「蒼穹の絆4-4」
―慕情―
バルクホルン「おはよう!リーネ!俺!」
リーネ「おはようございます!バルクホルンさん!」
俺「おー!おはよう!バルクホルン大尉!」
バルクホルン「ん?朝食の支度はまだなのか?」
俺「ああ。今日はちょっとイレギュラーでナ。暖かいのを皆に食べてもらうよ!」
リーネ「バルクホルンさんは卵を幾つ、どうしますか?」
バルクホルン「ああ。それじゃあスクランブルエッグを二つ、あとサニーサイドアップでミディアム
を一つ、で頼めるか?」
俺「ほいよ。ベーコンとソーセージも用意したからね。エーリカ起こしてお出でよ」
バルクホルン「あいつ、今日も起きてこないのか。行ってくる!」
バルクホルンがハルトマンを引き摺って戻ってきた。まだ眠いらしく大あくびをしている。
俺「おはよう、ネボスケ天使。卵は?」
ハルトマン「んー。生は嫌」
俺「おい。ネボスケ!焼き方と個数だよ!」
皆笑う。
ハルトマン「えっ!あ、それじゃあスクランブルで三つ!あとソーセージ有る?」
リーネ「ハルトマンさん、ちゃんと茹でてありますよ?あそこです。パンも温めてありますよ」
ハルトマン「やったーーっ!沢山食べるぞぉ!」
ハルトマンとバルクホルンの卵がすぐに用意された。他の皆も湯気が出ているのを渡されている。
ミーナ「俺さん、リーネさん、有難う。暖かい卵は美味しいわ」
坂本「ペリーヌ、ケチャップをくれないか?熱いとそれが合いそうだ」
ペリーヌ「はい。どうぞ。美味しいですわね」
シャーリー「俺って料理も得意だよなあ。いい旦那さんになれるね。アハハハ」
ハルトマン「あ、じゃ私が貰おうかな。毎朝コレが食べれる!」
ルッキーニ「シャーリーが貰うんだもん!ねー、そうしちゃおうよ。シャーリィ?」
シャーリー「卵料理くらい作れるぞ?ルッキーニ」
エイラ「俺ー。このソーセージ、なんでこんなに美味いんダ?」
俺「茹でるときに岩塩を入れたんだよ。しょっぱ過ぎないだろう?」
エイラ「うん。美味しいヨ。ほら、サーニャ。あーん?」
ルッキーニ「スクランブルエッグとベーコンカリカリのお代わりぃ♪」
バルクホルン「あ、私も。スクランブルで」
大車輪の俺たちも顔を見合わせて笑う。美味しいものを美味しく食べる。これは結構忘れがち
だった。前線だから。
皆が終わった後、ゆっくり二人で食事。
俺「忙しいけど、たまにゃあいいよね」
リーネ「はい。皆さんとても喜んでいました。嬉しかったです」
俺「うんうん。食事で不満が出ると、結構軍隊は脆いんだよ」
リーネ「そうなんですか?」
俺「食事のときぐらい、楽しくやらなくちゃ。笑いがなくなると不味いことになる」
リーネ「はぁ。それでお料理が得意に?」
俺「一人暮らしも長かったしね。あと、
アフリカではよくレストランやらされたし」
リーネ「え?開業されていたんですか?戦争しながら??」
俺「ううん。戦闘終了後、仲間に飯を振舞っていたんだ。結構好評でさ。215野戦レストランって」
リーネ「凄いです。・・・・私、何をやっても駄目なのに・・・」
俺「そんなことないよ。料理も洗濯も飛行だって上手いじゃないか」
リーネ「そうでしょうか。飛ぶのと撃つのが同時に出来ません・・・」
俺「・・・・ねえ?リーネ。俺がやることを真似してみて?」
リーネ「?」
俺が手のひらを上にして、右手の指を小指から親指に向けて滑らかに曲げていく。
左手は、親指から小指に。
リーネ「あれ? えと・・・」
俺「俺も最近やっとできるようになったんだ。同じ順番でやってみて?」
リーネ「あ!コレは何とかできます!」
俺「同じだよ。コレと同じ。焦らずに続ければ出来るよ」
リーネ「本当ですか?私にも出来ますか?」
俺「ああ。出来る。焦らないこと。自分にできると言い聞かせること。そうすれば出来る」
リーネ「はい!頑張ります!」
俺「ソーセージお代わりは?」
リーネ「あ。いただきます」
俺「俺なんて最初さ、標的を引っ張る機体にぶち込んじまった。でも解らないんだな。ボーッと
逆上せちゃって。でも弾痕は俺の色。まあ、帰ってから教官にシコタマ絞られ――」
――――――
ハルトマン「リーネ、今日は凄いじゃん!どうしたの?開眼?」
リーネ「え?そうですか?あ、俺さんに励ましてもらったから、かな?」
バルクホルン「それでか。よくなったぞ!ばらばらだったものが纏まってきた」
リーネ「有難うございます。頑張ります」
バルクホルン「あ。余り頑張りすぎるな。お前は気持ちが先走ってプレッシャーを受けるようだから」
リーネ「はい?あ!俺さんにも同じことを、焦るなって言われました」
バルクホルン「ああ。焦るなよ。リーネは戦闘中でも上がらない。これはいいことだ。ハルトマン
は、初陣で味方を敵機と間違えて逃げ回り、挙句に魔力を使い果たして墜ちた。これは逆上せだな。
判断能力がゼロになったわけだ。見えているようで見えていない」
ハルトマン「その話はもう止めようよ、トゥルーデェ」
リーネ「そうなんですか?ハルトマンさんがそんなに?」
バルクホルン「ハルトマンの顔を見れば解るだろう?それが今ではトップエースだ」
リーネ「凄いです」
バルクホルン「今は凄い。でも最初はそうではなかった。秘訣はなんだ?ハルトマン」
ハルトマン「自分の役目をどうやったら果たせるのか考えただけー。ウルスラみたいに分析しないでよ」
バルクホルン「リーネがやることは何か。それをどうやったら上手に出来るか。それだけ考えてご覧。
最初から天才はいない」
リーネ「はい。考えます」
ハルトマン「早く帰ってお茶にしようよ~。お茶菓子~」
バルクホルン「その前に部屋を片付けろ、ハルトマン。リーネを見習え!」
―――――
リーネ「あ。こんばんは。俺さん」
俺「ん?やあ、こんばんは。リーネ」
リーネ「どうなさったんですか?難しい顔をされてますけど」
俺「リーネに入れてもらった紅茶が美味しかったんで、淹れてみようと思うんだけど自信がなくてね」
リーネ「?インドは紅茶飲まないのですか?産地なのに」
俺「飲むよ。コーヒーのほうが少数派だもの。でも、俺が入れたのと全然味が違うんだよね、リーネが
淹れたお茶と比べると。こうまで違うと、何かやり方が不味いのだとわかるんだけど。それが解らん」
リーネ「あの。宜しければお手伝いしましょうか?」
俺「というか、教えてください」
素直に頭を下げる俺。思わず笑うリーネ。
丁度お湯が沸いた。少し沸かし続けて水道臭さを飛ばすところからレクチャーをする。
俺「へぇ!お茶葉を多めに入れるんだ!」
リーネ「はい。天使の取り分とか色々呼び方があるようです。こうすると芳醇な香りが十分に出ます。
あとはお湯の注ぎ方と蒸らし、ですね」
俺「天使の、か。リーネは優しいね」
リーネが赤くなる。ブリタニア人とかブリタニアンというより柔らかい表現にしただけのようだが。
リーネ「カップも先に暖めて置きます」
俺「ほー。冷えていないほうがいいのな」
リーネ「はい。(合いの手が入ると嬉しい。俺さん、気遣いが出来る人なんだ・・・)」
二人座って紅茶を飲む。
俺「ああ、この香りだ、味だ。手を抜いちゃ駄目なんだね」
リーネ「はい。でも、コーヒーもそうだと思いますけど?」
俺「国によっても淹れかたが違うんだ。リベリオンだと、あまり美味いもんじゃないよ。せっかちなん
だと思う。軍のオフィスだと朝入れたコーヒーを夕方まで保温して飲んだりするし。ありゃ酷い」
リーネ「そうなんですか?どこのコーヒーが美味しかったですか?」
俺「そうだねえ。ターキーは濃くて甘甘。ロマーニャと
ガリアかなあ」
リーネ「甘甘?」
俺「溶け切れないほど砂糖を入れるんだ。その上澄みをチビチビ飲むんだよ。あれは堪らん。歯が解ける」
想像したのだろう、凄い顔をするリーネ。その表情に俺が笑う。
俺「地域の趣味だろうね。インドだと、ミルクティーも牛乳だけで作るし」
リーネ「え?」
俺「牛から絞ったばかりの牛乳を鍋に入れ、そこにお茶の葉入れて煮出すの。濃いんだよ~。インドの
北方だと、固めたお茶の葉をナイフで削って、それを煮出してさ。最後にバターと塩を入れて――」
―――
ハルトマン「ねえ、リーネ。なにか夜食ない?お腹空いちゃった」
リーネ「あ、ハルトマンさん。えーと、お茶のときのパイが有りますよ」
ハルトマン「やった!それ頂戴!」
リーネ「はい。紅茶入れますね!」
夜半、灯りを半分落した食堂で二人がのんびりお茶とパイを手にする。美味しさを体全体で
表現しながら食べるハルトマン。微笑みながらお茶を啜るリーネ。
先ほど、俺が紅茶の淹れ方を覚えたことを訥々とハルトマンに話す。
ハルトマン「へー。あの人にも出来ないことってあったんだ!」
二人で笑う。インド出身だから、紅茶くらい朝飯前と二人とも思っていた。
ハルトマン「よくパイが残っていたね。あ、俺って甘いものより酒のほうがいいのかな?」
リーネ「あ!・・・お茶請け出すのを忘れていました。教えるのに夢中になっていて・・・」
ハルトマン「リーネ、有難う。私の食べるものが無くなるところだったよ」
リーネ「ハルトマンさんが食べているのを見るのが好きなんです」
ハルトマン「え?あ、美少女がぱくつく姿って、駄目?」
リーネ「いいえ、それが好きなんです。おいしそうに食べる表情が・・・」
ハルトマン「ふーん。リーネって百合の気があるの?そうだったのかぁ」
リーネ「ユリ?なんですか?」
ハルトマン「リーネが、男よりも同性のわたしに恋愛感情を持つ、ってこと。レズ」
リーネ「レズ・・・ 違います違います!」
ハルトマン「なーんだ。違うの」
真っ赤になって、両手を振って否定するリーネに微笑みを返すハルトマン。
リーネ「ごめんなさい」
ハルトマン「ん?どうしたの?」
リーネ「あの・・・ハルトマンさんが・・・知りませんでした」
かろうじてお茶のカップを皿に置いて、笑い転げるハルトマンをキョトンとしてみるリーネ。
ハルトマン「違う違う。私もノーマル!ああ、苦しい・・・」
リーネ「ごめんなさい」
ハルトマン「リーネがノーマルなのは知っているよ。俺をよく眼で追っているもんね」
リーネ「え?・・・」
ハルトマン「さっきだって、とても嬉しそうに話していたし」
パーッと赤くなるリーネ。ほくそ笑むハルトマン。
ハルトマン「好き、なんだ?」
沈黙するリーネ。でも、顔が全てを物語る。
ハルトマン「初恋?」
リーネが完全に固まる。紅茶のカップを只見つめるだけ。
ハルトマン「私も経験あるもん」
リーネ「え? あ、ごめんなさい」
ハルトマン「失恋しちゃったけどね。でも、ドキドキワクワクして楽しかったなあ」
リーネ「いい思い出・・・なんですか?」
ハルトマン「うん!」
リーネがもじもじし始めた。
ハルトマン「ねえ、リーネの部屋で話そうよ。私の部屋は座る場所ないし」
リーネ「お邪魔でないですか?」
ハルトマン「リーネの部屋じゃん!」
やっとリーネも笑った。保温カバーをつけたポットで紅茶を持っていく。もちろんお菓子も。
リーネ「初恋って実らないんでしょうか。よくそう聞きますし、ハルトマンさんも・・・」
ハルトマン「人により、でしょ」
リーネ「・・・」
ハルトマン「思い切り好きになればいいんじゃない?」
リーネ「はぁ・・・」
ハルトマン「ふられるとか、嫌われるとか心配しているんでしょ?リーネは」
リーネ「ええ・・・それが怖くて・・・見ているだけでいいかな、って」
ハルトマン「それもいいじゃん!」
紅茶を飲みつつ、タルトを齧るハルトマン。リーネは両手でカップを抱えるだけ。
ハルトマン「告白するかどうかはリーネが自分で決めるよ」
リーネ「できるでしょうか、決断」
ハルトマン「出来るよ。なぜか解る?」
リーネが小さく頭を横に振る。
ハルトマン「その仕草、可愛い。ええと。俺のことを好きで好きで堪らなくなっていって」
リーネがまた赤くなる。
ハルトマン「その気持ちが限界を超えたら、自分から答を出そうと決断するよ。そうしないと自分
が壊れちゃいそうになるから、さ」
真っ赤な顔のまま、まっすぐハルトマンの眼を見つめるリーネ。
ハルトマン「それまでは、俺がリーネにしてくれた好意とか、リーネが彼にした行為に俺が好意
でかえしてくれたことに一喜一憂して。其処までで止まるかも」
思い当たる節があるリーネが頷く。
ハルトマン「ね?解るでしょ?」
大きく頷くリーネ。少し顔が晴れやかになってきた。
ハルトマン「その時間を大事にして、自分の気持ちを確かめてさ」
ハルトマン「相手に自分の気持ちを声に出して伝えたい、と思うなら突撃あるのみだよね」
リーネ「でも、相手がどう答えてくれるかは解らない、んですよね」
ハルトマンがリーネのカップに紅茶を注ぐ。じっと答を待つリーネ。
ハルトマン「そ。受け入れてくれるか、断られるか。あと、その人が別の人を好きになって
しまうか。三つだね」
リーネ「断られたら、ショックですよね・・・」
相談の段階で泣きそうになっているリーネ。
ハルトマン「断られるって事は。相手が自分をどう思っているか考えていなかった、でしょ?
それに、耐えられないならさ、付き合い出してから別れる事にもっと耐えられないよ。」
リーネの顔が強張る。
リーネ「其処まで考えていませんでした・・・・・・そうですよね」
ハルトマン「うん。それに耐えるようになる心の過程が『初恋』なんだだろうなって今は思う」
リーネ「・・・・・・」
ハルトマン「わたしね、大泣きしたの。ベッドにもぐりこんで声を殺して泣いたの」
ハルトマン「泣いて泣いて。もう私は終わったとか思ってね。泣き疲れて寝ちゃった」
ハルトマン「そうしたら、なんか諦めが付いてさ。ゆっくりだったけど、再
スタート出来た」
リーネ「そう・・・ですか」
ハルトマン「うん。まあ、上手く行かない場合でも何とかなるって事!」
リーネ「そうなんですね・・・・」
ハルトマン「うん。ここにその証明が一人居るよ!この美少女!これを断るのが居るんだから。
まったく、女を見る眼が無い男だよ」
二人が笑う。程度に差はあるけれど。
リーネ「それも真実・・・ですね?」
ハルトマン「うん。その人の内面まで全部知ってから好きになるもんでもないし。途中で嫌いに
なることもあるでしょ、お互いにね」
リーネ「…」
ハルトマン「あ、もしかして一目惚れ?」
リーネ「いえ!違うと思います。最初は怖そうとか思いました。サングラスって・・・」
ハルトマン「私も。面白いけど、どこかちょっととっつき難い奴って思った。でも、この前の少佐
の一件で、見方が変わったなあ」
リーネ「少佐の一件・・・ですか?」
ハルトマン「何があったか、今一つよく解らないんだけどさ。アイツ、口割らないから。でね、あの
夜、少佐が俺の部屋に行ったの知ってる?」
リーネ「えっ!」
ハルトマン「あ!ゴメン。言い方が悪かったよ、違うからね」
ほっとした表情のリーネ。
ハルトマン「部屋から出てきた少佐が、閉まったドアに頭を下げていたよ」
リーネ「お辞儀、ですか?」
ハルトマン「そう、それ」
リーネ「坂本少佐が俺さんにお礼をした、感謝した、ってことですよね」
ハルトマン「多分、あの騒ぎの結果はそういうこと。あの少佐が謝意を見えない場所で表したって
ことは、さ」
ゆっくりとリーネが微笑みだした。
ハルトマン「人を好きになるってとっても素敵なことだよ。リーネの気持ちのままに、でいいんじゃ
ないかな。告白をけしかけたりしないから。自分でじっくり考えて・・・ね?」
リーネが小さく、でも確りと頷いた。
ハルトマン「その仕草、とっても可愛い!」
―――――――
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最終更新:2013年02月02日 12:17