第一話:杖つきウィッチ

――ブリタニア空軍司令室――

僕「転属・・・ですか?」

司令「そうだ。君にはロマーニャにいってもらいたい。
   知っているだろう?ガリア解放の立役者がいるところだ。」

僕「はぁ・・・なんでまた、そんな激戦地に・・・しかも自分がですか?」

司令「謙遜するな、ヘルゼーエン。君の能力は、英雄の集うかの501統合戦闘航空団といえど、決して見劣りするようなことはあるまい。」

僕「ですが、別に戦力が足りない、というわけではないでしょう?
  しかも聞いた話ではあそこは女所帯で、男の自分がいくには些か規律的に不味くないですか?」

司令「戦力に関してだが、ナイトウィッチと後方支援が同時にこなせるウィッチなど、どこにいたところで無駄にはならんよ。
   それと、規律に関しては君ならさほど問題も起こりにくいだろう?」

僕「こっちはともかく向こうがどう思うかだと思うんですが・・・」

司令「向こうの隊長も君の受け入れに関しては特に渋ってはいない。まぁ頑張って馴染むことだ。」

僕「ちなみに拒否権は・・・?」

司令「すでに君の荷物は手配してある。荷造りも時間がかかるだろうからな。」

僕「・・・・・・了解です。司令。」

そう言って諦めたかのように彼は息を吐き、一言断って部屋を出た。


――501統合戦闘航空団基地、執務室――

坂本「新しいウィッチがくる?」

ミーナ「えぇ。予定だと、明日にはこの基地に到着するそうよ。」

坂本「なんでまたこんな時期に・・・」

ミーナ「突然の辞令でこちらもさっぱりなのよ。でも、書類を見ると夜間哨戒もこなせるウィッチで、能力も申し分ないらしいわ。
    サーニャさんの負担が減るのはこっちも望ましいし、襲撃の頻度が増してる以上、戦力は多いにこしたことないでしょう?」

坂本「夜間哨戒・・・?ナイトウィッチは稀少だろう?そんな簡単に転属させていいのか?」

ミーナ「厳密には魔導針を用いるナイトウィッチじゃないらしいのよ。
    なんでも、固有魔法で似たようなことが出来るとか。」

坂本「ふむ・・・優秀なウィッチならこちらも拒む必要もないな。ところで、なんでまた私だけ呼び出してそんな話をしたんだ?」

ミーナ「それなんだけどね。能力に関しては特に問題ないのだけれど、一つ問題があるのよ・・・」

坂本「・・・?」

ミーナ「そのウィッチ、どうやら男の人らしいのよね・・・」


――翌日――

基地に小型の輸送機が到着した。
降りてくるのはいくつかの荷物を抱えた下士官らしき若者と、杖をついたやや小柄な少年。

そしてそれを501の主だった面々が出迎える。互いに表情まで確認できる距離に近づくと、
立ち止まり互いに敬礼をかわした。先にミーナが声をかける。

ミーナ「501統合戦闘航空団、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐です。えっと…そちらの方は従軍士官かしら…?」

そう言ってどこか扱いかねるような口調で、杖をついた少年に視線を寄越した。
しかしそれを遮るように荷物を運んでいた下士官が先に声をかける。

下士官「えーっと…すいません、なにか誤解があるようですが付き添いは自分の方です。
    少尉、そんなあわよくばこのまま帰ろうとか考えてないでとっとと挨拶してください。」

坂本「…?失礼だが、その杖…もしや目が…?」

その声に答えるようにかたわらの少年が下士官の前に出てきて一つ敬礼をした。
前髪に隠れているが、彼のその目は両目とも固く閉ざされている。

僕「申し遅れました。本日より501統合戦闘航空団に配属となりました、僕少尉です。
  こんな目ですが、一応れっきとした航空ウィッチです。ヴィルケ中佐。」

ミーナ・坂本「………」

その言葉にミーナは頭痛をこらえるように頭を抑え、坂本は目を白黒とさせた。


――基地内部――

ミーナ、坂本、僕少尉の三人は基地内をブリーフィングルームに向かって歩いている。
先頭のミーナは背後を気にするようにちらちらと後ろを向き、殊更にゆっくりと歩いていた。
ちなみに、最初は手を引いたほうがいいのか、測りかねていたが、足音がわかれば十分だと断られている。
そして、僕少尉は特に気にする様子もなくマイペースについてきている。

しかし痺れを切らしたかのように坂本が彼に声をかけた。

坂本「なぁ、僕少尉、といったな?」

僕「はい、なんですか?えーと坂本少佐。」
先ほど互いに自己紹介したとはいえ、もう声だけで個人を識別しているのを見て、
坂本は少し驚いたような顔をした。
しかし、それを口調に出さないように質問をする。

坂本「あぁ。少尉のことはいくらか書類だけなら知っているんだが、
   本当に航空ウィッチなのか?いや失礼を承知で聞く。その目でそもそも戦えるのか?」

問いつめるようなその声を特に気にした様子もなく、彼は気楽な様子で答えた。

僕「まぁこんな杖もってますし、気になりますよね。…今はほかのメンバーのところに向かってるんですよね?
  丁度いいのでみなさんの前で自分の固有魔法をお見せします。」

そしてしばらくして、目的の部屋にたどり着いた。先にミーナと坂本が入り、僕少尉もそれに続く。
軍服こそ着ているが、片手に杖をついた少年が
部屋に入ってきたことに、部屋にいたメンバーは動揺したかのようにざわめいた。

そしてそのざわめきを打ち消すようにミーナが声を出す。

ミーナ「皆さん!今日から私たち501航空団に新しい仲間が増えました。それでは、少尉。」

その言って隅に控えていた彼を前に促す。
坂本が真ん中まで手を引こうかと一歩踏み出したが、平然と真ん中まで歩いていくのを見て思いとどまった。
そして、まるで見えているかのようにぐるりと見渡し、人呼吸おいた後喋りだした。

僕「えーと、ブリタニア空軍から本日付けでこちらに配属された僕少尉です。
  ・・・皆さんが聞きたがっているだろうことから言いますと、
  自分は目が見えません。先天性の障害らしく今の技術では治せないらしいです。」

その言葉に彼が入ってきた時よりもさらにざわめきが大きくなった。それを代表するようにバルクホルン大尉が声をかける。

バルクホルン「おい!そんな目で本当に戦えるのか?私たちは命を懸けてネウロイと戦っているんだぞ!」

その言葉には周囲も同意のようだ。彼のもとに皆の視線が集まる。

僕「えー、それに関しては固有魔法をみてもらうのが一番手っとり早いんですけど・・・」

そういうと少尉の体を淡い光が包む。
ウィッチが魔法力を使う際に起こる光だ。それと同時に彼の額から後頭部にかけての髪の毛が白く染まる。
黒髪と合わせ、彼の使い魔、オオタカと同じ色だ。

しかしそれ以上に、皆は彼の固く閉ざされていた目が開かれたことに注目した。
彼はその、黄色い虹彩に比べて小さい黒い瞳孔をもつ、ちょうど猛禽のような目を晒すように前髪をかきあげ、
それをポケットから取り出したカチューシャで固定する。

ルッキーニ「おぉ、とりー!」

僕「あ、ちなみに目を開いているからって魔法力で目が見えるようになったわけじゃないです。」

そう言うと彼は、自分の固有魔法が空間知覚であること、
連続使用は魔法力の消費を抑えても半日ももたないため、普段は使わないようにしていること、
自分の中で目を開くことを魔法力を起動するトリガーとしているため、普段は眼を閉じていること、
生まれてから10年以上を魔法力の存在を知らずに過ごしていたため、日常生活を送る上で問題はないこと、
そういったことを訥々と語る。

そこまでを聞いて、横に控えていた坂本が声をかけた。

坂本「それで、その能力はどれくらいの距離を知覚できるんだ?10数メートル程度なら戦場ではほぼ役に立たないと思うが…」

僕「長時間の戦闘を前提とするなら周辺1kmほどが限界ですね。
  魔法力の消費を考えなければ、索敵半径は最大10kmほどまでは伸ばせます。
  ですが、それも全方位への知覚を前提とした場合で、一方向に絞れば知覚可能距離は倍くらいにはなると思います。
  まぁナイトウィッチに比べればたいした距離じゃないですけどね。」

最大20キロ先までの空間知覚が可能。確かにナイトウォッチの魔導針による索敵距離には到底及ばないが、
気軽に言われるその途方も無い数字に、そこにいる全員が驚愕した。

僕「まぁピンとこない人もいるかと思うんで…」

と周囲を見渡していたが、何かに気づいたかのように視線を止めた。
ちょうどその目の先にはペリーヌ、そしてその後ろに
興味がなさそうにタロットカードをいじっているエイラと熟睡しているサーニャがいる。

彼の視線につられて全員がそちらを見た。さすがにエイラもそれに気づく。

エイラ「ん?どうしタ?」

僕「それタロットですよね?テーブルに何枚か伏せてもらえますか?」

遠目に手に持ってるものをあっさり当てられたことに少し驚きつつも、
とりあえず指示に従い、適当にシャッフルして三枚ほど伏せる。

エイラ「それでどうするんダ?」

僕「今から順番にカードの中身を当てます」

その言葉に皆が息を呑んだ。どう見ても中身は見えていなかったし、
確かにこれで中身を当てるようなその魔法は間違いないだろう。

僕「じゃあ行きますね。貴女から見て左のカードから、太陽のカードです」

指示通りエイラが左のカードを開くと、彼の言うとおり太陽のカードが現れた。

エイラ「せ、正解ダ…」

エイラがそう言うと遠巻きに見ていた他のメンバーからもどよめきが起こる。
しかし、彼のカード当てはまだ続く。

僕「真ん中のカードは隠者、そして右のカードは…塔ですか。あんまり良いカードじゃないですね。」

順番にカードをひらくと、残りの二枚も彼の言うとおりのカードであった。

シャーリー「へー!すごいなぁ!!」

ルッキーニ「すっげー!」

何人かからは賞賛の声が上がり、最初は少し胡散臭そうな顔をしていた者、
特にペリーヌも素直に驚いていた。


しかしそのとき、ハルトマンが何かに気づいたように手を上げた。

ハルトマン「ねぇねぇ!もしかしてその能力ってお風呂覗いたりもできるんじゃない!?」

すかさず一人が反応した。ダンッと机をたたきながら立ち上がる。

エイラ「何ダト!?サーニャの裸を見たら許さないからナ!!」

その声に少し戸惑うように彼が答える。

僕「まぁ出来るかできないかで言ったら出来ますけど…
  えーと…正直覗きっていう行いがイマイチピンと来ないんですよね。
  男だと女性の体を見たいって思うのが普通なんでしょうか?」

その言葉に、皆が口を閉ざした。しかし彼は更に続ける。

僕「でも、皆さんもプライバシーがあるでしょうし、基地内では許可があった時以外
  この目を使わないことを約束します。口約束じゃ信用できないなら誓約書等を用意してもらっても構いません。
  さっきも言ったように、日常生活を送るのにそれほど支障はないので。」


ミーナ「わかったわ。それに関しては貴方を信用します。皆さん、いいですね?」

ミーナのその言葉に特に異論は上がらなかった。生まれつき目が見えない、という事実がいい方向に働いたようだ。

しかし、

僕「あ、でもさっき偶然見えちゃったんですけど、なんかあっちの方にゴミ置き場の隣に
  ベッドや家具がある部屋がありましたけど、あれはなんですか?物置かなんかですか?」

と隊員の私室がある棟の方を指さす。おおよそであるが、それはバルクホルンとハルトマンの部屋の方を指しているように見える。

宮藤、リーネなどは何か地雷を踏んだかのように俯いてしまった。

バルクホルン「…残念だが。」

バルクホルンがプルプルと震えながら声を出す。

僕「え…?」

バルクホルン「それは私とハルトマンの部屋だ!!!勝手に覗くな!」

僕「え!?あ、すいません!」

そんな様子をシャーリーとルッキーニ、さらに、
何故か当人であるはずのハルトマンが指をさしながら爆笑していた。


最終更新:2013年01月31日 15:40