登録日:2023/02/26 Sun 15:05:10
更新日:2025/03/06 Thu 22:33:57
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(推奨
BGM:西村京太郎トラベルミステリーのテーマ)
L特急「雷鳥9号」は、大阪を10時20分に経ち、金沢に13時13分に着く。
新大阪、京都に停まり、京都を出ると、列車は湖西線に入る。
窓の外に、琵琶湖を眺めながら、近江塩津駅を通過すると、
北陸本線の線路が近づいてきて、やがて合体し、雷鳥9号も湖西線から
北陸本線に入る。終着金沢まで、約3時間の旅である。
十津川警部シリーズとは、西村京太郎原作の推理小説である。
シリーズ著作は160冊以上、単行本の累計発行部数は120万部を超える。
概要
警視庁捜査一課の警部・十津川省三が相棒である亀井刑事や一課の捜査員とともに様々な事件の解決に挑むのが基本の流れ。
長編・短編と作品は幅広く、その舞台は北は
北海道から南は
沖縄県、海外ではシベリア鉄道やTGVにまで及ぶ。
その内容から「
トラベルミステリー」の通称があり、シリーズのサブタイトルとしても使用される。
十津川警部の初登場は1973年に刊行された『赤い帆船』で、それ以降も散発的に登場し、1978年に刊行された『寝台特急殺人事件』で大きく知名度を上げた。
そのため『寝台特急殺人事件』がシリーズにおける事実上の第1作とする向きもある。
2時間ドラマの定番として知られ、小説は読んだことなくてもドラマで見たという人も多いだろう。
それ以外のメディア展開としてレディコミや
テレビゲームも発売されている。
特徴
本作最大の特徴は「鉄道を使ったトリックの多さ」であろう。
鉄道をトリックに使った作品はアガサ・クリスティの「オリエント急行殺人事件」や松本清張の「点と線」の例があったが、
西村氏はこれに加え、実在する列車のダイヤグラムや鉄道車両特有の構造、更に車両の運用などマニアックなアプローチからトリックを次々と作成し読者を驚かせた。
このトリックは勿論鉄道ファンにも大ウケし、読者層を広げるきっかけともなった。
尤も粗を探す野暮な輩も多く、苦情の手紙が氏の元には少なからずやってきたとか。
とはいえ氏は「粗探しのために本が売れるから」と冗談混じりにコメントしてもいる。
※いずれにせよあくまでもフィクション作品なのでそこは割り切って読みましょう。
21世紀以降は
ブルートレインの廃止などトリックに使えるような列車が減ったこともあり、
時事ネタや日本史、果てはオカルトを題材にした作品の数が増え、変わったところではあの『
開運!なんでも鑑定団』をモチーフにした作品まで。
これらはドラマ化こそ望めないが読んでみると面白い作品もあるので一度手にしてみることをお勧めしておく。
ちなみに『ななつ星in九州』を舞台にした作品を執筆した際は、運行する
JR九州から「車内で殺人を起こすのはやめてほしい」と直々に要請が入ったことを明かしている。
また、原作のみの特徴として「
とにかく爆破が多い」ことが挙げられる。
鉄道車両は勿論のこと、犯人が建物を爆破して殺す例も多く、犠牲者に国政大臣が含まれているのも日常茶飯事。
挙句の果てには「
酒に偽装した爆弾を2箇所で同時に配達して爆殺、それを仕掛けた黒幕が十津川警部と対峙した際も、自ら爆弾で家ごと自爆」と
バトル・ロワイアルな展開になった作品もある。
登場人物
警視庁の警部で本作の主人公。
東京都のとある新興住宅地出身。40歳。
捜査一課の「十津川班」を率いるリーダー。
普段は冷静沈着な性格だが、時には自身の首も飛びかねない大胆な作戦を立てて実行に移すことも。
大学時代はヨット部に所属していた。
ノンキャリアで警視庁入りし、25歳で刑事、30歳で警部補に昇格。
直子夫人と暮らしているが、かつては岩井妙子という婚約者がいた。
十津川の苗字は
奈良県にある十津川村から取られたもの。
捜査一課の警部補で十津川警部のパートナー。通称は「カメさん」。
青森県出身で45歳。
高校卒業後警視庁に入庁した叩き上げ。
非常に熱い性格で、容疑者相手に殴りかかろうとする描写がしばしば登場する。
インスタントラーメンと
コーヒーを捜査課の中でよく作っており、十津川は「カメさんの作ったラーメンが一番うまい」と絶賛している。
夫人と2人の子供と暮らしており、子供はしばしば事件に巻き込まれる。
長男の健一は鉄道ファンで、健一の鉄道写真から事件解決のヒントをもらうことも。
十津川班の主力刑事。
十津川、亀井が殺人事件の捜査で動けない時は捜査本部で指揮を執るなど、班のナンバー2.5を担う。
趣味は旅行で、加えて旅先の金融機関で通帳を作って預金するという趣味も持つ。
ちなみにとある作品では殉職しているがその後何の説明もなく復活した。
十津川班の(ry
西本の相棒的ポジションを担う。
学生時代には同人サークルに参加していたこともあるなど、西本とは対照的な文系キャラとして描かれている。
捜査一課の女性刑事。美人で射撃を得意としている。
単独で旅行中に事件に巻き込まれるパターンも多い。
当初作品には登場せず、ドラマ化の際に山村紅葉を起用することから作られたキャラクターである。
十津川警部の元部下で探偵。
とある事件を機に警視庁を退職し、私立探偵業を開いた。
警察では難しい捜査について十津川から直々に依頼を受けたり、逆に橋本も事件性のある案件を十津川に相談することがある。
だが再登場するたびに真犯人の罠により自分自身が誤認逮捕されることも多い。
十津川の上司で警視庁刑事部部長。
事件の捜査本部長は彼が担い、マスコミ向けの記者会見も担当する。
性格は非常に怒りっぽく直情径行で、十津川の捜査方針に口を出すこともしばしば。
十津川警部夫人でインテリアデザイナー。
大阪府出身。
大阪出身だが本編で関西弁をしゃべらないとか突っ込んではいけない
バツイチで、警部とは「
夜間飛行殺人事件」を機に再婚した。
親戚に名家を持ち、のちにその莫大な財産を引き継いだ。
国鉄総裁秘書で、国鉄を舞台にした事件を十津川に相談する役回りで登場する。
当然ながら国鉄分割民営化以降は登場しなくなった。
映像化作品
冒頭にも書いたように2時間ドラマ作品として映像化が行われ、全民放で制作された作品でもある。
2023年現在は
テレビ東京で新作が制作・放送されている(主演は
船越英一郎・角野卓造)。
本項では特に著名なシリーズ2作品について述べる。
なお
実写化の常として、ダイヤ改正などで列車がなくなったりした結果、大幅に設定を変えて放送されることもある。
TBSテレビ・テレパック制作で1992年から2015年まで放送。
十津川役は渡瀬恒彦、亀井役は伊東四朗。
特徴としては「サスペンス」のタイトル通り、事件の犯人を追う展開よりもその事件に至った動機や社会的背景にスポットが当たることが多い。
全体的な雰囲気も暗くシリアスで、時刻表トリックなども少ない。
登場人物の年齢が原作に非常に近いことから年1回制作される人気シリーズとなり、渡瀬にとっては「
タクシードライバーの推理日誌」と並ぶ代表作となった。
渡瀬の体調不良に伴い2015年を最後にシリーズは全54作で終了したが、現在もBS等で頻繁に再放送が行われている。
とある回では渡瀬の元妻である大原麗子との共演を果たしており、50作目では渡瀬の兄である渡哲也との共演を果たしている。
同一コンビでの23年間という放送期間はシリーズ最長。
2017年からは十津川役に内藤剛志、亀井役を石丸謙二郎に変更して新シリーズが放送されていたが、2時間ドラマ全般の縮小傾向を受け2019年を最後に事実上の打ち切りとなっている。
西村氏は十津川警部を演じた渡瀬氏が一番イメージに近いと評している。
テレビ朝日・東映製作で1981年から2022年まで放送。
「
土曜ワイド劇場」の定番作品として長く親しまれた。
十津川・亀井のコンビは時期によって交代しており、担当俳優は
三橋達也・愛川欽也→高橋英樹・愛川欽也→高橋英樹・
高田純次の順。
三橋・愛川時代は愛川を主演に置き、オープニングの登場人物紹介も亀井が先頭、十津川がトメだった。
冒頭、列車の走行映像と路線図をトレースさせてナレーションを入れる演出があり、ナレーションは愛川→高橋が担当した。
原作に準拠した登場人物が多く、前述の北条早苗は本作での放送を前提に設定されたキャラクター。
一方亀井刑事の子供は全作通して登場しない。
また西本刑事に森本レオを起用し、過度に暗くなりすぎないよう明るいイメージを持たせている。
愛川時代には愛川の実子である井川晃一がレギュラー刑事として出演していた。
高田時代にはゲストとしてお笑いコンビの
サンドウィッチマンが出演したこともある。
これは高橋及び実娘の真麻がサンドウィッチマンの事務所であるグレープカンパニーに移籍したことがきっかけで、以降本作以外の高橋主演2時間ドラマにもグレープカンパニー所属芸人がゲスト出演する例が増えた。
「トラベルミステリー」だけに後期作品でも時刻表トリックを用いたが、あまりの改変さに
賛否両論になることもあった。
亀井警部を演じた愛川氏は東京都出身だが、西村氏は亀井のイメージに最も近いと評している。
余談だがテレビ朝日の2時間ドラマでは同じ西村原作で「鉄道捜査官」というドラマも放送されていたが、
こちらはトリックや路線を十津川警部シリーズから流用したもので、登場人物の設定はドラマオリジナルである。
主な作品
膨大な数の作品があるのでどれから読めばいいかわからないという人も多いので、
本項では筆者の独断と偏見でおすすめ作品を紹介する。
死体消失のトリックとして
山陽本線の急こう配区間である瀬野~八本松間・通称セノハチが使用される。
しかし「トリックを第三者に見られる可能性が非常に高い」「そもそもEF65の代走にEF58が入ること自体考えにくい」との指摘もあり、
一般人にはマニアック過ぎ、鉄道ファンにとっては粗が多くトリックとしては
中途半端とも。
関西と長崎・佐世保を結ぶ寝台特急を舞台にしたもの。
一部の列車は当時門司駅で分割→別列車として
鹿児島本線と
筑豊本線経由で走行し
長崎本線入りというルートで運行されており、それを利用したトリックが秀逸。
テレビドラマはテレ朝版がシリーズ3作目で放送。
小説刊行4か月後という2時間ドラマとしては驚異的なスピードで映像化され、後に直子夫人を演じる浅野ゆう子がゲストキャラで登場している。
札幌のモーテルで殺された東京の若い女性。
彼女の自宅を捜索すると交際していたと思しき男性の写真が見つかるが、その男は何と亀井の姪っ子と交際していた…
当時「おおぞら」には函館始発の列車が存在してあり、千歳空港(現:南千歳)~札幌間を往復してから
石勝線に入っていた。
その特徴を利用したトリックが見どころ。
「おおぞら」は「踊り子」とともにシリーズに頻繁に登場しており、これ以外にも同列車を舞台にした作品が複数存在する。
殺人事件のアリバイで特急列車を見たという証言を得たが、その特急は時刻表に載っていなかった…という真相を解く短編。
当時
東北新幹線の開業にともない、在来線で全国規模の車両転属が行われていたことをヒントにした作品。
国鉄が企画した行先不明の
ブルートレインミステリー号。
「ミステリー号の乗客400人を誘拐した。身代金は10億円」
の電話が国鉄総裁秘書室へと入る。忽然と姿を消した臨時列車を巡って国鉄と十津川警部が挑む……
しかし「当時の運行管理システム上であっても作中のトリックは実現不可能」と言われる大雑把な感が否めない1作。
TBS版でドラマ化されている。
小田急ロマンスカーに恋人と乗った西本刑事。
ロマンスカーの乗務員には恋人の同僚がアテンダントとして乗車していたが、
その同僚は突如ノンストップの列車内から姿を消した…
消失トリックは小田急ロマンスカー独自の車両構造を生かしたものだが、多分鉄道ファンの人にはすぐわかるはず。
ちなみにこの作品はテレビ朝日でドラマ化されたが、なぜか列車が
上越新幹線に変わっていた。
特急「雷鳥」の車内で会社社長が射殺される事件が発生。容疑者として一人の女性が浮かび上がるが、
同時間帯に金沢で射殺事件が起き、同一凶器、同一時刻の犯行と断定される…
「雷鳥」の走る
北陸本線・敦賀~新疋田間は上下線が交差するというループ構造を使ったトリックが特徴。
なお、冒頭に記した文章はテレビ朝日版のOPナレーションである。
十津川の後輩である女性刑事が
イギリスの世界的な探偵小説家と結婚し、新婚旅行で日本にやってきた。
ところが、小説家の元に氏の作品にしか登場しない架空組織からの
脅迫状が届き…
長崎を舞台にしたオペラ「蝶々夫人」とバブル絶頂期の日本の情勢をうまく組み合わせた作品で、事件の真相についてはいろいろな意味で唖然とさせられる。
そのためドラマ化は当時から
スルーされ、今後もなされることは無いだろう。
ちなみにその女性刑事は本編で一言も喋っていない。死体の第一発見者ですらセリフがあるのに…
日下刑事に元恋人から特急あずさに乗ったと嘘のアリバイの証言を頼む電話がかかってきた。
拒否したところ数日後に彼女の言う嘘のアリバイを確認する電話が入り、さらには元恋人は絞殺遺体となって発見される。
十津川は彼女が偽アリバイを立てようとした日に銀行強盗があったことを突き止めるが……
タイトルに列車名こそあるが、本質は次々と殺されていく銀行強盗の容疑者たちと、その犯人と思しき「X」を十津川警部たちが追う社会派サスペンス。
ドラマは上記の2シリーズ両方で映像化されており、テレ朝版は比較的小説に忠実。
一方TBS版は「X」の行動にかなりの正当性が与えられ、大きく印象が異なる作品となっている。
河津七滝の一つ、蛇滝で男性の射殺遺体が発見された。
静岡県警が身元を警視庁に問い合わせると十津川警部と亀井刑事が出張してきた。
殺された男は連続殺人事件の容疑者であった……
次々と殺される容疑者たち。その犯人を追う十津川警部たちを意外な結末が待ち受ける短編。
TBS版にてドラマ化されており、前半部分に丸々容疑者たちが起こした猟奇事件を持ってきた上で、後半から原作の流れに入るという変則的な形を取っている。
また事件の結末もより悲劇的なものとなっており、総じてシリアスを売りにするTBS版らしくアレンジされている。
十津川「カメさん、この項目を『追記・修正』してみないか」
亀井「手がかりでも見つかったのですか?」
十津川「まだ掴めないが、とりあえずやってみよう」
- 160冊以上de、単行本の累計発行部数は120万部 -- 名無しさん (2023-02-26 15:24:16)
- 160冊以上で累計発行部数は120万部って、知名度の割には売れてないんだな。時代もあるかもしれんけど、単行本の売上ってこんなもんなのか。 -- 名無しさん (2023-02-26 15:25:55)
- 『赤い帆船』はかなりとんがった作品だけど、後々の作風を伺わせるものはあって面白いのよ -- 名無しさん (2023-02-26 15:38:01)
- や亀井刑事 -- 名無しさん (2023-02-26 15:45:34)
- 亀井刑事や西本刑事は身内が事件に巻き込まれるパターンがあるけど、十津川警部は奥さん以外の家族が出てこないのが印象に残ってる -- 名無しさん (2023-02-26 15:47:52)
- レディコミで読んだがクローズドサークルというよりシチュエーションスリラーな作品もあったりする。「七人の証人」がそれ。面白かった。 -- 名無しさん (2023-02-26 16:30:42)
- 上から二番目 推理小説はそれだけで一般小説より売れなくなるので…漫画ならコナン金田一のような社会的ヒットも望めるけど。推理小説は内容的に芥川賞や直木賞を受賞する事もないしね。 -- 名無しさん (2023-02-26 17:52:08)
- 十津川警部の妻が事件に巻き込まれた際、折句の要領で「わくらおんせん(和倉温泉)」を示し、自分の居場所を夫に教えるという上手いことをやる場面がある -- 名無しさん (2023-02-26 17:57:51)
- 推理小説で直木賞とかはいどもそんなにぽんぽんいるわけではないし推理小説じたい兼業でやる職業のイメージが強い -- 名無しさん (2023-02-26 18:07:41)
- ↑3 そうか?寧ろ小説ジャンルの中では推理小説は売り上げが高い部類だけどな。まぁ数が多い分だけ売れない作品も多いけど -- 名無しさん (2023-02-26 22:00:58)
- 1冊で7500部売れたと言い換えると...。 -- 名無しさん (2023-02-26 22:20:58)
- テレビドラマ版で「寝台特急内で他の乗客が寝静まっている間に犯人が死体を引きずって先頭車両から末端の車両に移す」という話があり、「誰か一人でも起きてトイレに立ったらどうするつもりだったんだよ」と心の中でツッコミを入れたが、よく考えたらアガサ・クリスティ作品の犯人達も結構体力勝負・出たとこ勝負のトリックを苦労しながらこなしているんだな。 -- 名無しさん (2023-02-27 19:36:26)
- 読みやすいし面白いんだが、作品がありすぎて10冊揃えたあたりで力尽きた。 -- 名無しさん (2023-03-05 20:35:57)
- トラベルミステリーがヘリと車に変更って対象の電車で撮影上の問題でも起きたんかな… -- 名無しさん (2023-06-27 16:14:29)
- ↑当時もう対象の列車が廃止になってたり、名前は残ってても時間が変わったりして列車だけではどうにもならなかったのが原因。 -- 名無しさん (2023-06-29 08:30:51)
- ↑それはしょうがないと言えばしょうがないのか。 現実無視して当時の話として作った方が良かったんじゃ?とも思うけど、あくまで現実の電車でトリックを撮影ってのが肝なのかな -- 名無しさん (2023-06-29 08:38:38)
- ゲームセンターCXではFC版ブルートレイン殺人事件に挑戦。亀井のトリック再現を何度もミスって「亀さん…もう庇えないよ…なぜ出世できないかわかるかね?」と勝手にアフレコしてる課長に爆笑した記憶が。 -- 名無しさん (2024-02-09 20:22:33)
最終更新:2025年03月06日 22:33