オーケストラ

登録日:2019/09/08 Sun 00:13:50
更新日:2021/10/18 Mon 12:56:38
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オーケストラ(和名:管弦楽)とは、音楽の演奏形態のひとつである。

金管楽器と木管楽器、弦楽器と打楽器で構成され、楽曲によっては鍵盤楽器や電子楽器、民族楽器なども加わることがある。オーケストラ専用の楽曲の他、オペラ(歌劇)やミュージカルに加え、近年ではアニメやゲームの劇伴音楽なども多く発表されている。

●歴史

バロック音楽が全盛であった17世紀後半〜18世紀前半頃のこと。当時は弦楽器だけで構成された"弦楽"が全盛であり、当時のオペラも弦楽が伴奏しているのが常であったが、規模が大きくなるのにつれてオーボエなどの木管楽器が加わっていき、ヘンデルやグルックにより金管楽器や打楽器も編成に加えられるようになり"オーケストラ"が形作られていった。

日本では西洋音楽を学んだ山田耕筰がドイツへ留学し、1912年に日本初の交響曲を作曲。帰国後に自作の楽曲を演奏する場と、オーケストラを常設化するために奔走したのが始まり。同じくドイツへ留学した近衛秀麿とともに奔走して1925年に設立された「日本交響楽協会」は現在も続く"NHK交響楽団"の源流となり、戦後から今日まで様々なオーケストラが結成されるようになった。

日本発の楽曲としては、NHK交響楽団が海外公演を行う際に作曲され「あんたがどこさ」「炭坑節」「八木節」などの邦楽が散りばめられた「管弦楽のためのラプソディ」(外山雄三・作曲)や、一時期音楽の教科書に鑑賞曲として採用されていた「管弦楽のための木挽歌」(小山清茂・作曲)、尺八・琵琶とオーケストラによる協奏曲「ノヴェンバー・ステップス」(武満徹・作曲)などが有名なものとして挙げられる。

また、映画音楽でもオーケストラが担当することが多く、黒澤明は「影武者」「乱」などで好んで採用した。特撮映画では伊福部昭が「地球防衛軍」「宇宙大戦争」などの作品で多彩な曲を記し、特にゴジラシリーズでは今日に至るまで印象的となったメインテーマなど、日本映画史に刻まれた楽曲を残している。

●オーケストラに使われる楽器と有名な曲

◆木管楽器

  • フルート/ピッコロ
 フルート:バレエ音楽「くるみ割り人形」より 葦笛の踊り (チャイコフスキー)
 ピッコロ:バレエ音楽「ダフニスとクロエ」第3部より 夜明け(ラヴェル)

  • オーボエ/イングリッシュホルン/ファゴット
 オーボエ:バレエ音楽「白鳥の湖」より 情景 (チャイコフスキー)
 イングリッシュホルン:交響曲第9番「新世界より」第2楽章 (ドヴォルザーク)
 ファゴット:バレエ音楽「春の祭典」第1部より 大地への礼讃 (ストラヴィンスキー)

  • クラリネット
 スペイン綺想曲 (リムスキー=コルサコフ)
 ラプソディ・イン・ブルー (ガーシュウィン)

  • サクソフォン
 組曲「展覧会の絵」より 古城 (ムソルグスキー)
 組曲「アルルの女」 (ビゼー) 

◆金管楽器

  • トランペット
 歌劇 「アイーダ」より 凱旋行進曲 (ヴェルディ)
 オリンピックファンファーレとテーマ (ジョン・ウイリアムズ)

  • フレンチホルン
 交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」 (リヒャルト・シュトラウス)
 亡き女王のためのパヴァーヌ (ラヴェル)

  • トロンボーン
 SF交響ファンタジー第1番 (伊福部昭)
 バレエ音楽「中国の不思議な役人」(バルトーク)

  • テューバ
 幻想交響曲 第4楽章・第5楽章(ベルリオーズ)
 4つの交響的印象「教会のステンドグラス」より 大天使ミカエル (レスピーギ)

◆弦楽器

  • ヴァイオリン/バイオリン
 「リュートのための古風な舞曲とアリア」第3組曲より シチリアーナ (レスピーギ)
 交響組曲「シェエラザード」第4楽章 (リムスキー=コルサコフ)

  • ヴィオラ/ビオラ
 交響曲第4番「ロマンティック」 第2楽章 (ブルックナー)

  • チェロ
 組曲「動物の謝肉祭」より 白鳥 (サン=サーンス)

  • コントラバス
 ハンガリー民謡「孔雀は飛んだ」の主題による変奏曲 (コダーイ)

◆打楽器

  • ティンパニ
 2人のティンパニ奏者とオーケストラのための幻想協奏曲 (グラス)

  • スネアドラム/バスドラム
 ボレロ (ラヴェル)

  • グロッケンシュピール/シロフォン/ビブラフォン/マリンバ

◆鍵盤楽器

  • ピアノ/ハープ/チェレスタ

◆特殊な楽器

  • オンド・マルトノ
 トゥーランガリラ交響曲 (メシアン)

  • 大砲
 序曲「1812年」 (チャイコフスキー)

  • 掃除機(3台)、床磨き機、ライフル
 大大序曲 (マルコム・アーノルド)

  • スライドホイッスル、風船、うぐいす笛、アヒル笛、牛笛
 序曲「1712年」 (P.D.Q.バッハ)

●アニメとオーケストラの関わり

アニメのBGMとしては、1926年6月公開の短編アニメ「My Old Kentucky Home(懐かしきケンタッキーの我が家)」で小編成オーケストラの演奏が確認されている。このアニメは世界初のトーキーアニメ――音声が収録されているアニメであり、極めて初期からアニメでオーケストラが用いられたことになる。また、1928年11月18日に公開されたウォルト・ディズニー制作のアニメ映画「蒸気船ウイリー」でも小編成のオーケストラが採用され、日本でもおなじみなところではワーナー・ブラザーズの「ルーニー・テューンズ」でも多く採り入れられていた。

日本のアニメでは、1943年に松竹動画研究所が制作した「くもとちゅうりっぷ」にて、当時の松竹交響楽団が演奏に参加したものが記録として残されている。戦後の1963年には「わんぱく王子の大蛇退治」で伊福部昭が壮大な劇伴音楽を作曲し、この年から始まった連続テレビアニメ鉄腕アトム」「鉄人28号」「8マン/エイトマンの主題歌などでもオーケストラの演奏が採用された。

当時はまだシンセサイザーが登場する前後であり、映画音楽などでもオーケストラが使われていたことから同じ映像作品として劇伴音楽にオーケストラが採用されることが多かった模様。その後はシンセサイザーなどの普及により多様化が進んだものの伝説巨神イデオン宇宙戦艦ヤマト」「機動戦士ガンダム(劇場版)」などでオーケストラでの音楽が採用され、1992年から発売されたOVAジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日では、天野正道が作曲したCD7枚分の壮大な楽曲群をワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団が演奏するなど、現在に至るまで多くの作品でオーケストラによる演奏が用いられている。*1

作品向けの書き下ろし楽曲だけではなく銀河英雄伝説(1998~2000年版)」涼宮ハルヒの憂鬱」「新世紀エヴァンゲリオンのように、BGMとしてクラシック曲を劇伴に採用する作品もある。銀河英雄伝説に至っては作中のほとんどのBGMがクラシック曲で、後年発売されたCD-BOXでは銀河帝国サイドが12枚組、自由惑星同盟サイドが10枚組という大ボリュームとなるほどであった。

●ゲームとオーケストラの関わり

1980年代までのゲームはPSG音源やFM音源での音楽が主流であり、同時発音数も少なかったことからオーケストラとは縁が遠かった。しかし、1986年に作曲家のすぎやまこういちが携わってからドラゴンクエストのサウンドトラックに弦楽合奏が採用され、1989年のドラゴンクエストⅢ そして伝説へ…」のサウンドトラックではNHK交響楽団が演奏を担当。また、1988年には日本ファルコムのゲームイースの音楽が作曲家・羽田健太郎により「交響曲『イース』」として編曲されるなど、徐々にオーケストラとゲーム音楽の親和性が浸透していった。

1991年からは「ウィザードリィ」「スーパーマリオブラザーズ」「信長の野望 武将風雲録」「FINAL FANTASY Ⅴ」「クロノ・トリガーなどのゲーム音楽をオーケストラに編曲し演奏する「ゲーム音楽によるオーケストラコンサート」が5回にわたって開催。また、1990年に登場し音源が強化されたスーパーファミコンではアクトレイザー」「FINAL FANTASY Ⅵなどでオーケストラを意識したサウンド作りがされるなどの土壌が築かれ、さらに大容量化した次世代ゲーム機ではキングダムハーツ」「ドラゴンクエストⅤ 天空の花嫁(プレイステーション2リメイク版)」などで実際にオーケストラによる演奏がBGMとして収録された。

余談として、1989年当時放送されていた某現代音楽作曲家の番組では、ドラゴンクエストの「序曲」がオーケストラで演奏されたあとに「ゲームは映画のやり直し」「音楽が無機質で単調」とやり玉に挙げられるなど、厳しい見方もされていたが、司会者も番組内容も刷新された後年の同番組ではすぎやまこういちの指揮で「そして伝説へ…」が演奏されたり、「ファイナルファンタジー」シリーズを採り上げられた際には植松伸夫が解説したりするなど、時代の流れが反映されている。

●アニメ音楽専門、ゲーム音楽専門オーケストラの登場

2000年代に入ると、アニメの楽曲やゲーム音楽の演奏を専門としたオーケストラが登場する。アメリカではメタルギアソリッド」「クロノクロス」などを演奏する「PLAY! A Video Game Symphony」が結成。オーストラリアの「エミネンス交響楽団」は映画涼宮ハルヒの消失の劇伴担当やTHE IDOLM@STERの楽曲である「隣に…」を、三浦あずさ役のたかはし千秋の歌唱のもとで演奏したりと近年まで活躍していた。

日本では、オーケストラを舞台にした二ノ宮知子原作のマンガ「のだめカンタービレ」がテレビドラマ化された際に出演者と演奏者を兼ねた「のだめオーケストラ」が一般公募で結成され、後年放送されたテレビアニメ版でも劇中に出てくる管弦楽曲を実際に演奏していた。常設の楽団としては「新日本BGMフィルハーモニー」「JAGMO」の他、アマチュア楽団として「リトルジャックオーケストラ」「コスモスカイオーケストラ」「ラピスドリームオーケストラ」「オータムリーフ管弦楽団」が存在している。

●アニメ・ゲームと馴染みのある作曲家

  • すぎやまこういち
テレビ音楽史にこの人あり、と呼ばれる大家。1980年にテレビで放送された伝説巨神イデオンのBGMを交響曲としてオーケストラアレンジし「交響曲『イデオン』」として発表。元々テレビ放送版でもロックバンドやシンセサイザーに交えてスタジオオーケストラの演奏も採り入れられていたが、「交響曲」バージョンは壮大なアレンジが加えられている。
その後、1985年にはゲームドラゴンクエストのBGMを担当し、Ⅰ・Ⅱでは弦楽合奏曲として*2、Ⅲからは交響組曲としてオーケストラ版のアレンジも手がけている。代々続くテーマ曲である「序曲」*3は様々なテレビ番組でもBGMで流れたり、実際にオーケストラが演奏する様子が中継されるなどあまりにも有名。
他にも、BGMを手がけたゲーム「46億年物語」が「ゲーム音楽によるオーケストラコンサート」向けにアレンジされて演奏されている。

  • 久石譲
スタジオジブリの映画音楽といえばこの御方。映画風の谷のナウシカではオーケストラとシンセサイザーの音を融合させながら、作品世界にふさわしい壮大な劇伴音楽を作り出した。本作の「風の伝説」「鳥の人」以降、天空の城ラピュタ「空から降ってきた少女」となりのトトロ「ネコバス」魔女の宅急便「海の見える街」もののけ姫「アシタカ聶記」「ハウルの動く城」「人生のメリーゴーランド」などなど、多くの名曲を作り出している。
また、ゲームにおいては二ノ国シリーズのBGMを担当。フルオーケストラと民族楽器などを用いて、こちらも冒険にふさわしい雄大なものからユーモアあふれるコミカルなものまで、多種多様な音楽を提供している。

  • 天野正道
1992年から1998年までにわたって制作されたOVAシリーズ「ジャイアントロボ THE ANIMATION 地球が静止する日」では、前記の通りワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団*4を率いて自らの指揮でBGMを担当。OVA全7巻のほとんどの楽曲を各巻ごとに新録したため、CDも全7枚と大規模なものになっている。
ワルシャワフィルとのタッグは「新海底軍艦」「秘境探検ファム&イーリー」「魔界転生」「プリンセスナイン 如月女子高野球部」「sin THE MOVIE」「ストラトス・フォー」と続き、ゲーム鬼武者3」や実写映画バトル・ロワイアル」「バトル・ロワイアルⅡ 鎮魂歌」でも重厚な音で作品世界を彩るなど、様々な場面で活躍している。

  • 菅野よう子
民族楽器での合奏やロックバンド編成、ジャズバンドにビッグバンドにシンセサイザーと多種多様な音色を操る中で天空のエスカフローネ」「マクロスプラス」「地球少女アルジュナ」「創聖のアクエリオン」「ブレンパワード」「WOLF'S RAIN」「マクロスF」「X」*5といった作品でオーケストラ編成のBGMを多く書いている。
ゲームでは自らが1985年から関わった光栄の「信長の野望」「三國志」シリーズをオーケストラ編成にアレンジしたり「信長の野望・天翔記」ではPC-9801版でもCD-ROMの大容量を活かしてBGMにオーケストラの演奏を採用。「ナップルテール」「ラグナロクオンラインⅡ」でもオーケストラ編成の音楽を採用するなど多くの楽曲を書いている。
実は、こちらもワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団が演奏を担当することが多かったりと縁が深い。

  • ドミートリィ・ショスタコーヴィチ
1906年生まれ、1975年没のソビエト連邦出身の作曲家。15曲の交響曲を始めとして無数の楽曲を遺し、バレエ音楽や映画音楽、室内楽曲やジャズ風音楽など多くの曲が現在も親しまれている。アニメ「銀河英雄伝説」では重要なシーンにおいて交響曲の作品群からBGMが多く採用され、「涼宮ハルヒの憂鬱」では「射手座の日」において「交響曲第7番《レニングラード》」が8ビット調アレンジと原曲を交互に配置するなど、効果的に使われている。
近年では、クラシック音楽レーベル「ナクソス」よりアニメ音楽を意識したと公式が白状している様々な作曲家のスペクタクルな楽曲を集めた「交響戦艦ショスタコーヴィチ 」なるコンピレーションアルバムのタイトルに使われるなど、クラシック側でも認知が進んでいる模様。というか、アルバムの紹介文で「タイトルの『ショスタコーヴィチ』は、20世紀に活躍したロシア人作曲家(1906-1975)で、ソ連の政治体制にひそかに反抗し続けた人物といわれています。真に迫る音楽の数々は、社会の中で日々闘いながら生きているオトナの男子諸君のことも、熱く励ましてくれることでしょう」とに書いているあたり、狙っているとしか言えない。*6

追記、修正は100人編成でお願いします。


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最終更新:2021年10月18日 12:56

*1 ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団はその後も「天空のエスカフローネ」「蒼穹のファフナー」「創聖のアクエリオン」「マクロスG」」などの劇伴音楽を演奏している。

*2 その後、スーパーファミコン版の移植に合わせてオーケストラ版も発表。

*3 Ⅲについてはエンディングで流れてくる「ロトのテーマ」。

*4 旧「ポーランド国立ワルシャワ・フィルハーモニック・オーケストラ」。

*5 CLAMP原作のマンガを元にしたラジオドラマ。

*6 ナクソスはその後もシリーズとして「幻想魔神ハチャトゥリアン」「魔法革命プロコフィエフ」を発売。「『いっけな~い!ちこくちこく~!』ドジで平凡なヒロインが、クラシック音楽のミラクルパワーで「魔法少女」に大変身!?」「[対象:小さな女の子~大きなお友達まで]」と公式ページに書くなど、実にノリノリである。