない。それと、とりあえず私の質問に応えるのが先でしょ?」

あの誓いに嘘はない。自分の全てをかけてその力となると決めた。信頼し尊敬すらしている。
何より、あの揺ぎ無い意志とその覚悟に魅せられた。心奪われたとも言っていい。
だが、彼女が自分をどう思っているかはまるで気にしていなかった。自分の上官で、命を預ける相手だ。
そんな人間が自分を気にかけてくれるなどと、どうして考えられるだろうか。

槍「思い上がりだったらすいません…。中佐は、自分のどんなところがいいと思ったのでしょうか…?」

ミーナ「ところで入り口でいい忘れたけど、二人きりなんだし、中佐は禁止ね。」

槍「あれ、本気だったんですか…じゃあ、ミーナ、さんは槍のどんなところが…」

ミーナ「うーん…貴方、私が何かすごい覚悟を過去にしてて、戦場での犠牲を受け入れてる、とか考えてない?」

完全に図星だった。自分にはできなかったことだと、だから自分も覚悟を決めようと思った。
槍「違うんですか…?」

ミーナ「別にそんな大層なことじゃないのよ。新米のころは、何も出来ず目の前で死なせてしまった人が大勢いた。
    だからそれを受け入れざるを得なかったのよ。悪く言えば、ただの妥協。
    自分以外のことはわからないけど、多くの人はそんな風に自分に折り合いをつけて戦場に立っている、というのが本当のところだと思うわよ?」
その言葉に、彼は何かを思い出したかのように、考え込む様子を見せた。

ミーナ「どうかした?」

槍「いえ、昔の上官にそれと同じようなことを言われたもので…自分は、その時は納得できず言い返してしまったんですが。」

ミーナ「変わらないのね、貴方は。私はそんな純粋な貴方に惹かれたのよ。
    眩しいじゃない。自分がもち続けられなかった理想を、今も大事に抱えていたなんて。
    年下の女の子に言われるのは嫌かもしれないけど、だから、守ってあげたい、少しでも支えてあげたい、ってそう思ったのよ。
    …貴方はどうなの?」

そんな風に自分を思ってくれることを、彼は素直に嬉しいと思った。だから…

槍「槍も…少しでも、ミーナさんの力になりたいです…。そして誰よりも、貴女を守りたいと、そう、思います。」

その言葉に、ミーナは満面の、蕩けるような笑みを浮かべた。それを見て、彼の心臓が跳ね上がる。

ミーナ「良かった…フラれたらどうしようかと思っちゃった…。」

軍に所属し、ウィッチとして最前線で戦い、中佐という地位にいても、10代の女の子だ。
意中の異性に対する一世一大の告白は、どんなときでも大変な覚悟がいるのだろう。

ミーナ「風邪が感染っちゃったら皆にも申し訳ないし、今日はこれだけ。」
そういって、彼の頬に短くキスをする。

ミーナ「風邪が治ったら、また、ね?」
その言葉に彼が顔を真赤にした。

槍「熱が上がったら、どうしてくれるんですか…」

ミーナ「あら、沢山汗をかいたほうが早く治るんじゃない?」
そう言ってくすくすと嬉しそうに笑う。
だがそのとき、

(コンコン)
バルクホルン「槍少尉、起きているか?」
二人は瞬時に姿勢を正す。

槍「は、はい起きてます!」
(ガチャ)
バルクホルン「どうした?やけに焦っているようだが。」

槍「いえ、少しびっくりしたもので…何か用事でも?」

バルクホルン「ミーナもまだいたのか。…いや、むしろ丁度いいな。二人にちょっと話があるんだ。」

ミーナ「私にも?少尉にじゃなくて?」

バルクホルン「あぁ、一つ、頼みがある。期日は任せる。体調が回復して調子が戻ってからでいい。
       だから、ミーナ。槍少尉と、一対一で戦わせてくれ。」

ミーナ「ちょ、トゥルーデどういう事?訓練での模擬戦ならともかく一対一で戦いたいなんて。
    この前の汚名返上とかそういう私怨による決闘なら認められないわよ?」

槍「…バルクホルン大尉。それは、自分がまだ、認められてないと、そういうことなんでしょうか…?」

バルクホルン「それは思い上がりとも取られかねない発言だぞ、少尉。
       私も含め、この隊にお前の力を疑う者など、もういないはずだ。
       だからこそ、私はお前と戦いたい。」

槍「…わかりました。期待に答えられるかわかりませんが、俺は問題ないです。」

バルクホルン「ミーナ、どうだ?少尉はこう言っているが…」

ミーナ「彼がいいって言うんなら私には止めさせる権利はないわね。
    ただ、条件が二つ。まずは、彼の体調があるので期日は私が指定します。
    それと、私がその場に立ち会った上での模擬戦です。いいわね大尉?」

バルクホルン「あぁ、十分だ。こちらはいつでも構わない。ゆっくり風邪を治してくれ。」
(バタン)

ミーナ「……いいの、少尉?」

槍「わかりません…でも、何故か、断るのが不誠実なような気がしたんです。」

ミーナ「…無理はしないでね?」

槍「はい。心配かけてばかりですいません…。」    


――バルクホルンとハルトマンの部屋――

バルクホルンは部屋に戻ると、ベッドに座り、何やら考え込んでいるようにじっとしている。
そんな彼女にガラクタ越しにルームメイトが声をかける。

ハルトマン「どうしたのトゥルーデ?さっきどっか行ってたみたいだけど。」

バルクホルン「あ、あぁ。ちょっと槍少尉の部屋にな。」

ハルトマン「え…?(もしやミーナ中佐とトゥルーデの修羅場勃発!?さすがは英雄!色好みまくり!?)」
何やら一人で顔を赤くしたり目を輝かせたりしているが、バルクホルンは気にしないことにする。

バルクホルン「何を考えているのかしらんが、多分お前の思っているようなことは一切ないと思うぞ。」

ハルトマン「えー…。じゃあ何しに行ってたのさぁ。説教とかならさすがに身勝手だと思うよ?」

バルクホルン「そんなわけあるか。むしろ…、いや、さらに個人的な理由だな。
       ちょっと喧嘩を売ってきただけだ。」

ハルトマン「喧嘩って…また野蛮な…」

バルクホルン「単なる例えだ。別に『この前のリベンジだ!』とか短絡的な動機じゃない。
       …まぁ、お前には言ってもいいか。」
そう前置きをして話しだした。

バルクホルン「ダンケルクの英雄…本人は張りぼての称号だと思っているようだが、
       今日の戦闘で、あれだけのモノを見せられれば、今更あれが伊達じゃないことくらい誰でも分かる。
       なのに、あいつは自分の力を、誇るでもなく自分の中で持て余しているようにすら見える。
       何か、やるせないような気持ちになるんだ。
       だから、直接戦い、アイツの力を確かめて、その上で言ってやる。
       『お前の力は十分誇れるものだ。』と。」

ハルトマン「ふーん…。なんかずいぶん少尉のこと気に入ってるんだね?もしかして惚れちゃった?」

バルクホルン「まさか。私はもう少し骨のある奴がいい。ミーナは違うみたいだけどな。」

ハルトマン「やっぱモロバレだよねぇ。でも私は少し分かるよ。なんか守ってあげたくなるとかそんな感じなんじゃない?」

バルクホルン「そんなものか…。」


――翌朝、槍少尉の部屋――

ミーナはあの後しばらく話をして、自分の部屋に戻っていった。
彼女から添い寝の提案もあったが風邪が感染るかもしれないからと、なんとかその場は誤魔化した。

槍「なんであんなにノリノリだったんだろ…」

半分本気でもあったが、もう半分は焦る様子を面白がられていたことに気づくには少尉は少し純情すぎた。
時間は朝食の時間より少し早いくらいである。まだ完調とは言えないが、熱もだいぶ下がったようなので早めに食堂に行くことにする。

槍(おかゆと果物だけじゃやっぱ腹減るなぁ…)

――食堂――

厨房では宮藤とリーネが忙しく朝食の用意をしている。そこに少尉が入ってきた。
リーネ「あ、槍少尉、おはようございます!」

宮藤「風邪の方はもういいんですか?」

槍「おはようございます。まぁ疲労が一番の原因だったと思うので、一晩寝たらだいぶ良くなりました。」

宮藤「それはよかったです!お腹空きましたよね?急いで準備するんで少し待っててくださいね。」

そう言ってまたパタパタと忙しなく準備に戻った。それを見てふと思いついたかのように少尉が声をかける。

槍「手伝いましょうか?」

リーネ「い、いえいえ!上官の方にそんなこと手伝わせるわけには!」

槍「階級はともかく自分はこの隊では新入りですしあんまり気にしないでください。
  皮剥いたり材料切ったりするくらいなら結構得意なんですよ?」

だいぶ迷っていたようだが、見てると腹が減るばかりだからと説得すると、しぶしぶながらも納得してくれた。

宮藤「槍さん包丁使うの上手いですねー。というか私なんかよりよっぽど速いです」

少尉は手馴れた様子で、いやそれなりに料理に手馴れている二人から見てもすごいスピードでじゃがいもの皮を剥いていく。
大所帯のため使う材料の数は多いが、10分もかからず朝食で使う分は剥き終わってしまった。

槍「新人だった頃は食事の用意させられてたんでそのおかげですかね。
  ただ、適当に煮込んだり炒めたり焼いたりくらいしかできなかったんで調理の方はお手伝いできませんが…。」

宮藤「いえいえ十分です!お陰で助かりました。」

しばらくすると、少しずつ501メンバーが食堂に集まってきた。
調理の方もちょうど終わったようで、あとは盛り付けと配膳くらいだ。

シャーリー「おぉ槍、風邪はもういいのか?…って何やってんだ?」

槍「えぇ、一晩寝たらだいぶ…。目が覚めちゃったんでせっかくだから手伝いをと。」

宮藤「すごいんですよ、槍さん。野菜の皮剥くのとかすっごい速いんです!」

槍「いや…それしか出来無いんでそんな誉められてもこまるんですけど。」

バルクホルン「しかし見たところ昨日より体調は良さそうだがまだ完調ってわけじゃないだろう?
       あまり無理はするなよ。」

槍「お腹がすいて食堂まで先に来ただけなんであまり気にしないでください。
  疲労も取れましたし、仮に今日ネウロイが来ても大丈夫ですよ。」

そう言った槍少尉の背後に、気がつくとミーナが立っていた。
彼の額にそっと手が当てられる。その手は、しっとりと冷たく心地良い。

ミーナ「んー…。確かに熱は下がったみたいだけど…。」

槍「中佐…!?びっくりするじゃないですか…!」

ミーナ「真後ろに立たれても気付かないなんてやっぱりまだまだ不調じゃない。
    とりあえず警報があっても今日は基地待機ね?」

槍「そんな一流の殺し屋みたいなことを判断基準にしないでもらえますか…」

他「………」

その時欠伸をしながらハルトマンが食堂に入ってくる。

宮藤「あ、ハルトマンさんおはようございます」

ハルトマン「(ふぁ)おはよー。何?また少尉と中佐イチャイチャしてんの?朝からお熱いねー。」

ミーナ「そう?普通でしょ?」

他「………」
槍以外の全員がミーナの方を振り向いた。
そして槍とミーナ以外の全員が部屋の隅でスクラムを組み、あーだこーだと話しだした。

ハルトマン「(ねぇ。からかったのに軽くスルーされたんだけどなにがあったの?)」
坂本「(ハルトマン。お前がからかい過ぎたから、軽くあしらわれただけじゃないのか?)」
ペリーヌ「(でも、何やら余裕のようなものを感じましたわ…)」
シャーリー「(もしや…昨晩何かあったんじゃ?)」
ルッキーニ「(何かってなにー?)」
エイラ「(サーニャ。耳を塞ぐんダ)」
サーニャ「(え、エイラ?)」
バルクホルン「(昨日あのあと私も部屋に行ったが、特におかしなことはなかったぞ?)」
宮藤「(ば、バルクホルンさん、昨日槍さんの部屋に行ったんですか!?)」
リーネ「(芳佳ちゃん…!声大きいよ…)」

10人「あーだこーだあーだこーだ」

――しばらくして――

何か話がまとまったようだが、どこか生暖かい目で
『頑張ってください!』などと声をかけられたのは何か良からぬ邪推も含まれていた気がする。
というかなんであんなにチームワークがいいのだろうか。

ミーナは軽く受け流したが、槍は余計なことをいうと墓穴を掘りそうだったので特に何も言わなかった。

そしてその日はネウロイの警報もなく平和に一日が終わった。


最終更新:2013年01月28日 14:27