夕暮れの第501統合戦闘航空団ロマーニャ基地。
南リベリオンのノイエ・カールスラント兵器開発省からはるばるやってきたウルスラ・ハルトマンは、
ネウロイのコアを転用した新型試作魔導兵器を俺に渡すという密命を帯びていた。
……密命のはずだ。その割には部隊の仲間たちの目の前で堂々と公開しているけど。
リーネ「ウォーロックって、あの……?」
ウルスラ「はい。皆さんには馴染み深いでしょう」
ペリーヌ「忘れるわけがありませんわ。馴染み深くはありませんけど」
俺「まぁ、ウォーロックに始まるネウロイ兵器研究の、一つの成果ってわけだ。
道理でブリタニア語の名前が付くわけだぜ」
ウォーロック。
俺たち501も戦った
ガリア戦の終盤でブリタニア軍によって投入された、ネウロイのコアを埋め込まれた機械兵。
コアコントロールシステムと呼ばれる干渉機能を持ち、ネウロイを同士討ちさせることが出来る他、
機銃やビーム、変形機構を搭載した男の子の夢……じゃなくって、強力な兵器だった。
制御が不完全だったため自我に目覚めて暴走し、空母と一体化して俺たちと激戦を繰り広げたことは記憶に新しい。
バルクホルン「ふ、副作用はないのか? ウォーロックのように暴走なんてしたら……」
ウルスラ「御心配なく、バルクホルン大尉。我々は機関の一部としてコアの機能を埋め込んでいるだけです。
制御はあくまでウィッチが行います。兵器を自律稼働させようなんて、危険過ぎますからね」
俺「確かに、ウォーロックの攻撃力だけ見れば試してみる価値はある……か。
オーケイ、ウーシュ。こいつのテスト承ったぜ。他に注意点はあるのか?」
ウルスラ「今回お渡ししたX-02スコープバレルは、発射する弾を貫通力に特化させます。
破壊力に特化させるX-03バレルも持ってきましたが、そちらはさらに調整が必要です。
それと、魔法力を感知してトリガーをロックする認証システムがあります。基本的に俺さん以外には撃てません。
詳しくはマニュアルの方を参照して下さい。ええと、それと……」
今までの淡々とした説明口調から一転、急にウーシュがもじもじとし始めた。
この知的な少女には実に似合わない仕草だ。ギャップ萌えというやつだろうか。
ウルスラ「あの、俺さんがv1に組み込んだというフィルターのデータが欲しいのですが……」
あの急ごしらえの粗悪品の?
何かの冗談にも聞こえたが、欲しいと言うなら差し上げよう。
俺「それなら、中佐にレポートを渡してあるから言えば貰えると思う。
実物が必要なら後で複製してやるよ。それよか今日はもう日が暮れるけど、泊まってくのか?」
ウルスラ「いえ。スケジュールが詰まっているので夜には発ちます。
夕食くらいなら御一緒出来るかもしれませんが……」
俺「そっか……。明日まで居るならこいつの試射に付き合って欲しかったんだけど」
ウーシュから渡された魔導兵器……NWX-01グリップベースをコンと叩いた。
ちなみに、片手で持ち上げてはいるが、魔導炉を積んでいるせいか実際はかなり重い。
あちこちに可動しそうな部分があり、パッと見通りの銃ではないことは想像に難しくなかった。
ウルスラ「済みません。もっと時間を作りたかったんですけど……」
俺「いいさ。お前が忙しいことは知ってる。今回の件で味噌付いたかもしれねぇけど、頑張ってな」
ウルスラ「はい……ありがとう、俺さん」
少し寂しそうに微笑むウーシュ。
エーリカマジ天使という言葉が整備班の間で流行っているそうだが、ウルスラマジ天使という言葉を創造するべきかもしれない……
というメッタメタな思考が俺の頭を過ぎるような笑顔だった。
エーリカ「むー。ほらほら、さっさとご飯食べてお仕事しなよ!」
ウルスラ「え? どうしたんですか姉様。あの、押さないで。あ、俺さん、フィルターの複製もお願いします……」
仲睦まじく、双子は基地の中に消えて行った。
炊事係の宮藤とリーネもその後を追って基地に戻っていく。
シャーリー「……睦まじいか? 今にも火花が散りそうだぞ」
俺「え?」
シャーリー「お前って鋭いんだか鈍いんだか分かんない奴だよな……」
* * *
翌朝。
ウーシュは宣言通り、日付が変わる前に帰って行った。
この戦時下だ。昨夜の晩餐や風呂が、内勤とは言えロクに休暇も取れないであろう彼女の息抜きになれば良いのだが。
さて、俺はと言うと、リーネと坂本少佐に付き合ってもらって基地の一角にある射撃訓練場に足を運んでいた。
ウーシュから受け取った武装の試射をするためだ。他にも宮藤、シャーリー、バルクホルン大尉が野次馬に来ている。
坂本「昨日の部品を全て組み合わせて、通称『Nライフル』か。しかし分厚い解説書だな」
リーネ「ターゲット出しました。まずはグリップベース単独からですね」
俺「マニュアルで行く。……拳銃の訓練なんて、何年振りだかなぁ」
ぼやきつつ、一番近いターゲットに向かって引鉄を引く。
パスン、という軽い音と共に、ターゲットには煙を上げる穴が穿たれた。
リーネ「よ、芳佳ちゃん、今の見た……?」
芳佳「うん……ネウロイのビームみたいな色だった」
バルクホルン「本当にウォーロックの技術が転用されているのか……。俺、どんな具合だ?」
俺「なんか撃ってる感じがしません。本体は重たいくせにリコイルが軽すぎる」
坂本「実戦で使えそうか?」
俺「威力はあると思いますよ。その証拠に、ほら」
左手で抜いたルガーP08が火を噴き、グリップベースの弾痕のすぐ傍に小さな風穴を空けた。
……この一発も後で報告書出さないといけないんだよな。面倒くせぇ。
芳佳「わぁ。早撃ちだー」
シャーリー「おお、ウェスタン映画顔負けだな」
俺「いや、パフォーマンスでやったんじゃねぇから。少佐、見て下さい」
坂本「ふむ……13ミリ程度か。スコープバレルを使えばリーネのボーイズと同程度の威力と見るべきか。
よし、次はスコープバレルを装着してくれ。リーネ、耐弾型のターゲットに切り替えろ」
リーネ「はい。貫通力を見るんですね。距離はどうしますか?」
バルクホルン「リーネは確か1000メートルくらいなら確実に行けるはずだな」
俺「100メートルから始めて50メートル刻みで離して行こう。多分1000くらいは行くと思うけど」
ターゲットが狙撃訓練用のものに入れ替わる。
俺はグリップベースにスコープバレルをセットすると、片膝をついて狙撃の態勢を取った。
スコープを補正モードにして覗くと、様々なパラメータから自動計算された情報が視界の隅に表示されているのに気が付く。
通常モードに切り替えると、表示が消えて拡大されたターゲットだけが視界に残った。
俺「へぇ……便利な世の中になったもんだ」
これで自動追尾でもしてくれりゃ楽なのにな、と思うが、発射された弾を対象へと誘導する技術は鋭意開発中とウーシュは言っていた。
魔導技術の進歩は、人類の持つテクノロジーの先端を明らかに"ありえない"レベルにまで押し上げてしまっている。
そのお陰でネウロイとも戦えるわけだが……技術屋としては一抹の不安を感じないでもなかった。
ともかく、スコープのテストも要求されたということは、補正モードでの運用が望ましいのだろう。表示を補正モードに戻す。
坂本「行けるか?」
俺「ええ。撃ちます。リーネ、着弾したらどんどん次のを出してってくれ」
補正モードの表示が示す通りに狙いをつけ、引鉄を引く。すると、その通りにターゲットに穴が空く。
何だこれは? さっきは自動追尾云々と言ったが、実際に機械の指示通りに指を動かすだけで確実に着弾するなど、薄気味が悪い。
……などと言ったらウーシュに悪いだろうか。
俺「(まぁ、固定標的相手の話だ。ネウロイみたいな移動標的に通用するとも思えねぇな……)」
この補正モードは便利だが、何かを道具に代替させるということは、人間が持つ同等の能力が使われなくなることを意味する。
こと戦闘技術に関しては練度の低下を招くだろう。その点に注意して機能を絞り込むよう、レポートに盛り込んでおかねばなるまい。
そんなことを考えながら、俺は最後の一枚を撃ち抜いた。
俺「おし、終わり。今ので……何枚目だっけ?」
リーネ「三十枚目……2050メートルです。これ以上遠くには出せません……」
坂本「私の『眼』で確認した。三十枚目も一枚目と変わらない弾痕で貫通している……。
実射での有効射程距離は少なく見積もってもこの倍は行きそうだな。つくづく化け物だ」
俺「でも、これだけ撃つと流石に熱を持ちますね。少佐、排熱についてどっかに書いてあると思うんですけど」
少佐は引っ切り無しにマニュアルのページをめくり……目的の項目を探し当てた。
少佐の検索能力に問題があるのではなく、マニュアルが分厚すぎるのだ。
坂本「あったぞ。強制排熱モード。操作方法はかくかくしかじか……」
俺「こうかな?」
少佐の言った通りにダイヤルを操作すると、グリップベースの各部が開いて熱を吐き出し、周辺の大気を歪め始めた。
この銃の難点は大きく分けて二つ。魔導炉の搭載と内部装甲に耐ビーム材を採用したことによる重量の増加と、
銃身以上に魔導炉自体が熱を溜め込んでしまい、炉の稼働効率が下がる点だ。
戦闘では特に後者の影響が大きいだろう。つまり、適宜排熱しなければ、撃てば撃つほど威力が落ちる。
坂本「そう何もかも上手くは行かんか。だが、戦力にはなりそうだな。
この貫通力があれば、遠距離から直接ネウロイのコアを狙える」
俺「あまり当てにしてもらっても困りますけどね……」
俺は今しがた自分で撃ち抜いたターゲット群を見る。
当たることは当たっている。しかし、800メートルを超えたあたりから、徐々に精度が落ちていた。
補正モードの補正限界と、この銃に慣れていない俺自身の未熟の結果だ。
坂本「ほう、妙に謙遜するな。らしくもない」
シャーリー「これだけ強ければ充分戦力になるさ。ネウロイのビームってとこは気になるが……」
芳佳「装甲を破らなくてもネウロイのコアを攻撃出来るんですよね? だったら次の出撃から使って下さいよ!」
バルクホルン「そうだな……。一回の戦闘に掛かる時間が減るなら我々の負担も減る。どうなんだ、やれそうか?」
特に大型のネウロイに対しては、装甲を削ってコアを露出させるまでが勝負と言っても過言ではない。
俺たちもその点については頭を悩ませている。防弾装甲なんて持ち出されたら、10ミリ以下の機関銃では手も足も出なくなるからだ。
このNライフルならばその問題も解決出来るかもしれない。しかし、それでも……
俺「冗談じゃないです。相変わらず撃ってる感覚がしない。もう少し撃って慣れないと、実戦じゃ使えませんよ。
慣れたら慣れたで実包撃つ時に苦労しそうだ。俺としてはそっちの方が心配ですよ」
坂本「ふむう。では、俺。お前はしばらく午前の訓練メニューを射撃訓練としよう。
どのみちネウロイ相手に撃たなくては意味がないからな。早い所、慣れてもらわなくては」
まあ、肉体労働から逃げられると思えば安いものか……。
などと不埒なことを考えていると、そのネウロイの到来を告げるサイレンが鳴り響いた。
ミーナ『試射中にごめんなさい。ネウロイが来たわ。かなり多い。待機戦力も出して迎撃に当たります』
坂本「了解だミーナ。全員ハンガーに急げ。俺は通常の装備で出撃だ」
俺「はいよ……ん?」
ふと、開いたまま未だに熱を吐き出す、放熱パネルの奥に見える魔導炉に、火が入ったように見えた。
放熱中はバッテリーからの通電がカットされるはずだが……
まあ、仕様ならウーシュがマニュアルに記載しているはずだ。後で確認しておこう。
* * *
シャーリー「こんなもんか?」
バルクホルン「妙だな。手応えがない」
坂本「これは全て子機だ……。操っている本体を探しているんだが」
ペリーヌ「まだ健在だと?」
ルッキーニ「いつの間にか倒しちゃったんじゃない?」
リーネ「本体を倒せば子機も消えるはずだよ」
敵は広範囲に広がっていたものの、豆粒みたいな雑魚の群れで、思いの外あっさりと片付いた。
だが、本体が居る限り子機は再び現れるだろう。魔眼で舐めるように辺りを見回す少佐だが、本体は確認出来ないようだ。
サーニャが居れば一発なのにな……と思いつつ振り返った俺の目に、それは映った。
俺「少佐、後ろです。多分アレだと思いますけど……何だありゃ。柱?」
坂本「ん? ……!?」
バルクホルン「何だあれは……?」
ペリーヌ「雲を突き抜けてますわ……」
シャーリー「まさか、あれが本体?」
坂本「お前たちはここで待て。確認してくる」
少佐は一人、飛び出して行ってしまった。
ネウロイらしき柱の手前には、うっすらと雪化粧した山が連なっている。
俺「……あれ、アルプス山脈だよな。今日は敵に引き込まれて遠出し過ぎた。そろそろ戻らねぇと魔力が持たないかも」
バルクホルン「それはそうだが、ネウロイを放置して戻ることなど出来んぞ」
シャーリー「そう言うなよ。補給と作戦の立て直しが必要だろ。少佐がコアを確認したら引き揚げだな」
これまでにないタイプのネウロイに対し場が不安で支配されていく中、大尉二名は冷静だった。
と言ってもこの二人のことだ。また口論になり掛けたが……少佐が戻り、一時撤退を指示したことで、余計な諍いは回避された。
* * *
その晩、緊急のブリーフィングが執り行われた。議題はもちろん、昼間の柱型ネウロイへの対策だ。
夜間哨戒に出るはずだったサーニャも呼び戻され、エイラと一緒に座っている。
坂本「空軍の偵察機が撮ってきた写真だ。これが、昼間現れたネウロイだ。
全体を捉えようとしたらこのような写真になってしまった。全長は三万メートルを超えると推測される」
バルクホルン「三万!? 高さ三十キロってことか?」
驚いて声を上げるバルクホルン大尉をよそに、宮藤は扶桑の富士山何個分かを指折り数えている。
この手のパターンだと、だいたいコアのある位置に見当は付くが……
坂本「これが、毎時およそ十キロという低速で、ローマ方面に移動している。
厄介なのはコアの位置だ。……ここ、天辺だ。私がこの『眼』で確認した」
ペリーヌ「ですが、わたくしたちのストライカーユニットの限界高度は、せいぜい一万メートル……」
予想通りだ。そして、高度三万メートルとなると、まず足がない。
坂本「だから、作戦にはこいつを使う。ロケットブースターだ」
映写機の映像が切り替わり、ブースターの図面を壁に投影する。
ルフトヴァッフェ(カールスラント空軍)という注釈が振られているのが見える。
ところで、図面なんて見せられても、きちんと読めるのは技術畑を経験してる俺だけじゃないのか?
芳佳「これがあれば、コアのある場所まで飛べるんですか?」
バルクホルン「いや、そんな簡単な話ではないはずだ」
ミーナ「ええ。ブースターは強力だけど、魔法力を大量に消費するから、短時間しか飛ぶことは出来ないわ」
シャーリー「だったら、私たち全員で誰かを途中まで運べばいい。
……しっかし、三万メートルも上空ってことは、空気もないよなぁ」
ルッキーニ「えーっ、空気ないの!?」
驚くルッキーニを、一緒に座っていたエーリカが「喋っても聞こえない」とさらにおどかす。
馬鹿正直に反応するルッキーニ。それだけの話なら大した問題ではないのだが……
ミーナ「三万メートルの超高高度は、人間の領域を遥かに超えた、未知の領域よ」
坂本「だが、我々はウィッチだ。ウィッチに不可能はない。
このネウロイへの攻撃作戦を明後日、決行する」
ここで明かりが灯され、暗闇に目が慣れてきていたウィッチたちは眩しそうに目を細めた。
坂本「作戦の流れを説明するぞ。選抜した突撃班を、シャーリーの言う通り、残りの全員で可能な限り押し上げる。
まずは第一班が通常動力で一万メートルまで上昇。続いて第二班がロケットブースターに点火、二万メートルまで上昇する。
その後、突撃班もロケットブースターを使用して高度三万メートルまで上り、弾道飛行でネウロイのコアを目指す。
極限環境下での作戦となるため、生命維持や帰還のことも考えれば、送り届けられるのは三名が限界だな」
どんな手の内を持つか分からないネウロイを相手に、たったの三名。
僅かでもミスがあれば突撃班の三名の命は消え、次の攻撃も不可能となるだろう。
坂本「内訳はコアへの攻撃役一名、攻撃役を守る防御役一名、遠距離狙撃による援護役一名だ。
以上の点を踏まえて作戦の分担を発表する。攻撃役には、瞬間的かつ広範囲に渡る攻撃力を備える者として……
サーニャ、お前に頼みたい。この作戦にはお前のフリーガーハマーによる攻撃力が不可欠だ」
指名されたサーニャが目を丸くし、当のサーニャより、横に座っていたエイラが驚いている。
サーニャに関わることとなるとエイラはいつもこうだ。エイラ本人には悪いが、横から見ている分には愉快で微笑ましい。
エイラ「ハイハイハイ! だったら私も行く!」
坂本「そうか。時にエイラ、お前シールドを張ったことはあるか?」
エイラ「シールド? 自慢じゃないけど私は実戦でシールドを張ったことなんて一度もないんダ!」
どや顔というやつである。彼女の固有魔法は未来予知で、敵の動きも攻撃も全てお見通しらしい。
攻撃が来ることが事前に分かるため、シールドを張らずに攻撃を回避するのが彼女の戦闘スタイルだった。
だが、サーニャに同行するということは防御役か援護役だ。
エイラのMG42は有効射程800メートル程の機関銃で、動きながら撃つのならその距離はさらに短くなり、当然ながら狙撃向けじゃない。
となると防御役ということになるが、こいつ自分が何を言っているのかさっぱり分かってない。
坂本「なら無理だ」
エイラ「うん、無理ダナ。……エ゛ッ」
ミーナ「そうねぇ。こればっかりは……」
エイラ「な、ナンで!?」
俺「援護役は狙撃するらしいから、俺かリーネだろ。
防御役は攻撃役を守るためだけについて行くんだ。その防御役が避けてどうすんだよ」
エイラ「わ、私は別にシールドを張れないわけじゃないゾ!」
坂本「だが実戦で使ったことはない」
エイラ「その通りダ! ……ウゥ。そ、狙撃だってやろうと思えバ……!」
坂本「では、誰がサーニャを守るんだ?」
エイラ「私ダ!」
ミーナ「魔法力の消耗を考えると、それはちょっと無理ね」
・・・
俺「ていうか遠距離狙撃だし。ダメだこりゃ」
坂本「フゥ。宮藤、お前がやれ」
芳佳「は、はい! ……え?」
未だに指折りをしていた宮藤が反射的に返事をし、一呼吸置いて素っ頓狂な声を上げた。
それはさておき、この部隊で一番強いシールドを張れる宮藤なら、他の誰より適任だろう。
魔法力にも余裕があり、長時間の作戦活動が期待できる。
坂本「よし、決定だ。援護役は……俺、お前に頼もうと思う」
やはりお鉢が回ってきた。だが、今回ばかりは丁重にお断りしたい理由がある。
というか、向こうでエイラが宮藤に食って掛かっているのだが、放っておいていいんだろうか。
俺「あのう。そのことなんですが。俺よりリーネの方が適任じゃないかと」
リーネ「え、ええっ!? 私なんかより俺さんの方が……!」
坂本「何故だ? Nライフルを使えば、お前の有効射程は『STRIKE WITCHES』の中で一番長くなる。
後方から貫通力の高いビームで一方的に攻撃出来るお前が、一番適任だろう?」
ミーナ「……坂本少佐、リーネさん。今回は俺くんの意見に賛成です。Nライフルはまだ試射も終わっていないし……。
俺くんには、作戦の第一段階……通常動力による高度一万メートルまでの上昇を担当してもらおうと思うの」
坂本「承服しかねるな。防御役に余計な手間を掛けさせられない以上、援護役は他二役から離れた位置で任に就く必要がある。
それに加えて、いざという時の為の迅速な二次攻撃や攻撃役・防御役の回収等、重要なポジションでもある。
俺の固有魔法……物質を転送出来る『アスポート』なら、それらの役目にも向いている。これ以上ない適任じゃないか」
俺「そりゃ、そうなんですけどね……」
ミーナ「………」
俺もミーナ中佐も押し黙ってしまう。確かに少佐の言う通りなのだ。
俺の『アスポート』は、左手で作りだしたワームホールを通過した物質を任意の地点に転送する。
以前、ペリーヌの『トネール』を受けてもけろりとしていたのは、『アスポート』で『トネール』を適当な場所に転送したからだ。
なかなか便利な力だが、有効射程や俺自身は転送出来ない等、制約も多い。
だが、その制約を逆手に取れば、俺以外の人間ならば有効射程の範囲で自在に転送出来るというわけで、
少佐はその特性を今回の作戦に活かしたいと考えているのだ。
坂本「何か事情があるのか? それならば話してみろ。私とて鬼ではない。
やむを得ない事情ならミーナの言う通りにしよう」
バルクホルン「俺、断るにしたって普段のお前らしくないぞ。どうした?」
俺は左手を見る。意識を五本の指先に集中すると、指先がそれぞれ光り、小さなワームホールを生み出した。
普段の戦闘では、俺もエイラと同じくシールドを使わない。その代わりに、ネウロイのビームが着弾する位置にこのワームホールを作っている。
こいつでビームの軌道を無害な方向に変えて無力化しているのだ。ネウロイのビーム程度なら『アスポート』の方が燃費の面で経済的でもある。
だが、やがて消えて、使えなくなる力だ。溜息をついて、俺はワームホールを消した。
エーリカ「いつ見ても不思議だよね~それ」
シャーリー「俺……?」
ルッキーニ「お腹でも痛いの?」
ミーナ「あのね……美緒。俺くんは……」
坂本「俺。お前を推す理由はもう一つあるんだ。お前のストライカーに組み込まれた『S.E.A.システム』。
オゾン層の中で最も有害な高度二万~二万五千メートル部分を、それで一気に突破してもらいたいんだ。
そうすれば、サーニャと宮藤は魔法力を温存出来て、その後の作戦進捗にも余裕が出来るからな」
俺「な、何で、少佐がそれを……!」
聞き慣れない単語の出現に、俺と中佐と少佐を除く全員が反応に困っている。
それもそのはず。俺が今まで隠してきた……切り札と言ってもいい、他のストライカーにはないシステムだからだ。
試作品のテスト中で、表には情報を一切出していないはずなのに……
坂本「私の『眼』を甘く見るな。こいつでお前のストライカーを見れば、
他のストライカーにはないシステムが組み込まれていることは簡単に看破出来る。
あとは担当の整備員を尋問したら簡単に聞き出せたよ。隠匿は場合によっては罪に問えるからな」
彼には気の毒だったかもしれんがな、と少佐は笑う。
そこまでしていたとは……。この人の行動力には頭が下がる。
俺「……いいでしょう。引き受けますよ。そこまで言われて断ったんじゃ、男が廃る。
システムとNライフルを調整しなくちゃなりませんから、ハンガーに行ってます」
俺は、言い残すと席を立った。一応、口実ではなく、本当に調整が必要だからそうするのだ。
機密をバラされたことは大した問題ではなかった。あれは俺が俺自身のために作ったシステムだからだ。
それに機密という箱を被せて隠していただけ。それはただの
『理由』で、本当は機密でも何でもない……。
リーネ「あの、俺さん、何かあったんですか? 昼間は元気だったのに……」
シャーリー「中佐は何か知ってそうな口振りだったな。良かったら教えてくれよ」
バルクホルン「ミーナ。あいつのためを思って黙っているのなら、それは違うと思う。
仲間だからこそ知っておきたい。何か起きた時、俺を助けてやれるようにな」
ミーナ「……分かったわ。口止めされていたのだけれど。俺くんには、後で私から謝っておきましょう……」
* * *
最終更新:2013年01月30日 14:25