バーズアイビュー
第二話:俯 瞰 視
ゴミ部屋覗き事件(※
第一話参照)は不慮の事故ということで一先ず沈静化した。
一応の和解のあと、一度名乗ったものも含めて互いに自己紹介をし、その場は解散となった。
ちなみに、夜間哨戒明けですやすやと寝息をたてていたサーニャも、最後の騒ぎでさすがに起きだした。
何があったのかと寝ぼけながら困惑していたようだが、夜間哨戒もこなせるウィッチが来たという説明を聞いて嬉しそうであった。
そして今は、基地内の案内の指示を受けた宮藤軍曹とビショップ曹長が、僕少尉の案内をしている。
食堂、入浴施設など主要な箇所を案内する途中、宮藤が声をかけた。
宮藤「さっきの能力でばーっと見ちゃえば、見回る必要も無いと思うんですけど、
それじゃダメなんですか?」
リーネ「よ、芳佳ちゃん!それじゃ私たちの部屋も見られるかもしれないんだよ?」
どこか無防備な宮藤に比べると、リーネはやはり男性に部屋を見られるのは抵抗があるようだ。
僕「どちらかというとビショップ曹長の方が女性としては普通だと思いますよ。
それに、魔法で構造を把握しても、要は精密な地図をみただけみたいなものなので、
一通り歩いてみないことにはいざというときに困ることもあるんですよ。
まぁ一種のマーキングだと思ってください。」
宮藤「僕さん、ってことは今までの説明でこの基地の構造もう覚えてるんですか?」
僕「えぇまぁ大体は。でも慣れれば誰でも出来ることだと思いますよ?
皆さんは目で見た物を目印にして部屋の位置なんかを覚えるんでしょうが、
自分は曲がり角の数や歩数なんかを目安にして、あとは施設全体の構造をイメージしてるってだけです。」
自分たちは最悪プレート等を確認して目的の場所を探すことも出来るが、
彼は今まで全ての施設の位置を建物の構造と併せて把握しているのだという。
それを聞いて二人は、目が見えない、という生活がいかに大変であるかを思い知った。
僕「でも、生まれつき出来た訳じゃないですよ?子供の頃は家の中はともかく、学校では友達の世話になりっぱなしでしたし、
軍に入ってからもしばらくは何回も迷子になって怒られたりしてましたね。」
リーネ「そういえば、ブリタニア空軍から来たんですよね?
私もそうなんですけど、出身はブリタニアなんですか?」
僕「いえ。出身は
ガリアの田舎のほうで、ブリタニアに避難してきたんですよ。」
宮藤「そうなんですかぁ。ペリーヌさんと同じですね。
両親はどうしてるんですか?」
一瞬の間があり、躊躇いつつも語り出す。
僕「自分は運良く、森にいたので大丈夫だったんですが、ネウロイの襲撃で家ごと・・・。
壊滅した町の中で途方に暮れていたら、丁度そのときに魔法力に目覚めまして、人のいるところをどうにか探して、
ブリタニアへの避難船のところに連れてってもらったんです。
そこにいた軍の人に魔法力のことを見抜かれまして、君さえよかったら、っていう誘いで入隊しました。
身よりもなかったので、そのままブリタニア空軍に所属ってことになりまして。」
芳佳「すいません・・・そんな辛いことを聞いてしまって・・・」
聞いてはいけないことを聞いてしまったと、彼女は申し訳なさそうにうつむいた。
隣ではリーネも心配そうな顔をしている。
僕「大丈夫ですよ。何年も経って、自分の中で両親についての折り合いはつけました。
今は、ただ自分のような子供を出さないように戦おうと思います。
きっと、ここにいる皆さんもそんな風に思って戦っているんですよね?」
その言葉に、二人は決意を新たにするように、朗らかに頷く。
その後、他の部屋の説明も粗方終え、他のウィッチ達の部屋も大まかに説明があった。
彼は女性のプライバシーを侵害するつもりは無いと渋ったのだが、何かあったときに知らないのも駄目だと押し切られ
ひと通り回る事となった。
ちなみに余談であるが、ハルトマンとバルクホルンの部屋に来たときは、中にいたハルトマンが気づき
ハルトマン「どうしたの?ゴミ部屋になんかきて。」
バルクホルン「ハルトマン!!」
そんな一幕もあった。
そしてリーネと宮藤の部屋を案内して、
最後に彼の部屋まで二人がついていき、その日は夕食まで自由時間となった。
扉を閉め、手探りでベッドまでたどり着き、寝転びようやく一息つく。
僕(まさか女性隊員しかいない基地であんなにあっさり受け入れられるとはなぁ…)
男というだけで多少の疎外感に晒されるのは覚悟していた。
むしろ、この目で余計な同情をうけて腫れ物のように扱われるくらいなら、いっそその方が有り難かった。
でも、彼女たちは彼のウィッチとしての力こそ気にはしたが、この目に関してはそれほど気にしないでいてくれている。
僕(軍人っていうのはどこも結構ドライなもんなのかな。)
余計な同情を受けても、それが当たり前な彼は戸惑いを返すしかない。
今は望んでここにいる以上、せめて余計な気苦労をかけたくはなかった。
だから
僕(早く、本当の意味でこの隊の仲間にならないと・・・)
そして、
狭い輸送期での移動で多少の疲れがあった彼の体は、柔らかいベッドの感触にすぐに意識を手放した。
――数時間後――
コンコンとノックの音が鳴る。
眠りが浅かった、というのもあるが、普段から外部からの情報の多くを
音に頼っている彼の意識は、その音ですぐに覚醒した。
僕「はい。」
ドアが開く。
宮藤「あ、俺さん。寝ちゃってました?夕食の時間になったので呼びにきましたよ。」
僕「あ、わざわざすいません。」
言いながら傍らの杖を手に取る。
部屋についたのは夕方前。どうやら結構しっかり寝ていたようだ。
彼女について部屋を出、そして記憶と彼女の足音を頼りに食堂へと向かう。
食堂にはすでに他のメンバーがそろっていた。やはり軍の基地だけあって集団行動は徹底しているのであろう。
宮藤は彼の手を引いて空いている席の前に連れていく。そしてイスを引いて
宮藤「じゃ、僕さんはここに座ってくださいね。」
そういって去っていった。
少し過剰に世話を焼いているようにも見えるが、決して不快には思わなかった。
ここまで来る間も、何も言わずごく自然にドアを開けて待っていてくれたり、歩くペースを合わせてくれたりと
こちらに気を使わせないように手を貸していたのがわかる。
元々の性格なのか、意識して身につけたものなのかはわからないが、
相手に押し付けるのではなく、その人に合わせた気遣いができる少女、そんな風に感じた。
そして全員揃い、一斉に食事が始まる。
それをよそに彼は、ゆっくりと食器の位置や形を確認する。しかし、
僕(棒…?)
手元には同じ長さの二本の細い棒がある。他に手に持てそうなものはない。
それを持ち困惑していると、横から声がかかった。
宮藤「お箸、食べづらいですか…?」
周りでは各々食事を進めていたが、その声を聞いて手を止めたようで、音が止む。
僕「(箸…?)いや、使ったこと無いのでどうすればいいのか…。」
すると、彼女が席を立って厨房に向かう。戻ってくるとその手にはスプーンとフォークを持っていた。
宮藤「和食だと食べづらいと思いますけど…。すいません、明日は何か別の手考えるので今日はこれで…。」
僕(本当、気が利く人だなぁ…)
素直にそう思った。
――翌日――
ネウロイの襲撃予定もないとのことで、訓練が行われることとなった。
僕少尉について、その実力をある程度確認しないことには出撃メンバーに数えづらいこともあり、
早速ペアになっての
模擬戦で能力の確認を行うことになった。
エースと組ませると実力がわかりづらいとのことで、ペアには宮藤軍曹があてられた。
そして初戦はペリーヌ、リーネペアである。
僕「さて・・・どうしましょうか・・・。」
既に四人とも配置についている。
宮藤「坂本さんからも僕さんにある程度任せるように言われてますので、私は二番機にはいりますね。」
話によると彼女は一番の新参で、ウィッチとしての経歴は自分よりも短いとのことだ。
戦術を任せるわけにもいかないだろう。
僕「・・・じゃあ、タイミングみて合図を出すのでそれまでついてきてもらえますか?
合図の後、二人を自分が攪乱するのでその隙に攻撃してください。」
宮藤「え…?」
どうやって攪乱するのか、肝心なところを聞く前に合図が鳴った。
とりあえず指示に従い彼についていく宮藤。
だが、すぐさまペリーヌ、リーネ組は二人の後ろにつけてきた。
ペリーヌ(大したことないですわね…あっさり後ろを取られるなんて…)
しかし、照準を合わせようとするが、ギリギリのところで狙いを外され中々引き金を引くことが出来ない。
その時、僕少尉が右に急旋回した。慌てて追いすがるが、二番機に付けていたリーネがバランスを崩し、わずかに編隊を乱してしまう。
そのとき、
バララララララ!!
僕少尉が振り向きもせず、片手だけで後方に機銃を掃射した。
とっさに回避運動をとろうとするが、わずかに態勢を乱していたリーネは数発ペイント弾をくらってしまう。
ペリーヌはギリギリのところで回避できたが、ほとんど運が良かったようなものだ。
ペリーヌ「後ろに…!ですって!?」
ペリーヌ(しかも適当に撃ったわけじゃない。私達の位置を完全に把握した上で撃っていましたわ…)
態勢を立て直し、敵の位置を確認する。しかし、離れたところに僕少尉の姿は確認できるが、宮藤軍曹の姿がない。
そのとき、背後から銃声が聞こえた。同時にペイント弾が体とストライカーに着弾する。
少尉が後方に射撃したタイミングで彼が合図を出し、その隙に宮藤が左捻り込みで後方に回っていたのだ。
そして
坂本「僕、宮藤ペアの勝ち!」
宮藤「やりましたぁ!僕さん!」
リーネ「すごいです、僕少尉。後ろを確認しないであんなに正確な射撃をするなんて…。」
僕「いえ…ある程度狙って撃ちましたが当たったのはたまたまですよ。」
坂本「なるほどなぁ。空間知覚にはそんな使い方もあるのか…」
僕「模擬戦で、最初だから上手くいっただけでしょうけどね。」
その言葉にペリーヌが食いつく。
ペリーヌ「そうですわ!納得行きません。今度は一対一です!正々堂々打ち負かして差し上げますわ!」
坂本少佐はフム、と頷くと確認をするように彼の方を見る。
僕「僕の方は構いません。」
その一言で僕少尉とペリーヌの対戦が決まった。
先程のように、しかし今度は二人が位置につく。
少し離れて、合図を待つ間、坂本が待機していた二人に話しかけた。
坂本「ところでリーネ、後ろをとった後いくらか狙えるタイミングはあったと思うが、なんで撃たなかったんだ?」
リーネ「えーと、どういうわけか、照準を合わせて引き金を引こうとすると、そのたびに外されちゃうんです。
ある程度動きを予測しようともしたんですけど、悉く裏をかかれる感じで・・・」
坂本、そして彼の動きを追っていた宮藤もそれを聞いてなにか違和感を感じた。
恐らく彼は、単に後ろが見えているだけではないのだろう。
そしてペリーヌと僕少尉が合図とともにすれ違い、一対一の模擬戦が始まった。
単純な機動力ではペリーヌの方が上だったのか、僕少尉が背後をとられる。
ペリーヌ(後ろは取れました・・・後は先ほどのように不意を打たれないうちに決めますわ・・・!)
そう決めて、照準をのぞき込む。やはり直前で外されるが、今度は気にせずある程度あたりをつけて引き金を引いた。
広範囲にペイント弾がばらまかれる。
しかし、左右への振りや体をひねることで直撃コースだった弾も全てかわしきった。
ペリーヌ(まさか・・・全部・・・!?
後ろから撃たれる弾が全部見えているとでもいいますの・・・?)
彼女の推測は、完全ではないが一部は正解だった。
彼の固有魔法は、背後にいる彼女の視線、指の動き、さらには銃口の向きを完全に知覚することで、
弾丸が放たれるタイミング、さらにはその軌道すらも大まかに予測することができる。
そしてその能力はそれだけには留まらない。
驚愕により注意がそれた一瞬を狙い、僕少尉が急上昇をかけた。
慌てて視線を上にあげるが、太陽が邪魔になりまともに見ることができない。
そしてとっさに腕で視界を塞いでしまった次の瞬間、
その腕にペイント弾が一発着弾した。
そして、
坂本「僕少尉の勝利!」
その声を聞いても、ペリーヌはしばらくは呆然としていた。
注意してゆっくりと見上げると、太陽を背にした僕少尉が模擬戦用の機銃をしっかりと構えている。
そして構えをとくと、ゆっくりと皆の方に降りてきた。
宮藤「惜しかったですね。ペリーヌさん。」
しかし、その言葉を否定するように目を伏せ軽く首を振る。
ペリーヌ「…いえ、完敗ですわ。銃弾を全部かわしたのも、太陽の位置を上手く使ったのも、
全て貴方の実力なのでしょう?」
その言葉にリーネと宮藤が驚愕したかのように彼の方をみた。
そして彼より先に、少佐が口を開く。
坂本「ああ。傍から見ていたら何となくわかった。
お前とペリーヌの位置を把握した上でタイミングよく上昇をかけて、上手く太陽の間に入ったのだろう?
でも、それでも納得がいかないことがある。何であの弾を全部かわせたんだ?
後ろが見えていたとしても、見てから避けていたら間に合わないだろう?」
その坂本の言葉に今度はペリーヌが答えた。恐らくではあるが彼の能力はそれだけではない。
ペリーヌ「違いますわ少佐。僕少尉。恐らく貴方は、弾ではなく私の動きを見ていたのでしょう?」
他の三人はその言葉にあまりしっくり来ていないようだ。
今度は僕少尉が答える。
僕「はい。僕の能力は、一定空間の情報を全て俯瞰的に知覚できるので、背後や太陽の位置を計算に入れつつ動くことが出来ます。
ですが、知覚する対象を一つに絞ることで、その挙動を細かく見ることが出来るんです。
例えば、対象を銃で狙う場合、スコープを覗き、照準を合わせ、引き金を引く、という作業があるわけですが、
視線の動きや指の動きが見えていれば、弾丸が発射されるタイミングは分かりますし、
たとえ撃たれても銃口の向きがわかっていれば、その射線から外れれば弾に当たるということはありません。」
宮藤「な、なんか、エイラさんの未来予知みたいな魔法ですね…」
僕「かのダイヤのエースのことは知っています。ですが、さすがに自分ではあの無敵の回避力を真似はできないですね。
攻撃のタイミングを読めるのは普通だと一機二機くらいですので。なので、群れが相手の時は後方から狙撃するしかないです。」
リーネ「狙撃ってことは、僕さんもライフルを使うんですか?」
僕「えぇ。基本的には戦場を俯瞰的に見て、有効ポジションを確保しながら一機ずつ狙撃するのが
主な戦い方です。」
坂本「そうか・・・まぁそれに関しては近いうちに見ることになるだろうな・・・
よし、訓練はこれで終わりにする。各自、しっかり休息を取るように!」
そしてその日の訓練は終わった。
模擬戦で確かな力を示せたことで、他のメンバーからもそれなりの信頼を勝ち取ることができた。
そして、坂本の予想通り、すぐに彼はその力を実戦で示すことになる。
最終更新:2013年01月31日 15:40