豪勢な調度品が備え付けられた会議室。
そこには、数人の要人が集まっていた。
ユエスレオネ連邦首相である
シルミヤ首相とその閣僚たちだ。彼らの前にはモニターがあり、その先には
レーシュネらが映っている。
「――という、顛末で現在陸軍小隊を送って捜索しているところです」
「はあ」
ため息をつくシルミヤは恨めしそうにモニターのレーシュネを見上げた。
「あなたの不手際は致命的ですが、過去のこともありますし赦しましょう。今現在、あなた以外に全体の指揮を取れる人間も居ないでしょうし」
「まあまあ、ここには私も居るのですから、それほどカリカリとしなくても良いのですよ。アルファルシ」
レーシュネの背後にゆらりと出てきたのはスーツ姿の車椅子の女性――
アレシャだ。
「馴れ馴れしく
省略名称を呼ばないことですよ、ターフ参事官」
「あらあら、つれないのね。シルミヤ」
シルミヤの額にシワが一つ増えたように見えたレーシュネの背中は冷や汗でびっしょり濡れていた。
目の前に居るのは複数世界に散らばる複数国家を統べる
連邦の首相。このような人間にあのような言語的狼藉を働けるのだ。ターフ・アレシャという人間が如何に肝の座った人間かよく分かるというものだった。
それもそのはず、彼女は
DAPEの際に停戦条約のために渡ろうとした海上で敵に撃たれ、半身不随となった。それでもなお軍人として働いているのだ。
「その
アシュタフィテスとかいう男の捜索はあなた達に任せます。それより問題はそちらのテロリストのことです」
「え、ええ……連中がどれくらい勢力を送っているかは不明で……派遣軍の将校も先のことがあって偵察に慎重なようでして……」
「レーシュネ、軍人は文民の言うことに服従します。やれと言ったら、やらせるのが筋でしょう」
「はあ……」
レーシュネが肩を落としたその瞬間、背後でドアが開く。額から汗を流す若い職員だった。
「おい、本土との会談中だ。誰が通した」
「長官、そのスローヴェ氏本人が帰ってきました!」
「なんだと? まさか、自ら脱出を?」
「いえ、それが話がややこしくなっていて……」
若い職員は少し引き気味に言う。レーシュネはそれに眉をひそめた。
「なんだ、さっさといえ」
「ラティーナ・ファンシャ・フェルティエという女性が同伴しています。彼女は地域の有力者のようです」
唖然とするレーシュネをモニター越しに眺めたシルミヤは深い溜め息をついた。
「レーシュネ、事態を纏めて後で報告しなさい。以上、解散」
「しゅ、首相、私にはまだ伝えたいことが――」
ブチン。
無慈悲に切れる画面の黒を見ながら、シルミヤは平然そうな顔を一瞬くしゃりと歪めた。
そんな彼女の脇に佇む一人の壮齢な男。彼は口端を少しばかり上げる。
「現地の有力者か」
「シュカジュー、余計なことを言わないでおいてください。あなたを内閣顧問にしたのはファルトクノアの事があってのことです。イェスカ政権の幸運を無駄にしたくないのなら、身を弁えることです」
シルミヤの言葉を聞いた男――
アレス・シュカジューは肩をすくめながら、したり顔で部屋を後にするのだった。