前話:第四話



#5 迫る危機に転換


...cexener voles! cexener voles! tydiest niv eski celaium cun elminal ferles!

喧しい声が聞こえる、レーシュネは眉にしわを寄せ、ラムノイに何か言ってから、どこかに行ってしまった。

さっきまで怪訝な目を向けていた周りの奴等も緊急事態に急いだ様子で出ていき、部屋に俺とラムノイが残された。
しかし、異性と2人のそんな状況でも、そんなことに気づくことはなかった。
それを意識しないほど緊迫していた。

「侵入者が来たようね...絶対に外には出ないで。向こうが対処するはず。」
「あ、ああ...分かった。」
意外に冷静なラムノイの様子を見て、少し困惑してしまった。


 そんなことを考えていると、何か違和感を感じた...

地響きのような音がする...その正体を理解するまであまり時間はかからなかった。
なぜなら、何回も聞いたことがある嫌な音だったからだ。

先までの雰囲気を壊すように俺は言った。

「ラムノイ! これは馬の足音だ! しかもかなり多い...おそらくノルメルの軍だ、俺も行かせてくれ! こちらも応戦する。」
俺は、先の恥ずかしい場面があったにもかかわらず、机を叩きつけて立ち上がった。

「バカっ、落ち着いて! ここはこっちに任せて。」
ラムノイは俺の言葉を聞いて、そう大きな声で言った。

「でも、ここで戦わなければ、ゼマフェロスは...」
「君がここで今死んじゃったら、君の国の未来はなくなるの、分かってる?」
真っ当な意見に、歯をかみしめながら俺はゆっくりとイスに座りなおした。

今にも復讐できそうな場面であの暴虐な奴等に国のため、民のために立ち向かえない状況に不満を抱きながら、この状況の行く先を見届けなければならなかった。

■    ■   ■

 ノルメルの軍が迫ってきた。しかも大群だ。
今思えばその理由もわかる。なにしろ、ゼスナディが手に入れた情報はノルメル側から盗んだ情報だったし、どこからか俺が行って支援を求めることが漏れていたのだろう。

その情報整理で、俺は嫌なことに気づいた。
できれば、気付いてほしくないことだった。

(・・・そんなこと知ってるの、ゼスナディしかいない...)

脳裏に浮かんだ一つの事実に、手が震えた。

俺らの計画がバレた、ノルメルの奴が諜報に気づいていた?
尋問でも受けた? すべてノルメルの思惑だった?

 ・・・あいつが裏切った...?

もう外のことなんて何も感じられなかった。

地が揺れるほど大きく響く大群の音にさえも。
あり得ないほどに連続して鳴った銃の音にさえも...

 どのくらい経っただろうか、その状況の中、俺は一つ、ラムノイに言った。

「なあ、俺だけ裏から出て行くことはできないか?」
何故出ていくのかの理由も言わず、許可を求めた。
普通に聞いたら、危機が迫っている中、自分だけ逃げ出すようなクズにしか思えない言葉だった。

「分かった。」
意外にも相手の出てきた言葉は、承諾だった。

幸いにも、連邦がノルメルの侵攻を食い止めてくれている。
反対から出れば、気づかれずに戻られるだろう。

「ありがとう、必ずここに戻る。何としてもゼマフェロスを救わなければならない。」

「今の窮状は把握したよ。出来る限りの支援をすることは約束する。」

 俺は、急いで準備をして、馬に乗る。
俺とラムノイはお互いに目を合わせ、うなづいた。

周りに注意しながら、俺は馬を進める。
やはり賢い馬だ。今欲していることを分かっている。



 これから俺は、ゼスナディの所に赴いて、連邦の支援とこの事実を確認しなければならない。
馬を走らせながら、今のことを整理する。

――丘の彼方のスロンミーサよ、我が里の飢えを救い給え。
――爾の杖を振るい、野山を潤し、祈りを受け取り、丘へと帰り給え。
――我がスロンミーサよ、全ての祈りが爾にあらんことを。

――我が愛しきスロンミーサは、ほほえみ、我に手を差し伸べる。
――爾は我らを導き、戦士とし、祈りを受け取り、また丘へと帰る。
――我がスロンミーサよ、全ての祈りが爾にあらんことを。



次話:第六話
最終更新:2023年07月23日 03:24