2022 FIFAワールドカップ グループE

登録日:2022/12/11 Sun 02:41:23
更新日:2025/04/15 Tue 23:05:57
所要時間:約 35 分で読めます




日本「全チームから失点しました」
スペイン「全チームから得点しました」
ドイツ「予選最下位ではありません」
コスタリカ「1位通過のチームに勝ちました」

Q.このグループはどのチームも最低1勝はしています。順位を当ててみよう(*´ー`)
*1

カタールで開催された2022年FIFAワールドカップ。
グループEは、そのグループステージの中で日本が参加したグループである。




グループEの参加チーム

今大会における組分けは進出国のFIFAランキング順位に応じてポット1~4に分けられ、各ポットから1つずつでグループを構成する。
  • スペイン(ポット1/7位)
欧州5大リーグの一角を擁する、言わずと知れた列強国。
ルイス・エンリケFCと形容される、選出を監督の方針に合ったメンバーで固定気味にしてクラブチーム的な熟成を行っているのが特徴的で、
中核を担うのは現在のFCバルセロナを支え、
既に次代のシャビイニエスタとしての評価を確たるものとするペドリ(19)*2とガビ(18)、
シャビ&イニエスタ本人と肩を並べていたセルヒオ・ブスケツ(34)による中盤のトライアングルであり、
バルサイズム全開のティキタカ全振りポゼッションサッカーに定評があった。
ただ、このスタイルはボールの保持を重視するあまり得点に直結する決め手を欠いた本末転倒のスタイルであるという声も大きく、
攻撃陣は粒揃いではあるが絶対的なエースがいないという状況もその弱点を強調してしまっている。
メッシのいないバルサ」というのが妥当な形容だろう。喩えというかもう本当にいなかったんだけど、このときのバルサにはレヴァンドフスキが来てるのでセーフ

  • ドイツ(ポット2/12位)
欧州5大リーグの一角を擁する、言わずと知れた列強国。今大会のどこがポット2やねん枠。
しかし2014年の(カナリア軍団を破壊しての)栄光は何処へやら、前の2018年大会ではメキシコと韓国に敗れてグループステージ敗退とまたも前回王者の呪いの餌食になり、
直近の大会である今年のUEFAネーションズリーグでも1勝4分1敗と、とても褒められたものではない悲惨な結果に終わっている。
タレントそのものは全く問題ないレベルで充実しているのだが、こっちもストライカーに問題を抱えており、
やや不安はあるがファーストチョイスと目された快速FWティモ・ヴェルナーが直前に重傷を負ってしまい出場断念。
そしていわゆる9番タイプが人材難で、29歳で今年までA代表経験ゼロだったニクラス・フュルクルクを抜擢する形となった。

他方、カタールの人権問題等を理由に、「ドイツ代表は即刻W杯をボイコットするべきである」というレベルでの議論が独国内で白熱。
メディアではW杯の内容に関わる話題を差し置いて開催の是非についての議論ばかりされていると言われているほどの状況となっており、
サッカー王国の一角にしては信じ難いほど冷え切ったムードで臨むW杯となった。

  • 日本(ポット3/23位)
アジア最終予選の序盤で大ゴケして敗退の危機に陥るが挽回し無事一発通過を決めた森保JAPAN。
カタールと言えば日本にとっては因縁の地として有名であり、当代監督・森保一は他ならぬ「その試合」にフル出場した選手の1人である。
チーム状況についてちゃんと語ると当記事に収まりきらないため、そのへんは簡易的な説明に留める。

日本代表の中で当時スペインでプレーする選手は2人、1部に限ると1人だけだが、
その1人がバルサとマドリーにその才能を買われた“日本の至宝”久保建英ということで、その注目度は低くはない。
一方、ドイツのブンデスリーガでプレーする選手は8人(1部だけでも7人)と段違いに多い。
余談だが、歴史的にも初の外国人コーチにしてJリーグ&JFLの前身大会の創設に貢献した故デットマール・クラマー氏もドイツ人である…と、ドイツはブラジルと並んで文字通り「日本サッカーの父」といえる国の一つでもあった。

  • コスタリカ(ポット4/31位)
ニュージーランドとの大陸間プレーオフを制して勝ち上がった、北中米カリブ海地区4位。
地味ではあるが、2002以降で本戦出場を逃したのは2010だけ、2014ではベスト8進出を果たしているので、実績は決して侮れるものではない。
実際のところ、欧州5大リーグに所属する選手は数名のみ、大半は国内リーグ所属という選手の格は確かに見劣りするが、
ただ一人、守護神のケイラー・ナバスは上位2国のエースにも引けを取らない世界最高峰のGKの一人である(この時はポジション争いに負けて出場機会を失っているが…)。


死の組?

このグループEの組分けが発表されて以降、特に日本国内では「死の組」という評価が大勢を占めることとなったが、
日本目線では死の組だけど、客観的に見ればただの2強2弱で安牌な組だろ」とツッコむ声も多かった。

ただ実際のところ、日本は今大会で言うポット3以下としてはかなりW杯実績のある国である。
日本は1998年から(自国開催の2002年と本年度を除いた)過去6大会の全てで予選リーグを突破しており、かつ3回グループステージを勝ち抜いている。
出場回数は所属地域の有利不利が露骨に出るので軽視するとしても、重要なのは半々で本戦GLを勝ち抜いているということである。
今大会のポット3のうち*3、同じ範囲で同等以上の成績を持つのは、2回出場(02,18)して1回勝ち抜きベスト8に入ったセネガル程度。
しかも、「昔は強かった」というわけでもなく欧州主要リーグでの選手の活躍は明らかな増加傾向ときている。

そんなわけで、他国からしたら日本も「いくら格下と言ってもポット3以下で入ってきてほしくない国」と思われるのは当然と言えば当然。
コスタリカも前述の通り、ポット4のわりには実績のある国である。
つまり、ポット2=お前のようなポット2がいるか、ポット3・4=各ポット内としては明らかに実績上位
という様相で、ポット単位で見た時の平均レベルは間違いなく高く、どの国のサポーターからみても死の組と言えるだけの面子は揃っていたと言ってもいいだろう。

本田解説員

本大会では放映権料の増大が問題となり、ジャパンコンソーシアムが撤退*4するなど放送面でも話題となったが、その穴を埋めるためにAbemaTVによる全試合無料配信が行われ、日本の3試合には解説として本田圭佑が起用された。
当初本田は「AbemaW杯プロジェクトゼネラルマネージャー」なる謎の立場を務めると発表されており、同局の関連番組には顔を見せていたものの、解説を担当するのはドイツ戦のみとされていた。
しかし、一線級でプレーしてきた経験に基づく鋭さとわかりやすさを兼ね備えた戦術面への言及・ぶっちゃけトークやワンプレーへの一喜一憂による盛り上げという一見相反しそうな要素がうまく両立している軽妙な語り口が大好評。
世間で大いに話題を呼んだ結果、コスタリカ戦以降も続投となった。


第1節

日本対ドイツ


開幕戦ではカタールが比較的与し易いだろうと思われたエクアドルに対して0-2というスコアでは語り切れない完敗を喫しご当地カタールがお通夜ムードになり
イランもイングランドに2-6と盛大にしばかれる。
と思えばサウジアラビアがアルゼンチンに2-1で奇跡的な逆転勝ちを起こし、
かと思えばオーストラリアは先制こそしたがスイッチが入ったフランスには到底及ばず1-4で大敗。
20年ぶりのアジア開催の今大会、アジア・オセアニア勢の浮き沈みが激しすぎる中で日本の初戦が幕を開けた。

+ 日本のスタメン
  • GKは年齢的にベテランながら4年間で徐々に定位置を確保した今期所属する清水がJ2に降格したばかりの権田修一
  • CBは東京五輪世代として近年大きく成長を見せ、ブンデスリーガ注目の若手の一人となっている板倉滉
    そして「本田世代」の後輩枠にして今では不動のキャプテン吉田麻也
  • 左SBは本田世代、日本史上初のGK以外での4大会連続出場を果たす長友佑都
  • 右SBも本田世代、その中でも最も長く同じカテゴリーで定位置を確保しており、約1ヶ月前に逝去した盟友*5の思いも背負う酒井宏樹
  • 中盤の底2枚は中盤の潰し役としてブンデスで名を馳せる“デュエル王遠藤航
    負傷の影響でこの試合不出場の守田英正に次ぐレギュラーに定着している東京五輪世代の田中碧
  • 左ウイングは今期クラブでようやく好調を取り戻した“日本の至宝”久保建英
  • 右ウイングは森保体制途中から定位置を奪取した快速ウインガー伊東純也
  • トップ下はここ数年で急激に評価を上げ、今や日本代表のキープレイヤーとして扱われるまでになった鎌田大地
  • 長年の課題である1トップには得点能力に不安があるが驚異的な走力&運動量を誇る前田大然
負傷の影響がある面々を除けばベストメンバーと言えるこの11人をスターティングメンバーとし、今大会に備えた基本フォーメーションである4-2-3-1を使用している。

前半7分、カウンターからクロスを受けた前田がゴールネットを揺らすが、これは明らかなオフサイド。
入りは悪くなかったものの、ドイツの途中からの対応が完璧にハマってしまい、前半でまともな反撃機会はせいぜい数回しかなく、想像以上に圧倒されていく。
前方でのプレスはGKマヌエル・ノイアーを交えて捌かれ、効果を挙げることができない。

とはいえ決定機はそれほど作らせずに進めることができていたが、
前半30分、再三崩され続けていた日本の右サイドでSBダヴィド・ラウムがドフリーでボールを受ける。
トラップしてゴール脇に流れていくが、それを止めにいったGK権田が思いっきり倒して挙げ句にボールを追うラウムに掴み技までかけてしまい、あえなくPK。
マンチェスター・シティ仕込みのポゼッション力で中盤を動き回りキーマンとなっていたMFイルカイ・ギュンドアンにしっかり決められ、ついに先制点を奪われる。

JPN 0 - 1 GER

なんとかその後も防戦一方ながら持ち堪え、前半終了間際にはこの試合CFとして起用された*6カイ・ハヴァーツに押し込まれるシーンがあったが、これは完全にオフサイド。
前半の間、あからさまに戦術的にやられている状況ながら、日本側に目立った動きはない。
終始ボコボコに撃たれまくり(シュート数14本)、全く反撃の糸口は掴めないまま前半終了。

決定的なシーンはここまで挙げた2つくらいで、分析サイトでのxG(ゴール期待値)はPK(数値上0.79)込みで1.65と、そこまで致命的な状況は作らせてはいないのだが、
とにかく試合内容は恐ろしいほどのワンサイドゲーム。
スペインならともかく、ポゼッション偏重のチームではないドイツにボール支配率81%を叩き出される有様では、とても希望など持てたものではない。


唯一の慰めは、どれだけ酷い内容であったとしてもスコア上はまだ1点差ということ、それだけだった。




いくら出足の遅い森保監督であってもさすがに動かないことはないだろう……というわけで、さすがにベンチに動きがあった。
久保を下げ、アーセナルで優勝争いを支える万能DF冨安健洋を投入。
明らかな、4バックから3(5)バックへの変更の合図である。

フォーメーションが合っていないのであれば、4バック⇔3バックへの変更は常套手段。
そしてこの3バックはW杯前最後の親善試合カナダ戦の終盤でも試しており……それ以外では、この4年間でほとんどやってないフォーメーションであった。*7

一方ドイツベンチは動かない。
これだけ圧倒できている状況で自分から動く必要は乏しい。あとは自然の流れに任せていれば押し潰せるだろう、と高を括っただろうか。
スコアだけ見ればまだ1点差であったが、内容まで鑑みればまったくもって妥当な判断である。

流れを取り戻すには至らなかったが、再び日本にもチャンスが巡ってくるようになる。
そして後半12分、前田に代え、同じ決定力不足のスピード自慢で前大会の頃から代表に招集されていたのだが本戦で落選、今大会も負傷のため際どい招集となった浅野拓磨を投入。
ドイツやスペイン同様ストライカーの選択に苦しむ日本がこの4年間で編み出した答えは、この「とりあえずスピード自慢を置いて前線でのプレッシングに走らせる。得点力は二の次」戦法であった。
同時に長友に代え、驚異的な突破力を有する左ウイングであり世界最高峰プレミアリーグにすらその名を轟かせ始めた日本の“切り札”三笘薫を投入。

流れが向いてきた一方、ドイツも攻撃に手をかけ手薄になった日本の守備を攻略していく場面が目立つ、いわゆるオープンな展開に突入する。
前半でも度々日本を脅かしたドイツの新星ジャマル・ムシアラにはドリブルでボールを運ばれまくり、
ギュンドアンの鋭いミドルシュートがわずかに右に逸れるなど、命拾いした場面も少なくなかった。

そんな中ドイツは中盤のギュンドアンとトーマス・ミュラーを下げてレオン・ゴレツカとヨナス・ホフマンを投入。
交代先の2人も相当に優れた選手ではあるのだが、ギュンドアンとミュラー、特にギュンドアンは日本対策として効いていた部分が目立ち、日本にとってはむしろ僥倖になった感もあった。

後半24分には1プレーで4発のシュートを権田がセーブし続ける場面もあった。
その直後、田中に代え、森保JAPAN初期からの主力で本田さながらのビッグマウスでおなじみの右ウイング堂安律
続いて足の痛みを訴えた酒井に代え、森保JAPAN初期からの主力だがクラブでは長らく出場機会不足に苦しみ代表でも定位置を失い気味な“10番”南野拓実を投入。
交代策の遅さに定評のある森保監督が後半30分までに交代カード5枚を撃ち切るという意外な積極展開になる。

守備的な選手が3バックと中盤の遠藤の4人だけ。中盤を支えるもうひとりはトップ下が本職の鎌田。
通常はSBの延長線上にあり守備的な選手が起用されることが多いWBに三笘と伊東という、本来なら前線でプレーする選手を配置。
最前線の3人(南野・浅野・堂安)も当然アタッカー、つまり攻撃的な選手を6人配したファイアーフォーメーションであると同時に、
メンバーは全員見慣れてるのに配置は今までに一度も見たことのない日本代表がそこにあった。


最後の交代直前の後半27分には縦パスから伊東が枠内シュートを放ち、こぼれ球に酒井が詰めるも枠を捉えられず。ここまででの最大の決定機だった。

そしてその直後、後半29分。
後方から丁寧に繋ぎ、左サイドからペナルティエリア手前まで進んだ三笘は、ドリブルを警戒する守備陣をよそにすかさず裏に飛び出した南野にスルーパス。
厳しい角度ながらダイレクトで放った南野のシュートはしっかりと枠を捉えるがGKノイアーの正面、左手一本で難なく弾く。

弾かれたボールはゴール正面、待ち構える堂安の目の前へと転がった。


シュートォォォォォォォ!!!
堂安だ! 堂安が決めた!! 日本同点に追いつきました!!

来ましたねぇ! これまだあるぞ!



JPN 1 - 1 GER

三笘→南野→堂安と、示し合わせたかのような交代組3人によるゴール。
また、浅野も南野のシュートに合わせて飛び込んでおり、ノイアーが触らなければもし直接入らなくとも押し込む態勢が整っていた。


日本としてはとりあえず勝ち点1でも持ち帰りたい展開であり、やや睨み合いの状態となる。
ドイツはムシアラとハヴァーツに代え、ターゲットマンとなるフュルクルクと14年大会以来に返り咲いた司令塔マリオ・ゲッツェを投入。放り込み態勢を感じさせる交代となった。

後半37分。
遠藤の競り合いでドイツのファウルが取られ、自陣中間からの板倉によるフリーキック。
何の変哲もないプレー再開だった。

板倉のキックは大きな弧を描き、ドイツのペナルティエリア右手前に落ちた
飛び出しておりそのボールをフリーで受けた浅野は、見事なトラップでゴール寄りにコントロールすることに成功する。
猛然と追いかけてきたCBニコ・シュロッターベックに捉えられるが、既にPA内、徐々にサイドに追いやってコースをかなり狭めているという状況もあってか、ファウルを避けてプレッシャーをかけ続けるだけに留まった。*8
ノイアーは股下を塞いだ低姿勢でブロックを作り、堅実にコースを奪う。

そしてゴールエリアの端、角度のほとんどない位置から浅野が放ったシュートは、狙うのは非常に難しいが、そのためGKも塞ぎに行かずガラ空きとなりやすい位置――
ノイアーの頭、直ぐ横を通り抜け、ニアサイドを撃ち抜くテクニカルなスーパーゴールとなった。

JPN 2 - 1 GER


自陣でのプレー再開からわずか7秒、逆転劇は誰も予想だにせぬような形で引き起こされた。


キックの瞬間、浅野はCBのアントニオ・リュディガーとシュロッターベックの裏におり、ラインを揃えていた彼らの感覚では明らかなオフサイド。
これにより、2人の対応は遅れる。
しかし、ボールの方向を見る2人の視界外、右SBのニクラス・ズーレは目の前にいた南野とその奥の浅野が共に駆け出したのを見て後ろに下がってしまっていたのだ。
かと言って逆サイドにいるズーレでは浅野を止めにはいけず、ズーレとほぼ同じ位置でオフサイドを回避した浅野は悠々とボールを受け、結果シュロッターベック一人で潰しにいくのが精一杯になっていた。


後半も残りわずか。窮地に追い込まれたドイツは、サイズ差を活かして放り込み主体に走り始める。
とはいえ、日本のCB陣も189cmの吉田、187cmの冨安、186cmの板倉と、今や決して絶対的サイズ不足に悩むメンバーではない。
本職ではないWBについた三笘・伊東も奮闘し、攻撃を跳ね返し続け、中盤では遠藤がドイツ人の相手は慣れっことばかりにボールを刈り取り続ける。

アディショナルタイムが従来より非常に長く取られる*9本大会。

アディショナルタイムは7分!
7 分 !?
まだ、まだ、凌がなければいけない時間は7分!

短くもあり長くもある、計15分の決死の防衛戦。
それでも大きな決定機は生まれることはなく、ノイアーも駆け上がってきた二度のコーナーキックを弾き返し、さらなる攻撃に入ろうとするプレーを切らせたその時、終了の笛が響いた。



前半終了時にはとても想像できない、全ての交代策がことごとく嵌った鮮烈な逆転劇だった。
なお、森保JAPANが先制点を取られて逆転勝利したのは(親善試合も含めて)これがこの4年間で初めてのことである。また、「W杯での逆転勝利」は日本代表史上初となる。

保守的で無策、世界を知らない凡将”と貶されてきた森保一。
スコアこそ大きく動かないが、あまりにも一方的な展開だった前半の45分。
その全てが、この後半の45分のため、油断を誘うためにあえて用意された筋書きだったのではないか——そう錯覚してしまうようなアップセットとなった。

この交代策については、そもそも交代枠が5枠使えるのはW杯では今大会から*10という事情も無視できない部分。
その点を他に類を見ないほど十全に活かした、(W杯的に)最新鋭の戦法でもあるのである。


一方、ドイツを率いた「ハンジ」ことハンス=ディーター・フリックは、ドイツサッカー界・ブンデスリーガの中心に長年関わってきたドイツ屈指の指揮官なのだが、対照的にその采配は非難を浴びた。
特に前述の日本対策要員だったギュンドアンを下げた点は多々槍玉に挙げられることとなり、最後の交代も空中戦・セットプレー狙いなのは明らかだが、結果的には終始日本を脅かしていたムシアラを下げるには値しなかったという評価を下されている。


なお、この勝利を「ドーハの歓喜」あるいは「ドーハの奇跡」と評する声も少なくないが、
厳密に言うとこの試合はドーハではなくその近郊のライヤーンでの開催である。
あと第3節のスペイン戦も同じ場所だし、第2節のコスタリカ戦はまた別の場所でドーハではない。


余談:Was ist das?

今大会の組分けが発表された直後、ちょうどVFLボーフムで「日本代表候補」浅野がプレーし、「ドイツ代表監督」フリックが視察していたブンデスリーガの試合後インタビュー*11でのこと。

ハンジ・フリックを知ってます?(Do you know Hansi Flick?)

ごめん、なんて?(Sorry?)

ハンジ・フリックを知ってます?(Do you know Hansi Flick?)

ハンジフリック(Hansiflick)なんすかそれ?(Was ist das?)

自分がプレーしている国の(自国人)代表監督にして直前までは最強クラブのバイエルンを率いていた人物を、事もあろうに人間とすら認識してないという大ボケをかます浅野。
(英語で聞かれたのが悪さをして「Hansi Flick」といきなり言われてもピンとこなかった*12という説もあるが実際どうだったのかは不明)
当時は両国内でちょっとバズるに留まったが、この男のプレーでフリック政権に大打撃、ひいてはトドメが刺された今となってはもはや高度な煽りにまで昇華されたとして、改めて世界的に大バズりすることとなった。

でもってこの浅野、文中で触れているように、お世辞にもあの技ありの逆転ゴールを平然と決めるような得点力に期待できるタイプではない。
20-21シーズンにセルビア・スーペルリーガのパルチザンで得点王に輝いた時を除いてリーグ戦で1シーズン10ゴール以上をマークしたことはなく、
前21-22シーズンはブンデスリーガのボーフムでウイング・2列目としてプレイするという条件*13とはいえ、レギュラー級なのにわずか3ゴール4アシスト、
なんならこの22-23シーズン、本大会後のシーズン後半を含めても3ゴール2アシストという、いくら割り引いても少なすぎる数字に終わる。
……が、この3G2Aのうちの1G1Aは残留が掛かった最終節、上位のレバークーゼン相手に前半で奪った2点であり、この1勝でクラブを無条件残留に導いた浅野は一躍英雄となった。ちなみにその代わりに残留プレーオフ送りとなったのはかつて浅野も在籍し、遠藤・伊藤が所属するシュトゥットガルトだった。
遡れば1年前のアジア最終予選でも重要な試合で逆転弾を演出したりしており、「大一番に強い男・浅野」の風説は着々と証明されていくのであった。

スペイン対コスタリカ


日本中が、あるいは世界中が熱狂した結末から約1時間後、グループE第1節のもう一つの試合が行われた。


スペイン コスタリカ
7 得点 0
82% 支配率 18%
17 シュート本数 0
1045 パス本数 230
978(94%) パス成功数 165(72%)


一つ断っておくと、「シュート本数」というのは、「枠内シュート本数」の間違いではない。
90分+αの間、コスタリカに一度たりともシュートの選択肢を与えなかったのである。

もはやスペインの公開攻撃トレーニング。ポゼッションサッカーの理想、ここにあり。
コスタリカは大会直前に予定していたイラクとの親善試合が入国時のトラブルで中止になっており*14調整不足であったとはいえ、ワールドクラスの守護神ナバスを擁し、守りに徹する覚悟をしての7失点。
W杯史上稀に見るワンサイドゲームで世界を震撼させ、第3節で戦う日本、それと第2節で勝ち点を奪わねばならないドイツを震え上がらせるに足るような試合であった。



第2節


日本対コスタリカ


片や歴史的勝利を収め、片や歴史的大敗を喫した両チーム。
それはともかくとして、この戦いは両者にとって必勝を期すべき試合であることは明らかだった。
グループステージの性質上、下位チームが勝ち残るには、同じ下位チームから勝ち点を奪い取ることは大前提。こんな「死の組」では尚更である。

コスタリカは得失点差での勝ち抜けはとても期待できないため、勝ち点1は当然としても現実的に考えたら勝ち点3が必要な状況である。
日本は言ってしまえばまだ余裕はあるものの、ここで敗北したら、ドイツ戦の歴史的勝利は帳消しになったも同然である。
それはさすがに共通認識であり、ドイツ戦終了後、当人も含めた関係者は口を揃えて「次で勝たなければ意味はない」と言い続けていた。
ドイツとの死闘に全てを出し尽くした日本は 続く第2節 コスタリカにウソのようにボロ負けした――」という展開を想像してしまうアニヲタも多かっただろう。

また、日本としては実のところ、ここで2勝目を挙げてもそれだけでは安心はできない状況である。
この後に行われるスペイン対ドイツがドイツの勝利となった場合、第3節が順当な結果でスペイン・ドイツの勝利となってしまうと、勝ち点6で3国が並ぶ得失点差勝負になる。
この実質「コスタリカを上手にボコれたもの勝ちゲーム」は、すでに壮絶なスコアを叩き出したスペインが圧倒的有利。
スペイン対ドイツが先であれば結果次第で割り切れるようになるのだが、後なので「どうなるかわからないが、念のために」大量得点を狙っておきたいという悩ましい状況なのだ。


完全な格上との戦いである前後2戦と全く異なる方針で臨むことを強いられるこの試合。
18年W杯や東京五輪ではやむなく主力をフルに使い続けた結果、グループステージを勝ち抜けた後に消耗が目立ったという経験が続いたのもあり、
「リスクを買ってでも決勝トーナメントを勝ち抜くための余力を重視し、森保監督はここで戦術プランの変更を兼ねたターンオーバーを実行してくるのではないか?」という推測は、大会前からあるものであった。
特に、選手としてピークアウトした感が否めないうえにレギュラーと役割が異なるため交代要員として使いづらいパサータイプのMF柴崎岳を最後まで招集し続けた末、カナダとの親善試合で想像以上の好パフォーマンスを見せたのも
「コスタリカ戦で攻撃重視に行くことを想定したカードが柴崎なのでは?」という形でその根拠の一つとなった。

結果的に、前節から5人と多くのメンバーを入れ替えて臨むこととなった。
ただ、

  • ポジション争いで押し出され気味だがレギュラーを取り戻している久保建英に代わり、国内組でサブメンバーの相馬勇紀
  • 最近になって主な選択肢の一つになってきた前田大然に代わり、バランスの良いFWであるため役割が異なり出場数も同程度の上田綺世
  • 定位置を確保している伊東純也に代わり、ポジション争いで伊東に押されているがレギュラー格の堂安律
  • レギュラー格の田中碧に代わり、負傷の影響で欠場したが本来は田中以上の絶対的主力である守田英正
  • 負傷でそもそも出場できない酒井宏樹に代わり、国内組でサブメンバー、そして唯一健在な右SBである山根視来

という内訳であり、格落ちと言える起用は相馬と(負傷のため選択肢のない)山根だけで、これをどういう入れ替えと捉えるかは意見が分かれる。
しかも一番代えが利かない(休ませたい)遠藤やCBの2人は普通に出場している


前述のように、コスタリカにとっては日本以上に勝ちたい試合。
あちらもプランを変え、ある程度攻めに出てくることを予想する声も強かった――が。
コスタリカのプランは前戦と大差ない、ガチガチに守備を固める5-4-1だった

日本からしたらまるでアジア予選でもやっているかのような導入。
しかし、コスタリカはアジアの格下チームとはさすがに質が違う。
中盤でのプレッシングに日本は上手く対応できず、逆にこちらからプレスをかけても上手く逃げられてしまい、攻めあぐねる形となる。
一方のコスタリカも、守勢に甘んじすぎて満足なカウンターも打てず、中盤の競り合いで得たフリーキックからの放り込みが数少ない攻め手となる。
そんなグダグダの展開のまま前半が終わる。

前半のシュート数、日本2、コスタリカ3
xGに至っては日本0.02、コスタリカ0.03。2チーム合わせて1/20点である。
お互いにびっくりするほど得点の匂いがしない展開には、「W杯史上最も退屈な前半」などという声も聞かれたほどであった。


後半、上田に代えて浅野、長友に代えて、遠藤と同クラブで本来Bチームに回される予定がいきなりトップチームに定着した新鋭伊藤洋輝を投入。
前半いいとこなしだった上田を代えつつ、CB兼左SBの伊藤でフォーメーションを調整していく。
続いてイエローカードを貰っていた山根に代えて三笘、堂安に代えて伊東を投入して攻撃を活性化させようとする。
前半のグダグダぶりに比べればちゃんとボールを持って攻め入る状況にはなっていたが、決定打を欠いているうちに終盤に差し掛かり、コスタリカもワンチャンスに賭けてギアを上げ始めた。

後半34分。
日本陣内、裏に放り込まれたボールを伊藤がリスクの高いペナルティエリア内の吉田に向けてヘディングし、
吉田はワンタッチで、繋ぐ意識の先行した緩いボールを味方のいないところに放り出してしまう。
一気に相手選手が集まり、守田が慌ててスライディングでの蹴り出しを行うが空振り、相手に回収を許したうえ、守田が対応すべき場所も空いてしまう。

拾ったボールをペナルティエリアのライン上で受けたSBケイセル・フレールはそのまま内に巻くコントロールシュート。
そこまで正確なコースでもないそこそこのシュートだったが、権田は触りこそしたがしっかり弾き出せず、流れたボールはそのままゴールに吸い込まれた。

JPN 0 - 1 CSA

コスタリカが後半で放ったシュートはこの1つが最初で最後
ミスに次ぐミスが生んだ痛恨の失点である。

失点前に準備をしていた南野(out相馬)が最後の1枚として投入。
投入されたものの得意の突破を見せられる場面を得られなかった三笘も終盤、いくつかのチャンスを生み、ゴールに繋がりそうな場面もあったが、前半の45分を無為に過ごした代償は重すぎた。


後半のデータだけ見れば、日本のボール支配率は75%、シュート数11、枠内シュート3。
ここだけなら普通に優位に進んでいたような試合だが、奇しくもドイツに対しての自分達の戦術が跳ね返ってくるような、
アジア最終予選で日本が敗退の危機に陥ったオマーン戦*15もチラつくような、無様な敗戦。
コスタリカが良く戦った……というには、力の差が小さい相手に絶対勝ちたい試合でワンチャンス頼りだったコスタリカも、傍から見たらさほど褒められたものではない。
誰もが危惧した通りに、ドイツ戦で得た評価も、苦労して得た勝ち点も、あっけなく霧散した。

しかもこの試合の後、遠藤は負傷を訴え次戦不出場が濃厚に。
負けたうえに主力を温存できず離脱者まで出すという、何もかも最悪の結果。
そんな中、日本は二度目の奇跡を起こして強豪スペインから勝ち点をもぎ取らなければならないことがほぼ確定したのである。


スペイン対ドイツ


どう考えても決勝トーナメントのカードにしか見えない好カード。
それがドイツだけ崖っぷちという立場で行われることになろうとは、どれほどのサッカーファンが想像しただろうか。

もっとも、日本にとっての絶望は、裏を返せばドイツにとっては神の思し召しである。
日本が勝ってしまったら、ここでスペインからの勝利がほとんど絶対条件となってしまうところだったドイツであったが、
日本が勝ち点を積めなかったことで、引き分けでもむしろ優位、最悪負けても敗退確定ではないという、格段にゆとりのある状況となった。

試合は第1節で盛大に明暗分かれた事実はなかったかのような白熱した展開に。
序盤はスペインのポゼッションが有効に働くが、ドイツもさすがの能力でその流れを続けさせず、後半に入ってスペインのCFアルバロ・モラタが先制点を奪うが、後半37分にドイツもフュルクルクのゴールで同点に追いつく。
そのまま1-1で終了し、日本としてはあまり望ましくない形で第3節を迎えることになった。



第3節


試合開始順によって大きく発生する有利不利をなくすため、第3節は2試合が同時刻にキックオフする。


勝ち点 得失点差 得点 失点
スペイン 4 1 0 1 +7 8 1
日本 3 1 1 0 +0 2 2
コスタリカ 3 1 1 0 -6 1 7
ドイツ 1 0 1 1 -1 2 3
※勝ち点が同じ場合、得失点差→得点→直接対決での結果→フェアプレーポイント→抽選で決定する。

日本は、スペインに勝利すれば突破確定、敗北すれば敗退確定。
引き分けた場合のみ、コスタリカ-ドイツも引き分けだった場合は突破。
コスタリカが勝利した場合、スペインに追いつかずコスタリカに勝ち点で抜かされるため敗退。
ドイツが勝利した場合、勝ち点は並ぶので「1点差」かつ「ドイツが日本より多くの得点を取っていない」場合のみ突破となる。*16

ドイツは、コスタリカに勝利するのは絶対条件。
そのうえで日本が敗北すれば突破確定、引き分けた場合は↑の逆である。
そして、日本も勝利した場合は、スペインとドイツの得失点差8・得点差6を埋めることが必要となる。
つまりスペインがとんでもない惨敗をするか、ドイツがスペイン並の蹂躙を行うか、その中間になる必要がある。

コスタリカは、ドイツに勝利すれば突破確定。もしくは、引き分けかつ日本が敗北すれば突破。
……もしくは、引き分けかつスペインが 1 4 点 差 以 上 で敗北した場合も突破できる。

スペインは、敗北さえしなければ突破確定。
敗北した場合は、コスタリカが勝利するか、ドイツが勝利したうえで得失点差を埋めてきてしまった場合のみ敗退する。

このように、有利不利はあれど4国全てに現実的な範囲で突破と敗退の可能性がある混戦模様となった。

ドイツは数値上でこそ最下位だが、それでもコスタリカに勝てないとは考えにくく、
日本が勝利さえしなければ、あとは「2点差以上で勝つ」という両国の実力差からしたら至って妥当なスコアを出すだけでよい。
実質的には、この時点でスペインに次ぐ突破有力国は間違いなくドイツなのである。

スペインは両会場の結果が同時に意外なケースに振れない限りは敗退せず、確率に直せばせいぜい数%といったところ。
ターンオーバーを行うのではないか?という推測が立つのは当然のことだったが、ルイス・エンリケはこれをはっきりと否定。
かくして実際に発表されたスターティングメンバーは――前節から5人を入れ替え。
しかしその対象は序列に大きな開きのないFW・DFばかりで、最も代替が難しく、だからこそ休ませたい中盤の3人は据え置き
という、前節の日本くらいにはターンオーバーと言えなくはない程度のものであった。

一方の日本は、遠藤が足の痛みを訴えて練習を欠席。ターンオーバーとはなんだったのか
冨安も回復が遅れたか、先発に加わることはなかった。
主立った問題はこの2名のみで、決定的に異なるのは前半からの5バック(5-4-1あるいは3-4-3)の採用
それに伴い、今年からサブ扱いではあるが代表に定着した谷口彰悟が3枚目のCBとして初出場初先発。日本の数少ない純粋な「国内組」に大きな試練が課せられた。
あとはレギュラークラスで固まった編成となる。

なおこの5-4-1の選択は、なんと選手からの提案であった。
元々は別のフォーメーションで迎え撃つつもりであったのだが練習で手応えを欠いていたところ、
鎌田の所属するフランクフルトは前シーズンのUEFAヨーロッパリーグにて(半ば実質スペイン代表とも言える)バルセロナを破っており、鎌田がその時のフォーメーションを下地として提案。
コスタリカ戦後の3日の準備期間の途中からフォーメーションを組み直すという驚異の突貫工事が行われていた。
戦術面で選手の意見を積極的に聞き入れるというのはサッカーの常識として(成功すればOK、とも到底言えないほど)考え難いことだが、
選手はすでにクラブで世界基準の戦いを積み重ねた者が大多数であるのに対し、日本国内の指導経験しかない森保はそのギャップを埋めるためにこのスタンスを採っていた。



試合開始直後からスペインに大いにボールを回されるものの、これは想定通り。
中盤から後方をしっかりと固め、受け切ることに重点を置いた構えは十分に機能していた。


……と思われた、前半11分。
スペインも態勢に対応し始めた矢先、SBセサル・アスピリクエタのクロスから守備陣を振り切ったモラタが頭で押し込み、あっさりと先制を許してしまう。

JPN 0 - 1 ESP


このまま大崩れもあるかと思われたが、ここから日本の守備態勢はむしろ改善を見せ、これ以降大きなチャンスは与えなかった。
とはいえそのポゼッションサッカーに完全に支配され、反撃の機会はろくに訪れないまま前半が終わっていく。
おまけに前半終了間際、39分に板倉、44分に谷口、45分に吉田と、CBの3人が揃ってイエローカードを貰うという地味な大ピンチが発生。
逆転を求められる状況下、限られた交代枠をCBに割くのは難しい。非常に悩ましい状況である。


一方、ドイツは前半10分にセルジュ・ニャブリが先制点をマーク。
こちらもコスタリカが大崩れになると日本にとっては望ましくない状況であったが、ドイツ-日本ばりの押せ押せムードながら同様に追加点には至らず0-1で前半を終える。
このままならスペインとドイツが順当に勝ち抜け。
強豪組が1点差で勝ち越す、至って驚きのない普通のスコアで両会場の前半が終わることになった。



ハーフタイムで日本は久保・長友に代え、堂安・三笘を投入。スペインはアスピリクエタを同じポジションのダニエル・カルバハルと交代。
早々の、ドイツ戦に近い形での交代は、あの瞬間の再現、反撃へのスイッチを予感させた。

そして後半開始直後。
バックパスさせてそのまま猛然と突っ込む前田のプレスに脅かされたGKウナイ・シモンは、それでも左SBのバルデに向けたボールを送ったものの、精度の低い浮き球となった。
前半ではシモンが前田のプレスに襲われて危うくボールを手放しかかるも見事にパスを繋いでみせるシーンがあったが、今回はそうはいかなかった。
大きくなったトラップの瞬間、後方のマークを捨てて勝負に出た伊東が襲いかかり、頭でスペイン陣へと跳ね返す。
そのボールはペナルティエリア前にいた堂安の足元に収まり、すぐさま内側へとカットイン。


いやもうあそこは、俺のコースなので。
あそこで持てば絶対撃ってやると決めてたので。はい、思い切って撃ちました。

堂安律 試合後インタビュー


放たれた左足のシュートは、さほど良いコースというわけではなかった。
――しかしシモンはその強烈な威力のシュートに反応しきれず、軽く触るのがやっとだった。

JPN 1 - 1 ESP


流れは一瞬だけ、日本へと傾いた。

再開のキックオフ直後、後半5分、日本の次の攻撃。
権田のフィードを受けた右サイドから伊東→田中→堂安と繋ぎ、堂安が速いゴロ球のクロスを入れる。
GKとDFの間、理想的な位置のクロスであったがコースも厳しく、横に膨らみながらスライディングした前田の眼前を通り過ぎる。

その更に後ろ。
ラインを割らんかという瞬間、三笘の左足がゴール前へとボールを送り返す。
このプレーを見てアウトを主張し足を止めていたCBロドリの眼前をすり抜け、
そこに待ち構えていたのは、三笘と小学校時代から長年同じユニフォームを着てボールを追いかけてきた、田中碧。
ゴールネットが揺れる。



ゴールの宣告は行われず、VARによる検証が始まる。*17

傍目には明らかにラインを割っているようにしか見えない状態であったが、一つ、ここで注意しておくべきことがある。
サッカーのルールにおいて、ボールがフィールドから出たと判定されるのは、垂直・水平に見たボールが、白線から100%外にはみ出た状態になった時
小さな接地面ではなく、ボールの直径にあたる範囲のほんのわずかな部分でも白線の端に重なっていれば、フィールドから出ていないものと判定される。
斜めのアングルではラインを割っているように見えても、上から見た印象とは全く異なることが多々あるのだ。



ゴールネットが揺れてから2分半ほどが過ぎ、

ゴールが!! 認められました!!!

JPN 2 - 1 ESP


瞬く間に形勢を覆した日本。
しかし、リードしたという状況もあり、徐々に展開は元のスペインによる支配体制に戻っていく。


一方その頃、後半12分、コスタリカがカウンターからこぼれ球を押し込み、1-1の振り出しに戻す。
日本戦が若干フラッシュバックしないでもなさそうな失点となり、そして日本としてはそのまま終わってくれるなら引き分けOKの猶予を持てるが残り時間はまだまだあり、何よりこの勢いのまま逆転されてしまうと猶予が消滅する。
各国揃って両会場を気にしなければならない時間は続くのであった。


後半17分、前田に代わって浅野を投入。ここまでテンプレ。
後半23分、スペインはバルデとガビに代え、アンス・ファティとジョルディ・アルバというバルサの左サイドを担う至宝とベテランをセットで投入。
守備能力に不安のある伊東が守る日本の右サイドを一気に切り崩すことが考えられた――が。
待ってましたとばかりに、日本は鎌田に代えて冨安を投入。
伊東を左WGに移動し、ファティ&アルバを迎撃する右WBをいきなり日本最強の防御札へ差し替える、森保渾身のカウンターが放たれた。
この采配は的中。2枚のカードを切ったにもかかわらず、最後までこのサイドからの目立つ決定機は生まれなかった。
冨安は本来ならCBのレギュラーでもあり、ここでイエロー持ちのCB陣の交代に使わなかったのは勇気ある選択でもあった。


一方その頃、後半24分。
日本戦でも何度かチャンスを作っていたフリーキックによる放り込みから、空中戦の末にドイツのゴールネットを揺らす。
コスタリカ、逆転。
この瞬間、決勝トーナメントに進出できる国は日本とコスタリカ。ピッチの上で知っていたかはともかく、スペインの敗退が背後に迫っていた。

――のは束の間のことだった。
後半27分、交代で入ってきていたハヴァーツが飛び出しから同点弾を叩き込む。
スペインは3分間で窮地を脱すると共に、再び日本にとっては最も望ましい引き分けの状況となる。

後半39分、ニャブリのクロスからハヴァーツが再びネットを揺らす。
2-3。スペインは安全圏に入った。
この時点で、日本は引き分けるとしても3-3以上に持ち込まねばならず、ドイツが再度失点してくれない限り、事実上引き分けの選択肢は潰える状況となる。
後半44分にはフュルクルクが追加点を加えて2-4とし、状況の駄目押しとした。
なおドイツがこの状況から「自力で」勝ち上がるには、あと5点取って2-9にする必要がある。
また、このままだと2位通過となるスペインは、優勝候補ブラジルとの早期対決を避けられる山へと振り分けられる。


一方、日本は後半終了間際、田中に代えて遠藤を投入し、最後の防衛態勢を敷く。
終了間際とはいえ、そもそも出場不可能な状態と思われていた遠藤の投入にはさりげなく日本中が驚いた。


「実際、スペインとしてはもう頑張る必要ないんじゃないの? もう休んだら? てか手抜いてるんじゃない?」
そうお思いの方はアニヲタ諸氏どころか世界中にいたわけだが。
まあ実際そうと言えばそうなのだが、かと言って、最終奥義「負けてるけど時間稼ぎ」を発動した4年前の日本の立場とは異なる。
日本がそれをやったのは1点でも失点したら敗退必至だったからだが、スペインはもはやそのリスクは限りなく0に近い。
必死になるような状態じゃないのは間違いないが、さりとて敗者として国民のバッシングを受け、好き好んで日本程度に負けてやりたくもない気持ちもあるだろう。


そんなわけで、良くも悪くも平常運行のまま攻め立ててくるスペイン。
東京五輪で日本にトドメを刺したアセンシオのミドルシュートを権田が弾き、こぼれ球をすんでのところで吉田がしっかりクリアするなど
いくつか危険な場面も作られるが、なんとか防戦を続けていく。

日本を救ったVARタイムの代償として、告げられたアディショナルタイムは7分。

本田さん、7分あります!
な な ふ ん!?
……これなんか前も同じこと言った気がするわ!

聞いたことある気がしますね。ドイツ戦も7分でした!

ドイツ戦と瓜二つの状況に立たされた日本だが、あの時と異なるのは、今は最終戦、失点すれば二度と挽回のチャンスは無いということ。
その状況はさながら、29年前のドーハにも通じるものがあった。

勝つしかないのは分かっていました。あと1分30秒くらいのときにドーハの記憶は出てきました。
でも、ちょうどそのときに選手達が前向きにボールを奪いに行った様子を観て、
『時代は変わったんだ』『新しい時代のプレーをしてくれているな』と思っていました。

森保一 インタビュー



ドイツの4点目を最後に、2つの会場のスコアが動くことはなかった。

JPN 2 - 1 ESP
CRC 2 - 4 GER

勝ち点 得失点差
日本 6 +1
スペイン 4 +6
ドイツ 4 +1
コスタリカ 3 -8

日本、グループステージ1位通過。これまでの成績は
敗退→ベスト16→敗退→ベスト16→敗退→ベスト16
であったため、初の2大会連続進出となった。
無論、伏兵として日本の決勝トーナメント進出の可能性を予想した者は、日本贔屓を抜きにしても多少は存在しただろう。
しかし、それが「強豪国2国を」「逆転勝利で」撃破してそしてコスタリカには負けてのものになると、果たして誰が予想できただろうか。

一方でドイツは2大会連続のグループステージ敗退という、5大リーグの1角を担う優勝経験国としてあまりにも屈辱的な結末を迎えた。
同じ期間に2大会連続で欧州予選敗退した某カルチョの国よりはマシだが…。


この試合全体での日本のボール支配率、約18%。これはW杯史上、勝利したチームの最低支配率を記録したとされる。
カウンター戦術が存在するサッカーにおいて「ボールを相手に『持たせる』」という考え自体は珍しいものではないが、ここまで露骨に表れるのも珍しい。
一方でゴール期待値ではスペインを若干上回っており、多くの決定機を創出させなかったことを示している。
シュート数/枠内シュート数も日本6/3・スペイン12/5と、ドイツ戦ほどの大差はつけられていない。
ドイツ戦の成功を再現しながらも、より「計画通り」という1コマを想起させるような勝ち方となった。


終わってみると、スペインとドイツは引き分け、コスタリカは両国に狩られると、日本が関わってない試合だけは順当な結果で、日本が関わった試合だけ結果がおかしい。
日本の異常な振れ幅のせいで絶望から希望を与えられ、そして希望を奪われたドイツの皆さんには同情を禁じ得ない。


隣り合うグループFはポット1枠が前大会で敗れたあのベルギーであり、「日本が2位抜けすれば1位抜けしたベルギーと当たってリベンジ対決になるのでは?」という可能性はよく話題に上がっていた。
しかし、日本は1位抜けとなった一方、直前に行われたグループF第3節の結果によりベルギーはまさかまさかの敗退。
ベスト16で日本と戦うグループF2位は、前大会で準優勝まで食らいつき、バロンドーラーのルカ・モドリッチも健在である、今や2国にも劣らぬ強敵クロアチア。
スペインと戦うグループF1位は、日本と同じくハリルホジッチ監督を本大会直前に解任したポット3ながら2勝を挙げたモロッコとなった。

そして迎えた決勝トーナメント、ドイツやスペインのような「強者の戦い方」をせず、良くも悪くも泥沼上等の戦いを選んだクロアチアにこれまで見せてきた日本の強みを殺されてしまい、
結果1-1で拮抗したままPK戦となるが、これはPK戦経験の多いクロアチアの土俵に引きずり込まれたと言っても過言ではなく、日本は失敗が立て続き4人目時点で敗戦(1-3)。
スペインもモロッコに0-0から、これまたPK戦でストレート負け(0-3)というまさかの結末に。嵐の吹き荒れたグループEは、今大会で唯一ベスト16での全滅となった。

余談:三笘の1㎜

スペイン戦の2点目のシーン、白線に残っていたボールは僅か1.88mmだったという情報が出回り、三笘の1mmと通称された。
偶然にもその瞬間を真上から映した写真があった事から世界中で大バズりを起こし、画像や状況を利用したクソコラワールドカップが開催される事に。
例:日本国旗の日の丸の右側ギリギリを掠めるように縦線入れて「これを新しい日本国旗にしよう」と提案、あるいは白地の旗の右端からギリギリ日の丸が覗いてるやつを指して「いやいやこれが新しい日本国旗だろ」と返答したり、
件の写真をそのままCAPTCHA認証*18にしつつゴールラインを区切りのラインに重ねての「サッカーボールを選んでください」とお題を出したコラ

ただ、実際のところは1.88mmというのはソースがなく、誰かが適当に言い出したガセだと思われる
当該画像は一般のカメラマンが撮った「奇跡の1枚」であることが判明しており、逆に言えば実際の検証に使われたものではないというわけでもある。

余談:日本のブスケツ

日本対スペインの最中、吉田麻也(日本)とセルヒオ・ブスケツ(スペイン)が激似というしょうもない話題でも世界が盛り上がっていた。
単純に顔が似てるだけでなく、身長が同じ(189cm)で1ヶ月違いの同い年、共に代表キャプテンを務める(そのためコイントスなどで顔を合わせる=同じ画面に映る)とそこかしこに共通点がある。
なお、2023年夏には2人とも契約満了からアメリカ・MLSのクラブ(吉田はロサンゼルスギャラクシー、ブスケツはインテルマイアミ)と契約し、日本のブスケツとスペインの吉田のピッチ上での再会が一部で期待されることとなった*19
また、その直前に自らSNS上で「無職」「ニート」とネタにしてたフリーの吉田がアメリカツアー中のバルサを訪問するという一見では謎すぎる*20一幕が報じられ、「顔パスか」「退団したはずじゃ!?」「ブスケツの代わりにブスケツ獲得」と若干盛り上がった。
再会の実現は2024シーズンの開幕戦となったが、吉田は早くもキャプテンを任されていた一方、マイアミのキャプテンはメッシであり、試合後メッシのインスタにはメッシと吉田の握手シーンがアップロードされていた。大丈夫? 味方のブスケツと間違えてない?


その後

際立った4チーム

大会終了後FIFAから際立った存在として4つのチームが選出された。
  • メッシに今度こそ栄誉を」の目標の下、彼を見て育った若い世代を中心に結束し1986年大会以来3度目の世界一に輝いたアルゼンチン
  • どうしても練度を高める時間が限られる代表チームとは思えない、堅守速攻が徹底された高い完成度のサッカーを披露しアフリカ勢初のベスト4入りを果たしたモロッコ
  • 決勝トーナメントで日本に続きブラジルをも得意分野*21のPK戦に引きずり込み撃破、延長戦を戦い抜く無尽蔵のスタミナと試合巧者ぶりを見せ3位になったクロアチア
といった上位国に並び、残り1チームに日本が選出された。
選出理由をFIFAは
「グループEを制するのはドイツかスペインだろう…という大衆の予想を打ち砕き、両巨頭を倒して首位に立った」
「2試合をハーフタイムでのビハインドから勝利した、1970年の西ドイツ以来であるW杯史上3つ目のチームとなった」
以上を選出理由として挙げている。海外ファンから「日本はサポーターが会場を綺麗にしたがチームは大会を荒らした」と評価されたことがあるが全くもってその通りである

波乱再び、国際Aマッチ

2023年5月、ドイツと日本の親善試合が9月に行われることが発表。それもドイツが日本を招く形
どう見てもリベンジしたくて仕方がないドイツの図であった。
本来なら日本が頑張って頼み込んだところで実現困難なマッチメイクであり、日本からするとあり得ないくらい美味しい話が転がり込んでくる形となった。
+ このあたりの経緯に関わってくるのが、冒頭でさらっと触れた「UEFAネーションズリーグ」の存在。
このあたりの経緯には「UEFAネーションズリーグ」の影響もある。
これは2018年からUEFA(欧州サッカー連盟)が「親善試合なんて無駄、大会形式にした方が真剣度も増すし盛り上がるしアドでしょ」と始めた大会である。
そのため大会自体の権威は低いが、結果をEUROやW杯欧州予選のポット分けに反映することで重要性を与えている。

問題は、FIFAが設定している「国際Aマッチデー*22」を大半これに充ててしまったため、W杯以外での欧州と他大陸の対戦が非常に難しい状態になっているということ。
欧州各国にしてみれば確かに、欧州だけでも適正レベルの相手は容易に見繕えるし余計な遠征もしないし効率的だが、選択肢を狭められる他大陸はたまったものではない。
まして日本は元々立地条件から手応えのある相手とのマッチメイクに苦労しており、そこに追い打ちをかけられるような格好である。

しかし、一見すると欧州はいいとこ尽くめのようだが、欧州外との試合経験が減り、代表チームが欧州内での戦いにだけ最適化されてしまうことも指摘されている。
W杯のグループステージは原則として同大陸の被りが最小限*23になるよう組まれるので、他大陸との対戦は絶対に避けられない。
UEFAネーションズリーグを経た最初のW杯である本大会で、その懸念・ネーションズリーグの弊害を現実のものと感じた筆頭はおそらくドイツとスペインだっただろう。

とはいえドイツはEURO2024でのホスト国という立場から予選が免除されており、今年に限ってはそもそもスケジュール的な余裕があったのもある。

+ そしてその結末は…
ドイツのホームに招かれて試合ができるというだけでも滅多にないことだというのに、それに加えてドイツはギャラ1億円の支払い+移動費・宿泊費全額負担という超絶VIP待遇を申し出てきた。日本代表の歴史に残る急展開である。
一方、ドイツ代表はW杯以降も決して強豪とはいえない相手に1勝1分3敗と低迷が続いており、フリック監督の解任を求める声が日に日に高まりつつあった。
本来格下である日本に対し、通常ならあり得ないレベルの高待遇をしてまでホームに来てもらったうえ、すでに代表の威信と監督のクビがかかったドイツ。形式こそ親善試合であったものの、この日本戦はドイツにとって間違いなく「絶対に失敗できないリスクマッチ」となっていた。
そんな折日本代表は一定の好調を保っており、それ以上に選手個人の好調が目立っていた。特に直前週はあの浅野まで突如2ゴールと爆発し、ドイツの嫌な予感が上乗せされた。

そして迎えた試合当日。ドイツはムジアラと傷心旅行で全治1年という大ポカをやってしまったノイアーが負傷離脱していたものの、ハヴァーツ・サネ・ニャブリ・ギュンドアン・リュディガーなど、ワールドカップでもレギュラー格のガチメンバーが勢ぞろい。更にいい年なので腰痛と称してサボろうとしたミュラーを強制招集し、本気モードで日本を潰しに来た。
余談として、三笘の同僚であるブライトン古参のいぶし銀MFグロスがこの時32歳にして代表初招集されたこともにわかに話題となった。
一方の日本も、将来性を考慮して本田世代組は退役となっているが負傷者のいないベストメンバー。ワールドカップで機能していた爆速プレッシング老け顔アンパンマン前田ではなく上田を1トップとして起用。GKには意外にも国内組の期待の若手・大迫敬介が入ることとなったが、それ以外は三苫・伊東・遠藤・鎌田・富安といったおなじみの主力メンバーが先発に顔を並べた。

ホームの声援を受けキックオフから前がかるドイツは、3分にはGK大迫のパスをさらって決定機を作るも守田のカバーに阻まれる。先制とはならなかったものの、優勢なムードを作り上げた。
ところが10分、後ろでボールを受けた冨安が利き足とは逆の左足ワンタッチで大きく右に展開すると、右から深く切り込んだ新戦力のSB菅原由勢が不慣れなSBで覚束ないシュロッターベックを出し抜いたクロスに伊東がニアで飛び込み、一歩遅れて足を出したリュディガーに当たってコースが変わったボールがニアに突き刺さった。
完璧に崩される形でまさかの先制を許したドイツだったが、18分にはギュンドアンのポストプレーから中央のヴィルツが引き付け、最後は右で浮いたサネがダイレクトで流し込むというらしいゴールで同点。すぐに試合を振り出しに戻す。
ところがそのわずか3分後。またも冨安の左足から右サイドへ大きく展開されると、再度シュロッターベックを出し抜いた菅原のクロスを更に伊東が反らし、最後は上田が合わせて日本が再び勝ち越し。
こうして流れを押し戻した日本は、ドイツに流れを握らせない。快速で知られるサネが抜け出したビッグチャンスも凄まじい速度で戻った冨安に阻まれ、集中した守備でシュートを打たせず、多彩な攻撃でドイツ守備陣を翻弄する日本代表。ワールドカップの時のような弱者の戦い方ではなく、正面から優勝4回のマンシャフトと渡り合うサムライブルーの姿が、そこにはあった。
40分には、リュディガーのトラップミスをさらった上田がGKと1対1の決定機。ボールを奪われたリュディガーはその場でお昼寝を始めた。これはノイアーにも引けを取らない次代の名手テア・シュテーゲンの好守に阻まれるが、2-1の日本リードで折り返した。

後半になると日本は5バックへ移行。親善試合の建前など知ったことではなく万全の守備と得意のカウンターで逃げ切る構えに入った。
前半では唯一目立った突破口を得ていたサネのスペースもこれで無くなり、日本の守備網に絡めとられっぱなしのドイツは得点への糸口がろくに見出だせなくなり、むしろ日本のカウンターの方がチャンスを作っていたほどであった。
不甲斐ない自国代表にホームサポーターからのブーイングが降り注ぐ中、終了間際の89分には、交代で入った久保がリュディガーからゴゼンスへの甘い横パスを奪って独走。追いかけるゴゼンスも途中出場だったのにやけにキツそうだった。
そして追いついてきた二人目へのプレゼントパスで完全に崩すと、前線の守備固めとして交代で入っていた二人目こと浅野が流し込んで勝負あり。完全にドイツの希望が絶たれたアディショナルタイムにはまたしてもゴゼンスを出し抜いた久保のクロスを、中央で完全フリーになっていた田中碧が三笘の1mmの時の如くヘディングで流し込んでダメ押し。

ホームチームへの凄まじいブーイングが止まぬまま、試合は日本4-1ドイツという衝撃的なスコアで幕を閉じた。
屈辱的な大敗を喫したフリック監督は、それから1日足らずで解任が発表。3日後にフランスとの親善試合も控えていたのだが、もはやその結果を待つ必要すらないとされたようだ。
浅野は当分フリックを人として認識してなくても問題なさそうである。*24
ちなみに、ドイツ代表監督が任期途中で「解任」されるのはチームの123年の歴史の中で初めての異常事態であった。

なお、フリック解任が報じられたのと同時間帯、バスケW杯でドイツが初優勝していた。ドイツ人の感情乱高下。

日本は続いて行われたトルコとの親善試合でもスケジュール上お互いに主力を休ませる形となりながら完勝したのだが、奇しくも立場が思わしくなかったトルコ代表を指揮していたドイツ人監督も後日解任されたもはや不吉の域。
一方、ドイツはフランスとの親善試合で代行監督による指揮(戦術は先の日本戦とほぼ同じだが先発は一部入れ替え)でなぜかあっさり勝利した事からますますフリックさんの立場が……

デジャヴ

2023年7~8月にはオーストラリア・ニュージーランドで女子サッカーW杯が開催されたが、
  • Cグループの構成:日本ザンビアコスタリカ、スペイン
  • 日本が3戦目でスペインを保持率22%という圧倒的ポゼッション劣勢のまま打ち破り、スペインがGS2位・日本が1位突破を決める(こちらでは4-0で完勝、コスタリカ戦でもコケず余裕の全勝で突破)
  • ドイツがGS敗退
と、何かそこかしこにデジャヴが見られる展開が起こっていた。





試合が終わった後に僕が思い出したのは、鎌田選手が、始まる前に
スペインとドイツには負ける気がしない」と、「コスタリカには負ける気がするんだよね」ってボソッと言ってて。
「何を言ってるんだこの人」と思いましたけど……それが現実になってちょっと今怖いですね。

久保建英 後日インタビュー




追記・修正は格上の相手に2度の逆転勝利を収めてからお願いします。

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最終更新:2025年04月15日 23:05

*1 2022/12/2にTwitter上で拡散・注目されたツイートより引用

*2 11月25日生まれのため、大会中に20歳を迎えた。

*3 セネガル、イラン、モロッコ、セルビア(セルビア・モンテネグロ)、ポーランド、韓国、チュニジア。

*4 地上波ではNHK・フジテレビ・テレビ朝日のみの放送。

*5 工藤壮人。酒井とはレイソルの育成組織からトップチーム昇格まで共にした同期であり、当時まだ現役だったが突然の病気で亡くなった。

*6 190cm級の身長のためクラブでも前線で起用されることが多いが、本来はトップ下が適性と言われる選手。

*7 ただし、森保は元々可変3バック使いの監督(サンフレッチェ広島で生まれたミシャ式の継承者)であり、直近でもU23代表で使っていたため素地が全くないわけではない。

*8 ちなみに、シュロッターベックは同年のネーションズリーグでPK献上を連発して批判を浴びていた。

*9 サッカーでは頻繁に発生するプレーの停止時間をなあなあにせず、カウントは続けながらも厳密に管理して裁定しているのだが、VAR導入以降はその停止時間が長くなってきている傾向にある。

*10 元々、コロナ禍の余波で過密日程が生じてしまう問題への対策として3枠→5枠への拡大が各国で導入されたのだが、そのまま定着した。

*11 この試合、浅野は2ゴールでチームを勝利に導く大活躍であった。

*12 フリックというサッカー用語もある。足先や足裏で軽く触れてボールをコントロールするテクニック。

*13 主にボーフムが守ってナンボの弱小なため

*14 イラクへの入国歴があるとアメリカを通れなくなり帰国時に困るため、入国時にスタンプを押さないよう事前約束を交わしていた。しかし現地係員がスタンプを押そうとしたため入国を断念したという。

*15 圧倒するどころかこの試合よりずっといい勝負をしてしまったうえ、終了間際に決められて0-1。

*16 例:ドイツが2-1で勝った場合、日本は2-2以上の引き分けが必要。

*17 より機械的にゴールライン判定ができるゴールラインテクノロジーというものがあるのだが、厳密にはゴールラインではなくゴール内部の判定をするためのものなので、この場合はVARでの判定が必要となる。

*18 機械でないと証明する為に「〇〇を選んでください」と9マス区切りの部分からお題のエリアを選ばせるアレ

*19 ただし両チームは東西別リーグに分かれており、カップ戦に加えてリーグ戦でも東西をまたいだ対戦もあるのだが全クラブと当たるわけではないため、そもそも両チームの対戦が実現しない可能性もあった。

*20 実際には、吉田と長く同僚だったバルサ下部組織育ちのオリオル・ロメウが、ブスケツ退団の余波でまさかのバルサ復帰を果たしたお祝い……という割と真っ当な動機があった。

*21 ロシアW杯でも2度のPK戦を勝利している。結果含めてさながら前大会の再現となった。

*22 代表の親善試合を開催する(ためにリーグ戦のスケジュールを空けさせる)期間

*23 ヨーロッパの場合は出場枠が全体の1/4以上を占めるため、本グループのように2/4ヨーロッパになる組も少なくない。

*24 しかしこの翌シーズン、フリックがバルサの監督として再就職したのとほぼ同時に浅野がフリー移籍でマジョルカへ渡り、なぜかスペインのラ・リーガで2人揃ってしまう。