面倒ごとがおこるとき、きっかけはいつも些細なことだ
そしてそれは、最近になってアフリカに引かれた軍の長距離電話を試してみようと実家
に電話をかけていたときの事だった

『ねぇハンナ、あなた今日の準備はちゃんとしてるの?』

「へ?」

受話器から聞こえた母の言葉に私は最初は何のことかわからなかった。

『決まってるでしょ、バレンタインよ。』

しかし次の言葉と目に入ったカレンダーの日付で理解させられた。
そうだった明日は2月14日、大切な人に贈り物をしあう世界的に大切な日。

でも最近はずっと戦闘続きで日にち間隔も薄れていたから……すっかり忘れていた。

『まさか私の娘に限って忘れてるなんてことないでしょうね?』

「あ、ああもちろん覚えてるよ。ちゃんと用意してるさ;;」

『お母さん心配だったのよ。
 去年と違って今年はぜったいに渡さなきゃいけない人がいるんですからね。』

ぜったいに渡さなきゃいけない人……俺のことだ。

「う、うんわかってる。大丈夫だよ。」

「……ほんとに?あなたしっかりしてるようで肝心なところでミスするんですもの。」

「ほんとに大丈夫だって!じゃ、じゃあそろそろ切るから、また今度、ね?」

『あらそう?じゃぁまたね、愛してるわ』

「私もだよ、かーさん。』

チンッ

受話器をおいて担当の通信兵に礼をいい、急いで部屋を後にする。
それから全力で目的の場所まで走る。この時間ならたぶんこのあたりに……いた!

「ケイ!」

色素の抜けた茶髪を持つ親友の姿をとらえてさらに速度を上げる

「あら、ハンナ、そんなに急いで、きゃ!」

「ケイ、お願いだ助けてくれ!」



~数分後 女子寮~


「なるほど、事情はわかったわ。それでどうするの?」

「既製品買ってきて誤魔化したいとこだけど、それやったら絶対にかーさんにバレる。
 でもこれからなにか作ろうと思っても材料集めたりする時間もないし……どうしよう?」

「う~ん、だったら料理なんてどうかしら?」

「料理?」

「ええ、別になにか物品でなきゃいけないって訳でもないでしょう?
 それだったら料理を作って食べさせてあげればいいと思うわ。」

扶桑だとチョコがメジャーね。とケイが言う。

「なるほど、それはいい考えかも……だけどケイ、ひとつ問題がある。」

「なに?」

「私……料理できない。」

「……教えてあげるわ。」






~食堂~

「ふぅ、今日も訓練きつかったな……」

新兵を交えた砂漠の長距離行軍演習から帰ってきた俺はシャワーを浴びた後食堂を目指していた。

「時間が微妙だけど……お腹減ったし、なにか炊事長になにか作ってもらおうかな……ん?」

食堂の入口までくるとそこには見覚えのある小さな人影がたっていた。

「アンジェ?ここでなにをしてるんです?」

小さな人影は愛娘のアンジェリナだった

「あ、おとーさん!おかえりなさい!!」

「はい、ただいま。でアンジェはなぜここに?」

聞きながら食堂の中を覗こうとするがそれは娘に阻まれる。

「今なかにはいっちゃめー。」

「?中に何かあるんですか?」

「おしえなーい。ね、おとーさん、これあげる!」

そういって彼女は俺に紙でできたネックレスをプレゼントしてくれた。

「ありがとうアンジェ、でも突然どうしたんだい?」

「今日はバレンタインだよおとーさん。」

「ばれんたいん?」

「うん、おとーさん、知らないの?」

知らない。
俺は物心ついた頃から研究所で実験の毎日だったし、受けた教育は戦うことに必要な知識ばかりだったからそういった世事に関しては極端に疎かった。

「じゃぁアンジェにプレゼントくれないの?」

目に涙を浮かばせて娘は悲しそうな顔をする。そうとう期待していたのだろう。

「い、いえ、ちゃんと用意してますよ。ほらこれ、プレゼントです。」

そういって俺はポケットから拳大の石を取り出す。
今回の演習中に現れたネウロイが砕いた崖の中から拾ったものだった。

「わぁ……きれーな石、おとーさんこれ、なに?」

「ダイヤモンドの原石です。これだけ大きいのは珍しいんですよ。」

「ダイヤモンドって宝石の?すご~い!!」

「明日街で綺麗にしてもらいに行きましょうね。
 ところでそろそろ中のこと<どが~ん!!>ば、爆発?」

突然中から爆発音が響く。いったいなにが起こったのだろうか。

『ちょっとハンナ、これで何度め!?』

『い、いや今回は私の所為じゃないぞ?ちゃんと言われた通りにやったし。』

『だったらなんで今度はオーブンが爆発するのよ!』

「ティナさん?中に居るんですか?」

中から聞こえてきた恋人の声にいても立ってもいられず、
俺は目の前で両手を広げてとおせんぼしようとする娘を抱き上げて無理矢理中に踏み込んだ。

「ティナさん、大丈夫ですか!……ってうわぁ。」

踏み込んだ食堂の中では、黒煙が天井を走って壁を黒く汚し、厨房にいたってはもはや真っ黒。
そこかしこに爆発で壊れたと思われる調理器具の数々。
ほんといったいなにをやったらこんな惨状が生まれるんだろう。

「俺!?なんでここに!?」

惨劇の場に呆然としていた俺のそばに第31飛行隊のエンブレムが入ったエプロンを付け、
顔を煤で汚したティナさんが現れるまずいものを見られたといわんばかりに驚いていた。

「何か食べようと思ってきたんですが、それよりティナさん、大丈夫ですか?」

「え、う、うん大丈夫。ケガはしてないし。」

そういって手をひらひらとふる彼女、
俺はハンカチで彼女の顔を拭ってあげつつ彼女の体にケガがないかどうか調べる。
……うん、たしかに無傷だ。

「よかった。で、ティナさんはここでなにをしてるんです?」

「うっ!?そ、それはその……」

「バレンタインのプレゼントを作ってたのよ。」

「圭子さん?」「ケイ!」

黒こげた厨房からこれまた煤に汚れたエプロン姿の圭子が手にもったプレートに
何かを載せつつやってきた。

「ケーキ……ですか、それ?」

プレートに乗った何かはどうやらケーキのようで見た目的にもなかなかおいしそうである。

「え、ケイ上手く行ったのか?あれで?」

「うん、あれだけ爆発したから駄目かと思ったけど……奇跡ね。
 はい、俺、ハンナがあなたの為に頑張って手作りしたパウンドケーキよ。ココア味のね。」

「私のためにこれを……ですか?」

それは、とてもうれしい。
教えられた事実に俺は嬉しさで顔がにやけそうになる。
普段料理なんて絶対にしなかった恋人が自分のために苦労してくれた。
これで喜ばない男がいたらそいつはどうかしている。

「うん。ほとんどケイに手伝ってもらったから自分で作ったとは言いがたいんだけどさ。」

「それでもすごくうれしいです。あ、ではいただきますね。」

俺は抱き上げていた娘を床におろすと切り分けられたケーキのひとつを取ろうとしたが
それを先にマルセイユに奪われる、

「?」

「あ、えっとほらせっかくだからその、あ、あ~ん///」

「!?///え、あの、ティナさん、人前ですよ!?」

慌てて俺は彼女を注意する。
いつのまにか圭子は愛用のライカを構えて今か今かとスタンバっている。

「う、うるさい///ケイがやれっていうんだからしょうがないでしょう?
 それともなんだ、私じゃいやなのか?」

「そんなことは!うぅ、あ、あ~ん……」

覚悟を決めて俺は差し出されたケーキに齧り付く。
と、同時に圭子がすごい勢いでシャッターを切りまくる音が聞こえた。
くっ、あとで絶対没収しなければ。

「ど、どう、かな?」

「すごく、おいしいです。ええ、ほんとに。」

「よかった……その、もうひとついくか?」

「ええ、よろこんで。」

「じゃぁ、はい、あ~ん。」

「あ~ん。」

「どう?おいしい?」

「ええ、変わらずおいしいです。」

「ふふ、ありがとう。あ、くずが付いてる。」

「え、どこですか?」

「口の右側。ちょっとまって……よし取れた。」

彼女は俺の口についていた食べかすをつまむとそのまま口に持っていってぺろりと舐める。

「ティ、ティナさん///……狙ってます?」

「へ?……!あ、いや///、これはその、そ、それよりもうひとつ食べるか?まだまだ沢山あるぞ?///」

だんだんと周りが目に見えるほど桃色の空気に包まれてきたときそれは起こった。

「む~!おとーさんばっかりずるい!アンジェもおかーさんのケーキ食べるもん!!」

「あ、こらアンジェ!邪魔しちゃダメよ!」

我慢の限界に達したのかアンジェリナが空気をぶち壊してしまったのである。
彼女の声を効いた俺たちは正気にもどり、同時に今のやり取りを思い出して真っ赤になりながら娘の要求に対応した。

「///……え~と、ごめんなさいアンジェ、ティナさんいいですか?」

「///……しようがないな。じゃぁみんなで食べようか?」

「うん!」

こうしてこのあとは騒ぎを聞きつけた他のみんなも交えた楽しいお茶会の時間になったとか、
そしてこのあと厨房を破壊したことで炊事班長におこられたり、
マルセイユにあげるプレゼントに俺が頭を悩ませたり、
その結果彼女がなにをもらったのかは語られることはない。
ただその結果、翌日のマルセイユの肌がとてもつやつやして、
俺表情がげっそりしていたとか?

真相は闇の中である。
おしまい
最終更新:2013年01月30日 14:41